敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
今回のE2班が対応している仕事は二つ。
その内の一つ『爆破痕の捜査協力』を任されているのがユカタン、アマネ、ブラスの三人であり、彼らは現在、車に乗って現場へ向かっている最中だった。
「ぜっっったい、不向きだよ僕には!!」
そんな車内で、高い声が嘆くように叫ぶ。
同時に、小さな手が荒々しくハンドルを切る。
「僕の取り柄は情報処理とかそっち方面なの!! 後輩ちゃん達纏めるとか無理だよ絶対にぃ!!」
「前ットラックっ、まえっ、見てください前ぇ!?」
「あんっばばばんっばばばっばばばばば」
ユカタン、アマネ、ブラス。この三人の中で、最も背が低いのはユカタンだ。彼の身長は150と少し。そこに生来の顔立ちも相まって、見かけで言えばほぼ子ども。
だが、三人の中で唯一運転免許を持っているのが彼であるため、最も背丈の低い彼が運転席に座っている。
現状、運転手の精神状態がよろしくない。
そのせいで運転が荒れに荒れている。峠を攻める半グレやスピード狂いさながらの走りを見せる車は、ついさっき運送トラックとほぼ擦れる寸前だった。
後部座席に座っていたブラスとアマネは恐怖のあまり、互いに身を寄せて縮こまっている。更にブラスに至ってはまともな言語すら喋れていない。
「はあ…将来的には今の班出ないとダメなのかなぁ…」
「おぶっ!?」
「ぐがっッ!?!」
そんな荒れた運転に急ブレーキ。慣性の法則は容赦なく発動し、シートベルトを締めていても、あまりの勢いに後部座席の二人は二人は勢いよくシートに頭を打つ。
そうして、そのままぐったりと項垂れた。
馬鹿みたいなスピードから解放された安堵、急な停止に驚き半分で心身共にヘロヘロである。
「…生きてる、ブラス?」
「……能力で意識だけ殺せねぇかな…ぉえっ…」
「麻酔でもそんな無茶はしないと思うよ、ボク…」
ブラスもアマネも声がガラッガラだ。精神的な疲弊もあってか、そこには力が全く入っていない。
恐らくはここ最近で、最も高いダメージを負ったのではなかろうか。二人はそんなことを考えつつ、呻き声と共にシートに全身の体重を預ける。
そんな様をルームミラーで見て、ユカタンは言った。
「ちょっと思ったけど…二人とも、仲良いというか。何というか、反応が少しだけ似てるよね。
案外似た者同士だったりするのかな」
「うっそだろこの流れで普通に会話します???」
「いや、気晴らし必要かなって…」
「ゔッぷ…っ」
赤信号で止まる中、申し訳なさげな顔をする運転手。
グロッキーなブラスは、手の甲を口元にやりながら若干の苦言を呈し、そして顔色を青くした。
三半規管はあまり強くないらしい。そんな彼の背中をさすりながら、アマネの方が返答する。
「ユカタンさんも、レオネさんと仲良く見えますけど…」
「最初は仲悪かったよー、僕ら」
話に気を取られたせいか、運転が安定し始める。
「班長取り合ってたって言ったら信じる? 隣に立つのは自分だーって。局内でペイント銃持ってお互い何でもありの大喧嘩! いやぁ、楽しかったなぁ!!」
「そんな荒れた文化祭みたいなそんな…」
そう言うアマネは、内心では驚いていた。現在の班に来て、まだ日の浅い彼女だが、それでもユカタンとレオネの仲は良好だとわかるし、実際二人がよく漫画の貸し借りをしているところを彼女は見ていた。
なぜ不仲だったのか、またどうやって今の関係性になれたのか、彼女の意識はそこに向いた。
そんな彼女のことなど露知らず、ユカタンは語る。
「レオネは副局長の娘で、僕は苗字無しの訳アリ。そんなこともあって、昔はお互い滅茶苦茶にスレてたからね。
…まぁ最終的にキレた班長が無表情で僕らのこと鉢植えに埋めて終わったんだけど…」
「はちう、鉢植えに埋めた…?」
何はともあれ、アマネは口を開く。
周りからしたら唐突なことかもしれないが、しかし彼女にとっては解決したい疑問だ。
それに繋がるものを見つけたとなれば、沈黙して流すことはできず、気づいた時には言葉として出していた。
「その、近いうちにE1の方と組み手みたいなのをするって、言ってたじゃないですか…ええと、そこで…えっと…元の班の人と、なんて言ったらいいのか…アドバイスとか…聞いても良いですか?」
「本音の言葉と拳でぶん殴ればスッキリするよ」
「蛮族の対話理論?」
「つまり俺はハイバラと殴り合えばスッキリできる…? 面会デスマッチやってみる価値あるか…?」
「ブラス??????」
心にあるモヤのような不安感。その解決策というか、アドバイスはあまりにも力技だった。理にかなっていると言えば理にかなってはいるが、驚きが勝るのも当然の反応だろう。ブラスの変な琴線には触れたが。
「お互い、我慢してることぶちまけまくって、それで手が取り合えたらまぁ御の字かな。別に仲良くする必要はないと思うよ。最低限として、ただ存在を認めれば良いだけじゃないかな。まぁでも人間関係って複雑だもんねぇ」
くぁ、と欠伸をしてから面倒くさそうにユカタンが言う。すると彼は唐突に振り返り、アマネとブラスを見てニッカリと信頼し切った笑みを見せた。
「男がヘタれる恋愛はリアルでも漫画でも全部死ねって思ってるからさ。その点、君たちは安心して見れるよ。お互いガツガツしてるもん。よっ、相互捕食カップル」
「…………ッ」
二人が一気に顔を赤くする。血を吐かない辺り、ワンナイト以外は吐血になり得ないようである。
…相互捕食カップルと言われても訂正しない辺り、かなりアレなのだが自覚はないようだ。それはそれで美味しいなと思いつつ、ユカタンは話を区切る。
「でもね、二人とも。ひとつだけ振り返って」
ピシリ、と車内の空気が硬くなった。
「二人が頭に浮かべているであろう『それ』は、手を繋ぐ、あるいは飲み下すという『選択』をするほど、価値のあるものなのかな」
その声は、いつもと違って、力のあるものだった。
それと同時に、どこか悲しげな色も。
「苦痛はね、あくまで苦痛でしかないんだ。
泣いて良いし、怒って良い。
何より───許さなくても良い。許せないことは、許せないままでも良いと僕は思ってるよ」
その一言以降、車内には一つの発言も無かった。
◆
しばらくの運転の後、一行は現場前に辿り着いた。
「特異対策局から参りま───うっわ、君かよ…」
現場前で待っていた刑事に敬礼をするユカタン。
彼に倣い、同じようにするブラスとアマネだったが、そのユカタンが刑事の顔を見るなり、うんざりそうな態度を出したもんだからずっこけた。
それを受けた敬礼の対象は苦々しい声色で言う。
「…俺はせめて協力出来そうなやつを寄越せっつったんだよな、ユカタンさんよぉ」
彼らに対応する一人の刑事。タバコの臭いが染みついたジャケット。くたびれたシャツとスラックス。痛み切った黒い髪。顎に生えたわずかな不精髭。精気のない瞳は、頭痛に苛まれているかのように苦しげだった。
彼と向き合う形で立つユカタンは、刑事の発言に対して腕組みをしたまま毅然と言い返す。
「だからちゃんと来たんだよ、三人も」
「今にもゲロ吐きそうなガキ二人、外見詐欺一人。
使えなさそうな奴等を寄越せとは一言も言ってねぇ」
「またあんたのタバコにマグネシウムリボン詰めるよ」
「よし、話し合おう。外見と中身がクソガキ以下」
ゲシゲシと足を蹴り合いながら話す二人。ユカタンの方は脛を重点的に狙うのに対し、刑事の方はつま先をターゲットにしていた。二人してクソみたいな喧嘩をしているが、会話は続いて行く。
刑事は顔を顰めたまま、ブラスとアマネの方を見やり、ユカタンに対して尋ねた。
「で、後ろのガキ二人が?」
「そうだよ」
「フジワラ・アマネ、二等局員です」
「ブラス・リッター、三等局員です」
話の流れに乗って、二人の進化者が言う。
その態度に面食らったのか、刑事はわずかに目を見開くと、アンニュイな態度で警察手帳を見せた。彼は面倒臭そうな顔をしたまま、自身について簡単に語る。
そこには微かな牽制もあった。
「本事件を任されてるもんだ。階級は警部補。人間様ぁしょっぴくなら権限はこっちのが上だ。その辺きっちり頭に叩き込んどけバケモノ男女」
「はい! よろしく、お願いします! えーと、とりあえずボクの能力って早速使っても大丈夫ですか…? あ、あとやっちゃいけないこととか、気をつけることとか…」
「おーい、俺いま言外に勝手に動くなっつったんだぞー」
だが牽制がろくすっぽも通じていなかった。
まさかの事態に刑事の目は死んだ。彼は投げやりな声色のまま、わざわざ自身の牽制の意図をバラすという、なんともアレな姿を自ら晒している。
そんな刑事に対し、追い討ちが来る。
ブラスは恐る恐ると言った具合で手を上げ、遠慮した声色で言った。
「あの…捜査のノウハウとかまだ習いたてで推理力もクソですけど俺ってここにいて大丈夫ですかね…? あ、使える能力は何でもぶっ殺せるor病気に出来る鎌の召喚っす」
「あー、待て待て待て待てお前。全体的に待て」
刑事は自分の額に手をやり、天を仰ぐ。
「協力じゃなくて戦力来てんじゃねぇか、采配がバーバリアンにも程があるだろ。どうなってんだユカタン」
「牽制は無駄だよ。片やパワハラ被害者、片やスラム育ち。でも普段はいい後輩達だから。
あと付け加えると今回のまとめ役は僕です」
「この世の地獄からの尖兵か???????」
刑事は自分の脇腹に手を当て、項垂れた。
彼は自分の髪をひとしきりかきむしり、佇まいを正してから二人の進化者の方向へ向く。
彼はやっぱり気だるげに言う。
「えーね、お兄さん学んだよ。下手に威圧しても化けの皮がバリバリ剥けるってな」
「今年で35のおっさんがなんか言ってる」
「おっさんじゃねぇわ、しばくぞ」
ユカタンの茶々を嗜めつつ、話を進めていく。
「バケモン男女、お前ら年は?」
「18っす」
「ボクもです」
「うちの息子とタメか、やり辛えなぁ〜〜…」
「…うん?」
アンニュイな刑事の言葉に、アマネが微かに違和感を持ったが、彼女がそれを思考するより早く刑事が口を開く。
その最中、ユカタンは携帯端末を弄っていた。
話の腰を折られない分には歓迎なのか、刑事は特にそれに対し何も言わず説明を続けていく。
「最初に言っとく。現場にゃあんま干渉すんな、そんで俺以外の刑事ともなるたけ話すな。ここ最近、どいつもこいつもヒリついちまって仕方ねぇ。
進化者が大手振って表側を歩いてりゃ、特にな」
警部補は至極嫌そうな顔をして「それもこれも、オタクらの局長のせいだ」と火のついてないタバコを口に咥える。ライターも取り出し、火をつけようとしたが、その瞬間慌ててライターをしまった。どうやら、喫煙マナーはしっかり守るタイプらしい。
「スラム炎上の際、被災者救助に進化者を使うっつー常軌を逸した事態。その一件が何処もかしこも騒がせてんのに、記者会見ひとつも開かねぇまま何日も過ぎた。
…どんな話も七十五日ってな。言及し続ける奴も時間と話題性が連れ去っちまう。次第にやり場のないフラストレーションばっか溜まっちまった」
語るのは現場の状態。アンニュイな発言者もそうだが、刑事達は進化者達に対して、やはりあまり良い印象を持っていないようである。
ここ最近にあったことが重なれば当然だ。
スラムとは言え、内情が分からぬまま受け取れば『居住区』を燃やされたという事実。
しかし、それの救助に進化者が関わったこと。
人は理解できないものに対しては憤るか、どこぞの組織の奴等のように頭の中を困惑一色にするしかなくなる。
「わかるな? めんどくせぇ問題にしたくなけりゃ、これから言うことを守れ。一つ、俺の指示に絶対従え。二つ、ユカタンと俺の側を離れんな。
そして最後。締めの三つ、何かあったら『組織間の関係ひいてはあなたの立場に差し障ります』と言え」
アンニュイな刑事は「以上だ、質問は?」と言って、口を閉じる。その気だるげな、だけどどこか真剣味を帯びた眼差しは「頼むから面倒な質問はすんな」と語っていた。
しかし、それでも気になることがある。
ここまで懇切丁寧に話してくれたのは何故か。今現在に至るまで、過去に
「…あの、一ついいですか? その───どうして、進化者であるボクらにそんな親身に?」
その質問に、アンニュイな刑事は顔を顰める。
彼は苦々しい顔のまま、自分の右耳を抑えながら、うめくように一言だけ返した。
「…耳鳴りが増えんのはうんざりだ、理由はこんだけ」
触れて欲しくない話題だったらしい。
返答はそっけなかった。彼は逃げるようにブラスへ話題を振る。若干喧嘩腰ではあったが。
「で、そっちの『俺は普通です』みてぇな面してるけど確実になんかやらかしてるであろう青白い髪のガキは? なんか質問あんのか?」
「なんか俺に当たり強くねぇか…? いや、まぁ…あるっちゃありますけど…ここ最近、髪が灰色のやつの姿は見ましたか?」
「髪が灰色ぉ? この国じゃ頭髪は何色でも珍しくねぇしなぁ…探んなきゃわからん、以上。
じゃ、質問タイム終わり。現場入りすんぞ」
パンパン、と手を叩き移動を促す刑事。
その手拍子にユカタンは顔を上げ、端末から手を離す。
「あ、終わった? 色々先に調べといたよ」
「……そりゃどうも」
先を歩く刑事と局員の先達は、慣れ切ったかのように情報を交換し始める。
「家財の出品はあったね。それも裏側。出品者のアカウント洗ったけど空振り。その手の業者に院長さんが依頼したか、逃げ慣れてる誰かに頼んだか」
「どの道、家財が無い上に今回の爆破だ。状況だけ見れば完全に爆破テロの下準備。これを機に、ハラエド院長の医師免許は事実上の失効状態。加えて、身柄の拘束が決定した」
「スケープゴートかな、それともトカゲの尻尾か」
「どっちでも良い。問題なのは、あの男は何をやらかしていたのか、何処から依頼を受けて、対策局と俺らから守られていたのかって話だ」
その姿に、2人の18歳は完全に置いてけぼりだった。
「………なんか、すごいね」
「───……そだな」
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