敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗)   作:苦い経験100%

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事態は大人がイヤイヤ引っ張って血を吐く

 

 

 9月29日 蘭善六区警察病院 343病室

 天候:曇天 気温:17度 時刻 19:32

 

 痴話喧嘩、というものがある。

 男女間における愛情のもつれから成立するものだが、今回の喧嘩はそれに該当しない。

 今回の件に関してはもつれもクソもない。

 シンプルに男の方に非があるからだ。

 

「………ボクの大事な人を蔑ろにしたのは誰かな」

「あの、これ下手したら首が逝くやつ…」

「誰かなぁ!?!」

「はぁいごめんなさい俺です!!!!!」

 

 両頬をがっちり掴まれ、尋問さながらの詰問を受ける少年。蒼白色の髪を乱されながら、ブラス・リッターはしっかりと怒られている。

 当然、彼の頬を掴んでいるのはフジワラ・アマネだ。彼女の凄まじい剣幕に、少年は形無しだった。

 

 先の突如として出現して来た暴走した進化者の鎮圧後、ブラスは大至急に警察病院へ担ぎ込まれた。刑事の一人を庇って右足を失い、大量に失血したからだ。

 しかし、今の彼は骨折した患者よろしく、右足を吊るされている状態で横たわっていた。

 

「キミが死んだらどうするんだよ!! なんであっさり自分の体使っちゃうかなぁ!? というかボクいまだに覚えてるからね、スラム炎上の時に『八つ当たりするなら俺だけにしろ』とか言ってたの!! ばーか!! ばーかばーか!!! ばーーーか!!!」

「ヒィン……ッ目に入ったらつい体が動いていました本当に心配かけてごめん…あと俺だけなら対処できるし周りが危ない目に遭わないでなんとかできるかなって…あと死ぬつもりは一切ないからこれ本当」

悲鳴あげたのに急に流暢に喋り出したな…

 

 ブラスの足は、繋がっている。

 形だけという訳でもない。貫かれ、断ち切られた筈のそれは、今や指までしっかりと動くほどだ。

 

「…まぁ、…その今回はあんたがいなかったら、本当に足が無くなってたし、俺もう何も言えないんだけどさ…」

「分かってるなら今度は自分の身も顧みるように。というか、今回のはもう流石に見過ごせません、家族の人達にも連絡入れました。あとでしっかり怒られてください」

「…はい……」

 

 敬語で丁寧に処罰を言い渡される。

 何一つ言い返せない少年は、がっくりと項垂れた。

 彼自身、今回の行動が度を過ぎたものであると理解はしていた。人を助けることは確かに善行だが、それで自身が死ねば本末転倒だ。命が助けられても心に傷を残す。

 

 誰かのためとは言え、自身の身をあっさりと捨てることは、翻って自身を大事に思う誰かを踏み躙ると同義だ。

 本人にそのつもりがなくとも、受け取り方次第で『生きて欲しい』『幸福でいて欲しい』という思いを無碍にしたと捉えられてしまう。

 

 その意味で、何処か『拒絶された』と思い込んでしまう自分に嫌悪を抱くフジワラ・アマネは、ブラスの手を取りながら小さな声で、少しの涙声で問う。

 

「他に方法はなかったの…? キミも助かって、庇った人も無事でいられるやり方が」

「あー…あるにはあったけど、足で庇った方が───いひゃいひゃいひゃいっほっぺちひれぅっ!!っばぁ! ごめんって!もうしないから!マジでしないから!!俺だって足が吹っ飛ぶとか思わなかったんだって!!」

「……ほんっとバカ! いやもうアホ!」

 

 クソボケ無頓着野郎(ブラス)の頬を引きちぎる勢いでつねる。少女の怒りに油を注いだ少年は泣いた。

 そんな風につねって、大方三分経過した後。

 

「…いたいっす」

「だろうねぇ!」

 

 頬を抑えるブラス。半ばキレ気味で返すアマネ。全面的に非があるので、ブラスは何も言えずしょんぼりした。

 その姿を見て『怒りすぎたかな』と少女は思う。

 彼の行いは周りも自分も度外視したものだったが、誰かを助けたのは良いことだし───と、フォローを入れようとしたが、その前に病室の扉が開いた。

 

「あー、やめときな。そこで甘やかしたら絶対に再発するぞ。ちゃんと怒ったまんまにしとけ」

 

 その声は気だるいものだった。来客は傷んだ黒髪と淀んだ黒目の男だ。アンニュイな雰囲気を放つその刑事、モリミネ・キョウスケが見舞いにやってきたようである。

 彼は右手にビニール袋を持っていた。中身はホットスナックの部類なのか、ジャンキーな香りが病室に吹き抜ける。若い少年少女にとっては垂涎ものだ。

 

 ぐるん、と緑と蒼白の瞳が来客を見る。

 アンニュイな刑事は呆れ気味に笑った。

 

「元気で大変よろしいなガキども、差し入れだオラ」

 

 

 刑事はコロッケ。少年は唐揚げ棒。少女はハッシュポテト。各々チョイスしたものを食べながら談笑する。お見舞いというより、交流の方が近いひと時である。

 そんな中、モリミネがブラスに言う。

 

「しっかり尻に敷かれてんなクソバカボケナス野郎」

「そんな言う?」

「ったりめーだクソガキ。自分の息子とタメのやつから右足がグッバイサヨナラするところ見せられてんだぞ」

「………」

 

 ずもももも、とアマネの表情が曇る。

 その様を見た刑事は肩をすくめた。

 

「お前、大事にされてるってわかってんのかね。

 フジワラ、こいつの足はどうだ?」

「指までしっかり動いてます。精密検査も通ったので、明後日にはもう出ていいみたいです」

「そら良かった。ブラスお前、退院したらこの子に八万回土下座しとけよ。足くっつけてもらった上に泣きまくるほど心配かけてんだから」

「……はい」

 

 ブラスの足は、現在問題なく稼働している。

 彼の足はアマネが接合した。記録では、彼女の能力によって、消し飛んでいた組織や骨肉を再生させ、そのまま切断面と接続させたとのことだった。血まみれで泣きながら歌うという、凄まじい過程はあったが。

 同時に、それは極めて有用な事例だ。

 切断された部位の再生・接合。それを可能とする能力。これは医療でも大いに役立つだろう。

 しかし今の社会では、遠い夢だ。

 

「………ま、礼は言うが…お前が助けてくれた奴は、今ちょっとカウンセリング受ける羽目になってな。トラウマになるかならねぇかの瀬戸際だ」

「い゛ッ!?」

「理由はもっと複雑だが、まとめると目の前で子どもの足が飛んだってのがでかいらしい…ま、それをいうなら現場にガキが来ちまってるのが、著しく末法な世っつーか…」

「…マジで…?」

「まアレだな。良いことするにしたって、やり方があるってことだな。きっちり学んどけ、また彼女泣かすぞ」

 

 大人の指摘に、手で顔を覆うブラス。

 やっちまったと嘆く彼は、気づいているだろうか。自身を見るアンニュイな刑事の目に、僅かとはいえ父性が滲み出ていたことに。

 

「さ、て…んじゃ、元気そうだしお暇するわ。…小言しか言わねぇなこのおっさんとか思ってんじゃねぇぞー」

「思ってねぇよ!?説教中の親かよ!!」

「誰がおっさんだ一児のパパだコノヤロー」

「言葉の当たり屋?」

 

 ブラスにぞんざいな絡み方をするモリミネに、若干の苦言を呈するアマネだった。

 そんなこの場における年長者は、手早く身支度を済ましながら連絡を終えていく。

 

「ま、とりあえず足は経過をよく見とけよ。フジワラも、何かあったらすぐ医者に言うように。とりあえず、現場から回収した『記録』と、あの『暴走した進化者』については進展があったら連絡する。

 つっても、後者の方はお前らの方が早く知るかもしれねぇけど…あ、ゴミはこのビニール袋に入れちまえ、帰りに捨てるから。全部燃えんだろ多分」

 

 適当にゴミを処理しながら、男はぶっきらぼうに言う。彼は今自分が柔らかい対応をしてる対象が、進化者だと強く理解している。

 しかし、彼に恐れはない。侮蔑もない。ただ子どもに対応するように、目線を合わせて話してる。

 だから、少年も少女も、気付かないうちに心を開いていた。

 

「じゃあな、おっさんは当直なんでね」

 

 くたびれた背中を見せながら、手を振る。

 そんな背中に声がかかる。

 

「あのっ!」

 

 フジワラ・アマネが、その背中に声をかける。

 そうして、彼女は感謝の言葉を、臆面なく吐き出せた。

 

「ありがとうございました!」

「へいへい、そら二人とも互いに額突き合わせてもっと言ってやれ。一回や二回じゃ足りねぇだろ」

 

 

 

  ◆

 

 

 

 ガキどものいた病室を後にする。

 

 胸に去来するのはやるせなさだ。

 あの蒼白のガキも、緑のガキも、優しい態度をとる大人に弱すぎる。警戒を解くのが二人してえらく早い。それは、人をよく見てるのと同義。翻ってそんだけ周りを警戒しないといけない場にいた期間の長さを示す。

 あの二人が、いや二人に限らねぇけど…進化者が俗に言うバケモンだってのはわかってる。

 …普通の人間みたいに泣いたり笑ったりしてるが。

 

「…対策局のやつらキッツイだろあれ」

 

 大衆とはある意味お気楽だ。

 何も知らず何も聞かず何も見ず判断出来る立場にいる。ただ伝聞を聞いて『殺せ』だの『許すな』だの法律しらねぇのかってくらいの罵詈雑言。

 ああなれたらどんだけ楽だろうか。

 

「…目開いてないと駄目な職だもんなぁ…」

 

 当直は仮眠で済ませよう。ただでさえ日中はヒヒガネへの連絡とかで気が滅入ってる。

 いや、向こうも大分頭を抱えていたが。

 見舞いに行きたいが、どうにも向こうもごたつき始めたらしい。それでもフジワラを早上がりにさせたのは、あいつらなりの配慮だろうが…見舞いに行けない愚痴を俺に吐くなよとは思った。

 

「…そんで」

 

 …少し足を止めて、曲がり角の消火器入れに手を伸ばす。真っ赤な箱の裏側にいるチビを引っ張り出す。

 一人張り切りすぎたアホがいるってのは聞いてたが、多分いざとなって尻込みしたか。ここで萎えるよりやることがあるだろう。

 

「お前はなーにしょげてんだ? ユカタン」

「……しょげもするって」

 

 …初めて検挙した、ガキの見てくれした大人。

 思えばこいつとは奇妙な関係だ。

 

「……顔を合わせる度胸がないよぉー…というか何て言えば良いのかもわかんない…まとめ役任されたのにご覧の有様だよ…僕の判断ミスだちくしょう…」

「あの青白いガキは生きた爆弾か何か?」

「大丈夫、爆弾どころか戦術核だから」

「オッケェ詳細は怖いから聞かねぇ絶対」

 

 ブラスのやつ、ブレーキいないと怖いな。

 フジワラ? あいつはアクセルだ、しかもエンジンぶっ壊す勢いのアクセルと見たね。

 そんなことを考えてるも、ユカタンはため息と一緒に愚痴を吐く。今日の俺は飲み屋の店主か何か? 大体人の話聞きなれてるわけじゃねぇんだが。

 

「…自分が死ぬことや犠牲になることに価値があるって判断して、そのまま支払った人達はさ、大体皆して死ぬべきじゃなかった『人間』なんだ。僕はそんな人達の命が、今に見合う代価とは思えない」

「いや重い重い重い重い、いきなりヘヴィなパスをよこすな。仕事明けの頭じゃ受け取れきれないのよ」

 

 言わんとしてることはわかるがいきなりキラーパスをするな。血反吐を吐くぞ俺が。ただでさえ俺もわしゃわしゃ悩んでんだから。

 

「…ま気持ちはわかるがよ。俺みたいなガキの頃から腐った悪漢、今の社会を怠惰に生きる大人ども、冷笑ばかりでなんもしない第三者…碌でもないバカだけが生き残る。いやな世の中だよなぁ…」

「…ん」

 

 ぺちぺち、とユカタンが自分の頬を叩く。

 気合いの入れ直しだろう。成長出来なくなったこの男は、凹みやすいが浮きやすくもある。

 奮起してからはもう早かった。

 

「先に、そっちにだけ話しとく。先の暴走者の発生から重ねるように、暴走被害が少し増えた。こっちも何人か負傷。捕縛しきれなかった暴走者もちらほらいる」

「…きなくせえ情報どーも」

「ところできな臭いのきなって何?」

「話の腰をてめえから折るんじゃねぇよ、殺すぞ」

 

 キレそうキレた。

 そんな中でもこいつは話を続けやがる。

 本調子は本調子で困るなこれ。

 

「とは言っても、後輩ちゃんが『鎮圧』したほどの強いやつは今の所出て来てないし、規模的にはまだ大事とはならないくらい、でも───」

「明らかに何か起きようとしてる、か」

「うん。ちなみに局長の見解は『二番目の予測パターン』だって。一応対策もあるけど、すっごい渋い顔してたから、多分あんまり当たってほしくなかったケースだ」

「警察側にやって欲しいことは?」

「市民が暴徒化した場合の防波堤」

「つまり普段通り、最悪の事態に備えてろってな。りょーかい。上に伝えとく…まぁ、そっちの上がもう話通してるかもだが」

 

 





Tips:ユカタンは身体を一部損失していて男性ホルモンがほぼ出てなかったりする

短め番外編

  • 学パロ世界線
  • ひたすらキスだけのブラスとアマネ
  • 彼氏持ち女性陣トーク
  • 野郎どもの猥談
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