敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗)   作:苦い経験100%

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(なんか長くなっちゃったって顔)


備え過ぎて憂いが凄い

 

『ブラスとアマネ。二人には、暇がある時に殴り合いに参加してもらうことにしたから』

 

 朝がヒヒガネ・クサビのそんな発言で締められた日の夕方。特異対策局にあるトレーニングルームの一角、アリーナにて重々しくも乾いた音が何度も響く。

 スパーリングというには余りにもガチすぎる音の連続。時折『ぐぼぁっ!?』だの『ひでぶっ!!』だの断末魔じみた悲鳴が聞こえてくる。

 

 このアリーナは、学校の体育館よろしく、一階から二階にかけて吹き抜けの構造になっている。

 二階の渡り廊下一面に貼られたガラス窓からは、現在の利用状況を見れる仕組みだ。そんな無機質な廊下から、アリーナを見下ろすのは三人の大人達だ。

 

「…あの、今、血が出てなかったかい?」

 

 E班の班長と指導を担当している、歳を重ね、柔和な顔立ちを保つ局員であるイサカ。彼は顎元をさすりながら、ヒヤヒヤとアリーナを眺めている。

 その横には、束ねた黒髪を肩に置く男。

 特異対策局の局長を務める彼こと、マツバ・マサムネは、頭を抱えてため息を重々しく吐く。

 

「一応加減しろってクサナギに言ったんだけどね、ダメだアレ。手加減が手加減になってないよ。難易度選択ミスって参戦しちゃったレイドバトルみたいになってる」

ソシャゲしてないで仕事してください

休憩中すら仕事しろと!?

 

 アリーナの惨状に思うところがあるのか、部下(イサカ)から上司(マツバ)への態度はやや辛辣だった。

 

「ブラスはともかくアマネもまだ残ってる…正直すぐ脱落かと思ったんだけどなー…いや違うなこれ、ブラスへの執着で無理やり意識繋ぎ止めてるだけだあの子…

「ちょっと待ってフジワラどうなったんだい???」

「愛に生きるようになりました」

「そんな世紀末覇者みたいなそんな」

 

 最後の一人。凛々しい顔立ちと黒髪、ピンクのメッシュを持つ女性ことクサビは慄くように答える。

 彼ら、彼女らの眺めるアリーナ。

 そこにはある一人の局員と───異能を持つ存在である進化者から成るE班と、進化者と非能力者の混在したE2班の進化者が対峙し、全力の模擬戦を繰り広げていた。

 

 対峙する局員の名は、クサナギ・カムイ。

 柔和な顔立ちに、一つ結びの黒髪を持つ男。

 ラメントの起こした事件の中で、最初の一つ、隔離場襲撃の際に単独で同組織の首魁、アイザック・グローリーを抑え切った唯一の人物である。

 

 そんな彼は、右手に『黒い長方形』を手に、E班の人員を軒並み叩きのめし、E2班の人員をマットに沈めていた。

 起き上がった進化者にも容赦なく追撃していく。

 その全ては、彼の持つ『黒い長方形』から飛び出した多種多様の武器によって行われている(わざわざ中身を入れ替えたのか、軒並み硬質ゴム製だった)。

 

「…きょーくーちょーおー…?」

「タンマタンマ。僕だってこんなガチ仕様なのは予想外だった。というかマジかあいつ。よりにもよって『オペルーム』使うとか馬鹿なのか」

 

 じろり、と睨むクサビにマツバが釈明する。

 彼の言う『オペルーム』なるものは、どうやらクサナギのもつ身の丈ほどの大きさである『黒い長方形』のことを指すらしい。

 発言から察するに『本気』の時に使う武器のようだ。馬鹿と言われるくらいには血迷った選択なのは確かなのか、その場で否定する声は上がらなかった。

 

 そんな沈黙の中、マツバはクサビに言う。

 

「…一応このこと、ヤサカニさんには黙っておいてもらえるかな? シンプルに彼女のお叱りが怖い」

「姉さんに頭上がらないって大丈夫ですかこの組織」

「頭上がらないっていうか、負い目ありまくりで…」

「はぁ…。あの人とはもうそんな話す関係でもないし、その辺りは安心してください」

「嫌われてるな彼女…」

「胃が痛いんで二人とも、その辺りで」

 

 家関係のしがらみや、個人的なつながり、そこに今回のことも加わって色々と考えてしまったのか、イサカは胃のあたりに手を当てながら会話を制した。

 彼は話題を変えるように疑問を口にする。

 

「しかし…よく考えつきましたね、こんなトレーニング方法…」

「苦肉の策だよ」

 

 局長が肩を落として、軽く説明をする。

 

 上層部でこんな話が上がっていた。

 『E班の経験値上げないと、多分マズイな』『よしじゃあお互いに競わせる方向で行こう』『実戦数は中々稼ぎ辛いからなぁ』『2班目の方は元幹部だしヨシ!』そんな流れで、合同訓練の予定が組まれていた。

 なのだが、暴走件数アップで取りやめ。

 再び開かれた会議で『強い人から徹底的に扱いてもらおう』『反射神経やら育つし強い奴の刺激と鍛錬になるなヨシ!』と爆速で元の予定を解体。

 

 一番強い局員で篩をかけ、残った人はそのままとことん実戦訓練。振るい落とされた人は予定の空いてる他の実力者や、お互いで模擬戦闘しまくってレベリングというまぁまぁ容赦のないトレーニングプランが練られた。

 荒削りだが、やらないよりはマシだ。

 一応、他にも理由が存在する。

 そう言うマツバだったが、そこまで詳しく説明すると長くなるから、とその先は割愛した。

 

「さて、そろそろ訓練、いや選別も終わりかな。今回を機に、各々に心の区切りをつけるなら今だし、引き返すのもそうだ。勝手に彼等の立場を決めた手前、退路を作りもしなかったら地獄でも僕を裁ききれない。

 だから、事前に渡したアンケートと、意思確認をやって欲しいんだけど…イサカの方はどんな予定かな? ああ、まだ未定ならあとで予定の調整をするよ」

 

 アリーナに立つ人間が残り三人となる。マットに転がるのは、緑の髪の少女だ。それを契機に、蒼白色の髪を持つ少年は荒々しい攻勢に回る。

 動きが大ぶりになった彼を、クサナギは簡単にいなし、そのまま先と同じようにマットへ沈めた。

 それを見計らって大人達は話を進める。

 

「今回の訓練の後、あれに回答してもらう予定です。自由記述の回答を精神科医に見てもらい、その後は個別に面談をして意思を確認するつもりです」

「……随分厳重になったねぇ」

「あの子がいるときにできれば良かったんですが…こればかりは、自分の能天気さを恨みますね…」

「痛みなくして学びなし、か。

 わかった。医者についてはセカオピ出来るように手配しておくよ。視点は多い方がいい」

 

 イサカの返答に頷いた局長はクサビの方を見る。

 

「E2班の方は」

「あたしも同じように、これの後に聞く予定です。ただアンケートについてはすっ飛ばしても良いですか? あと面談ついでに、ブラスの方には少し話もする感じで」

「簡易すぎやしないかい?」

「……アマネはともかく、ブラスは立場的に承諾以外は難しいでしょう。で、ブラスがそうなら、アマネもそう。アンケートは機能しないでしょう、どっちかというと心理尺度の方が活躍しますよ」

「えぇ…」

「あの、本当に彼女に何があったんだい…?」

「「知らない方がいいと思う」」

 

 イサカに対し、局長とクサビが言う。

 そのままクサビは逃げるように話題を変えた。彼女は小脇に挟んでいたクリアファイルから、数枚の報告書を取り出し、局長に手渡す。

 

「今日の報告はこの場でやっても?」

「構わないよ、今はそれがありがたい」

「先の件…ブラスの片足を飛ばした暴走者は正気を取り戻しました。素性も割れてます。未成年の進化者から成立する団体のリーダーで、依頼料を対価に客を隠す・逃すの『逃し屋』としての活動が主です。

 有する能力は前例有り。空間操作系で…まぁこの辺りは後でいいか、十七行目以降を見てください」

 

 クサビにとっては、今語る情報は重要ではない。

 彼女は眉に軽くシワを寄せる。抱く懸念に直結する情報を述べる前に、頭をよぎるのは部下である少年少女。互いの存在を溶け合うレベルで求めてんじゃないの、と野暮な邪推をしつつも思考はきっちり回す。

 

 もしもの話に過ぎないもの。

 だが、いつかは訪れるであろう事実。

 

 それは『大切な誰か』が傷を負うということ。

 アマネはこれを既に体験したが、自らの能力でその事実を捩じ伏せているが、再発した場合どうなるかという心配はやはりある。

 この職にいる以上、必ず出る問題。

 正直、クサビはそれを想像するのが怖かった。

 否、怖いというより『絶対碌なことにならない』という確信じみた予想があった。

 

「事情聴取の際もそうでしたが、まだ精神が不安定なままです。それでも会話を続けたり、幾らか呼びかけやサポートをすれば、おそらく再暴走には至らないかと。

 ただやはり抜かれてますね、記憶が。持ち得る感情と記憶の齟齬に耐えられず、そのまま精神が自壊したと、今のところは診られています」

 

 マツバとイサカの目が、書面をなぞる。

 ブラスの片足を取った暴走者。彼の供述から纏められた内容は、暴走に至る経緯だ。

 〝誰かを大切に思う気持ちはあるのに、その理由が全く無くて忌避感があって、しかしその忌避感を必死に否定する気持ちもあり、次第に精神が混濁した〟

 局長はそれを見てから、ため息を吐く。

 

 彼の視線はアリーナの方に向いた。

 そこには、緑髪の少女に包帯を巻かれている、ズタボロになるまで扱かれた蒼白の少年がいる。

 そんな二人を見てから、局長は言った。

 

「……最悪ラスボス誕生しない?」

「……………周りに八つ当たりする子達ではないので」

 

 苦しい声での反論が、一応あった。

 

 

 

 

   ◆

 

 

 今日は驚きの連続だった。

 ボクことフジワラ・アマネは心から強くそう思う。

 

 先ずは朝からクサビさんに『暇があったらブラスと殴り合いに参加してもらう』という通知。

 後にこれは『訓練の予定』を組んだことだと判明して、少しホッとした自分がいる。

 

 でも、その訓練が地獄だった。

 まず最初に会ったのが、元々ボクのいた班であるE班の人達。合同でやるとは言われたけど、心の準備が出来てなくて、正直吐きそうになってた。

 …前より視線は痛くなかったけど、やっぱりトラウマはあって、辛かった。克服しなきゃとは思っているけど、まだ難しいみたい。

 今回だけはブラスと、唯一E班で仲の良かったミナヅキちゃんに助けてもらった…それ以外にも、色々トラブルはあったけど、訓練は無事終わった。

 

 …さっきも述べた通り、今日の訓練は地獄だった。今回、ボクらが組み手をしたのは、対策局にいれば一度は名前を聞く人。

 一番強いと頻りに言われるクサナギ・カムイさん。

 その人は黒い長箱を片手にやって来ては『能力、暴力、全て使って殺しにくる勢いで来い』と言った。

 

 そうして、訓練は始まった。

 

 先ず、黒い長箱から武器が飛び出す。

 意表をつかれてこれで半数がアウト。

 次に、飛び出した武器の中から長物を手に取り、嘘みたいな速さで横に思い切り薙ぐ。

 これで、更に何人かがアウト。

 

『四人か、意外と残ったな』

 

 最後に、両手で武器を持って四対一。

 これで漏れなく全員アウトになった。

 

 もちろん、皆が奮戦した。

 ブラスは鎌を出して、鎖で何とか凌いだけど鎖ごと吹っ飛ばされた。ボクは歌で自分と周りを強化しつつ、武器を受け止めようとしたけど、威力に負けて吹っ飛び。

 ハルニレくんは精製した氷で距離をとって回避…したところを投擲類で一撃喰らって撃沈。唯一ミナヅキちゃんは最後まで立っていたけど、能力の負荷で気絶した。

 

『ハルニレ、ミナヅキ、フジワラ、ブラス。

 以上四名はこれから予定が合い次第、俺が非番の時に訓練室へ来てくれ。可能なら揃ってだ。

 残りは落第だ。鍛錬してからまた来るといい。

 以上だ。解散。後のことは追って連絡する』

 

 訓練が終わった後でも、皆が伸びてる中でも、クサナギさんは淡々と連絡を済ませる。

 多分、あんまり私情を持ち込まない人なんだと思う、それに少し幻滅してる子もいたみたいだけど、クサナギさんは外からの声も目も、あまり気にしていないらしい。

 …いわゆる、マイペースという人だった。

 

『ああ、それとブラス。鎖を出せ』

『? は、んぐぉおおおおっ!?』

『……む、斬鉄の勢いで振り下ろしたんだが…』

『事前に言ってくれませんかねぇ!?!! 頭かち割れると思いましたからね!?!!』

 

 そう言えば、クサナギさんは帰り際、ブラスと長く話していたけど、あれはなんだったんだろう?

 

 

  ◆

 

 

 なんてこともあって、ボクらはこの先のためにも出来ることをやろうと思った。あんな訓練があったということは、必ずこの先何かがあるんだと思う。

 ボクらは対策局のトレーニングルームにやって来た。ここは大きなスポーツジムみたいなもので、鍛錬や柔軟に必要なものは一通り揃ってる。

 

 ボク、ブラス、ハルニレくん、ミナヅキちゃんは、揃ってルームランナーの上で走っていた。一人一台使っているけど、スピードは皆同じだ。少なくとも今のところは。

 ランナー前には一枚の大鏡が置いてある。

 走るフォームを見直せと書かれた張り紙も。

 

 だけどそれより目を引くのは、湿布や包帯だらけのボクらの姿だった。特にブラスに至っては、ボクらより扱かれたのか顔がほぼほぼミイラだった。

 皆で一定のペースで走る中、ブラスが口を開く。

 

「……いやあれ見切れねぇよ、なんだあの射出。初見じゃ無くても回避無理だろ。マジで何だよアレ」

「文句を言うな、苛立つ」

「防いだ人がなんか言ってる、こわこわ」

 

 ブラスの独り言に、二人が返す。

 …ハルニレくんはともかく、ブラスとミナヅキちゃんが打ち解けるのは意外と早かった。

 初対面で『お、ワンナイト野郎』とぶっ込まれた時はブラスもボクも死ぬかと思ったけど、チャットで前から話していたこともあって、いがみ合うことも無かった。

 

「ね、そういえばさ、ブラス。さっきはクサナギさんに何て言われてたの?」

「んー…アドバイス…だと、思う」

「?」

 

 ブラスは走るペースを落とす。

 同時に、同じようにボクもペースを落とす。

 二人揃ってウォーキングくらいに。

 なんだか、ブラスが話しづらそうだったから、今は合わせないとって思った。

 

「…俺の鎌に付いてる鎖、あれの強度がどうもおかしいらしい。だから、そこから力を見直すべきとか、戦い方がどっちつかず、守りたいのか鎮圧したいのかはっきりしろ、中途半端の器用貧乏化してる、足運びにも影響が出てる、結局どうしたいんだお前は、どっちかにしろ欲張りとか…」

「ブラス、一回止まろ? ちょっとお水飲もうか。凄い悲壮な顔しちゃってるから…!」

 

 凄い勢いで語りながら顔が曇るブラスを見て、ボクは慌てて彼のルームランナーを止めて手を引いた。

 痛い所を突かれたのかな、でも落ち込み気味ではあれど、不思議と顔色はあまり悪くない。というか、どこかさっぱりしている。

 けれど、だから、予想外だった。

 

「…あー…悪い、ちょっと整理したいから、少し一人になってもいいか? 後でちゃんと話す…っつーか、話さないとダメなこと、多分出来たから」

 

 ブラスが、ボクの手をゆっくりと解く。

 …どうしよう。割と頭を殴られたような衝撃が来た。いや、何も悪いこととかじゃないんだけど、謎のショックを受けてるボクがいる。

 多分、単に彼から手が解かれたことが、ボクにとって大きな衝撃だったのだろう。

 いくら何でも執着しすぎじゃないかなぁボク!?

 

「…はっ、元テロリストのコウモリともなれば、考えるべきものは多いだろうよ」

「(スピードを上げる音)」

おま、ぇっ!? スピードを勝手に上げるなああああああぁぁぁぁぁぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛…!!!!!

 

 後ろからボソッと言ったハルニレくんにイラッとしたので少し転んで貰った。床に投げ出された彼は、体力が尽きたのかそこでノックダウンだ。しばらく寝ていて欲しい。

 すると、ミナヅキちゃんから拍手を貰う。

 

「やり返すの、珍しい。ぱちぱち」

「えへへー…、…ついやっちゃった…」

「あいついっつもガバ起こしてるな…」

 

 ブラスが遠い目をして、静かに呟いた。

 




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