敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
某所の廃倉庫にて、ラガは横たわっていた。
廃材で作った寝台の上、手足を投げ出して呆けている。伸ばされた黒髪は乱れ、隙間からは青い瞳が爛々と覗いていて、ずっと天井を写したまま変わりはない。
彼女はふと、思いついたように起き上がる。
その視線の向きには、1人の男がいた。
彼は退屈そうに、パイプ椅子に座っていた。足癖は悪く、右足は近場にあったドラム缶を押しては斜めにし、持ち直したらまた足でドラム缶を押している。
彼の特徴は3つ。白い髪、濃い隈、隻腕。この特徴に合致するのは、キュリア・リズット以外には該当し得ない。
ラガはキュリアに対し、1つだけ問うた。
「前から思ってたんだけどさぁー…なんでそんなブラスに固執してんの? 正直言って気持ち悪いんだけど。拘りすぎにも限度あるでしょ、サイコ型のホモ?」
「息をするように死にに来たなこの馬鹿」
キュリアの周囲に緑青の光が展開される。
剣の形を模ったそれらの鋒はラガに向けられていたが、彼女は動揺することなく口を開く。
「側からはそう見えてもおかしくないって話。アイヘイトユーとアイニードユーは発音似てるみたいなもんだよ。それに別に動機くらい喋ってもよくない? 秘密にするようなことでもないと思うんだけど」
「ひっくり返せば別に話すようなもんでも無いだろ」
キュリア・リズットは、世界に価値を感じない。
彼にとって、今ある世界は『自身と同類を否定する世界』であり、それに迎合するつもりは毛頭ない。
それどころか、崩壊を切に望んでいる。
その思考に至るきっかけは単純だ。
彼は生まれながら、その理由を持っていた。
『ごめんね…っ! ごめんね、キュリア…!!』
『その力は、隠してくれ…! お前が危ないんだ!!』
幼い頃から彼は何も変わっていない。
母が己を抱いて謝罪する時も、父が泣いて力を隠せと頼む時も、彼の思考は疑問に苛まれていた。
〝なんで力のない人に、従わないといけないの?〟
〝なんで好きなように力を使っちゃだめなの?〟
〝なんで自分のものを抑えないといけないの?〟
複雑な感情も葛藤もない、純粋な疑問。
彼の思考は『力のある者』と『力のない者』で大別されている。後者が傷つくことも、悲しむことも、忌避すべきものだという躊躇いがない。
生まれながらの肥大した自己。
現在にまで至る根幹がここにあった。
彼が持っていた先天性の思考と性質は、やがて己を匿う実の両親でさえ、単なる『枷』とみなし、そしてあっさりと殺した。
そこには罪悪感も、あまつさえ『悲嘆』すらも無い。
〝じゃあいらないや、父さんも母さんも〟
ゲームのキャラを消すように、何の感慨もなく実の親を殺したキュリアは、その瞬間に破綻者として羽化した。
かつての彼にあったのは疑問と衝動だけ。
何故、自身は抑え付けられのか。ありのままを肯定されないのか。そもそも、力あるものがそれを自由に振るうことに、何の不都合があるのか。
自身の持つ力は、自身の権利である。
力を持たぬものを慮る必要が分からない。彼等が喚くのは、力を持たない弱さ故で、自分達───『特別なもの』には関係のないことではないかと。
そこに悲しみはない。涙はない。
あるのは純粋に『力を振るいたい』という衝動だけ。
そんな思考のまま、彼は行動した。
純粋に、己がやりたいままに。誰からも抑えられず、ただ子どもが遊び呆けるようにはしゃいだ。
『いい壊しっぷり。それにイカれた目。なるほど、悪くない。1番目にしちゃ大当たりだ。
俺と来いよ、キュリア・リズット。俺といれば、気に入らねぇやつをもっと殺せるぜ?』
ある日、自身に手を伸ばした
「……反する癖に、迎え入れられた。その時からずっと気に食わなかった。否定し切りたかった。興味をひいてんのも、笑ってんのも、何もかも気に入らねぇだけだ」
「うっわまた自分の世界にインしてる…会話下手かよ」
「会話してもらえると思ってんのか??????」
言葉の応酬は絶え間なかった。
「ああ、そうだ。1個目だけど負けたよ。今『戻って来た』から振り返ってる。どうにも、ご執心の子の側にいた女の子が凄い勢いで叩き潰したみたい…顎を執拗に攻めてくるなこの子…視界がぶれる…おぇ」
「あー、そうかよ。そっちは興味ねぇな」
「でもブラスの片足は持って行けたみたいだよ?」
「大方お荷物でも庇ったんだろ。あのバカはそういうやつだ。だからこそ、あいつに提示する場は考えてある…昔はエリヤの過去に興味なんぞなかったが、存外使えそうだ」
ガタン、と白い男が床に寝転ぶ。
苛まれたように歪んだ表情を、腕で覆う。
「準備が大事になる。もう少し事態がデカくなったら、オレ様を起こせ。また痛み出したから寝る…あー…クソッ、頭もガンガンうるせぇ…右腕はずっと痛えし…いや右腕はもうねぇよ…何言ってんだボクは…」
ブレる言葉に、気付かぬまま。
◆
伽藍堂とは、私に相応しい言葉だ。
何となく産み出され、疎まれて、ずっと独りでいた。教えられたことも、過ごした時間も、みんな私を通り過ぎていって、意義という溜まり池は満たされない。
けれど、きっと今は違うと思う。
今の私の周りには、沢山の『未知』と『体験』がある。それが廃屋の群体だとしても、私にとっては初めて触れて、歩いて、広げられる世界だった。
「これが…スラム域…」
「とたとた先行くなシャラ」
「おぅっ」
シャラ、そう呼ばれたのは私の名前。
何処かに属する『苗字』がないから、私の誕生はあまり良くないのだと、なんとなく分かっている。
私の頭を腕を掴む手は、ハイバラさんのもの。
母以来、私の存在を肯定してくれた人。
そんな彼から、強めに掴まれたせいか、変な呻き声が出てしまったのがなんだか恥ずかしい。
「しっかしまぁ…変わってねェな、…や、人は前より減ったか。オイ、シャラ。オレの側から離れんな。死ぬより酷ェ目にあいたくねェんなら、服裾掴んでジッとしてろ」
「わかり、ました」
蘭善というこの国において、貧富の差は確固として存在する。広大かつ中枢である中央ではそれが顕著であり、スラム域は13にも渡り点在していた(4番目は焼失したが)。
そして、その全てが危険区域に指定されており、復帰支援もボランティアも追いついていないのが現状である。
当然、それを良しとしない者は多い。
一昔前には『掃除』が案として上がったこともあるが、人道的観点や大義名分の不成立、何より反対多数の声によってその案は永久に棄却された。
閑話休題。私とハイバラさんは、そのスラム域の一つに来ていた。ここが何番目の領域なのかは不明だが、ここにいる人達と彼には面識があるようだった。
スラム域には、構築の下地がある。
焼け落ちた第4スラム域が開発頓挫地区を土台としていたように、私と彼がいる此処は、廃棄された大型物流センターを基盤としているらしい。
大型建築物の中には町があった。
背の低い、粗雑な建築が並ぶ貧民窟。路傍には淀んだ目の老若男女が膝を抱えて座っている。道には空の注射器が落ちている。大気の匂いは、鉄と埃、そして色々だ。
「第6スラム域。オレが進化者だってバレてから、最初に根付いた所だ。麻薬から死体まで出揃った掃き溜めで、非合法の見本市みてェな有様ってな」
「……私は、恵まれていたのでしょうか」
彼の説明を聞いて、私はそう思った。
薄暗いこの町を歩いて、彼の服裾を掴んで歩いて、次々と目の当たりにするのは『酷い光景』だ。
クスリとやらに脳を壊された者が呻く。日が過ぎるのを呆然として待つ者が溜息を吐く。
…私の身なりは、あまりにも小綺麗だ。
それらを見た上での結論だった。
だけど、それを口にした瞬間、ハイバラさんは立ち止まって私の頭を強く掴む。
「…オマエ、本気で言ってんのか?」
「…少なくとも、私には屋根がありました。部屋がありました。そして服があって、微かでもお腹を満たせました。
だから、きっと私はまだ───おぅっ」
「不幸に一位も二位もねェよ馬鹿。オマエの辛さはオマエの辛さ。他と比べて自分の痛いって声を蔑ろにしてんじゃねェ。そういう馬鹿は大抵無理すんだよ、拳一発で終わらせやがったどこぞの前後不覚の奴とかなぁ!」
「おぅっ」
頭をギュッとされて、変な声が出る。
ほんの少しだけ恥ずかしい。
…同時に、きっとこの人は優しいが、過去はもっと優しい人だったのだろうと確信する。
そんなことを思っていると、スラムの奥の方から、若い男女の集団が現れる。皆一様に赤い仮面を被っていて、それを記号とした集団グループだということは見てとれた。
そのグループのリーダーらしき女性が、私とハイバラさんを見てから言う。
「まさかここまで堕ちたとはな…このロリコン」
「誓って手はだしてねェ」
「では何故、お前がこんな子どもを?」
これまでで、ハイバラさんが一番怖い顔をした。
「慈善事業だよ、何とかする」
「…そうか…いやまさかクソやろ…、いや失礼。生き汚…、違うな。姑息な…、これは失言か。度し難い汚物のお前が子どものために動くとは…明日は隕石か…」
「抑えきれてねェよな、本心が。罵倒の言葉と共にありありと滲み出てまくってんだよ殴るぞ」
「真実だろ?」
「撃ち殺されてェタイプの雉?」
ああ、友達とかではないのか。
ハイバラさんと、リーダーと思しき人の会話で、私は何となく察して、どこかほっとしていた。
……なるほど、私は彼に執着しているらしい。
「ここ最近の動きを教えてほしい、表裏問わずな。謝礼と言ったら何だが、路銀の幾らかを割いてやる」
「断る理由もない、のもう」
ハイバラさんが、リーダーの女性に布袋を渡すと、その女性は澱みなく語り始める。
多分、あの袋の中にはお金があるのだろう。
「表側の方だが、対策局が慌ただしい。人員の配置数が露骨に増えた。特に『地下』付近や、ライフラインの要所は抑えられているそうだ。
…このままいけば、手薄なところも出て来るだろう。それに乗じて、暴れ出すグループも幾つかあってもおかしくはない筈だ。まぁ、今のところ治安は安定してるよ」
ゆっくりと、赤い仮面の人達が動き出す。
私達を取り囲むような動きは明白で、ハイバラさんは私の服を掴んで側に引っ張ってきた。
…怖くなって、体が強張って、でも何処か安心する。
「裏側は…進化者達の小グループが決定的に二分化した。過激派と穏健派でな。それでいて『穏健派狩り』なんてものが起こり始めるらしい。
あとはある女が、進化者にとってひどく有用となり得るだとか、なり得ないだとか…」
赤い仮面の人達が、明確に構えた。
私達を狙っているのは明白で、ハイバラさんは「だろうな」って顔をして、呆れたように周りを見る。
飢えたように爛々とした瞳。
あの目は知っている。父の目だ。何度も私を───…わた、し、を……なんだったっ、け…?
「お前を殺せば金も、それも手に入る」
「俺にも金出んのかよ…ディランか、それともゴーグルの馬鹿か…ま、どのみちあんまり楽観出来ねェわけだが…オマエら、俺に勝てる気でいんのか? めでてェ頭してんな」
「それはこっちのセリフだがな。露骨なアキレス腱を庇いながら、あたしらに勝てると?」
「ギャハハ! コイツがアキレス腱!?」
「ぉぅっ」
何か記憶に引っかかる私を、ハイバラさんは引っ張って抱き寄せる。それがひどく心地いい。麻酔みたいで、ゆっくりと『怖い』と思った何かが消えていって、安心する。
「ほざいてな、ハンデにもならねェよ。
むしろカンフル剤ってな。ここでこいつ死なせたら、あのバカにも、あいつらにも、面目が立たねェんだよ」
彼は私を担ぐように抱いて、やっぱり不敵に笑ってくれた。
「だが情報どうもアリガトウ。おかげで外道仲間の横っ面を思い切り殴る算段が出来そうだ───だからテメェら安心して即刻自滅しな!
Tips:Q.好きなタイプは?
ブラス「明るくて、甘えられるやつ」
アマネ「優し過ぎて、甘えてくれる人」
ハイバラ「経験ねェよ。好きになった女がタイプ」
キュリア「恋愛とかよくわかんねぇしどうでもいい」
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