敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗)   作:苦い経験100%

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「ただいま会議中」「会議かなぁこれ」

 

 

 特異対策局は、後手に回っていた。

 

 暴走した進化者を捕縛し、沈静化し、事情を聴取し、先々に備える。その繰り返し。

 だが、局内の空気は確実に固くなりつつあった。

 大きな騒ぎが起きると、皆が察知していた。

 

 その数日中でブラスとアマネが上司からの命令でやっていたのは、第四スラムの復興事業。加えて日頃の訓練。

 つまりは見事なまでの肉体労働であった。

 僅かな期間だが、対策局はメディアを通じてこれを拡散。

 そしてその後、対策局局長は彼を参集した。

 

 特異対策局本部、上層部会議室。

 だだっ広いが、デスクや椅子が普通の事務用品であるという、威厳もクソもない部屋だ。

 此処に集められた人物は数名のみ。

 

 特異対策局現局長マツバ・マサムネ

 特異対策局副局長クリフ・サンダーズ

 対策局局員総主任クサナギ・カムイ

 対策局局員主任ヤサカニ・クビキ

 対策局E2班班長ヒヒガネ・クサビ

 同班班員フジワラ・アマネ

 同班班員ブラス・リッター

 

 本来であればこの会議室に入ることはまずない者達も参集されていた。とは言っても、その辺りのことは気にしていないのか、場の空気に険悪さはなかったのだが。

 ともかくその中の一人、ヒヒガネ・クサビが一枚の写真を出す。

 その写真に写っているのは女性だ。

 目が隠れるほど長い黒髪。その隙間からは、爛々と光る水色の瞳が覗いていた。

 

「───こいつにあったら、とにかく二人は逃げること」

 

 言われた二人、ブラスとアマネは頷く。

 アマネは出された写真を見ながら、クサビに問う。

 

「この人が、ここ最近の暴走事件の原因…ですか?」

「多分ね。本名はラガ・フォーティア…とは言っても、本人は既に苗字を消してるかな。鎮圧した進化者達からの話や、元々のマーク情報を纏めると、どうにもこの人が関わってる可能性が、今の所高い」

 

 神妙な顔をして、クサビは続けた。

 

「有する能力は前例あり…ああ、えっと、ラガの前にこの能力を持っていた人ね? 当時に命名された能力名は『他人食いの右(グラ・デクステラ)』。右手で触れた対象から任意のものを『奪って』それを自分のものにするに加えて、自身のものを『吐き出し』て与える。

 前例が発生したのは三十年前のエディン…外国だね。記録によるとその人は医者で、患者から病を奪って治してた。これを見るに、奪うものは割と融通が効くみたい」

「その医者の行方は?」

「エディンの処刑隊が二年前に殺害済み」

 

 会議室に気まずい沈黙が広がる。

 その沈黙を、マツバは咳払いで破った。

 

「まぁ、恐らくかなりの手練れだ。というか、ブラスくん的には面識あったりするかな?」

「いや全く、というか初見です」

「あれま、やっぱり他幹部の部下とはあんまり顔合わせたり、連携とか取らなかった感じかな」

「……最初の頃は子ども達保護したり、家族の無事の確約取るためにアイザックに談判したりするのに全ツッパで挨拶とかフルシカトしてました」

もしかして心臓とか針金で編んでる人?

 

 人質を取られてるとは思えない行動であった。もっと過去を漁ったらドンドンやばいエピソードが出るのではなかろうか。ワンナイト以上の厄ネタ無いように、と祈るマツバは、眉間を揉みながら話を続けた。

 

「…んまぁ、…その。なんだ。とにかく、用心はするように。ああ、他の人達には前の会議の時に通達しといたから、連絡を回す必要はないよ」

「わかりました…にしても、記憶を取る、ですか…」

「…怖いね…ちょっと」

 

 渡された資料を見て、ブラスとアマネが呟く。

 そこに記されているのは、ラガ・フォーティアが起こしたと推測される『暴走』の発生経緯だ。

 記憶を奪うことで、持っている感情と齟齬を発生させ、精神のバランスを崩すことで暴走した進化者は、今も精神が不安定なままだと記録されていた。

 そしてその殆どが、その日暮らしを第一としてテロ活動とは無縁だった者だという。

 

 アマネがブラスの服裾を掴む。

 その手は僅かに震えていた。咄嗟に少年は彼女の手を握って、自分の背中に隠す。

 それに気づいていた金髪の女性───ヤサカニは、二人の若者に言う。

 

「意外ね、若いし『奪えるものなら奪ってみろ』みたいなこと言うと思っていたのに」

「ボクだけの心の持ちようだけじゃどうにもならないことなんて、ほんっっっとうにいっぱいありましたし…」

「あれ、何でだろう。耳と胸が痛い」

「やーい尻に敷かれてやんの、いったぁ!?」

 

 えらく実感のこもった声に、ブラスはダメージを負った。囃し立てるクサビをヤサカニは引っ叩いた。

 悪ガキのような一連の中、アマネが手を上げる。

 マツバは「どうぞ」と質問を許可する。

 続いた発言は、ぶっ飛んでいた。

 

「その、一つお聞きしたいんですけど…、仮にボクが何か記憶とか奪われたりしたとするじゃないですか…その場合、頭を一回壊して能力で治したら、頭の状態がリセットとかってされたり…しないですかね?

あんた何言ってんだ?あんた何言ってんだ!?!?

「ただでさえお前らをこんな形で戦わせてるのに、破綻をさらに重ねてどうする!?戦時中のクソガバ裁判じゃないんだぞ!?

問題発言を重ねないでもらえるかなぁクリフぅ!?

あらやだ修羅の子じゃない、こっわ

「おなかすいたな」

「「「誰だ今の!?」」」

 

 にわかに会議室は大騒ぎだ。

 ブラスに至っては余程動揺したのか、アマネのチョーカーを掴み一気に距離を詰めて激怒と困惑が混ざった顔を見せていた。

 アマネは慌てて両手を振りながら弁明する。

 

「ほ、本当にやるわけじゃ無いよ!? ただ、治らなかった場合も想定して…暴走したら大変だし、すぐ治せるなら越したことはないかなって…」

「話せる本音はそっちね。隠してる方の本音は?」

大事な人を奪われてるボクの脳を許せないよねぇ!!

「一般家庭出身だよなあんた!?何処で何があった!?」

「そりゃあんたとのワンナイト…いっだぃ!?」

「ぐぼぉはぁっ!!?」

 

 弁明がクサビの誘導によって、一秒も待たずに崩れ去った瞬間である。真夏の夜の夢より脆すぎる。ちなみに彼女はそのまま困惑するブラスを半ばヤケクソで揶揄って吐血させたが、やっぱりヤサカニにひっ叩かれた。

 

 そして大騒ぎする女性陣(一名は男だが)を他所に、マツバ、クリフ、クサナギの三名は考察に思考を走らせる。

 いの一番に懸念を示したのはマツバだ。

 

「…まぁ一応、こういう『奪う』能力は、能力者の意識喪失で解除されたりするけど…絶対では無いからね」

「だとしても解決方法が蛮族(パワー)すぎる…インフレしたカードゲームか?」

「それはそう。でも一考の余地は大いにある。倫理の問題はともかくね。クサナギ、どう思う?」

 

 差し当たり、マツバはクサナギに意見を募る。

 彼の知る限り、この中で最も経験と知識を持つのは、名前を呼ばれた黒髪の彼以外にいなかった。

 クサナギは顎に手をやり、暫し考えてから返答する。

 

 

「───…可能性はある、としか」

 

 

 その一言に、会議室の全員が目を剥き、目を向けた。半ば「そこは嘘でも否定しろよ」と言った意思も若干あったが、クサナギは何処か吹く風と言ったまま。

 

「俺は何人もの進化者と戦ってきた。

 当然、傷を治す進化者とも」

 

「思うに───ものによるが治す力が認識する『傷』の範囲は非常に広い。中には切った髪はおろか、整形した顔を治しては整形を繰り返して追跡を逃れるものもいた」

 

 莫大な経験から来る、予知じみた直感。

 経験則。因果による過程を無視し、単に見聞きし、体験した蓄積から成立する法則。

 クサナギを『最も強いもの』としてきたのはそれだ。

 彼は今も昔も、単なる経験だけで文武を極めている。

 

「『記憶が奪われた脳』を壊して治すとする。結果として考えられるのは『奪われた後の脳』になるか、それとも『完全に無傷な脳』になるか、のいずれかだ」

「あー…そう、か…『治す』なら、下手したら記憶の穴も『怪我』として扱われてもおかしく無いのか…損失した皮膚を自己修復するみたいに…いやにしたって、治したいから脳に自らキズを作るなんて覚悟ガンギマリイカれな子は中々いないと思うよ…? 南端の蛮族じゃあるまいし」

 

 クサナギの推論を認めつつも、マツバは暗に『やるなよ!?絶対やるなよ!?』と言っていた。

 ブラスはブラスで、アマネの頬を引っ張りながら馬鹿正直に『やるな』と言う。

 

「やったら死ぬほど怒るし、その日一日はダブスタグラヴィティって呼ぶからな…!つーか記憶無くしたらまたあんたのこと好きだって言うからその辺り心配すんな!!」

「ふゃい…あの、…いひゃいへふ…へへぇ」

「あ、敷かれるのが逆転した。珍しいね」

「ぐぼろぁっ!?」

「今のは違くない!?幾ら何でもウィークポイント広すぎじゃない全身知覚過敏!?」

 

 ニヤけながらつねられるアマネを見て、クサビがぽろっと溢した言葉に吐血するブラス。

 会議室に染みが増える中、クサビが叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 大騒ぎする会議の後、とりあえず皆でお茶を啜る。

 一息入れたことで全員が落ち着く。

 ほっとした空気を見計らってから、マツバはブラスとアマネ、二人の若者に問う。

 

「…それにしても、本当に良かったのかい?」

「やるだけやりますよ、守りたいし生きたいんで」

「ブラスが誰かを頼った第一歩ですよ!大丈夫です!!」

「二人がいいなら良いけど…はぁ…」

 

 喜色満面が二人の顔に広がる。

 局長は肩を落として苦く笑った。

 

「こっちが提案しといて何だけど本当にこれもう、アレだよね。僕これ後代に『年少者を利用して勝ったクソ卑劣漢』って言われるよね」

「ヒレカツか、駅前の洋食屋のが美味だった」

「お腹すいたのクサナギ? も少し僕に興味持と?」

「元から権力闘争を横っ面から殴って勝手に一人で汚れて成り上がった冷血人間じゃない、今更よ今更」

「ヤサカニさん? 僕でも泣くよ?」

 

 ぞんざいな扱いをされる局長である。

 信頼されているんだか、いないんだかよく分からない扱いだ。ただ、副局長も他の部下も止めない辺り、日時茶飯事ではあるのだろう。

 クリフは呆れたように笑いながら話を続けていく。

 

「しかしまぁ、やらかすもんだ。

 ブラスの顔をあえてメディアを通じて出すとはな」

「彼が元幹部であること、そしてそもそもスラム時代の暴れ具合を鑑みた苦肉の策だよ。

 ラメントは部下の粛清もままならないねぇって挑発しつつ、復興事業着手アピールも兼ねて一石二鳥」

 

 マツバが取り出したタブレット端末には、ニュースサイトが表示されている。

 掲載されている一面には『第四スラム、特異対策局主導による復興事業開始』と大きく書かれており、写真にはツナギにヘルメットという土木建築スタイルのブラスと、その他多くの作業員の姿があった。

 作業員の中には、見知った顔もいる。

 

「勿論、それだけじゃない。情報戦が最も得意な人…今回はレオネさんとユカタンくんに『真偽の混じった情報』を流して貰えば、仕込みは完了」

 

「武力のある拠り所が〝ワンナイトかました幹部がいる上にそいつが裏切っても殺せてないし、なんなら他の幹部が同類焼いたり暴走させたりしてるよ!〟って一気に知れ渡る。

 元からあった『大したことないんじゃ』って疑念がいやでも加速して植え付く…利用して良いって許可取るの大変だったよ…何回隔離場に足を運んだことか!」

 

 うがあ!とマツバが吠えるが、憂鬱なことを思い出したらしい。次の瞬間には萎びていき、へなへなと力なく椅子に座りデスクに頭を突っ伏す。

 

「…広報担当の給料上げとかないとね。結構無茶なこと頼んじゃったし、今も電話が色々とすごいみたいだから…ああー! 記者会見開くのやだー!! めんどーい! マスコミ大っ嫌いなんだよ僕!!」

「ここ最近のネットニュースも大騒ですよ。『第四スラム跡着工開始! 特異対策局の専横か!?』とか『復興後に住民は住めるのか?』とか、あたしもう食傷気味で…」

「何もかんも責任取りたく無くて書類を通した公安室のジジイどもが悪い、ケケケ」

 

 悪い笑顔をする大人であった。

 それから遠ざけるように、クリフはブラスとアマネに全く違う話題を振っていた。

 

「さて、報酬の話だな。新しい戸籍二人分とかどうだ? それと、任意の住所とかも…何処に住みたい? 海沿いと山沿いと、あとど田舎はやめておけ。地方都市が良い」

「気が早いよ、クリフ。お父さんモード出てる」

 

 それもすぐに嗜められていたが。

 ただ、報酬の話は『まだ早い』だけであって、否定していない辺り相応の対価を支払う予定ではあるらしい。

 

 マツバは、蒼白色の瞳を見据える。

 彼が初めに思ったのは『安定した』という印象。同時に、以前よりブラスの存在を大きく感じてもいる。

 錯覚ではない。確信のまま大人は唇で弧を描く。

 安堵のまま、彼は問うた。

 

「どうだったかな、ご家族と一緒に働くのは」

「最高でした!!」

「それは結構! じゃあ守るために頑張ろうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◆

 

 

 

 

 ───ラメント、簡易拠点。

 

 何処ぞの廃倉庫を、いつの間にか好き勝手に改造していたラガや、キュリア部下達はここ数日間の中で明確に距離をとっている存在があった。

 それは倉庫の中で叫ぶ隻腕の男。

 

「っっだあ何遍見ても腹立つぅああああ!! 舐めてやがる舐めてやがる舐めてやがるなあの前後不覚のクソ野郎!!!!」

 

 幹部その人、キュリア・リズットである。

 

「釣られすぎでウケるんですけど。

 沸点低いねぇナトリウムだねぇ」

「水と油ってかうまいこと言ってんじゃねぇよ殺すぞ」

「あー…、だめだこりゃ。頭に血が上っちゃってる」

 

 新聞を放りながら叫ぶ若白髪。彼が投げたそれの一面には、進化者によって消失したスラムの復興事業が飾られている。写真の中には、蒼白色の髪をした少年も。

 更にはこれは街頭のテレビにも流されている。ものの見事に挑発と受け取ったキュリアは荒れに荒れており、部下も『八つ当たりは勘弁』と距離を取っていた。

 

 〝───まー…それでも短絡的に動かない辺り、腐っても?ガキでも?纏め役なんだろうけどさ〟

 

 ラガは投げ捨てられた新聞を拾う。

 そこにいるのはやはり蒼白色の少年、ブラス・リッターだ。だが以前見た写真とは何処か違うなと、ラガは本能的に感じ取っている。

 

 〝うーん、こっちは安定しちゃったかな。参ったなぁ、こういう精神が1番崩しにくいんだけど…まぁ、別に当人に拘らなくても良いか〟

 

 思考を巡らせる彼女だったが、その横で癇癪を終えたキュリアがボソリと呟く。

 先の知性も品性もない叫び声から一転し、理性的な声だった。

 

「…後手に回った。見事に士気を乱された。もうダメだ、どうにもならねぇ。これ以上は上がらねぇし、これ以上は捕まらねぇ。

 だからといって沈黙してたらドンドン人が離れるし、飽きるほど喧嘩を売られる……ボスには面目立たねぇな…もっとマジメに組織ってモンを知るべきだったか?」

 

 むくり、と起き上がる彼の目は、据わっていた。

 そこにある怒りは、冷えたものだ。罵倒も雑言も、吐くだけ無駄だと察した怒りの臨界点。もう殺すから、奪うから。言葉を吐く知性を捨てた、乾いた薪も同然の心。

 

 ラガの爛々とした瞳は、キュリアを見る。

 彼女の目にあるのは興味だ。だがその分類は碌なものではない。ゲテモノに走るような、怖いもの見たさにも似た、ただ知りたいから・見たいから、そんな欲求。

 

「前から思ってだんけどさぁー…」

 

 嘘だ、この興味は間違いなく今生まれた。

 

「そんなにはしゃいでさ、見せびらかすみたいに力を使おうとしてさ、ボスにワンコみたいに着いてきてさ、───あんたは誰に認められたかったの?」

 

 その指摘に、キュリアは肯定を返さない。

 否、否定も返すことはない。

 彼は明確に、返答を避けた。

 

「どの道、そろそろ事は起こすつもりだったんだ。守りは広がった。空気を入れすぎた風船みたいなもんだ。序盤から乱されたが、下準備は出来てる…もうすぐだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「───とか、考えてんだろうなあのイカれ野郎。クソみてェなことを起こすのに躊躇ねェし」

 

 何処かの路地裏で、褪せた灰色の髪をした男が言った。

 彼の側には、背丈の小さな少女と、もう一人。

 

「………で、どうしろって?」

 

 それは、アンニュイな風体の刑事だった。

 

 

 

 





Tips:マツバ局長のコンセプトは「フラグ管理失敗したノベルゲー主人公」みたいな感じ。ビターエンド系の男。ちなみにこの人は割と戦えたりする(強さは下から数えたほうが早い)。

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