敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗) 作:苦い経験100%
一万…?(冷や汗)
感謝の念が絶えない…ありがとうございます…
とりあえず今動かしたい子は出し切ったぜい
状況の変化は目まぐるしかった。
窓から大きな光がパッと弾けたと思ったら、大勢の進化者が半ばヤケクソ気味に病院に突撃して来た。
外にいた人達は、そっちの戦闘に。
そして中にいたボクらE班は、外の騒ぎを囮に侵入してきた進化者達との戦闘になる。
「うおおおお!!」
「壊せ壊せ壊せ!!」
病院内に入ってきた進化者達は、皆揃って黒い外套を着ていた。夜に紛れ込むために用意したのだろう。
それが院内の白い空間では、真逆に働く。
異様に目立つ、黒いはためき。
病室に攻撃しようとする人、設備を破壊しようとする人、何処かに行く人、どれも見過ごすことはできない。
…けれど、彼らの顔はフードで見えない。
ボクはなぜか、それが凄く恐ろしいと感じていた。
「───ぼさっとするな、フジワラ!!」
「ご、ごめん!」
白い廊下に氷が走る。それはあっという間に襲撃者の体を包み、戦闘不能にする。
その起点は、ハルニレくんの脚だ。
…彼の言う通りだ。ボクらは西館を任されている。ぼさっとしていたら、被害が出てしまう。
恐怖で狭まる喉をこじ開ける。攻撃的な感情を込めて歌う。緑色の衝撃が、襲撃者を打ちのめしていく。
「マージで
「よそ見してる場合かバカ!味方だ!」
「わかっちゃいるん、ですけ、どぉ!!」
…背中の方から聞こえる、他の班からの声。
それが少し、耳に痛い。
ボクは床に倒れた黒い外套の人を見る。
…同じ進化者が気絶している。ボクがやったことだというのが、とても信じ難い。
ほんの少し前まで、進路に悩んでいただけだったのに。
「ッ! Aa───!!」
「ぐはあっ!?」
だけど、ぼうっとしてたら死んでしまう。
いつの間にか、そんな場にいる。
気づいたら、随分遠くまで来ていた。
「がああっ!?」
「…鎮圧完了、やけに少ないな」
最後の1人が氷結して動けなくなる。
ボクらのいる範囲には、もう動ける侵入者はいない。全て鎮圧されて拘束が済んでいた。
ハルニレくんは納得いかなそうな顔をしている。少ない、と思ったのはボクも同じだ。
…こっちはただの陽動だったのだろうか?
「───おい、クズ」
「が、ぁああ!!」
ボクの思考を、悲鳴が寸断する。
ハルニレくんが、まだ気絶していない、倒れていた進化者の髪を掴んでいた。
かと思えば、彼はその進化者の手を強く踏みつける。唐突なことに、ボクも周りの人も反応が遅れる。
「今回の目的はなんだ、答えろ」
「だ、誰が言うかよ…お前らみたいな、
「爪を全部ここで剥いでも良いんだぞ、クズ」
「……!」
「…おい、ダンマリか? さも高尚なものを抱えていますとでも言いたげな態度だな、その何も考えてなそうな軽い頭を今ここで踏み砕いてやろうか!? ああ!?」
爪先が頭を思い切り蹴飛ばす。
口を切ったのか、血が床に散らばる。
蹴られた人がのたうち回る。
それでもまだ蹴るつもりのか、彼は足を思い切り振り上げようとしていて、ボクはゾッとした。
こんなの尋問でも拷問でもない、ただの私刑だ。
慌ててハルニレくんの両肩を掴んで、倒れていた人から必死に引き離す。
「お、落ち着きなって!!」
「離せ何も知らないグズが、お前には関係のないことだ!! こいつらみたいな馬鹿がいるから俺達は…!」
「いいや、関係ない行動をしてるのは君だ。
おい何してる拘束した進化者の確認急げ! 残りは討ち漏らしがいないかチェック!! さっさと散れ!!」
…次に慌てて止めに入ってくれたのは、さっきはボク達を「味方」と言った他班の人だった。
彼はボクらを見ていた周りの人達に指示を出し終えれば、ハルニレくんを見てため息を吐く。
そして、極めて事務的な声色で言った。
「…イサカ主任と合流して、頭を冷やしなさい。君のような子の面倒を見れる程、我々は彼のように人間も仕事もできてないんだ」
「…ッ!」
…邪魔だからどこかに行け。
そう言われたと思ったのか、ハルニレくんは俯く。
彼から鳴る歯軋りの音が、とても心に痛かった。
「…い、行こう?」
「…ああ」
ボクはどうしたらいいか分からなかった。
だから、とりあえず指示に従い合流をすると決めた。頷いてくれるかは不安だったけれど、予想外にも彼は頷いて、ボクの先を走り出す。
ボクは慌てて彼について行く。
道中も奇襲を警戒しながら進む…けれど、どうしても考えてしまうことが、一つだけある。
さっきの、花火みたいな大きな光。
どうしても思い出すのは、7日前のこと。
ブラスとクサビ主任が言っていた言葉。
〝ああ、言ってなかったっけ───花火工場だよ。この時期は来年の準備で少し忙しいくらい〟
〝でもその背後にある何かに邪魔されたり、壊されたりする可能性は滅茶苦茶にある。
だから絶対にそこだけは、しっかり抑えといて〟
…胸騒ぎが、思い出したかのように起こる。目を逸らすなと言わんばかりのそれを、ボクは偶然だと思いたくなる…走るスピードを速くした。関係ないと、思考を寸断したいと、そう思ったから。
なにより、ハルニレくんのスピードに置いていかれそうだったし………あれ、イサカ主任がいるのってそっちだったっけ…?
◆
半ば飛び込むようにガラス窓を割って侵入した院内は、はっきり言って不気味の一言に尽きる。
真っ暗な病院って大体そんなもんか。
そういやブラスが初登場したのもこのフロアだったっけ? そんなことを思ってぼうっとしてたら、キュリアに頭をひったたかれた。
「呆けてる場合か戦犯馬鹿1号!早く行くぞ!!」
「わかりました奇襲台無しにした阿呆の2号!!」
「もうここで殺そっかなぁ!? この作戦終わったらにしようと思ったけどマジ今殺そっかなぁ!? 大分我慢してるよなオレ様ぁ!!」
破茶滅茶にブチギレてて笑う。さて病院襲撃の後で、発生する重要なイベントは二つ。
一つは、院内データベースから回収する『とあるデータ』をアイザックが閲覧すること。
もう一つは、並行して行われている『第四隔離場』襲撃による、危険度の高い進化者の脱走。
結果的にどちらも阻止は出来ない。起きた問題に対処するので精一杯だ。作中でもそうだったし。
本当なら、今この病院内でキュリアを殺すなり気絶させるなりして、作戦を失敗にしたい。
けれど、そうなった場合いくつか弊害も発生してしまう恐れがある。
一つはシンプルに俺が裏切り者と疑われること。これはもう最悪だ。シンプルに家族達に被害が行く可能性大だ。
もう一つはその『データ』が盗まれないと、後々困ることになる───端的に言うと主人公の覚醒が恐らく不可能、ないし遅れる可能性が大きい。
なので、今回やる嫌がらせはシンプル。
本来は奇襲で大きな被害が出た病院襲撃だが、その奇襲を台無しにして被害自体を抑えることが目標だ。
医療的設備は概ね無事、院内で保護されていた僅かな患者も無事、そんな具合に。
そもそも内部に入れたやつ少ないしね。
…少なくとも今のところはなぁ!
なんてことを考えながら走っていると、目の前に分厚いシャッターが一枚、壁のように俺達を阻んでくる。
院内の守りの一つだ。キュリアはそれをみた途端、走るスピードを落として俺の方を前へと走らせた。適材適所というやつだ。俺も右手を構えて走る。
「お前の出番だ!」
「はいはい分かってますよ!」
走りながら、俺は強く『死と病』を意識する。スラム域で過ごせば何度も味わうこと。
だから数秒と待たず、白く、赤く、黒く、青く色を変えていく煙が大鎌を形成し、俺の手に握られた。
この鎌で一度切りつけたものは『殺される』。
これが与える『死』は有機も無機も問わない。
銃は弾丸を放てなくなり、剣はその切れ味を失う。ちなみに食材を切ると味がなくなる。
掠めればその対象を病魔が支配する。
銃は
「そぉらぁ!」
そんな物騒な大鎌を横一線に振る。
一文字の傷が、分厚い金属の板に付いた。
その傷を起点に、シャッターはバラバラになる。
硬度や切れ味など関係ない。
切りつければそれでおしまい。
死んでバラバラになった鉄の板を踏み越えながら、俺とキュリアはデータベースを目指してひた走る。
あ、鎌は危ないから仕舞った。
「使い手が歴史的バカであることが惜しい力だ!」
「これでも勉学はできる方だったんですが!?」
「なら足りないのは常識的な思考回路か!」
「テロリストが常識を問うな!! さも自分には常識があるみたいな顔しやがって!!」
「オマエには言われたくねぇが!?」
騒ぎながら俺達は走る。とにかく急ぐ。陽動が仕事をしているうちに、任された仕事を終わらせなければ。
データベース付近の見張りを蹴り飛ばし、殴り倒し、とにかく前へ。鎌を使えよと言う指摘に、狭い廊下で使ったら巻き添えになりますが、と反論もしながら急ぐ。
「クソッ!止まらねえ!!」
「白髪男の方はともかく、あのフードの男はなんだ!? さっきからステゴロばっかじゃないか!」
「スラム育ちだろう多分!喧嘩殺法が似てっぐふ!?」
「オダ副主任がやられた!応援要請急げ!!」
…特異対策局員は、一律して銃を持つ。
それにプラスアルファして各々が得意な武器を。
彼らが使うその武器は特殊なものだ。温度耐性は高く、絶縁保護処理もされていて、硬く丈夫。
そして何より───ギミックが仕込まれている。
局員の一人が大盾を地面に突き立てる。
彼が「広がれ!」と叫ぶと、その盾から蜘蛛の巣のように黒い網が四方八方に広がる。
こんな感じの
「収束!」
「っらぁ!!」
俺とキュリアを押さえ込もうとする網を切る。
網はその途端に「死に」、その動きを止めた。
…ギミックには多種多様な種類があって、階級が高いやつほど「それもう仕掛けの範疇外では?」みたいなギミックを持つ。
…いや、最強の人はギミック無しだったな…。
「があっ!?」
…また一人、キュリアのレーザーに貫かれた。これはもう、どうしようもない。
無理なものは無理だ、これは抱え込めない。
「……ああクソッ!」
ただ選択すれば報いが来る。そんなことは知っている。気づいたら手遅れなんてよくあることだ。
だから…一瞬でも酒が頭をよぎった自分を殺したくて堪らなくなる!
「…データベースだ!見えてきた!」
「よし!さっさと終わらせるぞ!」
───第四隔離場付近
アイザック・グローリーは紛れもなく強者だ。
彼に多勢に無勢という言葉は適用されない。
彼は数をものともしない。
そういう力が、彼にはあるのだから。
さりとて、強い個を当てれば良いわけでもない。
彼は生半可な戦士では止められない。
彼がいる、それだけで殆どの趨勢は決まる。ラメントが極めて優位になる。だから彼のことは、ただの能力者というより、そういった兵器として捉えるのが正解だ。
そんな彼を止められるのは───ほんの一握り。
そして、その一握りが、今ここにいた。
「なんで『最強』がピンポイントで張ってんだ?」
「…いや『最強』ではないだろう」
「酷い謙遜してやるなよ、クサナギ・カムイ」
辺り一面には爆炎が上がる。道路は所々が粉々になり、切り刻んだような跡も無数にある。
そして横倒しになった車から吐かれた炎は、夜を朧げに照らしていた。
まるで炎と廃材で出来た即興の闘技場だ。
剣闘士は二人。一人は緑の髪と蛇のような目を持つ進化者。機能性を第一とした装いは、この場に適したもの。
もう一人は、一対の武装を両手に握る非能力者。柔和そうな顔立ちを持つ、黒髪の彼の装いは、スーツ一枚のみのようにも見える。
「いいや、最強ではない。現に今、君の仲間に抜かれた。
そして、この時点で自分の仕事は、隔離場に向かおうとする君を抑え続けることに変わった」
「その時点で戦果大だ、喜べよ」
アイザックの手で、紫電と炎が踊る。
万人が驚くであろうそれを『最強』は意に介さず、両手に握る武装───短い直剣のような形状をしている鈍器───異国では「鐧」と呼ばれるそれを構え直す。
「…君は、勝利の女神を信じるか?」
「ゲン担ぎには頼らねえ主義でね」
短い問答、交わされた言葉はそれだけだった。
「そうか。では、今から君を殴る」
「こいよ、抑えられてやるぜ
この現場を、ある者が見たらこう言うだろう。
ジャックポットにも程がある、と。