敵幹部でも主人公見たらテンションあがる…あれ?(冷や汗)   作:苦い経験100%

8 / 61
お気に入り一万…?
一万…?(冷や汗)
感謝の念が絶えない…ありがとうございます…
とりあえず今動かしたい子は出し切ったぜい


獅子身中の虫がデカすぎる

 

 状況の変化は目まぐるしかった。

 窓から大きな光がパッと弾けたと思ったら、大勢の進化者が半ばヤケクソ気味に病院に突撃して来た。

 外にいた人達は、そっちの戦闘に。

 そして中にいたボクらE班は、外の騒ぎを囮に侵入してきた進化者達との戦闘になる。

 

「うおおおお!!」

「壊せ壊せ壊せ!!」

 

 病院内に入ってきた進化者達は、皆揃って黒い外套を着ていた。夜に紛れ込むために用意したのだろう。

 それが院内の白い空間では、真逆に働く。

 異様に目立つ、黒いはためき。

 病室に攻撃しようとする人、設備を破壊しようとする人、何処かに行く人、どれも見過ごすことはできない。

 …けれど、彼らの顔はフードで見えない。

 ボクはなぜか、それが凄く恐ろしいと感じていた。

 

「───ぼさっとするな、フジワラ!!」

「ご、ごめん!」

 

 白い廊下に氷が走る。それはあっという間に襲撃者の体を包み、戦闘不能にする。

 その起点は、ハルニレくんの脚だ。

 立ち止まる氷槍(ペス・ティミドゥス)。足を起点に、氷を発生させる力だったっけ。

 

 …彼の言う通りだ。ボクらは西館を任されている。ぼさっとしていたら、被害が出てしまう。

 恐怖で狭まる喉をこじ開ける。攻撃的な感情を込めて歌う。緑色の衝撃が、襲撃者を打ちのめしていく。

 

「マージで進化者(エヴォーカー)なんす、ねぇ!E班って!」

「よそ見してる場合かバカ!味方だ!」

「わかっちゃいるん、ですけ、どぉ!!」

 

 …背中の方から聞こえる、他の班からの声。

 それが少し、耳に痛い。

 ボクは床に倒れた黒い外套の人を見る。

 …同じ進化者が気絶している。ボクがやったことだというのが、とても信じ難い。

 ほんの少し前まで、進路に悩んでいただけだったのに。

 

「ッ! Aa───!!」

「ぐはあっ!?」

 

 だけど、ぼうっとしてたら死んでしまう。

 いつの間にか、そんな場にいる。

 気づいたら、随分遠くまで来ていた。

 

「がああっ!?」

「…鎮圧完了、やけに少ないな」

 

 最後の1人が氷結して動けなくなる。

 ボクらのいる範囲には、もう動ける侵入者はいない。全て鎮圧されて拘束が済んでいた。

 ハルニレくんは納得いかなそうな顔をしている。少ない、と思ったのはボクも同じだ。

 …こっちはただの陽動だったのだろうか?

 

「───おい、クズ」

「が、ぁああ!!」

 

 ボクの思考を、悲鳴が寸断する。

 ハルニレくんが、まだ気絶していない、倒れていた進化者の髪を掴んでいた。

 かと思えば、彼はその進化者の手を強く踏みつける。唐突なことに、ボクも周りの人も反応が遅れる。

 

「今回の目的はなんだ、答えろ」

「だ、誰が言うかよ…お前らみたいな、非能力者(オールド)に尻尾振って───ぎ、いぁああ!? ゆ、指が…!?」

「爪を全部ここで剥いでも良いんだぞ、クズ」

「……!」

「…おい、ダンマリか? さも高尚なものを抱えていますとでも言いたげな態度だな、その何も考えてなそうな軽い頭を今ここで踏み砕いてやろうか!? ああ!?」

 

 爪先が頭を思い切り蹴飛ばす。

 口を切ったのか、血が床に散らばる。

 蹴られた人がのたうち回る。

 それでもまだ蹴るつもりのか、彼は足を思い切り振り上げようとしていて、ボクはゾッとした。

 こんなの尋問でも拷問でもない、ただの私刑だ。

 慌ててハルニレくんの両肩を掴んで、倒れていた人から必死に引き離す。

 

「お、落ち着きなって!!」

「離せ何も知らないグズが、お前には関係のないことだ!! こいつらみたいな馬鹿がいるから俺達は…!」

「いいや、関係ない行動をしてるのは君だ。

 おい何してる拘束した進化者の確認急げ! 残りは討ち漏らしがいないかチェック!! さっさと散れ!!」

 

 …次に慌てて止めに入ってくれたのは、さっきはボク達を「味方」と言った他班の人だった。

 彼はボクらを見ていた周りの人達に指示を出し終えれば、ハルニレくんを見てため息を吐く。

 そして、極めて事務的な声色で言った。

 

「…イサカ主任と合流して、頭を冷やしなさい。君のような子の面倒を見れる程、我々は彼のように人間も仕事もできてないんだ」

「…ッ!」

 

 …邪魔だからどこかに行け。

 そう言われたと思ったのか、ハルニレくんは俯く。

 彼から鳴る歯軋りの音が、とても心に痛かった。

 

「…い、行こう?」

「…ああ」

 

 ボクはどうしたらいいか分からなかった。

 だから、とりあえず指示に従い合流をすると決めた。頷いてくれるかは不安だったけれど、予想外にも彼は頷いて、ボクの先を走り出す。

 

 ボクは慌てて彼について行く。

 道中も奇襲を警戒しながら進む…けれど、どうしても考えてしまうことが、一つだけある。

 

 さっきの、花火みたいな大きな光。

 どうしても思い出すのは、7日前のこと。

 ブラスとクサビ主任が言っていた言葉。

 

 〝ああ、言ってなかったっけ───花火工場だよ。この時期は来年の準備で少し忙しいくらい〟

 〝でもその背後にある何かに邪魔されたり、壊されたりする可能性は滅茶苦茶にある。

 だから絶対にそこだけは、しっかり抑えといて〟

 

 …胸騒ぎが、思い出したかのように起こる。目を逸らすなと言わんばかりのそれを、ボクは偶然だと思いたくなる…走るスピードを速くした。関係ないと、思考を寸断したいと、そう思ったから。

 なにより、ハルニレくんのスピードに置いていかれそうだったし………あれ、イサカ主任がいるのってそっちだったっけ…?

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 半ば飛び込むようにガラス窓を割って侵入した院内は、はっきり言って不気味の一言に尽きる。

 真っ暗な病院って大体そんなもんか。

 そういやブラスが初登場したのもこのフロアだったっけ? そんなことを思ってぼうっとしてたら、キュリアに頭をひったたかれた。

 

「呆けてる場合か戦犯馬鹿1号!早く行くぞ!!」

「わかりました奇襲台無しにした阿呆の2号!!」

「もうここで殺そっかなぁ!? この作戦終わったらにしようと思ったけどマジ今殺そっかなぁ!? 大分我慢してるよなオレ様ぁ!!」

 

 破茶滅茶にブチギレてて笑う。さて病院襲撃の後で、発生する重要なイベントは二つ。

 

 一つは、院内データベースから回収する『とあるデータ』をアイザックが閲覧すること。

 もう一つは、並行して行われている『第四隔離場』襲撃による、危険度の高い進化者の脱走。

 

 結果的にどちらも阻止は出来ない。起きた問題に対処するので精一杯だ。作中でもそうだったし。

 本当なら、今この病院内でキュリアを殺すなり気絶させるなりして、作戦を失敗にしたい。

 けれど、そうなった場合いくつか弊害も発生してしまう恐れがある。

 

 一つはシンプルに俺が裏切り者と疑われること。これはもう最悪だ。シンプルに家族達に被害が行く可能性大だ。

 もう一つはその『データ』が盗まれないと、後々困ることになる───端的に言うと主人公の覚醒が恐らく不可能、ないし遅れる可能性が大きい。

 

 なので、今回やる嫌がらせはシンプル。

 本来は奇襲で大きな被害が出た病院襲撃だが、その奇襲を台無しにして被害自体を抑えることが目標だ。

 医療的設備は概ね無事、院内で保護されていた僅かな患者も無事、そんな具合に。

 そもそも内部に入れたやつ少ないしね。

 …少なくとも今のところはなぁ!

 

 なんてことを考えながら走っていると、目の前に分厚いシャッターが一枚、壁のように俺達を阻んでくる。

 院内の守りの一つだ。キュリアはそれをみた途端、走るスピードを落として俺の方を前へと走らせた。適材適所というやつだ。俺も右手を構えて走る。

 

「お前の出番だ!」

「はいはい分かってますよ!」

 

 走りながら、俺は強く『死と病』を意識する。スラム域で過ごせば何度も味わうこと。

 だから数秒と待たず、白く、赤く、黒く、青く色を変えていく煙が大鎌を形成し、俺の手に握られた。

 

 青褪めた大鎌(ペイル・ファルクス)

 この鎌で一度切りつけたものは『殺される』。

 これが与える『死』は有機も無機も問わない。

 銃は弾丸を放てなくなり、剣はその切れ味を失う。ちなみに食材を切ると味がなくなる。

 掠めればその対象を病魔が支配する。

 銃は弾詰まり(ジャム)のみを起こし、剣は瞬く間に錆びつく。ちなみに食材を掠めるとお手軽腹下しになるしとんでもねぇ味になる。

 

「そぉらぁ!」

 

 そんな物騒な大鎌を横一線に振る。

 一文字の傷が、分厚い金属の板に付いた。

 その傷を起点に、シャッターはバラバラになる。

 

 硬度や切れ味など関係ない。

 切りつければそれでおしまい。

 死んでバラバラになった鉄の板を踏み越えながら、俺とキュリアはデータベースを目指してひた走る。

 あ、鎌は危ないから仕舞った。

 

「使い手が歴史的バカであることが惜しい力だ!」

「これでも勉学はできる方だったんですが!?」

「なら足りないのは常識的な思考回路か!」

「テロリストが常識を問うな!! さも自分には常識があるみたいな顔しやがって!!」

「オマエには言われたくねぇが!?」

 

 騒ぎながら俺達は走る。とにかく急ぐ。陽動が仕事をしているうちに、任された仕事を終わらせなければ。

 データベース付近の見張りを蹴り飛ばし、殴り倒し、とにかく前へ。鎌を使えよと言う指摘に、狭い廊下で使ったら巻き添えになりますが、と反論もしながら急ぐ。

 

「クソッ!止まらねえ!!」

「白髪男の方はともかく、あのフードの男はなんだ!? さっきからステゴロばっかじゃないか!」

「スラム育ちだろう多分!喧嘩殺法が似てっぐふ!?」

「オダ副主任がやられた!応援要請急げ!!」

 

 …特異対策局員は、一律して銃を持つ。

 それにプラスアルファして各々が得意な武器を。

 彼らが使うその武器は特殊なものだ。温度耐性は高く、絶縁保護処理もされていて、硬く丈夫。

 そして何より───ギミックが仕込まれている。

 

 局員の一人が大盾を地面に突き立てる。

 彼が「広がれ!」と叫ぶと、その盾から蜘蛛の巣のように黒い網が四方八方に広がる。

 こんな感じの仕掛け(ギミック)が、能力で自分を強いと勘違いした進化者を捕らえたり、ダメージを与えたりする。つまり油断してると普通に捕まるのである。

 

「収束!」

「っらぁ!!」

 

 俺とキュリアを押さえ込もうとする網を切る。

 網はその途端に「死に」、その動きを止めた。

 …ギミックには多種多様な種類があって、階級が高いやつほど「それもう仕掛けの範疇外では?」みたいなギミックを持つ。

 …いや、最強の人はギミック無しだったな…。

 

「があっ!?」

 

 …また一人、キュリアのレーザーに貫かれた。これはもう、どうしようもない。

 無理なものは無理だ、これは抱え込めない。

 

「……ああクソッ!」

 

 犠牲無し(ゼロ)は無理だ。そんなことはわかってる。でも目の前で見せつけられれば、それなりには堪える。

 ただ選択すれば報いが来る。そんなことは知っている。気づいたら手遅れなんてよくあることだ。

 だから…一瞬でも酒が頭をよぎった自分を殺したくて堪らなくなる!

 

「…データベースだ!見えてきた!」

「よし!さっさと終わらせるぞ!」

 

 

 

 

 

 


 

 

 ───第四隔離場付近

 

 アイザック・グローリーは紛れもなく強者だ。

 彼に多勢に無勢という言葉は適用されない。

 彼は数をものともしない。

 そういう力が、彼にはあるのだから。

 さりとて、強い個を当てれば良いわけでもない。

 彼は生半可な戦士では止められない。

 

 彼がいる、それだけで殆どの趨勢は決まる。ラメントが極めて優位になる。だから彼のことは、ただの能力者というより、そういった兵器として捉えるのが正解だ。

 そんな彼を止められるのは───ほんの一握り。

 

 そして、その一握りが、今ここにいた。

 

「なんで『最強』がピンポイントで張ってんだ?」

「…いや『最強』ではないだろう」

「酷い謙遜してやるなよ、クサナギ・カムイ」

 

 辺り一面には爆炎が上がる。道路は所々が粉々になり、切り刻んだような跡も無数にある。

 そして横倒しになった車から吐かれた炎は、夜を朧げに照らしていた。

 

 まるで炎と廃材で出来た即興の闘技場だ。

 剣闘士は二人。一人は緑の髪と蛇のような目を持つ進化者。機能性を第一とした装いは、この場に適したもの。

 もう一人は、一対の武装を両手に握る非能力者。柔和そうな顔立ちを持つ、黒髪の彼の装いは、スーツ一枚のみのようにも見える。

 

「いいや、最強ではない。現に今、君の仲間に抜かれた。

 そして、この時点で自分の仕事は、隔離場に向かおうとする君を抑え続けることに変わった」

「その時点で戦果大だ、喜べよ」

 

 アイザックの手で、紫電と炎が踊る。

 万人が驚くであろうそれを『最強』は意に介さず、両手に握る武装───短い直剣のような形状をしている鈍器───異国では「鐧」と呼ばれるそれを構え直す。

 

「…君は、勝利の女神を信じるか?」

「ゲン担ぎには頼らねえ主義でね」

 

 短い問答、交わされた言葉はそれだけだった。

 

「そうか。では、今から君を殴る」

「こいよ、抑えられてやるぜ非能力者(オールド)

 

 この現場を、ある者が見たらこう言うだろう。

 ジャックポットにも程がある、と。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。