ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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今回は七十六話のたった一日での出来事に描かれなかったギルド本部の話です。

追記……七十六話と幕間 王女の受難Ⅰ・Ⅱの内容を少し変更しました(*^^*)

少し編集しました四月二十二日


補完 七十八話 ギルドでの一幕

 

「ギルド本部って……結局何しに行くのよ?」

 

王都のギルド本部へ向かうハジメと優花、ユエの三人に同行していた雫がハジメに尋ねる。

 

因みに雫が同行しているのはギルド本部で用事を済ませた後に大結界の修理に向かうので、その案内を彼女が買って出てくれためであり、シア達は王宮でお留守番だ。今の王都で他種族が堂々と歩くのは無意味に人々を刺激する行為だと判断し自発的に居残ったのだ。

 

たとえ、王都の人々が自分達を襲ったのは魔人族だと分かっていても、今は〝人間族ではない〟というだけで八つ当たりの対象になりかねないというわけだ。

聖教のお膝元である王都においては、奴隷の亜人すら忌避されるくらいで、元々、人間族以外はほとんどいない。なので、妥当な判断と言えるだろう。

愛子達は忙しいリリアーナのお手伝い。ティオはここ数日ぶっ通しで消費していた魔力の充填のため睡眠中、アレスは異端として処刑(・・)された家族の墓参りに向かっている。

 

雫の疑問にハジメは気軽に返答する。

 

「依頼完了の報告を伝言してもらおうと思ってな。事が事だけに直接するべきなんだろうが、樹海に行くのにフューレンを経由するのは面倒だし。本部なら報告もきちんと対応してくれるだろう」

 

「報告って………もしかしてあのミュウって子のこと? そう言えば、姿が見えないけど…………_」

 

ちょっと残念そうに眉を下げる雫に、ミュウが母親と無事再会できたことを伝える。少し見ただけでもミュウの可愛さにやられていたのか「抱っこしたかった………」と呟く雫。しかし、続くユエと優花の言葉に驚きで目を丸くした。

 

「………大丈夫。また会える。ハジメが日本に連れて行くから」

 

「言ってたわね〜。『約束するって』ね」

 

「…………………………日本に? 南雲君、どういうこと?」

 

「どういうこともなにも、そのままの意味だ。ミュウと約束をしたんだよ。俺の故郷に連れて行ってやるってな」

 

「え、いや、でも………………ミュウちゃんは海人族の子よね?」

 

困惑する雫に、ハジメはなんでもないように肩を竦めて答えた。

 

「言いたいことは分かるが大した問題じゃないだろ? 対策なんていくらでもあるし、仮になくても作ればいい。よく言うだろ? 出来るかどうかじゃない、やるかどうかだ、みたいな」

 

「それは、まぁ、確かにそうだけれど………」

 

「大体、今更なことだ。シアなんてウサ耳だし……ユエだってアルビノでもないのにこんな鮮やかな紅眼に犬歯も鋭い、ティオも少し尖った耳をしているが、長期的に見れば外見も変わらない。それに俺が三人を置いて日本に帰るなんて八重樫も思えないだろう?」

 

ハジメの説得力がある言い分に雫は確かにと苦笑いを浮かべる。傍らではユエが嬉しくて堪らないのか仄かに笑みを浮かべており、優花はうんうんと頷いている。

 

そして、四人が楽しく談笑してる内に、ハジメ達は冒険者ギルド王都本部に辿り着いた。

フューレン支部ですら到底及ばない規模の歴史を感じさせる建築物だ。その入り口はオープンになっており、数多くの冒険者達が忙しそうに出入りしている。王都侵攻に伴って依頼も爆発的に増えているのだろう。

 

ハジメ達がギルド内に入ると十列以上ある巨大なカウンターへと赴いた。冒険者でごった返していたが、流石、本部の受付というべきか素晴らしい手際で手続きをこなしていくので回転率が凄まじい。

 

それに、受付嬢達が全員、目が奪われそうな美人であるが、可愛い四人の彼女がいるハジメにとっては興味の引くことではないので適当に早く受付に行ける列に並ぶ。

 

そして、受付に辿り着くと同時にステータスプレートを出しながら、ミュウを【海上の町エリセン】に送り届けたことを証明する書類も取り出して提出した。

 

「依頼の完了報告なんだか、フューレン支部のイルワ支部長に本部から伝えてもらうことは可能か?」

 

「はい? ………指定依頼………でございますか? すいません、少々お待ちください」

 

ハジメの言葉に受付嬢が少し困惑したように首を傾げる。

 

ギルド支部長からの指定依頼など一介の冒険者にあることではないので当然の反応だ。現に、ハジメの両隣りで手続きをしていた冒険者達がギョッとしたようにハジメを見ている。

 

受付嬢はハジメのステータスプレートの受け取り内容を見ると、澄まし顔を崩して冒険者達と同じようにギョッとした顔になった。

 

そして、何度もステータスプレートとハジメの顔を見比べると、慌てて立ち上がる。

 

「な、南雲ハジメ様で間違いございませんか?」

 

「? ああ、ステータスプレートに表記されている通りだ」

 

「申し訳ありませんが、応接室までお越しいただけますか? ギルドマスターから南雲様がギルドに訪れた際は、奥に通すようにと通達されておりますので、ギルドマスターがお戻りになるまで待って貰えませんか?」

 

「いや、俺は依頼の完了報告をイルワ支部長宛に欲しいだけなんだが。それに、これから大結界の修復に行く予定なんだよ。面倒は勘弁してくれ」

 

「え、え〜、それは私も困ると言いますか………では、代わりに副マスターを呼んでまいりますから、少々お待ち下さい!」

 

「ちょっ、おい」

 

受付嬢は、それだけ言い残すとハジメのステータスプレートと依頼完了の証明書を持ったままピューと音が鳴りそうな勢いでカウンターの奥へ消えていってしまった。

憮然とするハジメ。そんなハジメに、まぁまぁと優花とユエの二人が慰めるように肩をポンポンと叩く。

 

しばらく待つことにしたハジメだったが、「書置きでもして、もう大結界の修復に向かうか……」と思い始めたと思ったとき、顎髭をたっぷり生やした細目の老人が先程の受付嬢と共に現れた。

 

「(へぇ……あの人がギルドの副マスターか)」

 

ハジメはその老人を見て確信する。その異様な覇気を纏った老人こそがここ王都のギルドの副マスターであるらしく、登場した瞬間からギルド内がざわめきだした。そして、副マスターがハジメに声をかけた時点で、騒ぎはギルド全体に広がった。

 

「お前が南雲ハジメだな?」

 

「ああ、アンタも此処の副マスターで間違いないか?」

 

「合っている。俺の名はバルス・ラプタだ。よろしくな」

 

ギルド副マスターの名はバルス・ラプタというらしい。彼は、外見は屈強な体格の持ち主だが、話は流石はギルドの副マスターのためか話し易い相手であるとハジメは思った。

そして、バルスが会いに来たのはハジメが思ったような面倒事はなく、ギルドマスターから自分が居ない場合に、イルワが認めた人物はどんな者か一目会っておきたかっただけのこと。

 

どこかの町に行く度に、なんらかの事件に遭遇しているので今回は大丈夫だったかとホッと胸を撫で下ろすハジメだったが、そう問屋は許さない。

 

「バルス殿、彼等を紹介してくれないか? 副マスターである貴方もそうだが、あのギルドマスターすらも目を掛ける相手なら、是非、僕もお近付きになりたいしね? 特に、そちらのお嬢さん達には紳士として挨拶しておかないとね?」

 

そんなキザったらしいセリフと共にハジメ達の傍に寄って来たのは金髪のイケメンだった。後ろに美女を四人も侍らしている。周囲の冒険者が彼を見てヒソヒソと囁きだした。

曰く、〝金〟ランクの冒険者でアベルと言うらしい。〝閃刃〟の二つ名で呼ばれているようだ。

 

バルスは仕方なさそうに、ハジメをアベルと同じ〝金〟ランクだと紹介する。

周囲のざわめきが一気に酷くなり、ハジメは心底面倒そうな表情になる。

 

優花達を促してさっさとギルドを出ようとするハジメだったが、アベルの興味は確実に三人に向いており、簡単に行かせるつもりはないようだ。

 

「(てか、八重樫が勇者パーティーの一人だと知らないのか?)」

 

とハジメは疑問顔になるに対してアベルは、見た目爽やかに笑いながらハジメに話しかけだした。

 

「ふ〜ん、君が〝金〟ね。かなり若いみたいだけど……いったいどんな手を使ったんだい? まともな方法じゃないんだろ? ああ、まともじゃないんだから、こんなところで言えないか……配慮が足りなくてすまないね?」

 

にこやかに毒を吐くアベル。

 

この時点で、ハジメはアベルの相手をする意思を完全に捨てた。相手にする価値が全くないなと判断したからである。優花とユエ、雫も、ハジメの内心を察して、バルスに挨拶をしてからさっさとギルドから出ていこうとする。

 

「まぁ、待ちなよ。僕が本物の〝金〟だからって逃げなくてもいいじゃないか。別にとって食いやしないよ? まぁ、君は堪れないかもしれないから行ってもいいけど、女の子達は一緒に食事はどうかな? 本物の〝金〟を教えてあげるよ?」

 

そう言って、進路に立ちふがるアベル。自分が誘えば断る女などいないと思っているのか目が確信に満ちている。

 

しかし、アベルの言葉の内容が、彼より遥かに強いチート四人の前でどう響くかということを考えると………素で滑稽と以外の何者でしか思えなかった。

 

ハジメ達の正体と其の強さを知っているバルスはというと「あのマスターが目に掛けてると言ったんだが………」と、己の話を聞いて居ないことに落胆を込めて深い溜息を吐いている。

 

「おい、八重樫。こういう残念なイケメン(天之河タイプ)はお前の担当だろ? 劣化版天之河みたいだし、専門家に任せる」

 

「誰が何の専門よ。大体、人の幼なじみ相手になんてこと言うの。光輝だってここまで残念じゃない……わよ?………多分、きっと……残念通り越して哀れじゃない?」

 

「意外に言うね、雫。私も同意見だけどさ」

 

「………ん、優花と雫に激しく同意」

 

四人はそんなことを言いながらごく自然にスルーしてアベルの横を素通りしていった。アベルの表情が険しくなる。おそらく〝金〟となってからここまで適当な扱いを受けたことがないのだろう。侍る女達も険しい眼で優花達を睨みつけている。

 

「待ちたまえ! 〝金〟ランクである僕に対して舐めた態度を取るなんて少しお仕置がする必要があるねぇ!」

 

そして、アベルは自分達をスルーしたハジメ達の方へ向き直り優花の肩を掴もうと腕を伸ばす。しかし、アベルの手は優花の肩に届くことなくいつの間にか自身の目の前にまで移動していたハジメの手によって阻まれる。

 

「なっ!?」

 

アベルは、視認も出来ず、音も立てずに目の前にまで移動してきたハジメを腕を掴まれるまで気付けなかったのだから。対して、騒動を起こしたくなく無視を続けてたハジメだが、優花に触れようとするならば話が変わってくる。

 

アベルの腕を掴みながらハジメは冷酷な眼差しを向ける。

 

「っ、離せ!」

 

アベルはその眼から伝わる圧に押され、急いで距離を取ろうと掴む手を振り払おうとするが、力の差があり過ぎるせいで全く振り払えない。 そんなアベルが焦っている中、だんまりだったハジメが〝威圧〟を発動した。

 

瞬間、ギルド内の空気が一気にどん底に落ち、ハジメの〝威圧〟を浴びた冒険者達は、まるで強大な化け物と相対してるような絶望に包まれていく。

 

「汚ぇ手で俺の女に気安く触れるな潰すぞ」

 

「ひっ!?」

 

突如、口を開いたハジメ。その尋常ではない圧に恐怖したアベルはハジメの声を聞いた途端、悲鳴を上げながら、その場で倒れ込み尻もちを着く。侍る女達も顔が真っ青となり腰が抜けてしまったかヘナヘナと倒れ込んでいき、ギルド内にいた冒険者や受付嬢達も、〝威圧〟の圧に耐えきれず膝を付く者がおり、受付嬢に至っては白目を剥いて気絶してる者も現れ、平然としているのは優花とユエ。雫は優花達とは違い顔が少し青くなっている。

 

「っ……(これほどの圧とは……実力はアイツより上か)……おい、ヘレナ、気を持ち続けろ。でないとぶっ倒れるぞ」

 

「は、はい!」

 

バルスはというと、流石ギルドの副マスターと言うべきか近くにいた受付嬢のヘレナを守りながら圧に平然と耐えている。そして、「そろそろ、坊主。〝威圧〟を解除しろ」と声を掛ける。

 

バルスの言葉でハジメもハッとなったのか慌てて〝威圧〟を解除するとバルスに頭を下げる。今回ばかりはギルド内に〝威圧〟を発動してしまった自分が悪い。

 

「(俺としたことが……)スマン、迷惑かけちまった」

 

「なに、構わんさ。非があるなら坊主達に突っかかってきた此の馬鹿だ。嬢ちゃん達もすまんな、ギルドの副マスターとして謝罪したい」

 

しかし、バルスはハジメに謝罪は必要ないと言い、逆に悪いのは、怯えながら尻もちをついてるアベルの方が非があるのが明確。故にバルスは副ギルドマスターとして嫌な思いをさせただろう優花達に頭を下げた。

 

優花達は気にしてないが、頭を下げるバルスに対して慌てて「自分達は、大丈夫ですよ」と言って、場は一旦、納まる形に向かうのだが、そう簡単に終わらない。それは、先程までは怯えて倒れ込んでいたアベルが立ち上がったと思えば腰に回してた剣を抜いてハジメに剣先を向けたからだ。

 

「おい、アベル! 何をしてる! 剣を下げろ!」

 

突然の行為にバルスの怒声が上げる。にも関わらず、アベルはバルスの言葉を無視してハジメを強く睨みつけながら口を開く。

 

「後輩の癖に、この僕に恥をかかせるとはいい度胸じゃないか! もう、必死に謝っても無駄だぞ! お前とそこにいる女達も全員、生き地獄を遭わせてやる!」

 

「えぇ………」

 

そう豪語するアベルに、ハジメは「マジか」といった顔でアベルの行動にドン引きしている。優花達も、そしてギルドにいる者達も同じようにドン引きしている。しかし、ハジメが説得しようと声をかけても怒りで周りの状況を見えていない今のアベルは聞く耳を持たないので無意味だろう。

 

「(もう、死なない程度で殴るか。その後に関してはギルドに丸投げしよう)」

 

もう面倒くさくなって物騒なことでしか考えられないハジメ。その時、聞き覚えのない女性の声がギルド内で響き渡る。

 

「あら、ギルド内での戦闘は御法度よ?」

 

「「!」」

 

次の瞬間、黒色の傘(・・・・)がハジメとアベルの間に割り込んだ。突然の割り込みに驚くハジメと怒り心頭中のアベルは傘を持つ人物へ視線を向けた。

そこには、ギルドにしては場違いな気品を感じさせる黒の衣服、頭にはブリムが長い黒のハット帽を目深く被った女性と隣で控える従者と思われる目を布で隠した桃色髪のメイド少女。そして、

 

「あらぁ〜ん、そこにいるのはハジメさんとユエお姉様じゃないのぉ?」

 

不意に、野太い乙女チックな声にハジメは正体不明な悪寒を感じつつ、視線を女性から隣に向けた先には………

 

「な、なんだ、この化け物は!?」

 

「だぁ〜れがぁ、SAN値直葬間違いなしの名状し難い直視するのも忌避すべき化け物ですってぇ!?」

 

余りの光景に正気になったのか思わず叫ぶアベルにカッ!と見開いた眼を向ける筋肉の塊だった。

劇画のような濃ゆい顔に二メートル近くある身長と全身を覆う筋肉の鎧。なのに赤毛をツインテールにしていて可愛いらしいリボンで纏めている挙句、服装がいわゆる浴衣ドレスだった。フリルもたくさんついている。とってもヒラヒラしている。極太の足が見事に露出している。

 

一瞬、【ブルックの町】の服屋を営んでいるクリスタルベルだと思ったハジメだったが、どうやら別人のようだ。

 

「ひっ、よ、寄るな! 〝金〟ランクの冒険者〝閃刄〟のアベルだぞ! それ以上寄ったら切り捨てるぞ!」

 

「まぁ、酷いわねん! 初対面でいきなり化け物だの殺すだの……同じ〝金〟でも店長とは随分と違うわぁ〜。それにもうすぐ同じランクの仲間なるのに悲しいわ………でも、顔は好みよん♡」

 

「ひぃ!」

 

ハジメ達が、クリスタルベルを彷彿とさせる漢女に名前を呼ばれたことに硬直してる間に、何やらアベルが追い詰められていた。いや、彼? 彼女? はそこにいるだけなのだが、アベル的に見ているだけで正気度がガリガリと削られてしまっているらしい。

思わず悲鳴を上げるアベルに呆れた表情を向ける彼? 彼女? だったが、アベルのルックスについては好みだったようで、ジリジリと近づいて行く。獣のようにギラギラと眼を光らせ、ペロリと舌舐りしながら、

 

「や、やめろ! 来るな!」

 

アベルは得体の知れない恐怖に堪えきれず剣の切っ先をハジメから漢女の方へ変える。しかし、漢女は物怖じとせず更に近づいて行くがその歩みは先まで後ろにいた黒の衣服を着た女性によって止められる。

それも残像すら発生させるほどのスピードで漢女との距離を詰めており、その一部始終を目撃したハジメ達は目を見開く。

 

「マリアちゃん、落ち着いて。今日は男漁りに来たわけじゃないでしょ? 今すぐやめないとクリスタに言いつけるわよ?」

 

漢女の肩をポンポンと叩いて、そう言う女性の言葉にマリアと呼ばれた漢女は最初は「え〜、でもー」と駄々をこねるが最終的には女性の言葉に従い渋々と引き下がる。

 

「それも、そうだったわね。久しぶりの都会だったからはしゃぎすぎちゃったわ。ごめんなさい、お姉様」

 

マリアベルは申し訳なさそうな顔でユエと同じように〝お姉様〟と呼ぶ女性に謝る。それを見た女性はうんうんと頷くと、今度はアベルの方へ向き直った。

 

「ふふ、分かれば良いわ。後、ゴメンなさいね〝閃刄〟ちゃん」

 

「ふんっ、謝る誠意は認めてやろう。しかし、その化け物を速やかに僕の視界から映させないでくれ」

 

迷惑をかけたアベルに謝罪する女性に対して上から目線で物言うアベル。マリアベルからは「誰が超ゴリラ級怪力モンスターですってぇ!?」と再びカッと叫ぶ。何かを知ってそうなバルスは「はぁ」と溜息を履いて額に手を当てて困り顔だ。

だが、そんなアベルの態度に女性はニコニコと笑みを浮かべるだけで全く気にしていない。だが、次に女性が告げる内容にアベルは地獄より非道い目に逢うことが確定した。

 

「うん、決めた。今回のマリアちゃんの〝金〟への昇格試験の監督は〝閃刄〟ちゃんにするわね」

 

「は?」

 

女性が告げた内容に、先程まで威張り散らしていたアベルは体が石のように固まり、顔面を蒼白にさせる。

 

「い、今なんと?」

 

「だから、マリアちゃんの試験監督を貴方にするのよ」

 

「ほ、他の〝金〟ランクに頼めば良いじゃないか!!」

 

「でも、他の〝金〟ランクは遠方の依頼で王国に居ないのよ。報酬も弾ませるわ」

 

「それでも、僕は絶対にしないぞ、絶対にしない! それに、君にそれを決定する権利はない!」

 

猛烈にマリアベルの監督を反対するアベルは女性に向けて指差す。一瞬、従者の少女から猛烈な殺気が放たれるが女性が顔だけ振り向かせ。首を横に振ると少女は先程までの殺気を抑える。

それを見た女性はウンウンと頷くと、再び、アベルの方へ顔を向ける。

 

「えぇ、貴方の言い分はわかるわ。なら、其処におられる副マスターさんに頼めばいいわよね?」

 

「なっ、そ、それは!」

 

アベルの言い分を肯定しながら追撃を繰り出す女性。そして、アベルの制止の声を聞かずに女性はニコニコ笑顔で副マスターのバルスに声をかけた。

 

「ねぇ、バ………副マスターさん、私の案に乗らない〜?」

 

「………ハァ」

 

女性に声をかけられたバルスは仕方ないといった表情になって深い溜息を吐く。その様子を見るにバルスは女性のことを知ってそうだ。

 

「まだ、確定とは言えないが検討しよう。アベルは、職員の連絡が来るまで王都からは出ないように」

 

「そんな!バルス殿っ、それは余りにも横暴過ぎる!」

 

バルスの告げられた言葉に怒りを顕にするアベルは顔を酷く歪ませ、抜いていた剣先を上司であるバルスに向けた。

 

「たとえ、ギルドの副マスターといえど〝金〟ランクの僕に歯向かうとはどういうことになるか分からせてやる!!」

 

そう小物まがいな言動をするアベルはバルスへ剣を構えながら突撃してくるが、バルスは一向に避けることをせず、己へ振り下ろされたアベルの剣を軽く握り潰した。

 

その光景を前に剣を振るったアベルも、それを見ていたハジメ達やギルドの冒険者や職員までも目を見開く。

 

「は?」

 

目の前で剣を壊され、目が点になるアベルは歩みを止め、刀身がひしゃげてしまった剣を呆然に見つめる。その間にバルスはアベルの眼前にまで迫ると冷めた眼差しを向けながら言う。

 

「アベル。ギルド内での武器の使用、他の冒険者に対する暴言及び迷惑行為。本来ならば〝金〟ランクの剥奪と百万以上の罰金、長期間のギルドの出禁となる」

 

「なっ、ま、待ってくれ! ランクの剥奪はやめてくれ!」

 

バルスのランクの剥奪という言葉に異常なまでに反応するアベルはバルスに縋りつくがバルスは無視して言葉を続ける。

 

「なら、其処にいるマリアベルの試験監督をするならば、俺の権限で罰を軽くしよう」

 

「そ、それは………」

 

「今すぐ決めろ。やるのか? やらないのか?」

 

バルスの提案に最初は言い淀むアベルだったが、〝金〟ランクの称号を手放したくなかったのか、それともバルスの圧が恐ろしかったのか最終的には首を縦に頷いた。

 

「よし、なら今日は帰れ。試験当日にはギルドの職員がお前が宿泊してる宿に向かうからな」

 

「わ、わかりました………」

 

バルスの言葉に従い、アベルは悔しそうに唇を噛みながらギルドから走り去っていく。アベルに侍る女性達も、この場から早く立ち去りたいのかアベルの後を追うようにギルドから出て行くのだった。

アベルという嵐が去って、静寂に包まれるギルド内だったが、深い溜息を吐くバルスが其の静寂を破り、ハジメ達の方へ歩み寄ると申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「すまない坊主、迷惑を掛けちまったな」

 

「いや、こっちもこっちで何があったのかと混乱中だが、大丈夫だ」

 

バルスに謝られるハジメだが、ハジメもハジメで漢女が来るわ、漢女が叫ぶわで頭が放心していた。そんな二人のところへ、先程の女性達が向かってきた。バルスが一瞬、眉をしかめる。

 

「おい、何でこっちに近寄ってくる? お前の要件はあっちだろ?」

 

バルスはそう言って、ギルドの上層部達の部屋に通じる扉を指差す。対して、女性はと言うと「貴方に用はないわ」と副マスターに対して馴れ馴れしく言う。

やはり、バルスと女性は知り合いらしい。

 

そして、女性はハジメを見て嬉しそうに口角を上げながら手を差し出した。

 

「初めまして、南雲ハジメ君。バネッサよ」

 

「俺の名前を知ってんだな」

 

帽子で余り顔がよく見えないが、ティオのような妖艶な雰囲気を感じ相当な美人だろうな、とハジメはバネッサと握手を交わす。瞬間、ハジメは何故か親近感に近いものが湧いてくるのを感じた。

 

バネッサの方とはいうと、ハジメの返答に口に手を当てフフッと笑みをこぼしながらハジメ達の名が有名な訳を話す。

 

「あら、貴方達のことは冒険者達の間では有名よ。速攻に〝金〟ランクに昇格した二人の男女。敵対する者には容赦ない様に名付けられた二つ名は〝デビル・ビスクドールズ〟」

 

「は?」

 

女性の言葉にハジメはいつの間に二つ名を付けられていたことに困惑するが、周囲を見ればその名を聞いた男性冒険者がユエを見た途端、軒並み両手で股間を守りながら前屈みになって震えていた。

と、そのとき、ギルド内でヒソヒソ声が聞こえ始める。

 

「お、おい、金髪紅眼の女の子と白髪眼帯の少年って………」

 

「でも、間違いないって、あの女が〝デビ・ビズ〟の名を口にしたんだぞ!」

 

「え、なにその恐ろしい二つ名?」

 

「お前、知らないのか? 数ヶ月前に彗星の如く現れた冒険者だよ。〝金髪紅眼の少女は薔薇の如く。その美貌に惑わされ、深みにはまれば新世界。彼女は美の女神にして息子殺しの魔王様〟。〝傍らには白髪眼帯の少年。理不尽の権化。奴に対して喧嘩を売るな。大切な者に手を出すな。まだ生きていたいなら〟って、ブルックから流れてきた吟遊詩人が伝えたんだよ。実際、フューレンでも、ホルアドでも息子を殺された奴や再起不能になるまでボコボコにされた奴が大勢いるらしいぜ?」

 

「なにそれコワ」

 

どうやらハジメとユエは吟遊詩人に謳われて王都まで名が広まっているらしい。周囲の冒険者達が、ハジメ達を見て戦慄の表情を浮かべると共に股間を隠しながらジリジリと距離を取り始めた。

 

「貴方達…………いったい、なにをしていたのよ」

 

「なにしてんのよ……全く」

 

雫と優花が呆れた視線をハジメとユエに向けた。

ユエはどこ吹く風といった様子だが、ハジメは不本意な噂と二つ名が流れていることに盛大に頬を引き攣らせた。

 

と、そのとき、女性の隣にいたマリアベルが声をかけてきた。

 

「久しぶりね? 二人共、変わらないようで嬉しいわん」

 

「………いや、誰だよ、お前。クリスタルベルの知り合いか?」

 

ウインクする漢女に、ハジメは首を傾げながら尋ねる。【ブルックの町】を出る際にクリスタルベルとは軽く世間話はしたが、目の前の漢女は全く知らない。

雫と優花は改めて、近くでその異様を目の当たりにして、普段の社交性はどこに行ったのか、思わず頬を引き攣らせながら、さりげなくハジメを盾にするような位置に下がる。

 

「あら、私としたことが挨拶もせずに………この姿じゃ分からないわよねん? 以前、ユエお姉様に告白して、文字通り玉砕した男なのだけど……覚えているかしらん?」

 

「………あ。ほんとに?」

 

ユエに心当たりがあるらしく、驚いた表情で巨大なマリアベルを仰ぎ見た。そして、ユエが思い出したことに嬉しそうに笑うマリアベル。

自己紹介によれば、【ブルックの町】でユエに告白したがあっさり振られ、強硬手段に出たが割って現れたハジメの殺気にやられた後、ユエにスマッシュされた元冒険者の男らしく、今は冒険者をしながらクリスタルベルの下で漢女のなんたるかを学んでいるそうだ。

 

「あのときは、本当に愚かだったわん。ごめんなさいね? ユエお姉様…………」

 

「……ん、立派になった。新しい人生、謳歌するといい」

 

「うふふ、お姉様ならそう言ってくれると思っていたわん。そう言えば最近、続々とクリスタルベル店長の下に弟子入りを望む子がやって来てるのよ。確か、元〝黒〟ランクの冒険者や、なんとかっていう裏組織の子達とか……それもあって、店長が店舗拡大を考えているのよねん。今日はその下見と、元〝金〟ランクだった店長やバネッサお姉様の推薦で〝金〟の昇格試験のために来たのよん」

 

ハジメは漢女の急増に頬を引き攣らせるが、元々のマリアベルの体型が中肉中背の男だったのに僅か数ヶ月でこの急成長の顕れ様を見てクリスタルベルの化け物じみた育成方法に驚愕するのだった。

 

と、まあマリアベルから色々と聞いていたが、そろそろ結界の修復に向かわなければならないハジメ達を気に掛けてかバルスが助け舟を出す。

 

「坊主、そろそろ次の用事に向かわないと行けんだろう? フューレン支部のイルワには俺から伝えておく」

 

「ああ、助かる。んじゃ、そろそろ行くか」

 

バルスの助け舟に感謝するハジメは、大結界へ行くため優花達を連れてギルドから去ろうとするとバネッサが声をかける。

 

「南雲ハジメ君。もし、暇が出来たのなら、今度はゆっくり話しましょ?」

 

「ん? ああ、わかった」

 

そう言われたハジメは、適当に了承してから優花達と共にギルドから去っていくのだった………。

 

 

 

 

 

 

夜。

 

ギルド本部の最上階にあるギルドマスターの執務室に三人の人影があった。三人は、一人はソファーに座り、一人は仕事用のデスクに、一人はデスク横に立って何か話し合っていた。

 

「しかし、アベルの馬鹿はどう処罰したもんか………」

 

客人用のソファーに座りながら、そうこぼしたのはギルドの副マスターであるバルス・ラプタだ。話している内容は先の問題を起こした〝金〟ランク冒険者である〝閃刄〟のアベルに関してだった。

素行はだいぶ問題があるアベルだが〝金〟は〝金〟。ギルドにとっては大事な戦力だ。そのため、彼の問題はギルドの上層部にとって悩みの種である。

 

「ならば、わたくしめがボコボコにしてきましょうか?」

 

「やめてくれ。アベルの問題より、お前の存在が神共や教会の生き残りにバレたら面倒くさくなる」

 

そう口を開いたのは目を布で隠した桃色髪のメイド少女だ。しかし、少女の意見はバルスが即否定されるが……

即否定され少し落ち込む少女を横目にバルスはこの部屋の主である女性に視線を向ける。

 

「んで、本当にマリアベルの昇格試験を担当したらランク保持はさせるのかよギルドマスター(・・・・・・・)?」

 

バルスの質問に、色々な書類物など置かれた机に肘をつけて耳だけを傾けていたギルドマスターと呼ばれる女性は長い黒髪を後ろに纏めポニーテールを触りながら少し考える素振りをしてから口を開く。

 

「そうねぇー…………もし、マリアちゃんに負けたら、彼はクリスのところに送ったらいいんじゃない? あの子の下ならいい感じに強くなるし加えて良い子になる一石二鳥よ」

 

「………鬼畜ではあるが、アリだな」

 

本当にやることが鬼畜であるがクリスタルベルの下ならば、あのアベルも改心するだろうと納得するバルス。ギルドマスターはバルスが納得してるのを見て「でしょう?」と笑みを浮かべている。

 

「まあ、アベルの処遇に関しては、また決めればいいか。それはそうと、どうだった南雲ハジメは? お前さんの先祖が作り上げた迷宮(・・・・・・・・・・)を攻略した男は?」

 

そうバルスに言われ、黒髪の女性───バネッサ・オルクス(・・・・)は先祖代々から受け継がれてきた黒傘を大事しそうに柄を触れながら不敵な笑みを浮かべた。

 

「流石としか言えないわ。隙が全くないし、どう戦っても確実に負ける未来しかしないわね。本当に天職が非戦闘職の錬成師とは思えないわ。貴方もそう感じたでしょ、元第二王子のバルトラ・SB・ハイリヒさん?」

 

バネッサの言葉に、バルスもといい元ハイリヒ王国第二王子バルトラ・SB・ハイリヒはバネッサを強く睨みつける。対してバネッサはどこ吹く風だ。そして、その一連を見てた桃色の髪の少女はアワアワと戸惑っている。

 

「やめろ、昔の名は捨てた。今の俺はギルドの副マスターのバルス・ラプタだ」

 

「あら、ごめんない。悪気はなかったわ」

 

「………いい、お前のその性格は冒険者時代から知ってるしな」

 

呆れるバルスに、悪戯な笑みを向けるバネッサ。そして、なんとか場が収まったことに安堵する少女だが、バネッサに話しかけられる。

 

「貴女の意見も聞きたいわ、リリナ。その眼(・・・)には南雲ハジメとその仲間達はどう写ったかしら?」

 

そう聞かれて桃色髪の少女──リリナ。布で覆い隠された眼を触りながら彼女は淡々と答えた。

 

「はい。この眼で南雲様達を見て、逃げたくなりました。バネッサ様やバルス様よりも遥かに強いアレス様と同じぐらい輝く光。ステータスに関しては南雲様と園部様には見えない部分がありましたが、八重樫様以外の方々は異常でした」

 

「そうか………リリナの〝鑑識眼〟であっても確認できないステータスか。………馬鹿げてるな」

 

「そうねぇ〜。だって、あの破壊された大結界をも直したんでしょ。流石は本物の〝生成魔法〟。私の使うモノとは大違いだわ」

 

バネッサはそう自嘲しながら、部屋の窓から見える修復された大結界を見る。すると、バルスが問うた。

 

「だが、お前も大結界なら直せるだろう?」

 

「……ええ、直せはするわ。でも、私の〝生成魔術(・・・・)〟では一度しか敵の攻撃を防げない付け焼き刃の結界に過ぎない。貴方のも本物よりも劣ってるでしょ?」

 

バネッサの言葉にバルスは三つの神代魔法を得た自分の親戚にあたる青年を思い浮かべ「まぁな」と肩を竦めながら頷いた。

 

「アレスから本物の〝魂魄〟と〝空間〟を目の当たりにして、俺やシモンの奴も痛感しちまった。そして、思っちまった。あの時………俺達も、本物の〝神代魔法〟を手に入れていたら()に勝てていたかもしれないって………アイツが死ぬこともなかったんじゃないかってな…………」

 

「………………」

 

バルスからポツリと語られた内容にバネッサは黙る。それは自分だって思ったことだ。先祖の魔法を受け継いだ南雲ハジメを見て再び確信した。もし、自分も本物の〝生成魔法〟を持ってたなら………と、何度も思ってしまう。

 

バネッサは自身の机に置かれた一つの写真立てを手に取る。写真は、少し色褪せてるが大事に保存されており、写真に映っているのは五人の男女の姿。

 

黒傘を差して笑顔でピースする黒ロングの少女、神父姿の青年と道着のような服を着た青年が肩を組み合っている姿、厳しい顔をしてる巨躯な男、そして彼等の真ん中に写る天真爛漫に笑う少女の姿。

 

「……………」

 

無言のままバネッサは手に取った写真に映る真ん中の少女のところを大事そうに撫でる。その顔は余りにも哀愁を漂わしており、それに気付いたバルスも同じような顔付きになり己の拳を強く握る。

 

深く息を吐いて切り替えるバネッサは写真立てを元に戻しながら、このドンヨリとした場を変えるようと元気よく言った。

 

「ええ、だから今度は勝ちましょう奴に。それに今回の騒動でイシュタルのクソ爺が死んだらしいし、追放されてたシモンが戻ってくるんじゃない?」

 

「そうだな、追放されてるとはいえ、イシュタルと同じぐらいの立ち位置にはいたからなシモンの奴」

 

「なら、盛大に出迎えないけませんね」

 

バネッサは嘗てのパーティーメンバーであり、自分達と同じ大迷宮を作った解放者の末裔である祭司を思い浮かべ笑みをこぼす。すると、ふと思い出しかのようにバルスは口にする。

 

「後、耳にしたんだが、アレスの奴が王国にいるらしいんだ。会いに行くか?」

 

「ええ、そうねぇ〜。リリナだって会いたいでしょ?」

 

「ふぇっ!? そ、その〜〜〜…………はぃ」

 

アレスの帰還。それを聞いたバネッサは自分よりも会いたいであろう従者のリリアへ視線を向ける。リリナはというと話を振られた瞬間、カァっと顔を真っ赤にして髪で隠れてた扇状のヒレがパタパタと動いている。

 

そんな年相応な姿を見せるリリナに微笑ましそうに見つめるバネッサとバルス。傍から見れば孫の恋を応援する祖父母のようである。

 

そうだ、次は勝てる。

 

自分達の世代より遥かに優れた世代。

 

数々の迷宮を攻略して力を手にした錬成師の青年、あらゆる場面にも適応するチートじみた最強の神官の青年、再生の力を持ち、相手の力量と魔力を視れる眼を持つ海人族の少女。

 

今回はあの時とは違う。

 

故に、バネッサとバルスの二人は覚悟を決める。

 

もうすぐ、来るであろう今回の神との決戦で神を打ち倒すこと。

 

そして、あの時に交わした約束……

 

「「自由を取り戻す」」と………。

 




感想、評価出来ればお願いしますm(_ _)m

バネッサ達の人物紹介は鬼人戦線の後に投稿すると思います(*^^*)

作品名を変えた方が良い?

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