ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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皆さんお久しぶりです白sanです( *°∀°* )
いや〜、テスト勉強の合間にコツコツ書いていたら書けたので、投稿しようと思いました〜( ̄∇ ̄*)
今回は投稿しますが、まだ私のテストが終わってないなので次の投稿は六月十九日か二十日辺りに投稿すると思います(`・ω・´)キリッ

……って、まぁ、こんな感じで百話目(本編的に七十七話)はアレなんですけど……言わせてください。

ここまで書けたのはこの作品を読んで、お気に入り登録や評価をしてくださった皆さんのおかげなので本当にありがとうございますっ!m(_ _)m

これからも、リアルと共に頑張って精進して参ります( *¯ ꒳¯*)


ではっ、百話をどうぞっ!(*^^*)






七章 堕落獣転ヘルシャー帝国〜白き祖龍と黒き竜姫〜
七十九話 遙か遠き竜姫の記憶


 

────夢を見ていた。

 

 

それは妾が一番の幸せを感じていた記憶……。

 

 

あの時……約五百年前は世界でも最も美しいと称されていた木と水の王国てある竜人国は安泰であった。他種族との共存を行い、民達は家族と仲睦まじく暮らしていたり、都は店や出店で賑やかであり、己の力を鍛える者がいたり、種族など関係なく互いを尊重し合えている平和な日常を送っていた……。

 

そして……

 

ダッダッダッダッ

 

「ハァハァっ」

 

そんな竜人国の城内の廊下を笑顔で走り抜けている美しい黒髪と黄金の瞳を持つ、見た目十歳程の少女もまた、同じであった。美麗な和装を身に包みながらも髪を揺らし息を切らしながら走っていた。

 

そんな少女を見て、城の者達はにこやかな表情をしながら少女に声をかけていく。

 

「おや、姫、今日も元気なことで」

 

「おっ、姫様ァ、今日もお元気ですなっ!」

 

「あら、姫様〜」

 

「あらあら益々、オルナ様似てきて美しいこと〜」

 

その少女の姿を見て挨拶をしていく者達……

 

「ありゃ〜、絶対に〝ヴェンリ〟の奴から逃げてるな姫様は……」

 

「だなぁ〜、〝ヴェンリ〟にしごかれたんだろうなぁ…」

 

少女が走っている理由を大体分かって苦笑いしながら眺めている者達……

 

 

そして………

 

「コラァ〜、待ちなさぁぁい! 姫様ァ!」

 

走り回っている少女を追うように瑠璃色の髪の女性が走っていた。

 

「まだ、稽古が終わってませんよぉ!」

 

そうこの女性こそ、城の者達が話していた竜人族の女性で少女の乳母の〝ヴェンリ〟である。ヴェンリは少女を追いかけながら声を上げる。それに少女は答えるかのように声を上げる。

 

「嫌じゃあ! 妾は稽古じゃなくて遊びたいんじゃあ!」

 

「なっ?! 我慢しなさい!」

 

少女の返事にヴェンリは目を見開きながら声を上げる。

 

「そもそも、貴女様は将来の我等、竜人族を統べる女王になるんですよっ!」

 

「……ッ!」

 

ヴェンリの言葉に少女は口を噤んでしまい立ち止まり、ヴェンリは「やっとお止まりになってくれましたか」と安堵しながら言葉を続ける。

 

「ほら、もうこんな事はもう止めにして、稽古に戻りましょ? 姫様いえ……ティオ様? 」

 

そう言って、ヴェンリは走り回っていた少女……いや、竜人族の王の娘、ティオに笑顔を向けながら呼びかける。

 

しかし……

 

「むぅぅぅっ!」

 

しかし、ティオはムッとした表情をして唸り声みたいな声を上げながらまた走り出した。

 

「なっ?!」

 

ヴェンリはティオがいきなり走り出したことで反応が遅れてしまってまたもやティオを逃がすことになった。

 

「……フフ」

 

ヴェンリは逃がしてしまった自分にも非があると思うが笑いを込み上げると同時に片腕に力が入っていく。

 

そして………

 

「……ティオ様ぁぁぁあ!」

 

そんな、ヴェンリの叫びが城全体に木霊した。そんな叫び声を聞いた竜人達は揃って「また、逃げられたな〜」と思っていた。

 

そんなヴェンリが叫ぶ中、逃げていたティオは振り返りヴェンリが追ってきていないのを確認すると、立ち止まって、息を整える。

 

「ハァハァ……もう、ヴェンリは追ってきてないのぅ」

 

逃げ切ったティオはそう呟きながら二ッと笑みを浮かべるも、ティオは少し頭を唸らせる。

 

「しかし、これからどうしようかの……」

 

そう、ティオはヴェンリからの稽古から逃げ出すことしか考えておらず、その後のことは考えていなかった。

 

「外に出ようとしても門兵達に止められてヴェンリに知らされるしのぅ………」

 

ティオは「ウーン」と何処で身を隠そうかと思案していき、ある場所を思いつく。

 

「あっ、 彼処ならっ!」

 

ティオは閃いたて笑みを零しながら、ある場所へとまた、走り出していった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ティオは走り出して、目的の場所に着き障子をそぉーと開けながら口を開く。

 

「母上?」

 

「誰じゃ?」

 

ティオがそう答えるとその部屋にいた白に近い翠の長い髪に美しい黄金の瞳を持つ竜人の女性が反応して笑みを浮かべながらティオの方に振り返った。この女性はティオの母であり、今代の竜人族の王の妻であり、女王のオルナ・クラルスであった。

 

オルナは部屋に来たのは誰かと振り向くが相手がティオだと分かると口調を変え、家族と過ごす時のように砕けた口調で首を傾げながらティオの名を呼ぶ。

 

「あら、ティオ?」

 

「母上!」

 

「ふふ、おいで」

 

ティオは部屋に入るなり、すぐさま満面な笑顔でオルナに抱きついた。オルナは駆け寄って抱きついてきたティオを愛おしそうに見つめながら優しく頭を撫でながら抱き返した。

 

「あら、でも、ティオ。 ヴェンリとの稽古の時間が終わったの? この時間は稽古の時間なのだと思うのだけど?」

 

「……」

 

「あらあら……」

 

オルナの指摘にティオはサッと顔を逸らした。その様子を見てオルナは困ったように笑みを浮かべながら頭を撫でながら話しかける。

 

「ティオ、お稽古は逃げ出しちゃ駄目よ」

 

「だって……ヴェンリが厳しいんじゃ……」

 

オルナの言葉にティオは口を尖らせながら話す。その様子にオルナは優しくヴェンリの気持ちをティオに話す。

 

「それは、ヴェンリはティオに立派な竜人に育って貰いたいのよ。私達、竜人族の王家たるクラルス家の名に恥じないようにね」

 

「じゃが……」

 

ティオはオルナの話を聞いて、顔を俯かせる。そんな様子を見てオルナはある事を思いつく。

 

「なら、ティオ?」

 

「なんじゃ、母上?」

 

「少し、昔話をしましょうか……聞く?」

 

オルナはティオに微笑みながら昔話をしようと言う。

 

「聞く! 妾、母上のお話好きじゃっ」

 

ティオはオルナの話す話が好きだったので、話を聞けると聞き、嬉しそうにはしゃぎながらオルナに再度抱きついた。

 

「じゃあ、しましょうか」

 

オルナはティオの様子を笑みを浮かべながらティオを両足の上に乗せながら座り込ますと話しだす。

 

「ティオ? 今から、話すことは私達が心から掲げている〝竜人族の聖句〟の生み出されたキッカケの話です」

 

「聖句?」

 

ティオはオルナの方を見ながら首を傾げる。

 

「えぇ……この話は竜人族にとって心に刻んでおくほど大切な話です。だから、しっかりと耳に入れないといけませんよ。分かりましたかティオ?」

 

「はいのじゃ!」

 

オルナはそう言いながらティオを今までおっとりしていた表情から真剣な表情に変えて問いかける。流石にティオも息を呑みながら覚悟して勢いよく頷きながら声を上げる。

 

「では……」

 

そして、ティオの答えに深く頷いた淡々とオルナは語り出していく。

 

 

 

 

この話はある意味、戒めとしてのお話である。

 

何故、戒めになっているのは、初代クラルスと我等、竜人族が祀っている竜人族の祖……始まりの竜人である。〝祖龍様〟が関係している為だと言う。

 

それは、まだ竜人族が獣かと問われていた時代の話であった。竜人への迫害が頻発する中、強大な力を持ちながらも共存を呼び掛け続け、高潔を以て他種族に献身を捧げていた初代クラルスは、手酷い裏切りによって最愛の妻を失ってしまった。

 

そして、初代は辛くなり、やがて憎しみの余り、遂には理性を手放して獣に堕ちたという。

 

そして、獣となった彼は今まで共存の為に守ってきた他種族の町などの破壊活動を始めたという。

 

暴れ続ける彼はあまりにも強力であってどの種族が止めようとしてもただ蹴散らされるのみだった。それで初代はその凶悪さに〝厄災〟と称されるようになった。

 

そんな中、竜人族の未来の為に初代を討とうと立ち上がった者達がいた。

 

それは、初代の息子であり──ティオの祖父にあたるアドゥルの祖父率いる竜人族達だった。

 

しかし、初代クラルスの力は強力だった。多数の数を挑んだとしても歯がたたず、ブレスのぶつけ合いでも〝衆〟と〝個〟の差であるのに押されてしまう。

 

この戦いは空に大地に大きな影響を及ぼす程、続いていき、やがて敗れてしまったのはアドゥルの祖父が率いる竜人族達だった。

 

竜人族も他種族達の誰もがこの世の終わりだと嘆き始め、絶望していた。このままこの世は初代によって滅ぼされるだろうと思った。

 

しかし……

『地上の者達よ……我が子等よ……よく耐え抜いた。 其処の我が種の恥晒しは儂が片付けようぞ』

 

天から厳格で重圧な低い声が地上全体に響き渡ったという。

 

そして、天から光がベールのように降りかけていく。その光景は美しく幻想的で地上の者達、初代に敗れて死にかけだった竜人達、そして初代までもが目を向けたという。

 

そして……

 

ピキッ

 

天が割れ、それと同時に顕現……いや、舞い降りたという。普通の竜より一回りも二回りも大きい純白で神々しいオーラを纏った〝龍〟が……

 

地上に舞い降りた、龍は一人の竜人にトドメを刺そうとしていた初代を守り跳ね除け、アドゥルの祖父達にこう言ったという。

 

『儂は竜人の祖……〝祖龍〟である』と……。

 

そして、龍…いや…祖龍様は初代クラルスと激烈な戦いを始めた。

 

ブレスのぶつかり合い、龍鱗が崩れ落ちる程、お互いの身体を激しくぶつけ合っていく。

 

その戦いの余波のせいか地上に大きな影響が現れた。山が崩れ、地が割れ、気候が変動していく。

 

戦いが羅列を増していく中、竜人達、他種族の者達は傍観することしか出来なかったという。

 

しかし、その戦いは終わりを告げる。それは、祖龍様しか使えない……いや、持ってない魔法を放った。初代クラルスは祖龍様の魔法に為す術なく敗れ、討ち取られ戦いの終わりを告げたという。

 

そして、祖龍様は去る際にアドゥルの祖父率いる竜人達に告げたという。

 

『我が子……竜人達よ理性を持ち続けろ。持ち続けてこそ儂等は〝人〟でありそして〝竜人〟である』

 

祖龍様はそう告げて、天へと舞い上がっていったという。

 

その後の竜人族達は長く苦労したという。

 

それは、竜人族の強力さに畏怖を抱いてしまった為、各国の迫害は鳴りを潜めたが、そこから、長く苦しい共存の可能性を探る竜人達の時代が始まったという……。

 

 

 

「そして、先代の王……アドゥルが平和の礎を作り、今代の王で私の夫のハルガの代で他種族共存が成り立った。そして、この話は竜人の子供が成長した際に必ず話すことになったのよ?」

 

「………」

 

オルナはそう言い終えて話を終わらせ、一息ついてからティオを見る。ティオは話を聞いてたのかと疑うぐらい無言で呆けていた。

 

「ティオ?」

 

「!、はいっ、母上!」

 

オルナが呼び掛けるとティオはビクッとしながら視線をオルナに移す。

 

「ティオ、分かりましたか? これが聖句が生み出されたキッカケの話よ」

 

「のじゃ……でも……」

 

ティオはオルナの話を聞いて、頷くが少し悲しそうな感じであり、オルナは気になり問う。

 

「どうしたのティオ?」

 

「……じゃ」

 

「ん?」

 

ティオがボゾボソッと呟き、オルナはよく聞こえず、首を傾げるがティオは次は聞こえる声量で話しだす。

 

「初代様は確かに悪いことをした。でも、可哀想なのじゃ……愛していた人がずっと守ってきた者の裏切りで殺されたんじゃぞ……」

 

「ティオ……」

 

オルナはそんなことを言うティオを愛おしそうにギュッと抱きしめる。

 

「ホントにティオは優しい子。自慢の娘」

 

「母上……」

 

オルナは顔を上げながら此方を見つめるティオに微笑みを向けながら話す。

 

「いつか……そんな貴女にも良い出逢いがあると思うわ」

 

「出逢い?」

 

ティオはオルナの言葉の意味はまだ分かっておらず、首を傾げるとオルナは言葉を続ける。

 

「将来の旦那様ってことよ? ティオはどんな殿方が好きなの? 私、知りたいわ」

 

ニコニコと質問するオルナににティオは頭を唸らせながら考えてからパッと考えつくと少しばかりか顔を赤くしながら答える。

 

「父上みたいに強い殿方……」

 

「………フフ」

 

ティオは自分の尊敬する父のような強い殿方が好きだと言う。そんな回答にオルナから笑みが零れ出す。

 

「そう、あの人のような強い殿方ね……なら、ティオもそれに担うような女性へとならないとね」

 

「ウッ……」

 

オルナの言葉にティオは少し身体を竦める。そんなティオにオルナは優しく背中を擦りながら話す。

 

「ティオ、これから何年後か分からない。でも、絶対に貴女が想いを寄せてしまう殿方が現れるわ。 ハルガのような強い殿方をね……」

 

「……」

 

オルナの話をティオは抱きつきながら、じっ、とオルナを見つめながら聞いている。そんなティオの様子をオルナも優しい眼差しで見つめながら話を続ける。

 

「なら、ティオもそんな殿方から好かれるような美しい女性にならなくちゃね。そうしないと誰かに奪られちゃうわよ?」

 

「な、なら……妾……稽古…頑張るのじゃ」

 

オルナはそう言うと、ティオは立ち上がりこれからは稽古を頑張ると宣言する。

 

「なら、ヴェンリのところに戻って謝って、稽古を真面目に受けなさい」

 

「うむっ! じゃっ、母上、いってくる!」

 

「いってらっしゃい」

 

オルナの言葉にティオは頷き、部屋の障子に手をかけてからオルナに一言だけ伝えて部屋を出た。

 

部屋を出たティオはヴェンリの声がする方へ歩を進める。頭の中ではどう、謝ろうか。どれぐらい怒られるだろうか。と考えていた。

 

「出逢い……」

 

そんな事を考えながらティオは母オルナの言葉を口にする。それは、何時か会えるかもしれない自分の伴侶となる殿方……。

 

しかし、そんな殿方を前にして、自分が駄目な女だったら嫌だ。だって、自分の理想の夫婦は父上と母上のような仲睦まじい夫婦が理想なのだから……。

 

「妾……頑張る!」

 

ティオは気合いを入れる。それは未来のために……何時か会えるかもしれない未来の旦那様の為に……空を見上げながらティオは決心して目を閉じる。

 

 

そして、次にティオが目を開けて見た光景は数年後の自分が見る光景……。

 

「ぇ?」

 

───世界が赤く染まっている光景だった。

 

都を焼き尽くす燃え盛る業火と、撒き散らされた命の飛沫と、天空に尋常でない大きさの魔法陣、そしてこの狂気に埋め尽くされた悲劇の舞台を彩るような夕焼けの色。

 

「このような、このようなことが……」

 

未だに幼さを残すティオから、絞り出されたような声が出る。熱を運ぶ風に髪を揺らして、物見台の天辺から崩壊していく王国を瞳に映している。

 

メキメキッ

 

ティオは崩壊していく王国を見ていく内に木製で頑丈に出来ている欄干に力を入れすぎてしまい悲鳴を上げるような音がなり、今にも粉砕されそうな状態になっていた。

 

ティオは自分の愛してる国を、圧倒的な戦力による侵略を受け、灰燼と帰そうとしている国を眺める。少し前まではありとあらゆる種族が区別なく平和に暮らしていたというのに、何故こんなことになってしまったのか……。

 

ティオの認識は現実が追い付かず、ただただ呆然と、燃え行く王国を見つめていた。

 

「姫様……此処は危険です。避難を……」

 

ティオの背後に控えていたヴェンリは避難を促す。しかし、ティオはヴェンリの方へ振り返ることなく、ただ小さく首を振る。

 

「姫様……」

 

「ヴェンリよ。妾はクラルスの姫ぞ。父上達が、同胞達が、今この時も戦っているというのに、何処に逃げろというのじゃ? 行くならば……あそこじゃろう」

 

ティオはそう言って、真っ直ぐ戦場の方へ指を指す。それにヴェンリが慌てたようにティオの傍に寄る。

 

「なりません、姫様!」

 

「………分かっておる。妾が行っても、足手まといにしかならん。今ほどっ、この身の未熟を口惜しいと思ったことはないっ!」

 

ティオは唇を噛み締め、可愛らしい唇からツーっと血が滴り落ちた。そうでもしなければ、己の中の理性を殴り飛ばし衝動のまま駆け出してしまいそうになるからだった。

 

国を焼かれ、同胞達が散っていき、家族すら危機にあるこのときに、なにも出来ない自分の無力が、恨めしくて、憎くて仕方がなかった。それこそ、敵に対する憤怒よりもなお、激しい怒りを自分に対して抱くほどに。

 

と、其処へティオが心より安否を憂慮し、同時に心から信頼している人の声が響いた。

 

「ティオ、結界の中にいなさいと言っただろう! 」

 

「父上っ」

 

ティオのいる物見台に、竜の翼を背負う黒髪の偉丈夫が滑り込んでくる。ティオの父親にして、今代の竜人族の王ハルガ・クラルスだ。

 

ハルガの姿は酷いものだった。魔物の素材を使った戦装束は下手な金属鎧よりも頑丈だが、今はあちこちが焼き焦げ、破れ、あるいは千切れて、見るも無惨な有様になっていた。その下にある肉体も、大小様々な傷が走っており、特に腹部の傷からは大量の血が滴り落ちていて、止血もままならない様子だった。

 

ハルガは、竜人族の中でも最高の防御力を誇る黒竜だ。熟練しなければ行使できない人間の姿での〝部分竜化〟もできる強者で、たとえ戦装束の防御を貫かれても、肉体の竜鱗を纏ってあらゆる攻撃を弾いてしまう。

その身を以て盾となり、悪意と敵意の尽くを受け止めながら、敵陣に突進し蹴散らしてしまうその戦い振りから〝移動城塞〟などという二つ名がついたほど。

 

故に父の強靭さを知るティオは、凄絶な父の姿に言葉を失う。ティオの表情で、その内心を察したハルガは、苦笑いを浮かべながら片膝をついてティオと視線を合わせた。

 

「ティオ。どうやら我等は、ここまでのようだ。方々手を尽くしたが、やはり、作られた世界の流れを変えることは出来なかった。お前に、この王国の地を残してやれないこと、すまなく思う」

 

「そ、そのような、そのようなことをっ。何を言うのじゃ、父上! 竜人がこれしきのことで終わるなど……そんなことがあるわけないのじゃ! そうじゃろう?!」

 

「今や、我等は世界の敵………ティオ、いついかなるときも目を背けてはいけない。そう、教えた筈だ」

 

「父上っ」

 

悲痛な声音と表情で、美しい着物が汚れるのも構わず、ハルガに抱きつくティオは、父の言葉を必死に否定する。

 

そんなことがあるわけないのだ。竜人族は世界の〝守護者〟。あらゆる国、あらゆる種族を受け入れ、共に手を携え合い、手を差し伸べ、平和をもたらしてきた。どの国も、どんな種族も、多かれ、少なかれ、竜人族には恩義と敬意を抱いてきたのだ。

 

それが、たった数年。季節が幾つか巡る程度の間に、全てが変わってしまった。

 

竜人族は魔物である。竜人族は多種族を支配している。竜人族はいつ暴走してもおかしくない。竜人族は神に牙を剥く。竜人族は………

 

───神敵である

 

なんだそれは、とティオは思う。

 

〝完全竜化〟───地上のどんな種族も持ちえない固有魔法は、確かに、人々に大きな恐れを抱かせるだろう。だが、だからこそ、竜人族は誰よりも、どんな存在よりも、高潔であらんとしてきた。〝恐れ〟を〝畏れ〟に、そして〝畏敬〟へと昇華させるために。

 

愚直と言っても過言でないほど、竜人族は己を律し、他者を思いやり、勇気を示し、その身を剣に、あるいは盾にして、全ての人々と共存してきた。

 

結果、数百年の時を経て、過去の、そして今を生きる竜人達は、世界中から一種の楽園とも称される王国を築き、世界中が手を携え合える世界同盟の盟主になって世界を守り続けてきた。

 

───世界の守護者

 

───平和の紡ぎ手

 

───真の王族

 

人々の竜人族を称える言葉だ。

 

そう声高に称賛していた人々の口からは、今や狂気と共に罵詈雑言が吐き出されている。

 

まるで悪夢だった。手の平を返したように人々の悪意、恐怖、敵意………。

 

ティオは実際に世界規模の多種族混合連合軍と謎の〝竜〟が指揮する異様な魔物の軍勢の侵略を受けてもまだ現実を受け入れられないでいた。

 

赤に染まり、狂気が満ち、同胞達が散っていく……そんな夢の世界から、深緑の樹々と陽の光が反射してキラキラときらめく小川と、種族に関係なく笑い合い寄り添い合う人々の喧騒に満たされた世界に帰りたい。と。

 

「ティオっ! しっかりしなさい! お前は、もっとも若き、次代を担うクラルスの娘であろう! 」

 

「っ………父上」

 

父親の力強い叱咤の声に、夢幻に囚われていたティオはハッと我を取り戻した。

 

そして、いつまでも無様を晒している訳にはいかないと、あまりに不条理に零れ落ちそうになっていた涙をゴシゴシと払って、キッと睨みつけるような力強い眼差しをハルガに向ける。

 

そんなティオに対し、心底愛しそうに目を細めるハルガは直後、強く、強くティオを抱き締めた。それはまるで、二度と感じることはできない愛しく大切な温もりを、名残り惜しむかのように……。

 

余りの力強さに、ティオは「ふぐぅ」と苦しそうな声を漏らし、父に小さな抗議をしようとする。

 

が、開かれた口は噤まれることになった。父の肩越しに、ヴェンリの表情を見てしまったから。そして、父の抱擁から伝わる尋常でない気配に気がついてしまったから。そうすれば、当然、沸き上がる疑問。何故、父は戦場を抜けて自分の元へ戻ってきたのか。

 

────どうやら、我等はここまでのようだ。

 

蘇る父の言葉。未だ幼くして、母に宣言したあの時から、努力した結果、その聡明さにおいては大人顔負けとの称されるようになったティオは、それらの情報を統合して──総毛が立った。父親の意図を察し、愕然とした表情で自分を抱く父の横顔を見つめた。

 

「父上……嘘じゃろう? 嘘だと言ってたもう」

 

「……まったく。お前は本当に聡い。顔つきといい、言動といい、日に日にオルナに──母親に似ていく」

 

父の苦笑いを浮かべた表情を見て、ティオは確信する。今、この時が父との今生の別れの瞬間なのだと。

 

ティオは言葉にならぬ想いを、それでも何か言わぬと口を開こうとする。が、その寸前、都の中心から凄まじい轟音と〝竜〟の咆哮と衝撃が伝播した。物見台を倒壊させかねないほどの爆風に、ティオは顔を庇って身を縮めてしまう。

 

そうして、静寂が戻って一拍。ティオやハルガが共に厳しい表情で視線を転じれば……

 

「な、なんということをっ」

 

「………ぁ」

 

ティオは悲鳴のような声を上げた。

 

爆心地は、最初からなかったように更地となっていた。しかし、ティオが悲鳴を上げた原因は別。今、この瞬間も、一本、また一本と立てられていく木柱に磔にされた──同胞達の姿だった。

 

そうして気が付く。たとえ距離があっても、気が付かないわけがない。

 

同胞達を磔にさせたと思われる敵の大将と思われる白い巨大な〝竜〟の近くに磔にされてる女性は───母だ。

 

白に近い翠の長い髪に自分が受け継いだ黄金の瞳を持つ美しい女性。普段は穏やかで、優しい微笑んでいる姿なのに、一度、戦場に出れば、壮麗な風と、誰よりも速い飛翔で先陣を切り、敵を薙ぎ倒す勇猛果敢な、ティオが心から敬愛する人。

 

その母──オルナが、見るも無惨な姿で磔にされていた。その傷だらけの姿を見れば、いかに勇猛に、最後の瞬間まであの〝竜〟に向かって死力を尽くしたのは一目瞭然。そんな母が、晒し者にされていたのだ。

 

脳裏に大好きな母の言葉が過ぎっていく。

 

───ティオ。

 

───ホントにティオは優しい子。私の自慢の娘。

 

───流石ね、ティオ。ハルガや歴代の竜人族の王のように貴女なら未来の竜人族をまとめられるわ。

 

───愛してるわティオ。

 

母の言葉が、母が自分に向ける優しい微笑みが、母との記憶が、頭の中に溢れてくると同時にティオの瞳に、暗い炎が燃え上がった。普段は鮮やかと言える黒の魔力が、まるで負の感情という素材を煮詰めたかのように深く暗い色になっていく。己の制御など軽く吹き飛ばしてしまいそうな憤怒と憎悪が、幼き竜人の姫を、本物の化生へと転化させようとする。

 

「ティオッ!」

 

「っ、ちち、うえ?」

 

全身を包む魔力の奔流の中、巨大過ぎる怒りが、ティオの言葉を怪しくさせる。そんな、今にも衝動のまま、母を同族を殺し、磔にした〝竜〟に喰らいつきそうな娘を、ハルガは片膝を突いて再び、強く、強く、抱き締めた。

 

ティオはそんな父に憤怒と憎悪で輝く黄金の瞳を向ける。その眼は言葉よりも雄弁に、なぜ仇を討ちにいかないのか、なぜ、悪逆非道な輩共を、母を殺したあの白い〝竜〟を駆逐しないのか、なぜ、母を殺されてそんなに落ち着いていられるのか……そんな疑問を物語っていた。

 

そんなティオに、ハルガは、抱き締めたまま、小さく、されど透き通った声音で語りかける。

 

「──我等、己の存する意味を知らず」

 

ハルガは、無言でティオに続きを促す。ティオはふぅーふぅーと怒りの余り乱れる呼吸のまま、されど物心ついたときから聞かされ、教えを受けてきた古き言葉を口にする。

 

「この身は獣か、あるいは人か。世界の意味をあるものとするならば、その答えは何処に……」

 

応えた娘をより一層強く抱き締めながら、ハルガは言葉を重ねる。

 

「答えなく幾星霜。なればこそ、人か獣か、我等は決意もて魂を掲げる」

 

それは、敬愛する母から教えを受けた聖句の原典から、竜人族に伝わる誓約と決意の言葉。

 

「「竜の眼は一路の真実を見抜き、欺瞞と猜疑を打ち破る」」

 

ティオとハルガの言葉が重なる。ティオの身体から力が抜け、次第に落ち着きを取り戻していく。

 

「「竜の爪は天の楔を切り裂き、巣食う悪意を打ち砕く」」

 

ハルガが体を離し、愛娘の瞳を真面目から見つめる。大切なことを語るように。最後の教えを授けるように。言霊に乗せて、竜人族に相応しい心を取り戻していく。

 

「「竜の牙は己の弱さを噛み砕き、憎悪と憤怒を押し流す」」

 

ティオの唇から、再び血が滴り落ちた。理性を飛ばしそうな己に牙を突き立て、先にそうしたように己の心を律していく。

 

「「仁、失いし時、我等はただの獣なり。されど、理性の剣を振るい続ける限り───」」

 

そっと、ティオの唇にハルガの指が触れる。愛娘が噛み締めた血は、心が流した血と同義。それを拭い、それでいいと微笑む。

 

ティオの瞳に雫が溢れる。しかし、決して流しはしない。憤怒と憎悪が心を侵し、敵をあの〝竜〟を殺せと絶叫を上げ、それに身を委ねてしまいたいと思う〝弱さ〟を、幼き心は光の雫に変え、しかし、流してしまうのは竜人族の矜恃に反する。

 

────強く、優しく、高潔であれ。

 

古き言霊に込められた竜人族の在り方───それを、父の前で、最後まで民と同族のために戦った母の亡骸の前で、曲げる訳にはいかない。

 

ティオはスッと息を吸うと、それでいいと優しい眼差しを己に向ける父に頷き、最後の、父と母、そして家族に授けられた誇りを口にする。

 

「我等は〝竜人〟である!」

 

小さな身体をむんっと張り、声高に叫ぶティオ。ハルガは、もう一度、今度こそ最後であると、そして、己の誇りを具現化したような愛娘を、もう心配はいらないと万感の想いと亡き愛しの妻の想いを込めて抱き締めた。

 

「ティオ、よく聞きなさい」

 

「……はい。父上」

 

父と言葉を交わす最後の機会だ。流れ出しそうな涙を必死に堪えながら、ティオは、少女とは思えないほど決然とした声音で応える。

 

「我等の、いや、世界の本当の敵は、今、この国を侵攻している人々ではない」

 

「……世界を歪ませた存在──教会が崇める〝神〟」

 

ティオの答えにハルガは首を振り、ティオを見つめ直した後に少し訂正を入れて話す。

 

「ティオ、〝神〟は〝神〟でも教会が崇める〝神〟では無い。そんな輩よりも力を越えた者達──〝五神〟。それこそがこの世界の本当の敵だ」

 

「……〝五神〟」

 

「そうだ。あらゆる手を尽くし、その存在達を討たんとしてきたが……間に合わなかつた。故に竜人族はここで終わる。終わらねばならん。何故か分かるな?」

 

「はい。我等が滅びねば、世界中の人々が歪んだままになってしまう。だから、我等はここで終わりることで、この戦を終わらせねばならんのじゃ」

 

ぐっと重い感情を堪えながら、聡明さを示すティオに、ハルガは力強く頷く。

 

「真の敵である〝五神〟は強大で、狡知に長ける。だが、決して万能ではない。そして、いつの時代も、邪悪が栄え続けることはないのだ。故に、いつか、いつの日か、かの存在達を討つことが出来る者が、必ず現れるだろう。ティオ」

 

「はい、父上」

 

予言者の如く語るハルガは、ティオに、最後の、父としての願いと、竜人族の王としての命令を口にした。

 

「生き延びよ」

 

「ッ、父上。しかし、我等は───」

 

たった今、竜人族が滅びなければ世界は戦火に包まれたままだと語った父に、ティオは困惑する。ハルガは、そんなティオに、ティオ自身余り見たことの無い、らしからぬ不敵な笑みを浮かべた。

 

「敵の強大さを知りながら、手を拱いているほど我等は甘くない。竜人族は今日、滅びるが………それは歴史的に、だ。既に大陸の外に隠れ里を用意してる。そこへ行くための、神共にも知覚されぬ道もだ。父上と、そして、選ばれた同胞達と共に、其処で時が来るまで生き延びるのだ」

 

「なっ、爺様?! 父上、爺様は亡くなった筈……いや、そういう ことなのじゃな」

 

世界の流れが変わり始めた頃、目に見えない敵の影にハルガと先代の王にしてハルガの父──アドゥル・クラルスは、様々な手を打ってきた。そのほとんどは、一見すれば偶然と思える出来事──確実に、神々の手であろう策謀により潰されてしまい、その中で、先代の王として、最強の〝緋竜〟として名を馳せたティオの祖父のアドゥルは、銀翼の何かとの戦闘の末、亡骸の残らない戦死を遂げた筈なのだ。

 

だが、きっとそれは、敵を欺き、今のような滅びの時を迎えても竜人族を歴史の陰に隠せるよう手を打たれた、ハルガとアドゥルの一手だったのだと、ティオは察した。同時に、自分の死を偽装する手立ても、もう、打ってあるのだろう、と。

 

大好きだった祖父が、実は生きていたことに喜びを感じつつ、同時に悲しみがティオの心を襲う。

 

「……父上は、行けないのじゃな?」

 

「うむ、我は今代の竜人の〝王〟。この首なくして戦は終わらん。それに………」

 

「それに?」

 

「オルナだけを戦場に残していくことは出来ん」

 

少しだけ冗談めかしてそんなこを言う父に、ティオは淡く微笑んだ。ハルガはティオの髪をゆっくりと撫でながら最後の言葉を贈る。

 

「ティオ。私の黒鱗と、オルナの風と、アドゥルの火を受け継ぎし、我等クラルスの誇りよ。今日、お前の中に生まれた黒い炎と、生まれたときから持つクラルスの猛き炎を胸に、よく生きよ」

 

「はいっ……」

 

「それに、すまぬな……お前が心から決めた相手を見届けることが出来なくてな……ふっ、これは、オルナも悔いてるだろうな我もだが……」

 

「はい。はいっ、父上っ」

 

きっと、母オルナにも託された言葉と想いを伝え終えたハルガは、ヴェンリにティオを任せ、再び、終焉の戦場へと飛び出していった。そうして、最初から了解をしていたらしいヴェンリと共に、大陸の外へと繋がる秘密の場所へ向かうティオは、最後に見た。

 

この戦において、竜人達は、侵略者たる混成軍はほとんどを無力化だけにしただけで命までは奪わず、ある、〝竜〟の魔物の軍団を集中的に狙い戦った。最後まで、竜人族を信じて王国に残った者達は、この身を盾にして逃した。

 

神々の邪心に従って、人間同士で殺し合いなどやらない。たとえ、我等の身が朽ちようとも民を傷つけさせはしない。絶望に浸かってもやらなければ、怒りや憎しみがこの身を侵させもしない。

 

〝グルゥウァァアアアア!〟

 

『………』

 

ハルガは自身の攻撃を堂々と待ち受ける白き〝竜〟に強力なブレスを放つ。そのブレスと共に響き渡った竜の咆哮は、まるで、遙か高みから世界を嘲笑う神々への、竜人の誇りを汚せるものならやってみろという、ハルガの、そして散っていった竜人達の、挑戦状のようだった……。

 

「父上ェェェェェ!」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「………んぅ」

 

ティオは薄目を開けながらゆっくりと身体を起こす。部屋の窓を見るとまだ朝日が昇っていない時間帯だと知る。

 

「………妾…ん? ……っ」

 

周り見渡してると、ティオのすぐ傍に何かいた。よく見ると、、其処には生まれたままの姿のハジメがおり、よく見れば自分も一糸纏わぬ姿だと気付き、驚きの余り、大声を出しそうになったが、ティオは昨夜のことを思い出し、顔を赤くしながらも大声を出さずに済んだ。

 

「そうじゃったな………(そうじゃった……妾、昨夜、ご主人様と……)」

 

そう、帝国に向かう前夜、ティオとハジメはノイントの戦いの際にティオが約束していたハジメに可愛がって欲しいということで、一夜を共にしていた(優花達からは了承を貰っている)。

 

ティオは昨夜のことを思い出し、みるみる、顔の温度が上がっていることに気付き、両手で顔を覆うおうとしするがあることに自分のあることに気付き、口にしてしまう。

 

「……でも何故、妾は涙を流してるんじゃ?」

 

それは一筋の涙だった。そして、無性に自然と自分のいつまでも敬愛している人達の名をギュッと毛布を両手で握り締めながら口にしていた。

 

「……母上……父上」

 

「……ん? ティオ?」

 

「!」

 

そう呟くと、同じベッドで寝ているため、ベッドが異様に揺れるのを感じたのかハジメが頭を掻きながら身体を起こして、薄目ながらもティオに話しかけた。

 

「なんだ、ティオ。まだ夜じゃねぇ………」

 

「ご、ご主人様?」

 

ハジメは話していたがティオを見て、言葉を失い、体を微動だにしないかのように止まり、ティオは疑問に思いハジメの手を触れながら話ししかける。

 

「ご主……?!」

 

ティオがハジメが手を触れようとした瞬間、ハジメは触れようとしたティオの手を掴み、自分の方へ抱き寄せる。ティオは唐突のことで顔をみるみる赤くなっていく。

 

すると、ハジメは心配してそうな表情をしながら口を開き話しだす。

 

「ティオ……泣いてたのか?」

 

「……っ(そうじゃったっ、涙を拭うの忘れててもうたっ)」

 

「原因が俺なら悪い。もし、お前を不快にさせてしまったのならホントにスマねぇ……」

 

「ご主人様っ、これは、違うのじゃっ!」

 

ハジメはティオの目元に流れていた涙を自分の指で拭き取りながら謝るように話していく。その表情は少し悲しそうに見えたティオは必死に否定して、ハジメの胸に寄り添いながら話す。

 

「……夢を見たんじゃ、妾の昔の幸せだった記憶と、悲しい記憶じゃったと思う」

 

「はぁ………そういうことか。安心した…クハっ…でも、珍しいなお前が夢で涙を流すなんて……」

 

「ムッ……」

 

涙を流した理由を話すティオにハジメは苦笑混じりに安心し、安堵の息を吐きながら寄り添っているティオの頭を撫でる。すると、ティオは顔を上げながらハジメの顔を見て、頬を膨らましムッとした表情をした。

 

「なんだよ?」

 

「ご主人様は妾が怖い夢で泣かない冷血な女だと思っておるのか?」

 

「違ぇよ。沢山のことを抱えているお前が俺に甘えてくれることに嬉しいんだよ俺は………」

 

「!(ご主人様……まさか)」

 

ティオはハジメが自分のことを冷血な女だと思っているのかと思い眉を顰めると、ハジメはそれを否定しながら自分の核心をつく発言をする。

 

ティオは内心、ドキリとするも、当のハジメはそんなのを気にしないのか話を続けていく。

 

「ティオ、お前が俺達に着いてきた目的は惚れた以外に何かあるのは分かっていたさ最初からな……」

 

「どうしてじゃ?」

 

「そうだな……まず、ウルの件が終わった後に、大迷宮の話をした際にお前の魔力の乱れを感じたからな。まぁ……俺以外にユエも感じていたらしいし、ユエもあん時から知ってるかもな……」

 

「………」

 

ティオはハジメの話を聞いて言葉を失ってしまう。しかし、ハジメは話を続ける。

 

「まぁ、確信したのはノイントの野郎との戦いの際だった。お前の目付きはガラリと変わってたからな口調や他は取り繕っていて、普通じゃ分かりにくいが俺にはバレバレだったぞ? それで思ったんだ。ティオ、お前は俺達を自分の復讐に利用しているんじゃないかとな……」

 

「………ご主人様の思ってることで合っているのじゃ。幻滅したかの?」

 

ハジメの考察に圧倒されたティオは諦めたように目を伏せながらハジメの考察は正解だと話す。しかし、ティオは真剣な表情でハジメを真っ直ぐ見つめながら声を上げる。

 

「……でもっ、妾のご主人様への想いは嘘じゃないっ! 洗脳された妾を救ってくれたっ。竜人である妾を気にせずに仲間だと大切な人だと傍にいさせてくれたっ。ご主人様を愛してるこの気持ちは変わりないのじゃっ!」

 

「……ティオ」

 

ティオは初めて自分の本音を口に出していく。

 

「幻滅したならもう妾を仲間だと、大切な人だと思わなくて良いっ。でもっ、この想いは、ご主人様……貴方様を愛してるこの気持ちだけは本物だって本心だって信じ……「ティオ」……ご主人様?」

 

どんどん本音を言ってエスカレートしていくティオをハジメは亡き父──ハルガのように強く、強く抱き締めた。

 

そして、ハジメはティオを抱き締めながら優しく話しかけていく。

 

「俺がいつお前を、幻滅したと言った?」

 

「でも………」

 

「俺は、ティオ、お前のことも大切だし一人の女性として愛している。後、言ったろ? 俺は大切な人のためなら俺の全力を幾らでも使うのも惜しまないって……」

 

「……復讐のためじゃとしても?」

 

「あぁ、それでもさ……」

 

「…………(ホントに、この殿方は………)」

 

ハジメの言葉にティオは夢で流した涙とは違う。心が温まるような涙を流してしまう。けれど、それに気付いたハジメはそっと、笑みを浮かべながら指で拭いとる。

 

「……ティオ」

 

「……ご主人様」

 

そして、二人は互いを見つめ合いながらそっと唇を合わした。キスをして、十数秒経った後、二人は互いに唇を離すと、ティオはハジメに寄り添いながら頭を胸元に埋める、ハジメはそれに応えるように抱き締めた。

 

そして、ティオはいつの日か大好きな母にしたみたいに甘えた表情でハジメにお願いをする。

 

「妾、まだ、ご主人様の温もりを感じたいのじゃが……良いかの?」

 

「クハッ……構わねぇよ。俺の竜姫」

 

そんなティオのお願いをハジメは笑いながらも優しい眼差しを向けながら了承した。ティオはその言葉を聞いて、嬉しそうにハジメの胸元に顔を埋め、ハジメの温もりを感じて自分の心が温まっていくのを感じる。

 

「……愛してるのじゃ」

 

(父上……母上……見つけたのじゃ、妾の出逢い……心から決めた殿方を………)

 

まだ、朝日が昇らず、月が王国を照らす中、王城のとある客室で一人の奈落の化け物と一人の竜姫が互いに愛を確かめあった…………。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ー帝国ー

 

「………」

 

帝城のとある月が見える部屋にある和装を着た男が無言で景色を眺めていた。そして、一万年ほど前にある〝黒い竜〟に傷をつけられた胸元に触れていた。

 

「我が神よ……神?」

 

すると、部屋の扉が開き、一人の豪華な装束を着た男が入り、和装の男に跪き、話しかけるが、反応がなく、男は首を傾げながらも話しかける。

 

「………あぁ、お主か」

 

「はっ、我が神よ……」

 

「……計画はどうじゃ?」

 

「はい。順調であります。そろそろ、俺との婚約の為にハイリヒ王国から王女が来訪するので、婚約パーティーの際に計画を実行しようかと思います」

 

「そうか……貴様の手腕を楽しみにしてるぞ。これは、儂もだが、我が主も期待しておられるからな」

 

「しょ、承知しまたしたぁ!」

 

男の存在に気付いた和装の〝男神〟は計画の進み具合を聞いて、男の手腕を期待してると答え、男は跪ずきながら声を上げ感謝していた。

 

「……よし、計画の進み具合を知れたから貴様は戻って良いぞ?」

 

「……あ、あのっ、我が神よ!」

 

「何じゃ?」

 

男神に戻れと言われた男は戻らず男神に話しかける。しかし、男神は面倒くさそうに男を睨むが、男は怯まずに震えながらも口を開き話しだす。

 

「あの一つ、聞いても宜しいでしょうか?」

 

「一つだけじゃぞ?」

 

「はっ……あの、その胸の〝傷〟は………?」

 

「これか……」

 

男の願いに男神は自分が睨みを効かせたのに怯まず聞いてくる度量に仕方なく、聞くことにした。そして、質問されたのは、この胸の〝傷〟のことだったので、溜息を吐きながらも短く話す。

 

「一万年程前だったか……儂等に挑もうとした〝黒竜〟にやられた傷だ。ホントに忌々しい」

 

「さ、際ですか……」

 

「よし、話したぞ。貴様はもう、戻れ。鬱陶しい」

 

「は、はいィィっ」

 

男神は質問に答えたので男を睨みながら部屋を出ろと促す。男はそれに従い、すぐさま、部屋を出た。そして、男神は月を見て、両方の拳を血が流れるほどの勢いで握り締め一言ポツリと呟いた。

 

「あぁ、ホントに……忌々しいクラルス(・・・・)の一族め」

 

その男神の憎しみを込めた言葉は誰に聞こえはしなかったが、月が照らす中、木霊していた………。

 




編集しました。八月一日

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