プロローグ
月曜日
それは一週間の内で最も憂鬱な日の始まりである日。そんな日の朝、お気に入りの髪留めを付けた栗色髪の少女が準備を終えて、大切な幼なじみの家へ向かおうと、玄関で靴を履いているところだった。
すると、おっとりした雰囲気を放つ大人の女性が奥の部屋から、あら?といった様子で出てきた。
「あら、優花もう行くの?」
「うん。ハジメが昨日から愁さんの手伝いで徹夜したらしいから起こしにいこうと思って」
そう言って、靴を履き終えた少女──優花はコチラに歩いてくる母──優里の方へ視線を転じると、優花の言葉を聞いた優里はイタズラな笑みを浮かばせ嬉しそうに話す。
「あら、お熱いことね〜」
「もうっ、いってきますっ!」
「ふふ、いってらっしゃい」
優里に揶揄われ恥ずかしさの余り顔を赤くする優花は、少しイラッとしながらも見送る優里を背に幼なじみのハジメの家に向かうために家を出たのであった。
ー南雲家ー
歩いて数分程で幼なじみの家に辿り着いた優花は玄関の傍にあるインターホンを鳴らした。
『は〜い』
ピンポーンと呼び鈴が鳴ったすぐに、女性の声が聞こえると共にドアから出たのは、ハジメの母──菫だった。菫は家に来た人物が優花だと分かると、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「あら、優花ちゃんおはよ〜」
「おはようございます、菫さん」
挨拶する菫に優花も挨拶をする。そして、菫は優花が家に来た理由はわかっているのでいながらも嬉しそうに尋ねる。
「今日はハジメを起こしに?」
「はい。まだ、ハジメって寝てます?」
「そうなのよ〜。何度、呼んでも起きないのよねぇ〜。優花ちゃん、ハジメを起こすのお願い出来る?」
「はい、分かりました」
菫の頼みを聞いた優花は家に入れて貰えると、そのままぐっすりと寝てるであろう幼なじみの彼の部屋へと向かうのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「──きて」
自分しかいないだろう部屋から他人の声が聞こえたハジメは最初は誰だ?と思ったが、声からして大切な幼なじみであると分かり確認するべく重たい瞼をゆっくり開ける。
まだ眠いのだが、伸びなどしてできるだけ眠気を飛ばして、自分の横にいる人物に目を向けた。予想通り自分の目の前いたのは、大切な幼なじみである園部優花だった。
「おはよ、ハジメ」
コチラに笑顔を向けてくれる優花を見て、「天使かよ」と思ったハジメだったが彼女の姿が制服姿なのを見て、今日は月曜日で平日。そうなると学校があると思い出したハジメは、頬から嫌な汗が流れる。
「あ、ああ〜はよ、優花。…………なあ、もしかしてだが、時間ヤバそう?」
「うーん。後、30分寝てたらヤバかったわね」
「……マジで、助かった。OK、今すぐ準備するから、下で待っててくれ」
「うん、そしとくね」
最悪な事態は回避できたことに安堵したハジメは、優花が部屋から出ると急いで準備を始めたのだった。下にいた菫は、上からガタガタと音が聞こえ始めたのが分かると、やっと起きたのかと溜息を吐くのであった。
ー数分後ー
急いで準備を済ませたハジメは、制服もネクタイなどちゃんと結んでおらず乱れ、口には、ギュウギュウと押し詰めたパンを飲み込みながら外で待っている優花の元へ向かう。
玄関を出ると、すぐ隣で優花が鞄を両手で持ちながら待っていた。ハジメは口に残るパンを一気に飲み込むと優花に声をかける。
「……ふぅ……待ったか?」
「ううん、全然。あ、ネクタイ結べてないわよ。ほら、やってあげるから」
「う、すまん」
もうっ、といった様子でハジメのネクタイを結ぶ優花にハジメは申し訳ないと思いながら周りを見渡すと、いつものメンバーがいないことに気付く。
「浩介達は?」
「先に学校に行ってるて」
「じゃあ、しょうがねぇ。自転車で行くぞ」
ハジメは優花に、他の幼なじみ達はもう学校に向かったと分かると車庫に置いてある自転車を取りに行く。すると、隣にいる優花がジト目の視線をハジメへ送る。
「まさか、二人乗りで行く気?先生とかにバレたら、また叱られるよ?」
「そんなん、バレなきゃ良いだろ?」
「はぁ〜、はいはい」
悪い顔して答えるハジメに、呆れた顔をする優花であったが諦めたのか少し笑みを零しながら鞄を椅子替わりにしてハジメの自転車の後ろに腰を降ろす。そして、そっと後ろから手を回すと背中に身を預けながらハジメにしがみつく。
「じゃあ、行くか」
「うんっ」
相槌と共に走り出す自転車に、優花は吹いてくる心地よい風と今、身を預けてる大切な幼なじみと一緒にこうしていられる日々に幸せを感じるのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
自転車を漕いでいき、学校のすぐ近くの通りまで着くとハジメと優花は、先生(教頭)にバレない為に自転車を押して歩いて学校へ向かう。
そして、校内の駐輪場に自転車を置くと、ハジメ達は自分達の教室まで二人並んで歩いていく。だが、隣の優花が段々と足取りが重くなっていることに気付き視線を向けると彼女が難しそうな顔になってるとこに気付くハジメは首を傾げる。
「どうしたんだ、優花?」
「いや……今日もあの子が突っかかるかなぁ〜って」
「あぁ、あいつか……」
疑問に答える優花が口にしている人物が誰であるのかを察したハジメは、自身も女子生徒とその幼なじみの顔が頭に浮かんだ直後、嫌そうな表情へ変わる。
「そうだな。あいつが来たらホントに面倒くさくなる。あのキラキラ野郎も来るからな」
「キラキラ野郎って…」
ハジメの絶妙なネーミングセンスに吹きそうになる優花。
そして、そんな会話を二人でしてる内に、自分達の教室に到着し扉を開けた。その瞬間、クラスの男子のごく一部が舌打ちするもハジメの睨みにビビってそっぽを向く。その他大勢は無視、畏怖、様々な反応を示す。
しかし、ハジメはそんな視線など気にせず呑気に欠伸しながら、優花と共に自分達の席に向へかおうとしていると先程、話題に出ていた問題の女子生徒が二人の前に現れた。
「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。 もっと早く来ようよ!」
ニコニコと微笑みながら一人の女子生徒がハジメと優花の二人に歩み寄った。この女子の名は白崎香織という。学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇っている少女だ。
そんな彼女は何故かハジメの事を執拗に構ってくる。そのせいで、彼女の幼なじみ(特に一人)が変に勘違いを加速してしまいハジメに突っかかったりする。そのせいで、中学でハジメがした事が幼なじみ達以外で、この高校に入学していた奴が周りに言いふらしてしまい〝不良〟として見られるようになってしまったハジメ(しかし、成績はクラスで十位圏内)。
しかし、その程度なら良かったのだが、ハジメはこの女子生徒──白崎香織に対して嫌気する最大の理由。
それは………
「あぁ………おはよ白崎」
「おはよう、香織」
ハジメと優花が共に挨拶をすると、何故かハジメの挨拶には頬を赤らめ嬉しそうにする香織であったが、その後の優花の挨拶、そして当たり前のようにハジメの隣にいる優花の顔を見た途端、ハジメの時とは真逆で能面のような表情になり、その目も冷めている。
「園部さん、いたんだね……おはよ」
まるでそこに居たんだような反応で冷たい挨拶をする香織。そう彼女は、何故か優花に対しては態度か冷たいのである。この高校に入学した当時からこんな嫌悪感を顕にするような態度を取る白崎香織をハジメは心から嫌気がさしていた。
「白崎……そこどいてくれ。早くに席に───」
適当に挨拶は終えたのでハジメは香織より更に面倒臭いキラキラ野郎が来る前にと、どうにか話を切り上げようとしたその時だった。
「南雲君、園部さん おはよう。毎日大変ね」
奴のお世話係が現れてしまったのを見て、ゲームオーバーだと理解したハジメは嫌そう表情で「ちっ」と舌打ちを漏らす。すると、やはりと言うべき後ろから奴と一人の大柄の男子生徒がやってきった。
「香織、また南雲の世話をしているのか? 全く、香織は優しいな。園部さんも南雲の世話で大変だね」
「よぉ、南雲! 園部! 遅刻ギリギリじゃねぇかよ」
最初に挨拶をしたのは、三人の中の一人の女子生徒の名前は八重樫雫。白崎の親友だ。ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークである。切れ長の目は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられるため、冷たいというよりカッコイイという印象を与えている。
それに、百七十二センチメートルという女子にしては高い身長と引き締まった体、凛とした雰囲気は侍を彷彿とさせており、事実、彼女の実家は八重樫流という剣術道場を営んでおり、雫自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。現代に現れた美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしばあり、熱狂的なファンがいるらしい。後輩の女子生徒から熱を孕んだ瞳で〝お姉さま〟と慕われて頬を引き攣らせている光景はよく目撃されている。
次に、些いささか臭いセリフで白崎と優花に声を掛けるのが天之河光輝。いかにも勇者っぽいキラキラネームの彼は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人。
サラサラの茶髪と優しげな瞳、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった体。誰にでも優しく、正義感も強い(思い込みが激しい)。
光輝は特に面倒で入学当初からハジメの中学でやらかした事を耳にしたのかハジメに対しては妙に突っかかり、対抗心を燃やしたりしてるせいでハジメとは犬猿の仲である。そして、ハジメ本人は知らないがある時期から更に面倒くささが拍車がかかってしまっている。
最後の男子生徒は坂上龍太郎といい、光輝の親友だ。短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、百九十センチメートルの身長に熊の如き大柄な体格、見た目に反さず細かいことは気にしない脳筋タイプである。
坂上とは、体育の時にハジメの鍛え抜かれた肉体を見て何のトレーニングしてるのか、何かスポーツをしてるのかと話し掛けられたのが最初で、今では好みの漫画の話が合ってか仲良くしている。
そんな、三人にハジメは挨拶をしてくれた
「よぉ。八重樫、坂上」
「おはよう、雫、坂上、後、天之河君……」
すると、自分が挨拶に省かれたのが気に食わなかったのかハジメを睨みつける光輝が声を上げる。
「おい、南雲! 何故、俺に挨拶をしない!?それに、いつまでも香織と園部さんの優しさに甘えるのはどうかと思うぞ!二人だって君みたいな不良に構ってばかりはいられないんだからな!」
いつもの定番である光輝のご都合主義の発言、そして、香織と優花に甘えてるという発言に「あ?」と怒りの声を漏らすハジメの目付きが鋭くなり光輝を睨みつける。
そして、いつもより少し声音を低くしながらハジメは光輝への嫌悪感を隠さずに口を開いた。
「うるせぇよ、天之河。まず、俺は挨拶しねえ奴に挨拶をする気がねぇよ。それに、誰が白崎に甘えてるって? 冗談はよしてくれ」
「っ、なんだと!」
「あぁ? やんのかキラキラ野郎」
ハジメの物言いにキレる光輝。拳を握り締めながら前に出る。対してハジメも前に出て一髪触発の状態になる。そんな二人の今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気を察してクラス全体がザワめき始める。
しかし、そんな周りを気にせずに睨み合いを続ける二人はもう一歩前へ踏み出そうとした瞬間だった。
「やめなさい、 光輝!」
「ちょっ、ハジメ ストップ!喧嘩は駄目だって!」
今でも、喧嘩が始まりそうになる前に両者に対して、二人のストッパーである幼なじみ二人が止めに入る。雫は、光輝の制服の襟を掴むと同時に物理的に止めさせ、優花も雫と同じタイミングでハジメの腕を自分にギュッと抱き寄せ前に行かせないようにする。光輝は雫から後ろで襟を掴まれたことでグエッと声にならない声を漏らす。一方、ハジメも優花の制止の声と腕を抱き着かれたことにその場で押し留まる。
そして、頭が冷めたのか二人は喧嘩する気を無くす。
「チッ、朝からこうだとやってらんねぇ。行くぞ、優花」
「! う、うん」
そう言いながらハジメは舌打ちしつつ、そのまま優花を自分の腕の中へ抱き寄せる。唐突にハジメに抱き寄せられた優花は、顔が赤くなり、少し戸惑いながらもハジメと共に自分達の席へ向かい歩き出す。
「おい待て、南雲!話がま──」
「光輝。もうすぐホームルームだし俺達も席に戻ろうぜぇ〜」
「そうよ、光輝。龍太郎の言う通り私達も席に戻りましょ?」
「っ、わかった」
「………………チッ」
光輝は、まだ会話が終わってないのに自分の席に向かうハジメを止めようとするが、幼なじみ二人に止められ、不満ながらも二人の言葉に従って自身の席に戻っていく。
そして、香織の方はハジメに自然に抱き寄せられている優花の姿を見て小さく舌打ちをするのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふぅ………」
朝から災難続きで余計に疲れてしまい、席に辿り着いたと同時にハジメは大きく息を吐く。
そして、先程の出来事と徹夜したせいか物凄い眠気で授業をまともに受けられるのは困難と判断し、午前中の間は寝ることにしたハジメは、隣の席に座る優花にそのことを伝える。
「優花」
「…ん、どうしたの?」
「少し寝るわ」
「んー、わかったわ」
ハジメの言葉に優花は少し唸ったが、しょうがないな〜と思いながら何も苦言を呈することなく了承する。了承を得れたハジメは、机に突っ伏すとそのまま夢の世界へと旅立っていくのであった。
「───スーッ」
「寝るの早すぎ」
の〇太かよ、思える眠りに入る速さに優花は苦笑いをこぼすが、気持ちよさそうに眠るハジメの姿を見て優花は微笑みながら寝てる彼の髪を優しく撫でる。
「ふふ。(ホントに、いつもこんな感じなら皆からにも怖がられられなくて済むのにな〜)」
「おお、園部ー」
優花は笑みを浮かべてるながら、そんなことを思っていると、すぐ近くから幼なじみの声が聞こえ、その方向へ視線を向けると遠藤浩介、菅原妙子、宮崎奈々の中学からずっと一緒にいる三人の幼なじみがそこにいた。
「はよ〜。ユウカっち」
「おはよ、優花」
「朝っぱらから災難だったな」
「三人とも、おはよ」
声をかける三人に優花も挨拶を返すと、奈々が机に突っ伏して寝てるハジメを見て呟く。
「ハジメっち、もしかして徹夜?」
「うん。愁さんの手伝いしてたみたい」
「わぁ……」
「それはハジメもお疲れだったな」
理由を聞いて何となく事情を察する三人。優花は三人とそんな他愛のない話をしていると、何処からか突き刺すような視線を感じ取って背筋がビクッとなる。
「……っ!」
「どうしたの優花?」
「え? ううん、なんでもないよ」
「じゃあ、先生も来そうだしまた後でね」
「うん」
もうすぐ担任が来るだろうと三人はそれぞれ自分の席に戻って行く。一方、優花は突き刺す視線の方に向けると、そこには予想通りの人物が自分を見ていた。
その人物とは白崎香織。彼女は初めて出会った時からハジメのことをなにかと気にかけており、幼なじみの自分に対しては、いつも冷たい態度をとられてるのだ。
理由は分かっているが優花としては別にどうでも良い。しかし、変にハジメを心配させたくない為やめて欲しいと思ってると、教室の扉が開き担任の先生が入ってくる。
そして、そのままホームルームが始まるのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
昼。午前ラストの授業が終えて教室が再びざわめきだし始める。しかし、まだ眠るハジメ。しかし、その隣から優花の声が聞こえ薄目を開けながら、優花を見る。
そんなハジメの姿を彼女は少し呆れつつも笑みを向け、起きたハジメに話しかける。
「ハジメ、寝すぎ。もう昼よ」
「……おお」
優花の声に応えてハジメは上体を起こし伸びをしていると、各々の弁当箱を手に持ちながら浩介達三人がやって来ていた。
「よぉ、ハジメよく寝れたか?」
「ハジメ、はよぉ〜」
「ハジメっち 〜おはよー」
「おう」
ハジメは声をかける三人に挨拶を返す。そして、浩介達が席に座ると同時に朝、優花から貰っている弁当箱を取り出す。すると、浩介はハジメの弁当を見る。
「ハジメ、弁当は……って、いつものか……」
「あぁ、ホントにいつもすまない優花」
「ううん、大丈夫」
何故、ハジメは優花の手作り弁当なのは理由があった。それは、母である菫がハジメにとんでもない事を告げたのが始まりだった。
『ハジメ、私弁当を作らないわ!』
『……は? なんで?』
『疲れたのよ……』
『おい、ゴラ』
菫に理由を聞くと、本当にどうでも良い内容で、ハジメはそんな軽い理由に対して青筋を立てる。
『おい、何勝手に──』
『でも、安心しなさい! これからは優花ちゃんが作ってくれるって、本人も優里さんも了承済みよ!』
『ハァッ?!』
用意周到な母から告げられる言葉に驚きの連続であったがハジメは高校に入ってから、優花が作った弁当を食べる事になった。嬉しいには嬉しいが、優花の負担になってないか心配で仕方ない。
「やっぱ、優花……毎日は負担じゃねーか? もし、キツそうだったらコンビニや購買で済ませるが」
「大丈夫だよハジメ。料理の練習にもなるし……それにハジメが美味しそうに私の料理を食べてくれるの嬉しいからさ」
「お、おう」
なんも恥ずかしくもなさそうに笑って答える優花。負担にはなってないようで少し安心したが彼女の笑みにハジメはドキッとなる。そして、そんな二人の会話を奈々と妙子はニヤニヤとしながら見守り、浩介は「早く付き合っちまえよ」と溜息混じり二人を見ている。
そして、五人は談笑しながら、そろそろ食べようかと思った時だった。ハジメ達の元へ女版面倒臭い奴がニコニコと弁当箱を持って来ながらやって来た。
「南雲君。私も一緒に食べて良いかな?」
「断る」
「こら、キッパリとそんな事言わない」
「あだっ」
一緒に食事をしたいと言う香織は、ハジメの拒否の即答に戸惑いを見せる中、彼の隣に座る優花は、即答するハジメの頭にチョップする。しかし、香織の方と言うと諦めていないのか、それとも優花とハジメの二人の甘い雰囲気にムカついたのかとんでもないことを口にした。
「えっ、じゃあ、私の分のお弁当も少し食べる? その弁当よりもきっと美味しいと思うよ」
香織からしては自分の手作り弁当を食べて欲しかっただけだろう。しかし、その貶めるような発言にハジメの琴線がプツンと切れた。
「あ゛?」
ドスの効いた一声に場の空気が一変しハジメは香織を鋭い目付きで彼女を睨みつける。が、キレてしまったハジメを優花が咄嗟に手を引っ張ってハジメの怒りを納めようと動くも、あの発言にはハジメの他にも幼なじみである浩介や奈々達も香織に怒りを顕にし彼女を睨みつけている。
折角の昼飯を台無しにされて、更には優花の手作りを貶めるような発見に怒り心頭のハジメは香織を追い払おうとするが、その前に一人の男子が席を立つ。
「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲は彼等と食べているしさ。それに、せっかくの香織の美味しい手料理を食べるなんて俺が許さないよ?」
爽やかに笑いながら、気障なセリフを吐く光輝にキョトンとする香織は……
「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」
「「「「ブフっ」」」」
素で聞き返す香織に思わず雫とハジメ達は吹き出した。
そして、此処では静かに食えないと判断したハジメは場所を移動するついでに優花の弁当を貶した仕返しを込めて口を開いた。
「しかし……ホントに白崎の料理は美味いのかよ?俺は人の手作りを貶めようとする奴の手作りなんて食いたくない」
「え……」
「ちょっと、ハジメ言い過ぎ!」
その発言に香織は、目のハイライトが消え唖然とし力が抜けたのか手に持つ弁当を落としそうになる。
優花には注意され止められたが、やはり香織の発言に対して怒りが収まらないハジメは仕返しをしたのだ。すると、案の定か光輝がハジメの発言を聞いた途端、キレたのか怒りの表情でハジメに掴みかかる。
「南雲!香織に謝れ!」
「……何故? 最初に優花のを貶したのはアイツだ」
「っ、貴様ァ!」
「光輝、ダメよ!」
怒りに眉を顰める光輝はハジメの素っ気ない態度に更に腹が立ってしまったのか、雫の制止の声も聞かずに光輝は殴り掛かろうとする。ハジメも動こうとした瞬間だった。
「……っ」
「何?!」
その瞬間、クラス全体が凍りつく。
それもそうだ。ハジメに殴り掛かろうとした光輝の足元から純白に光り輝く円環と幾何学きかがく模様が現れたからだ。
その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様──俗に言う魔法陣らしきものを注視する。
その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大していき、遂には、ハジメ達の足元を越えクラス全体まで行き渡り異常が迫って来たことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒達。未だ教室にいた先生の畑山愛子が咄嗟に「皆! 教室から出て下さい!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。
ハジメは急いで掴みかかる光輝を押し退け、すぐ隣にいる優花だけは守ろうと即座に動き手を伸ばしすと同時に声を上げる。
「優花!俺に捕まれ!」
「!……うん!」
その声を気付いた優花はハジメに手を握り、引っ張られると同時に彼にギュッとしがみついた。それを確認したハジメは守るように覆いかぶさって、優花を抱き締める。
そして、その瞬間──この日、教室にいた全ての生徒、教員が消えたのだった……。
アンケートは明日の12時に締め切ります。
編集しました。十月二十六日