雑多。
【ヘルシャー帝国】の首都はどんな所なのか?と聞かれたらその一言だろう。
徹底的に実用性を突き詰めたような飾り気のない建物が並ぶ一方、後から継ぎ足したような奇怪な建物よ並ぶ場所もある。
ストリートは、区画整理?何それ?と言わんばかりに大小入り乱れ、あちこちに裏路地へと繋がる入口がある。
雰囲気も、何処か張り詰めたような緊張感があり、露店を出している店主ですら〝お客様〟という考えからは程遠い荒々しい接客振りだ。
だが、決して淀んでいるわけでも、荒んでいるわけでもない。誰もが、それぞれやりたいことをやりたいようにやっているのだという自由さが溢れているような、そんな賑やかさがあった。何があっても自己責任、その限り自由にやれ!という意気が帝都民の信条なのかもしれない。
【ヘルシャー帝国】は数百年前の大戦で活躍した傭兵団が設立した新興の国で、実力至上主義を掲げる軍事国家だ。
「後、帝都民の多くも戦いを生業としており、良く言えば豪気、悪く言えば粗野な気質だ。帝都内には大陸最大規模の闘技場などもあって、年に何度も種類の違う催しが大いに盛り上がっているらしいわ」
と、優花が帝都内を歩きながら王国の図書館の本に記されていた帝国の情報を封印されていたユエとか脳筋の龍太郎など帝国のことを余り知らないメンバーに説明していたがその中の聞いていた一人、雫が顔を引き攣りながら優花に話しかける。
「あのね、優花……説明は嬉しいけどそろそろ南雲君をどうにかしてくれない?」
と、言って雫はある方向に指を指して其処にいるメンバーが一斉に同じ方向に視線を転じる。
其処には……
「おいっ、おまえ……ぐぺっ?!」
相手が話しかけた途端、問答無用に沈めていたハジメの姿だった。
「雫……ハジメの事は気にしなくて良いわよ」
「いや、でも……」
優花の言葉に雫は口を噤むが優花は続ける。
「安心して、ハジメも半殺しぐらいだろうから」
「良いのそれは?!」
「だって……ハジメが私達の為だって……」
「はぁ……そういうことね……」
雫のツッコミを入れるが優花はハジメに対してお互い押しに弱く、雫は優花の様子をハジメに押し負けたのだろうと溜息を吐く。
それは帝都内に入ることが出来たハジメ達だったが、当然、美女、美少女を引き連れていたハジメが目立たないわけがなく、仕切りにちょっかいを掛けられては問答無用に沈めるということを何度も繰り返していた。
優花も最初はやり過ぎと怒ろうとしたが、ハジメ曰く「新しい町に入る度に、こういうのに出会うから〝威圧〟じゃ足りないと判断して徹底的にブチのめすことにした。そしたら人が寄って来ない」と優花に話しており、優花はしょうがないと思い了承していた。
今も、ニヤつきながら寄って来た男をハジメは強制的にトリプリアクセル&地面に濃厚キスをさせていた。
しかし、周囲はそんな暴力沙汰をどうとも思っていないらしく、普通にスルーしている。この程度の〝ケンカ〟ならごく普通の日常茶飯事なのだろう。
「うぅ、話には聞いてましたが……帝国はやっぱり嫌なところですぅ」
「シア、気分が悪くなったらちゃんと私に頼りなさい」
「帝国は王国とは違って、根っからの実力至上主義の軍事国家ですからね」
「そうじゃのぅ。アレスの言う通り、軍備が充実してるどころか、住民でさえ、その多くが戦闘者なんじゃ。この程度の粗野な雰囲気は当たり前と言えば当たり前じゃろ。妾も住みたいとは全く思わんがの」
予想した通り、シアもティオも帝都はお気に召してないようで、優花はシアを心配しており、アレスも「……この、雰囲気はやっぱり変わってませんね」と嫌そうに眉を顰めるも変わらないことは重々承知の為か肩を竦めている。無言ではあるがユエも同意するように頷いている。
光輝や龍太郎などはそんなに嫌いな雰囲気では無いらしいが、ツッコミをかましていた雫は警戒心跳ね上がっているし、鈴は少し怯えているようで頑なに雫から離れない。
やはり帝国は女性には余り好かれない国らしい。
とはいえ、光輝達も好んでいるわけではなく、日本人においては刺激が強過ぎる特異な有様には、しきりに顔を歪めていた。
それは、王国では見られなかった光景。特にシアの心を抉るだろう……奴隷達だ。
「シア、余り見るな」
「そうよ。見ても仕方ないわ」
「ハジメさん、優花さん……はい、そうですね」
どうしても目に入ってしまう同族達の有様。値札付きの檻に入れられた亜人族の子供の姿には見るに堪えない。
使えるものは何でも使う主義である帝国は奴隷売買は非常に盛んである。見ないようにしようとしても、そこかしこにも奴隷商があり、奴隷を鎖に繋がった首輪をつけて引きつけている者も多くいる。
「………シア。大丈夫?」
ユエは心配そうにシアを握り、優花はシアに余り奴隷商などを見せないように抱き寄せ、ティオもアレスもシアを気遣うように隣に立ち、シアを守るように並び歩く。ハジメはシアの頭を撫でてからシアを卑しく見ている者達に〝威圧〟を放つ。
二人の温かさが手と頭から、三人は触れては無いが自分のことを守ってくれる事が伝わり、シアのウサ耳が嬉しそうにパタパタと動いた。
「………許せないな。同じ人なのに……奴隷なんて」
ハジメ達の後ろを歩いていた光輝がギリッと歯噛みした。
【ハイリヒ王国】は、聖教教会の威光が強く、亜人族への差別意識は高い。その分、亜人族を奴隷として置くという考え自体が忌避されがちな風習なので、光輝達も王都で奴隷を見る機会は無かった。だから余計に心に来るものがあるのだろう。
だからと言って、本当に行動を起こされては困る。
ハジメは雫に視線を向ける。直ぐに視線に気付いた雫は此方を見る。一瞬、少し頬を赤くしたのはスルーしてハジメは周囲にバレないようにこっそり光輝を指差した。
察しの良い雫は、それだけでハジメの言わんとすることを理解したのだろう。僅かに口元を引き攣らせつつ、少し溜息を吐いて小さく頷き、自然と光輝の隣に並ぶと何やら話しかける。光輝は難しそうな表情をしながらも渋々といった様子で頷いた。
ホッと胸を撫で下ろす雫に、ハジメは申し訳ないと思いながらその様子に苦笑いする。
すると、鈴が王国であった珍事を思い出し口を開いた。
「そう言えば、シズシズって皇帝さんにプロポーズされたてたよね。後、ユウカちゃんも帝国に誘われてたし」
「………そう言えば、そんなこともあったわね」
「……谷口さん! 私だけじゃなくて浩介もでしょっ! ほらっ、ハジメが……「皇帝、コロシテクル」……ちょっ!ユエ! シア! ティオ!手伝って!」
「「「……ん (のじゃ) (ですぅ)!」」」
思い出したくないことを思い出して顔を顰める雫。そして、優花は鈴の足らず言葉に反応して、皇帝に対して殺人宣言をしながら、帝城に向かうハジメを止めるのに必死になっている。
雫のジト目と優花の少し怒りを感じさせる眼差しが鈴に向かう。何故、そんな話題を出したのかと言いたげだ。鈴は視線で謝る。
ユエ達は優花と一緒に暴走気味のハジメを抑えており、雫の話には「ほぉ〜」となったが今はそれどころではない。
アレスはガハルドのことを知っているが故に雫を憐れむような同情した視線を送ってから自分もハジメを止めるのを手伝いに向かう。光輝は渋い表情になった。同じくらい雫も渋い表情になっていた。普通に考えればシンデレラストーリーと言えなくもないのだが、女性として嬉しい気持ちは皆無らしい。
どうやら、国だけではなく、ガハルド皇帝陛下自身も嫌われてしまっているようだ。
「そんなことより、南雲君。具体的に何処に向かっているの?」
こんな話を直ぐさま断ち切るために雫は暴走しているハジメに話を振る。
それは、雫達はシアの父親の安否を確認するということは聞いているが、そのための具体的な方針は聞いてないのだ。
話を振られたハジメは何とか四人の恋人の抱擁とアレスの〝鎮魂〟によって落ち着いて雫の意見に答える。
「ふぅ……ん? あ〜取り敢えず、冒険者ギルドだな。〝金〟ランクの立場を利用すれば大抵の情報は聞き出せるからな」
「………南雲君は、彼等が捕まっていると考えてるの?」
「それは、分からない。捕まって牢屋にぶち込まれているのか、最悪、奴隷に堕とされているのか……未だ何処かに潜伏している可能性もある。帝都の警備は見る限り厳戒態勢までとははいってないが異常なレベルだろ?入ったのは良いが出られなくなったってこともあるだろうしな……」
ハジメの言う通り、警備は過剰と言っても過言ではないレベルであった。入場門では、一人一人身体検査をされた上、外壁の上には帝国兵が巡回ではなく常駐しており目を光らせていた。
都内でも、最低スリーマンセルの帝国兵が厳しい視線であちこちを巡回しており、大通りだけではなく裏路地までしっかりと目を通してる様子だった。
恐らく、魔人族の襲撃が原因で、未だ高レベルの警戒態勢を敷いているのだろう。それとも、他に別の理由があるのかもしれないが……。
そんな帝都の状況からパル達も侵入には苦労していて未だ隙を窺っている状態だ。
それもそうだろう。奴隷でもない兎人族が入れるわけもなく、ハジメ達の奴隷にするとしても限度がある。その為、ハジメが運んできたハウリアの増援部隊も、今は目立たないように帝都から少し離れた岩石地帯に潜伏させている。
寧ろ、この状況の中で、侵入に成功したカム達にハジメはどうやって侵入して来たと教えて欲しいぐらいだった。
ただ、ハジメは口では〝分からない〟と言ったが、十中八九、カム達は捕まっているのだろうと考えていた。
ハウリア達兎人族は気配操作に関しては亜人族随一な上に、カム達はそれを磨き続けてきたのだ。人の出入りが難しくても、カム達ならばなんらかの方法で外で伝言を送るくらいは出来るだろう。にも関わらず、それすら出来なくなったれなくなったと考えると、捕まっていて身動きが取れない状況であると考えるのが自然だった。
勿論、冒険者ギルドにカム達の情報がそのままあるとは思っていない。だが、それに関係してる事件や噂ぐらいあるのではないかと考えている。
「ん………ったく」
傍らで、不安そうな表情をするシアにそっと頭に手を乗せる。そして、彼女のウサ耳を優しく撫でていくハジメ。気持ち良さそうに目をトロンとしていながらも少しの不安を残すシアに冗談めかして言う。
「捕まっていても、あんな特異なレアウサギ達だって、帝国側はそう簡単に処断したりしない。いろいろ時間を掛けて調べるだろうさ。そして、捕まっているのならば取り返せば良いことさ。安心しろよシア。いざとなれば、俺達がヘルシャー帝国とういう国自体なかったことにしてやる」
「………ん。任せてシア。塵も残さない」
「ハジメさん、ユエさん」
奈落から出て直ぐ共にあったシアとハジメ・ユエの絆は、旅を通してとても強固なモノとなっている。ハジメとは十年以上一緒に過ごした優花、三人よりも後、仲間になったティオ、アレスが少し羨ましそうに、三人を見る。しかし、その姿を見てるだけでとても、段々と温かい気持ちに………
「いやいやいや、国自体を無くしちゃダメでしょう? 目が笑ってないけど冗談よね? ねぇ、お願いだから冗談と言ってぇ〜!」
そんな苦労性の雫さんの顔を青ざめながらのツッコミはよく響いたのだった……。
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此処は帝城でもある人物が公には出来ないような話をするために設けられた一室である。
部屋の中は帝城の中でも信頼された人物ででしか鍵は持っておらず、定期的に選ばれた従事達が掃除を行っており、清潔さを保っていた。
そして、この部屋にある人物と信頼出来る部下一人が対面になるようにして椅子に腰をかける。
「よし、王国の姫さんが来る前に話をしとこうぜ」
「はい、陛下」
その人物とはヘルシャー帝国皇帝である。ガハルド・D・ヘルシャーであった。
「しかし、陛下……話すこととは、先日に捕らえた特異な兎人族のことですか?」
「いや、それもあるちゃっあるがな………アイツ等は〝使える〟。俺専属の奴隷兼兵士達にしてぇぐらいだ」
ガハルドは部下に投げられた話題である先日、帝城で捕まえた数人の兎人族に好感を示していた。
「普通の兎人族とは桁違いな戦闘能力、自分達の長所の〝気配遮断〟も上手く使いやがる。あれ程の亜人はそうにいねぇし……どうして、今まで見つからなかったも謎だ」
と、疑問を呈しているガハルドだった。
それもそうだろう。その兎人族はある人物が地獄と呼ぶにも生温いとも思える訓練の賜物であるからだ。
「そういや、アイツ等は何らかの情報は吐いたのか?」
「……いえ、拷問を行った兵士達からの伝言だと、ずっと黙っているようで、喋るにしてもただ煽るような発言しかないようです」
「そうか……」
(忠誠心か愛国心なのか……いやその両方かもしれん………オモシロイ)
ガハルドは部下から、今の兎人族の近況を聞いて、深く考えをする素振りを見せながら、口を深く三日月のように歪める。
「それで、陛下。もしや、今回はその兎人族達の処遇の件ですか? そしたら他の者達も呼ばなくてはいけないのですが……」
「いやいや、言ったろ? 俺が今、話したい事じゃねぇよ」
部下の言葉にガハルドは手を振りながら否定を示してから言葉を続けていく。
「俺が話してぇことは………〝バイアス〟のことだ」
「バイアス様ですか……その件は私も驚いてます。今回の魔人族の襲撃にも陛下より早かった対応。樹海襲撃での功績。帝都の民達も貴族達も高く評価しております。次期〝皇帝〟が今のバイアス様ならガハルド陛下のちゃんとした後釜になると、城内を歩く度に耳に入ってきます。しかし、どうしたのでしょうね……バイアス様」
部下が今回のバイアスの功績に対して疑問を感じてか嬉しようで、何かと素直に喜べないような感情が混じった表情をする。
「全く、それには俺も驚いてる。昔から俺の部下だったお前もバイアスに付きっきりだった家臣達も驚いてるだろうよ。だってよ、暴力、女漁りや俺は何も咎めなかったが色々やらかしていた馬鹿息子がここ最近で人が変わった様に見えて気持ち悪い」
ガハルドも息子の変わり様に嫌そうに顔を歪める。
「しかし、本当にバイアス様が変わったのなら、嬉しいことですがね……」
「そりゃあそうだろうがよ……アレは違ぇ。確証は無いが、アイツには後ろに何かいるかもしれねぇ………」
「バックですが……しかし、確…「最近の帝都民と兵士達の行方不明とバイアスの変わった時期が同じだったろ?」……っ!」
部下の言葉を遮ってガハルドの話したことは部下の口を噤ませるぐらい強烈なことで、それは、最近帝都では民間には余り知られてないが、兵士達や貴族の間では問題になっている民達の行方不明の件だった。
「俺の推測だが、バイアスの奴……人が変わった前の日に奴隷で遊んでくるかと言いやがって、数人の護衛を連れて帝都を出たろ? 其処でアイツは〝何か〟と出会ってしまったかもな」
「何か……とは?」
「さぁな? 〝竜〟とか〝神〟だったりしてな……ってオイオイっ、こんな冗談で真剣になんなよっ!」
「それは……そうですね」
ガハルドはちょっとした冗談に部下の顔が真剣になってるのを見て可笑しくなったのか笑ってしまう。部下も畏まりながらガハルドの意見に肯定する。
ガハルドは笑った後チラリと帝都が一望出来る窓にチラリと目を向ける。
「あ〜、そろそろ、王国からやって来た姫さん達を出迎えねぇとな……行くぞ」
「……御意」
そう言って、ガハルドは部下との話を切り上げ、王国から訪れたリリアーナ姫を迎えに行く為に部屋を出たのであった。
そして、ガハルドも部下も思ってもいなかったのだろう。ちょっとした冗談で言っていたことが、あながち間違いではなかったことが……。
作品名を変えた方が良い?
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そのままで
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変えた方が良い