ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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アンケートの結果を報告するのを忘れてましたが結果はタイトルは変えない方向で行きます(*^^*)


八十五話 帝都 後編

 

ハジメとユエの帝都破壊発言に雫はツッコンではいられなかった。

 

「いやいやいや、国自体無くしちゃダメでしょう? 目が笑っていないのだけど冗談よね? お願いだから冗談と言ってっ!」

 

顔を青ざめさせながら雫はツッコミを入れる。絆は素晴らしいと思うが、目の前で万を超える住民をぶち殺すと宣言されてはスルー出来ない。

 

「優花もティオさんも何か言ってくださいっ!」

 

雫はあの二人には自分の言葉を通じないと判断して、常識ある二人に頼もうとそちらに目を向けるが……

 

「「え?」」

 

二人も帝都を壊す気満々のようで、雫は更に心のダメージが入るも二人にもツッコミを入れる。

 

「ちょっ、ティオさんはともかく、優花は神天治癒師でしょ?! って聞いてるの?! あっ、顔を逸らさない!」

 

雫の言葉に優花はプイっと顔を逸らしていく。そんなにも帝都を救いたくないのか……。

 

アレスはハジメ達四人はちゃんと冗談だと分かっているので翻弄されてる雫を見て笑いを堪えていたが、流石に雫が可哀想だと思い止めに入る。

 

「ハジメ殿。雫殿が可哀想ですし、そろそろ冗談は止めにしときましょう?時間も時間ですし」

 

「ん、そうだな。じゃっ行くか〜」

 

ハジメがそう言うとユエ達も頷いて何事も無かったように歩き始める。それを見ていた雫はプルプルと体を震わす。

 

「もうっ! なんなのよっ!!」

 

そんな、余り冗談に聞こえな冗談を交わしながら、冒険者ギルドに向かってメインストリートを歩くことしばし不意に足が止まってしまう。

 

「これは……」

 

それは、ハジメが声に出るほど、前方の街の様子が変わり始めてるせいだった。

 

あちこちの建物が崩壊していたり、その瓦礫が散乱しているのだ。

 

道中、耳に入ってきた話によれば、コロシアムで決闘用に管理されていた魔物が、突然変異し見たことない強力かつ巨大な〝竜〟の形のした魔物となって暴れ出したらしい。

 

都心の中心部に突如出現した体長が三十をメートルを超えた魔物に対して、帝国はいいように蹂躙されたようだ。

 

挙句、魔人族がその機に乗じて一気にガハルドに迫ったらしい。帝国における皇帝陛下とは、それ即ち、〝帝国最強〟を意味している。故に、だろう。魔人族達は結局、ガハルドを討つこと叶わず、逆に返り討ちにあったようだ。

 

そして、魔物方は、皇帝陛下の息子であり皇太子であるバイアスが陣頭指揮を取り、討伐に成功したらしい。

 

しかし、襲撃の防衛には成功したものの、コロシアムを起点に、数百メートル単位で放射状に崩壊している街並みを見る限り、被害は酷く大きかった。

 

そんな瓦礫の山となっている場所では、復興作業のため大勢よ亜人奴隷が駆り出されていた。

 

冒険者ギルドは、その崩壊が激しい場所の更に向こう側にあるので否応なく通らなければならない。自然、ハジメ達は彼等の姿を視界に入れることになる。

 

武装した帝国兵の厳しい監視と罵倒の中、暗く沈みきった表情で瓦礫を運ぶ様は悲惨の一言だった。

 

「………ゲスが」

 

その光景は、アレスが眉を顰め小さく悪態を吐くほどであった。

 

帝都にもたされた人的・物的被害のしわ寄せは、誰よりも亜人族達にきていた。こうして復興の為に、酷使していれば、いくら肉体的ポテンシャルの高い亜人族といえど倒れる者は続出してしまうだろう。

 

樹海への襲撃は、もし、彼等が倒れれたとしてもたとしても、新調すれば良いという、まさに亜人族を人として見ない価値観のあらわれだろう。或いは単に〝弱い者〟を認めない実力至上主義の価値観も含まれているかもしれない。

 

と、その時、ハジメ達から少し離れたところで犬耳、犬尻尾の十歳くらいの少年が瓦礫に躓いて派手に転び、手押し車に載せていた瓦礫を盛大にぶちまけてしまった。

 

足を打ってしまったのか蹲って痛みに耐えている犬耳少年に、監視役の帝国兵が剣呑な眼差しを向け、棍棒を片手に近寄り始めた。何をする気なのか明白であった。

そして、それを見て黙っているわけのない正義の味方が此処に一人。

 

「おいっ! やめ───」

 

光輝が、帝国兵を止めようと大声を上げながら駆け出そうとする。

 

しかし、その言動は次の瞬間に起きた出来事によって中断されることになった。

 

ビリッ!──っと、そんな電流が走ったような音が微かに響くと同時に、帝国兵が勢いよくつんのめり顔面から瓦礫にダイブしたのである。

 

なんとも、痛々しい音が響き、帝国兵はピクリと動かなくなった。どうやら気絶してしまったようである。

 

同僚の帝国兵達が慌てて駆けつけて容態を見るが、顔を見合わせると、呆れた表情で頭を振る。そして、面倒くさそうに、かつダラダラと流れる鼻血を見て嫌そうにしながらも、担いで何処かへと運び去っていった。犬耳少年のことは放置であった。

 

犬耳少年は何が起きたか分からずといった様子で呆然としていたが、ハッとした表情で立ち上がると、自分手散らかした瓦礫を急いでかき集めて、何事もなかったように運搬を再開する。

 

そして、犬耳少年のように呆然としているのは駆け出そうとしとして出鼻をくじかれた光輝も同じだった。

 

そこへ、ハジメからの声が掛かる。

 

「面倒事に首を突っ込むのは構わないが、バレないようにやるなり、俺達に迷惑を掛からないようにするなり、物事を考えてやってくれよ?」

 

「っ……今のは南雲が?」

 

光輝の確認に溜息を吐いてから無言で頷くハジメ。

 

実際、ハジメは指で銃の形を作ってからスタンガンよりも威力の高い紅い電撃を飛ばして、帝国兵を電気ショックで気絶させたのだ。

 

自分よりも先に助けたことはともかく、光輝は、ハジメの〝迷惑〟という言葉に眉を顰めた。どうやら光輝の正義スイッチがONになってしまったようだ。

 

「迷惑ってなんだよ。………助けるのが悪いって言うのか?お前だって助けたんじゃないか」

 

「ハァ………」

 

(スイッチが入っちまったか………)

 

ハジメは光輝のスイッチが入ったことに面倒くさそうな表情をして溜息を吐くも光輝の質問に答えた。

 

「助けたい気持ちがあるが、どちらかというと、お前が起こす面倒事を止めたいって言う方が正しいけどな。考えてみろ、こんなとこで帝国兵に突っかかっていったら、今さっきみたろ? わらわらとお仲間が現れて騒動になっちまうだろ?コッチは人捜しに来てんだ。頼むから、余計な騒ぎを起こすんじゃねぇよ」

 

そうしてハジメは、もう一度、助けるなら隠れてやるか、ハジメ達との関係を疑われないようにやってくれと念を押した。

 

そして、手をヒラヒラさせて、この話は終わりだと示し先を進めるハジメに、光輝は本来の目的であるシアの家族を捜すことを頭の隅に追いやってヒートアップ。倫理やら正義の価値観を持って訴え出す。

 

「じゃあ、南雲お前は、あの亜人族の人達を見てなんとも思わないのか?! 見ろ! 今、こうしている時だって、彼等は苦しんでいるんだぞ!」

 

「………お〜い、八重樫。申し訳ないがこの目的を見失っているキラキラの阿呆を早くなんとかしてくれ。コイツに俺の話しは通らないらしい」

 

ハジメとて、かつてミュウを助けているし、異世界に転移される前からも〝ウィステリア〟で手伝いをしてた時も常連さんの子供達のお守りを優花と一緒にしていからそれなりに子供が好きであるのだ。

 

子供が目の前で苦しんでいれば何も感じないわけがない。寧ろ、内心怒りがふつふつと湧き上がって今すぐに大人の亜人達と共に助けたいと思っている。

 

しかし、だからと言って本来の目的を放り出して、今ここで奴隷解放運動などするわけもなく、光輝の相手をするのも面倒だし、自分だと火に油を注ぐだけだと判断して、対天之河鎮静剤・YAEGSHIこと八重樫さんに申し訳ないが丸投げする。

 

雫がこめかみをグリグリしつつも諌める言葉を掛ける……その前に、光輝が怒声を上げる。どうやら今度は、ハジメが雫に頼ったことが気に食わないらしい。

 

「雫は関係ないだろ! 俺は今、お前と話してるんだ!シアさんのことは大切にするのに、あんなに苦しんでいる亜人達は見捨てるのか?!」

 

光輝の声が大きくなるにつれ、周囲も何事かと注目しだした。よく見ると離れたところで監視役を担っている帝国兵が幾人かもチラチラとハジメ達の方を見始めている。

 

ハジメ達の捜し人であるカム達が帝国側の手に落ちている可能性が高い現状、自ら騒動を起こして官憲と揉めるなど言語道断だ。

 

───それに、かかってるのはシアの家族の安否なのだ。

 

故に、やけに突っかかっくる光輝に、ハジメはスっと目を細める。

 

僅かな怒気と、有無を言わせぬピンポイントのプレッシャーが光輝に降りかかる。

 

「………なぁ、天之河。俺は、お前の高説は聞く気はねぇし、倫理観やら正義感について議論する気もない。それに俺はお前と仲間になった覚えもなければ、連れ合っているつもりもなく、価値観も共有する気もなければ、歩調を合わせるつもりもない。お前が駄々言って〝付いて来る〟のを仕方なく〝許可〟しただけだ。だから、いちいち突っかかってくるな。時と場合すら弁えられないのら………手足を砕いて王国に送り返すぞ?」

 

「───っ」

 

「ハジメ殿……」

 

「……あぁ、分かってる」

 

アレスが言いたいこと……帝国兵がコチラを見る目の数が増えてきていることを指していた。

 

しかし、ハジメもそのことも視野には入れていたので、アレスの呼びかけと同時にプレッシャーを収めると、溜息を一つ吐き続きを口にする。

 

「逆に、俺もお前の価値観には干渉はしない。だから、俺達に迷惑にならない範囲でなら好きにしろ。まぁ、当然、カム達の危険度を上げるような言動は見逃せないけどな。………それと、当たり前のことを聞くな。シアが他の亜人と同列なわけないし、俺はそこまで冷酷じゃねえよ」

 

ハジメは、歯噛みする光輝を尻目に頭を振って踵を返した。

 

奴隷制度は、この世界では当たり前のこと。確かに酷い扱いではあるが、ここで奴隷にされている亜人達を助ける方が一般的に〝悪い〟ことなのだ。他人の〝所有物〟を盗むのと変わらないのだから。

 

〝それでも〟と、思うなら、相応の覚悟が必要だ。それこそ、帝国そのものを敵に回して戦う覚悟と、二度と亜人を奴隷にさせない方法を確立させる程度のことは。

 

でなければ、今、奴隷達を力尽で助けても、後に帝国からの報復や亜人族捕獲活動が悪化する可能性が高く、そうなれば待っているのは更なる地獄だろう。

 

その辺りのことを光輝は分かっているのか、いないのか…。ハジメはそんなことを考えながら溜息を吐くのだった。

 

光輝はハジメの背中を睨みつけながらその場を動かない。

 

「………胸糞悪ぃ話しだけどよ。今は行こうぜ、光輝」

 

「今は、シアさんの家族のことを優先しよ?」

 

龍太郎と鈴にそう言われて、光輝は仲間に気を遣われていると大きな溜息を吐いた。

すると、アレスが呼びかける。

 

「勇者」

 

「……アレスさん、貴方も南雲と同じ考えですか?」

 

アレスに呼びかけられた光輝は眉を顰めながらアレスを見る。アレスはそんな光輝を見て呆れたのか首を横に振ってから溜息を吐いた。

 

「ハァ……貴方はハジメ殿が冷酷な人間だと思っているんですか?」

 

「………だって、南雲は奴隷の人達を…「優先順位というものがあります」…っ」

 

アレスは光輝の言葉を遮って言葉を続ける。

 

「今、騒動を起こしたって私達の立場が悪くなるだけですし……それに、貴方はハジメ殿を感謝した方がいい。最悪の未来を回避したかもしれないですから。では」

 

「………」

 

アレスはそう言いながらハジメ達の元へと歩き出して行ってしまった。

 

光輝はアレスの最後の言葉の意味が分からずに無言で突っ立っていると、今度は雫が呼びかける。

 

「光輝」

 

「……分かってる」

 

ようやく淡々といった様子で頷く光輝。

 

光輝はアレスの言葉をこう解釈した……自分はまだ、力が足りていないとだと。

 

光輝は分かっている。ハジメが本気になれば、自分達を送り返すことは間違いなく可能だ。しかし、今は、力が必要なのだ。思いを押し通すためには、ハジメ達以上の。

 

そのためにはどうしても、神代魔法を修得しなければならない。

 

そう、例え、どれだけ気に食わなくても、ハジメ達に付いていかなければならない。それが、力を得る一番確実な方法なのだから。

 

光輝は自分にそう言い聞かせると、胸の内の黒いモヤモヤをグッと抑え込み、黙って後を付いて行くのだった。

 

「いろいろと、難儀じゃのぅ」

 

いつの間にか、雫の隣に来ていたティオが少し苦笑いを浮かべながらそう言った。

 

「……単純な人間なんて、あまりいませんよ」

 

「道理じゃな。人より多くを気付いてしまうお主も、確かに難儀じゃ。放っておけないその性格も含めての」

 

ティオに深い眼差しを向けられて、雫は言葉に詰まった。

 

「年長者の戯れ言と流してくれても良いが……お主は、少し甘えた方がよい。世話を焼いてばかりでは、お主の方が道を見失うぞ? 取り敢えず、ほれ。甘えさせてくれそうな者がおるじゃろ?」

 

「え?」

 

雫の視線がスっと前に流れ───

 

「雫、ハジメが無理を言ってホントにゴメンね。大丈夫そう?」

 

自分の元へ駆け寄って来てくれた優花に、心配そうな声を掛けられた。

 

慌てて視線を転じる雫。優花の手が、そっと雫の手を優しく触れるように握った。

 

「……ふふ、ありがと、優花。大丈夫よ。まぁ、なんと言うか、光輝のことがね? でも、今は強い味方もいるし、いざって時は南雲君に頼らせて貰うわね?」

 

「ええ、全然、頼って構わないわ」

 

頼れる友達の心遣いと、ティオの善意による助言に感謝しながら、雫は少し肩の力を抜いて前を行くハジメ達の後を追うのだった。

 

微妙な雰囲気の中(光輝達だけ)辿り着いた帝国のギルドは、まんま酒場という様子だった。

 

広いスペースに雑多な感じでテーブルが置かれており、カウンターは二つある。一つは手続きに関するカウンターで、受付けは女性だが粗野な感じが滲み出ており、もう一方のカウンターは完全にバーカウンターだ。昼間にかかわらず飲んだくれたおっさんがあちこちにおり、暇なら復興作業に手伝えよとツッコミを入れたくなってしまう有様だった。

 

ハジメ達が中に踏み入れると、もう何度目か分からず、もう毎度お馴染みになっている反応が返ってくる。

 

即ち、優花達に対する不躾で下卑た視線である。流石の呆れてしまいハジメは舌打ちをした。

 

「チッ……」

 

(毎回、毎回何処も……ここの世界の奴等はそんなに出会いがないのか?)

 

そんな事を思いつつハジメは面倒くさげに〝威圧〟を初っ端なから発動しつつカウンターへと向かう。

 

だが、流石と言うべきか、飲んだくれていても軍事国家の冒険者と言うべきか【宿場町ホルアド】の冒険者達のように気絶する者はおらず、一斉に警戒心を顕に出す。

 

「へぇ………」

 

(流石、軍事国家にいる冒険者だな)

 

ハジメは帝国の冒険者に関心しながら、カウンターに向かうと、其処には他の町では余り見ることのない受付嬢がいた。受付嬢はハジメ達を見ても、気怠そうで、やる気の無さそうな表情で見返すだけだった。用があるならさっさと言えといった感じだ。

 

「情報を貰いたい。ここ最近、帝都内で騒動を起こしたりした亜人がいたりしなかったか?」

 

ハジメの質問二受付嬢は胡乱な眼差しを向ける。質問の内容が奇妙だったからだろう。

 

アレスから聞いた話だと、普通に亜人族の情報が欲しいのなら商人ギルドや何処かの商会にでも行けばいいし、帝都内で騒動を起こせる奴隷などそうはおらず、大抵、奴隷の首輪が反抗を封じるからだ。

 

そして、帝都内に奴隷でない亜人族などいないことから、ハジメの質問は有り得ない可能性を尋ねているのと変わらないからである。

 

結果、受付嬢は面倒になったのか、それともそれが正規のシステムなのか、バーカウンターの方を指差した。

 

「ゴメンけど………そういう情報はあっちで聞いて」

 

ハジメがそちらを見れば、ロマングレーの初老の男がグラスを磨いている姿があり、どうやら情報収集は酒場らしい。

 

「あぁ、それはスマナ……イ」

 

ハジメがそう言おうとしたが詰まってしまった。受付嬢が自分の仕事をやり遂げというように明後日の方向へと向けてしまっていたからであった。

 

ハジメは苦笑いを浮かべると、バーカウンターの方へと向かう。

 

冒険者者達の値踏みをするような剣呑な眼差しが突き刺さり、喧嘩っ早い龍太郎がいちいち反応して睨み返す。鈴はこういう場所が苦手なのか小さい体を雫に寄せて上手く隠れている。

 

ハジメがバーカウンターの前を陣取り、ロマングレーの男に先程の受付嬢にしたのと同じ質問をする。

 

しかし、マスターは無視してグラスを磨き続けているだけだった。

 

ハジメの目がスっと細められる。

 

すると、

 

「此処は酒場だ。ガキが遠足に来る場所じゃない。酒も飲まない奴を相手にする気もない。さっさと出ていけ」

 

という返答が返ってきた。

 

「へぇ……」

 

ハジメは内心ニヤニヤ笑みを浮かべながら、それを表情に出さずに納得顔に金を置いた。

 

隣の優花が、少し呆れたような、或いは困った夫を見るような目を向けながら「もぅ、ハジメったら全くこういう事にホントに目がないから……」と呟くもハジメは気付かない。

 

そう、ハジメは王道テンプレを愛してる男である!

 

その事を昔から知っている優花は呆れ、それを見ていたユエ達も意図を察しハジメに対して呆れた視線を送るもハジメは気付かない。

 

「その意見はもっともだな。マスター、この店で一番キツくて質の悪い酒をボトルで頼む」

 

「……吐いたら叩き出すぞ」

 

マスターは、ハジメの注文に一瞬、眉をピクリと動かしたものの特に断るでもなく、背後の棚から一升瓶を取り出しカウンターに置いた。

 

マスターがハジメのことをガキと言いながらも素直に出したのは、ハジメの放つ威圧感と周囲の冒険者達の警戒した雰囲気から只者ではないと分かったからであろう。

 

ハジメは、ボトルわ手に取ると指先でスっと撫でるように先端を切断する。その行為自体と切断面の滑らかさに周囲は息を呑んだ。マスターですら少し目を見開いている。

 

封の開いたボトルからは強烈なアルコール臭が漂い、傍にいたシアや優花が思わず鼻を覆ってむせてしまった。光輝達も「うっ」と呻きながら後退る。

 

「な、南雲君? それを飲む気なの? 絶対にやめた方が良いと思うわよ?」

 

「そ、そうだよ。絶対に吐いちゃうって。鈴なんか既に吐きそうだよ」

 

「ご主人様、その酒はやめた方が良いと思うのじゃが……」

 

「ティオさんの言う通りですよ、ハジメさん。どうしてわざわざ質の悪いのを……」

 

雫、鈴、ティオ、シアが口々に制止の声を掛けてくる。

 

傍らのユエも酒の匂いに眉を顰めつつハジメ服の裾を引っ張るし、優花も呆れて溜息を吐きながらも心配そうに見つめる。

 

「いや、味わう気もないのに良い酒をがぶ飲みなんて……酒に対する冒涜だろう?」

 

心配する彼女達を余所に、ハジメはそんな事を言う。そして、チラリとマスターの表情を伺う。

 

マスターの口元が僅かに楽しげな笑みを浮かべていた。

 

「クハッ………」

 

(やっぱ、このマスター。分かってらっしゃっる)

 

ハジメは笑みを零しながら「え〜」と批判的な声を出す女性陣を無視して、ほとんど異臭と言っても過言ではない匂いを発する酒を、飲むというより流し込むようにあおり始めた。

 

シーンとする店内にゴキュゴキュと喉を鳴らす音だけが響き渡る。そして、一度も止まることなく、ものの数秒でボトルを飲み干してしまった。

 

ハジメは、手に持ったボトルをガンッ!とカウンターに叩きつけるようにして置くと、口元に笑みを浮かべながらマスターを見やる。その目が「文句はあるか?」と物語っていた。

 

「………分かった分かった。お前は客だ」

 

マスターは苦笑いを浮かべながら両手を上げて降参の意を示していた。

 

「……ハジメ、後で説教ね」

 

「Oh……」

 

優花の生暖かい視線と共に言われた。説教宣言にハジメの顔が少し引き攣りながらも逆らえないので頷く。

 

因みにハジメはいくら飲んでも酔わない体質だ。その原因は〝毒耐性〟である。元々、日本にいた時も父と博之さんから酒の美味しい飲み方を教え込まれたので、それなりに好きな方であったが、〝毒耐性〟のせいで酔わなくなっていて少し残念がっていた。

 

「……で、さっきの質問に対する情報はあるのか? もちろん、相応の対価は払う」

 

「いや、対価ならさっきの酒代で構わん。……お前が聞きたいのは兎人族のことか?」

 

「!……情報があるようだな。詳しく頼む」

 

曰く、数日前に大捕物があったそうで、その時、兎人族でありながら帝国兵を蹴散らし逃亡を図ったとんでもない集団がいたのだとか。

 

しかし、流石に十数人で百人以上の帝国兵に帝都内で完全包囲されてしまっては逃げ切ることはやはり出来ず、全員捕まり城に連行されたそうだ。

 

 それでも、兎人族の常識を覆す実力に結構な話題になっていたので、町中で適当に聞いても情報は集められたようである。

 

「城か……」

 

 ハジメが呟きながら傍らのシアを見ると、やはりシアの顔色は曇っている。

 

果たして、帝都に不法侵入した亜人がどういった扱いを受けるのか……少なくとも明るい未来は期待できない。

 

 ただ、連行したという点が気になるところだ。男の兎人族も需要がないわけではないが、カム達のような初老の男まで需要が高いわけではない。しかも、帝国兵に牙を剥くような存在だ。その場で即座に処刑されていてもおかしくはないし、むしろその方が自然である。

 

 つまり、帝国側としてはカム達に何らかの価値を見出して、生かしておくことにしたということなのだろう。だとすれば、カム達は未だ生きている可能性が非常に高い。望みを捨てるには早すぎる。

 

 そんな意思を込めてカウンターの下でシアの頭を撫でるハジメ。見れば、手はユエが握っている。もう片方の手には優花が握っている。シアも、三人の気持ちが伝わったようで、瞳に力を宿しコクリと頷いた。

 

マスターが、珍しい髪色の兎人族であるシアを意味深な眼差しで見やる。捕まった兎人族達との関係をあれこれ推測でもしているのだろう。

 

そんなマスターに、ハジメは、さらりととんでもないことを尋ねる。

 

「マスター、言い値を払うといったら、帝城の情報、どこまで出せる?」

 

「! ……冗談でしていい質問じゃないが……その様子を見る限り冗談というわけじゃなさそうだな……」

 

 ハジメが笑みを浮かべつつも、その全く笑っていない眼で真っ直ぐマスターを射抜く。

 

得体の知れない圧力に、流石のマスターも少し表情が強ばった。質問の内容も、下手をすれば国家反逆の意思を疑われかねないものだ。

 

 もっとも、ここは冒険者ギルドであり独立した機関であるから、帝国に対する〝反逆〟という観念自体がない。ハジメも、その辺りを踏まえて、ワンクッション挟んだ上で尋ねたのだ。

 

 ただ、いくらマスターが冒険者ギルドの人間であっても、自国の、それも本拠地内部の情報を売り渡したと知られれば、帝国の人間がただで済ますわけがないので安易に情報を渡すわけにはいかない。

 

かといって、目の前の刻一刻と纏わり付くような威圧を増していくハジメ相手に返答を渋っても碌な未来は見えそうにないのが悩ましいところだ。

 

 なので、マスターは苦渋の選択として、代わりにハジメの知りたい情報を知っている人間を教えることにした。

 

「……警邏隊の第四隊にネディルという男がいる。元牢番だ」

 

「ネディルね。わかった、訪ねてみよう。世話になったな、マスター」

 

 ハジメも、マスターがあっさり帝城内部、特に捕虜がいる場所を教えてくれるとは思わなかったし、知らない可能性も考えていたので、知っている人間を教えてもらっただけでも十分だとあっさり引き下がるとマスターからある情報を貰う。

 

「後、アンタの実力なら大丈夫だと思うが気をつけとけよ。最近、帝都民が行方不明の事件が増えてるからな」

 

「……忠告どうも」

 

ハジメはそんな事を言うマスターに尻目にギルドを後にした。再びメインストリートを歩く中、シアが先程のやりとりについてハジメに尋ねた。

 

「あの、ハジメさん、さっきの元牢番の人を教えて貰ったのは、もしかして……」

 

「あぁ、詳しい場所を聞いて、今晩には侵入するつもりだ。今から、俺とユエで情報を仕入れてくるから適当な場所で飯でも食っててくれ。二、三時間で戻る」

 

ハジメの指示に優花とアレス以外が疑問顔のシア達。

 

「?、どうしてお二人だけなんですか? みんなで行けば……ハッ、まさか、ユエさんとシッポ……「女の子が変な事を言わないの」……アイタッ……優花さん」

 

シアが変な事を言い出す前に優花がシアの頭を軽くチョップする。

 

「ハジメがユエを選んだのは、そのネディルさんが素直じゃなかったら、より丁寧な〝お話〟が必要になるから、慣れているユエを選んだんでしょ?再生魔法も使えるし」

 

優花の説明に意図が分かっていたアレスとティオが苦笑い気味に頷き、顔を赤くしながら狼狽えていた雫達もその意図を察した。

 

「そしたら、優花も使えるんじゃないの? それに、話を聞くと、優花の方が回復系は長けているんじゃ……」

 

「私はそういうのに慣れてないしね。ハジメが私の事を気遣ってくれてるからよ。言い方的にはアウトだけど」

 

「………」

 

雫の質問に軽く答える優花はジト目でハジメを見る。ハジメは図星だったらしく、無言で明後日の方向を見る。

 

ハジメとしても本来ならユエもこういう事には手伝わせたくないが、ユエは「……ん、私は大丈夫」と言ってくれて心が軽くなる。

 

ユエとしても、優花やシアを汚い部分を担わせたくないらしい。

 

アレスは俺の頼みで優花達の護衛として、この場に残って貰っている。アレスもこの頼みには快く了承した。

 

そして、全員が納得したところでハジメとユエが雑踏の中へと歩き始めた時、シアが二人に声を掛ける。

 

「ハジメさん! ユエさん! えっと、その……」

 

言いたい事があるのだが上手く言葉に出来ない。

 

そんな様子のシアに、可愛いと思いながら、ハジメは困ったように笑みを浮かべる。きっと、遠慮するなとは言っても、シアとしては大迷宮を前にして面倒事を巻き込んでいるという気持ちが少なからずあるのだろう、と。

 

シアは結局、上手い言葉が見つからなかったのか、ハジメと同じく困った笑みを浮かべながら一言だけ言葉を届けた。

 

「………エッチは程々にっ!」

 

「台無しだよっ!! もう一回、優花の話を聞いてこい!阿呆ウサギ!」

 

ハジメは怒鳴り返すと、何故か隣でキリッとした表情でサムズアップしてるユエの手を引いて、今度こそ、雑踏の中に消えていった。

 

その数時間後。

 

帝都のある一角の食事処に、何処か冷たい空気が流れていた。

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