ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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八十七話 ハウリア救出と動物仮面部隊

 

深夜。

 

光一つ存在しない闇の中に、格子のはめ込まれた無数の小部屋があった。特殊な金属で作られた特別製の格子は、地面に刻まれた魔法陣と相まって堅牢な城壁となっており、小部屋にいる者を絶対に逃がさないという無言の意思表示をしている。

 

汚物や血から発生する異臭で、何も見えなくとも極めて不潔な空間であることが分かる。そんな最低な場所とは、もちろん囚人を拘束し精神的に追い詰めることを目的とした牢獄、それは【ヘルシャー帝国】帝城にある地下牢であった。

 

流石、帝城の牢というべきか、地下牢を構成する金属の質もさることながら、至る所に刻まれた囚人を逃がさない魔法陣が実に秀逸である。

 

脱獄を企てた者、または地下牢に忍び込んだ者、それぞれに致死に至らない程度の、しかし極めて悪質な苦痛を与えるトラップが、見えるところだけではなく壁の中にまで仕込まれている。トラップを解除する詠唱を正確に唱えない限り、勝手な行動は封じられていると見るべきだろう。

 

脱獄できる可能性など微塵もなく、光一つない世界で凶悪な異臭に苛まれつつ小さな部屋に一人押し込まれたりいれば、常人なら一日も保たずして発狂してもおかしくないだろう。

 

看守とて、通常は唯一の入口である扉のスグ外にある詰所で待機しており、決められた時間に巡回するだけで地下牢の暗闇の中に長時間いたりしないのだ。

 

だが、そんな最低の空間であるにもかかわらず、現在は、何故か余裕有りげ声音の話し声がに聞こえていた。

 

「おい、今日は何本逝った?」

 

「指全部と、アバラが二本程ぐらいだな……お前は?」

 

「俺は、アバラ七本ぐらいだな……そっちは?」

 

「右手の指全部と頬骨、ウサ耳を片方を持ってかれたな……」

 

「なっ?! マジかよっ! お前何言ったんだ? アイツ等、俺達が使えるかもってウサ耳は手を出さなかったのに……」

 

「なに。いつもいつも『背後にいるものは誰だ?』と見当違いの質問を延々と繰り返すからな。言ってやったんだよ。〝貴様等の膿が詰まった頭では到底理解することの出来ない御方〟ってな」

 

「………それはキレるな」

 

「でも、アイツ等、ウサ耳は落とすなって、多分そういう命令を受けてた筈だし、それに背いったてことは……」

 

「あぁ、確実に処分が下るだろうな。馬鹿な奴だ」

 

聞こえてくるのは、お互いの怪我の確認の話。最低限の回復魔法は掛けられるので死にはしないが、こんな余裕そうな会話をしていても、声の主達はまさに満身創痍という有様だ。

 

それでも、やせ我慢をしつつ軽口を叩き合う彼等の正体は、帝国に捕まったハウリア達である。彼等が何故、痛々しい拷問を受けていていても、軽口を叩き合うのは、別に狂ってしまったわけではない。既に覚悟が決まっているからであった。

 

帝城の地下牢に囚われている以上、自分達はもう助からない。処刑されるか奴隷に落とされるかの二択である。

 

後者の場合は、それこそ全力全開で自害をするので、やはり命はない。奴隷の首輪で強制的に同族と戦わされるなど家族を守る為に力を身に付けたハウリアにとって、それは悪夢なので、事前にそう決めていたのだ。

 

そして、助からない以上は、家族達に手を出させない為に一矢報いるつもりで生き長らえている。

 

帝国側は、ハウリア族の実力があまりにも常識からかけ離れていることから、彼等の背後に何か陰謀でもあるのではないかと疑っている。

 

また、そうではなくとも、報告を受けたガハルド陛下がハウリア族を気に入り、帝国軍の手駒として使えない画作しているようだった。

 

戦闘方法、持っていた武器、その精神性、温厚な筈の変えた兎人族を変えた育成方法……。

 

強者を好むガハルド陛下にとって、ハウリア族はまさに宝箱のような存在だったのだ。

 

そんな帝国側の思惑を察しているハウリア達は、命尽きるその瞬間まで、帝国側に楯突いているのである。

 

ちなみに、この地下牢に満身創痍で入れられて、それでも尋問という名の拷問のために牢から出された時、余裕そうにしているハウリア達は、既に関わる帝国兵のほとんどに恐怖を宿した目で見られている。

 

「今頃、族長も拷問されてんだろうな……」

 

「そうだな。………大丈夫かな族長」

 

「何言ってんだ。あの族長があんな拷問如きで屈するとでも思ってんのか?」

 

「あぁ、それもそうだよな」

 

「しかし、最近の族長、ますますボスに似てきたからなぁ。………特に新人の訓練のしている時とか」

 

「あぁ、まるでボスが乗り移ったみたいにだよな。あんな容赦ない攻撃で何度も心がへし折れそうになるが、一言一言、言われる度に強くなって家族を守りたいって思いたくなるしな」

 

「まぁ、ボスならそもそも捕まるわけがねぇし、それに捕まっても今度は内部から何もかも破壊して普通に出てきそうだしな」

 

「そうだな……。いや、寧ろ帝都涙目って感じだろ? きっとボスのことだからシアとかユエの姉御の為とかならば帝国は地図から消えるぜ」

 

「シアとボスかぁ……」

 

「………死ぬ前にはもう一回、一目見たかったな」

 

「あぁ、そうだな………でも、俺はシアがボスといて幸せそうな姿をまだ見たかったな」

 

「そうだな……それに、シアのことだから『ハジメさぁぁぁぁん♡』とか言いながら抱きついてそうだな」

 

「わかる。アイツは昔から好きなモンに目がねぇしな!」

 

「そうだな。シアは言うところの〝一直線兎〟だしな」

 

「おいおい、それじゃあ、シアの怪力オバケさが伝わってないだろ?もうちょっとパワフルな感じで、アイツ確かムッツリだったし、その要素も入れてさっ」

 

「なら………〝猪突猛進ムッツリ兎娘〟っていう感じですかぁ?」

 

「「「「「「「「「それだ!」」」」」」」」」

 

「へぇ………よく、分かりました。皆、私のことをそう思ってたんですかぁ。えぇ?」

 

「「「「「「「「「………」」」」」」」」」

 

暗闇の中で盛り上がっていたハウリア達のウサ耳に、怒気の孕んだ声が響いた。

 

随分と聞き分けのある声に、ハウリア達が凍りついたように黙り込む。暗闇の中、まるで肉食獣をやり過ごそうとしている小動物のように息を潜める。

 

「黙ってどうしたんですかぁ?もう一度言ってみてくださいよ? 誰が単純で怪力オバケでムッツリの兎ですかぁ? うん?」

 

「ハハハ、わりぃな、皆。俺、ここまでのようだ。……遂に幻聴が聞こえ始めやがった……」

 

「大丈夫だ。安心しろよ、逝くのはお前だけじゃねぇ。……俺もダメみたいだ」

 

「そうか……お前等もか………でも、最後に聞く声がシアの怒り声とか……」

 

「せめて最後くらい妹分の声じゃなくて、エロ可愛い女の子の声が良かったよな………」

 

いる筈のない相手の声が聞こえて、いろんな意味で幻聴扱いをするハウリア達。現実逃避とも言える。

 

「はぁ……ユエ、〝光球〟を頼む」

 

「………ん」

 

そんな彼等に黙っていたが呆れてしまったハジメが現実を突き付ける。傍らにいるユエに頼むと、ユエは頷きながらパッと光球を出し、地下牢の闇を払拭した。途端、地下牢に浮かび上がる溜息を吐くハジメの姿と額に青筋を浮かべながら満面の笑みのシアの姿。

 

「「「「「「「「「げぇっ?! ボスゥゥゥゥゥ?! それに、シア?!」」」」」」」」」

 

「……お前等、もう少しは静かにしろよ」

 

「……以外に元気?」

 

「ハジメさん、ユエさん、此処に父様が居ないらしいですし、こんな人達は無視して行きましょ?」

 

ハウリア族の面々は、見るも無惨な酷い怪我を負ってるにもかかわらずに素っ頓狂な声を上げる。

 

ハジメとユエは呆れ顔だったが、シアはそんな彼等を無視して、此処に居ないカムを探そうとしていた。相当、今さっきの話しにキレているそうだ。

 

「まぁ、シア。落ち着けよ。心配だったんだろ?」

 

「ゔっ……ですが」

 

「アイツ等も何だ? 愛故に妹分みたいなお前をイジってたんじゃないか? そうだろお前等?」

 

「「「「「「「「イ、イエス! ボス!」」」」」」」」

 

ハジメはシアを宥めながら、ハウリア達を睨みつける。ハウリア達も流石にハジメの圧とシアに嫌われたくない故に声を上げた。

 

「ほら、シア。コイツ等もそう言ってるし」

 

「シア! スマないっあれは、失言だった」

 

「俺もスマネェ! シア!」

 

「……わかったですぅ」

 

そして、何とかハウリア達の謝罪のおかげでシアの機嫌が治りハジメは安堵してるとハウリアの一人がハジメ達に話しかける。

 

「しかし、シアもユエの姉御もそうだが、何故こんなところにボスが?」

 

「詳しい話は後だ。取り敢えず、助けに来たんだよ。……ったく、ボロボロなくせに騒ぎやがってどんだけタフなんだよ」

 

「は、ははっ。そりゃ、ボスに鍛えられましたから」

 

「そうですよ。ボスのおかげで帝国の拷問なんてただのお遊戯程度しか思いませんよ」

 

「俺達はボスのおかげで強くなれたんだ」

 

ゲフッゲフッと血を吐きながら、なお軽口を叩くハウリア達とその言葉に、ユエとシアがなんとも言えない表情でハジメを見る。

 

「んん!」

 

(そんなに、やり過ぎたか? ハート〇ン式よりかは軽くしたつもりなんだがな)

 

ハジメは二人の視線をスルーして誤魔化すように咳払いを一つすると、魔眼石と〝構造把握〟で地下牢内のトラップを確認した後に、さっさと解除を始めていく。

 

ハジメはトラップを解除していく内に、トラップの仕組みについて分かり、この地下牢の鉄壁さに納得したように呟いた。

 

「へぇ……魔法陣のトラップってこういう構造か。そりゃ堅牢な訳だ。……まぁ、俺にとっては無力だけどな」

 

魔法陣によるトラップは、通常、正しい詠唱によってしか解除されない。それは魔法陣に込められた魔力を、操作し散らすというプロセスを経て無力化する必要があるとわかったからだった。

 

魔法陣を壊すという方法もあるが、〝構造把握〟で確認した限り、このトラップの魔法陣を壊した瞬間、魔法が発動したり、壊したことが他者にへと伝わる機能が備えつけられてるとわかった。

 

故に隠密性を維持したいなら詠唱による解除が望ましい。本来は鍵となる詠唱を知る者しか解除できないわけだが、しかし、それは〝詠唱による魔力の操作〟しか出来ない場合の話である。逆に言えば、〝魔力の直接操作〟ができる者なら問題なく解除できるということだ。

 

なので、〝魔力操作〟を持つハジメには赤子の手をひねるぐらいのことだ(ハジメの場合は〝構造把握〟を使えば、その魔法陣の詠唱を把握可能である)。

 

あっさりと、帝国が誇る絶対監獄でたる帝城地下牢を無力化したハジメは、更に錬成で次々と格子を開けていき、ユエの再生魔法でハウリア達全員を即座に完全回復させた。

 

「はぁ、相変わらずとんでもないですね。しかし、まぁ取り敢えず、ボス」

 

「「「「「「「「「助けていただき、ありがとうごさいましたぁ!!」」」」」」」」」

 

「おう。まぁ、シアのためだ。気にすんな。それよりカムは此処に居ないようだが、違う場所に囚われてんのか?」

 

「それなら……」

 

ハウリア族の一人が、今の時間はカムが尋問されていること、詳しい尋問部屋の位置をハジメに教える。

 

彼等は、「是非、自分達も族長救出に!」と訴えてきたが、手伝ってもらうほどのことでもない。ここまで普通に侵入してきたハジメ達に任せるのが一番だと分かっていたので、ハジメの言葉で大人しく引き下がった。

 

ハジメは〝宝物庫〟から掌サイズの金属プレートを取り出した。それは、光沢のある灰色をしており、手元部分に魔法陣が刻まれていて先端に幾つもの凹凸があった。簡単に言えば〝鍵〟のような形をしていた。

 

なんだなんだと目を丸くする。ハウリア達の前で、ハジメは鍵型のプレートに魔力を注ぎ込み、おもむろにに目の前の空間へと突き出した。

 

すると、鍵型のプレートの先端部分がズブリと空間そのものに突き刺さり、波打つように波紋を広げていく。波紋が次第に大きくなって大人の人間サイズになったところで、ハジメは鍵型のプレートを、文字通り鍵のようにグリッと捻った。

 

その直後、鍵型のプレートを中心に〝穴〟が広がっていき、目を丸くするハウリア達の眼前で人間大の大きさに広がると、その向こう側にどこかの岩石地帯が広がった。

 

────空間転移用アーティファクト〝ゲートキー〟

 

設置型の鍵穴型アーティファクト〝ゲートボール〟と二つで一つのアーティファクトで、ゲートボールを設置した場所に空間を繋げる穴──ゲートを作ることができる。

 

「よし、お前等ここを通れ。向こう側は帝都から少し離れた岩石地帯だ。パル達も其処で待機してるからな」

 

「はっ! ボス、族長のことをを頼みます」

 

目の前で起きた非常識に唖然とするハウリア達だったが、ハジメの言葉ではハッと我を取れ返すと、「まぁ、ボスですし」とすぐに納得し、美しい敬礼をした。そして、躊躇いなくゲートをくぐっていった。

 

ハウリア達がゲートの向こうへと渡ったと確認したハジメは空間の穴を閉じ、カムの居場所へと向かった。

 

新しい警備を持ち前のスキルで魔法で突破して易々と目的の場所に辿り着く。外の見張りもさくっと倒して扉の前につくと、何やら怒声が聞こえてきた。

 

シアの表情が強ばる。もしかして、中にいるでだろうカムが酷い目に合わされているのではないかと、軽口を叩きながらもボロボロだった先程の家族を思い出して心配する気持ちが湧き上がってきたのだろう。

 

それを見て、さっそく踏み込もうとドアノブに手をかけたハジメの動きが、向こうから微かに漏れてくる聞き覚えのある怒声により思わず止まる。

 

「なんだその腑抜けた拳は! それでも貴様は帝国兵かっ。 そんなんで帝国兵を名乗れるなら帝国の底が知れる! それぐらいなら子猫でも帝国兵に入隊できそうだな!どうしたっ。悔しければ 、せめてこの私の骨を一本でも砕いてみろ!できなければ、所詮貴様は〝弱虫〟だ!」

 

「う、うるせぇ! なんでてめぇにそんなことを言われなきゃいけねぇんだ!」

 

「口を動かす暇があるのなら貴様についてる手を使え! 貴様の両方についてるそれはお飾りなのか? だから、所詮貴様は〝弱虫〟なのだ。恋人もいるなら其奴も〝弱虫〟だろう? それなら、良かったじゃないか〝弱虫カップル〟でお似合いじゃないか!」

 

「て、てめぇ! ナターシャはそんな女じゃねぇ!」

 

「よ、よせヨハン! それはダメだ! コイツ死んじまうぞ!」

 

「ふん、そっちのお前もやはり〝弱虫〟か。帝国兵はどいつもこいつも腑抜けてるな……いっそのこと〝弱虫軍団〟と改名でもしたらどうだ! この腑抜け共! 御託を並べないで、殺意の一つでも見せてみろ! 私なら、家族を守るためならば、こんな拷問生ぬるいわっ!」

 

「なんだよぉ! コイツ、ホントになんだよぉ! こんなの兎人族じゃねぇだろ! 誰か尋問を変わってくれよぉ!」

 

「もう、嫌だぁ! 他の奴等もそうだけどコイツは特に話してると頭がおかしくなっちまうよぉ!」

 

そんな叫び声と怒声が部屋から盛れ聞こえてくる。

 

ハジメ達は無言だった。ドアノブに手を掛けたまま、捕まって尋問している帝国兵の方が追い詰められてるという非常識に頭が着いていけず思わず顔を見合わせる。

 

「カム……話に聞いてはいたが、ここまで随分と逞しくなってるとはな……コレ、助けが必要か?」

 

「………帰る?」

 

「……いえ、すみませんが、一応、助けてあげて下さい。流石に自力では出て来れないと思うので……」

 

シアが在りしの日の父の姿を思い、遠い目をしながらもハジメに頼む。

 

実際、シアの言う通りである。威勢はよくてもカムが自力で脱出する可能性はないので助ける必要はあるのだが……。

 

「ふん、口ほどでもないっ。 やはり数だけで私達を捕らえただけで、一人一人は弱者の集まりなんだろうな。そんな奴等が我等ハウリアを黙らせることは出来ないと思え!」

 

扉の向こうからカムはまだ、叫ぶ。これも流石に尋問官達もまいったのか……

 

「だから、わけわかんねぇよ! くそっ、もう嫌だ! こんな狂人がいる場所にこれ以上いられるかっ! 俺は帰るぞ!」

 

「待て、ヨハン!」

 

と、尋問官が言った後、ドタドタと扉に近付いてくる音が聞こえてくる。

 

ハジメはカムの変わり様に少し表情が引き攣るが、扉の前で拳を振りかぶった。そして、バンッと音を立てて扉が開いた瞬間、拳を突き出す。

 

ヨハンと呼ばれていた尋問官の一人が、一瞬「えっ?」という驚愕と困惑に満ちた表情をしたが、次の瞬間には顔面に鋼鉄の拳を埋め込まれて部屋の奥へと吹き飛ばされていった。

 

ハジメはそのまま部屋に踏み込み、一瞬でもう一人の尋問官に接近すると、驚愕で硬直してるのを幸いに同じく殴りつけて気絶させた。

 

そして、気絶した尋問官二人を適当部屋の隅に放り投げておく。

 

「まさか……ボス……ですか?」

 

「ああ。なんといか、よくそんなボロボロであれだけの罵詈雑言を放てたな。ホントに逞しくなったなカム」

 

「は、ははは。どうやら夢でもないようですね……。おぉ、ユエ殿にシアまで」

 

一瞬、夢でも見ているのかと自分を疑った様子のカムだったが、先程のハウリア達以上にボロボロでありながら、力のある声音でハジメ達に返答する。

 

思考力も鈍ってないようで、どうやらハジメ達が自分を助けに来てくれたのだと直ぐに察したようだ。

 

「せっかくの再会に無様を晒しました。しかも帝国の腑抜け共を罵るのに忙しくて、気配にも気付かないとは……いや、お恥ずかしい」

 

「……父様、既にそういう問題じゃないと思います。直ぐにでも治療院にも行くべきです。ていうか、その怪我で何故ピンピンしているんですか?」

 

「何、シア簡単なことだ。……気合いだ」

 

「ハジメさぁぁん!」

 

「あぁ……ほら、シア泣くなって、流石に俺にも心にダメージがくる」

 

「………ハジメ」

 

「いや、ユエもそんな目で見ないでくれ……」

 

拘束を解かれたカムは本当に恥ずかしそうに、折れてあらぬ方向を向いてる指で頭をカリカリと掻く。シアのツッコミにも平然と非常識な返答をした。

 

返答を聞いて泣きそうになるシアはハジメに抱き着き、ユエは再生魔法を掛けながら、カムをこんな風にした原因のハジメを少し恐ろしげな眼差しで見る。

 

ハジメは少し頬が引き攣っていた。ハジメもカムがこんな事になるのは予想外だったのだろう。

 

完全に回復して自分の体の調子を確かめるようにピョンピョン跳ねているカムを横目に、ハジメは再びゲートキーを取り出した。

 

「他の連中は一足先に逃がした。さっさと行くぞ」

 

「しかし、ボス、装備が取られたままなのですが……」

 

「問題ない。アレは唯の遊びで作ったような武器だからな。もっと性能がいいもんが〝宝物庫〟にあるから、それやるよ」

 

「ほぅ、新装備を頂けるので? それは、嬉しいですね……あと、ボス少しお耳に入れておきたいことが……」

 

「……わかった」

 

カムをゲートに押し込んで、未だに抱き着いてるシアを抱っこしながら、ハジメもユエもゲートを潜るのだった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

一方、少し時間が戻って、ハジメ達が帝城に侵入した頃。

 

警鐘が鳴り響く帝都の夜に、突如、光が迸った。光の奔流は闇夜を切り裂いて直進し、亜人奴隷達が寝泊まりしている掘っ立て小屋の密集地区──そこにある帝国兵の詰所に直撃した。

 

明らかに魔法攻撃と分かるそれは最小限まで手加減されたものらしく、詰所の外壁が吹き飛んだだけで中の帝国兵は無事なようだった。もっとも大半は衝撃で気絶しているが。

 

それをなしたのは、建物の屋根上にて悠然と佇む四人の人影………。

 

「何者だ、貴様等!帝国に盾ついてただで済むと思っているのか!」

 

その人影に向かって、駆けつけた帝国兵の一人が怒声を上げる。

 

「しかも、しかも……そんなふざけた仮面なんかつけやがって! 馬鹿にしてんのかっ!」

 

「え? いや、馬鹿にしてるわけじゃ……」

 

「どう見ても馬鹿にしてるだろうが! 特に、そこのキツネの仮面の奴!」

 

「?!」

 

「可愛さアピールでもしてる気か?! 仮面を付けてる時点で激しくキモイんだよっ! この変質者めっ! 」

 

「?!………可愛さなんてアピールしてないわ。……特にそういうのが好きなわけでもないし……無理矢理だもの……私のせいじゃないもの……」

 

「ちょっと、不細工面なおっさんの癖にシズ……フォックスになんてことを言うの!! すず………モンキーは本気で怒っちゃうよ!」

 

「そうだ! シズ……フォックスが可愛いモノ好きで何が悪い! それ以上フォックスを傷つけたら、俺……ライオン仮面が許さないぞ!」

 

「あ〜、取り敢えず、ゴリラも許さねぇぞ〜」

 

どこか疲れ切った様子で悄然と肩を落とす仮面フォックス。彼女を庇うように他の仮面達が帝国兵に言い返す。

 

彼等の目的は帝都で騒ぎを起こし、ハジメ達の帝城侵入を手助けすることなのだが………。

 

フォックスこと雫はハジメの意図を読み取っていた。故に光輝の暴走を抑えるために仕方ないとはいえ、あんまりな扱いに、帰ったら絶対ハジメに復讐しようと心に誓いを立てた。

 

フォックスが項垂れている間にもヒートアップした帝国兵達が、遂に「ふざけたアニマル仮面野郎共をとっ捕まえろ!」と襲いかかり始めた。

 

しかし、相手は表層とはいえ【オルクス大迷宮】の前人未到領域を踏破してきた異世界チート達だ。並の兵士如きが敵うはずもなく次々と蹴散らされていく。

 

「ちくしょう! ふざけた動物の仮面の癖に強すぎる!」

 

「おのれぇ、フォックスめっ!」

 

「つっか、ライオンが持っている剣、どっかで見たことあるような………」

 

帝国兵が地面に這いつくばりながら悪態と共に呻き声を上げる。既に三個小隊ほどが戦闘不能に追い込まれていた。堪りかねた指揮官が思わず叫ぶ。

 

「くそっ、貴様等、一体なにが目的なんだ!」

 

その質問にライオン仮面が一瞬ピタリと止まった。そして、溜まりに溜まった鬱憤を吐き出かのように要求を叫んだ。

 

「亜人奴隷達の解放を、せめて待遇改善を要求する!」

 

「……はぁ?」

 

「お前達の亜人族に対する言動は目に余る!むやみに傷つけるのは止めるんだ!」

 

帝国兵達は、まさかの要求に「なに、言ってんだコイツ?」といった表情で顔を見合わせた。

 

無理もない。ライオン仮面達が昼間見た亜人奴隷への対応はあれで常識なのだ。それを目に余ると言われても、何が言いたいのか、ピンと来ないのだ。

 

「くっ。なんだ、その態度は……あんな仕打ちをしておいてっ」

 

「こう……ライオン。残念だけど非常識なのは私達の方よ。私達の目的は陽動であることは忘れないで」

 

「分かってる!でも、せめて子供達だけでも………」

 

「数が多すぎるわ。子供達の目の前で助ける子を選ぶの?それに、そろそろ時間よ。………私だって悔しくは思うけれど、今は、きっちり目的を果たしましょう?」

 

「………そうだな」

 

ライオン仮面は、仮面越しでも分かるほどの渋々といった感じで引き下がった。

 

フォックスはそれを確認すると、仮面の突き出す鼻の先をトンと指で触れる。仮面の作成者に帝国から目的を聞かれたり、或いは勇者パーティーだと疑われたり場合は、そうしてみろと言われていたのだ。

 

仮面の内側、目元の部分に魔力で光る文字が出てきた。ビクッとしつつも、直ぐに最初の一文が浮かび上がてきたので、フォックスは思わず読み上げていく。

 

「帝国兵、聞きなさい。私達の目的は帝都の現状を確認することよ。皇帝を討つには足りなかったようだけれど、随分と痛手を負ったようね!」

 

帝国兵達がギョッとした表情になった。仲間の仮面達もギョッとしている。

 

「まさか、まさか貴様等は魔人族?! そうか、帝国の状況を確かめに来たのか!」

 

「精鋭中の精鋭部隊。魔獣仮面部隊ANIMALよ!」

 

フォックス、若干ヤケクソになっており、視線で仲間にポーズを取れと促している。ライオン仮面達が、フォックスの剣幕に押されておおずとポーズを取っていく。

 

これで、魔人族には動物の仮面を被った精鋭部隊がいるという噂が立つことになるだろう。フォックスは心の中で魔人族に謝った。困った時は大体魔人族のせいにしとけばいい。アッチにはお前と同レベルの味方の苦労人がいるから何とかしてくれるという、何処ぞの白髪少年の悪辣な発想に軽く目眩を覚える。

 

ついでにライオン仮面が亜人奴隷解放を口にしてしまったので、念の為、彼等にしわ寄せが行かないようにフォローしていく。

 

魔人族がなんで?という疑問が出そうだが、そこまでフォックスの知ったことではない!

 

「今回の件で、亜人奴隷に八つ当たりするのは止めておきなさい。もし、そんなことをしたら………」

 

「な、なんだっていうんだ………」

 

異様な雰囲気に恐れおののく帝国兵達へ、フォックスは告げる。

 

「夜、シャワーを浴びてる時その背後に、誰もいない筈の廊下の奥に、鏡の端に、夢の中から……神隠しに合って、何処か……誰も知らない場所へと連れ去っていくわよ?」

 

抑情のない淡々とした語りは不気味の一言。帝国兵達は一斉に息を飲み込み、そして思った「怖ぇ……」と。

 

仮面達は目的は果たしたとでもいうように「とう!」という感じで建物から裏路地に飛び降りた。そして、慌てて帝国兵達が駆けつけた時には、まるで夢幻だったように忽然と姿を消していたのだった……。

 

 

後に、帝国兵の間で「キツネの死への誘い〜奴は何時も見ている〜」という都市伝説が広まるのだが、それはまた別の話。

 

某魔人族の将軍は、自分の知らない名の部隊が勝手に他国でやらかしているのを聞きいた後、その処理を任され、胃に穴が空きそうになったのも別の話。

 

そして何故、自分だけ……と、フォックスの中の人が崩れ落ち、未来の想い人に慰められていたのは別の話である。

 

この後、帝城内から忽然と消えたハウリア族や、魔人族の隠し玉らしい動物仮面集団の起こした騒ぎ、その日の夜に帝都のある場所からの大きな魔力余波が渡った件により、帝都が朝まで上を下への大騒ぎになったことは言うまでもなかった………。

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