ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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幕間 王女の受難Ⅰ

 

時間は少し遡る。

 

リリアーナが侍女や近衛達と共に帝都近郊に降ろされた後、一行はフェルニルに積み込まれていた馬車と馬に乗って帝都へと入った。

 

先に送り出した王国のは使者や大使を軽く追い抜いて来てしまったので、帝国は王国の王女が来訪することを知らないはずだ。

 

一応、近衛騎士を先行させているので、それでご勘弁願いたいところだ。

 

「警戒態勢でございますね」

 

馬車に同乗しているリリアーナ付き専属侍女ヘリーナが、小窓から外を覗きつつ言った。

 

「魔人族の襲撃のせいでしょう。ハウリア族の話を聞いてましたが、かなりの被害を受けたようですね」

 

「本当に、ハジメ様とあの馬鹿(・・)がいて下さって幸いでした。本命ではない帝国でこの被害です。王国が助かる道はなかったでしょう」

 

「そうですね……って、ヘリーナ。……兄様のことを馬鹿呼ばわりって……まだ、怒っているのですか?」

 

リリアーナはヘリーナがアレスのことを馬鹿呼ばわりしてることをツッコミを入れる。

因みに説明するのだが、アレスとヘリーナの両家は昔ながら王族を支えてきた一族であるため、二人はハジメと優花のような幼なじみの間柄であるのだ。

そして、物心ついた頃から二人を知るリリアーナはヘリーナがアレスへ寄せる想いもよく知っている。

 

「……だってアレスが悪いんです。あの時だって、私に何も相談もせずに王国を出ていって……私がどれだけ心配していたか……それに、なんですかっ。再会できたと思ったら『元気そうでなによりです』? ブチ切れそうになりましたよ」

 

そう言うヘリーナはそっぽを向いて唇を尖らせ、溜まりに溜まっただろうアレスへの不満をタラタラと口にし始める。

 

「ア、ハハ……ヘリーナ、落ち着いて(何か地雷を踏んじゃった気がします。なんとか止めなくてはっ)」

 

地雷を踏んだことに内心焦るリリアーナは苦笑いをしながら、口々とアレスへの不満を垂らすヘリーナを止めるべく優しく語りかけることで心を落ち着かせる作戦に出る。

 

「……ヘリーナ。兄様が本当のことを言わなかったのは、私や貴女のことを守るためにと思ったからじゃないかしら?」

 

「…………」

 

「ヘリーナだって知ったでしょ? 神々の真実を……もし、五年前に兄様が私達にそのことを話していたら、もしかしたらバーン家みたいに私達に被害が出ると考えていたんじゃないんですか?優しい兄様ならそう考えそうですし……」

 

「………」

 

「だからね、ヘリーナ。余り兄様を責めないであげましょ?」

 

リリアーナの言葉にヘリーナは黙っていたが、リリアーナが話終わると視線をリリアーナの方へと転じて口を開いた。しかし、その口から言われるのはリリアーナの予想外のことだった。

 

「……恋心がまだ、分かっていないお子ちゃま(・・・・・)には言われたくないですね。癪に障ります」

 

「なっ!」

 

なんとヘリーナから返ってきたのは辛辣な一言で、リリアーナは顔を真っ赤にしながら声を上げた。

 

「なんでっ!? 私、凄い良いことを言ったのに! 王女らしくカッコイイこと言ったのに!」

 

「余計なお世話ですよ。私も、その件は王宮で再会した際に逃げようとしたアレスをとっ捕まえて、キッチリをオハナシをしました」

 

なんか含みがあった気がするがリリアーナはスルーする。

 

「じゃ、じゃあ……なんでヘリーナはまだ、そんなに不機嫌なんですか?」

 

リアーナは話をしたんなら、そんな態度を取らなくても良いんじゃないかと言うが、ヘリーナは再度、溜息を吐いた。

 

「ハア……だから、お子ちゃまは……」

 

「あっ、またヘリーナ。私のことを、お子ちゃまって言いましたね!これでも十四ですよ私!」

 

「なら、リリアーナ様もハジメ様を王国の未来のために繋ぎ止めてみては貴女様の愛しの(・・・)ハジメ様に」

 

「なっ、なっ!? わ、私はっ、ハジメさんはただ、兄様と同じように頼れるお兄さん的な存在ってわけでっ!決して、ヘリーナの思うようなっことは……なくてですね。それにハジメさんには、優花やユエさん達のような美人揃いの恋人がいますし……私なんて……」

 

「何言ってるんですか。リリアーナ様だって大変可愛らしい………」

 

早口で言い訳するリリアーナをよそにヘリーナはリリアーナの体を這わせるように視線を滑らせ……

 

「………そうですね、リリアーナ様。失言を言ってしまって申し訳ありません」

 

と言いながら、頭を下げたのだった。その謝罪の意味は何のかは分からない。

 

「そ、その、謝罪の意味は私が思っていることと違うような………というか、私の体を見て、『これじゃあ、ダメだな』と言いたげな視線を私にした理由を言いなさい!」

 

リリアーナ付き専属侍女ヘリーナ。幼少の頃よりリリアーナを陰から支えてきた侍女だ。リリアーナにとってはタメ口で話せて、本心で語り合えれる心許せる友人のような大切な存在であり、彼女の約十七年にも渡る恋路の応援もしている。

 

とはいえ、時々、看過できない言動を取るのが玉に瑕である。

 

そうして、リリアーナがヘリーナを問い詰めている間に帝都に辿り着いた。

 

突然の来訪に一悶着あったものの、リリアーナ達は無事に部屋へ通され、その日の夕刻にはガハルド皇帝陛下への謁見が叶うことになった。

 

リリアーナが、やって来た案内に従って謁見の部屋に行くと、そこに既にガハルドが実に楽しげな笑みを浮かべて待っていた。

 

ガハルド・D・ヘルシャー。もうそろそろ五十代が見えてきそうな年齢にもかかわらず、見た目は四十代前半。場合によっては三十代後半に見える若々しさと猛々しい覇気を纏った男。

灰色に近い銀の髪と、狼を思わせる鋭い目、服越しでも分かる極限にまで引き絞られた肉体は些かの衰えも感じさせない。

 

輝達の実力を確かめるべく、ガハルドがお忍びで王国に来たとき以来だが、数ヶ月程度で変わらないらしい。

 

魔人族に襲撃されたと聞いていたので、或いは怪我の一つでもしているのかと思えば、そんな様子も皆無である。

 

「よく来てくれたな、リリアーナ姫。随分と急な来訪だが、それだけの土産話があるのだと楽しみにしているぞ」

 

リリアーナは「ご期待に添えないと思いますが……」と前置きをし、まず王国で起きた事件のあらましを語った。

 

王宮内に蔓延った恐ろしい侵食から始まった一連の出来事。魔人族の大軍による侵攻、〝真の神の使徒〟による暗躍と神……神々の真意、聖教会総本山の崩壊。神の使徒である中村恵理と白崎香織の裏切りと、エリヒド国王の崩御。

口を挟まず黙っていたガハルドは、リリアーナが口を閉ざすと同時に大きく息を吐いた。そして、腰を深く腰を預けると片手で顔を覆って天を仰いでしまった。

 

豪放磊落な皇帝陛下をして、伝えられた事実の有様と真実の大きさに動揺を隠せなかったらしい。気持ちは分かるとリリアーナがお茶に口をつけつつ待つことしばし。

 

「そうか……エリヒド国王も、あの殺しても死ななそうな教皇の爺さんまで……みんな逝ったか」

 

特に感情は込められてない。けれど、どことなく寂寥を感じさせる声音。ガハルドは姿勢を戻すと、リリアーナに視線を合わせた。

 

「凄まじい状況だったようだな。偉大な国王と戦士達の死に、心からお悔やみ申し上げる。よく伝えに来てくれた、リリアーナ姫」

 

「いえ、此方も大変だったそうですから」

 

ガハルドの見せた意外な態度に、リリアーナは少し驚きつつもそう言って返礼した。

 

「しかし、そうか……教会は、神…いや、神々か……こりゃあ、公表なんぞしようともんなら、世界がひっくり返すな」

 

「その割には、陛下はそれほどショックを覚えてないようですが」

 

「いや、結構な衝撃だったぞ。生まれてより信仰していたらな。だが、まぁ、帝国はそもそも実力至上主義を掲げている。敵あらば殺す、欲しいもんは奪う。弱者は強者に従えってのが信条だ。神の勢力がぶっ飛ばされたってなら、そりゃあ、ぶっ飛ばされた方が悪い。そんな奴等の相手を、いつもでも崇めちゃいられんさ」

 

「そ、そういうものですか……」

 

帝国の実力至上主義は筋金入りだ。何せ、王位継承問題すら決闘という対外的に分かりやすい方法で解決するくらいなのだ。とはいえ、今まで信仰していた形だけの神に対してまで、その理念を適用するとは……

 

「……(本当にこの国の人間はっ)」

 

リリアーナは口にはせずにそう思いながら頬を引き攣らせていた。ガハルドは気にした様子もなく、早くも気持ちを切り替えたようだ。

 

「しかし、あれだな。そう考えると、王国の民に伝えた話は中々秀逸だ。見事に〝真実の衝撃〟ってやつを受け流し……いや、利用してやがる。考えたのは姫か?」

 

「ええ、まぁ。最終的には」

 

曖昧な返答に、ガハルドの目が細まった。

 

「最終的には……。つまり姫にそんな入れ知恵を出来る程のブレインがいるってことだな?」

 

「私のブレインではありませんよ?」

 

「誤魔化しはいらん。話が進まねぇだろ?皇帝として絶対に聞く必要がある事柄に、どうせ関係しているんだろうからな。でなきゃ、リリアーナ姫。そんな質の悪いストーリーを考えられる時点で、俺は是が非でも姫を手に入れるために動くぞ」

 

「……流石は陛下。ご想像の通り、とある人物の草案です」

 

リリアーナは申し訳なさを感じながらハジメの存在を明かした。と言っても、帝国に教会や神々の話、魔人族の力の秘密を共有する上でハジメの話は不可欠なので、前々からハジメから自分のことを話して良いと許可は貰っていた。が、リリアーナはハジメのことは隠しておきたかった。

実力者大好きな帝国は死んだとされているハジメの存在が生きてると知った時点でガハルドはハジメを是が非でも手に入れようとするだろう。

 

ハジメには大きな恩があるため、リリアーナはそんな彼を困らせたくなかったのであるのだが、リリアーナから、ハジメの生存と詳細を聞いたガハルドは……

 

「……ハハハハハッ!! まさか、生きてたんだな!【オルクス大迷宮】で死んだとされていたた南雲ハジメは……」

 

「はい。ハジメさんは奈落に落ちてもなお、生き続けてそのまま、大迷宮を攻略したようですよ」

 

ガハルドはハジメの生存を知り、深く笑みを浮かべている。しかし、リリアーナの話す内容のスケールがデカすぎて頭の処理が追いつかないらしく眉間を指でグリグリしている。

 

「義手という活気的な物を作製して、戦闘に関しての実力も申し分なく、俺の中では、召喚された使徒達でトップレベルだと思っていたが……俺の予想以上の実力だったとはな。信じられねぇ……」

 

「事実です。ハジメさんは、十万の大軍を消し飛ばし、王国・帝国を一日半で走破するアーティファクトを作り出す──〝稀代の錬成師〟です」

 

困ったような表情なのに、ハジメの事を話すのを嬉しそうに微笑みながら断言するリリアーナ。

 

ガハルドは眉間に深い皺を刻む。

 

「戦術級、なんてレベルじゃない。個人で戦略級たぁ本当に何の冗談だ。南雲 ハジメがその気になれば、個人で戦争が出来るほどの絶大な力を持っていて、その実力は勇者の比じゃねぇ。俺としては是が非でも南雲ハジメが欲しいがな……なぁ、リリアーナ姫。俺はちゃんと会ったことねぇから分からないが、南雲ハジメという人間の人格はどんなモンだ?もし、あの勇者みたいな人格だと放置出来ないレベルだぞ?」

 

聞いた情報からハジメの実力を分析していくガハルド。しかし、分析していく内にガハルドはハジメの精神状態や人格が気になり、リリアーナに尋ねた。もし、勇者のような性格なら神よりもハジメを警戒することになる。

 

ハジメのことを聞かれたリリアーナは笑みを浮かべて頭を振る。

 

「いいえ。ハジメさんは揺らぐことはない覚悟があって、ちゃんとした信念を持った方です。彼はちゃんと現実を見ており、懐の内にいる者のためならば何も躊躇わない。そして、我が道を突き進む人。要するに我が覇道を持ち、邪魔するなら敵として叩き潰していく……〝覇王〟みたいな人です」

 

ついでに、女性を知らずに誑しこむのが上手、と伝えておく。そして、そんなハジメを語るリリアーナはまるで自分のことのように話している。

 

それを見たガハルドは失笑しつつも顎を撫でて思案した。

 

「〝覇王〟ねぇ……要するに俺にちょっかいを出すなということか?帝国の頭たる俺に、また無茶なことを言う」

 

喉から手が出ても欲しい。手元で管理したい。欲を言うなら、その絶大な力、利用したい。帝国の皇帝として当然の考えだ。

 

「とはいえ、当の本人を捕えようとしても、今の帝国の軍事力じゃ、到底敵わない。挑んだって、全滅に終わるだろうな……せめて、アレス・バーンかギルドのババァ並の強さを持つ者を見つけねぇと話にならねぇな。後は、独自に、南雲ハジメと魔人族の力の根源〝神代魔法〟の獲得に動くくらいかだな……って、ふと思ったが、アレス・バーンも〝神代魔法〟を持ってる可能性があるな……どうなんだリリアーナ姫?」

 

「に…アレス様の件はお答えしかねますが、これからの動きはそれでよろしいかと。そもそも我が国の恩人ですので、同盟国とはいえ、あまり無茶は見過ごせません」

 

「ふん、なかなか言うな」

 

ガハルドは鼻を鳴らした。

 

大迷宮攻略のご褒美が何か、それが分かったのは僥倖だが、だからといって自分達が獲得できる可能性は著しく低いことは分かっている。やはり、既に持っている者の勧誘が一番現実的だ。だが、それの可能性も低そうだ。他の可能性としては持っている可能性が高い行方知らずの〝最強の神官〟を勧誘すべきかとガハルドは考えるのだった。

 

そして、ガハルドは思わないだろう。彼が是が非でも欲しがっている人物の二人は既に出会い、利害が一致して仲間であることを……その可能性も低いということを。

 

「それで、事情を伝えに来ただけではないんだろう?協議の内容を聞こう」

 

「はい。端的に言えば、支援のお願いと、今後の連携について方針を固めたく参りました」

 

そう言って、リリアーナはあらかじめ支援内容をまとめた書類をガハルドに渡した。

 

内容としては、主に戦力貸与よお願いだ。メルド・ロギンスという王国最強の騎士は生き残っているが、それでも、多数の優秀な騎士・兵士達を大量に失ってしまったのだ。軍事国家たる帝国には是非とも、万が一に備えて戦力を貸して欲しかった。

 

「なるほど。一個師団程度なら構わん。こちらも、王国を潰されては西に戦力を分散する必要が出てしまうからな」

 

「ありがとうございます」

 

一番欲しかった支援があっさり決まって、リリアーナは少しホッと胸を撫で下ろした。

それから細かな支援内容を決めた後、魔人族に対する方針を話し合っていく。

 

一気に二人だけで決められることでもないので、今のところは概要と、各方面との具体的な協議内容の確認だけをしておく。

 

「まぁ、こんなところだろう。あと、重要なのは、対外的に関係強化をどう示すかだが、それに関してはリリアーナ姫、一役買ってもらうことになるぞ」

 

「っ……わかっています。婚約の話であれば、こちらも考えていたこと。お話は受けさせていただきます。ただ……」

 

「ああ、そちらの事情は分かる。今、リリアーナ姫が王国から抜けるのは不可能だ。ランデル王子の即位すらまだなのだろう?優秀な文官すらも多数失ったようだしな。王妃殿が過労で死ぬぞ」

 

ガハルドの言葉に、リリアーナは苦笑いしながら頷く。とガハルドは言葉を続けた。

 

「何、安心しろ。最近のバイアスは昔と違っていて、性格が軟化している。リリアーナ姫。アンタが心配することはないぞ」

 

「は、はい………それは、嬉しいです、ね」

 

結局、皇太子との婚約話をまとめ、一両日中には帝都にて発表。その後、一個師団の派遣準備ができ次第、リリアーナ姫は一時帰国するということになった。

 

王国が落ち着いたら、改めて輿入れに来るということだ。王国と帝国の強固な同盟関係を国民に見せつけ、足踏みを揃えて活性化する魔人族に対抗すると示すのだ。

おおよそ、予定していた通りに話が進んでリリアーナは満足そうに笑った。

 

内心、ズキズキとくる。小さな痛みには気付かない振りをして……。

 

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