ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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いや〜、なろうでありふれ最新話が更新されましたねっ(((o(*゚▽゚*)o)))

ハジメ達と嫁ーズとのイチャイチャや後輩ちゃんとの掛け合いとか面白かったけど、特に私は優花のツンデレ具合が最高でしたね( *¯ ꒳¯*)

では、本編どうぞ(*^^*)




八十九話 帝城

 

【ヘルシャー帝国】を象徴する帝城は、帝都の中にありながら周囲を幅二十メートル近くある水路と、魔法的な防衛装置が施された堅固な城壁で囲まれている。水路の中には水生の魔物が放たれていて、城壁の上にも常に見張りが巡回しており、入り口は巨大な跳ね橋で通じている正門ただ一つだ。

 

帝城にも入れる人は限られており、原則として魔法を併用した入場許可証を提示しなければならない。跳ね橋の前にはフランスの凱旋門に酷似した巨大な詰所があり、ここで入場検査をクリアしないと、そもそも跳ね橋を渡ることさえ出来ないらしく、不埒な事を考えて侵入を試みようものなら、魔物の蔓延る水路に投げ入れられるとか………

 

詰所での検査も全く容赦がない。たとえ入場許可証を持っている出入りの業者などであっても、商品の一つ一つに至るまできっちり検査されるため、荷物に紛れ込んでの侵入なども、もちろん不可能であって、何が言いたいかというと、帝城に不法侵入することは至難中の至難であるということだ。

 

そんな、今更な事実を、凱旋門の前で入場検査の順番待ちをしながら考えていた光輝は、チラリと肩越しに背後を振り返り後ろにいる人物達を見る。

 

そこにいるのは、いつものパーティーメンバーにして幼馴染である雫と龍太郎、そして鈴、それに加えてハジメ達である。ハジメ達は、堂々と正面から帝城に入るために再び帝都にやって来たのだ。帝城の威容と厳しい検査を見ていて光輝は思う。

 

自分達が陽動していたとはいえ、よくなんの騒ぎも出さずにハウリア族全員を脱獄させることができたな、と。

 

もちろん、ハジメ達には空間魔法があるので侵入、脱出はそれほど難しくはないだろうが、入るだけでこれだけ厳重な警備がなされているなら、帝城内の警備は言わずもがなだ。

 

予め、地下牢の位置を聞き出していたとはいえ、正確な位置が分からなければピンポイントでの空間転移は使えない。なので、侵入後は徒歩で捜索したはずである。それでも全く見つからずに事を成し遂げられたのだから脱帽する他ない。そして、今も行方不明のアレスや帝国と〝神〟の繋がりを調べるために、〝宝物庫〟から取り出した〝オルニスA〟を遠隔操作していた。

 

そんなハジメの姿と自分との〝差〟を再び感じて、光輝は思わず「はぁ」と溜息を吐いた。

 

因みにだが、光輝達の陽動は外の部隊が担当し、わざわざ帝城内の部隊が出張ることなど有り得ないので、ほとんど役に立っていない。多少、「何があったんだ?」と、動揺くらいさせたかも、という程度であった。

 

「次ぃ……見慣れない顔だな。許可証を出してくれ」

 

門番の兵士が光輝達を訝しげな表情になる。帝城内に入れる者が限られている以上、門番からすれば大抵は知っている顔だ。そして、たとえ初めての相手であっても、帝城に招かれるような人物は大抵身なりが極めて整っているのが普通である。なので、光輝達のように、どこぞの冒険者のような装いの者は珍しいのだ。

 

それこそ、胡乱な目を向けてしまうくらいに。

 

「いや、許可証はないんですけど、代わりにこれを……」

 

「なに?………ステータスプレート? 一体なんだというんだ?」

 

当然、ハジメ達は誰一人として帝城に入るための許可証などを持ってはいない。だが、ここで光輝の立場が役に立つ。何せ、彼は〝勇者〟。世間の立場では対魔人族戦において神が遣わせた人間族の切り札であり〝神の使徒〟のリーダーであるのだ。

 

許可証を持ってない時点で、剣呑な目付きになっていた門番だったが、渡されたステータスプレートに表示された天職〝勇者〟の文字に目を瞬かせ、何度も光輝の顔とステータスプレートを交互に見る。

 

その門番の慌てふためく様子に、周囲の同僚達が何事かと注目し始めていく。

 

「えっと……勇者……様ですか? 王国に召喚された神の使徒の?」

 

「あ、はい、そうです。その勇者です。こちらにいるリリアーナ姫と途中まで一緒に来たのですが……ちょっと事情があって」

 

「は、はぁ………」

 

光輝の正体を知って、門番達がにわかにざわめき始めた。

その表情は当然のことながら「なぜ、リリアーナ姫と別に来たのか?」「なぜ、事前連絡がないのか?」など疑問に溢れていた。とはいえ、相手は自分達が信仰する神の〝使徒様筆頭〟だ。根掘り葉掘り詮索するのは失礼にあたるのではと躊躇してしまう。そのため、きっと秘密の使命でも帯びていたに違いないと勝手に納得した門番は、取り敢えず、上に取り次ぐという判断になったようだ。

 

確認のため待たせる失礼に戦々恐々しながら、数人の門番が猛ダッシュで帝城の方へと消えていった。

 

その後、ハジメ達は詰所にある待合室のような場所に通されてから待つこと十五分が経っていた。そして、最早誰もツッコミを入れないくらい自然な光景と化している〝ハジメとその膝の上に座る優花と其の上に座るユエとハジメに寄り添いながら隣に座るシアとティオ〟の光景に光輝達は頬を引き攣らせていると、跳ね橋の方からドタバタと足音が聞こえ始めた。

 

「こちらに勇者様一行が来ていると聞いたが……貴方達が?」

 

「あ、はい、そうです。俺達です」

 

そう言って、姿を見せたのは、一際大柄な帝国兵で、周囲の兵士の態度からそれなりの地位にいることが窺える。

 

彼は、対応する光輝を無遠慮にジロジロと見ると、光輝のステータスプレートを確認しながら、他のメンバーにも探るように視線を向け始めた。その過程でハジメに寄り添っていたシアに気が付くと驚いたように大きく目を見開き、その直後には、何が面白いのかニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ始めた。

 

いきなり向けられた嫌な視線に、シアは僅かに身じろぎハジメの腕を強く抱き締める。

 

「確認しました。自分は第三連隊隊長のグリッド・ハーフと申します。どうぞお見知り置きを。勇者様のご来訪は、既にリリアーナ王女殿下の耳にも入っております。お部屋でお待ちですので部下に案内させましょう。……ところで勇者様、その兎人族は?それは奴隷の首輪ではないでしょう?」

 

「え?いや、彼女は……」

 

ステータスプレートを返しながら、グリッド・ハーフと名乗った男は何故かシアについて尋ねた。

 

しかし、尋ねられても光輝としては返答に困るところだ。奴隷ではないことは、シアが大事そうに身に付けているチョーカーが既にどう見ても奴隷の首輪では見えないことから一目瞭然であるし、ハジメの恋人であるシアのことを自分が説明していいのかと迷う。「そんなこと俺に聞かれても………」というのが正直なところだ。

 

口篭る光輝から答えは期待できないと判断したのか、グリッドはシアへと視線を転じる。そして、彼がなぜシアに注目するのか、その理由を察せられる質問をした。

 

「よぉ、ウサギの嬢ちゃん。少し聞きてぇんだけどよ。……俺の部下はどうした?」

 

「部下? 一体のなんの話を──っ、まさか……」

 

グリッドから発せられた唐突な質問に一瞬、何を聞かれているのか分からない様子のシアだったが、直ぐに察したようで驚愕に目を見開いた。

 

シアにとって直接関わりのあった帝国兵など限られている。それは、当然、樹海から出たばかりの頃、自分達ハウリア族を散々追い詰めた連中だ。大勢の家族を殺し、拉致し、奴隷に落とし、そして、シア達を【ライセン大渓谷】へと追いやった敵。

 

「おかしいよなぁ?俺の部下が一人戻ってこなかったってぇのに、なんでお前は生きていて、こんな場所にいるんだ? あぁ?」

 

「ぅあ……」

 

シアを追い詰めるようにジリジリと迫るグリッド。そう、彼は、樹海から出たばかりのシア達を襲った部隊の隊長だったのだ。連隊長であるグリッドは全体の指揮を執っていただけで、直接にはシア達の捕獲を行ってなかった。そのため、シアにはグリッドの記憶はなかった。

 

グリッドの方は、珍しい青色がかった白髪の兎人族という珍しさから、しっかりと覚えていたようである。

 

シアの脳裏に、嬲るように襲い掛かってくる帝国兵達の表情と、家族が一人、また一人と欠けていくというあの時の絶望感がフラッシュバックする。無意識に呻き声を上げ、表情を強ばらせながら、目を瞑ろうとした時………温かな感触を感じハッとする。

 

見れば、隣にいたハジメが立ち上がっていて座っている自分の頭を優しく撫でていた。間を置かず片手と頬、肩にも温かさを感じる。それは、片手はシアの隣に座り直したユエ、頬をツンツンするのは優花、肩に優しく安心感を与えていたのはいつの間にかシアの後ろに回っていたティオであった。

 

三人のシアを見る瞳はシアを安心させるように守るかのような優しい眼差しだった。ユエに関しては、どちらかと言えば呆れるような、叱責するような眼差しで、言外に「あんな、雑魚に気圧されるな未熟者」と言われたかのようで、シアは苦笑いを浮かべる。

 

いくらトラウマとも言うべき出来事だろうと、今のシアは大迷宮の怪物共すら打ち砕く力と気概を持った紛れもない〝強者〟なのだ。たかだか帝国の将校一人に気圧される理由など何処にもない。シアは視線で大好きな四人に「もう大丈夫です!」と伝えると、ピンッとウサ耳と背筋を伸ばして、ジリジリと迫るグリッドに向かって艶然と微笑んだ。

 

そして、シアの笑みに思わず足を止めてしまうグリッドに向かって言い放つ。

 

「あなたの部下のことなんて知ったことじゃあないですよ。頭の悪そうな方達でしたし、あっさりと魔物にも喰われたんじゃないんですか?あと、私のことで答えることなんて何一つありません」

 

「……随分と調子に乗ったことを言うじゃねぇか。あぁ? 勇者様一行と一緒にいるから大丈夫だとでも思ってんのか? 奴隷ですらないなら、どうせその体で媚で売ってんだろ?売女如きが、舐めた口を聞いてんじゃねぇぞ」

 

グリッドが、剣呑な目を細めながらそんなことを言うが、シアは既にグリッドから視線を外して見てすらおらず、如何にも眼中にありませんといった様子だ。

 

寧ろ、グリッドの酷い罵倒に、他の女性陣が怒りを顕にしている。シアの態度に表情を歪めつつも、場の雰囲気を察したのだろう。グリッドは誤魔化し笑いをしながら光輝に向けて提案する。

 

「申し訳ありませんがね、勇者様。この兎人族は二ヶ月程前に行方不明になった部下達について何か知っているようでして、引渡し願えませんかね?兎人族の女が必要なら他を用意させますので、ここは一つ……「黙れ、三下」……」

 

しかし、グリッドが全てを言い終わる前に声が割り込んだ。そのタイミングと言い様にグリッドが怒りで頬を引き攣らせながら視線を転じて声音を低くして話しかけようとしたが……

 

「なにか───ムグッ!?」

 

「てめぇの了見なんて知らねぇが、俺の女が売女だって?あぁ?潰すぞ」

 

また、グリッドの言葉を遮って、まともに喋れないぐらい顔面をギュムッと骨が砕けそうなぐらいの膂力でグリッドの顔面を掴み上げるハジメの姿があった。ハジメもグリッドの物言いには、ムカつくがある程度スルーをしてきた。が、シアに対しての売女発言には流石にスルーは出来なかった。

 

そして、今、グリッドをゴミを見るような目で睨みつけながら、顔面を掴み、持ち上げていた。

 

「ムグッ!? んんん!」

 

「シアに、その汚ぇ頭を地面に擦り付けて謝れ。そしたら、離してやるよ」

 

グリッドは足をバタバタさせながら抵抗しようとするが、ハジメは平然とグリッドを持ち上げ、更に力を込められていき、グリッドからパキパキと何かがヒビ割れたような音が鳴り始める。同時にグリッドの変な奇声を上げ始めたと思えば、足を更にジタバタさせている。

 

「んん!!」

 

「うるせぇなー」と思いながらハジメはそのまま、グリッドの顔面を破壊しようとしたのだが、後ろから愛しい兎娘の声が上げるのが聞こえると手の込める力を一旦止める。

 

「ハジメさん、私は大丈夫です。ありがとうございます。私のために怒ってくれて」

 

「……気にすんな。俺の勝手だ」

 

ハジメはシアにそう返答してから、ポイッとゴミのようにグリッドを投げ捨てる。投げ捨てられたグリッドは尻餅を着いて倒れるが、それよりも掴まれていた顔を痛そうに摩りながら、ハジメを睨み付ける。

 

「貴さ──「黙れよ、顔面を破壊せずにやったんだ。心優しいシアに感謝しとけよ。それに、てめぇの話なんてどうでも良いし、シアが言うように知ったことない。お前の部下なんてどっかで野垂れ死んだだけだろ? 次にシアに対して、侮辱やら手を出すなら………てめぇの未来はないと思え」──っ!」

 

グリッドはハジメの言葉共に発せられる〝威圧〟を受けて言葉を噤んでしまうが、そんな事を気にしないハジメは言葉を続けていく。

 

「ほら、てめぇのせいで時間が勿体ないだろ? ほら、さっさと案内させろ」

 

ハジメの自分に対する態度、物言いにグリッドの顔が真っ赤に染まる。痛みの余り、涙目を溜めながらも其の目は怒りに満ちて血走っていた。それでも、連隊長として自制を効かせる言葉できるようで、まさか〝神の使徒〟一行に斬り掛かるわけにいかないし、グリッドは兵士としての勘でハジメが放つ〝威圧〟から自分では到底、敵わないと判断して、背後で控えさせていた部下に視線で案内を促す。

 

苦虫を噛み潰したような表情でハジメを睨みグリッドを尻目に、何事もなかったように詰所を出ていくハジメ達。

 

若干、ハジメの行動と物言いに光輝や龍太郎が頬を引き攣らせていたが、女性陣はスカッとしたような表情をしており、シアなんかは嬉しそうな表情でハジメの腕に抱きつきながらウサ耳をピコピコさせていた。

 

もし、グリッドがまだ何かを言ったり、何かしようとするのだったら、シアの傍にいたユエが〝股間スマッシュ〟と〝顔面クラッシュ〟をするつもりだったらしく、グリッドは自分の自制心に感謝すべきだろう。

 

ハジメ達は背中に突き刺さる凶悪な視線を特に気にするでもなく、特にその視線を向けられると思うハジメは恋人達とイチャイチャしているくらいである。そんな一行は青ざめた表情の案内役に従って巨大な跳ね橋を渡っていったのだった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「それで?」

 

ハジメ達を待ち構えていたリリアーナの第一声がそれだった。満面の笑みを浮かべているものの、目は笑っておらず声音は冷たい。言外に「説明しろや、ゴラァ!」と言っているのが分かる。

 

見るからにストレスが溜まっており、表情から内心を悟らせている時点で、ある意味、心を許していると言えなくもないのだが、未だかつて見たことがない友の雰囲気に、雫や優花は視線を泳がせている。

 

「帝都での茶番といい、一体全体どうして皆さんが此処にいるのですか? 私が納得のできる説明を求めます。ええ、それはもう強く強く求めます。誤魔化しは許しませんからね!特にハジメさんと……ってアレ?兄様は……っまぁ、とにかく! 絶対、裏で手を引いてるのは、ハジメさんでしょう!他人事みたいにシアさんのウサ耳をモフらないで下さい! 優花達も、どうしてシアさんのほっぺをムニムニしたりしているんですか! 後。兄様は何処にいるんですか!?」

 

リリアーナがキッ!とハジメを睨む。リリアーナの脳内には大体の非常識なことが出来る人間はハジメかアレスぐらいという揺るぎない理論である。

 

一方、矛先を向けられたハジメと言うと、シアを膝の上に座らせてウサ耳を優しくモフモフしていた。シアとは反対側に座るユエとハジメの隣に寄り添って座る優花は正面からシアのほっぺをムニムニしている。

 

「ん? すまん、何か言ったかリリィ?」

 

帝城に入ってからというもの、シア達を愛でたり、アレスの居場所、帝国とクソ神共の関連性をこっそりと空から〝オルニスA〟を操縦モードに設定して念入りで調べていたハジメ。その関係でリリアーナの言っていることを聞き逃してしまい首を傾げる。

 

リリアーナは涙目になった「王女なのに、まともに話を聞いて貰えてない!」と。頬を膨らましながら、気持ち、声量を多めに繰り返し説明を求める。

 

「声がでけぇって、リリィ。聞いてなかったのは謝る。ちょっと俺も忙しくてな」

 

「忙しい、ってシアさんとイチャイチャしているだけじゃないですかっ! 羨ま………じゃなくって、ハジメさんの嘘つきぃ!」

 

「お、落ち着いてリリィ!どうしようシズシズ 。こんな怒髪天を衝く!って感じのリリィなんて初めて見るよ!」

 

「いや、アレは嫉っ……いや、違うわよね。でも、南雲君のことだから……。ほら、リリィ、落ち着いて。今説明するから、ね?」

 

ふぅーふぅーと息を荒あげるリリアーナを鈴と雫が二人がかりで宥めていくが、ハジメは仕方ないと〝オルニスA〟を自動操縦モードに切り替えてから口を開く。

 

「まぁ、今回は大目に見てくれないかリリィ。ちょっと事情があってな。今のシアは、少しばかり不安定なんだ」

 

「不安定、ですか?どこか具合でも……」

 

途端に心配そうな表情になる辺り、リリアーナは人が好いことが分かる。視線を受けたシアは、何かを堪えるようにグッと唇を噛み締めていたが、先程からされていたモフモフとムニムニに表情を緩め始めた。俯かせていた。

 

顔を上げると「大丈夫です」といつもの笑顔を見せる。

 

シアの情緒が少し不安定なっていたのは、言うまでもなくグリッドが原因だ。だが、別に彼に対する恐怖などで、不安定になっていたわけではない。

逆だ。シアは内から溢れ出す〝殺意〟を抑えていたのである。何と言っても、グリッドはシアの家族を大勢奪った憎き相手だ。トラウマさえ乗り越えてしまえば、あとに来るのは強烈な殺意だけ。

 

しかし、此処に来た目的を考えると、ハジメがしたことはギリギリだろうが殺しはライン越えだ。だから、必死に我慢していたのだ。そして、それを察したハジメ、優花、ユエの三人が、シアを甘やかすことで宥めていたのである。

 

事情を知らない者のために、掻い摘んでグリッドとシアの関わりを話すと、皆一様に悲痛そうな表情になり、次いで、光輝達は当然の如く憤り、リリアーナは暗い表情で俯いてしまった。

 

リリアーナとしては、亜人族の奴隷化はこの世界の常識であり確認して来たことなので、自分が憤るのは余りにも筋違いだと思ったのだ。

 

教会と神々の真実を知った今、彼等に対する偏見は急速に薄れている〝亜人とは神に見放された種族〟──その神こそ人類の敵であるのに、亜人族を差別することのなんと滑稽ことか。リリアーナに限らず、真実を知った者は同じ想いを抱いていた。

 

とはいえ、差別してきた過去が精算されるわけではない。昔、一度、アレスにも『リリィ、亜人族に対して偏見を持ってはダメだ』と言われた時は、何を言ってるの?と思っていたぐらいだったが、今、アレスの言葉の意味をやっと理解した自分に何かを言う資格はないと、リリアーナは、いつもの笑顔を振りまくシアを眩しげに見つめながらハジメに話の続きを促した。

 

「それで、何故こちらに来たのですか? 樹海の大迷宮の攻略は? それと昨夜の動物の仮面集団はなんなのです? もうそろそろガハルド陛下から謁見の呼び出しがかかるはずです。口裏を合わせる為にも無理を言って先に合う時間を作って貰ったのですから、最低限のことは教えて貰いたいのですが。それにハジメさん。後、兄様の姿が見えないのですが……何処におられますか?」

 

「まぁ、そんな慌てるなるなよ、リリィ。夜になれば全部わかる。アレスのこともさ。だから、俺達のことは……用事が早く片ずいたから、遠出する前に立ち寄ったくらいに言っておけばいいさ」

 

「そ、そんな適当な……夜になれば分かるって、また仮面でも付けて暴れる気ですか? 分かっているのですよ! 雫達に恥ずかしい格好をさせたのはハジメさんだって!」

 

「そうカリカリすんなよ、リリィ。無理言ってるの分かっているが、頼む」

 

「うっ……ハジメさん。私はどうしたら……」

 

「………チョロ姫」

 

「ユエさん!?」

 

どうやら、ハジメ達が話す気はないと悟り、そしてハジメの押しに負けそうになったことでユエに言われた言葉で「王女なのに……」と落ち込む。その隣では、雫が「恥ずかしい格好……」と呟きながら自らの黒歴史にどんよりしている。

 

「………昨夜、仮面騒動とは別に、帝城の地下牢から脱走騒ぎと帝都のコロシアム近くの上空に巨大な魔力余波が発生した騒ぎがありました。まぁ、脱走騒ぎの犯人は十中八九ハジメさんとして、魔力余波の件はまだ原因は判明していません」

 

「当然の如く犯人呼ばわりか……まぁ、そうだが……(コロシアム辺りだと、アレスが消えた場所と近いな。なら、その魔力余波の原因はアレスのロンギヌス辺り……だが、一番気になるのはアレスをそこまで本気にさせた存在が帝国にいるということ………)どうして、リリィはなんで俺だと思った?」

 

「簡単でしょう? 詳しい話は聞いてませんが、捕らわれていた兎人族はハウリア族の方と聞きました。シアさんのために助けたというのは分かります。それに王国でも、有名な帝城の地下牢を難なく破れる人はハジメさんくらいでしょう? でも、分からないのは、今更ここへ乗り込んできたことです。何を考えているのですか?」

 

必要なら口裏も合わせるし協力もする。リリアーナの瞳にはそう物語っていた。まだ十四歳という若さで、国の舵取りの先達に立つ重圧は相当なモノだろう。

 

なのに、躊躇わずハジメ達のために動こうとするリリアーナに、光輝達だけでなく、優花達も「本当にこの王女は人が好い」としたほっこりしたような表情を見せる。思えば、彼女は最初からそうだった。周りが召喚された生徒達を〝神の使徒〟とただ称える中、この世界の事情に巻き込んでいるからと、自分にできる最大限で心を砕いてくれていた。

 

そんな真剣な眼差しで向き合ってくれるリリアーナに、ハジメは苦笑いして立ち上がりリリアーナの傍に近付くと頭を優しく撫でた。

 

「そこまで考えてくれるとはなリリィ、俺達の為にありがとよ」

 

「ならっ……「だが、この件は詳しく話せない」……な、何故分からないのですか?!」

 

しかし、リリアーナに待っていたのは自分と違った答えで声を上げてしまう。

 

「リリィ。本当に俺は今は〝忙しい現状〟なんだ。それにこの件も手伝わせたらリリィの負担が増えてしまう」

 

「でも、忙しいなら、私が手伝った方が……」

 

「いや、俺が行っていることは、リリィがするには難しいんだ。理解してくれ」

 

「うっ……でも……」

 

ハジメの言葉に口を噤んでしまうリリアーナ。この光景を他のメンバーがわざわざ口を挟まなかったのは、ハジメの〝忙しい現状〟を理解しているからだった。

 

「でも、ありがとな、リリィ。その気持ちだけ有難く受け取っておく」

 

「ぅぅ〜〜〜」

 

ハジメはそう言いながら謁見の時間が来るまでリリアーナに優しい笑みを向けながら、頭を撫でていた。その時のリリアーナの顔は真っ赤に染まって嬉しさと恥ずかしさが混ざったような、なんとも言えない表情だった。

 

そんなことをしていると、遂に謁見の時間が来たと同時に、やって来た案内役に付いて、ハジメ達はガハルドのもとへ向かった。

 

通された部屋は、三十人は座れる縦長のテーブルを置かれた、ほとんど装飾のない簡素な部屋だった。

 

その、テーブルの上座の位置に、頬杖をついて不敵な笑みを浮かべるガハルドがいた。彼の背後には二人、見るからにして手練れと分かる、研ぎ澄まされた空気を纏った男達が控えている。

 

「…………(上手く隠れてるが、壁の裏に二人、天井裏に四人、そして扉の外に二人ね……相当、俺達を警戒してのるか、試してるのかどっちかそれ以外のことか)」

 

部屋に入った瞬間でハジメは周りに隠れている者の気配を感じ取っていた。どうやら、謁見は完全包囲された状態で始まることについ溜息を吐く。

 

そして、入室したハジメ達に相当強いプレッシャーを向けた同時に言葉が放たれた。

 

「お前が南雲ハジメか?」

 

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