ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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九十話 皇帝会談

 

「お前が南雲ハジメか?」

 

ハジメ達が部屋に入るなり、リリアーナによる紹介も、勇者である光輝への挨拶もすっ飛ばして、ガハルドはそう問いかけた。視線は鋭く細められ、真っ直ぐにハジメを射抜いている。放たれるプレッシャーは、今も戦闘が始まりそうな強さだ。

 

流石は数十万ものの荒くれ者共を力の理で支配する男の威圧は半端なものではない。光輝達は思わず後退りして身構え、戦闘者ではないリリアーナなどは息苦しそうに小さな呻き声を上げた。

 

しかし、そんな強烈なプレッシャーの中でも、ハジメ、優花、ユエ、シア、ティオの五人は平然としていた。一番経験の少ない優花ですら、【メルジーネ海底遺跡】では頗る付きの狂気を耐え、自分の中にいるクリスタの記憶ではあるものの、〝神々〟の発する圧を体験しておるのだ。皇帝の威圧とはいえ、大迷宮攻略者───神殺しを行う者達にとってはそよ風に等しい。特にハジメは苦しそうにしているリリアーナを優しく支えながら、スっと目を細めながらガハルドを睨んでいた。

 

そんなハジメ達を、そしてプレッシャーを放った自分を睨んでいるハジメを見て、ますます面白そうに口元を吊り上げるガハルドに、ハジメは返事をした。

 

「ええ、俺が南雲ハジメですよ。しかし……随分としたご挨拶だな皇帝陛下さんよ?」

 

「「「「「「──っ!?」」」」」」

 

ハジメは、支えていたリリアーナを優花に託してから、〝威圧〟を発動しながら皇帝陛下に対する物言いに光輝達は驚愕していた。

 

「ちょっ、南雲君!?皇帝陛下の前よ?もう少し礼節を持って挨拶をしないと!」

 

「はぁ? 会って初っ端なプレッシャーをかけてくる奴に礼節とか関係ねぇだろ?それより優花、リリィは大丈夫そうか?」

 

「うん、念の為に回復魔法もしといたから大丈夫」

 

「……はい、私はもう大丈夫です。ハジメさんも優花もありがとうございます」

 

ハジメは雫の言葉に肩を竦めながら、優花に託していたリリアーナを心配した。リリアーナは優花に支えられながらも大丈夫と返していた。

 

「でも、最低限の礼ぐらい示さないと……」

 

「いや、八重樫。この皇帝さんは、そんなのを求めてないだろ?帝国は実力至上主義の軍事国家だ。なら、示すなら礼節じゃなくて実力だろ?」

 

ハジメはそう言うと、ガハルドに視線を転じた。味方の動揺が激しく、優花達は平然としている中、ハジメから視線を向けられたガハルドは笑い声を漏らしながら口を開く。

 

「ククッ……流石は国民を欺くストーリーを平然と作り出す奴だ。そうだ、南雲ハジメ。お前の言う通り、畏まった礼節なんかより実力を示してくれる方が俺にとっては嬉しいことさ」

 

ハジメの言う通り、ガハルドは先程のハジメの発言に怒ることなく寧ろ、獰猛に笑っている。

 

「ほら、言ったろ? こういう奴は畏まるよりこうした態度で対応をした方が良いんだって」

 

「そ、そうなの……?」

 

ハジメの言葉に雫は首を傾げるが、ガハルドに促されて、ハジメ達は順に席に着いていく。それを見て、ようやくハジメから視線を外したガハルドは、ハジメの傍に陣取るユエ達を興味深げに観察し始めた。特にシアに対しては意味深な視線を向けてから、以前、勧誘した一人である優花に視線を向けて笑みを浮かべた。

 

「久しいな、園部優花」

 

「はい、お久しぶりです。ガハルド陛下」

 

「あの時、お前が言っていた探している人ってのは南雲ハジメのことだったんだな」

 

「ええ、ですので、勧誘の件は……」

 

そう言って優花は隣に座るハジメの腕に抱きついて、ハジメとの関係性をガハルドに見せる。二人の関係性を確認したガハルドも納得した表情で言う。

 

「お前達の仲は分かった。まあ、お前の目を見る限り、望み薄みたいなもんだったからな………んで」

 

そう言って、ガハルドは優花と会話した後、光輝達の方に視線を向けると……光輝をスルーして、隣の雫に目を向けニヤリと楽しげな笑みを浮かべた。

 

「雫も久しいな。俺の妻になる決心はついたか?」

 

「陛下!雫は既に断ったでしょう!」

 

ガハルドの言葉に雫が何かを言い返すより早く、光輝が反応する。チラリと光輝を見たガハルドは、ハッと鼻で笑うと雫を真っ直ぐに見つめ出した。あからさまな〝眼中にない〟という態度をとられて額に青筋を浮かべる光輝。

 

そんな二人に嘆息しながら、雫は澄まし顔で答える。

 

「前言を撤回する気は全くありません。陛下の申し出はお断りさせて頂きます」

 

「つれないな。だが、そうでなくては面白くない。元の世界より、俺がいいと言わせてやろう。その澄まし顔が俺への恋慕で赤く染まる日が楽しみだ」

 

「そんな日は来ませんよ。……というか、皇后様がいらっしゃるでしょう?」

 

「それがどうした? 側室では不満か? ふむ、正妻にするとなるといろいろ面倒なことに………」

 

「そういう意味ではありません! 皇后様がいるのに他の女に手を出すとか……」

 

「何を言っている? 俺は皇帝だぞ? 側室の十や二十、いて当たり前だろう」

 

「ぐっ……そうだったわ。と、とにかく、私は陛下のものにはなりません。諦めて下さい」

 

「まぁ、神々による帰還が叶わない以上、まだまだこの世界にいるのだろうし、時間を掛けて口説かせて貰おうとしようか。クク、覚悟しろよ、雫」

 

どうやら本当に、ガハルドは雫を気に入ってるらしい。優花の時とは違って、強欲な皇帝らしく、断られたくらいでは諦めないようだ。その鋭い眼光が雫をロックオンしていた。雫は心底嫌そうな表情でそっぽを向いているのだが、全く気にした様子もない。

 

と、その時、向いた先で雫の視線が、偶然、皇帝陛下の前であるのに優花の頭を撫でたりとイチャイチャしていたハジメと合う。やはり、普段の鋭さと異なり、大事な恋人達の前では目元を和らげ優しい様子を見せるハジメであったがちゃんと話は聞いていたのだろう。その時のハジメの眼差しには、「ドンマイ、八重樫(笑)」という明らかに面白がるような色が含まれていた。

 

その眼差しにイラッときた雫は、つい、用意された紅茶付属の角砂糖を指で弾いてしまった。ハジメには遠く及ばないが、結構な勢いで飛ばされた角砂糖の弾丸は、狙い違わずハジメの顔面に飛来するも、直撃はすること無く、パクッとハジメの口の中でキャッチされてしまった。

 

ハジメは口をモゴモゴと口を動かし、「甘いな」と角砂糖の甘みを堪能していると両隣の優花とユエから机に出されてる菓子をアーンされ、それもちゃんと頂いて堪能してから、胃に収めた。

 

それを見て悔しそうな雫に対して、ハジメは既に優花とユエ達とイチャイチャを続けている。そんな様子を黙って見ていたガハルドは、改めて鋭い視線をハジメに向ける。それは、色々な意味で値踏みするような眼差しだ。

 

「ふん、面白くない状況だな。………南雲ハジメ。お前には聞きたいことが山ほどあるんだが、まず、これだけ聞かせろ」

 

「ああ? なんだ?」

 

「お前、俺の雫はもう抱いたのか?」

 

「「「「ぶふぅーーーー!?」」」」

 

唐突にとんでもないことを真剣な表情で尋ねるガハルドに、雫を含め、光輝達が噴き出した。ガハルドの背後に控える護衛の男達ですら「陛下……最初に聞くのがそれですか……」と頭の痛そうな表情をしている。

 

顔を真っ赤にした雫が泡を食って声を張り上げる。

 

「ちょっ、陛下! いきなり何をっ」

 

「雫、お前は黙っていろ。俺は南雲ハジメに聞いてんだよ」

 

ガハルドは雫を制して、ハジメに視線を向け続けている。対するハジメは呆れ顔だ。

 

「何をどうしたらその発想に辿り着くんだ?」

 

「どうやら、雫はお前に心を許しているようだからな……態度から見て、ないと思いたいが、念の為だ」

 

「はぁ、あるわけないだろ?」

 

「………ふむ、嘘はついてないな。では、雫のことはどう思っている?」

 

その質問に、部屋中の視線がハジメに集まった。光輝の視線は厳しく、龍太郎や鈴は、どこかハラハラしている。優花達からも様々な意味が込められた視線が突き刺さる。ハジメは、何故、皇帝陛下と謁見して最初に聞かれる質問が恋人でもない雫との関係なのかと溜息を吐きながら、なんとなしに雫へ視線を向けた。

 

見ると、雫の表情は面白いことになっていた。ハジメはその様子に 首を傾げ雫を見つめる。

 

「……(なんで、八重樫の奴。あんなに耳を真っ赤にしているんだ?)」

 

雫の態度に疑問を思いつつも、ハジメは本音を取り敢えず告げた。

 

「……苦労人で、勇者のオカン」

 

「OK、その喧嘩買ったわ。表に出なさい、南雲君」

 

十七歳のうら若き乙女を捕まえて、よりによって〝勇者のオカン〟とは何事か、と雫が据わった目でハジメに向けながら揺らりと席を立とうとする。

 

〝案の定かい!〟と、隣の龍太郎と鈴が慌てて雫を止めに入り、ハジメは優花に「女の子にそれは言ってはいけないでしょ」と、頬を引っ張られながら叱られていた。片方の頬も隣にいるユエが引っ張っている。

 

「……まさかの回答だが……まぁいい。雫、うっかり惚れたりするなよ? お前は俺のものだからな」

 

「だから、陛下のものではありませんし、南雲君にほ、惚れるにゃんてありませんからっ!い、いい加減、この話題から離れて下さい!」

 

「分かった分かった。そうムキになるな。過剰な否定は肯定と受け取られるぞ?」

 

「ぬっぐぅ……」

 

ガハルドの物言いに思わず呻き声を上げてドカッと座り直す雫を鈴が苦笑いしながら宥めて、何故か光輝はハジメを睨む。

 

「南雲ハジメ。お前も、雫に手を出すなよ?」

 

「興味の欠片もねぇから安心しろ。つか、ホントに無駄話しかないなら、もう退出したいんだが?」

 

「無駄話とは心外だな。新たな側室、或いは皇后が誕生するかもしれない話だぞ?帝国の未来が関わっているというのに………。まぁ、話したかったのは確かに雫のことではない。分かっているだろう? アレス・バーン以来の規格外なお前の異常性についてだ」

 

雫を絡めてハジメを観察する時間を稼いでいたガハルドだが、そろそろ潮時と判断してガラリと雰囲気を変える。今までの覇気を纏いつつもどこかふざけた雰囲気とは異なり、抜き身の刃のような鋭さを放ち始める。

 

「まず、聞きたい。アレス・バーンは何処にいる? 誤魔化したって無駄だ。情報は割れてるからな」

 

「……今は別行動中だ。そして、今現在は絶対にアンタには会えないと思う」

 

「……そうか。隠れさせてるわけでもないか」

 

「それが、アンタの聞きたいことか?」

 

「そう急かすな。この場にアレス・バーンがいなかったから聞いたまでだ」

 

ガハルドはずっと気になっていたアレスのことを聞くと、頷くだけだった。そして、ハジメ達との謁見の時間を取った最大の理由に切り込んだ。

 

「リリアーナ姫からある程度は聞いている。お前が大迷宮攻略者であり、そこで得た力でアーティファクトを創り出せると……魔人族の軍を一蹴し、二ヶ月かかる道程を僅か二日足らずで走破する、そんなアーティファクトを。真か?」

 

「ああ」

 

「そして、そのアーティファクトを王国や帝国に供与する意思がないというのも?」

 

「ああ」

 

「ふん。一個人が、それだけの力を独占か……そんなことが許されると思っているのか?」

 

「誰の許しがいる? 許さなかったとして、お前に何が出来るんだ皇帝さんよ?」

 

ハジメの簡潔な煽りを含めた返しに、ガハルドが目を細め、覇気が更に増した。ガハルドの背後にいる護衛達がガハルドに合わせて殺気を放ち始める。対して、部屋の周囲に隠れている者達の気配が更に薄まっていった。まさに一発触発の状態である。

 

「ガ、ガハルド陛下!何を考えてっ」

 

こうならないように事前に警告混じりの話をしたというのに、何故、〝竜の尻を蹴り飛ばす〟ような真似をと、顔面を蒼白になりがちながら苦言を呈す。

 

しかし、ガハルドの視線はハジメに固定されたまま。返事もない。緊迫する空気に光輝達が顔を強ばらせ腰を浮かせた。そんな中、当のハジメは、重く粘りつくような殺意を何も感じてないように受け流し、平然と紅茶に手を伸ばしていた。その際、チラリと数ヶ所に視線を向けた。「丸見えだぞ?」とでも言うかのように。

 

それが伝わったのか、微かにガハルドから周囲から動揺するような気配が伝わってくる。

 

「はっはっはっ、止めだ止め。ばっちりバレてやがる。確かにコイツはアレス・バーンや若作りババア同様、正真正銘の化け物だ。今、殺り合えば皆殺しにされちまうな!」

 

ガハルドは豪快に笑いながら覇気を収めた。それに合わせて周囲の者達も剣呑な空気を収めていく。百聞は一見にしかず。皇帝として実行せずにはいられなかったらしい。ハジメも呆れてしまった表情でガハルドに言う。

 

「なんで、そんなに楽しそうなんだよ」

 

「おいおい、俺は〝帝国〟の頭だぞ? 強い奴を見て、心が踊らなきゃ嘘ってもんだろ?」

 

ガハルドの返事は実に実力至上主義の国の人間らししかった。光輝達が大きく息を吐いて椅子に座り直す。リリアーナは胃がしくしくと痛みを訴えてるようでお腹を摩っている。

 

「それにしても、お前が侍らしている女達もとんでもないな。おい、何処で見つけてきた? 園部優花もそうだが、こんな女共がいると分かってりゃあ、俺が直接口説きに行ったってぇのに……一人ぐらい寄越せよ。南雲ハジメ」

 

「あ? ガハルドてめぇ、優花達に指一本でも触れてみろ。てめぇの頭部と帝国は明日にはなくなっ……「はーい。ハジメ、ストップ。ティオ〜」「のじゃ〜。ほら、ご主人様、落ち着きたもう〜」……ちょっ、おい! ムグッ?!」

 

ハジメのブチギレスイッチが入ったのを確認した優花は瞬時に指示を出し、指示を受けたティオは自分の胸でハジメの頭を押し付けるた。ティオもハジメが抜け出さないように頭をガッチリと拘束して自分の胸でハジメを抑えながら頭を撫でていく。すると、最初は反抗してたハジメも最終的に力が抜けたかのように腕がダランと垂れた。どうやら落ち着いたらしい。

 

「ごめんなさい、ガハルド陛下。ハジメは私達のことになると、こんなのになるので、そう言った発言は極力控えて欲しいのですが……」

 

「お、おう……それはスマンかった」

 

物凄い覇気を感じてしまう優花の笑顔に皇帝陛下さえも少し怖気てしまい頬が引き攣ってしまうが、一旦、咳払いして気を取り直すガハルド。ハジメも咳払いして乱れた髪は優花に直して貰いながら気を取り直して会話を再開する。

 

「まあ、俺としては、そちらの兎人族の方が気になるがね?そんな髪色の兎人族など見たことがない上に、俺の気当たりにもまるで動じない。その気構え、最近捕まえた〝玩具〟を思い起こさせるんだが、そのところどうよ?」

 

ガハルドの〝玩具〟発言に、シアの目元がピクリと反応する。隣のユエが、テーブルの下でそっとシアの手を握った。

 

「玩具なんて言われてもなぁ〜」

 

「心当たりがないってか? なんなら後で見るか? 実は、まだ何匹かいてな、女と子供なんだが、これが中々──」

 

ガハルドの言葉はハッタリだ。カムを通じて、捕まった者全員を連れ出したことは確認済みである。

 

それに対して、ハッタリだと分かっているハジメの返事はガハルドを心の中で駄目出ししながらの一言だった。

 

「興味ないなぁ……(ハッタリなら、もう少し良いのを考えとけよガハルド皇帝さんよ)」

 

「ほう。そいつ等は、凄まじい業物のショートソードや装備を持っていたんだが、それでも興味ないか、稀代の錬成師(・・・・・・)?」

 

「俺、剣とかそんなに使わないからなぁ………」

 

「……そうかい。ところで、昨日、地下牢から脱獄した奴等がいるんだが、この帝城へ易々と侵入し脱出する、そんな真似が出来るアーティファクトや特殊な魔法は知らないか?」

 

「知らないなぁ……あったらいいよなぁ」

 

「……聞きたいことはこれで最後だ。何を得られれば帝国につく?」

 

「そうだな……でも、まず一つ聞いて良いか?」

 

「普通なら断っているが、お前になら、一つぐらい答えてやろう」

 

「そうか。じゃ、陛下。獣人並の肉体に思考能力が欠損している帝国兵達の存在を知ってるか?」

 

その言葉と共にハジメの雰囲気が一変する。この場にいる全員が空気が重くなったことを感じ息苦しく感じてしまう。リリアーナには既にティオが魂魄魔法を使用してなんとかなっている。

そんな中、ガハルドは、ハジメの雰囲気の変わり様とその自分すら息苦しくなりそうな圧に獰猛な笑みを浮かべながら返事をした。

 

「圧まで変えてまでの質問がそれか。だが、すまん。俺は全く知らん。で、それがどうしたんだ?」

 

「…………(隠している素振りはない。本当に知らない口か)いや、変な質問したな」

 

「そうか。なら、もう一度聞くぞ。どうしたらお前は帝国につく?」

 

「そうだな……亜人奴隷の解放宣言もしくは態度改善。それをしてくれたら考えてやるよ」

 

「おいおい、それは豪胆だろ?チッ、ホントに話題の奴だな。ったく、ギルドのババア並に扱いづらいガキめ」

 

ガハルドはハジメの言葉に目を見開くも、ガリガリと頭を掻きながら悪態を吐く。しかし、その表情にはやはり何処か楽しげな笑みを浮かんでいる。自分に抗う相手というのが実に好みらしい。

 

同時に、今のやり取りで事前にリリアーナから聞いていたハジメの情報について、ある程度は確信が持てたらしい。人物評価も確定したようだ。

 

はっきり言って、ハジメの態度は皇帝陛下を舐めきったものであり、神々の真実を知った今となっては、ガハルド自身が許可したとはいえ普通なら問題となる。無礼講と言われて、本当に無礼千万を働いたらアウトなのと同じだ。

 

しかし、ガハルドはそれを許容した。それは、ハジメと相対するデメリットを確信したからだ。ついでに言えば、実力至上主義の理念に沿ったからだ。

 

結論として、ハジメを囲い込む、或いは危険過ぎると排除するような行動は取らないようだ。と、其処で時間が来たようで、背後に控えていた男の一人がそっとガハルドに耳打ちすると、ガハルドは一つ頷き席を立った。

 

「まぁ、最低限、確認すべきことはできた。……今のところは、これくらいで良しとしておこう。帝国も王国も、今は大忙しだしな。ああ、そうだ。今夜、リリアーナ姫の歓迎パーティーを開く。お前達も是非、出席してくれ。姫と息子の婚約パーティーを兼ねているからな。真実は異なっていてもそれを知らないのなら、〝勇者〟や〝神の使徒〟の祝福は外聞がいい。頼んだぞ?」

 

ガハルドは、突然落とされた爆弾発言に唖然とする光輝達を尻目に、意味深な視線をハジメに向けると、そのまま颯爽と部屋から出ていった。

 

バタンと扉の閉まる音が響き、それによってハッと正気を取り戻した光輝達がリリアーナを詰問する。

 

「リリィ、婚約ってどういうことだ!一体、何があったんだ!」

 

「それは……例え、狂った神々の遊戯でも、魔人族が攻めてくれば戦わざる得ません。我が国の王が亡くなり、その後継が未だ十歳と若く、国の舵取りが十全でない以上、同盟国との関係強化は必要なことです」

 

なんでもないように語るリリアーナに光輝は絶句してしまう。代わりに雫が厳しい表情で尋ねた。

 

「それが、リリィと皇太子の結婚ということなのね?」

 

「はい。お相手は皇太子様ですね。ずっと以前から皇太子様との婚約の話はありました。事実上の婚約者でしたが、今回のパーティーで正式なものとするのです。魔人族の侵攻で揺らいでいる今だからこそ、というわけです」

 

「王国には? 協議が必要ではないの?」

 

「事後承諾ではありますが、反対ではないでしょう。元々そういう話だったわけですし。それに、今の王国の実質的なトップは私です。ランデルは未だ形だけで、お母様も前には出ない人ですし、兄様も親戚ですけど、そもそも、追放されているのですから。なので、問題はありません。今は何事も迅速さが必要な時です」

 

リリアーナは極めて冷静だ。悲劇のヒロインのような雰囲気は微塵もない。ただ、自分の役目を全うすべく全力を注いでいる、という様子だ。

 

光輝は苦虫を噛み潰したよう な表情をしながら口を開いた。

 

「……リリィはその人のことが好きなのか?」

 

その質問には、流石にリリアーナも困った顔になる。

 

「……好き嫌いの話ではないのです。国同士の繋がりのための結婚ですから。ただ次期皇帝陛下筆頭候補ともなれば側室も多く娶る必要があって、現在の愛人の方々の中からも選ばれる方もいると思いますが………ふふふっ、私の立場上、彼女達を差し置いて正室になるのですよ。凄いでしょう。まぁ、後宮内の調整に関しては、私が最年少ですし、胃がシクシクしちゃうのですが……」

 

リリアーナは、冗談めかしてドヤ顔をしたり、わざとらしくお腹をさすったりして雰囲気を明るくしようとするが、その気遣いの態度に、光輝は逆に声を荒あげた。

 

「な、なんで、そんな平然としているんだよ! 好きでもない上に、そんな奴と結婚なんておかしいだろ!」

 

「光輝さん達から見ればそうなのかもしれませんが、私は王族で王女ですから。生まれた時から、これが普通のことです」

 

「普通って……リリィだって女の子なんだ。ちゃんと好きになった人と結婚したいんじゃないのか?」

 

納得出来ず言葉を重ねる光輝に、リリアーナはただ、困った笑みを浮かべる。

 

リリアーナとて、ロマンチックな恋愛に憧れたりも当然する。特に、親友となった異世界の女の子達、優花や雫、此処には居ない香織などとガールズトークもすれば尚更。そして、今も脳裏に焼き付いているあの夜で彼と初めて出会い話し合った思い出。だが、憧れは憧れだ。王族として果たさねければならない責務がある。

 

だから、どうか、あまり自分で自分の憧れを否定する言葉を言わないで欲しいなぁと、リリアーナは目で訴えてみるのだが………。

 

光輝は納得できない感情のまま、なお言い募ろうとするが、その寸前、ハジメが席を立った。

 

思わず言葉を止める光輝。ハジメに注目が集まるも、当のハジメは何事もなく部屋を出ていこうとするが、その行動に、光輝が行き場のない感情を吐き出すかのように突っかかった。

 

「おい!南雲!お前は、なんとも思わないのか!」

 

「………うるせぇんだよ、天之河。それにな、思うか思わないか以前にこれは婚姻という形をとっただけの政治の話だろ? 俺達みたいなド素人が違う口を挟むことじゃない」

 

「ぐっ、で、でも……」

 

光輝の様子を見て、ハジメはカム達を救出する前の光輝を思い出す。雫達がいる以上、まさか目的を見失って暴走したりしないと思うが、念の為にと釘を刺した。

 

「………今の俺達にはやることがある。下手なことをするな。それでも邪魔するなら、口の利けないレベルでぶちのめす。それに、婚姻の話はリリィの問題だ。それに……」

 

ハジメはそう言いながら、リリィに近くに近づく。そして、リリィの視線が合わさるぐらいにまで屈むとそっと、リリィの頭を撫でながら優しい笑みを向けて口にした。

 

「俺はいつまでも、リリィの味方さ」

 

「ハジメ……さん」

 

ハジメはそれだけ言うと、さっさと出ていってしまった。王族ということもあってか、ユエやティオなどは同情しつつも、リリアーナの決意を応援するような眼差しを向けて追随する。優花はハジメに「素直じゃないなぁ〜」と、いった感じの眼差しを向けつつハジメに追随する。シアは複雑な表情ではあったが、心配そうにしながらもユエや優花に促されて退出した。

 

リリアーナはそんなハジメを出ていく様子を頭を撫でられた部分をまた、自分で撫でながら見つめていた。頬を赤く染めながら……。

 

「クソっ。アイツは、いつもいつも簡単にっ」

 

「(ああ、そういうことね。……南雲君も素直じゃないのね)光輝、落ち着きなさい。それと、そこまで深刻にならなくても良いかもしれないわよ?」

 

光輝は雫に愕然とした表情を向ける。心配じゃないかと、責めるような目を向ける。だが、続くハッとする鈴と龍太郎の言葉でハッとした。

 

「う、うん。そうだよね。歓迎パーティーどころじゃなくなるかもだしね」

 

「ある意味、パーティー、だな。南雲も凄いことを考えたもんだなぁ」

 

光輝は無言になった。ハジメが出ていく際にリリィに向けて言った言葉も意味も察しがついたようで、微妙で悔しそうな表情になる。

 

そんな、彼等の様子を対してリリアーナは……

 

「ハジメさん………助けてくれるんですか……」

 

彼等の様子を見ることなく、両手を胸に抑えながら、ポーッと扉を見つめているのであった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「やっとだ……」

 

帝城の傍に建てられている。皇太子の別荘にある男が笑みを浮かべながら嬉しそうに口にする。

 

「あの、無能もここまで来れば、儂の使徒にするのも良いに思えてきたな……まだ、成功してないがな」

 

そして、男はそう口にすると同時に、手で持っているグラスの中に入っているワインを一口、口を付けてから、両手を広げ声高らかに上げた。

 

「ああ、我が主、天上天下唯我独尊たる最強の神、ラーゼン様。見ていて下さい。この、創獣神・オルステッドの活躍をっ! 儂の采配をっ!」

 

両手を広げた勢いで手に持っていたワイングラスが床に落ちてパリンっと音をたてるも、オルステッドは気にしない。

 

「一万と五百年前の儂の失態を挽回する為にっ」

 

オルステッドは、自分の失態を屈辱を思い出す。一つは自分の胸に大きな傷をつけ、竜人族に神々が敵であると、伝えた初代クラルス。二つ目は、五百年前に自分達を倒そうと画作していたクラルスの一族。

 

「しかし、今度は邪魔になるであろう〝使徒殺し〟は封印済み、イレギュラーも今は樹海の大迷宮にいるとバイアスからの報告で聞いておる。あぁ、楽しみだな。今宵は楽しみだなぁ……ガハハハハッ!」

 

オルステッドは笑う。その姿に映る影には巨大な〝竜の姿〟が映っているのであった………。

 

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