ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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九十二話 パーティー 前編

 

日がすっかり落ち、辺りが暗闇で覆われた帝城の一角。二人の帝国兵が、警備のため決められたルートを巡回していた。

 

その手には魔法的な火が燃え盛る松明のようなものが持たれており、不埒な侵入者を味方をする夜闇を懸命に払っている。

 

「はあ。今頃、お偉方はパーティーか……美味いもん食ってんだろうなぁ」

 

「おい。無駄口を叩くなよ。バレたら連帯責任なんだぞ」

 

一人の兵士が遠くに見える明かりを眺めながら溜息混じりに愚痴を零した。相手の兵士が顔を顰めながら注意するが、その表情の原因は言葉通りのものではないようだ。どちらかと言えば、〝暑い時に暑いと言うと余計に暑い気がするから言うな〟という、ウンザリ気味の雰囲気が漂っている。内心では、同じように愚痴を零していたらしい。

 

「だけどさ、お前も早く出世して、ああうのに出たいと思うだろ?」

 

「……そりゃあな。あそこに出れるくらいなら。金も女にも困らねぇしな………」

 

「だよなぁ。パーティーで散々飲み食いした後は、お嬢様方と朝まで、だろ? 天国じゃん。あ〜、こんなとこで意味のねぇ巡回なんかしないで女抱きてぇ。兎人族の女がいいなぁ」

 

「お前、兎人族の女、好きだなぁ。亜人族の女は大体いい体してっけど、お前、娼館行っても兎人族ばっかだもんな」

 

「そりゃあ、あいつらが一番いたぶりがいがあるからな。いい声で泣くんだよ」

 

「趣味わりぃな……」

 

「なに言ってんだよ。兎人族って、ほら、イジメて下さいってオーラ出てるだろ? 俺はそれを叶えてやってんの。お前だって何人か使い潰してんだろ?」

 

「しょうがねぇだろ? いい声で泣くんだから」

 

二人の巡回兵は、顔を見合わせると何が面白いのか下品な笑い声を上げる。帝国において、亜人は所詮道具と変わらない。ストレスや性欲を発散するための、いくらでも替えの利く道具なのだ。故に、この二人が特別、嗜虐的な性格なのではなく、亜人を辱め弄ぶのは帝国兵全体に蔓延してる常識と言ってよかった。

 

と、その時、片割れの兵士が不意に視線を転じた。建物の陰に何かを見た気がしたのだ。

 

「おい、今、何か……」

 

「あ? どうした?」

 

警戒しながら建物へと近づき、暗がりを照らしだそうとする兵士。疑問の声を上げながらもう一人も追従する。先行していた兵士は「誰かいるのか?」と誰何しながら、ちょうど人一人がギリギリ通れる程度の建物と建物の間に、バッ!と松明の火を向けた。

 

しかし、その先に人影はなく「見間違いだったか……」と呟きながら安堵の吐息を漏らす。そうして、苦笑いしながら、相棒の方へと振り返った兵士だったが……

 

「悪い。見間違い──。 ? おい、マウル? どこだ? マウル?」

 

そこに相棒の姿はなく、足元に彼が持っていた筈の松明だけが残されていた。何処に行ったんだと、キョロキョロと辺りを見回す兵士だったが、周囲に人影がない。

 

彼の背筋に冷たいものが流れる。湧き上がる恐怖心を誤魔化すかのように、兵士は声に苛立ちを滲ませて、再度、相棒へ、呼びかけた。

 

「おい、マウル。さっさと出てこい! 悪ふざけなら──んぐっ?!」

 

その瞬間、誰もいなかった筈の建物の隙間からスっと二本の腕が音もなく伸びた。闇の中から直接生えてきたかのような腕の一本には、光を吸収する艶消しの黒色ナイフが握られており、片手が兵士の口元を塞ぐと同時に延髄へと深く突き立てられる。

 

一瞬、ピクンと痙攣したあとグッタリと力を抜いた兵士は、そのまま二本の腕に引きずられて闇の中へと消えていった。

 

いつの間にか彼等の松明も消え去り、ただ生温い夜風だけがゆるゆると吹き抜ける。そして闇の中、風に紛れそうなほど小さな囁き声がする。

 

司令部(HQ)、こちらアルファ。Cポイント制圧完了」

 

「アルファ、こちらHQ。了解。E2ポイントに向かえ。歩哨四人。東より回りこめ」

 

「HQ、こちらアルファ。了解」

 

そんな囁きの後、黒ずくめの衣装に全身を包んだ複数の人影が、足跡一つ立てず移動を開始した。

 

顔面まで黒い布できっちり隠しているが、目の部分だけは視界保護のために空いており、そこから鋭い眼光が覗いている。背中には小太刀が二本括りつけられていた。

 

ハウリア族である彼等は、闇に紛れて建物の陰に身を潜める。そこからそっと顔を覗かせれば、報告通り歩哨が二人組に分かれて互いに目視できる位置に佇んでいた。

 

ハウリア族の一人が背後に控える三人にハンドシグナルを送る。それに頷いた三人はスっと後ろに下がると、まるで溶け込むように夜の闇へと姿を消した。

 

待つこと数秒。指示した場所から、歩哨の視線が逸れた隙にチカッ!と光が輝く。

 

同じく、歩哨の視界に入らないように考慮して、ハウリア族の一人がライターサイズの容器の蓋を一瞬だけ開けた。これは、中に緑光石が仕込まれた簡易の懐中電灯のようなものだ。

 

合図を送ったハウリア族は、背後の二人を振り返るとハンドシグナルで指示を出しながら動き出した。

 

二組の歩哨が互いの姿を視界の外に置いた瞬間、気配を極限にまで薄くして一気に接近し、一人が兵士の口と鼻を片手で覆いながら延髄を一突き。

 

「───ッ?!」

 

もう一人も同じく、片手で拘束しながら別の兵士の腎臓を突き刺して組み倒す。最後の一人は、歩哨が手放した松明を落ちる前にキャッチして火を消し、その他の痕跡が残ってないか確認する。そして、一気に建物の陰に引きずっていった。

 

しかし、流石に無音とはいかず、もう一組の歩哨が「ん?」と視線を向け、その視線の先には先程までいた仲間の姿がないことに気付く。松明の光もなく暗闇が存在するだけだ。

 

「あいつら、何処に行ったんだ?」

 

と、訝しみながら目を凝らす歩哨は、闇の中で微かに動く人影を捉えた。何か大きなものを引きずる姿だ。

 

ぞわりっと危機感を背筋を駆け抜ける。歩哨は、咄嗟に首元に下げた警笛を吹き鳴らそうと手を伸ばすが……

 

次の瞬間、その歩哨の首に睡眠薬を盛られたナイフが突き立てられた。歩哨は悲鳴を上げることができず、その意識を闇に沈めることにたなった。

 

警笛を握った歩哨の隣では、やはり相方の歩哨も同じようにナイフを突き立てられて眠ってしまっている。同時に松明の火が消されて建物の陰に引きずられていった。

 

現在、帝城の至るところで同じような襲撃が行われていた。既に、複数の詰所に控えていた多くの兵士達が眠った後であり、帝国を囲むように四方に設置されていたアーティファクトを守護していた半獣人化している帝国兵はハジメの指示で強い人員が割り振られていたため問題なく殲滅を完了し、そのアーティファクトを破壊及び回収を済ます。そして、兵舎で就寝中の兵士達は樹海製の眠り薬によって普段とは比べ物にならないほど深い眠りにつかされていた。

 

警報が鳴ったとしても朝までぐっすり眠り、帝国兵達は普段の疲れを存分に癒すことだろう。

 

今宵の空に浮かぶのは繊月。別名〝二日月〟。新月の翌日に昇る、見えるか見えないかぐらいの極細の月だ。それは、悪魔が笑みを浮かべたように見える。そして、トータスではこの繊月のことを竜のような目と似てることから〝竜目月(りゅうめづき)〟と呼ばれ、所謂〝厄日〟らしい。

 

そして今宵は、そんな厄日であるかのように、実力至上主義を掲げた者達が最弱と罵っていた相手に蹂躙されるという喜劇、もう一つは、今まで自分達が奴隷・性処理道具・労働力として扱ってきた種族と同じようなもの……いや、それ以下の知性のない獣に変えられるという絶望劇、この月はそんな二つの思惑を楽しみに嘲笑っているかのようだった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

帝城内のパーティー会場は、流石と言うべき絢爛豪華さだった。立食形式のパーティーで、純白のテーブルクロスが敷かれたテーブルの上には何百種類もの趣向を凝らした料理やスイーツが並べられている。

 

装飾や調度品も素晴らしく、つい目を奪われるほどの華やかさだ。

 

───HQ、こちら、アルファ。H4ポイント制圧完了

 

───HQ、こちら、ブラボー。全Jポイント制圧完了

 

───HQ、こちら、チャーリー。全兵舎への睡眠及び、防御用アーティファクトの設置を完了

 

───HQ、こちら、エコー。皇子二名、皇孫並びに皇女各二名確保

 

───HQ、こちら、ゲッター。四方のアーティファクト破壊及び回収を完了。至急、帝城に向かう

 

───HQ、こちら、ザップ。帝城内にいた〝狂化〟帝国兵の殲滅を完了。探索を再開する。

 

そんな煌びやかなパーティー会場で、普段では有り得ないほど満面の笑みを浮かべながら、話しかけてくる帝国貴族の相手をするハジメ。

 

その間も耳につけたイヤリング型の通信型のアーティファクトから次々と報告と情報が入ってくるのだが、そんなことは気にせず貴族達の他愛のない会話を続ける。

 

そして、ハジメ以外も〝勇者一行〟は注目の的で、少しでも面識を得ようと帝国貴族がしきりに話しかけていた。

 

何せ、〝神の使徒〟にして、あの〝勇者一行〟だ。世間一般では【オルクス大迷宮】の攻略階層を破竹の勢いで更新した強者だと認識されているため、〝強さ〟が基準の彼等からすればなんとも興味のそそる存在なのだろう。勿論、あわよくば個人的な繋がりを持ちたいという下心もたっぷりある。

 

もっとも、ハジメに話しかけている者達だけは、別の意味で下心が満載のようだ。

 

彼等の目的は言わずもがな。パーティーが始まってから片時もハジメの傍を離れない美貌の女性陣達だ。ハジメに話しかけながらも、チラチラと背後に控える優花達に視線が向いているのでバレバレである。

 

だが、無理のないことだろう。リリアーナの来訪歓迎と婚約祝いを兼ねたこのパーティーにおいて、優花達の存在は花を添えるどころの話ではない。寧ろ自分達こそ主役だと言わんばかりの強烈な存在感を放っているためだ。

 

「ほえ〜〜。世の中には、こんな場所があるんですねぇ〜、ハジメさん。樹海では考えられません」

 

会場の豪華さにぽか〜んとしっぱなしのシアは、ムーンライト色のミニスカートドレス姿だ。スラリと長く、引き締まった美脚を惜しげもなく晒している。

しかし、決して下品さはなく、ふんわりとしたスカートと、珍しく楚々としたシアの雰囲気が彼女の可愛らしさをこれでもかと引き立てていた。

普段は真っ直ぐ下ろしている美しい髪を纏めて前に垂らしている姿も、彼女の上品さと可愛らしさを与えている要因なのだろう。

 

「そうじゃな、料理も酒も一流。今の内に堪能しておかねばもったいない」

 

その隣で、上品でワインを傾けるティオは、普段の黒い和服と同じような黒いシャドウドレスだ。

しかし、体のラインが出るようなドレスなので、凹凸の激しいボディラインが丸分かりであり、更に、背中と胸元が大きく開けているので、彼女の見事な双丘が今にも零れ落ちそうになっている。

そのおかげで会場の男性陣の視線が、ティオが動く度にいちいちプルンッ!と震える凶器に吸い寄せて来るので、その度に彼女の前にハジメ立ち塞がり「ヒトの女に卑猥な視線送んな」と顔は笑っているもののハジメから感じる圧で男性陣はサッと視線を逸らす。

尚、ティオはハジメの対応に嬉しくて人前にも関わらず彼の腕に抱き着いたりしている。

 

「………視線多すぎ」

 

自分達に向ける視線に対して嫌そうに目を細めているユエは光沢のある生地で、肩口が露出しており、裾はフリルが何段も重ねられ大きく広がっている。髪はポニーテールにしていて上品な白い花を模した髪飾りで纏められていた。

そして、いつもの外見の幼さと纏う妖艶な雰囲気のギャップからくるユエの魅力が何十倍にも引き立てられている。

 

「ねぇ……やっぱり、私の派手じゃない?」

 

最後に自分のドレスの色に困ったような笑みを浮かべている優花は、肩口が完全に露出したタイプのスレンダーラインの真紅のドレスを着ている。

ティオほどのボディラインはないが、そのバランスは美しく、チャイナドレスのように深いスリットが入った裾から、ふとした拍子にチラリと覗く美脚、髪にはハジメからのプレゼントでドレスの色に合わせたルビーのように赤く輝くカランコエの花を模した髪飾りが更に、優花の魅力を引き立たせていた。

 

因みに、帝国の花嫁カラーは闘争と帝国を象徴する鮮烈な赤色だと帝国の侍女さんに聞いたユエ達が進めたから仕方ないという理由で優花のドレスは真紅となっている。

 

パーティー会場行く前に待機部屋で、優花達の着替えが終わるまで待っていたハジメ、光輝、龍太郎の三人が、彼女達が入った瞬間、その溢れ出る魅力にやられて完全に硬直したのも仕方ないことだった。

 

特にハジメの目は優花に釘付けになっていて、誰の目から見ても心奪われているのが丸分かりだった。優花の方も、それを察したのだろう。嬉しそうに微笑むが、同じぐらい恥ずかしくなったのか少し頬を赤く染めながら熱が籠った瞳でハジメを見つめる。

 

そんな二人の間に愛しの人の視線が一点から離れないことにムッとしたユエ達が文句を言おうとしたのだが、それより先に動いたハジメが有無を言わさず優花達四人を抱きしめて、そのまま四人の額に軽くキスをしたハジメは優しく笑みを浮かべて口を開いた。

 

「四人共、凄く綺麗だ」

 

紛うことなき本心からの言葉に四人も嬉しさとハジメへの愛しさが限界突破し四人もハジメから離れなくなってしまう。その後も、優花達は落ち着いたが一向に離れようとしないハジメを引き剥がす為に優花がチョップで撃沈させるまで、離れなかったという〝ハジメ理性ぶっ飛び事件〟が発生した。

 

とにもかくにも、「これ、誰の婚約パーティーか理解してる?」とツッコミを入れられそうくらい優花達は魅力的なのだが、ハジメもハジメで人気で魅力的であることを本人は知らない。

 

今のハジメの服装は黒のタキシード姿で眼帯部分を前髪で少し見せるような感じで隠し、もう片方は髪を掻き上げたヘアスタイルでワイルドさを出しており、十分魅力的なのである。

 

元々、ワイルド味があり顔も悪くなく寧ろ整っているハジメだが、人気がないわけがない。これまでのハジメの実績は帝国の貴族の娘達にとっても十分に魅力的であり、お近付きになろうとするぐらいである。

 

しかし、帝国の貴族令嬢達は、そんな簡単にハジメに近付けない。いや、話しかけられることも出来なかった。

理由は簡単、ハジメの傍を離れない優花達である。令嬢達がハジメに近づこうとするとニコッと笑みを浮かべ「私達のハジメに何か用?」といった感じの圧をぶつけているのである。なので、令嬢達はハジメに話すら掛けようと奮闘しても四人の圧に敵わない。

 

そんなわけで、ハジメ達に帝国貴族が群がるも、男性陣の対処はハジメの鉄壁、女性陣の対処は優花達のニコッと笑みを浮かべた冷たい圧を前に歯噛みするのであった。

 

因みに、雫と鈴も十分に着飾っていて、帝国の令嬢方に負けないくらいに華やかだったのだが……。

 

流石に、優花達の原動力がハジメを見蕩れさせたいということである以上、そういう強い動機がない二人では数歩及ばず、どうしてもユエ達と比べると大人しい印象だったので、あまり目立っていなかった。

 

雫の対応も如才なものなので、帝国の貴族令嬢に群がられて姿すら見えない光輝と違い安心して放置が出来る。

 

なお、龍太郎は「うんめぇ」と連呼しながら料理を貪っており、鈴がしきりに、「ちょっと龍太郎くん! 恥ずかしいってば!」と諫めている。もっとも、止めながら「あ、このケーキおいし」と、鈴も貪っているので似た者同士であった。

 

「それにしても、南雲殿のお連れは本当にお美しい方ばかりですな」

 

「全くだ。この後のダンスでは是非一曲お相手願いたいものだ」

 

優花達を諦められない貴族達の言葉にハジメは笑って返した。

 

「まぁ、機会がありましたら(・・・・・・)

 

───HQ、こちらデルタ。全ポイントの拘束を完了

 

───HQ、こちらインディア。Mポイントの制圧完了

 

其の返答や意味深な笑みに帝国貴族達が「ん?」と首を傾げる。

 

しかし、その意味を問う前に、会場の入り口がにわかに騒がしくなった。どうやら、主役であるリリアーナ姫とバイアス殿下のご登場らしい。文官風の男が大声で風情たっぷりに二人の登場を伝えた。

 

大迎に開けられた扉から現れたリリアーナの姿に、会場の人達が困惑と驚きの混じった声を上げる。

 

リリアーナは、全ての光を吸い込んでしまいそうな漆黒のドレスを着ているのであった………。

 

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