ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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九十三話 パーティー 後編

 

パーティー会場にいる誰もがリリアーナのドレス姿を見て、困惑していた。本来なら、リリアーナの容姿や歓迎、婚約祝いという趣旨を考えれば、もっと明るい色のドレスが相応しいのだが、如何にも「義務としてここにいます」と言わんばかりの澄まし顔と合わせて、漆黒野ドレスはリリアーナが張った防壁かのように見えた。

 

パートナーのバイアスの方も、どこか苦虫を噛み潰したようナ表情であり、どう見てもこれから夫婦になる二人には見えない。

 

そのせいでか、リリアーナが入場次第、睨みの一つでもくれてやろうと意気込んでいたバイアスの愛人達も、出端をへし折られたように、呆然としている。

 

会場は取り敢えず拍手で二人を迎え入れたものの、なんとも微妙な雰囲気になるが、二人は、そのまま壇上へと上がった。

 

司会の男は、困惑を残しながらもパーティーを進行させていく。そして、リリアーナとバイアスの様子を見て、今にも笑い出しそうなガハルドの挨拶が終わると、会場に音楽が流れ始めた。リリアーナ達の挨拶回りとダンスタイムだ。

 

微妙な雰囲気を払拭しようと流麗な音楽が会場に響き渡る。会場の中央では、それぞれ会場の花を連れた男達が思い思いに踊り始めた。リリアーナとバイアスも踊るが、主にリリアーナの表情や雰囲気が原因で、どうにも機械的でバイアスが強引に抱き寄せても、旋律似合わせて気が付けば微妙な距離が開いている。

 

そうこうしている内に一曲終わってしまい、リリアーナはさっさと挨拶回りに進んでしまい、イラついた表情でなありがらも挨拶回りは必要なので追随するバイアス。

 

───HQ、こちらロメオ。Pポイント制圧完了

 

───HQ、こちらタンゴ。Rポイント制圧完了

 

───HQ、こちらゲッター。帝城に侵入完了

 

「なんて言うか、リリィらしくないわね。いつもなら内心を悟らせるような態度は取らないのだけど……」

 

ハウリア達の報告を聞いてると優花が、特に笑顔もなく淡々と挨拶を交わすリリアーナを見てポツリと呟く。

 

「まぁ、あんなことがありゃあなぁ。リリィもいろいろおもうだろう」

 

「……あんなこと?」

 

ハジメの言葉にユエが首を掲げてハジメを見る。

 

「南雲君。貴方は何か知ってそうだけど、リリィが公の場であんな態度を取るぐらいのことがあったの?」

 

ワインレッドのロングドレスを着た雫がリリアーナを心配そうに見つめた後に、ハジメみを見る。当のハジメはこんな場所で話していいのかと迷うが報連相は大切なので話すことにした。

 

「こんな場所で、あまり口にしたくないが………まぁ、単に言えば、リリィがあの馬鹿皇太子に暴行、まぁレイプされそうなってたところを通りすがりに助けただけだ」

 

「そう、リリィがレイ……ナンデスッテ?」

 

「ちょっ、ハジメ。どういうこと!?」

 

雫と優花を筆頭に、驚愕の眼差しを向ける一同。ダンスが始まってから散々優花達を誘おうと男連中がやって来ていたのだが、ハジメの〝威圧〟により追い払われており、ハジメを誘おうとしていた令嬢達も優花達がハジメに寄り添うように抱き着き、「ハジメは私達のです」とアピールをしたりして追い払っているおかげか周囲には優花達と雫しかいない。

 

光輝は、ハジメと違ってストッパーが居ないため半ば強引に淑女達に連れ出されて慣れないダンスを必死に踊り、未だ龍太郎はひたすら食っている。鈴はどこぞのダンディーなおっさんに連れ出されて「ほえ〜」とひたすら流されるままに踊っていた。

 

なので、リリアーナがバイアスにレイプされかけたという発言はユエ達以外には伝わっていなかったが、雫が掴みかからんばかりの勢いでハジメに説明を求めるので、何事かと注目が集まり出している。

 

「あ〜、うん、だから………………俺と一曲踊ってくれないか俺のお姫様?」

 

「聞きたいことは散々あるけど……喜んで、私の王子様」

 

「あっ、ちょっと、南雲君!面倒になったからって逃げないで!きちんと説明してちょうだい!」

 

「……ムッ、優花だけズルい。次は私」

 

雫の言葉通り、説明が面倒だし、悪目立ちしそうだったからハジメは優花の手を取ってダンスホールへと逃亡を図った。主役のリリアーナと同じくらいに目立っている真紅のドレスを着て更に美しさが研ぎ澄まされた少女とそのパートナーたる白髪眼帯の少年に注目が集まる。

 

ダンスなんてど素人の優花は元王族でダンスの嗜みがあるユエとティオの二人の先輩からシアと一緒にレクチャーして貰ったため人前に出ても恥ずかしくない程度では踊れるようになっており、それを合わせ、上手く先導し〝瞬光〟を利用したり、体に〝紅雷〟を纏い始めて踊るハジメ。踊りを観察していたこともあり、それなりに様になっている。

 

華麗に踊る中、ハジメは優花にしか聞こえない程度の声音で喋りかける。

 

「楽しいか? 優花」

 

「うん。ハジメとこうして楽しく踊れるから。だから、次はユエ達と踊ってよ?」

 

「それは、わかってるけどさ、今は俺とのダンスのことだけを考えてくれよ?」

 

「何、嫉妬? 可愛い〜。でも、そんなハジメのことが私は大好き」

 

「クハッ……そうかい」

 

楽しげで、幸せそうな優花を見れて目元を和らげるハジメの姿は、互いの衣装も相まって傍から見れば完全に二人の婚約パーティーである。

 

どこかギスギスしていた空気に、楽士達も場を盛り上げることで必死になっていたのだが、ハジメと優花の雰囲気に気分が乗ってきたようで楽しげに演奏し始める。

 

今や、会場の主役はハジメと優花であり、誰もが幸せそうにそして、くるくると踊る度に二人を囲むように紅雷が舞っていて、更に二人を注目させていた。

 

そんな二人の様子を、リリアーナは微笑みながら見つめている。そこには、羨望の色が含まれていた。

 

一方、ハジメの恋人達は、これから起こることも、リリアーナの事件も一時的に頭の隅に押し込めて「次は誰だ」と躍起になってジャンケン大会を始めている。

 

やがて、演奏も終わり、微笑みながら軽くキスを交わす二人に帝国貴族達から盛大な拍手が贈られる。彼等の瞳には、ただ純粋に称賛の気持ちがあらわれていた。帝国貴族の令嬢達も「ほぅ」と熱い溜息をつきながら、熱の籠った視線を主にハジメへと向けながらうっとりしている。

 

贈られる拍手に優雅に礼を返したハジメと優花が仲睦まじく手を繋ぎながら仲間の下へ戻って来た。

 

そこへジャンケンに競り勝ったらしいティオが進み出て来る。瞳に期待を輝かせながら、そっと手を差し出したが………

 

「南雲ハジメ様。一曲、踊って頂けませんか?」

 

絶妙なタイミングでインターセプトが入り、そして、ハジメに声をかけた人物は今回の主役の一人であるリリアーナだった。

 

「リリィ……主役がパートナーと離れて、いきなりどうした?」

 

「あら、その主役の座を奪っておいて、その言い方は酷くありませんか?」

 

「クハッ、よく言うぜ。あんな仕事顔してるからだろ?っていうかあの馬鹿皇太子は放っていいのか?」

 

「挨拶回りなら大体終わりましたし、今はパーティーを楽しむ時間ですよ。もともと、何曲かは他の人と踊るものです。ほら、バイアス様も愛人の一人と踊っていらっしゃいますし」

 

「愛人って………あっけらかんだなぁ」

 

「ふふ。それより、そろそろ手を取って頂きたいのですが……。踊っては頂けないのですか?」

 

ハジメは、単に踊りたいだけじゃなく何か言いたげな様子のリリアーナを見て大体その内容に察しがつき、優花達に「行ってくる」といった視線を送る。

 

優花達もハジメの視線に気が付き、頷き返すが、次のハジメとのダンスを楽しみにしてたティオは少し悲しそうに俯いてしまったので、ハジメはリリアーナの手を取る前にティオの傍まで歩き、そっと頭を撫でてから耳元に囁いた。

 

「……後で二人で踊ろう」

 

「んん……ご主人様よ、了解した。約束じゃぞ?」

 

「クハっ、わかってる」

 

耳元で囁かれたせいか少し、ビクッとしながらも、頭を撫でられて嬉しそうに目を細めたティオはハジメとの約束を交わすと笑みを浮かべながら優花達と共に引き下がった。

 

引き下がったティオを見送ってからハジメは、振り返り自分の視線の先にいるリリアーナを見つめてから笑みを浮かべた。

 

「では、喜んでお相手します。リリィ……リリアーナ姫」

 

「……はぃ」

 

注目を集めていることをハジメは知っていてもそんなのを無視をするように、リリアーナを手をそっと優しく取り、ダンスホールの中央に導いた。

 

「(今さっきより、視線が多くなってる気がする……)」

 

ハジメが思っていることは正解で先程の、優花とのダンスが脳裏に過ぎっているのだろう。リリアーナの恥じらうような態度、それでも目の前にいる彼と踊れることが嬉しいのか笑みを浮かべている姿のこともあって注目度は高い。

 

ゆったりとした曲調の旋律が流れ始める。ゆらりゆらりと優雅に体を揺らしながら密着するリリアーナとハジメ。ハジメの肩口に顔を寄せながら、リリアーナがそっと囁くように話しかけた。

 

「……先程はありがとうございました」

 

「やっぱりそれか……でも、無事そうで安心したが、よく俺だと分かったな」

 

「あんな美しい蜘蛛みたいなアーティファクトを作れる人なんて、ハジメさん以外有り得ないでしょう? それに、ハジメさんの〝紅〟はとても綺麗で、私の好きな色ですから……見間違いがありません」

 

「そうか。でも、あれじゃその場凌ぎだけしかならないけどな」

 

「………でも、嬉しかったですよ。私、ヘリーナから聞いた窮地に陥った姫が英雄が助けるお伽噺に少し憧れていたのです……それに、やっとヘリーナの言葉の意味も理解しましたから」

 

そう言って、リリアーナはハジメの肩口から少し顔を離すと、言葉通りに嬉しそうな微笑みを浮かべた。その笑顔は、先程までバイアスの傍らにいたときとは比べるまでもないリリアーナの本来の魅力に満ちたもので、注目していた周囲の帝国貴族達は僅かに騒めいた。

 

「クハッ……それで、いろいろと吹っ切れてあの態度とそのドレスか?」

 

「似合ってませんか?」

 

「いや、似合っている………でも、俺はやっぱり、あの桃色のドレスの方がリリィに合う。真逆の黒も別の魅力があって似合うが、それは当てつけが目的だろ?」

 

「ええ、婚約者を暴行するような夫にはこの程度で十分ですから。それより……やっぱ、見てたんですね。ハジメさんのエッチ」

 

そう言いながら、再びハジメの肩口に顔を埋めるリリアーナに「何言ってんだか……」と苦笑いするハジメ。

 

「小声とはいえ、こんな場所で滅多なことを言うんじゃねぇよ。というか、さっきから密着し過ぎだろ? 馬鹿皇太子がすんごい形相になってんぞ?」

 

「いいんじゃないですか。今夜が終われば私は実質的に皇太妃です。今くらい、女の子で居させて下さい。それとも、近い内に暴行されて、愛人達に苛められる哀れな姫の些細なわがままも聞いてくれないのですか?」

 

───それに、今夜で初恋の人と一緒にいられるのが最後なのでかもしれないのですから……。

 

「暴行されて、苛められるのは確定か……」

 

「確定ですよ」

 

───でも、もう一度、もう一度だけでいい……。

 

そこで、リリアーナは、一度ギュッとハジメに抱きつくと表情は隠しながらポツリと、つい零れ落ちたかのような声音で呟いた。

 

「……もし……もし、〝助けて〟と言ったらどうしますか?」

 

───あれ、なんで私……こんなことを口に……。

 

リリアーナ自身、こんなことを聞くつもりはなかった。帝国の息子との婚姻関係の締結は今後の為にやらねばならないこと。

両国が魔物と魔人族の襲撃によりダメージを負い、聖教教会が消滅して不安定になっている北大陸の人々を安心させる為に、見て分かる形で人間族の結束の強さを示さなければならない。

 

───そう、私は王族だから。

 

王族の一員として、果たさねばならない役目なのだ。たとえ、尊厳すら奪われかねない辛い結婚生活が待っているとしても……。

 

───私は王族だから、民のためだから……。

 

それでも目の前の相手にこんなことを聞いてしまったのは、彼が初恋の相手だったなのだからかもしれない。

 

───彼の名を聞く度に、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。彼を見る度に顔が赤くなるのを感じた。

 

声も届かず誰の助けも期待できない状況で、それでも心底恐怖で震える自分を助けてくれたこと。

 

───まるで、私だけの王子様かと思えた。彼の〝紅〟が綺麗で美しかった。

 

彼に包み込まれて幸せそうな表情をする優花達を見たこと。少し羨ましく思えた。

 

───羨ましかった。優花達が、彼といつでも傍にいれて、デートをしたりして、彼と添い遂げると感じると胸が締め付けられそうになった。

 

でも、これで……きっと、彼なら〝断ってくれる〟と思ったからだ。そして、これで覚悟を決めれる。自分の初恋を終わらせれると。

 

───これは、甘えだ。自分じゃ、覚悟できない、終わらせれないことを他人で委ねるという甘え。

 

だから……

 

「ハジメさん、終わらせて(助けて)

 

そんな秘めた想いをぶつけるリリアーナの言葉に対するハジメの返答は彼女の予想を超えるものだった。

 

「安心しろよ、リリィ。お前にそんな地獄は来ないし、あの皇太子はもう、俺の獲物(・・)になった」

 

「………はい?」

 

───HQ、こちらヴィクター。Sポイント制圧完了

 

───HQ、こちらイクスレイ。Yポイント制圧完了

 

目を点にして顔を上げるリリアーナに、ハジメはニヤリと口元を吊り上げる。その表情を見て、リリアーナの胸中に嫌な予感が押し寄せると同時にハジメの悪そうな不敵な笑みにドキリと高揚感を感じてしまった。もしかしたら、もう自分の好みのタイプは変わったかもしれない。

 

そんなリリアーナの耳元にハジメがそっと口を寄せる。

 

「それに言ったろ? 俺はいつでもリリィの〝味方〟だって」

 

「───っ」

 

リリアーナの体がビクッと震える。それは耳元にかかる息と声音のせいもあったが、ハジメが言外に何を言っているのか察したからだ。

 

すなわち、〝助ける〟と彼は言ったのだ。

 

───ダメ、ダメ、ダメ……ダメッ!

 

リリアーナの心が激しく動揺する。それはダメだと王女のリリアーナが叫ぶ。

 

結婚は果たさねばならない王族としての責務だ。

 

───そうなのに……責務なのに……貴方はどうして私をここまで心臓を高鳴すの?! 希望を持たせてくれるの?! 少女の(リリアーナ)を呼び起こすの?! どうして、この想いを切り捨てさせてくれないのっ?!

 

叫びたい。心の奥底から目の前に彼に伝えたい。貴方の言葉で、夢想を抱く女の子の自分をバッサリ切り捨てて欲しかったのに、と。

でも、「なぜ?」と、ある意味残酷な仕打ちにか、それとも嬉しさのせいか潤む瞳をハジメに向けるリリアーナに、ハジメは優しい笑みを向けながらそっと片手で潤んだ瞳から零れ落ちそうな滴をそっと、拭い取ると言葉を返す。

 

「当たり前だ。リリィは、俺にとっての〝大切〟だからさ」

 

「─────」

 

ハジメの言葉にリリアーナは時が止まったのような感覚した。そして、同時に何かが込み上げてくる。しかし、それを抑え込んで、瞳が潤み、視界がぼやけるが我慢して、笑みを向けながら視線をハジメに向ける。

 

「ホントに貴方は女性の扱い方がお上手ですね」

 

「……なんだよ。その含みのある言い方」

 

「………天然女誑し」

 

「なんだ、その不名誉な呼称」

 

「自分の心に聞いてみたらどうですか?」

 

リリアーナはジト目をしながらハジメを見つめる。そんな目を向けられたハジメは頬が引き攣っていた。

 

曲はいよいよ終盤。ハジメの言葉を脳内に繰り返しながら笑みを浮かべるリリアーナは、ハジメに体を預けて、ただ今この瞬間のダンスを楽しむことにした。

 

そうして、余興をたっぷりと残して曲が終わり、どこか名残惜しげに体を離したリリアーナは、繋いだ手を離さず少しの間ジッとハジメを見つめて……「ありがとう」と呟いた。咲き誇る満開の花の如き可憐な微笑みと共に。

 

それはただの十四歳の微笑み。あまりに純粋で濁りのない笑みは、それを見た者全ての心を軽く撃ち抜いた。そこかしこから熱の籠った溜息が漏れ聞こえる。

 

そして、僅かな間の後、先程の優花とのダンスに負けないくらい盛大な拍手が贈られた。リリアーナは、他のお偉いさんと踊る必要があるようだったので、途中で別れて一人戻ってきたハジメを、女性陣のジト目が迎えた。

 

「………ハジメの女ったらし」

 

「流石、ハジメさん。〝天然女誑し〟の名は伊達じゃないですぅ!」

 

「ふふ、ご主人様よ。リリアーナ姫とのダンスは楽しかったかの?」

 

「さっきの暴行発言と関係あるのね。……リリィが危ないところを助けたと言っていたし、今のダンスで止めを……いや、それ以前の可能性も……。ねぇ、一体、何を囁いてたの? リリィは人妻になるのよ? 分かってる? ねぇ、分かってるの、南雲君?」

 

「はわわ、南雲君、遂にNETORI属性まで……。アブノーマルだよ!遠い世界に行き過ぎだよ!鈴のキャパを超えてるよぉ」

 

事情が分かってる癖に煽るユエ達三人と一様にリリアーナに手を出したみたいな言い方をする雫達にハジメは「何言ってんだ」と呆れた表情を向ける。

 

一応、念の為、誤解がないように優花に視線を向けるが、

 

「ハジメ。女誑しは良いけど、程々にね」

 

そう言って優花は、ハジメの顔を自分の胸を抱き寄せた。ハジメは優花の言葉に少し語弊があるなと感じながらも、それすらどうでも良く感じ、優花に身を任せるように顔を埋めた。若干、抱く力がいつもより強めだと感じるのは気のせいだと思うようにしたも束の間、ハジメの耳に報告が入る。

 

───HQ、こちらゼファー。Zポイント制圧完了

 

───全隊へ通達。こちらHQ。全ての配置が完了、及びにバイアス・D・ヘルシャーが神の傀儡と判明。プランαからβへ移行。カウントダウン開始します。

 

報告を聞いて光輝達だけではなく、流石に、ユエ達も緊張が走った。そんな中、シアは瞑目しながら一度呼吸すると、一拍、スっと目を開けた。

 

瞳に宿る戦意に、思わず誰もが息を飲み、ハジメはその瞳に頷く。

 

「ハジメさん」

 

視線が巡る。優花達にも余さず。ハジメは再度、頷くと、不敵に笑ってウサ耳をそっと撫でる。

 

「今から、お前は〝ハウリア族、族長の娘〟だ。行ってこい」

 

その言葉に、シアもまた不敵に笑った。

 

「はい、行ってきます!」

 

そう言って、すぅと気配を薄めていき、誰にも気付かれずに会場から出て行った。その背を見送っていると、司会進行役の男が声を張り上げた。

 

ガハルドがスピーチと乾杯をするらしく、壇上に上がったガハルドがよく通る声で話し始めた。

 

「改めて、リリアーナ姫と我が国訪問と、息子との正式な婚約を祝うパーティーに集まって貰ったことに感謝する。いろいろとサプライズがあって面白い催しになった」

 

そこで、ガハルドは意味ありげな視線をハジメに向けるも、当の本人は明後日の方向を向いてる。その態度にガハルドは益々、面白そうな表情になる。

 

同時にハジメのイヤリングから決然とした声が響いてきた。

 

───全隊へ。こちらアルファ1。これより我等は、数百年に及ぶ迫害に終止符を打ち、この世界の歴史に名を刻む。恐怖の代名詞となる名だ。この場所は運命の交差点。地獄へ落ちるか未来へ進むか、全てはこの一戦にかかっている。神の件はボスがやってくださる。だから、我等も遠慮容赦は一切無用。さぁ、最弱と謳われた爪牙がどれ程のものか見せてやろう!

 

「パーティーはまだ、始まったばかりだ。今宵は、大いに食べ、大いに飲み、大いに踊って心ゆくまで楽しんでくれ。それが、息子と義理の娘の門出に対する何よりの祝福になる。さぁ、杯を掲げろ!」

 

兎人族と人間族。二つの種族の長が重なるように演説をする。

 

───十、九、八………

 

ハジメ達と、蔓延るウサギ達にだけ響く運命のカウントダウン。

 

───ボス。この戦場へ導いて下さったこと感謝します。ボスと皆様方は神殺しの件だけを考えていて下さい。後のことは我等にお任せ下さい

 

何も知らない帝国の貴族達が杯を掲げていく。ガハルドは、会場の全員の杯を掲げるのを確認すると、自らもワインがなみなみと注がれた杯を掲げて一呼吸を置く。

 

そして、息をスゥーッと吸うと覇気に満ちた声で音頭を取った。念話の向こうも、また、同じく。

 

───気合いを入れろ! ゆくぞ!!

 

───「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」

 

───四、三、二、一……

 

そして、カウントダウンは遂に──

 

「この婚姻により人間族の結束はより強固となった! 恐れるものなど何もない!我等、人間族に栄光あれ!」

 

「「「「「「「栄光あれ!!」」」」」」」

 

───ゼロ。ご武運を

 

其の瞬間、全ての光が消え失せ、会場は闇に呑まれるのであった………。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

今宵に起こる出来事の一つの喜劇が開始される少し前、創獣神オルステッドは誰かと念話で会話していた。しかし、其の内容は明るいものではないと周りの空気が重くさせる程の圧で物語っていた。

 

「やはり、人間なんかに期待していた儂が馬鹿じゃったな……」

 

〝ええ、馬鹿ですね〟

 

「そう、すんなりと言ってくれるな。我が主に顔向けが出来んだろ? エクストラ。」

 

オルステッドと会話してるのは、全神の使徒の指揮権を持ち、母である聖母神〝エクストラ〟であった。エクストラの言葉はオルステッドに対する呆れが多く含まれていた。

 

〝まぁ、貴方の余興好きは昔から知ってはいますが……今回のは過去以上の失敗ですね〟

 

エクストラの言葉が突き刺さるが、オルステッドは否定せずに頷いた。

 

「全くだ。もの創りが上手くもない儂が、頑張って創り出したアーティファクトがいつの間にか壊され、挙句の果てには持っていかれておるし、あのゴミは勝手に計画にない行動を起こす。はぁ、いつの間に人間族は無能が多くなってしまったのだ……ホントに悲しい種族だ感じさせるわい。あぁ、〝解放者〟の奴等が恋しい。エヒトの馬鹿が独占してたせいで、儂等は碌に奴等との余興を、輝きを存分に楽しめなかった……」

 

〝貴方の心情は知りませんが、私の前で、ラーゼン様に仇なしたカスの俗物の名を今後一切、口にしないで下さい〟

 

オルステッドが昔を思い出すかのように解放者の話を振るも、エヒトの名を呟くとエクストラが冷えきった声音でスラスラと言葉を並べることにオルステッドは苦笑いなってしまう。

 

「それは、すまんかったのぅ。しかし……ホントにお主は我が主に仇なした者を徹底的に嫌うのぅ。まぁ、儂も〝スカーレット〟もそうじゃが……」

 

〝当然です。ラーゼン様の矛、そして盾となる役目こそが我等の絶対的使命。そんな誉れ高き使命を放棄するような者は全てゴミ同然です〟

 

「………そうじゃな(あぁ、いつものスイッチが入ったかの……面倒じゃなぁ〜)」

 

エクストラのラーゼン様話にオルステッドは呆れたように溜息を一つする。

 

〝まぁ、今語ることではないのでラーゼン様の素晴らしさを話すのは一旦、置いときましょう〟

 

「(ホッ………)」

 

〝しかし、珍しいですね。自分のミスは自分の手で片付ける貴方が私に、使徒を手配して欲しいと申し出るとは〟

 

「……そうじゃな。儂とて、お主の手を煩わせたくなかったのじゃが……帝国にイレギュラー達がいるせいで帝国を一夜で滅ぼす(・・・・・・・・・)には、本来の力を出せないこの(スペア)じゃと無理がある……それに、この(スペア)が死すまで、本体に戻れんしのぅ……」

 

そう語るオルステッドにエクストラは念話越しに〝はぁ〟と溜息してから話す。

 

〝帝国のことはまぁ、いいとして、その体の移行したのは貴方でしょう? あの〝叛逆の黒竜〟を殺してから『地上はつまんなくなった』と言って、ステータス以外の全てを能力を制限したその体にしたのは……まぁ、ここでグダグダ話しても埒も開きませし、良いでしょう。イレギュラーがいるなら五体程で良いですか? それとも、〝ネームド〟も送ります?〟

 

「いや、〝ネームド〟は流石に要らん。奴等の戦闘力を見る限り今さっきのお主が言った五体で十分」

 

〝では、手配しときますね。後、オルステッド。……今度はラーゼン様を楽しませて下さいよ? 期待してますから〟

 

エクストラはオルステッドにそう告げると念話を切った。それに〝ラーゼン〟という、自分達にとって命より重要な言葉(爆弾)を残して………。

 

「………わかっておる。もう、失敗はせん。絶対に」

 

オルステッドは吐き捨てるように言って、立ち上がると帝城へと向かう。

 

「……待っておれよ。この儂に恥をかかせ、失望させたことを後悔するがいい」

 

そう話すオルステッドの瞳孔は縦に割れる。同時に圧倒的な圧を放つ瞳はまさに〝竜〟そのものであった………。




すみません、諸事情で一週間から二週間程、投稿をお休みしますm(*_ _)m

詳しいことは活動報告で説明します(´・ω・`)

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