戦争に参加することになったハジメ達だが、ハジメの出した条件の一つの訓練や学問などの指導などはその辺の事情は当然予想していたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。
王国は聖教教会と密接な関係があり、聖教教会の崇める神――創世神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統ある国ということだ。国の背後に教会があるのだからその繋がりの強さが分かるだろう。
ハジメ達は聖教教会の正面門にやって来た。下山しハイリヒ王国に行くためだ。
イシュタルに促されて先へ進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。大聖堂で見たのと同じ素材で出来た美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。
台座には巨大な魔法陣が刻まれていた。柵の向こう側は雲海なので大多数の生徒が中央に身を寄せる。それでも興味が湧くのは止められないようでキョロキョロと周りを見渡していると、イシュタルが何やら唱えだした。
「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――〝天道〟」
その途端、足元の魔法陣が燦然さんぜんと輝き出した。そして、まるでロープウェイのように滑らかに台座が動き出し、地上へ向けて斜めに下っていく。
どうやら、先ほどの〝詠唱〟で台座に刻まれた魔法陣を起動したようだ。この台座は正しくロープウェイなのだろう。ある意味、初めて見る〝魔法〟に生徒達がキャッキャッと騒ぎ出す。雲海に突入する頃には大騒ぎだ。
やがて、雲海を抜け地上が見えてきた。眼下には大きな町、否、国が見える。山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都だ。台座は、王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようだ。
「演出か……」
大概、神の使徒が舞い降りた感じに見せる演出だろうと考えたハジメ。もしかしたら、今から向かう王国と聖教は密接な関係からだと思いながら下の景色を眺めていた。すると、優花が腕に抱きつきながら目を輝かせてハジメの制服を引っ張る。
「ハジメ! ねぇっ、すごくないアレ!」
「あぁ、そうだな」
優花の言葉にそう返すハジメ。優花がこの世界に来て、やっと笑顔になったのを見てハジメはとりあえず安心し、少しだけイシュタルのことを心の中で感謝するのだった。
王宮に着くと、ハジメ達は真っ直ぐに玉座の間に案内された。教会に負けないくらい煌びやかな内装の廊下を歩く。道中、騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けて来る。ある程度、事前に知らされていたのだろう。
そして、美しい意匠の凝らされた巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。
イシュタルは、それが当然というように悠々ゆうゆうと扉を通る。光輝等一部の者を除いて生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。
扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢ごうしゃな椅子――玉座があった。玉座の前で覇気と威厳を纏った初老の男が立ち上がって待っていた。
あの初老が国王だと分かり、ハジメは玉座に座る国王を見てから視線を隣にずらした。
その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。
その異世界らしい光景に少し関心していると玉座の手前に着いた。
イシュタルはハジメ達をそこに止め置き、自分は国王の隣へと進み、おもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。
「はぁ……マジかー」
その光景を見たハジメは、この国の権力関係……王族より聖教の方が立場が上だと分かり内心で最悪と、溜息を吐いた。
そこからはただの自己紹介だった。
国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナというらしい。
その後は、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。ちなみに、途中、美少年の目が香織に吸い寄せられるようにチラチラ見ていたことから少しハジメは笑い堪えるのだった。
王族の人達の自己紹介が終わった後、晩餐会が行われた。それは、初めて見る料理ばっかで優花は料理心があふれだしハジメを引っ張って色々な料理を堪能していた。
「むぐ……これも見た目に反してなかなかいける!」
「そ、そうか?」
「うん、ハジメも食べて、はい!」
「っむぐ……むぐ、ゴクン」
「どう?……っ、痛っ ゴメンって、ハジメェ」
優花は、警戒している余り料理を口にしていないハジメに無理矢理、口に料理を入れてどうかと聞くと、ハジメは笑みを向けながら優花の頭をグリグリする。
「あぁ、これは確かに美味いな」
「痛たたた……でしょ〜」
優花は頭を抑えながらもハジメの感想にウンウンと頷いているとハジメが頬をポリポリと掻きながら話しかける。
「なぁ、優花?」
「ん?」
「少し、離れる」
「ん、わかった」
そう言ってハジメは優花から離れて行った。恐らくトイレだろうと思い、優花は再びは異世界料理を堪能することにしたのだった。
ー数分後ー
「……遅い」
両腕を組んで、ほっぺをぷく〜と、膨らまし文句を口にしてるのは優花だった。
いくら待っても、帰りが遅いハジメに少し文句を口にしていると妙子達を見掛けた優花はちょうど良いと思いハジメが何処にいるか聞こうと近づく。すると、妙子達も自分を探していたようで、どうしたかと聞くと焦っている奈々がとんでもないことを言い出した。
「ユウカっち! ハジメっちがリリアーナ姫と楽しそうに話してるよ!!」
「は?」
少し間抜けな声が出る。だが、すぐに気を取り直して奈々達に「ハジメはどこ?」と迫る。何故か怖がっている奈々達を気にしながらも奈々の指をさした方向へと歩き出す。
「そ、園部!少し──」
「ごめん、急いでるから」
「え、あ──」
誰かが話しかけたが、今はそれどころじゃないのだ。優花は素っ気なく返事をしてハジメがいるところへ早足で歩く。そして、話しかけた誰かである檜山は伸ばした手をそのままで悲しそうな表情だった。
そして、ハジメのいるであろう場所に辿り着いた優花の目に入った光景に固まった。
「嘘……」
そこには、本当にハジメとリリアーナ姫がおり、そして嬉しそうに笑みをこぼすリリアーナ姫の頭を撫でているハジメの姿がそこにあった。
ー数分前ー
「ふぅ……ったく、あの女……神出鬼没だろ」
ハジメはやっと追わなくなったことに安堵して苦言を零す。それは、トイレという名目で城内の観察から戻って、優花の元へ向かおうとした時だった。会場内に入った瞬間、香織と鉢合わせてしまい、物凄い勢いで迫って来るので、ハジメは一目散に逃げてきたのだ。
そうして、香織を撒いて逃げ付いた場所はそれは城下を一望出来るテラスだった。ハジメは、少し休憩がてら夜の王国の風景を眺めていた。その景色は、日本のとはまた違う美しさがそこにあり、ハジメは少し口角を上げる。
「あの……少し隣良いですか?」
「……アンタは」
景色を眺めていると後ろから声がかけられた。振り向いたハジメは、その人物を見て少し驚きを見せる。それは、この国の王女であるリリアーナ姫だった。
「……リリアーナ姫は俺に何の要件で?」
即座にかしこまった態度で接するハジメに、リリアーナは「そんな、やめて下さい」と、困った様子でかしこまるハジメに話しかける。
「いえ、本当に大したことじゃありません。……あの、貴方のお名前は?」
「いや、これは失礼でした。俺の名前は南雲ハジメと申します」
ハジメはそう言って自己紹介しながら片手で胸を抑えながら軽く一礼をした。
「そんなに固くなくても……分かりましたハジメ様ですね。あっ、私のことは気軽にリリィとお呼びください。その方が嬉しいですから」
「じゃあ、俺もハジメだけで良いですよ」
王族としては意外にフレンドリーな人物だと、ハジメのリリアーナに対して感じた最初の評価だった。それからハジメはリリアーナに従いかしこまった口調から少し砕けた口調でリリアーナに返答する。
「では、ハジメさんで……」
「えぇ、それで構わない」
そして、ハジメはリリアーナと軽く探り合いなど無しで話し合った。そのおかげで、この国の状況、この世界の情報、他国との関係性などを聞けて、有益な情報を手に入れたハジメはその礼ということで自分達の世界の事をリリアーナに話す。
その時のリリアーナの表情は王女と言うよりその年齢に合った少女のように目を輝かせながら色々と聞いているので、ハジメは困った笑みを浮かべるものの快く答えた。
そう会話が弾む中、リリアーナは、あることを聞いてきた。その表情は少し辛そうな表情だ。
「あの……ハジメさんは今回の勇者召喚については何か思うことはありますか?」
そのいきなりの質問に対してハジメは、リリアーナを少しばかり警戒するが今まで話した限り、そう言う人物ではないと分かっていたが、念の為に確認をとる。
「それは探りとか何かか?」
「ち、違います。私の単なる疑問ですから安心して下さい」
ハジメの質問に、リリィは両手をブンブンと左右に振って単なる疑問だと言って、探りとかではないと否定した。
それを確認したハジメは、リリアーナには申し訳ないと思うものの包み隠さず己の本音で話した。
「……そうだな。勝手に召喚されて、知らん奴等の国の為に戦争に参加してくださいってのは傍迷惑な話だよ」
ハジメの本音を聞いてか、リリアーナは悲しそうで申し訳なさそうに目を伏せる。そして、王族にも関わらず頭を下げながらハジメに謝罪をした。
「……誠に今回の件のことは申し訳ありません。ハジメさんの言うとうりこの戦争は貴方達にとって全く関係のないことです。それなのに私達は……」
リリアーナの誠心誠意な謝罪。よく見れば身体が震えているのが気付いた。
「……」
ハジメはリリアーナの謝罪に、最初は驚いたが、こんな人物が王族にいるんだなと感じた。そして、リリアーナが頭を下げたのは自分のせいでもあるためハジメは今も頭を下げているリリアーナに話しかける。
「リリィ」
「……はい」
「王国側にも責任があると思う。が、コッチだって、どっかのキラキラバカが考え無しに参加しようと言いだしちまったのが発端だからな……」
ハジメは、リリアーナに目を合わせながらに少し身体を屈めると言葉を続ける。
「まぁ、そのなんだ。そんなに思い詰めるなよ?俺もアンタの為だと思えば力を貸す」
ハジメはそう励ますように口にしながら笑みを向けると、そっとリリアーナの頭を撫でる。
何故、頭を撫でようと思ったのか自分でも分からない。だが、リリアーナの悲しそうな顔は小さい頃の優花の悲しむ顔に似ており、彼女の涙を流す姿を見たくなかった。笑顔にさせたかった。
「ハジメ、さん」
頭を撫でられて顔を赤くしているリリアーナ。彼女もハジメの行動に懐かしさを覚え、何故か心が穏やかになるのを感じて涙が出そうになっている。
そんな彼女を見て、ハジメは自分が何かしてしまったと勘違いして、慌てながらもリリアーナに声を掛けようとしたその時だった。
「おい、リリィどう…「何してるのハジメ?」………」
ビクッ、背筋が凍った。その言葉にびっくりし後ろをたそこには、ニコニコと笑ってるのに逆に恐怖を感じさせる優花がそこにいた。
それに続いて、その様子の優花に怖がっている奈々と奈々を慰めるように抱きしめながら頭をヨシヨシしてる妙子の姿がそこにあった。
「優花、そのっ、これは、れっきとした理由がな……」
「問答無用よ。詳しくはあっちで聞くから」
慌てて弁明しようにもそんな猶予が貰えず、そのまま、優花に腕を捕まれ連行されるハジメ。すると、後方からリリアーナが声を上がる。
「ハジメさん!」
「あー……じゃあな。また会おうなリ──「ハジメ?」──ウッス、サーセンした。でも、もう少し力を緩めて下さいませんか優花様」
「ダメ」
リリアーナにまた会おうと言おうとしたハジメだったが、何故か捕まえられている腕の力が増し、優花の冷えきった声にビビってしま手を振るだけにしてハジメはリリアーナと別れた。
そして、優花に連行されたハジメは、何を話していたのか話さないといけなくなり、嘘をついても優花達にはバレることなので真実を話さないといけない羽目になった。
その後、ハジメ達の訓練などの指導する宮廷魔術師や騎士団など紹介されて、晩餐会は幕を閉じた。晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内され、ハジメは唖然としながら呟く。
「……VIP待遇かよ」
全てが高級ホテル並の装飾に、ハジメは王国の対応に少し引いてしまう。
「まぁ、明日も訓練?があるし、早めに寝るか……」
天蓋付きベッドに愕然としながらも、ハジメは明日のこともあり早く寝る為にベッドにダイブする。
豪奢な部屋にイマイチ落ち着かない気持ちになりながら、それでも怒涛の一日に張り詰めていたものが溶けていくのを感じ、ハジメはベッドにダイブすると共に意識を落としながら眠りに入ったのだった……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ーリリアーナの部屋ー
ベッドに腰を下ろしながら、リリアーナは今日の晩餐会に出会って会話をした彼……南雲ハジメとの会話を思い出しながら嬉しそう笑みを浮かべた。
「ハジメさん」
リリアーナはハジメの名を呟くと同時にハジメが自分に対して言ってくれた言葉を思い出す。
『まぁ、そのなんだ……そんなに思い詰まるな俺もアンタの為なら力を貸すよ』
「……ッ〜!」
思い出す度にリリアーナは自分の顔が赤くなっているのが分かってベッドの上で身悶える。
「ハジメさん……似ていたな……」
リリアーナは少し落ち着いた後、ハジメの姿を、ある自分の尊敬する人に重ねてしまう。
そして……リリアーナはあの人にハジメと同じように頭を撫でて貰った時の記憶を思い出す。
『リリィ』
その優しく自分の名前を呼んでくれていた人を思い出すもリリアーナは忘れようとブンブンと首を振る。
「駄目よ、私……あの人はもう居ないのだから……」
ベッドのシーツを強く握りしめ、自分に言い聞かせる。そうだあの人は私達を裏切ったんだ。王国を、民を裏切ったんだ。ヘリーナを、あの人にとって大切な人である彼女さえも見捨てて何処へ行ったんだ。
リリアーナはそう自分に言い聞かせながら眠りに入ろうと目を閉じて意識を落としていく。
「………兄様」
「……会いたいです」
リリアーナは意識を落とす寸前に自分でも気付かず、自然とその言葉を寂しうそに呟やくのであった………。
次回はステータスプレートの話です。
<編集しました。十月二十七日。