ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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幕間 神という名の理不尽

 

【神域】にそびえ立つ全体が白一色の宮殿。名を白神殿(はくしんでん)の内部のある一室。その部屋は少し薄暗く、置かれている物はたったの人一人が余裕に入る程のカプセル横に置かれているだけであった。

 

カプセルには、何かを送り込んでいるようなケーブルが幾つも繋がっおり、何かを眠らしている? もしくは封印しているかのようであった。

 

そして、カプセルに変化が生じた。

 

シュウウウウウ、とまるで蒸気が噴き出すのような音が鳴ると同時に、スモークを放出しながら閉まっていたカプセルが開き始める。そして、スモークが晴れるとカプセルは完全に開いており、中に入っていた人の姿が顕になった。性別は男、服は何も来ておらず、その髪色は濁りのない白色、見た目は三十代前半に見えるだろう。そして、胸には大きな三本線の引っ掻き傷がある。

 

「………ふぅ」

 

男は何も喋らず、ゆっくりと目を見開き、その目で自分の体を確認する。肩を回したりして、久しぶりの本体(・・)の感覚を取り戻していきながら呟いた。

 

「……ふむ、本体に戻ったのは良いが、流石に千年も使っていなかったためか多少のズレがあるな。……後、服もだな」

 

そう口にする男は、パチンッと指を鳴らす。すると、白い魔力が男を包み込む。そして、次に姿が見えた時は男は白い着物を身に纏っていた。

 

「目覚めたようだなオルステッド?」

 

「?!」

 

すると、後ろから名を呼ばれた男神──オルステッドは、声が聞こえた途端、すぐに振り向き片膝を突いて跪く。そして跪く先にいるのは白い装束を着た男神。そして、オルステッドと他の四柱の神もが忠誠を誓う偉大なる神──ラーゼンの姿がそこにあった。オルステッドは跪きながら口を開く。

 

「まさか、我が主。貴方様が儂を出迎えて下さるとは誠に感謝の極み」

 

「ふっ、そう畏まるなオルステッド。だが、その姿(本体)を見るのは何年振りだろうな」

 

「ガハハッ、ざっと千年は軽く超えていると思いますな」

 

「千年、か……どうだ体の調子は?」

 

「多少のズレは感じますが、直ぐに取り戻します故、ご安心を」

 

「そうか……」

 

二人は軽く雑談をしていく。そして、ラーゼンは本題に切り出すため、話題を切り替えた。

 

「よし、復活してすぐではあるがお前に聞こうオルステッド」

 

「はっ」

 

「単刀直入に言う、イレギュラー(南雲ハジメ)はどうであった?」

 

「……はっ、南雲ハジメは、アルヴの言葉の通りアレは人の域というモノを越えています」

 

「そうか人の域を越えている、か……フッ、面白そうだ」

 

オルステッドの報告に、ラーゼンは笑みを浮かべる。それは、新しい獲物を捉えた獣のように目を輝かせる武人の目だ。その表情を見ながらオルステッドは更に言葉を続ける。だが、今さっきとは違い少し暗い感じを纏わせた声音だ。

 

「そして、我が主。非常に申し上げにくいですが………」

 

「? 言ってみよ」

 

重い雰囲気で口を開くオルステッドにラーゼンは首を傾げるも、次のオルステッドの放つ雰囲気の意味を理解する。

 

「……はっ、南雲ハジメの中に奴が──デウスが、デウス・エクス・マキナの存在を確認しました。南雲ハジメ本人は自覚は無さそうでしたが、あの機械を纏う姿と概念魔法を創造する力は奴で───ッ?!」

 

オルステッドは途中で言葉を詰まらす。否、詰まらせられたのだ。ラーゼンから放たれる重圧──いや、神圧によって、神であるオルステッドであっても息が出来ない。体が恐怖で動かず、震えるしか出来ない。そんな中、ラーゼンが口を開く。

 

「デウス……奴は、まだ存在していたか。あの失敗作(ガラクタ)が生きていたとは……」

 

ラーゼンの一言、一言一言が全身が震える程の圧を感じさせる。空気が軋むのを感じる。それも構わずラーゼンは言葉を続ける。

 

「確認のあったデウス、クリスタ……いずれも我の元配下の二柱が、あの時に叛逆を引き起こしたあの二柱が、また我に挑もうとしているとはな─────面白い」

 

ラーゼンは笑みを深く浮かべる。それは、狂気的で獰猛さも感じさせる笑み。それと同時に、足に力が入り過ぎたのか床にヒビが入ると、連鎖していくように壁、天井へと伝わっていき崩れかけた天井から石片の雨が降る。その光景をオルステッドはただ傍観することしか出来ない。

 

「オルステッド、面を上げよ」

 

「ッ──ハァハァッ?!」

 

ラーゼンからの神圧がなくなり、瞬間、オルステッドは両手を地面に付きながら荒い息を整えていく。そして、呼吸を安定すると同時にラーゼンに言われた通りに面を上げ、謝罪する。

 

「ゲホッ、申し訳ありません我が主。お見苦しいところをお見せしてしまって」

 

「よい、気にするな。我も感情が昂り過ぎたようだ。まぁ、そんなことはどうでもいい。往くぞオルステッド」

 

「はっ」

 

ラーゼンに言われた通りにオルステッドは立ち上がる。それを尻目に、ラーゼンは後ろに振り返り歩きだす。オルステッドもそれに付いて行くように歩きだす。

 

そして、オルステッドは気付く。いつもなら、主の傍にエクストラがいる筈だが、今は此処に居ないことを。オルステッドは疑問に思い聞くことにした。

 

「我が主。一つ不躾ながらお聞きします」

 

「なんだ?」

 

「エクストラとスカーレットは何処に?」

 

そう疑問を呈するオルステッドの言葉に、ラーゼンはあっ、と思い出したように手をポンとする。

 

「そうか言ってなかったな。エクストラは少し野暮用でガーランドに向かった。スカーレットは奴に負けて拗ねておる」

 

「……奴とは?」

 

「───ルシフェウスだ」

 

「ッ?!───復活が完了したのですな?」

 

ラーゼンから言い放たれたルシフェウスの復活に、オルステッドは冷や汗を流す。それもそうだろう……ルシフェウスは自分達の主であるラーゼンと同じに破壊を司ることを認められた者であるからだ。

 

「ああ、お前が帝国にいる間に魂魄と器の同化が終わり、解放させた。そして、試しということでスカーレットと戦わせ──「スカーレットの奴が負けたのですな」──そうだな。彼奴もアレ(・・)は使わなかったがステータス面では確実に負けていたな」

 

「そうでありますか……しかし、あのスカーレットが負けてしまうとは」

 

オルステッドは少し驚いていた。スカーレットととは、それなりにも同じ時期にラーゼンの配下となった仲だ。そして、実力も負けず嫌いなことも知っているので、負けたことに驚いていた。それはラーゼンも同じらしく、

 

「我も、少し驚いた。スカーレットは貴様の制限された(スペアの)体であるが、それよりかは遥かに強い。まあ今は、元の体に戻った貴様の方が強いか……」

 

そう。オルステッドのスペアの体は幾つものの制限が課せられており、身体的なステータスは変わらぬものの、魔力や魔耐、使用できる魔法。そして、真の姿すら封印されていたのだ。

 

「左様であります。が、儂も驚きです。スカーレットはルシフェウスの戦い方を知っていたはず、それに奴は器と同調したばかり調整を終えてない筈です。そのはずなのにスカーレットが負けるということは───まさか、ルシフェウス自体に何かが起きたということですか?」

 

オルステッドの的を得た発言に、ラーゼンは面白おかしく首を縦に振る。

 

「ああ、そのまさかだ。器とルシフェウスの魂魄が綺麗な程に完全に波長が合ったのだ」

 

「まさか……そんな奇跡があるとは」

 

「フッ、世界に奇跡は付き物だ。そして世界は未知に巡り合っている。そんな未知が、南雲ハジメ(デウス)を殺したいほど憎み、園部優花(クリスタ)を狂愛した。そんな同じ意思を持った二つの器と魂魄が巡り合わすという奇跡を起こし、化け物を産み落としてしまった」

 

「……化け物ですか」

 

「そう化け物だ。アレは最早、神という存在じゃない。憎悪と狂愛だけを持った人型の化け物だ」

 

ラーゼンの言葉にオルステッドは返す言葉も浮かばない。しかし、ある事に気付く。

 

「それで、我が主。その化け物(ルシフェウス)は何処に? 儂の魔力感知には反応しませんが……」

 

「奴は、エクストラと共にガーランドへ向かわせた」

 

「……ガーランド。まさか、時代の終幕を始めるのですな」

 

「そうだ。今回は南雲ハジメ(デウス)園部優花(クリスタ)、使徒殺し、その仲間の小娘共、そしてあの勇者(道化)という面白い駒が揃っているのだぞ! それに、何時もの終幕じゃないかもしれんからな。我は楽しみだ!貴様もそうだろう?」

 

「……はて?」

 

「 表面を取り繕っても我にバレバレだぞ?創獣……いや、創龍神(・・・)オルステッド」

 

ニヤケながら言うラーゼンの言葉に、頭を傾け作ったような笑みを見せるオルステッドは確信を突かれ、この御方には隠し事は無理だと、そして肩を竦め諦めたように笑う。

 

「ハハッ、ガハハハハハハッ。やはり儂は主には隠し事はできませんなぁ」

 

「貴様は昔から分かり易いからな。それに、我は嘘吐きには慣れているしな」

 

昔を懐かしむような笑みを見せるラーゼンは白神殿のテラスまでに着くと立ち止まり片手を上に掲げる。そして、ギュッと何かを握り潰すように拳を作ると声高らかに笑みを浮かばせながら告げた。

 

「加速しようか終幕を!時代の破壊を!さぁっ、我が愛しき駒達よ!見せてくれっ、命を掛けた戦いを!その生きたいという執着を! そして挑んでくれっ、我等に!神々に!人という名の駒達よ!我を楽しませよ!」

 

笑う。それは豪快に快活と笑う。人という未知が、どんな奇跡を起こすのかをこの目に納めたい。人という存在が何処まで自分達に抗えるのかを試したい。そんなラーゼンの想いが笑い声に含まれており、その姿は言葉に出来ないほど神々しかった。

 

「何という……」

 

オルステッドは跪く。それは自分の主の偉大さに、その神々しい姿に感嘆し、一生の服従を行動で示すかのように跪いた。

 

「……今回はどんな結末が見れるだろうか」

 

笑い疲れたラーゼンは、下へ目を向けてボソッと呟くと、オルステッドを連れ、白神殿の中へと戻っていった。

 

そして、物語(ストーリー)の終わりという時計の針(タイムリミット)が加速していく……。

 

 

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【魔国ガーランド】は現在、まるで通夜の如き悲壮な静けさで満ちていた。王城が存在する魔都では、老若男女がひそひそと自国の行く末を語り合っており、その内容は決して明るいものではなかった。

 

誰もが不安と絶望を表情に浮かべ、チラチラッと王城へ救いを求めるような眼差しを向けている。

 

原因は一つだ。

 

人間族と魔人族の趨勢を喫するだろう最重要にして最大作戦───【ハイリヒ王国】及び【聖教会総本山】への侵攻作戦。それが、失敗したことだった。

 

否、失敗などという言葉ではまだオブラートに包んだ表現であろう。

 

敗北だ。紛うことなき大敗北だ。差し向けた十万を超える魔物の軍勢。精鋭たる魔人族の兵達と階位を与えられた者達。その実に九割近い兵力が壊滅したというのだから。

 

出陣前、魔都の前に広がる平原に整然と並んだ軍勢を見て、人々は確信していた。これほどの力を前に、人間族は何するものぞ、と。

 

しかし、蓋を開けてみればこの通り。魔物の軍勢はほとんどが全滅し、兵士達や階位を与えられた者の中には軍曹などの精鋭達の命が散り、魔人族の英雄であるフリードも重症(嘘)、そして我等の魔王陛下が出陣しても尚、敗北に終わってしまった。

 

それを聞いて、平然といられる人々ではなかった。人間族はそれほどに強力だったのか? 反攻作戦が始まるのではないか? そうなれば、祖国は勝利できるのか?

 

未だにフリード将軍と魔王陛下からも、なんの発表もないために、誰もが己の内のそんな不安を少しでも和らげようと、身近な者達と意味の無い言葉を交わし合うしかなかった。

 

一方、その王城内は、城下以上の沈痛な雰囲気で満たされていた。多くの同胞を失ったのだ。それも、あまりに予想外の方法で。単純に正面から戦争をして敗北したわけではない。それなら、彼等はまだ責任の所在を指揮官に求めることができた。罵詈雑言を並べ立て、八つ当たりだろうが正当な弾劾だろうが、なんでもできたが、そんな考えは一兵卒に至るまで、浮かばなかった。

 

一体誰が、天から降り注ぐ光の柱の、ただ一撃を以て壊滅するなどと想像できようか。たった一人の神官服の男に一万規模の兵団が殲滅されるなどと想像できようか。何故、予想できなかったなどと責めることができようか。

 

そもそも、受けた痛手のあまりにの大きさに、誰も彼も茫然自失という有様で、責任の所存を議論する気力にならなかった。

 

そんな、城内の雰囲気を肌で感じている男が、自分の執務室で小さな声で謝罪の口をこぼした。

 

「……すまない。神の遊戯を止めれなかったことを」

 

襟元を引き千切らんとばかり握り締め、目を伏せ辛そうな表情は悲壮感に溢れていた。それは、軍部の最高司令官であり解放者の意志を引き継ぐ者の一人である。将軍フリード・バグアーであった。

 

「私が無能なばかりにっ」

 

心から己の不甲斐なさに責任を感じていた。神の遊戯というただの神達の遊びで仕掛けられた戦争に無駄に散っていった沢山の部下の命が、例えアルヴに洗脳されていた者達であったとしても大事な部下なのだ。そんな命が散るのはフリードにとっては凄く心苦しかった。

 

もし自分がアルヴを倒せていたら、と何度思ったことか。戦争をなんらかの形で止めることは出来なかったのか、とフリードは自分の無力さに悔しくて堪らなかった。

 

不意に、執務室の扉がノックされた。防音の魔法を張っているため、こちらの声は外には漏れないが一応、警戒しつつフリードは扉の方へ近付き扉越しに声をかける。

 

「誰だ?」

 

「ハッ、私は情報部隊のトリスです。外の偵察部隊からの報告を入手してきましたので、その報告を」

 

「そうか、今、開ける」

 

扉の向こういるのは外や内側の情報を収集する情報部隊に配属された己の部下であると分かるとフリードは入室を許可する。すると同時に勢いよく扉が開きトリスが入ってくる。

 

「ほ、報告します! たった今、帝都及び樹海の監視に向かっていた者達からの報告が届けられました!」

 

「確か樹海がダヴァロス部隊、帝国がディヴォフ部隊だったが……どちらもアルヴの息がかかった部隊。それで帝国と樹海は無事か?」

 

王都侵攻作戦が失敗に終わって結果的に良かったが、残りの両作戦も失敗に終わって、生還して来て欲しいと願っていながら尋ねるフリードは、報告に来たトリスの表情を見て、安心とまた部下の死を察した。

 

「はっ。樹海の攻略は完全に失敗した模様であり、痛手は負ったそうですがフェアベルゲンは健在。帝国も大きな被害を与えられましたが、皇帝は無事です。そして、ダヴァロス、ディヴォフの両部隊は全滅とのことです」

 

「っ、そうか。しかし、二つも失敗に終わったなら僥倖か」

 

部下達の生還がないことに、心痛むフリードだったが、両作戦が失敗に終わったことに安堵した。そして、次の部下の報告でフリードは歓喜することになる。

 

「そして、フリード様! 帝国に神の一柱がいたと報告がありました」

 

「何?!……だがっ、帝国は無事だと───」

 

「はいっ。帝国にいた神は、南雲ハジメ殿が撃退したと報告にありました!」

 

「なっ───そうか、そうかっ!」

 

フリードは歓喜のあまり声を荒あげ席から立ち上がる。

 

「私達、人は神を───倒せる!」

 

「はいっ」

 

証明してくれたのだ。彼が、南雲ハジメが。

 

人は神を倒せるんだと───フリードは歓喜の笑みを浮かべる。トリスもフリードの後に嬉しそうに返事をする。

 

そこへ、ノック音がする。新たに誰か来たようでフリードはトリスと目を合わせ頷くと深く目を瞑って、数秒で昂る感情を落ち着かせるとフリードは入室を許可した。

 

「失礼します、将軍。陛下がお呼びです」

 

「……そうか。直ちに向かおう」

 

アルヴ側の部下の敬礼から告げられた内容にフリードは頷くとトリスに部屋を頼むと言って己の鎧を装備して執務屋を出ると、玉座の間に向かうのだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

フリードが玉座の間に向かう少し前、玉座の間では、五神の一柱魔神アルヴヘイトが玉座に座り部下からの報告を受けていた。そして、前日に【神域】からの、ある人物の復活などの連絡で、焦りと苛立ちが合わさってその表情は怒りに染まり荒れていた。

 

「───以上によるとダヴァロス、ディヴォフの両部隊は全滅したという報告が届きました」

 

「そうか………ちっ、魔人族は使えないな

 

「陛下?」

 

「ん?……いや、何でもない。しかし、帝国は理解したが、樹海の攻略はなぜ失敗した?」

 

アルヴは頭を振ると続きを促す。

 

「……報告によれば、調査のため樹海に侵入した伝令部も相当やられたそうです。幾人かの生き残りによりますと……あの樹海には兎人族の皮を被った化け物共がいる、と」

 

背筋に、氷塊が滑り落ちた気がした。化け物?常識外の兎人族? そのワードに、ふと浮かび上がるのは神である自分を、偉大なる神の眷属である自分を恥をかかせた白髪眼帯の少年と、彼の傍らにいた兎人族の少女。アルヴは確信した。脳裏に浮かぶ少年に叫ぶ。

 

「イレギュラァァァァっ!!」

 

「へ、陛下?!」

 

部下が戸惑っているのが分かるが、アルヴの内心は荒れ狂いそれどころではない。その場にいなくても、己の恥をかかせ、顔に泥を塗った彼の少年への怒りに腸が煮えくり返ってしまい、怒りのあまり力が入ったのか玉座の手摺にヒビが入る。

 

そこへ、扉の前にいた兵士が中に入り、部下に用件を伝える。用件を聞いた部下はアルヴの元へ駆け寄るよってくる。

 

「陛下。フリード様がご到着したようです」

 

それを聞いたアルヴは深呼吸をして、沸騰した頭を落ち着かせると入室の許可をする。

 

「……入れ、と伝えろ」

 

「はっ」

 

部下はそう返事をすると、扉の兵士に話し掛けるのだった。

 

扉が開く。玉座の間へと入室したフリードは、アルヴの姿が見えた。フリードに背を向ける形で、玉座の背後に飾られた大きな神の絵を眺めている。

 

「陛下。フリード・バグアー、参上致しました」

 

その絵の不快さに眉を顰めるも、すぐに表情を戻し跪き、頭を垂れるフリード。しばらくの間、アルヴからの返事はなかった。

 

フリードにとっては、今度は何をやらかす気だ?部下達を傷付けるのか?と内心ふつふつと怒りを募らす中、やがて、アルヴは神の絵から視線を逸らさずに口を開いた。

 

「帝国と樹海の件を聞いたか?」

 

「はっ。先程、報告を受けました。大事な部下達の命が散ってしまったのはこれも全て、私の見込みの甘さが招いたこと。申し訳のしようもございません」

 

アルヴから「ふっ」と小さく笑ったような音が響いた。

 

「お前の計画に誤りはなかった。全ては、あの憎きイレギュラーの存在によるものだ」

 

「………」

 

沈黙するフリードに、アルヴは続ける。

 

「フリードよ。先の報告の内容をもう一度聞かせて欲しい」

 

「は?……っ、報告の内容、でございますか?」

 

「うむ。お前が交戦したという金髪紅眼の少女。どれだけ傷を負っても───〝再生〟したのだな?」

 

何故、アルヴがユエを気に掛けているかは分からない。しかし、今は変に怪しまれる訳に行かないとフリードはユエから貰った幾つかの情報の一つのユエの特性のことを交えながら本当に戦いをしたかのように話す。

 

「……〝再生〟……はい。確かに、陛下のおっしゃっる通り、あれは治癒というより〝再生〟と表現すべき現象でした」

 

「そして、詠唱も、魔法陣も必要としなかった。見た目はまだ幼さすら残す。そうだな?」

 

「………その通りでございます」

 

「……そうか、やはり生きていたのかスカーレット様の──

 

ブツブツと独り言を言うアルヴから「ふっ」と笑ったような声が響いた。だが、先程とは微妙に意味合いが違うように感じられフリードは今の報告にハジメ達が不利になってしまう情報を与えたのかと内心焦り出す。

 

「………陛下?」

 

焦りを表情に出さずに呼びかけるフリードに、アルヴは気を取り直すように咳払いを一つ。

 

「フリード。大方の作戦は失敗し、王都侵攻で侵攻軍に壊滅的打撃を受けた。このガーランドにはお前の魔物を含め十分な戦力があるとはいえ、兵達も、民達も、随分と不安に思っていることだろう」

 

「……忸怩たる想いでございます。全ての責任は私に」

 

「責任を所在など問うてはいない。呼び出した理由は別だ」

 

呼び出した理由は別にあると聞いて、悪寒が走り頬に冷や汗が流れるフリードに、アルヴは言った。

 

「───神託が下った」

 

「それはっ(何時もより早いだと?!)」

 

何時もより早い神託にフリードは内心焦りだす。余りの予想の斜め上のことで不意に表情が崩れそうになるが、すぐに元の表情に戻す。そんな中、アルヴは厳かに口を開いた。

 

「───〝使徒を遣わす。存分に使え。そして──イレギュラーと彼の者に与する者達を我が前に〟とのことだ」

 

「なっ。こ、ここに、奴等を?!(やはり、神達は時代の終幕を加速させる気か!)」

 

神達の神意を察したフリードは、怒りのあまりに立ち上がって腰に掛けた軍剣に手を掛けようとしたが、今までの計画を台無ししては駄目だと下唇を噛んで自制する。口の中には血の味が広がっていくのを感じるがなんとか平静を装えた。

 

「──っ!」

 

しかし、突如、視線の先に降り注いだ光の柱とその柱から伝わる重圧にフリードは目を見開く。

 

「こ、この圧は!(間違いない!これは───)」

 

この光の柱の正体を察したフリードは、重圧に耐えながら目を細める。アルヴは、光の柱へ向き直ると跪くように片膝を突いた。

 

眩く、神々しいまでの光を放つそれは、玉座の間の天井を貫くように降り注ぎ、一拍して弾けた。思わず手で目を庇ったフリードの視線の先に、人影が一つ。

 

美しい銀の髪に、戦女神の如き壮麗な装束。心奪われずにいられない完璧な容姿。そして、この世を全てを見下すような碧眼の瞳。余りに美しく、純白の翼をもつ女は片膝を突くアルヴを見る。

 

「私の名は聖母神〝エクストラ〟。この雑魚のお願いを聞いた偉大なる主の命により、私の子供達を遣わすことを許可します」

 

「エクストラ様。この度は誠に感謝を申し上げます」

 

呆然とするフリードの前で、神の使徒を統べる女神と魔神アルヴが挨拶を交わした。アルヴは姿勢を低くしたまま、フリードの動揺を他所に話を進める。

 

「エクストラ様。今回はどれ程の使徒を?」

 

「そうですね。〝ナンバーズ〟、そして、〝ネームド〟も遣わせました」

 

「おおっ、なんと!」

 

なんだと?思わず口に出しそうになったフリードは口を抑える。しかし、次の光景を見て言葉を失う。

 

五、六百人入ってもなお余裕のある広々とした玉座の間の空中に、次々と渦巻く光が生まれる。数は百を優に超え、その全ての渦巻く空中の光から、人が出て来た。ズズズッと、にじみ出るように現れたのは、全て───

 

「へ、陛下っ、フリード将軍!外に、王城の外に凄まじい数の女が!同じ顔の女が出現しております!」

 

駆け込んできた兵士の声にハッと我に返ったフリード。咄嗟に空間魔法でゲートを開き、外の様子を上空から俯瞰すして言葉を失った。

 

「なっ───」

 

見えたのは、王城の前に愕然と並ぶ神の使徒。数は目測でも、四百体はいる。そして、今、この玉座の間に現れた神の使徒が、およそ百体。全てがハジメが討ち倒したノイントと同じ顔、同じ姿。エクストラとは違い無機質な、まったく感情を感じさせない声音が響いた。

 

「──神の使徒〝エアースト〟と申します。我が母と主の命により、これより〝ネームド〟十二人、〝ナンバーズ〟五百人はこれより魔王の配下となりて、万難を排しましょう」

 

全ての兵士が、全ての国民が震えた。

 

───あぁ、やはり、魔人族こそ神に選ばれし種族なのだと。

 

「っ──」

 

フリードは違う意味で震えた。

 

───これが、神という名の理不尽だと。

 

「フリードよ。新たな命を与える。使徒共に遂行せよ」

 

「………御意っ」

 

自信と威厳も揺るがせない風に装うアルヴに、フリードはその姿を改めて見てふと思った。

 

そうえば、アルヴも───彼女と同じで金の髪に、紅色の瞳だな、と。

 

「…………」

 

そして、その光景を見ていたエクストラは本人に気付かれない程度でフリードを無言で見詰めていたのだった……。

 

 




次回は遠藤達、幼なじみ組の迷宮攻略編です(*^^*)

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