ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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深淵三話 ライセン大迷宮 中

 

ライセン大迷宮に、余計なターンを決める共に闇の貴公子が、深淵卿が現れた。

 

「我の名は深淵卿。コウスケェェ・E・アビィィゥスゲェェィート!!」

 

小太刀を構えながら声高らか叫ぶアビスゲートに、後方にいる二人は恥ずかしそうに顔を赤くしながら話していた。

 

「うぅ、タエ〜。なんか私達が恥ずかしいよぉ」

 

「そう、ね……アレと一緒に戦ってた優花の気持ちが分かった気がする」

 

「うん……ユウカっち可哀想」

 

二人は自分達の幼なじみの変わり様とその臭い発言に羞恥心でダメージを負い、可哀想な人を見る目でアビスゲートを見る。そして、アレ(深淵卿)と一緒に戦ってベヒモスを討伐した優花に同情していた。

 

すると、前にいたアビスゲートが二人の方へと振り返ると頭に手を当てながら妙にカッコつけながら話し掛けて来た。

 

「二人共、何をしている?まさか、我の魅力に見蕩れてしまったか……流石は我っ、なんと罪深い」

 

「「…………」」

 

アビスゲートの言葉に二人は「アレ、コイツ……ミレディより腹立つかもしれない」と思いながら無言で蔑むような目でアビスゲートを見る。しかし、そんな視線にアビスゲートは笑って返す。

 

「だがっ、そんな視線で我は怯まない。だって我は深淵───」

 

「はいはい。そんな変にポーズ決めなくていいからやろ?」

 

「浩ちん、ダサいよ?」

 

呆れたように言う妙子の言葉と辛辣な言葉を笑みで言う奈々に、アビスゲートは言葉を失うも、すぐさま立ち直る。

 

「承ったぞ二人共。しかし、奈々よ……我は浩ちんではないアビスゲートだ」

 

「「……ハァ」」

 

三十体のゴーレム騎士を前に、戦う前から何処か疲れたような表情をする妙子と奈々。そして、反対に嬉々としてヤル気満々のアビスゲートのせいで場の空気が混沌(カオス)となっている中、ゴーレム騎士達はそんな事はいず知らず一斉に侵入者達を切り裂かんと襲い掛かった。

 

ゴーレム騎士達の動きは、その巨体と姿に似合わず俊敏だった。ガシャンガシャンと騒音を立てながら急速に迫るその姿は、装備している武器や眼光に相まって凄まじい迫力である。

 

そんな、ゴーレム騎士達に向けて先手を取ったのはアビスゲートだ。片方の手に小太刀、もう片方に数本のクナイを装備するとクナイ達を騎士達に投げ付けるとそれに合わせてアビスゲートもゴーレム騎士達のすぐ側まで近付くと自身の魔力で強化した小太刀で斬りかかった。

 

アビスゲートが投げた。クナイ達は三体のゴーレムに直撃する。ハジメほど正確ではないが、肩や足になどを直撃して其処の体の部位ごとを吹き飛ばす。小太刀では、正確に首などの関節部分を中心に斬り裂いてゴーレム騎士達を倒して地面に倒れ伏す。それを軽やかに飛び越えて後続の騎士達が浩介達へと迫る。しかし、

 

「遅い、深淵斬(アビス・スラッシュ)!」

 

〝影潜り〟を使って、騎士達の背後をつくと闇の魔力(アビスの自己解釈)を纏わせた小太刀で首から上を撥ね、騎士達の頭部が宙を舞っていく。

 

そんなアビスゲートの神出鬼没な攻撃の魔の手を盾と大剣と仲間の体で凌ぎながら、遂にアビスゲートが守っていた妙子達の目前へと迫った数体の騎士。

 

だが、其処はツインテールの少し暗い茶髪をなびかせ、鞭を構える妙子のキルゾーンであった。

 

「──〝風刃〟起動」

 

その言葉と共に、ハジメから貰った鞭──〝トルネーグ〟に刻まれた魔法陣が輝きだし鞭の周りに風の刃が纏いだす。妙子はそのままトルネーグを迫りくる騎士達に向かって回避不可能の一撃を繰り出す。

 

「──〝大蛇(オロチ)〟!!」

 

正に、大蛇。鞭が獣へと獲物を狙い喰らう蛇のように動き、風を切り裂く刃が迫りくるゴーレム騎士達を襲う。一応、盾を構えていた騎士ですら、バターを切り裂くようにスっといとも簡単にその防御ごと騎士を真っ二つにする。

 

他の騎士達も妙子へ大剣を持って迫ろうとするも、妙子の思い通りに動く大蛇が後ろから、横から、斜めから腕を足を胴体を削ぎ落としゴーレム騎士達の進軍を止まらせる。

 

しかし、妙子の〝トルネーグ〟はなぜ簡単に鉄すらも切り裂けるのはトルネーグが鉱石で出来ていて風の刃を纏える理由もあるが、妙子の操鞭術の派生技能〝蛇動〟のおかげでもある。〝蛇動〟によってトルネーグの硬度を上げ更に鋭さを増すことで風の刃の攻撃か更に上乗せれているのだった。

 

「はぁぁっ」

 

妙子は風の刃を解くと、一体のゴーレムトルネーグで動けないように拘束すると、鞭を両手で持つとコマのようにグルグルとその場で回り出す。そして、回ることで発生した遠心力で拘束されたゴーレム騎士が宙を舞い妙子と同じように回る。

 

「そーれっ」

 

まるでゴーレム騎士は、ただの騎士の形をした武器へと成れ果ててしまいゴーレム騎士達に襲い掛かる。直撃を受けた騎士達は、体をくの字に折り曲げて、まるで高速トラックに轢かれたかのようにぶっ飛んでいき、後ろから迫って来ていた騎士達を巻き込み地面に叩きつけられたり、壁へと激突する。騎士の胴体とかは、原形を止めないほどひしゃげており身動きが取れなくなっている。拘束された騎士も拘束が外れ、一緒に回っていたせいか物凄い速さで壁へと激突して胴体から上が壁の中に埋まり足がだらーんと垂れ下がっている。

 

ヒュンヒュンと、そんな風切り音が妙子の耳に入る。そして、チラリと上を見ると、先程のゴーレム騎士達の中野一体が振り上げただろう一つの大剣が、妙子に振り回された際に手放されたようで上空から回転しながら落下してくるところだった。

 

「空に舞え 高く 荒々しく 咲け旋風の華よ その花弁(はなびら)を美しく吹き散らせ──〝旋風華(せんぷうか)〟!」

 

長い詠唱の末、妙子の上に緑の華が咲いた。その華は旋風を巻き起こし妙子を守るように咲き誇る。そして、落ちてきた大剣を旋風の華は下への侵入を拒み、風によって軌道を逸らしてゴーレム騎士に狙いを定め射出した。

 

大剣は風の勢いも加わり尋常じゃない速度で飛翔し、ゴーレム騎士が構えた盾に衝突して大きく弾く。妙子はその隙を逃さず踏み込み、

 

「切り裂け 風よ 我が剣となれ──〝旋風刃(せんぷうじん)〟!」

 

駆ける中、詠唱を完了した妙子の左腕からは緑の刃が纏い出して大剣の反動でまだ体勢を立て直していないゴーレム騎士を胴体を切り裂いた。切り裂かれたゴーレム騎士は地面に激突する。

 

妙子の口元に笑みが浮かぶ。戦いに快楽を覚えたからではない。自分がきちんと戦えてることに喜びを覚えているのだ。自分は浩介達の足手纏いとなってないこと、黒竜(ティオ)との戦いの際、優花の殺された際に何も手足も出せなかった自分が戦えていることを実感する。

 

妙子は魔力を回復する為に〝宝物庫〟から魔力回復薬の入った瓶を飲もうとした瞬間、ほんの少しだけ気が抜けてしまう。だが、戦場で、その緩みは致命的であり、気が付けば視線いっぱいに騎士の盾が迫っていた。なんとゴーレム騎士の一体が自分の盾を妙子に向かって投げ付けたのである。流石ゴーレムというべきか。途轍もない勢いで飛ばされたそれは、妙子にとって当たりどころが悪ければ致命傷になるレベルである。そうなれば、一気に畳み込まれるだろうことは容易に想像できる。

 

まさか、盾を投げ付けるなどといった本職の騎士でもしなさそうな泥臭い戦い方をゴーレム騎士がするとは思わなかった妙子。もはや、「しまった」と思う余裕もなく、目を瞑って襲い来る衝突に覚悟を決める。と、盾が妙子に衝突する寸前で何かよって弾き飛ばされていた。

 

「フッ、油断大敵だな」

 

声が聞こえ、妙子が目を開けると目の前には浩介……いや、アビスゲートが自分を守るよう其処に立っていた。

 

「え、浩介。なんで此処に?」

 

「フッ、其方の危機を感じて駆けつけただけだ。それに我はアビスゲートだぞ我が深淵の友よ」

 

「それ、やめて殴るわよ?」

 

「あ、ハイ」

 

「……でも、ありがと

 

「……うむ」

 

アビスゲートは自分も多数のゴーレム騎士達を抑えている中、妙子に盾を投げ付けようとしているゴーレム騎士を見て、〝影移動〟を使って駆けつけたらしい。そんな無理をして助けてくれたことに妙子は嬉しくて頬が熱くなるのを感じる。そして、油断してたことを反省して自分の頬をパンッと叩くと気を引き締め直す。

 

「よし……うん浩介。大丈───ほぇ?」

 

大丈夫だから。と言おうとした矢先、アビスゲートにお姫様抱っこされた妙子。突然の事で言葉を失い、一秒ほど放心して、ことの事態を把握して慌てふためく。

 

「え? ちょっ浩介?!は、恥ずかしいから降ろして!」

 

「それは出来ぬ申し出だな」

 

「いや、敵が、敵が迫ってるから!!」

 

そう。妙子の言う通り、二人に向かって浩介が抑えていた奴等も含め多数のゴーレム騎士が迫ってきていた。アビスゲートの腕の中で抱えながら暴れる妙子に対してアビスゲートはフッと笑って、

 

「安心しろ。アレの相手しなくても我等の頼もしい仲間がやってくれる」

 

「まっ──「行くぞ」──えっ、ちょっ?!」

 

そう返して妙子の言葉を遮ってアビスゲートは、彼女を抱えて上へと飛翔して後退しながら、もう一人の仲間に合図する。

 

「今だ!!」

 

「了解〜!」

 

アビスゲートの合図を軽く返したもう一人の仲間である奈々が〝宝物庫〟から取り出した試験管を五、六本を両手で持つと、ゴーレム騎士達に向かって投げ付ける。奈々は片手を突き出すと投げた試験管かゴーレム騎士達に直撃する前に事前に詠唱して最後の言葉を口にした。

 

「〝氷槍〟!」

 

その言葉と同時にゴーレム騎士達に向かって飛翔する試験管からパリンッとガラスが割れ、計六の氷の槍へと変わりゴーレム騎士の数体を串刺しにする。

 

「か〜ら〜のっ、〝散弾〟!」

 

続けられた奈々の言葉で、ゴーレム騎士を串刺しにした氷槍から更に氷の槍が形成されていき、串刺しにされていないゴーレム騎士達を串刺しにし、またそこから氷の槍が形成されるという、正に連鎖攻撃の嵐がゴーレム騎士達を襲う。その光景を見て、アビスゲートと共に奈々の後ろに後退していた妙子は戦慄していた。

 

「えげつな……」

 

「フッ、正に連鎖の氷……永久連鎖の氷撃(エターナルチェイン・ブリザード)だな」

 

「……(ダサ)」

 

アビスゲートは何かを言ってるか、ツッコむ気が無いので妙子は無視にすることにした。すると、前にいる奈々が此方に駆け寄って来た。

 

「二人共〜。どうだった私の二連詠唱攻撃〜」

 

笑って口にする奈々だが、二連詠唱は、相当技術が必要な高等詠唱で、普通なら十数年かけて魔法の修練しても出来ない者もいる。だが、奈々は此処ライセン。魔力分解作用が働くこの地で詠唱や魔法陣の構成で時間の掛かるも成功させたのである。だから妙子はホントに二連詠唱を成功した奈々に驚いた妙子。

 

「ホントに凄かった……えげつないくらい」

 

「うむ、素晴らしかったぞ。其方の氷連撃縛鎖(エターナルチェイン・ブリザード)

 

「ふぇ? えターなチェリーぶり?」

 

「気にしないで奈々。ただの厨二発言だから……って何か前のと言葉の意味合い違くない?」

 

妙子の指摘にアビスゲートは「フッ、そういうことさ」と笑って返し、その返答に二人は「は?」と首を傾げる。

 

「……そんなことより、我が深淵の同士達よ!今は喋るより彼処のことを気にした方が良いと思うぞ?」

 

アビスゲートが指差す先には、残ったゴーレム騎士達がいる。三人はそれを見て頷き合うと

 

「魔力、足りるかなぁ……」

 

「じゃ、切れる前に片付ければ良いのよ。ね、浩介」

 

「無論、奴等は我が深淵が飲む込むまでっ、参る!」

 

迫りくるゴーレム騎士達を前に堂々と待ち構えていた。それからの三人の連携は素晴らしかった。アビスゲートは騎士の振り下ろした大剣を小太刀で受け流し、右足を上げて靴に仕込んでいたクナイを出すとそのまま騎士の頭を蹴り上げる。そして、妙子が鞭で前方を奈々が後方でゴーレム騎士達の侵入を阻み、アビスゲートの元へと誘導させていく。

 

「浩介!!」

 

「──承知!」

 

ゴーレム騎士達を一点に集中させ、それを一人で相対していたアビスゲートが妙子の言葉に反応して、答えるとすぐに天井に水の入った水瓶を固定させるとその場を離脱するように後退する。それと同時に妙子の鞭の攻撃の嵐が襲う。

 

「はあぁぁぁぁっ……奈々ぁ!」

 

「まっ、かせてぇ!! 氷の雨よ 凍てつく雫よ 氷の涙よ降り注げ──〝凍雨〟!」

 

鞭の嵐から、追撃とばかりに奈々の詠唱が終えた瞬間、アビスゲートが後退する前に、天井に設置していた水瓶が割れ、氷の雨が下のゴーレム騎士達へと降り注ぐ。

 

そうやって三人はゴーレム騎士達を次々と屠っていった。だが……

 

「………?」

 

ゴーレム騎士達の襲撃を躱し反撃しながら、アビスゲートは訝しそうに眉を寄せた。というのも、先程から三人で相当な数のゴーレム騎士を屠ったはずなのだが、迫り来る彼等の数が一向に減ってる様子が無いのだ。

 

その疑問は、妙子と奈々も感じたらしい。そして、よくよく戦場を観察してみれば、奈々が氷槍で串刺しにしたはずのゴーレム騎士達の姿がどこにもないことに気付いた。

 

「ねぇ、やっぱ再生してるよね?この騎士達……」

 

「同意だ。我もその見解に至った」

 

「えぇっ〜、面倒くさっ。キリがないじゃん!」

 

そう、ゴーレム騎士達は破壊された後も眼光と同じ光を一瞬全身に宿すとゾンビのように瞬く間に再生して再び戦列に加わっていたのである。

 

奈々が〝氷壁〟で迫り来るゴーレム騎士達を抑えながら狼狽えた声を出した。どれだけ倒しても相手は再生して、一方自分達は魔力が消費されるだけだと、そんな声を出したくなるだろう。

 

妙子もこの状況は駄目だと理解しながらも打開策が見当たらず、経験の少なさで攻撃にも隙が生じていた。その時だった。背後から大剣を振り下ろそうとするゴーレムの騎士の存在に気付くのに遅れてしまう。

 

「──っ?!」

 

しかし、それが戦いの場では命取り。妙子はすぐに対処しようと振り向くが、自分の死を連想してしまったせいか手が震えて体が上手く動かない。恐怖で目を瞑ってしまう。

 

しかし……

 

何時になっても切られないことに、疑問に感じた妙子は、薄目で目の前の光景を見る。

 

「──へ?」

 

そして、その目の前に映った光景に妙子は目を大きく見開いた。そこには、

 

「フッ……闇に染まって散れ」

 

浩……いや、アビスゲートが二本の小太刀を持って交差させながら自分を切りかかろうととしたゴーレム騎士の首を跳ね飛ばし華麗に着地している光景だった。

 

「浩介、あり──「失礼するぞ?タエ」──っ?!」

 

ありがとう。と礼を言おうとした妙子の言葉は、アビスゲートに抱えられたことにより遮られ、そのままアビスゲートは急に抱えられ「え?え?」と困惑する奈々も回収すると、祭壇と扉側の付近の場所へと着地して抱えていた二人を降ろす。しかし、二人はアビスゲートの行動の意図が分からなかった。

 

「ちょっと、浩介! 今さっきは助かったけどどうしたの?」

 

「そうだよ。浩ちん!!」

 

「すまぬな。説明も無しに、しかし、あのままの状態だと何れにしても全滅であっただろう」

 

「……そうだけど」

 

アビスゲートの言う通りあのまま戦っても先に自分達が限界を迎え死んでいたので、あの戦線から離脱させてくれて冷静さも取り戻せたので妙子は感謝してる。しかし、アビスゲートの意図が分からない妙子と同じ思いてるあろう奈々は距離があるが此方に向かうゴーレム騎士達が来る前に説明しろ。と視線を向けるとアビスゲートは口を開いた。

 

「……我の見解としては、あのゴーレム騎士の再生の原理は分からんが、神代魔法の産物なのは間違いないだろう」

 

「そうね。あんな規格外なことを可能にするのは身代魔法でしか有り得ないわね」

 

「うんっ」

 

アビスゲートの見解に賛同する二人は首を縦に頷く。

 

「それに、見てて分かったことだが、妙に動きが機械的かと思えば、突拍子の無い行動もする。つまり……」

 

「誰かが操っているってこと?」

 

「……ああ、まだ可能性としてであるがその考えが一番信憑性があるんだ。そして、我の予想ではこの扉の奥に操っている奴(コンダクター)がいる可能性が高い」

 

そう言いながら、アビスゲートは自分達の後方にある巨大な扉を指差す。

 

「でも、浩ちん。見るからにあの扉、封印されてるよ絶対」

 

「……だろうな。だから、もし封印されてるのならば、ナナは扉の封印の解除を頼む。タエはその護衛。その間、ゴーレム騎士(マリオネット)共の相手は我がしておこう」

 

「つまり強行突破ってことね。分かりやすいわ!」

 

「わ、分かったよ!」

 

アビスゲートの意図を理解した二人は、それぞれの配置に着く。ゴーレム騎士達と自分達の距離も残り僅かだ。

 

「では、行くぞ!」

 

「ええ!」

 

「うん!」

 

アビスゲートの合図と共に、妙子と奈々が一気に踵を返し祭壇へ向かって突進する。アビスゲートはこの場に留まり迫り来るゴーレム騎士達を相手取る。

 

「御相手、願おう貴公等よ」

 

そう言って、〝宝物庫〟から四本の〝紅爆〟を取り出したアビスゲートは此方に迫るゴーレム騎士達へと投げ込んだ。背後で紅色のした爆発が起こり、衝撃波と爆風でゴーレム騎士が転倒していき隊列を乱すと、その隙に敵陣へと駆ける。

 

「出し惜しみも無しだ!我が深淵の分身よ 我が影から生まれし者達よ この地へと参上したまえ───〝深淵分身(アビス・イリュージョン)ッ〟。よし、行くぞ我達!」

 

『おう!』

 

続けて、浩介は魔力消費が高いからと控えていたがこの際だと思い分身を四人創りりだすと、本体の言葉に分身達は呼応して、ゴーレム騎士達の進軍を五人の深淵卿が抑えに掛かる。

 

「……以って五分程か」

 

ゴーレム騎士達を抑えながらアビスゲートは、自分の限界(タイムリミット)を実感するも、アビスゲートは動じず寧ろ笑みを零していた。

 

「……フッ、それとて受け入れよう。我は闇に生きる者……深淵分身なのだからっ」

 

そう言うとアビスゲートは、分身達と共に目の前の蔓延る敵達に闇の刃を振り下ろす。その隙に祭壇を守るように妙子が祭壇の前に陣取る。奈々は祭壇を駆け上がり扉の前に到着した。

 

「奈々どう?!」

 

「うぅ〜。やっぱり、封印されてるよぉ〜!」

 

見るからに怪しい祭壇と扉なのだ。封印は予想していたが案の定の結果だ。

 

「っ……それっ、解除できそう?!」

 

「や、やってみる!」

 

妙子の言葉に奈々は二つ返事で了承し封印を破る鍵であろう祭壇に置かれている黄色の水晶を手に取った。その水晶は、正双四角錐をしており、よくみれば幾つもの小さな立体ブロックが組み合わさって出来ているようだ。

 

奈々は背後の扉を振り返る。其処には、三つの窪みがあった。奈々は頭を最大限に利用して「ウ〜ン」と頭を悩ませること数秒、「ハッ!」と何か思い付いたのか正双四角錐を分解し始めた。分解し、各ブロックを組み立て直すことで、扉の窪みにハマる新たな立方体を作ろうと考えたのだ。

 

「ん?」

 

分解している途中、奈々は、扉の窪みに何かが彫ってあるのを見つけ観察する。そして、よく観察しないと見つからないであろう薄く彫られた文字に気付く。それは……

 

〝とっけるかなぁ〜、とっけるかなぁ〜〟

 

〝まっ、解けなくても仕方ないかぁ〜、だって私と違って君は凡人(・・)な、ん、だ、からっ♡〟

 

〝でも大丈夫! 頭が悪くても生きて……いけないねぇ!ざんねぇ〜ん! プギャアーー!!〟

 

いつものウザイ文だった。「ムキィィィィィィイ!!」とめちゃくちゃイラッとしている奈々。怒りの余り扉を蹴るもつま先をぶつけてしまって痛みに悶えながらもパズルの解読に戻る。

 

「「………」」

 

物凄くイラついているんだろうなぁ。と背後から伝わる怒気を感じながら妙子とアビスゲートは触らず神はなんとやら、と視界に捉えている群れるゴーレム騎士達の排除に集中する。

 

「……っ(浩介が辛そうにしてる)」

 

こんな場所で分身も使ってゴーレム騎士達を抑えるアビスゲートも限界だろうと判断した妙子はアビスゲートに大技をする為、避けろと伝える。

 

「浩介。ちょっと乱暴する」

 

「承った」

 

「だがっ」

 

「我等はっ」

 

「深淵卿!」

 

「コウスケ・E・アビスゲートである!!」

 

「あーもうっ、うっさい!!」

 

しかし、返ってくる返事にイラッとした妙子は、アビスゲートなんか関係無しに大技を使う。妙子は〝トルネーグ〟に刻まれた魔法陣に流し込むと、大きく鞭を横一閃に振るう。

 

「〝風凪(かぜなぎ)〟!!」

 

『ファッ?!』

 

鞭から放たれた幾多の風の刃が横一閃と飛んでいき、ゴーレム騎士と驚愕しているアビスゲート達を襲う。アビスゲートの叫びも聞こえるが無視だ。ゴーレム騎士達は無慈悲な死の斬撃に為す術なく、鉄屑になるまで切り刻まれていった。

 

妙子はその様子を見ながら、大量に魔力消費をしたので「ふぅ………」と息を吐いて、その場でへたり込む。

 

「………おい」

 

「ん?」

 

声が聞こえ、声がする方向に視線を向けるとボロボロ姿の雰囲気が違うアビスゲート?が其処に立っていた。

 

「あら、浩介、戻ったの?」

 

「お陰様でな!!」

 

深淵卿から戻ったであろう浩介は、声音的にキレていると察しがつく。

 

「ゴメンって、流石にイラッときたからさぁ〜」

 

「それで、許されるかぁ!マジで死ぬかと思ったんだぞ!コノ野郎ォー!」

 

浩介は怒鳴るも妙子はどこ吹く風のように、フイっと横を向いて罪悪感のなさを伝える妙子。そんな二人の耳に笑い声が聞こえる奈々だ。

 

「ふっふっふっ、待たせたようだね。御二人さん!」

 

「どうしたんだアイツ?」

 

「封印の解除で頭ヤッちゃった?」

 

「酷っ?!」

 

二人の辛辣な言葉に、「頑張ったのにぃ……」とイジける奈々。しかし、そんな状況ではないと思い直し、今度は得意気に任務達成を伝える。

 

「じゃ、じゃーん!! 開きましたぁ!」

 

「ナイス、宮崎!」

 

「やるじゃん、奈々!」

 

「えへへ〜、それほどでもぉ……って浩ちん、元に戻ってたんだ」

 

「ああ、お陰様で。よし菅原、行くぞ!」

 

二人は後ろを振り返ると、奈々の言った通り封印が解かれて扉が開いているのが確認できた。奥は特になにもない部屋になっているようだ。奈々の称賛した後、浩介は妙子に撤退を呼び掛け、自らも奥の部屋に向かって後退する。ゴーレム騎士達が再生する前に封印の扉を閉めれば襲撃は阻めるだろう。最初に奈々が、次に妙子が扉の向こうへと飛び込み、両開きの扉の両サイドを持っていつでも閉められるようスタンバイする。

 

浩介は、置き土産にと〝宝物庫〟から取り出したハジメ特製手榴弾を数個放り投げると、自らも奥の部屋へと飛び込んだ。再生しながらもゴーレム騎士達は逃がさんと殺到するも、手榴弾が爆発し強烈な衝撃をも撒き散らす。再生途中に更に衝撃を与えてゴーレム騎士達の再生を遅らせている。その隙に、妙子と奈々が扉を閉めた。

 

部屋の中は、四角い部屋だった。てっきりゴーレム騎士達を操っていた奴の部屋かと思われたが、違うっぽいので少し拍子抜けする。

 

「これって、アレか?これみよがしに封印しておいて、実はなにもありませんでしたっていうオチか?」

 

「ありえるわね……」

 

「ハァァァァァァ?! 私のっ、私の努力は?!」

 

「……無意味だったかも」

 

「ウワァァァァァン!!」

 

相当、封印の解除に苦労したんだろう。浩介と妙子から提唱された可能性に奈々がへたり込むと泣き出してしまい、突然のことに二人はあたふたしながら奈々を宥めていると、突如、もうウンザリするほど聞いているあの音が響き渡った。

 

ガコンッ!

 

「「は?」」

 

「ビェ?」

 

仕掛けが作動する音と共に部屋全体がガタンッと揺れ動いた。そして、浩介達の体に横向きのGが掛かる。

 

「っ。なんだ? 部屋自体が移動でもしてんの?」

 

「そうだと思ッ?!」

 

「わっ?!」

 

浩介の推測を口にすると同時に、今度は真上からGが掛かる。急激な変化に、妙子が舌を噛んでしまったのか涙目で口を押さえてぷるぷるしている。奈々は泣き止んだものの、転倒して尻餅をついた。

 

部屋は、その後も何度か方向を変えて移動しているようで、約四十秒程してから慣性の法則を完全に無視するようにピタリと止まった。

 

浩介は途中から靴に仕込んだクナイをスパイク代わりにして体を固定しており、妙子と奈々の二人も浩介にしがみつくように抱きついていたので急停止による衝撃にも耐えることが出来た。

 

「お、おぉーっと、ようやく止まったか……二人共、無事か?」

 

「私は平気」

 

「私も〜」

 

浩介はクナイを引き抜くと立ち上がった。周囲を観察するも特に変化はない。先程の移動を考えると、入ってきたときの扉を開ければ別の場所に行き着いているだろう。

 

「よし二人共、準備は良いか?」

 

「大丈夫よ」

 

「全く平気だよ」

 

少しこの部屋で一休みして数十分後、浩介は二人に体調の確認を取ると、視線を扉へと向ける。扉の先は、ミレディの隠れ家か、ゴーレムの操者か、或いは別の罠かと浩介は警戒しながら扉を開けた。

 

そこには……

 

「………なんか見覚えあるくね?この部屋」

 

「うん、物凄く見覚えがあるね。特にあの石版」

 

扉を開けた先は、別の部屋に繋がっていた。繋がってたのは良いが、その部屋の中央には見覚えがある石版が建っており左側に通路があって、三人は見覚えがあるはずだ。

 

なぜなら、その部屋は………

 

「最初の部屋………だね。此処」

 

奈々が、思っていても口に出したくなかったことを言ってしまう。だが、確かに奈々の言う通り一番初めに入ったウザイ文が彫り込まれた石版のある部屋だった。よく似た部屋ではないかと思い込んでも、扉を開いて数秒後に浮き出た文字によって現実に引き戻される。

 

〝ねぇねぇ、今、どんな気持ちぃ?〟

 

〝苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点だと知ったときって、どんな気持ちぃ?〟

 

〝ねぇ、ねぇ、教えてよぉ? どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ〟

 

「「「…………」」」

 

浩介達の顔から表情がストンと抜け落ちる。能面という言葉がとても当てはまる表情だ。三人とも、微動だにせず無言で文字を見つめている。すると、更に追い撃ちかのように文字が浮き始めた。

 

〝あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化しますのでご注意を。いつでも、挑戦者の皆さんに新鮮な気持ちで迷宮を楽しんで貰うというミレディちゃんの健やかな心遣いです〟

 

〝嬉しい?嬉しいよねぇ?お礼なんて大丈夫だよ!ミレディちゃんが好きでやってることだからぁ!〟

 

〝ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です。ま、まさか、ひょっとして作っちゃった?苦労しちゃった? 残念! プギャァーーー!!〟

 

「ァ、アハハハハッ。オモシロイナー」

 

「フ、フフフフフ」

 

「アハハ〜アハ?」

 

三者三様の壊れた笑い声が響く。その後、迷宮全体に届けと言わんばかりに三人は叫ぶ。

 

 

「「「ミレディィィェェェェェェェ!!」」」

 

そんな怨嗟を孕んだ絶叫が響き渡ったのだった……。

 

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