ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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百四話 新長老誕生

 

案内された広間では、奥に長老衆が座り、その対面にカムを含めた幾人かのハウリア族が、その右側にガハルドを挟んで優花達が座った。ハジメはというと話を聞けるが、横になって休んでいる。

 

皇帝陛下の直々の敗北宣言と、誓約の内容が本人から伝えられ、長老衆も、ようやく実感を持てたようだ。

 

己の中の名状し難い感情を整理するためか、唸ったり、天を仰いだり、目元を手で覆って深い息を吐いたり……それぞれの方法で、この歴史的瞬間を呑み込もうとしている。

 

外から、未だに歓声の声が響いている中、長老衆の一人──虎人族の族長ゼルが目を鋭く細めた。その視線の先にいるのは、敵地にありながら不敵な笑みを浮かべている不遜な態度のガハルドだ。

 

「敗戦国の王が、随分な態度だな? 自分がどれだけ我々の恨みを買っているか、自覚がないわけではないだろう?まさか、ただで 帰れるとでも思っているのか?」

 

瞳孔が縦に割れ、獣性を剥き出しにするゼル。全身から凄まじく濃密な殺気が溢れ出ている。カムとアルフレリック、ジン以外の長老や護衛の戦士達も、隠しきれない殺意と憎悪に滲ませている。ガハルドは怨敵なのだ。無理からぬことではある。

 

だが、そんな殺気を向けられても、当のガハルドはどこ吹く風といった様子。

 

「思っているに決まっているだろう。まさか、本気で俺を殺せると思ってねぇだろうな。だとしたら、フェアベルゲンの頭共は、とんだ阿呆ということになるぞ?」

 

「なんだとっ、貴様!」

 

激昂するゼルに、アルフレリックが抑えるかと思いきや、ずっと腕を組んで無口だった熊人族の族長ジンが抑えた。

 

「ゼル、よすんだ。気持ちは痛いほど分かる。だが、ガハルドがここに来たのは、我々にハウリア族の成したことと誓約の効力を証明するためということを忘れるな。ここで殺してしまっては、ハウリア族が身命を賭した意味がなくなってしまうだろ?」

 

「ジン、だがっ!」

 

「ゼル!!」

 

「くっ……」

 

悔しそうに顔を歪め、床に拳を叩きつけるゼル。しかし、他の長老衆と戦士達は、こういう場面なら襲いかかると思っていたジンが冷静でいることに驚き、冷静さを取り戻していた。ガハルドはそんなジンの冷静な対応を見て、つまらなかったのか「ふんっ」と鼻を鳴らした。場の雰囲気は最悪だ。アルフレリックが、ガハルドに忠告する。

 

「ガハルド、少しは態度を改めろ。今回はジンが止めてくれたから良かったが、我々を阿呆にするな。特に、理屈では抑えきれない感情があると知れ。お前はそれだけのことをしてきたのだ」

 

静かな声音だった。だが、そこに秘められた感情は、ガハルドをして不敵な笑いを潜めさせるだけの重みがあった。最も長く生きた森人族。それは即ち、最も長くの苦しみを、悔しさを、そして憤怒と憎悪を抱いてきたということでもあるのだ。

 

ガハルドは胡座をかいた状態で、しばらくの間、アルフレリックに視線を向けた。そして、背筋をスッと伸ばすと口を開いた。

 

「だったら、剣を取れ」

 

胡乱な眼差しを向けるアルフレリックに、ガハルドは真っ直ぐな眼差しを向けたまま言葉を重ねた。

 

「俺がて、帝国が、敬意を払うのは強い者だけだ。俺の態度が気に食わないというのなら、力を以て従わせろ。帝国の皇帝を、御託でどうにかできると思うなよ」

 

ガハルドに、亜人族を奴隷にしていたことに対する罪悪感や謝罪の念は皆無だった。

 

──魔力を持たない。神に見放された種族だから見下したのではない。

 

──獣混じりだからと差別しているわけでもない。

 

──ガハルドが亜人族に価値を見いださないのは、ただ彼等が〝弱い〟からだ。

 

「俺が負けた相手は、亜人族じゃあない。敬意。払うべきは、お前等じゃあない。剣を取り、命を懸け、戦場にて強さを示したのはハウリア族だ!」

 

ビリビリと、ガハルドの覇気が広間を震わせた。

 

一髪触発の空気が漂う。張り詰めた緊張の糸が今にも切れて、凄惨な殺意の応酬が繰り広げられる光景を幻視してしまう。しばらくの間、アルフレリックとガハルドの間に見えない火花が散る。

 

誰もが眉唾を呑み込むような空気の中、果たして沈黙を破ったのは………

 

「あー……ガハルド。もうお役目終わったろ?国に帰してやるよ」

 

「あ?」

 

疲れが取れて、気が楽になって起き上がったハジメだ。

 

キョトンとするアルフレリック達長老衆と、訝しむガハルド。そして如何にも「今ここで?」と言いたげな光輝を始めとした者達のドン引きした様子も気にもせず、ハジメはむんずっとガハルドの首根っこを掴み、次いで空間を繋ぐ。〝ゲート〟を開いた。

 

〝ゲート〟の向こう側には、見慣れたた帝城の一室が……。

 

「お、おい!まさか、このまま送り返す気かっ!? 今、ある意味、二国間の会談って感じだったろ!? 流石の俺でも言うぞ!空気読めって!」

 

「んなもん知るか。それに会談が物理的なのは普通聞かねぇよ。後、此処にはお前を証人の為に連れて来たんだ」

 

そもそもとハジメは言葉を続ける。

 

「何百年も続いた価値観の相違に、俺がとやかく言うつもりはないが、今回はやるべきことじゃねぇ。誓約の証明しに来ただけだ……アルフレリック、ここは収めてくれないか?」

 

実際、ガハルドへの報復や、悔恨あるいは改心と望む亜人族と、徹底した実力至上主義を信念として掲げるガハルドの生き方は、少し話し合ったところで平行線しか辿らないだろう。

 

この世界の種族間問題、国家間問題に、異世界人であるハジメが、とやかく言う立場ではない。しかし、ジンが言ったように、この場はハウリア族が成したことを証明することが目的であり、それ以上もそれ以下でもない。

 

「ぬぐぅ……確かに、そうだな……スマンかった、南雲殿。少し熱くなり過ぎていた」

 

「落ち着いて貰えて何よりだ。つーわけで、変に問題を起こす前に、お家に帰ろうか」

 

「てんめぇっ、人を反抗期のガキみてぇに!あ、こら引き摺るなっ。放しやがれぇ!!」

 

ジタバタ、ジタバタと暴れる皇帝様だったが、人外の膂力に到底、勝てる筈がないのだ。

 

「ハジメさん♪ 相手はこ・う・て・い・へ・い・か!ですよ! そんな扱い、あんまりです♪」

 

「リリアーナ姫ぇ!お前、言っていることと表情が滅茶苦茶だぞ!!」

 

ランランラ〜ン♪と、恋人になれた件も含めてか、今にもスキップしそうな上機嫌さでハジメに苦言をリリアーナ。終いには、ハジメに引き摺られてるガハルドにグッドラックする煽り行為にまで突入している。

 

「リリィ、どんだけ皇帝陛下にストレスを溜まっているのよ」

 

「あれは、政略結婚の時のことも含めてるんじゃない?」

 

雫が遠い目をして、優花は乾いた笑みを零す。主のあんまりな行動に、アレスは口元を抑えて笑っている。どうやらリリアーナの楽しそうな姿が見れて嬉しいらしい。が、ヘリーナや近衛騎士達が視線を逸らした。現実を直視できなかったらしい。

 

ユエ達は、あんな事をするまでストレスを与えたのだろうガハルドへとジト目で見る。引き摺っているハジメも哀れみの表情をしながら苦言を呈した。

 

「ガハルド……お前、相当リリィにストレスになることしたんだな……」

 

「うるせぇ!!」

 

ガハルドは青筋を立てて憤る。しかし、ハジメは気にせずに問答無用に〝ゲート〟の向こうへ投げ出された。「覚えてろよぉ~! 南雲ハジメぇ~!!」と、捨て台詞を吐きながら消えていく姿は、なんとも哀れな光景だった。

 

光輝がボソッと龍太郎と鈴に聞こえる程度に呟いた。

 

「……ちゃんと見てるんだな」

 

「だよなぁ~。俺、ガチで南雲の奴、寝ているかと思ってたぜ」

 

「龍太郎くんに一票」

 

光輝、龍太郎、そして鈴がこそこそ話し合っている。酷く満足したようなリリアーナは、ハジメの元へてくてくと小走り感覚で近寄ると流れるように抱き着いた。最早、ブレーキすら壊れて、アクセル全開らしい。

 

その後、「王女としての仕事があるので」と抱き着きながら話すリリアーナ。どうやら、ガハルドにしたのと同じ、王国や聖教教会の現状、そして今後の【フェアベルゲン】との関係について話しておきたいらしい。

 

王国は、帝国と違って奴隷商が盛んなわけではなかったが、差別意識が強かったからというものもある。そのことは亜人族も承知であり〝簡単な話し合いの場で〟というわけにはいかないのはガハルドと同じだ。とはいえ、帝国と比べればまだ敵愾心は少ない。ひとまず話を聞くくらいは、長老衆としても許容すべきことではあるようだった。

 

「わかった。俺も迷宮攻略に向けて、義手の整備をしたかったしな。話が終わったら呼んでくれ」

 

「はいっ。ハジメさん、んー」

 

「?」

 

「んー」

 

目を閉じて顔を近付けるリリアーナに、キョトンと首を傾げるハジメだったが、ようやくリリアーナの意図を理解して、軽く額にキスをした。唇じゃなかったことに少し名残惜しそうだったが嬉しそうにはにかむリリアーナ。そんな二人に甘い空間が形成される。

 

優花達は羨ましいなと少しリリアーナに羨望の眼差しを、雫と鈴は顔を赤くし顔を逸らす。アレスとヘリーナはウンウンと笑みを浮かべて頷いている。光輝と近衛騎士達はキッと睨みつけるが、ハジメには意味はない。

 

ハジメは席につくと、カムに向かって口を開いた。

 

「カム。リリィ達はまだ長老衆達と会話する必要があるようだが、お前等はどうだ? 俺は迷宮に向けて準備を進めたいが、集落ぐらいまでならフェルニルに乗せてもいいぞ?」

 

「ふむ。そうでしょうな。明日以降、大迷宮の攻略も控えているわけでありますし。了解しました。直ぐに案内人を用意させましょう」

 

カム自身も解放された者達の受け入れを【フェアベルゲン】で陣頭指揮を執らわねばならない仕事があるので、代わりに案内人をつけてくれるらしい。が、カムが部下を呼ぼうとする寸前、アルフレリックが制止の声をかけた。

 

「待ってくれ、南雲殿。まだ、報いる方法が決まってない。もう少し付き合ってくれないか」

 

「言ったろ、事を成したのはカム達だ」

 

「もちろん、カム達にも相応の礼をする。だが、南雲殿にも大恩があるのは事実。何もしなければ亜人族として恥知らずとなってしまう」

 

「クハッ……お堅いな。じゃあ、そうだな……此処での滞在の許可が貰えるなら嬉しいが……」

 

「お堅いのは、其方であろうに……しかし、それでいいのなら、樹海に滞在する間の宿や食事は、こちらで振る舞わせてくれ」

 

ハジメは「どうするよ?」と、優花達を見渡した。優花は特に異存はないようだ。雫や鈴などは、美しい都で、ケモミミな人達と触れ合えるかもと瞳を輝かせている。長老衆達も特に反対はなく、寧ろ好意的な反応である。そして、ハジメはある人物に目を向ける。それは熊人族の族長ジンだ。初対面の時よりの変わりように内心、驚いていた。

 

「ジンだったか?アンタも変わったな」

 

「そうか?……まぁ、そうだな。前の俺だと慢心のせいかすぐにガハルドに手を出していたろうな。が、南雲殿のおかげで変われたのだ感謝する」

 

「クハッッ……そうかい、感謝することでもないが、受け取っておくよ」

 

ジンの言葉に、少し笑みをを見せるハジメ。彼からもハジメ達に滞在して欲しいという感情が表情に表れていた。客観的に見ても、樹海に来る度に助けた同胞を連れてきて、傷ついた自然や人々を癒してくれた者と仲間で、亜人族も好意的に接してくれる人間なのだ。意図したわけでもない好意に、なんとも言えない表情になりつつも、

 

「じゃ、世話になるよアルフレリック」

 

そう言って、肩を竦めた。

 

アルフレリックはホッとした様子を見せつつ、次にカムに視線を向ける。

 

「さて、カムよ。我等と共に襲撃者を駆逐し、尚且つ、帝国に誓約までさせ同胞を取り返した。我等はお前達に報いらなければならない」

 

その言葉に、当のカムは「我等がしたいことをしだけさ」と肩を竦めて呟くだけだった。

 

アルフレリックは咳払いで間を取りつつ、更なる報償を与える。

 

「そしてだ。此度の功績に対しては、ハウリア族の族長であるカム、新たな長老の座を用意することで報いの一つとすることを提案したい。他の長老方はどうだ?」

 

アルフレリックの言葉に側近達が目を見開いた。ここ、数百年、現在の種族以外が長老の一座席を受けたことはないのだ。森人族、虎人族、熊人族、土人族、狐人族、翼人族、が亜人族の最優六種族なのである。そこに兎人族を加えるというのは、亜人族の価値観からすれば、まさに歴史的快挙と言うべき種族の誉れだった。

 

アルフレリックの提案に、他の長老達は一度顔を見合わせると頷き合い、満場一致で賛成を示した。

 

「ふむ。そういうわけだ、カムよ。長老の座、受け取ってくれるか?」

 

「もちろん、受け取ろう」

 

カムの言葉で拍手が音が響く。が、カムが「少し、付け加えても良いか?」と声をかけ、拍手を一旦、中止になる。長老達はキョトンと首を傾げる。

 

「どうしたのだ、カム?何か不満があるのか?」

 

「いや、不満はない。が、我等はボスに心から忠誠を捧げている。だから、お願いだアルフレリック。もし、ボスが我等を呼ぶときは長老カム・ハウリアではなく、ハウリア族のカム・ハウリアとして馳せ参じたいのだ」

 

それは、カムの信念であった。

 

自分達を変え、強く、何度も自分達を救ってくれたハジメに付き従いたいのだ。頭を下げてまでお願いするカムに、長老達は少し考える。そして、長老達の代表としてアルフレリックが口を開いた。

 

「うむ。カム、お前の言い分は分かった。なら、兎人族の長老及び特例で一時的にハウリア族の族長カムとなるのを認めよう」

 

「……戦えない者は?」

 

「安心せい。我等が責任を持って守ろう」

 

つまり、長老達の提案は、カムは長老として兎人族の長としての役目があるが、ハジメの要請などハウリアとしての役目がある時は、ハウリア族としての活動を認めるということだ。それに、居ない間に残された戦えない者達は、他の長老達が守るということだ。

 

そんな提案を受けたカムは、嬉しそうに頷くと長老達に頭を下げた。

 

「感謝する」

 

「よい。今から、カム。お前も我等と同じ立場だ。故にこれからも共にフェアベルゲンを守っていこう」

 

「ふっ、そうだな」

 

二人は、固い握手を交わすと、アルフレリックは、この場にいる者に聞こえる声音で話す。

 

「そういうわけだ。皆の者、異論は無いな?」

 

辺りを見回す。誰も反対を示さない。それを確認したアルフレリックは、今回の決定したことを告げた。

 

「なら、ハウリア族族長カム・ハウリアを兎人族の新長老と認める!」

 

「有り難き幸せ」

 

アルフレリックの言葉に、長老達は頷き、カムは席から立って礼をしながら感謝を述べる。

 

この瞬間、【フェアベルゲン】長老衆に新たな長老。後に最強長老として名を残す長老が誕生した。

 

ハジメの隣でシアが両手で口元を抑えた。父親の大出世に感動しているらしい。「なんか涙がでちゃいます」と、目にいっぱいの涙を溜めている。そんなシアをハジメは寄り添ってウサ耳を撫でていた。

 

その後、話はまとまり、楽しそうに団欒する長老衆を残して、ハジメ達は【フェアベルゲン】での滞在中の部屋を案内してもらった。

 

都の中は、まだまだお祭り騒ぎだ。光輝や龍太郎、鈴、そして雫は、ようやくゆっくり見物できる亜人族の国で興味津々で、久しぶりに少し明るい気持ちでお祭り騒ぎの渦中へと飛び込んでいった。

 

一部、熱狂的な優花信者が、優花様を捜し回るということがあったのだが………

 

ハジメが頼んだ最強のボディーガード(アレス)が付いていたお陰で何事もなく優花は、ユエ達と楽しんだそうだ。

 

なお、リリアーナは、それからしばらくして王国へと帰還した。今回の一大事件についても王国なりの行動方針を決めなければならないからだ。

 

ただ、帰る際、ハジメと離れたくなさそうなリリアーナだったが、ハジメからの抱擁とキスで嬉しそうにクネクネしてる隙にムスッとしてるヘリーナがへと運んでいった。〝ゲート〟へと消えていく中、「ヤダ〜~!ハジメさんと離れたくな~い!」という叫び声が聞こえるのだった。

 

そして何故、ヘリーナがムスッとしているかは、ハジメの隣で見送っていた右頬に赤い手型で腫れてしまっているアレスに聞けば分かることだろう……。

 

 

 

 

~オマケ~

 

リリアーナ達が〝ゲート〟で王国へ帰還した後、アレスに何があった?と、聞くハジメ。それは、周りにいる優花達女性陣も気になっていたことなのか耳を傾ける。それに対して、アレスはアハハ~、と困った笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「いやー、ヘリーナに、『私も帰りますけど、何かありません?』と言われたので、ちゃんと『はい、また王国で』と、挨拶をしたんですが……何故か、ぶたれてしまって」

 

「「「「「…………」」」」」

 

それを聞いたハジメ達は、一同に思った。

 

───この男(アレス)、鈍感にも程が過ぎる、と……。

 

ハジメは苦笑いを零しながら、アレスの肩にそっと手をポンポンと叩き、ヘリーナの気持ちに同情した女性陣達はジト目の視線をアレスへと送るのであった。

七章の後にステータス紹介したほうがいい?

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