ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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百六話 ハルツィナ大迷宮

 

体に纏わりつくような濃霧の中を、ハジメ達は迷いのない足取りで進んでいた。

 

【ハルツィナ樹海】真の大迷宮の入口がある。〝大樹ウーア・アルト〟の元へ向かうためだ。普段はあまりにも密度の高い霧のせいで、亜人族でも感覚を狂わされる大樹近辺は、十日に一度、霧の濃度を下げて道を開く。

 

ハジメ達が【フェアベルゲン】に到着してから三日目にその道を開けた。都に滞在している三日間、アルフレリック達のもてなしもあって、ハジメ達は中々快適な時間を過ごし、ハジメのオルステッドの戦闘の際の怪我の完治と壊れた義手などの修復が終わらせることが出来た。

 

シアとアルテナがハジメを巡って火花を散らしたり、アレスがハウリア達と樹海の戦士達を纏めて地に伏せさせた鬼畜訓練をしていたり、龍太郎が戦士達に絡んだり、ティオが魔法で亜人の子供達を喜ばせたり、光輝が元奴隷の女の子達に絡まれたり、優花が信徒から逃げたり、鈴が亜人の子供達にハァハァしながら絡んだり、ユエが新たな魔法を開発したり……

 

各々、三日間を楽しく過ごしたのだった。その間、一人、雫だけ酷く疲れていたようだが。

 

「天之川。右だ」

 

「──ッ」

 

霧に紛れて奇襲を仕掛けてくる樹海の魔物達。

 

しかし、ハジメの他、ユエ、シア、ティオ、アレス、ハウリア達は一切対処せず、全て光輝達に任せていた。大迷宮初の彼等に、樹海の魔物でウォーミングアップをしてもらおうとわけだ。もっとも、樹海の霧は亜人族以外の感覚を著しく狂わせるため、【オルクス大迷宮】での魔物の戦闘とは勝手が異なる。光輝達はウォーミングアップどころではない苦戦を強いられているようだった。

 

今も、側面から奇襲を受けそうになり、ハジメの忠告で辛うじて凌いだ形だ。光輝は僅かに顔を顰めている。苛立ちが募っているようだ。それは龍太郎達も同じで、先程から舌打ちが止まらない。結界でパーティーを守る鈴も、遊撃に徹する雫も、難しい表情をしている。因みにアレスは、樹海の魔物は二、三回倒したほどで慣れたらしい。ホントに、あの神官は化け物である。

 

そんな中、光輝達に交じって戦っている優花の透き通った声が響く。

 

「形状変化──聖剣。(ナイン)(テン)|切り裂いてっ」

 

帝国の使徒達との戦いを経て、新たに二つの聖杭を手に入れた優花は、十となった聖杭を使い慣らすため、自主的に鍛錬をしているのである。どうやら、天使の力でか濃霧の影響を受けないようで、天性魔法と聖杭の訓練にちょうど良いらしい。

 

今も、美しい白に輝く翼をはばたかせながら、二つの聖杭を聖剣の変化させて、遠くにいる魔物達へと飛ばし、一瞬で切り刻めるほど、聖杭の操作が上達している。

 

「はっ」

 

更に、接近してきた魔物を、残りの聖杭で変化させた聖槌で一掃した。まだ、残りの二つの聖杭も発現をしてない優花だが、少なくとも光輝達よりも遥かに強い。

 

「優花も、聖杭を扱えるようになってるな。毎日、ユエ達と鍛錬してるわけだ」

 

「……ん。優花、飲み込みが早い。天性魔法有りだと、私が負けそうになる」

 

「そうですね、私も攻撃が聖杭を上手く使われて対処されるようになりましたから。今の優花殿の実力は、〝ネームド〟と同じくらいでしょう」

 

聖杭を周りに浮かせて、残心を解いて「ふぅ〜」と息を吐く優花を見ながら、ハジメ、ユエ、アレスの三人が言葉を交わす。優花が力を貰っと言われる天使クリスタの本来の戦闘能力は、聖母神エクストラと同等らしいが、力を受け継いでからまだ二週間程度であることを考えれば驚異的な成長速度だ。ハジメ達との鍛錬と帝国での神の使徒戦、優花の努力が、急速に天使化(クリスタ)の戦闘能力をものにしているのだろう。

 

「そんなことないわ。攻撃魔法はユエやアレスさんに比べれば弱いし、聖杭も天性魔法も集中しないと操作と発動も難しいし……」

 

三人の会話が聞こえていたらしく、歩み寄ってハジメに抱きつきながら、唇を尖らせた。ハジメ達との戦闘訓練の際、ユエには、魔法の手数と発動速度で負け、シアには近接戦に持ち込まれたら負け、ティオには持久戦で負け、アレスとハジメの二人には本気でぶつかっても負けてしまうのだ。優花自身はクリスタの力でなら勝てるイメージがあるのだが、思い通りにいかなくてもどかしい……そんな気持ちを表情を出しながら、ハジメの胸元に顔を埋めた。

 

「……優花。何を言ってるのよ。軽く私達を上回る身体能力に、聖杭という光輝の聖剣をも模造できて複数ある能力、天性魔法というこの世界にない魔法を無詠唱・魔法陣なしでの発動可能。優花自身の持っていた回復魔法と付与魔法も驚異的だし……。もうチートなんて評価じゃ足りない、バグキャラだわ。なのに、不満なの?」

 

雫から呆れたように客観的なスペックを指摘されて、確かにと思いながらも優花は、ハジメに頭を撫でて貰いながら不満そうな表情を雫に向ける。

 

「でも私って、一度もハジメ達に勝てないのよ。そんな私がバグキャラならハジメ達はどうなるのよ?」

 

「……名状し難い何か……としか……」

 

雫が難しい表情でハジメ達を表す表現を考えるが、結局、何も出なかったらしい。そんな雫に光輝が光輝が声をかける。

 

「大丈夫だ、雫。大迷宮さえクリアできれば、俺達だって南雲くらい強くなれる。いや、南雲が非戦闘系天職であることを考えれば、きっと、もっと強くなれるはずだ! 俺も神を倒せるぐらいにっ」

 

「そーかぁ?でも、どんな魔法が手に入るのか楽しみだぜ!」

 

「うん、頑張ろうね!」

 

ハジメの強さは神代魔法だけが要因ではないのだが、その辺はスルーして光輝がグッと握り拳を作った。龍太郎も鈴も気合十分のようだ。

 

「皆さ〜ん、着きましたよぉ〜」

 

光輝達が燃え上がっていると、シアが肩越しに振り返りながら大樹への到着を伝えた。濃霧の向こう側へ消えていくシアを追ってハジメ達の前に進むと、不意に霧のない空間に出た。前方には、以前に見た時と変わらない枯れた巨大な木がそびえ立っている。

 

「これが……大樹……」

 

「でけぇ………」

 

「すごく……大きいね……」

 

頭上を見上げ、大樹の天辺が見えないこと、横幅がありすぎて一見するとただの壁のようにしか見えないことに、口をポカンと開けて唖然とする光輝達。

 

きっと、初めて訪れた時の自分達も同じような表情になっていただろうなと、ハジメとユエは顔を見合わせて小さく笑みをこぼした。

 

ハジメは、〝宝物庫〟から攻略した大迷宮の証を取り出しながら、根元にある石版のもとへと歩み寄った。石版も以前と変わらない。七角形の頂点に格大迷宮を示す七つの紋様が描かれており、その裏側には証をはめ込む窪みがあった。片膝立ちとなり、ハジメが計五つの証を掌で弄んでいると、光輝達もようやく大樹の偉容から解放されたようで、正気を取り戻しハジメのもとへ集まって来た。

 

ここからは何が起こってもおかしくない本当の魔境だ。気を引き締めろと、ハジメは鋭い視線を巡らせる。

 

「カム、何が起こるか分からないからハウリア族は離れておけ。それに、カムは仕事があるだろ?」

 

「うっ……了解です、ボス。ご武運を」

 

新長老となったカムだが、ボス達の案内が我等がすると無理言って、長老としての仕事を放棄して付いてきたカムとハウリア達だったが、ハジメの言葉に残念そうにしながらも、それでもカムを筆頭に、一斉に跪いてから散開していった。

 

それを確認すると、ハジメはおもむろに【オルクス大迷宮】攻略の証である指輪を石版にはめ込んだ。一拍おいて、石版が淡く輝き出し文字が浮き始める。

 

 

───四つの証

 

───再生の力

 

───紡がれた絆の道標

 

───全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう。

 

「これも前と同じだな。使う証は……神山以外のでいいか」

 

ハジメは呟きながら一つずつ証を石版にはめ込んでいった。【ライセンの指輪】【グリューエンのペンダント】【メルジーネのコイン】………

 

一つはめ込んでいく度に、石版の放つ輝きが大きく強くなっていく。そして、最後のコインをはめ込んだ直後、その輝きが解き放たれたように地面を這って大樹に向かい、今度は大樹そのものを盛大に輝かせた。

 

「む? 大樹にも紋様が出たのじゃ」

 

「……ん、再生の力?」

 

ティオが興味深げに呟いた通り、大樹の幹に七角形の紋様が浮き出ていた。トコトコと輝く紋様に歩み寄ったユエは、そっと手を触れながら再生魔法を行使する。

 

直後、パァアアアア!!と、今までの比ではない光が大樹を包み込み、ユエの手が触れている場所から、まるで根から水を汲み取るように光を隅々まで行き渡らせ、徐々に瑞々しさを取り戻していく。

 

「あ、葉が………」

 

シアが刻々と生命力を取り戻していく大樹にうっとりと見蕩れながら、頭上の枝にポツポツとつき始めた葉を指差す。まるで、生命の誕生でも見ているかのような、言葉にできない不可思議な感動を覚えながら見つめるハジメ達の眼前で、大樹は一気に生い茂り、鮮やかな緑を取り戻した。少し強めな風が大樹をざわめかせ、辺りに葉鳴りを響かせる。と、次の瞬間、突如、正面の幹が裂けるように左右ながら分かれ大樹に洞が出来上がった。

 

数十人が優に入れる大きな洞だ。

 

ハジメ達は顔を見合わせ頷き合うと、躊躇うことなく巨大な洞の中へ足を踏み入れた。

 

ハジメが少し懸念していたこと──実際に四つ以上の大迷宮を攻略していないメンバーは、樹海の大迷宮に挑戦できないかという点については、どうやら杞憂だったらしく問題なく洞の中へ入ることができた。おそらく他の大迷宮も同じく「入りたければ、あるいは入れるものなら入ればいい。ただし、生きて出られる保証は微塵もないが」というスタンスなのだろう。

 

ハジメが視線を巡らせる。だが、洞の中は特に何もないようだった。ただ大きな空間がドーム状に広がっているだけである。

 

「行き止まりなのか?」

 

光輝が訝しそうに呟いた。

 

直後、洞の入口が逆再生でもしているように閉じ始める。徐々に細くなっていく外の光。思わず慌てる光輝をハジメが一喝する。入口が完全に閉じ暗闇に包まれた洞の中で、咄嗟にアレスが光源を確保しようと手をかざした。が、その必要はなかった。

 

何故なら、足元に大きな魔法陣が出現し強烈な光を発したからだ。

 

「うわっ、なんだこりゃ!」

 

「なになに! なんなのっ!」

 

「落ち着きなさい! ただの転移の魔法陣ですっ。転移先で呆けてはいけませんよ!」

 

動揺する龍太郎と鈴にアレスの声が響く。流石は、たった一人で、三つの大迷宮を攻略した男である。アレスの注意の直後、彼等の視界が暗転したのだった。

 

「っ……ここは……」

 

再び光を取り戻したハジメ達の視界に映ったのは、木々の生い茂る樹海だった。一瞬、大樹の外に放り出されただけかと思ったハジメ達だが、わざわざ転移させる必要性はないので、ここが大迷宮の中なのは確かだろう。

 

大樹の中の樹海……なんと奇妙な状況である。

 

「みんな、無事か?」

 

光輝が、軽く頭を振りながら周囲の状況を確認し、仲間の安否を確認した。それに雫達が「大丈夫」と返事をする。優花、ユエ、シア、ティオ、アレスも特に問題はないようで、既に周囲を警戒し鋭い視線を飛ばしている。

 

光輝が困惑したように尋ねた。

 

「南雲、ここが本当の大迷宮なんだよな?……どっちに向かえばいいんだ?」

 

ハジメ達が飛ばされた場所は、周囲三百六十度、全てが木々で囲まれたサークル状の空き地であり、取るべき進路を示す道標は特に見当たらなかった。上は濃霧で覆われているので、紅翼(せきよく)を使って上空から道を探すことはできそうにない。

 

「まぁ取り敢えず、探すしかないだろうな」

 

ハジメは目を細めで周囲を警戒して見渡しながら、そう言葉を呟きながら、歩き出した。

 

「俺が先頭を行く。何かあったら教えてくれ」

 

光輝達もそれに頷き、歩きだす。その中で、先頭のハジメを抜いて光輝は先陣を切った。神代魔法は、大迷宮に試練攻略を認められないと授かれないと聞いて、率先して動きたかったのだろう。特に異論もなく、ぞろぞろと他の者達もその後を着いていくと思われたが……

 

「………そういうことね」

 

優花が意味深な言葉を呟くと、何故か立ち止まった。それと同時に、ユエ、シア、アレスの三人も立ち止まった。前に進む者達の背を冷たい眼差しで見据えている。

 

「優花?アレスさん達もどうし───」

 

雫が、優花達に声をかけた「(ワンス)行って(刺して)」その瞬間、雫の横に何かが横切り一陣の風が吹いた。そのすぐ後、グシャッと生々しい音が雫の後ろから聞こえた。

 

「え──」

 

振り返ってみると、目に入った光景に雫は言葉を失った。

 

「ガハっ?!」

 

それは、優花の聖剣へと形状変化させた一本の聖杭が、ハジメの背中から腹部にかけて聖剣が貫かれているのだった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ハジメ達が大樹の石版に、四つの証をはめ込んでいる頃。

 

【ハルツィナ大迷宮】の最奥。いや、正確には天辺と言った方が良いだろう。そこに美しい庭園がそこにあった。

 

その場所は、天辺にあるせいか空気はとても澄んでおり、清い水が流れる水路に、芝生のような地面が広がる。小さな木々に囲まれようにして、小さな白亜の建物がある。

 

そこに木で作られた玉座に女性が座っていた。その女性の体は全て木で出来ており、ストレートを中分けにした髪型でかなりの美人に見える。耳の先端が尖っていることから、おそらく森人族なのだろう。

 

「ふふ、やっと新しい攻略者が、この迷宮を挑戦しますのね。あの竜人族の方以来の攻略者に胸が踊りますわ」

 

そう言葉にしながら、女性は嬉しそうに、笑みをこぼすと、石版にはめ込まれた証を天辺から石版から流れる魔力を使って、読み取っていく。

 

「……オーちゃんさんの迷宮、ナッちゃんさんの迷宮、お姉様の迷宮、……そして、ミレディたんの迷宮。オーちゃんさんの迷宮を攻略したことに驚きましたが、ミレディたんの迷宮までも……凄くゾクゾクしますわぁ〜」

 

はめ込まれた証が誰だか、分かって頷く女性。しかし、オスカーとミレディの迷宮を攻略していたことには、驚きを隠せなかった。だが、それ以上に驚くことがあった。

 

「っ?!」

 

女性は感じ取ったのだ。今回の迷宮の攻略者の中に、この【大樹ウーア・アルト】の女王として語り継がれてきた、ある伝承の証を持つ者を……。

 

「本当にいらっしゃったのですね……」

 

女性は玉座から立ち上がると、座っていた玉座を近くの木と同化させると、自分も玉座と同じように近くの木に触れ、同化してある場所へと移動した。

 

そこは、明るい庭園とはまるで逆な薄暗い場所だった。その場所の奥に石版が置かれていた。女性が石版に触れると淡い輝きを放ちながら文字が浮き出た。

 

───神穿つ、機神の力を持つ者。此処に来たれり、試練遣わす。

 

そして、女性は石版に手をかざしながら呟いた。

 

「機神の試練──起動」

 

その言葉が鍵となり、石版から放たれる輝きが増した。そして、石版の後方から、ガシャンッと何かが動き出す音と共にうっすらと赤い眼光が輝いたのだった……。

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