ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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百七話 偽者の正体は……

 

(ワンス)行って(刺して)

 

グシャッ。

 

そんな生々しい音が聞こえ、この場にいる者全員が音のした場所に目を向けた。そして、言葉を失った。

 

「ガハッ?!」

 

そこには、聖剣に形状変化した聖杭がハジメの背中から腹部にかけて貫いているのだ。それに続いて、シアとアレスが動いた。

 

「シア殿は、偽者のティオ殿を……」

 

「了解ですぅ」

 

アレスの指示を聞いたシアは、ティオを、指示を出したアレスは龍太郎を力技で地に伏せさせ、身動きが取れないように拘束した。

 

「シア?!」

 

「いきなり何をしやがるっ」

 

いきなり拘束されて、ジタバタともがくティオと龍太郎。

 

そんな訳の分からない光景を見て、光輝達は唖然とする。一拍置いて、我に返った光輝が、なんで?といった視線を優花達に向けた。特にハジメを刺した優花に。

 

「園部さん! 一体なぜっ、こんなことを!」

 

思わず怒声を上げる光輝。雫達もどこか緊張したような表情で優花達に意図を問う眼差しを向けた。

 

「園部さんっ、何か───」

 

少し声を荒あげて、歩み寄ろうとする光輝を片手で制し、優花は無言、無表情でハジメのもとへ歩み寄った。いきなり刺されて困惑しながら振り返って優花を見るハジメ。優花は、どこ吹く風といった様子だ。その瞳に宿るのは絶対零度の冷たさ。

 

「ユゥ、カっ、なぜっ?」

 

苦しそうにしながら話しかけるハジメに、しかし優花は、その問いに無視。それを見たハジメは、自分の最愛を見て信じられないといった表情をする。それは光輝達も同じだ。お互い想い合い理想の恋人と言ってはばからないハジメに殺意を向ける優花など、まるで現実感がない。

 

あるいは乱心でもしたか……。そう思って、光輝が止めに入ろうとした瞬間、

 

「……邪魔はさせない」

 

「──ッ?!」

 

透き通る声で、ユエが止めに入ろうとする光輝の前に、ユエが立ちはだかったのだ。またもや、分からない。ユエもハジメの恋人の一人が最愛(ハジメ)を刺した優花に味方をするのだ。

 

「ユエさんっ、どいてくれ!」

 

「………何故?」

 

光輝が言おうも、ユエは優花とハジメの所に近づけまいと前に立ちはだかる。

 

「な、何をやってるの! 優花!」

 

雫が、驚愕と焦燥に満ちた制止の声を上げた。慌てて優花のもとへ行こうも、光輝と同じようにユエが止めに入る。

 

なんとかして優花を止めようとする光輝だったが、それは、次の優花の言葉で霧散することになった。

 

「止めて、紛い物の分際でハジメの声で喋らないで気持ち悪い」

 

優花が声を発した瞬間、まるで、その場が極寒の地にでもなったかのような冷気で満たされた。実際に気温が下がっているわけではない。その身から溢れ出る殺気が、生命の発する熱を削ぎ落としているのだ。心なしか周囲が暗くなった気さえする。あまりに濃密な殺意に、光輝達の呼吸が自然と浅くなり冷や汗が滝のように流れ落ちた。

 

「ねぇ、ハジメはどこなの? 答えろ」

 

「………」

 

ハジメの姿をした〝何か〟は、表情はストンと落とすと無機質な雰囲気を纏って無言を貫いた。〝何者〟ではなく〝何か〟なのは、聖剣で背中から刺されたのに、聖剣に血が付いておらず、血が流れていないからだ。明らかに人ではなかった。

 

(ワンス)、回って」

 

優花が指示で、ハジメモドキに刺さったままの聖剣が肉体を抉るように回転しながら腹部を貫くと優花のもとへと戻った。

 

しかし、ハジメモドキは腹部に大穴が空いたというのに

、表情一つ変えることはなかった。どうやら痛覚がないらしい。神の使徒よりもなお、人形のようなイメージを受けるそれは、あるいは本当に意思を持っていないのかもしれない。

 

「答える気はないのね。いや、そもそも答える機能がないってことね。なら、もういいわ。死になさい──(サード)、潰して」

 

優花は、もう一つの聖杭を大槌の武器──聖槌へと形状変化させると、ハジメモドキに片手をかざした。そして、聖槌は、そのまま上から叩き潰した。ハジメモドキの周りにビチャビチャと飛び散る。思わず顔を背ける雫達だったが、堪えてよく見れば、飛び散ったのは肉片や脳髄なのではなく、赤錆色のスライムのようなものだった。

 

それに続いて、ティオと龍太郎をそれぞれ拘束していた二人もドリュッケンで叩き潰し、ロンギヌスで首を刎ね飛ばした。すると、ハジメモドキと同じように二人も赤錆色のスライムに戻った。スライム達は、一拍おいて龍太郎の首がない胴体や他の二人の肉片がドロリと溶け出すと、そのまま地面に吸い込まれていき染みとなった。

 

「やってくれますね、流石は大迷宮だ」

 

「ですねぇ〜。今回は特にヤラシィです」

 

「えぇ、ホントにね……」

 

三人は、それぞれ武器を仕舞うと悪態を吐く。

 

「ユエさん、ハジメさんとティオさんは……」

 

「……ん、転移の際に別の場所に飛ばされたんだと思う。僅かに、神代魔法を取得する時の記憶を探られる感覚があった。あの擬態能力を持つ赤錆色のバチェラムに記憶でも植え付けて成り済ませてから、油断してる時に襲うって魂胆だと思う」

 

「……でしょうね。ホントに気分が悪いわ」

 

優花達は、自分達の恋人であるハジメと大切な仲間(家族)であるティオをダシにされて不機嫌そうに表情を歪ませる。ユエの推測を聞いて、雫と鈴がゾッとしたように身震いした。

 

「なるほどね。……それにしても、よく分かったわね」

 

「だよね。……鈴には見分けがつかなかったよ。どうやって皆気がついたの?」

 

鈴が、成り済ましの恐ろしさに少し青ざめながら、優花達に見分け方を聞いた。光輝もはぐれた親友の安否を気にしつつ興味深げに優花達を見やった。

 

「どうやってと言われてもねぇ……」

 

「……ん、見た瞬間、アレはハジメじゃないって分かったとしか言いようがない」

 

「ですねぇ……」

 

「「「…………」」」

 

優花、ユエ、シアの回答に、全員がガクッと脱力した。鈴がジト目になりながら尋ねる。

 

「じゃあ、龍太郎くんとティオさんは?」

 

「一度、偽者がいるって分かったら、後はアレスさんに教えて貰った魂魄魔法〝心眼〟を使えば、人と魔物の魂は違うことを教わっていたから、すぐに分かったわ」

 

「……ん」

 

「そ、そっか。でも、龍太郎くんとか、どうやって見分ければいいのかなぁ。鈴的に、脳筋発言をされた時点で、むしろ『本物だ!』ってなりそうなんだけど」

 

「も、もしかして、龍太郎が替え玉に選ばれたのは、そのせいか……くっ、龍太郎……」

 

鈴の発言も大概だが、親友のはずの光輝の、言外に龍太郎の性格が単純すぎて見分けられないという発言もに大概だ。雫が同情を孕んだ遠い目を、どこかにいるはずの龍太郎に向ける。何故か空の彼方に、サムズアップする良い笑顔の龍太郎が浮かんだ。

 

優花達の判断の説明がハジメ専用なため、アテにならないと感じた光輝は、もう一人偽者だと分かったアレスに問うた。

 

「あの、アレスさんは、どうやって南雲達が偽者だと分かったんですか?」

 

光輝の問い掛けに、雫や鈴も気になり視線がアレスに集中する。視線が集まる中、アレスは「ふむ」と口元に手を当てた後、説明を始めた。

 

「そうですね、私は優花殿が言っていたように、〝心眼〟を使って魂魄で偽者かを見分けましたが……もう一つの方法でも見分けることができます」

 

「本当ですかっ」

 

神代魔法以外の見分け方があると聞いて光輝は目を見開いて、それは本当なのか聞くと、アレスは頷きながら答えた。

 

「ええ、それは相手を、見て知る。つまり〝観察眼〟ですね」

 

「観察眼ですか?」

 

「はい。人には、普段の様子や性格は個人に一つです。それは、マネしようとも魂が違う限り無理なことです。だから、どう偽者が演じても魂が違う限り普段のクセとかにズレが確実に生まれます。そして、そのズレは自分が本人のことが分かっていれば分かるってことです」

 

アレスの分かり易い説明に「ほぉ……」と光輝達は納得して頷く。が、それが余りにも難しいことだと理解してしまい黙ってしまう。

 

そんな中、雫がアレスに尋ねた。

 

「その、アレスさんは……なんで、そんなに鋭い観察眼を持っているんですか?」

 

「……そうですね。私は王国に居た時もそうですが、交渉の時とか色々と相手を理解しないといけませんからね。それをやっている内に出来るようになりましたね」

 

「そ、そうですか……」

 

困ったように笑って話すアレス。それを聞いた雫は思い出した。そうえば、この人も人間(常識)を卒業をしていたことを……

 

そんな遠い目をする雫に、隣にいた鈴と光輝は同情した視線を送るのだった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

ハジメ達の捜索を進めながら、しばらく樹海の中をアテもなく彷徨うことしばし。体感にして二時間ほど歩いた頃、それは聞こえてきた。

 

ヴヴヴッ!!と、まるで扇風機を最大で動かしているかのような音。一つや二つではない。おびただしい数だ。

 

「魔物か! アレスさん、俺が戦います! 手は出さないでください!」

 

「……まぁ、初戦ですからね」

 

光輝が前に出た。少々、意気込みが強過ぎて危うい感じがするものの、アレス達が対応していては一緒に来た意味がない。アレスは頷き、観戦モードで後ろに下がった。

 

初めての、本当の大迷宮での対魔物戦だ。雫や鈴が緊張の面持ちで光輝の背後に控える。

 

「この音、ですよぉ! 皆さん、気を付けてください! 飛行系の魔物の中でも、特に樹海の魔物は回避能力がすっごく高いですよぉ!」

 

「雫、谷口さん、頑張って!」

 

シアがアドバイスを、優花が声援を送る。直後、木々の隙間を抜けるようにして、魔物の群れが襲来した。

 

その途端、

 

「ひいっ、キモい!!」

 

鈴が悲鳴を上げた。本来は、結界を張って敵の進路を限定するのが鈴のセオリーなのだが、それを忘れるという大失態を初っ端からしてしまうほど、襲来した魔物の姿が生理的に受け付けなかったようだ。

 

見た目は〝蜂〟ただし、赤ん坊ほどの大きさで、百足(ムカデ)のようにわしゃわしゃ動く無数の足がある。蜘蛛の如き口はギチギチと開閉され、盛り上がった複眼は七つ。黄色と黒の毒々しい色合い、ねっちょりとした緑の粘液を纏っていて、尾の針を伝ってびちゃびちゃと撒き散らしている。

 

確かに、直視を避けたい、ある意味、冒涜的な生き物だった。

 

「ッ、鈴!しっかりするんだ!」

 

光輝が怒声を上げる。鈴に飛びかかろうとした蜂モドキに、〝縮地〟で急迫すると、聖剣を振るった。だが、シアの予測通り、回避能力は頗る付きで高いらしい。蜂モドキは聖剣の一撃をあっさり回避した。その際、緑の粘液が飛び降り、鈴の顔にべちょっとかかる。

 

鈴が白目を剥きかけた。反転した蜂モドキが、尾の針を鈴へ向ける。

 

「疾っ!」

 

霞むような速度で踏み込んできた雫の黒刀が、間一髪、蜂モドキを捉えた。

 

「鈴っ」

 

「───て、〝天絶ぅ〟!!」

 

雫の一喝で、ようやく始動した結界師。押し寄せる蜂モドキの波を、分断し、誘導する結界の道を作り出す。涙目でかつてない速さと技量で、自分へ回復魔法をかけておくことも忘れない。ねっちょり粘液が光と共に浄化される。

 

精神的に早速死にかけている鈴を尻目に、光輝と雫の互いの死角をカバーしながら迎撃戦を開始した。

 

「───〝天翔閃〟!」

 

光の斬撃が飛ぶが、蜂モドキは一糸乱れぬ動きで左右に分かれ、あっさり光輝の十八番を回避してしまった。まるで強弓の矢が貫性の法則を完全に無視して鋭角移動するような俊敏性に、光輝は「無茶苦茶だっ、クソッ」と悪態を吐く。更に、その俊敏性を活かしたまま、蜂モドキは尾の針をマシンガンの如く掃射し始めた。撃ち出された直後には新しい針が生み出され、絶えず周囲を旋回しながら多角的に撃ち込んでくる。

 

「天絶天絶天絶ぅ!」

 

悲鳴じみた詠唱をしながら、鈴の障壁が毒針の攻撃を辛うじて防ぎ、雫が速度を活かした切り込みで相手ほど連係を崩し、そうして生まれた隙に光輝が一撃を叩き込む。だが、それを倒せるのは数体ずつで、何百という蜂モドキの群れを駆逐するのは程遠い。外の魔物に比べ、能力も戦い方もあまりにも高度な魔物だった。

 

「くそっ、こいつら、まるで魔人族の魔物みたいだ!」

 

「いや、逆です。アチラの魔物が大迷宮の魔物に近いんですよ」

 

必死の形相で聖剣を振るう光輝が、少し前に経験した修羅場を思い出して思わず悪態を吐いた。大迷宮の魔物の強さに余裕が全くないようだ。

 

そんな光輝の背後から今にも奇襲を仕掛けようとしていた蜂モドキを、アレスが訂正の言葉を送りながら光輝よりのも速い〝天翔閃〟で蜂モドキを両断した。

 

意気込んで自分達が対応すると言った光輝だが、蜂モドキが意を汲んでくれるわけもない。既に後方で控えていたアレス達にも、蜂モドキが襲いかかっていた。

 

それを、アレスだけでなく、優花、ユエ、シアもなんとなく迎撃していく。

 

「回避なんざ関係ねぇですぅ!」

 

シアのドリュッケンが振るわれる度に、逬る衝撃波がまとめて蜂モドキを粉砕する。

 

「………ん、弱い」

 

ユエの方は、雷龍が襲い掛かってくる蜂モドキ達を一瞬で雷の顎門で次々と消却されていく。

 

「思ったよりも遅いわね」

 

優花の方も十の聖槍へと形状変化した聖杭達が一斉に射出され、蜂モドキ達を撃墜していく。何度回避しようとも、反転して追い掛ける聖杭達は、まさにホーミングミサイル。しかも、優花に攻撃しようとしても聖杭達が自動で優花に向かう攻撃を防でいく。

 

視界に入ったその光景を見て、光輝はギリっと歯噛みした。

 

「光輝くん! やばいよぉ。押し切られちゃう!」

 

既に半泣きの鈴。展開する幾枚もの障壁は、破壊されては新たに作り出されてを繰り返し、鈴の魔力を容赦なく削り取っていく。

 

光属性中級防御魔法〝天絶〟は、確かに障壁自体の強度はそれほどもなく、展開数を重視した障壁ではある。だが、それでも〝結界師〟たる鈴が展開する〝天絶〟は並の強度ではない。普通の魔物なら一枚を割るにも数度の攻撃が必要なくらいの耐久があるのだ。

 

それが、蜂モドキの前では、文字通り紙屑のように一撃で破壊されてしまい、鈴はかつてない速度での障壁展開を余儀なくされていた。少しずつ、少しずつ、障壁の展開が遅れがちになり、飛んでくる毒針が徐々に距離を詰めてくる光景は、まるで新綿で首を締めるかのように鈴の精神にもダメージを与える。

 

雫の表情も厳しい。スピードファイタータイプである雫と、蜂モドキは相性がいい。雫の〝無拍子〟を使った緩急自在の攻撃は、確実に蜂モドキを屠っている。だが、蜂モドキの強みはその数の多さだ。一対一なら問題なくとも、殲滅力に欠ける雫では焼け石に水状態。押し切られるのは目に見えている。

 

「刃の如き意思よ 光に宿りて敵を切り裂け!──〝光刃〟!」

 

聖剣に光が宿る。輝く光は剣先から更に二メートルも伸長し巨大な刃となった。大剣となった聖剣を、光輝は回転しながら振り抜く。円の軌跡を描いた光は、その軌道上にいた全ての蜂モドキを見事に両断した。だが、薙ぎ払うために突出したことと、隙の大きなモーションを取った代償は高く付いた。一瞬の技後硬直を狙われ、蜂モドキの体当たりが光輝を直撃する。

 

「ぐぅ、このっ!」

 

後ろへひっくり返った光輝に、蜂モドキが覆い被さる。顎をギチギチと鳴らしながら毒針を突き刺そうとする。幸い、光輝の纏う聖鎧が針を寄せ付けず、刺されることはなかった。光輝は覆い被さる蜂モドキをどうにか聖剣で串刺しにして振り払う。だが、簡単に体勢を立て直させるほど大迷宮の魔物は甘くない。立ち上がる前に、畳み掛けるようにして、大量の蜂モドキが殺到した。

 

「光輝!」

 

「ぉおおおおお!」

 

雫に応える余裕もない。雄叫びを上げ、片膝立ち状態で聖剣を振るう。が、苦し紛れの足掻きもここまで。一体の蜂モドキが、遂に聖剣を掻い潜っで光輝の背に組み付いた。凶悪な顎門が、光輝の首筋を噛み千切ろうと迫る。

 

「───ッ?!」

 

声にならない悲鳴を上げる光輝。

 

刹那、白銀の閃光が空を切り裂いた。同時に、光輝に組み付いていた蜂モドキの頭部が消失。光輝が何が起きたのか考える余裕もなく、首筋に感じるヒリヒリとした熱さも無視して、未だ取り付いている蜂モドキの残骸を乱暴に引き剥がした。

 

九死に一生を得たものの、視界に映るのは幾百という蜂モドキの更なる群れ。

 

───押し切られる

 

光輝の表情が引き攣った。そんな光輝の耳に、なんの焦りも感じていない声が届く。

 

「動かないで、天之川君」

 

「え?」

 

直後、十の白銀の流星が空間を蹂躙した。僅かに遅れて聞こえるのは、蜂モドキ達の断末魔。一つ、また一つと白銀の魔力を纏った聖剣が射線状の蜂モドキを貫き消し飛ばす。

 

更に、優花の新技が炸裂した。

 

「聖杭──結合〝天輪(てんりん)〟」

 

優花の言葉で、蹂躙を繰り返している聖剣達が一つ一つが花弁になり、十の花弁を持つ白銀の花へと形成した。

 

「──廻って」

 

その一言で、天輪は廻りだす。そして、今までの聖杭達の速さよりも疾く飛び廻る天輪は、周りにいた蜂モドキ達を消し去っていく。更に、空中で飛び廻る天輪は、見方によれば、まるで敵の方が自ら天輪に飛び込んでいるすら見える。

 

一つ、また一つと撃墜させながら加速して動き廻る天輪。その光景は、まさに蹂躙。蜂モドキの群れたった十秒もかからず駆逐されることになった。

 

光輝達が唖然呆然としている中、優花は「戻って」と呟くと何事もなかったように、天輪は十に割れ、聖杭へと戻ると優花の元に帰っていった。そして、ユエの方はトコトコと歩きながら蜂モドキの残骸へと近付いた。

 

そして、ある意味、優花が見せた蹂躙劇以上に衝撃的なことを呟いた。

 

「……ん、これハジメが喰っても、意味なさそう」

 

「く、喰う? えっ、ユエさん、南雲君って、これを食べるの?」

 

あまりの衝撃発言に、雫が呆然状態から復活。持ち帰るのは止めとこと頷くユエから、ズザザッと後退りしながら、ドン引きで尋ねる。

 

すると、ハジメがいない代わりにシアが答えた。

 

「アレ? ハジメさんから聞いてません? 自分と同等の魔物を喰うと、その魔物の固有魔法を会得することがあるらしいんです。あ、でも、私達はやってはいけませんよ? ハジメさん曰く間違いなく死ぬらしいので」

 

神水という神話級の秘薬をガブ飲みできるという条件と、肉体が崩壊と再生を繰り返す激痛に発狂せずに耐えきるという条件をクリアした場合にのみ生じる奇跡だ。

 

既に神水には限りがある状態であるし、再生魔法は〝回復〟ではなく〝復元〟であるから、変化が生じる前に戻るだけで意味がない。優花の最上級回復魔法なら可能性がなくないが……肉体の崩壊に追いつかなかった時点で凄惨な死に様を披露することになるので、やはりお勧めはできない。ハジメのように、既に肉体が完全に変化した後なら普通の回復魔法で十分だが。

 

「頼まれたってしないわよ。それにしても、改めて聞くと本当に壮絶ね……」

 

雫が、どこか複雑そうな眼差しを、この迷宮の何処かにいるだろうハジメに向けるのであった。

 

ハジメは頼りになるのだが、その強さの元があまりに壮絶な経験の果てのものであると改めて実感してしまうと、どうにも素直に称賛できない。同情が先に立ってしまうのだ。ユエは残骸から離れようとすると、今度は鈴の疑問の声を上げた。

 

「で、でも、それじゃあ、なんでこれは喰っても意味ないの? この魔物も十分に強かったけど……」

 

「……今、シアが言ったでしょ? 自分と同等以上の魔物を喰うとって。ここのレベルの魔物だと、ハジメにとっては雑魚でしかない」

 

「それに、ハジメさん。前回のオルステッドと戦った際に、オルステッドの創り出した竜を喰らったらしくて、更にステータスと固有魔法が増えたらしいですよ?」

 

「そっかぁ〜。南雲くんにとって、ここの魔物は雑魚なんだぁ〜。そっかぁ〜、アハハ」

 

「鈴、気持ちは分かるから壊れないで。戻ってきなさい」

 

ユエとシアの追撃に、若干、壊れ気味に乾いた笑い声を上げる鈴を、雫が嘆息しながら正気を戻す。

 

「………」

 

そんな中、光輝だけは、優花が撒き散らした魔物の残骸をギュッと拳を握りながら見つめていた。自分が危うく死にかけたほどの強敵を相手に、まるで路傍の石の如き評価を下すユエとシアのことを聞いて、自分とハジメとの隔絶した実力差を嫌というほど感じているのだ。気付かないふりをしているが、心の内には、黒い感情が湧き出している。

 

無言で佇む光輝を、アレスはチラリと見やった。

 

「………勇者」

 

「っ、な、なんですか?」

 

「今は、貴方の幼なじみを捜し出すことを考えなさい。あれこれ悩むのは、やることやってからですよ?」

 

「……分かってますよっ。そんなこと」

 

多少言葉に棘が含まれながらも、アレスの言葉に頷く光輝。一度、大きく息を吐くと、行方不明の親友を思って気を引き締め直す。

 

アレスは、そんな光輝のしばらく見つめた後、頭を振って視線を逸らした。実のところアレスには光輝が今抱いているものがどういう感情か、手に取るように分かっていた。劣等感と焦燥感、強さへの嫉妬……かつて、アレスも抱いたことのある感情だ。

 

アレスが見る限り光輝は、今までは何でも出来ていたのだろう。しかし、ハジメという自分より出来る存在がいることに、そんな感情を持っているのだろう。アレスは、そんな感情も乗り越えてきたが、そういう経験をしてないだろう光輝は、己の暗い感情を律することができるのか……

 

「少し、心配ですね……」

 

今は、親友の龍太郎のことだけを考えろと伝えて、多少は気を紛らわせたが不満は残るだろうとアレスは大きく溜息を吐いた。

 

「アレスさ〜ん、そろそろ行きましょう〜」

 

シアから声がかかる。

 

「では、出発しましょうか。ハジメ殿とティオ殿は大丈夫かもしれませんが、坂上君は危ないかもしれませんからね。一刻も早く合流しないとですね」

 

アレスの言葉に、この場にいる全員が頷く中、はぐれた仲間を捜すべく、一行は樹海の奥へと進んでいくのだった……。

七章の後にステータス紹介したほうがいい?

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