ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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百九話 トレントモドキ

 

鞭のようにしなり不規則な軌道を描いて襲い来る巨大な枝。刃物のように舞い散り飛び交う葉。砲弾のように撃ち込まれる木の実。突如、地面から鋭い切っ先を向けて飛び出してくる槍のような根。一つ一つが致死の攻撃。

 

それは、かつてハジメが【オルクス大迷宮】のとある階層で戦った木の魔物に酷似していた。所謂、トレントと呼ばれる魔物だ。もっとも、ハジメが相対したトレントに比べれば大きさが段違いであり、目の前で大暴れしているそれは直径十メートル高さ三十メートルはありそうな巨木である。

 

そんな巨木トレントと相対しているのは、光輝、雫、鈴、そしてオーガのような生き物だ。

 

『ぐらぁああ!』

 

実際のオーガと変わらない雄叫びを上げながら、岩のような拳を振るっているのは龍太郎である。

 

ここに至る道中、ハジメ達は、オーガ同士の死闘に遭遇したのだが、そのうちの一体が龍太郎だったのである。一体だけ、やたらと洗練された武道の動き──空手をしていたので直ぐに分かった。

 

あと数分発見が遅れていたら、あの世に旅立っていただろうボロボロの龍太郎。光輝達が慌てて助けに入り、オーガはアレスが瞬殺して事なきを得たが……

 

龍太郎は、その後めちゃくちゃ説教された。オカンモードの雫に。ボロボロのまま、正座で項垂れ、女の子にガミガミと説教され続けるオーガの図。

 

死にかけなので、そんな場合ではないと分かっているのだが、鈴がお腹を抑えて笑い転げるぐらいシュールな絵面だった。

 

そんなこんなで、龍太郎オーガも無事に合流し、ハジメ達は周囲探索の末、この巨木が鎮座している場所に辿りついたのだが到着直後、その巨木が暴れ始めたというわけだ。

 

場所的に、そして強さ的に、この階層の主と思われる巨大トレント。この先の進むために、おそらく打倒することが必要だろうと、ハジメ達は戦闘に突入したのだった。

 

そうして、今度こそ成果をと、光輝達が前線に出ているわけである。なお、今回の相手が相手なので、優花が念の為だと、十の聖杖に形状変化させ聖杭だけを参加させ、光輝達の回復兼援護のためにと前線組の周りを飛んでいる。

 

「ぐぅううっ、攻撃が重い!」

 

丸太のような太さの枝が風を切り裂きながら迫る。光輝が聖剣でその一撃を受け止めるが、攻撃のあまりの重さに、食いしばった歯の隙間から呻き声が漏れた。

 

そこに、もう一本の枝が迫ろうとしたが、聖杖から聖槌に形状変化させち二本の聖杭が食い止める。しかし、いつまで持つか分からない状態だ。

 

雫は手裏剣のように手で飛んでくる葉の刃を捌くので手一杯だ。鈴も強力な障壁を張って攻撃を凌ぎ、聖杖達が炎系魔法を放つ隙を作るのに必死な様子。

 

「くっ、ダメね。優花がいるから継戦能力は心配ないけれど……」

 

黒刀〝八咫烏(ヤタガラス)〟の能力──風と雷の刃を発生させる〝雷風爪(らいふうせん)〟をフル活用し、次々と枝葉を切り裂き、塵にさせながらも、雫は押し切れないことに歯噛みした。

 

大迷宮に入ってからというもの、今の雫達で返り討ちに遭うという、かつてのハジメの言葉が脳裏を過ぎった。

 

───半端な覚悟で挑むと死ぬぞ?

 

そんなハジメの言葉が今になって身に染みる。ハジメ達がいなければ、雫達はとっくに全滅しているところだ。

 

帝国で、神の一柱であるオルステッドや神の使徒達の力を見てからというもの【オルクス大迷宮】で磨いてきた自信が粉微塵になりそうである。

 

雫は少し悩んだ後、光輝に向かって叫んだ。

 

「光輝!〝神威(かむい)〟を使って!」

 

「なっ、ダメだ! 詠唱が長すぎる!」

 

「大丈夫よ! 私達が必ず守るから!」

 

光輝は、雫の提案にどうしたものかと悩んだ。

 

目の前の巨大トレントは、明らかに魔人族が連れていた魔物よりも強い。優花による聖杭達のバックアップがあるので辛うじて戦えているが、一瞬でも気を逸らせば即座に命を刈られかねない。そんな中、無防備を晒すのは並みの神経でできることではない。とはいえ、攻撃力不足は明白。このままでは、いずれ何もできないまま敗北するのは目に見えている。

 

それに………

 

光輝は優花達とハジメが再会した時のことを思い出した。

 

姿形が変わっても何も変わることのない信頼関係。

 

優花達は一瞬で恋人に気が付いたし、ハジメも光輝に殺されかけながら動揺一つ見せなかった。正直、そんな風に信頼し合う彼等に、そんな関係を築けていることに、ハジメと優花の二人が自分と雫と同じような幼なじみなのに、互いの信頼関係の差に、嫉妬しなかったといえば嘘になる。

 

故に、光輝は決断した。自分達だって信頼関係はある。それは決してハジメ達に負けるものではないと、そう証明するために。

 

「分かったっ。後を頼む!」

 

「ええ、任せなさい。龍太郎、鈴! 固まって!」

 

「了解だよ!」

 

『応よ!』

 

光輝が、その場で聖剣を頭上に掲げたまま微動だにしなくなった。意識は〝神威〟の発動に全て注がれているため無防備といっていい状態だ。その隙を巨大トレントは逃すはずもなく、左右、真上から木の上が、頭上から竜巻のように迫る葉の刃が、正面から木の実の砲弾が襲い来る。

 

「ここ聖域なりて 神敵を通さず──〝聖絶〟!!」

 

それを見越していた鈴が輝く障壁を張り、その真上に聖杭が形状変化した聖盾達が張ってくれたことに更に防御力が増す。今まで何度も自分達の窮地を救ってきた十八番の障壁は、真上は聖盾によって防げるも、左右からの多大な衝撃には亀裂が入った。しかし、初撃の集中砲火には見事に凌ぎきることは出来た。

 

「っぅうううっ!」

 

聖盾のカバーが入るも、連続して放たれる巨大トレントの攻撃に〝聖絶〟の亀裂が大きくなり、やがて耐えきれず粉砕される。鈴の呻き声が響く中、急迫する攻撃を雫と龍太郎オーガが、刃と拳で捌ききる。

 

「はぁああああっ!」

 

『おぉおおおおっ!!』

 

悲鳴とも雄叫びともつかない声を上げながら持てる技の全てで迎撃する。それでも、怒涛の攻撃に無傷とはいかず、二人は一瞬にして傷だらけとなる。捌ききれなかった攻撃によって傷ついた二人の体から血飛沫が宙に舞った。

 

「ふぅ───〝回天〟、〝付与〟──回復力上昇、回復維持!」

 

戦場に響くその一言で聖杖が光輝く。そして、雫達の傷は一瞬で癒え、更に回復力が維持され回復し続けている。優花の回復魔法と付与魔法だ。

 

〝回天〟は複数人用の中級回復魔法だが、その効果は聖杖と付与魔法によって上級レベル。ほとんど時間の巻き戻しかと思う速度で傷が癒えていく。更に維持の付与で雫達は数分のオート回復機能も付与されいる。

 

大樹の中で天性魔法が使えずとも、これまでの経験と天性化(クリスタ)によって得た力で優花は回復の才を更に開花させていた。

 

鈴が再び障壁を張り数秒を稼いで、また破壊され、再び張り直すまで聖盾と雫、龍太郎が体を張る。傷ついた体はオート回復で即座に癒され、また鈴が障壁を張る。

 

それを繰り返すこと三度。

 

遂に、光輝から膨大な魔力が迸り、掲げる聖剣に収束した。太陽に輝く聖剣をグッと握り直した光輝は、大きく息を吸う。

 

「みんな、行くぞ!───〝神威〟ッ!!」

 

自身の切り札たる最大の魔法を解き放った。

 

光の奔流が射線上の地面を削り飛ばしながら爆進する。葉の刃を吹き飛ばし、木の枝を消滅させ、木の実の砲撃を真っ正面から呑み込み───

 

轟音と共に光が爆ぜ、周囲を白に染め上げる。

 

「やっとか!」

 

光輝が会心の笑みを浮かべて叫ぶ。

 

後方に控えて、ユエとシアにゴロンされお腹を摩られながら観戦していたハジメが、思わず「あ、フラグ立てやがった……」と呟く。

 

そのフラグはきっちり回収された。光が収まり粉塵が晴れた先には、あちこち欠損しつつも、堂々と立ち塞がる巨大トレントの姿があった。

 

「うそ、だろ」

 

光輝の呆然とした声が虚しく虚空に響く。呆けているのは光輝だけてだけではなかった。雫達もまた、光輝の切り札で倒し切れなかったことに激しく動揺していた。

 

───〝神威〟

 

それは、読んで字の如く、勇者の切り札に相応しい威力を持った最上級の攻撃魔法だ。

 

まだトータス世界に来たばかりの頃の光輝はいざ知らず、練度も上がり、それなりの戦闘経験を積んできた今なら大抵の敵なら屠れる、文字通りの必殺技だった。にもかかわらず、巨大トレントは、戦意すら喪失せず、むしろ傷を負わされたことに怒りを抱いたようで、より一層殺意を滾らせている。

 

心のどこかで、光輝は〝自分ならできる〟〝自分なら大丈夫〟だと思っていた。

 

なぜなら〝南雲にもできたこと〟なのだ。大迷宮攻略は。なら、自分にできないはずはない。だが、現実は目の前にある。切り札を以てしても、自分の力は大迷宮の魔物に及ばないのか……。いや、そんなことがあるはずない。これはきっと何かの間違いだ!

 

光輝が、そうやって心の中で必死に現実を否定していると、傍らの雫が声を張り上げた。

 

「光輝、あれを見て! 直撃していなかったのよ!」

 

「え?」

 

雫の視線を辿れば、そこには木っ端微塵になった大量の木々が散乱していた。どうやら光輝の放った〝神威〟は巨大トレントを直撃することなく、その手前で大量の木々にぶつかり防がれたようである。

 

巨大トレントが淡く輝くと同時に、根元付近から外へ広がるように、大量の木々が凄まじい勢いで生えてきたのである。

 

「………こ、固有魔法!」

 

そう呟いたのは鈴だ。その見解は正しく、巨大トレントの固有魔法〝樹海現界〟は、大量の木々を生み出し、それを自由に操れるというものだった。

 

「や、やばいよ!ここに聖域をっ───〝聖絶〟!!」

 

一瞬呆けた鈴だったが、直ぐに状況の不味さに気が付いて詠唱省略した〝聖絶〟を発動した。光り輝く障壁が鈴達を中心に展開されるのと、全方位から攻撃が殺到したのは同時だった。

 

先端を槍のように尖らせた枝や木の根が〝聖絶〟に次々と激しい衝撃を与える。視界の全てを木々で埋め尽くし、まるで物量で圧殺しようとしているかのようだ。

 

到底、詠唱省略版の〝聖絶〟では耐えきれない。実際、既に至る所に亀裂が走っており、もう数秒も持ちそうになかった。そして、鈴の障壁が砕かれた時、果たして彼女が再び〝聖絶〟を発動するまで光輝達は持ち堪えられるのか……。

 

できると判断するのは楽観が過ぎるというものだろう。

 

「もう……ダメ……」

 

鈴が、とんでもない勢いで消費されていく魔力に歯噛みする。光輝は、そんな鈴を見て、ハッと我に返った。茫然自失していたのではない。少し安堵していたのだ。自分の切り札が通用しなかったのには、やっぱり理由があったのだと。だが、通用しなかった結果、こうして鈴は苦しんでいる。

 

光輝は、今の今まで感じていた己の心を頭の隅へ追いやった。そして、第二の切り札──〝限界突破〟を使う覚悟を決める。大迷宮に入って、こんな序盤で切り札を二枚も切らされるとはとんだ誤算であるが、自分の認識が甘かったのだと割り切るしかない。

 

が、その前に、後方より強力な援護が飛んできた。

 

「────〝刻永〟!」

 

聖杭で鈴が対処しきれない枝や木の根を防いでいた優花が一つの聖杖を使って発動した再生魔法〝刻永〟だ。

 

───再生魔法〝刻永(こくえい)

 

有機物・無機物を問わず対象を一定の時間の間、一秒ごとに一秒前の状態に再生し続ける魔法。

 

白銀の光が、鈴の展開する今にも壊れそうな〝聖絶〟を包み込み、次の瞬間、まるで何事もなかったように最高位防御魔法の威容を取り戻させた。

 

「ふわっ、ユウカちゃん! ありがとぉ!」

 

肩越しに振り返る鈴。その目尻には光るものが流れている。余程怖かったのか、それとも感涙か。いずれにしろ、涙目が標準になりつつある鈴に、優花は苦笑いを浮かべて頷いた。

 

窮地を脱した光輝達もまた、肩から力を抜きつつ振り返った。するとそこには、同じく大量の木々に囲まれ一斉攻撃を受けているにもかかわらず、特に気負いもなさそうな雰囲気で佇むハジメ達の姿があった。

 

そのハジメ達の守りはアレスが担当していた。片手をかざし鈴と同じように〝聖絶〟を張るアレスは、同じように張る鈴と違って全く疲れる様子もなく、何度も仕掛ける巨大トレント達の攻撃にも、揺らぐ気配すらない。あらゆる攻撃も寄せ付けず、亀裂すら入らず全て弾き返す様は、まるで難攻不落の城壁のようだ。

 

『……限界っぽいな。もうちょい、いけるかと思ったが……』

 

ハジメが、自分達の方を振り返って複雑そうな表情をしている光輝達を見返しながら呟いた。

 

「う〜ん、勇者さんが〝限界突破〟を使えば、いけるんじゃありませんか?」

 

『かもな。〝限界突破〟の更に上のやつを発動すれば確実だろう。その後の弱体化は問題だが……。〝限界突破〟の疲労は、通常の回復魔法だと中々癒えないんだ』

 

「……ん〜。再生魔法と天性魔法なら治せるかもだけど」

 

ユエの言葉に、光輝達のバックアップを頑張っている優花が聖杭を操作しながら微妙な表情になる。

 

「私としては、できるだけ温存したいわ。再生魔法も天性魔法も消費魔力は大きいし、序盤で、そんなに消費したら倒れてしまうしね」

 

優花の言葉に、ハジメ達を守る〝聖絶〟を張るアレスも同意するように頷く。

 

「私も、優花殿と同意見です。この先、どんな試練が来るか分からないですし、私も今は最小限の魔力効率で魔法を発動してますから」

 

『ふむ。では、勇者の坊やが使ってしまう前に片付けてしまうのがいいかのぅ』

 

『だな』

 

ティオの言葉に、ハジメは同意した。

 

元々、光輝達に戦わせている理由は、自分達が力を貸さなくても大迷宮の魔物には、勝って力を付けて欲しいからだ。そうしないとハジメ達が神殺しを行うために〝神域〟に向かう際に、地上に攻めてくるだろう神の使徒と〝ネームド〟の神の使徒達の対処を任せられないからだ。

 

だから、力を付けて貰おうと巨大トレントと戦わせているがしかし、光輝達は優花のバックアップがあっても苦戦しているのを見て、ここまでの実力の差があるのかと溜息を吐いた。

 

それに、今は自分とティオは戦力外となっており、いつ戻れるか分からず、おまけに装備没収されている状況。変に魔法を連発はしたくない。

 

「え? 倒しちゃって良いんですか?」

 

『ああ、この大迷宮では戦闘での成果は必要ないだらうしな』

 

「それって、大迷宮のコンセプトってこと?」

 

シアの疑問に、ハジメは答えた。するとティオと一緒にハジメの背に乗っていたユエが口を開くと、ハジメの代わりにティオが応えた。

 

『うむ。おそらくじゃが、ハルツィナは〝(きずな)〟を試しておるんじゃろぅ』

 

「絆……そういえば、入口の石版にもそんな言葉がありましたね」

 

『そうじゃ。あれは単に亜人族による大樹までの案内だけでなかったなく、攻略において絆を試すという意味であったのではなかろうか。仲間の偽者を見抜くこと、変わり果てた仲間を受け入れること、戦力外となった仲間を守り抜けるか、それとも見捨てるか……まさに〝紡がれた絆〟が試されているように思うがの』

 

「ふむ。………なるほどですね。その試練を乗り越えた先にゴールがあるなら、確かに〝道標(みちしるべ)〟と言えますね。だとすれば───」

 

「天之川君達は、坂上君を受け入れているし、共闘もしている。さっきは命も預けた。ここまで来れば、確かに、私達が片付けでも問題ないかもしれないわね」

 

「………この先も、〝絆を試す何か〟を私達もアッチの方も乗り切れば問題ないってこと?」

 

『そういうことじゃ。まぁ、あくまで推測じゃがの』

 

とはいっても、中々信憑性がある推測だ。

 

「ハジメさんも分かってたんですか?」

 

『いや、俺はティオほど、そんな推測に至ってなかったが戦闘の成果は、この迷宮を進んだ限り必要性がないと思っただけだ』

 

そんなハジメの言葉に、シアは「ひょえ〜」とハジメの耳をワサワサと撫でながら口にする。

 

それに本当だとすると、単純な戦闘能力だけを問われないこの大迷宮の試練は、光輝達が初の神代魔法を手にする上で相性がいいかもしれない。

 

優花達が納得する中、ハジメは背中に乗るユエに視線を向けながら声をかけた。

 

「ユエ、片付け頼めるか?」

 

何故、ハジメはユエを選んだのは簡単だ。優花は光輝達のサポート、アレスはハジメ達を守る防御魔法を張っており、シアは近接、ハジメとティオは装備もなく魔法も使えない今、ハジメの背中でティオと一緒に乗っていたユエだけが手が空いていたのである。

 

「……ん、任せて、試したい魔法がある」

 

そうハジメの言葉を返すと、ユエはティオをムギューっと抱きしめながら念話する。

 

「鈴。今から少し強力な魔法を放つ。死にたくなかったら結界は解かないほうがいい」

 

「───え゛?」

 

突然の念話に、というより物騒な内容に、鈴はぶわりと大量の汗を流した。光輝達が訝しげな表情を鈴に向けるが、その表情は直ぐに唖然としたものに変わることになった。

 

ユエは、ティオをハジメの背に置くと、ハジメから降りるとスっと両目を閉ざして片手を上げる。その瞬間、魔力色と同じ黄金の髪をゆらりゆらゆらとなびくと同時に、巨大トレントの真上に巨大な青色の魔法陣が出現する。

 

巨大トレントは、自身の真上にある魔法陣が危険と判断したのか、魔力を辿って魔法陣を作り出した 人物を捜し出す。

 

そして、ユエを見つけ出すと、今まで光輝達に仕掛けていた枝や木の根が魔法陣を発動させているユエを集中的に狙い出す。

 

しかし、そんな攻撃はアレスにとって全く苦ではない。

 

「造作もないですね」

 

アレスは笑みを浮かべながら、その全ての障害を〝聖絶〟で弾き返していく。何度も攻撃を受けても亀裂が一つも入らず中にいる者全てを守り抜く。

 

そして、満を持してユエは閉ざした目がゆっくりと開くと、新たな複合魔法の名を口にした。

 

「────〝須佐之男(スサノオ)〟」

 

その一言で、魔法が発動され、魔法陣から巨大な水の刃が出現する。その色は、透き通る青。全員が、その刃の美しさに見惚れてしまう。

 

ユエは片手に上げた腕をゆっくりと下ろしていく。同時に水の刃もユエの手の動きと合わせるかのように魔法陣から降下する。巨大トレントは標的をユエから水の刃に変更して破壊しようとするが、水の刃はいとも簡単に枝や根、葉を切り裂いて真下へと降下していく。

 

何とかしようとしても、全てが切り裂き近付く水の刃。そして、刃の切っ先が巨大トレントに触れた瞬間、一気に降下する速度が上昇して、巨大トレントを一刀両断したのだった。

 

──複合魔法〝須佐之男(スサノオ)

水系の魔法〝水刃〟、重力・空間魔法を組み合わせ、圧縮させ巨大な水刃を形成させ、大体のもの全てを切り裂くことができ、空間さえも切り裂ける魔法。

 

 

ユエが、新魔法で本体である巨大トレントが真っ二つにしたことで、固有魔法で操っていた大量の木々達は攻撃が停止し、戦闘が終了した。

 

『スゲェな、ユエ』

 

「流石、ユエさんですぅ!」

 

『〝水刃〟をあそこまでの威力にさせるとは流石じゃな、ユエ』

 

「やっぱ、ユエの魔法は綺麗ね」

 

「ほぅ……重力と空間も組み合わせているとは、面白い発想ですね」

 

巨大トレントの真っ二つになった様を見たハジメ達。それぞれがユエの新魔法を褒めていく。

 

「………ムフゥ〜」

 

皆から褒められ、新魔法も上手く発動できたユエは、フッと笑みを浮かべドヤ顔を決めていた。

 

「凄いわね……あの、魔物を一撃でなんてね。流石……流石ね……フフ」

 

「大丈夫だよ、シズシズ。未だに鈴も現実逃避したくなる時があるけど、でも、そのうち慣れるよ。慣れるはずだよ。だから大丈夫」

 

自分達が今まで、苦戦してきた巨大トレントをたったの一撃で真っ二つにされる光景に、精神的ダメージを受けたらしい雫と鈴が、光のない目で慰め合っている。龍太郎オーガが心配そうな目を向けているが、かける言葉がないらしい。龍太郎自身、オーガの身で冷や汗を流している。

 

そんな雫達と少し離れた場所で、光輝はハジメ達を横目に唇を噛み締めていた。

 

自分達がどう防ごうとも亀裂が入るほどの攻撃を防ぎ、自分の切り札を使っても倒しきれなかった相手を、まるで片手間のように片付けられた。そして、その者達は全員ハジメを慕っているのだ。ここには、その差を覆すためにやって来たのだと自分に言い聞かせても、助けられっぱなしで、果たして神代魔法は手に入るのか、と、そんな不安が心の内から湧き上がってくる。

 

ネガティブな考えを振り払うように頭を振った光輝は、背後でメキメキッという音が響いたことに慌てて振り返った。

 

「再生している?」

 

光輝の言葉通り、真っ二つになった巨大トレントが繋がっていき、巨大トレントとなる。まさに〝再生した〟といった感じだ。身構える光輝達だったが、再生した巨大トレントは襲いかかるでもなく、しばらく佇むと大樹の時と同じように洞を作り始めた。幹が裂けるように左右に割れて中に空間が出来上がる。

 

『中ボスっぽいと思っていたが、次のステージに行く扉でもあったんだな』

 

ハジメは納得したように頷き、躊躇うことなくティオとユエを乗せながら洞に向かった。その後を優花達も付いていく。身構えていた光輝達も構えを解いて追随した。

 

洞の中は、特に特徴のない空間だった。が、全員が中に入った直後、やはりと言うべきか洞の入口が勝手に閉じていき、ほぼ同時に足元が輝き出した。

 

『また転移だな……』

 

大樹の入口とほぼ同じ魔法陣の発動に、ハジメは呟やきながら傍にいた優花とシアを尻尾で抱き寄せ、上に乗るユエとティオゴブも一緒に抱き寄せた。抱き寄せたところで、転移陣が引き離そうとするなら抗えない可能性が大きかったが、何もしないよりはいい。

 

もしまた、転移場所が別々で、自分の知らない内に大切な人達を失うなど、有り得ないことだ。

 

「ハジメ、安心して」

 

「……ハジメ」

 

「ハジメさんは、心配性です」

 

『ハジメ、大丈夫じゃ』

 

そんなハジメの心配する気持ちが伝わったのか、四人は恥ずかしくても嬉しさと喜びが勝ってしまって笑みを見せて四人もハジメに抱き着いた。離れてたまるかと思わせるほど抱き締めている。

 

そして、ハジメ達の視界は、莫大な光によって塗り潰されたのだった……。

七章の後にステータス紹介したほうがいい?

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