ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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FGOのレイドのせいで投稿が遅れました/(-_-)\

十二月二十二日……少し修正しました。



百十話 理想の世界

 

───チュンチュン、チュン

 

朝を知らせる鳥の(さえず)りが、カーテンの隙間から陽の光と共に、薄暗い部屋の中へと侵入してくる。その音に急かされるようにして、頭から布団を被り鉄壁の要塞を築いている部屋の主が身動ぎだした。と、同時に、カチッという音がやけに明瞭に響き、次の瞬間、悪魔が咆哮を上げた。

 

──ジリリリリリリリリリリ!!

 

けたたましい騒音が朝の静寂をぶち壊し、部屋の主がなり立てる。

 

「あぁ……?」

 

悪魔から身を守るように、布団の中へ更にこもる部屋の主だったが、流石にいつまでも無視は出来ない。もぞもぞと布団から腕だけ伸ばすと、バンッと頭部を的確に捉えて叩くと堪えない悪魔の叫びを沈黙させることに成功した。

 

しかし、部屋の主は昨日の重労働のせいか、再び、夢の世界に旅立とうとしていた。

 

直後、

 

「ハジメ〜。起きなさぁ〜い! どうせ二度寝に突入してるでしょう〜!! さっさと起きなさぁ〜い!」

 

階下から間延びした聞き慣れた声──母の菫の起床を促す声が響いてきた。部屋の主──ハジメは、夢の世界へと旅立っているので完全に耳に入っていない。

 

「やっぱり、ダメねぇ〜。もうホントに毎朝毎朝ごめんね〜。今日もお願いできる?」

 

「───」

 

階下から再び菫の声が届く。ハジメに聞かせるために、わざと大きな声を出しているのだろう。呆れた菫は誰と話している。しかし、再び夢へと旅立つハジメにとっては関係ないことだ。

 

コンコンッとノックの音が響く。

 

しかし、反応がないことに二度寝しようとしてると分かっているその人物は一拍おいて直ぐに扉を開けた。そして、部屋に入るなり足早にハジメが眠るベッドへと向かう。そして、布団で疼くまるハジメに優しく声をかける。

 

「ハジメ、起きて」

 

「……」

 

それでも反応しない。完全に二度寝に入っているからだ。起こしに来た人物は疼くまるハジメに困った笑みを浮かべた。

 

「ハジメ、起きなさい。起きないと……」

 

「………」

 

今度ハジメ優しい手付きでゆさゆさと揺さぶってくる。布団越しでも分かる自分よりも小さな手に、ハジメの意識が半覚醒する。

 

「……ユエ達にも言って、今日はデート無しね」

 

「いや、それはやめてくれ」

 

その一言で、ハジメは一瞬で意識を覚醒させると、ガバッ!と跳ね除けた。一緒に、黒髪が(・・・)が寝癖でぴょんっ跳ね、日本人らしい色彩の両目が(・・・・・・・・・・・・)ぱちくりと瞬きする。

 

その視線の先には、栗色の髪をした美少女がいた。その少女はハジメと目が合うと嬉しそうに微笑みかけながらハジメのベッドに腰掛ける。

 

ハジメは、そんな彼女に笑みを返しながら抱き締めた。彼女も同じようにハジメの背中に手をまわす。

 

「おはよう、優花」

 

「おはよう、ハジメ」

 

ハジメは愛おしい恋人のとのひと時に目を細めて、一日の最初の幸せを噛み締めながら彼女との抱擁を交わしたそうしていると、部屋の扉から再び三人の人物が部屋に入った。

 

「……ハジメ、やっと起きた」

 

「おはようございます。ハジメさん」

 

「ふふ、旦那様はお眠りさんじゃのぅ〜」

 

視線を向けると三人の美女、美少女達がいた。ハジメは、笑みを向けた。

 

「おはよう、ユエ、シア、ティオ」

 

「……んっ」

 

「ハジメさん、寝癖が跳ねてますよ〜」

 

「ムッ、優花だけ抱擁か……羨ましいのぅ」

 

ハジメの言葉に、嬉しそうに微笑む金髪紅眼の少女のユエ。ハジメの寝癖を見て整えようと向かう淡青白色の髪でトレードマークのカチューシャ(・・・・・・・・・・・・・・)をつけた少女のシア。ハジメと優花のハグを見て、羨望の眼差しを送る黒髪金眼の美女ティオ。この三人はハジメに惚れており、傍にいたいがために、ハジメの家へホームステイを強行し、ユエとシアは、いつの間にか学校もハジメと優花の学校に編入手続きまでも済まし、ティオも一人暮らししてたマンションから引っ越すほどだ。

 

そんな熱烈な想いを寄せる三人に、ハジメは断れず優花という恋人がいるのに三人の想いを了承してしまった。そんなハジメに、普通キレるはずの恋人である優花は怒ることなく寧ろ三人とも仲が良くなっており、自分の両親も優花の両親とも関係は極めて良好だ。

 

ハジメは、そのことに、何故?と思い親友の浩介と友の大学院生のアレスに相談したが「誑しだな」「誑しですね」としか言われなかった。ハジメは、更に頭を悩ませることになったのだった。

 

そんな四人の恋人との朝を迎えたハジメは、菫に揶揄されたり、愁に弄られたりしつつも朝の準備を終え、優花、ユエ、シアと共に家を出た。

 

学校(・・)に行くためだ。

 

行く途中に、優花の両親である博之と優里に挨拶してから学校に向かった。優花は、優里にハジメが菫にされたように揶揄され、顔が真っ赤になっているのだった。

 

あくびを噛み殺しながら通学路を気怠げに歩くハジメを見て、両隣を歩く優花達はハジメと腕を組んだり、上目遣いで首を傾げたりする。

 

そんな何気ない仕草がいちいち極上に可愛いくて……

 

すれ違う度に優花達に見惚れて、溝に落ちたり、電柱にぶつかったり、事故る人々が量産されていく。人災を振りまく三人は、しかし、周囲のことなど気に留めずハジメが一緒にいることに幸せそうな表情だ。

 

自分達の学校はブレザータイプの制服を着ているため、スカートがふわり翻る。右隣で腕を組んで歩く優花は、気遣うようにハジメの顔を覗き込んだ。

 

「また、夜更かししたの?」

 

「まぁな、父さんから頼まれた仕事が思いの外はかどってな。気が付いたら空が白み始めてた」

 

「熱中するのはいいけど、体には気をつけてよね」

 

「……ん。ハジメが倒れたら泣く」

 

「そうですよ〜。無理しないで下さいよ?」

 

「そんなに、心配しなくて───はぁ、分かった、気を付ける」

 

穏やかに話す四人。この四人の間には、どこか甘い雰囲気が漂っている。四人──いや、ティオも入れて五人の恋人となって随分経つが、熱情の衰えもない。

 

突然、ハジメの恋人が増えたことに学校では当初は大騒ぎだった。

 

編入してきた二人の美少女に目の色を変える男子達。しかし、二人は自分がハジメの恋人であると宣言し、学校全体を巻き込むような話題の的となった。

 

その後、嫉妬に正気を失った男子達がハジメに襲いかかるが、全て返り討ちにされたのは言うまでもない。しかし、幼なじみの女子二人から叱られ、軽蔑の眼差しを送られるのは少し辛かったのが一番ハジメに響いた。

 

そんなことが続いて数ヶ月。

 

優花の説得もあって、やっと二人からも元の関係に戻れて落ち着いた学校生活に送れるようになった。こうして、のんびり散歩じみた登校もできるのも、挑んできた男子生徒達がハジメに恐れをなし、幼なじみや友達と関係に戻ることが出来た賜物だ。

 

ハジメは、ふとユエ達三人との出会いを思い出す。どれも暴漢を倒して救ったことから始まりだった……気がする。

 

「(ん? 暴漢を倒したんだよな……んん?)」

 

しかし、ハジメはその時の出来事を余り覚えていない。この話はユエ達から聞いたもので、ハジメの記憶には覚えがなかった。そこにハジメは、違和感を覚えた。

 

「(……本当に俺は、暴漢を倒したのか?)」

 

ティオは日本人っぽいが、ユエとシアの二人の容姿は明らかに外国人であることは一目瞭然で、ホームステイに来ている以上、ユエとシアにも出会ったのも外国のはずだ。

 

事実、ハジメ自身、二人に出会ったのは外国であると認識している。優花とも恋人になれたのもそこに国だった。しかし、そこが正確にどこだったのか、まるで霞がかったように伴然としない。そのことに気が付いた途端、記憶の本棚からボロボロと疑問がこぼれ落ちてくる。どんどん膨れ上がっていく疑問に、ハジメの中の違和感も急速に膨らんで───

 

「ねぇ、ハジメ!」

 

「……ハジメ!」

 

「おーい、ハジメさぁ〜ん」

 

「おわっ、どうした? いきなり大声だして」

 

通学路で、普段は聞き慣れない三人の大声に心臓が跳ねて、思考の渦に呑み込まれかかっていたハジメの意識は急速に現実へと浮上する。

 

いつの間にか、三人は心配そうにハジメを見つめていた。

 

「ホントにどうしたのよ、ハジメ」

 

「……ん、何度も呼んだのに無視した」

 

「ハジメさん、今日は学校休みます?」

 

「いや、平気だ。すまんな変に心配させて」

 

「もう、しっかりしてよ?」

 

そう言って優花は、ハジメから視線を外す。その時には既に、先程の疑問はハジメの中から消えていた。

 

──微笑んでいて。幸せの中に。私達だけを見ていて

 

優花の囁くような独り言。その声はハジメには届いていない。ハジメは、自分に寄り添う彼女達を見て、優しげに目元を和らげるだけだった。

 

学校に到着したハジメが下駄箱で上履きに履き替えていると、肩に誰かが触れる感覚が伝わる。誰かが肩を軽く手を置かれたらしい。しかし、ハジメは正体は誰か知っている。

 

「よ、ハジメ」

 

「おう、浩介」

 

ハジメの後ろにいたのは、親友で影が薄いで定番の遠藤浩介がいた。浩介の挨拶にハジメも返すが、いつものメンバーが居ないことに気付く。

 

「妙子と奈々は?」

 

「ああ、今さっき優花やユエさん達とあっちで楽しそうに話してるぞ」

 

浩介の言われ、視線を転じると楽しそうに談笑し合う優花達が見えた。「今日もシアさんの胸が大きすぐる……」「ひやっ?! 奈々さんっ」「奈々、やめなさい」「アダッ」と会話が聞こえハジメと浩介は互いに溜息を吐く。

 

「じゃ、優花達呼んで教室に向かうか」

 

「お、そうだな〜」

 

そう話しながらハジメと浩介は、優花達の所へと向かい、そのまま教室へと向かったのだった。

 

その後、教室に着いたハジメは、いつも通り優花達と過ごし、いつも通り授業を受け放課後を迎えたのだった。

 

放課後。

 

浩介達と別れたハジメ達は、学校の近くにある幼稚園に向かっていた。ご近所さんであるレミアの娘──ミュウのお迎えのためだ。母子家庭故に忙しい彼女に代わり、こうして時折、ハジメが学校帰りに迎えに行くのである。

 

このお迎えと、レミアが帰ってくるまでの間ミュウをウィステリアや家で預かるというのは、ずっと前から続いているハジメの日常だ。

 

幼稚園に到着すると、

 

「あっ、パ……お兄ちゃん! 優花お姉ちゃんとユエお姉ちゃん、シアお姉ちゃん!」

 

ミュウがステテテテーと寄ってきた。これ以上ないくらい満面の笑みである。

 

思わずほっこりするハジメ達。

 

飛び込んできたミュウを受け止めて、ハジメはギュウと抱き締めた。

 

「ミュウ、飛び込んじゃダメだ。危ないぞ? それと今、また〝パパ〟と呼びそうになったな? ホントに勘弁してくれ」

 

ハジメは、ミュウが口にしかけた呼び名に冷や汗を流しながら窘めた。生まれる前に父を亡くし、父親というものを知らないミュウにとって、いつも傍にいて優しくしてくれる年上の男性であるハジメはパパだと思えたらしい。

 

だがしかし、呼び名を許容するわけにいかない。

 

何せ、レミアが未亡人で、しかも、まだ若く、ご近所でも評判の美人だ。そんな彼女が大切な娘を任せる相手で、娘はパパと呼ぶ……良からぬ噂が立つことが避けられない。実際、幼稚園の先生達の前で、うっかり口を滑らせたことがあり、ちょっとした騒動にもなったのだ。

 

ハジメとレミアできちんと説明して、この騒動は事なきを得たが、最近は、何故か幼稚園の先生達から生温かい視線を向けられることが多くなっているとこに頭を悩ませているハジメであった。

 

優花がミュウを抱っこされながら、のんびりと帰路を歩く。ユエもシアも優花に抱っこされて嬉しそうにはしゃぐミュウを可愛がっているのを横目に微笑みつつ、この穏やかな時間に浸るハジメ。

 

茜色の空を見上げながら、わけもなく幸せだと思う。だが、今日一日ずっと抱いている違和感が消えずにハジメの頭の片隅に残り続けている。

 

「もうっ、パ……お兄ちゃん! ミュウのお話、聞いてるの?!」

 

「え? ああ、スマン、スマン。少し考え事をしててな」

 

ぷんすかと怒るミュウに謝罪しながら、優花に抱っこされるミュウの頭を撫でる。頭を撫でられ直ぐに機嫌が戻ったミュウ。

 

そんなハジメを優花達は目を細めた。と、その時、一層目を細めたシアが、不意に口を開けた。

 

「……あらら? ハジメさん、何か聞こえますよ?」

 

「ん? あー……」

 

耳のいい彼女の言葉を疑わず、ハジメは耳を澄ませた。微かに、女性の声と複数の男が言い争うような喧騒が聞こえてくる。

 

ハジメ達は顔を見合わせ、その声が聞こえる路地へそっと顔を覗かせた。

 

「なんて、テンプレな……」

 

「女の敵ね……」

 

そこには想像通り、複数の男が少々強引すぎるナンパしている光景が広がっていた。ハジメは、面倒くさそうに溜息を吐くとスタスタと男達のもとへ突き進みながら、いつもの戦力分析(せんりょくぶんせき)をしていく。

 

敵の戦力はどうということもない。歩法や姿勢、纏う雰囲気からしてもただのチンピラだ。仮に武装したとしても大したこともないだろう。

 

彼等も近寄ってくる気配に気が付いたようだ。ハジメの方へ振り返り、眉を顰める。だが、ハジメの後方にいる優花達を見て、下卑た笑みを浮かべる。その目は明らかに新たな獲物を見つけたと物語っていた。

 

「(あぁ?)」

 

彼等の視線にドス黒い感情が湧き上がる。ハジメの両手が、己の太もも辺りに伸びた。が、何故に自分は太ももに手を伸ばしたのかと疑問に感じた。

 

「(いや、今はどうでもいい)」

 

だが、そんな疑問を一旦置いて、自分の大切な者達に気色悪い視線を送る男共をボコボコにするだけだ。ハジメが一瞬で男達の間合いに踏み込んだ。

 

そこからは圧巻の一言。一撃必倒を地で行く凄まじい格闘能力で、ハジメは怪我することなく男達を全員に地面にキスさせるとパッパッと手を払った。

 

そして、ハジメは、少々表情が引き攣っている女性からの固辞すると、さっさと優花達もとに戻ってきた。優花達はハジメのもとへ駆け寄る。

 

「ハジメ、大丈夫だった?」

 

「パ……お兄ちゃん! 大丈夫なの?」

 

「……流石、ハジメ」

 

「やっぱり、ハジメさんの動きはキレがあってカッコイイですぅ〜!」

 

「クハッ……そうかい」

 

四人からの心配や称賛を聞きつつ、ハジメは「ミュウは真似すんなよ」と苦笑いを浮かべた。

 

そして、再び帰路につく。そして、思い出す。自分の違和感に。

 

「(やっぱ、おかしい……左腕はこんな感覚だったか? 右目の違和感はなんだ? 何故俺は両手を太ももに伸ばした?)」

 

その瞬間、ズキリッと左腕と右目から痛みを感じた。同時に、心も震えだした。

 

───目を………ま……っ

 

声が聞こえた気がした。自分の、けれど、どこか異なる声が。

 

 

夜。

 

夕食も終えて風呂にも入り、自室でベッドに身を投げ出していたハジメは、濡れた髪を乾かしもせず、何かを考え込むように眉間に皺を寄せていた。

 

胸中を巡る正体不明の違和感。時間が経つにつれて増していく。それと同時に声が聞こえる気がするのだ。本能と言うべき深い場所で、誰かが叫んでいる気がするのだ。

 

それは、否定の声。

 

この幸せなはずの日常を否定する叫び。

 

「あ゛ーーー、クソッタレが……」

 

ハジメは苛立ったようにガリガリと頭を掻いた。その時、不意にノック音が聞こえた。

 

「ハジメ、入るよ?」

 

「優花か、良いぞ」

 

一拍おいて、今日は家に泊まりにきた優花が扉を開けて部屋に入ってきた。ネグリジェ姿だ。普段は余り見せない姿にハジメの心音がドクンッと高鳴る。歩み寄る優花は、ハジメの髪が濡れていることに気付くと、眉を八の字にして少し怒りの眼差しを向けてベッドに乗り込んだ。

 

そして、寝そべるハジメを起こすと丁寧に髪を乾かし始める。

 

「よし、乾いた。濡れたままじゃダメよ、風邪引いちゃうから」

 

「へいへい」

 

「もうっ」

 

適当に返事をするハジメに、優花はムッとしながらも後ろからハジメに抱きついた。そして、ハジメの首筋に顔を埋めスリスリと甘えるように擦り寄る。後ろから回した滑らかな両腕は、ハジメの胸元から服の中に侵入し、愛しげにハジメを愛撫する。

 

心地よい感触、幸せな時間。

 

なのに、心が否定していく。己の本能が叫びだして否定すると同時にハジメに頭痛をもたらす。

 

「(何故だ? 優花に抱き締められても、こんなに愛されても嬉しくない? 何故?何故?何故だ!!俺の心はっ、本能はっ、否定をする?!)」

 

優花の体の柔らかさと体温を感じながら、膨れ上がる違和感と苛立ちに頭痛の激しさが増すハジメ。そんなハジメの耳元に唇を触れさせながら優花が囁く。

 

「大丈夫だから。何も心配いらないわ。ハジメは私が幸せにするから」

 

「……優花」

 

「……私だけを見ていて(・・・・・・・・)。大丈夫、私はここにいるよ。ハジメの理想通り(・・・・・・・・)。ずっと傍にいるから」

 

「………っ」

 

そんな優花の一言で、ハジメの何もかもが紐解けていき、目がカッと見開く。

 

「(そうか……そういうことかっ)」

 

──大切な彼女達との約束。

 

──大切な親友との友情。

 

──自分を認めてくれる仲間との誓い。

 

──殺し合い、自分を認め託していった想い。

 

そんな、自分の立てた決意を捨ててまで、自分の理想に縋るなんて………

 

「言語道断に決まってるだろっ」

 

〝優花に見える何か〟を振りほどき、ハジメは立ち上がる。

 

「(クハッ……理想の恋人? 甘く優しい世界? クソ喰らえだ!)」

 

ハジメは目元で手で覆うと、ギリギリと音がしそうなほど歯を食いしばった。そうしなければ、理想に縋ろうとしていた自分の弱さを許せそうにない。

 

「(こんな仮初の世界に縋りそうになるなんて、我ながら反吐が出るな……)」

 

気合いを入れるように、あるいは罰を与えるように、ハジメは思いっきり自分の頬を殴りつけた。ドガッと生々しい音が響く。ハジメの突然の行動に驚いた優花が慌てて駆け寄り、手を伸ばすが……

 

バッと、ハジメの振るった手に勢いよく振り払われてしまった。悲しげな表情で、自分の手を胸元を自分の手で掻き抱く優花。

 

その表情に、おそらく大迷宮が作り出した表情に、ハジメは「……ふざけやがって」と、怒りの宿った声音で悪態を吐いた。

 

「……ハジメ、どうしたのよ?」

 

不安そうな優花の問いかけを無視して、ハジメは先程までとは別人のような鋭い視線を優花に向けた。

 

「なぁ、優花。俺は何より優花が大切だ。他には何もいらない」

 

「ハジメ、嬉しい」

 

突然のハジメの言葉に優花は一瞬面食らうも、直ぐにその表情をほころばせた。だが、その言葉とは裏腹にハジメの視線は鋭いままだ。

 

「だからさ、他の何かを切り捨てろと言ったら切り捨ててくれるか?」

 

「ハジメがそう望むのなら」

 

ハジメの要領の得ないはずの言葉に、一瞬の躊躇いなく優花は頷く。

 

「たとえ、それが、ユエやシア、ティオにミュウ、そして、妙子と奈々であっても?」

 

「ハジメがそれを望むなら」

 

まるでハジメの理想を体現するかのように、ハジメの望むままを受け入れると宣言する優花。

 

そんな彼女に、しかし、ハジメは嬉しがるでもなく、むしろ苛ついたように表情を歪めた。小さく「こんなのに、縋ろうとしていたとは、情けねぇ……」と呟いている。

 

そして、鋭い視線はそのままに吐き捨てるように言葉を投げつけた。

 

「そうか、よく分かった、クソッタレ」

 

ハジメが優花を偽者と断じた瞬間、ハジメの姿が一瞬で変わる。黒髪の、日本人特有の姿が、白髪眼帯と義手の姿へと。

 

「チッ。まんまと術中にはまるとはな。これだから大迷宮ってところは油断できねぇんだ。っていうか、ハルツィナも例に漏れず碌な奴じゃねぇな」

 

悪態を吐くハジメに優花が歩み寄る。そして、縋るような表情でハジメに手を伸ばした。

 

「ここにいよ? ここにいれば、神殺しもせずにハジメはずっと幸せ」

 

「黙れよ。大概、この世界とてめぇ(偽者)は、俺や優花の記憶と人格を引き継いだ上、俺の理想を体現させるための俺を主役にするためのような舞台装置みたいなもんだろ?」

 

「!……よく、分かったわね」

 

どうやらハジメの推測が正解らしく、この世界も、登場人物達も、転移陣で読み取った記憶と人格を元に作り出されたもののようだ。そこに、本人の〝もし、こうだったら〟という、叶うはずのないIFを付け足し、より理想的な世界を作り出したのだろう。

 

確かに、奈落で味わった苦痛や、これから立ち向かわなければならない神殺しを思えば、それなくして優花達とあの平和な日本で暮らしていられるというのは理想的と言えるかもしれない。

 

だが、

 

「度し難いな。あまりに的外れで哀れになるぞ」

 

ハジメはつまらなそうにそう言うとカッ!とその体から紅い光を爆ぜさせた。透き通るような紅い魔力が一瞬で仮初の世界全てに伝播させ、それだけに留まらず、その密度を凄まじい勢いで高めていく。

 

これが試練である以上、条件はクリアしているだろうハジメは、脱出を待つよりも力尽くでぶっ壊す方が早い。

 

「どうして?」

 

理想的な世界のはずなのに、それを否定するハジメに優花が疑問の声を上げる。いつの間にか、その顔からは感情の色が抜けていた。そんな偽者の優花にハジメは猛烈な勢いで魔力放出を続けながら、ギラギラと光る眼を向けた。

 

「簡単な話だ。目の前にいる理想の優花(お前)と、現実の優花。どっちが魅力的だなんて、天秤にかけるまでもない。現実の優花以上なんて、存在するわけねぇだろ!!」

 

あっという間に魔力が限界に達し、ハジメの表情に苦しさが紛れ始める。にもかかわらず、口から出るのは惚気ともつかない雄叫び。気合い呼応するように荒れ狂う魔力は、遂に空間全体に亀裂を入れ始めた。

 

そこで、ハジメは更に〝限界突破〟を発動。

 

魔力が尽きかけているのも気にせず、底上げされた魔力を一気に放出した。

 

「他の連中もそうだ。どいつもこいつも、思う通りになんてまるでなりゃあしない厄介な奴等ばっかりだ。だが、だからこそ、俺の理想通りでないからこそ、今の俺がある。俺を繋ぎ止め、南雲ハジメという男を愛してくれた彼女達を、たかが理想如きが取って代われると思うなよ!!」

 

世界が真紅に染まる。天を衝かんばかりに噴き上がる紅い光の奔流に、仮初の世界が悲鳴を上げた。

 

そして──

 

世界が壊れた。

 

割れたガラスの破片のように、世界の欠片が宙を舞う。キラキラと光るそれらは、まるでダイアモンドダストのよう。生命が、その終わりの瞬間に一瞬輝くように、壊れた世界に満ちる光の中で、偽者の優花が微笑んだ。

 

それは、優花が見せる微笑みではない。もっと別の誰かの微笑みだ。ハジメは、その人物になんとなく心当たりがあったが、急速に沈みかけそうになる意識を耐えるのに必死だ。

 

「……合格ですわ。甘く優しいだけのものに価値はない。与えられるだけじゃ意味がない。たとえ辛くとも、苦しくとも、現実で積み重ね、紡いだものこそが貴方の幸せにするのです。忘れないでください」

 

優花のものとは全く異なる声音。女性的にも男性的にも聞こえる。だが、酷く優しい声音だ。

 

ハジメは意識が飛びそうになる寸前、声にならない声を上げた。

 

「ハッ、余計なお世話だ……けど、まぁ、覚えておく」

 

そう呟いた直後、ハジメの意識が段々と薄れていく。その時にまた声が聞こえた。

 

「攻略者……いえ、資格者南雲ハジメ。この試練をクリアした貴方には必要な記憶をプレゼントです」

 

そう言ってハジメの額に手を置いた人物は、既に霞んで姿が見えないが、優しい微笑みを浮かべていた気がしたのだった。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

少し肌寒さと手足の異様な冷たさを感じて彼は、重い瞼を上げて目を覚ました。しかし、覚醒したばかりか意識は朦朧としている。

 

「………」

 

だが、朦朧としている意識が段々と覚醒していく内に彼は自分が今、どんな状況なのかを理解していく。自身の視線の先には頑丈な鉄格子がそこにあった。そして、自分がいる場所は牢獄的なような場所だと理解した。

 

牢獄の広さは人一人は余裕で寝れることが出来るスペースがあるが、自分を逃がさないためか片方の足に金属製の鎖も取り付けられた足枷が付けられており、鎖の先には数百キロの重さの金属球が取り付けられていた。オマケに魔法封じも添えて。

 

そして、今日も彼の変哲もない日常が始まる。

 

彼の日常は、全て灰色だ。

 

時々、外に出ること以外は何も変わることのない部屋でずっと過ごすだけだ。

 

──喜びもない。

 

──怒りもない。

 

──哀しみもない。

 

──楽しさということも一切ない。

 

そんな灰色の毎日を送り続ける彼に転機が訪れたのは突然のことだった。

 

ある日、いつも通り過ごす囚人のように過ごす自分の牢獄へとコツコツっと近付く足音が聞こえた。そして、その足音は自分の部屋の前で止むと、彼は薄目で牢の向こうを見る。

 

そこに居たのは、少女。

 

「ねぇ、ねぇ、貴方がラーゼン様に創られたっていうデミ・ゴッドね?」

 

そう声をかけた少女は背中た純白の翼が生え、輝く銀の髪をしており、その容姿を見た彼は思い出す。確か彼女は、ラーゼンに救われ、双子の姉と共に此処に住むようになった天使族の少女の一人であると。だが、彼は疑問に感じた。

 

天使族は高貴な種族。色々な種族が混ざっり合って生まれた紛い物(・・・)である自分に対して嫌悪感を抱いたり、軽蔑の視線を送られることが当然なのに、彼女はそうもせず、むしろ初めて感じられた感情が込められた眼差しを送られた。

 

そして、彼女は満面な笑みで彼に手を差し伸べた……

 

「私はクリスタ。貴方と友達になりにきたの!」

 

これは、運命なのか? 若しくは必然だったのか?

 

満面な笑みで手を差し出す彼女を見て、何故か分からないが体が自然に動き、自分はいつの間に彼女と手を取り合っていた。

 

そして、そこから自分の灰色の毎日が色付き始めたのであった……。

 

七章の後にステータス紹介したほうがいい?

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