ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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ぐだぐだイベやってたら投稿が遅れました
m(_ _)m

でも、久しぶりのレイド楽しかった( *¯ ꒳¯*)


百十一話 夢から目醒めて

 

背中と後頭部に当たる冷たく硬い感触と乾いた空気。それを感じて、僅かに微睡んでいたハジメの意識は急速に浮上した。

 

「っ……ここは……」

 

頭を振りながら体を起こし、サッと周囲を確認する。

 

光源は一切なく真っ暗闇だったが、ハジメには〝夜目〟があるので暗闇は視界の妨げにならない。その結果、どうやら気を失う寸前に入った巨樹の洞と同じような、されど二回りは大きい場所にいるらしいと分かった。

 

ただ、一点だけ決定的に異なる点があった。それは部屋の中に異物があることだ。ドーム状の空間の中に規則正しく円周上に置かれているそれは、長方形の物体だった。大きさは人一人がすっぽりと入れるくら。ハジメは、まるで棺のようだと思った。ハジメが目を覚ました場所は円周上に並ぶ一つのようだ。部屋の中央は特に何もない。周囲の壁にも出入口らしきものは一切なかった。

 

ハジメは両サイドに並ぶ棺のようなそれに視線を向け、おもむろに一番近い左側のものに近寄った。

 

「っ、これは……まるで琥珀だな……って俺、元の姿に戻ってるわ」

 

思わず息を呑んだハジメの視線の先には、優花がいた。そして、起きてから気付いてなかったが、ハジメの姿は狼の姿から元の姿に戻っていた。突然であって戻ってることに驚きはしなかった。が、やっと、まともに戦えるという嬉しさが湧き上がりハジメは二ッと口角を吊り上げた。

 

「しかし、これは………」

 

元の姿に戻れた嬉しさは今は置いて、ハジメは再び棺型の箱に向き直る。視線の先の優花は、棺型の箱の中に満たされた黄褐色の物質の中で、目を閉じて静かに横たわっている。神秘的だが、確かに、琥珀の中に閉じ込められた太古の生き物を彷彿とさせる有様だ。念の為、ハジメは自分のように偽者になっているのか確かめるために〝気配感知〟を発動して、確かに優花の鼓動を感じ取れ、本物の優花だと判明した。

 

部屋の中には全部で十の琥珀が安置されている。それらを一つ一つと確認すれば、案の定、他の者達も閉じ込められていた。おそらく、巨大トレントの洞から転移、そのまま琥珀の中に閉じ込められていたのだろう。

 

先程まで見ていた泡沫の夢。

 

甘い蜜で誘い、一度捕らえれば二度と放さない食虫植物の如き仮初の世界を、きっと他の者達も見させられているに違いない。そして、あの世界から脱出できれば、現実においてめ目の前の琥珀の檻から解放されるだろう。

 

ハジメは、優花が閉じ込められている琥珀を見つめながら現状をそう結論づけた。

 

「まぁ、何にせよ、俺もティオも元の姿に戻ったのは幸いだ。後は、自力で戻ってこれるかだが……問題ないか」

 

ハジメの言葉通り、ティオもまたゴブリンの姿ではなく元の美しい姿に戻っていた。これも推測だが、巨大トレントが主を務める階層をクリアすれば自動的に戻ることになっていたのだろう。

 

ハジメは優花の琥珀に腰掛けると、目を閉じて横たわる愛しい恋人にそっと手を伸ばした。もちろん琥珀に阻まれて手は届かないが、それでも優花の顔をなぞるように手を這わせる。

 

「早く戻ってこい、優花。今、無性にお前を抱き締めたいんだ……」

 

一瞬、力尽くで琥珀を打ち破ってやろうかと物騒な発想が脳裏に過ぎったハジメだったが、それで解放できても、おそらく試練は失敗判定を受けてしまうだろうと、グッと己を抑える。

 

「……それにしても、試練の後に見せられたあの光景。……それに攻略者であって資格者、か……優花の天使の根源(クリスタ)と俺に似た誰か……何故か懐かしく思えてしまう知らない記憶。……うん、分からん」

 

ハジメは、意識が失う前に見せられた誰かによって見せられた記憶について考え込んでいると、優花の琥珀が仄かな光を放ち始めた。ハジメは触れていた手を離して一歩距離を取り、その変化を見守る。琥珀は放っていた光を徐々に収めていくと、次に端から順にトロリと溶け始めた。溶けた琥珀は、そのまま棺自体に吸収されるようにして消えていく。五分もしない内に、優花を覆っていた琥珀は完全に消えてしまった。

 

静かに横たわる優花の胸が呼吸で上下していることを確認して、僅かに残っていた緊張を解いたハジメは、直ぐに優花へ駆け寄りそっと抱え上げた。

 

いつまでも冷たい場所に寝かせておきたくなかった、というのは建前であり、ぶっちゃけ、抱き締めたかったのである。

 

ハジメが優花を抱き締めながら顔にかかった髪を払い除けていると、優花の長い睫毛(まつげ)が目蓋と共にふるふると震え始めた。そして、ゆっくりと目を開ける。

 

「優花、お帰り」

 

「んぅ……ハジメ?」

 

「ああ、俺さ」

 

優花は少しぼぉ〜っとしているようだったが、その視線は僅かたりともハジメから逸れたりしなかった。完全に意識が覚醒した後も、一心不乱にハジメを見つめていた。

 

「本物のハジメなの?」

 

「なんでそんな事を聞くのか、なんとなく理由は察せるが……それは優花が判断してくれ。今、目の前にいる俺が優花にとって本物か、それとも偽者か」

 

きっと前の階層での件と優花が見せられた夢の中に偽者のハジメが出てきたのだろう。理想を映したあの仮初の世界で、優花の心が自分を登場させたことに、ハジメは嬉しさを感じつつ判断を委ねた。

 

「ちなみに、俺は今、俺の腕の中にいるお姫様が正真正銘、本物の優花だと確信してる」

 

ハジメの言葉に、優花は一瞬キョトンとした表情をしたものの、直ぐにその意味を悟りみるみると顔を真っ赤に染めてギュッとハジメの肩を掴むと恥ずかしいのかハジメの胸元に顔を埋める。

 

ハジメもまた、夢の中で偽者の自分と出会ったのを察し、理想世界の中に自分がいるという嬉しく感じたのと反面、自分をそんなに想ってくれていて恥ずかしいのだ。

 

「どうしてそう思ってくれるの?」

 

優花は、その理由は分かっていたが敢えて聞いてみた。たとえ心が通じていても、愛しの人から言葉にしてもらった方が嬉しいのだ。それに、大切なことでもある。

 

ハジメもまた、そんな優花の心情が手に取るように分かっていた。なので、肩を竦めつつ、あっさり答える。

 

「違和感を何も覚えないからな。……俺の内側の深いところ、きっと魂が訴えているんだ。今、俺の腕の中にいるのは紛れもなく、俺の〝大切〟だって」

 

「ふふっ。私も、私の深いところが、今、私を抱いてる人がハジメって言ってるわ。それに、おかえりハジメ」

 

「ああ、ただいま」

 

そう言うハジメに、優花は目元を緩めた。そして、二人はそのまま唇を合わせてキスをした。大迷宮にいることを忘れたのか何度も互いを求め合うようにキスを始めていく二人。

 

「………」

 

「……ムッ」

 

そんな二人に嫉妬したのか先程試練を突破して起きたウサ耳少女と吸血姫が自分達が目を覚ましたのに気付かずにキスを続けている二人に駆け寄ると抱き着いた。

 

「「!」」

 

キスをしてた二人は目を見開いて、突然なことに驚きを隠せずにいる。しかし、抱き着いて来た夢から目覚めたユエとシアがぷくぅっとほっぺを膨らましながらハジメを見ている。

 

「……優花だけズルイ」

 

「そうですよぉ〜、私とユエさんだって頑張って試練を突破したのに〜」

 

そう言う二人に、ハジメは困った笑みを浮かべながらも優花を下ろしてからユエとシアを抱き締めた。

 

「おかえり。ユエ、シア」

 

「……ん、ただいま」

 

「ただいまですぅ〜」

 

ハジメに抱き締められて嬉しそうにする二人。二人も優花と同じくらいハジメと会いたかったのか、もう離さないと思えるほどギュウッと抱き着いていた。

 

「お前達も、無事に試練を越えたんだな」

 

「ふふ、当然ですぅ」

 

「……ん、ハジメはどんな夢だったの?」

 

「あ、それ、私も気になる」

 

三人から、どんな世界を見ていたのかと問われたハジメは、敢えて誰かの記憶のことは隠して、自分の理想世界だけの事を話した。

 

「あー、俺は、この世界に召喚されず、お前達と日本で幸せに暮らして平和な日常を送っているたいという理想の世界だったな。……おそらく、過去の大きな苦痛を伴う出来事をなかったことにして、その上で今ある幸せを組み込んだんだろうな。ご都合過ぎた世界だったが、久しぶりに優花の制服も見れたし、ユエとシアの制服姿も似合ったし、ティオのOL姿とかも見れて、ある意味幸せだったな。シアなんかウサ耳の代わりにカチューシャ姿で新鮮だったし」

 

「……ん。いつか着てあげる」

 

「ほへぇ〜。カチューシャ姿ですか」

 

「久しぶりって……まぁ、トータスに来てからは全然着てないけどさー」

 

ハジメの話を聞いて、それぞれの感想を述べる三人。そんな中、ハジメはウサ耳をピコピコと動かすシアを見て、感慨深そうな表情で口を開いた。

 

「うん。やっぱりシアにはウサ耳がないとな。ウサ耳あってのシア。ウサ耳なくしてシアに非ず。むしろウサ耳がシアだな」

 

「いえ、意味が分かりませんからね?断じてウサ耳が本体ではありませんから。ハジメさん、そんなにカチューシャ姿の私って違和感あります?」

 

「ウサ耳無しのカチューシャ姿のシアか〜。……うーん……それってシアなの?」

 

「……ん? それってシア?」

 

「あの優花さん、ユエさん。確かにウサ耳は私のアイデンティティと言っても過言ではありませんが、なくても私は私ですからね?」

 

シアは三人の反応になんとなく危機感を覚える。もしや、自分よりウサ耳の方が愛でられてやしませんか?と。

 

微妙な表情になるシアを宥めながら、次は優花が自分の見た世界を話す。

 

「まぁ、私の理想世界は、ハジメと余り変わんないと思うけど……」

 

優花の理想世界は、ハジメと同じように召喚されず、皆と平和な日常を送る日々だったらしく、優花はシアと一緒にユエの料理を改善などをやってたらしい。

 

「皆、ウィステリアの制服を着てて仕事してたわ」

 

「ほぉ、ユエとシアのウィステリアの制服姿……アリだな」

 

「いつか着てあげる」

 

「楽しみに待っててください!」

 

「ああ、そうしてるよ」

 

そんな優花の話が終え、次にユエが自分が見ていた世界のことを話し出した。

 

ユエはかつての国が滅びず、裏切りもなく、優花やシア、ティオなど新しい家族にも恵まれ、更にはハジメを迎えたという夢だったらしい。

 

「……ハジメの礼服と玉座が死ぬほど似合ってた」

 

「すまん。礼服はともかく玉座は無理だ。っていうか、なんでそんな玉座?」

 

「……王妃スタートだった。既に、私だけで子供は十一人いた」

 

「どこまで進んでんだよ?!てか大家族!! うちの子だけでサッカーチーム作れ……だけ?」

 

ユエの話しに驚愕の眼差しを向けるハジメ。優花とシアは話のスケールさに苦笑いをこぼしている。しかし、ハジメはユエの言葉に引っかかりを覚えた。ユエはなんと言った?私だけで(・・・・)、と口にしたはずだ。

 

もしかして、と思わずハジメはバッとユエへ視線を向ける。すると、ユエもハジメが思ってることを察したのか、唇にペロリと舌を這わせ、艶やかな眼差しを向けていた。

 

「……優花達のも合わせて五十五」

 

「やっぱりかよ!」

 

ハジメの叫びは虚しく、ユエの言葉を聞いた優花とシアは無言ながらも、少し頬を赤くしてソワソワと落ち着かなさそうに自分の指をイジっていたのだった。

 

「最後は私ですね!」

 

ユエの話から少し各々、気を取り直して次はシアが自分はどんな世界だったか話し出した。

 

シアの理想世界は、樹海から逃げ出した直後に帝国兵に襲われて亡くなった家族が健在している世界だったらしい。そこには幼少期に無くなったはずのモナもいて、誰一人欠けていない家族と、そしてハジメと優花達と、幸せな日常を送るというものを見させられていたようだ。

 

「ホントに幸せなことを詰め込んだ世界だな……」

 

「今思うと、ホントに違和感ありまくりね」

 

「……シアはどうやって?」

 

どうやって、理想世界から抜け出したかという質問に、シアはにこやかに笑いながら返す。

 

「それはもちろん、今の自分を否定するなんてできませんし、したくありませんでしたから、こんな世界嫌ですぅ!!家族を利用しやがって、ふざけんなーーって」

 

「……なるほど」

 

納得顔のユエ。ハジメと優花もどこか優しい表情で頷く。

 

シアの夢の中では、彼女は昔のように弱いままだったのだろう。シアはそれを良しとしなかったのだ。

 

「夢の中では、家族が追われる前にハジメさん達と出会っていた上に、一緒に暮らしていることになってましたからね。私はただ守られているだけで良かったんです。でも、そうじゃない! そんな弱さを許容するような生き方であの人達の傍にいられるわけない!って心の奥がそう叫ぶんです。この幸せな日々が段々と違和感が広がって……気が付けば戦うことを選択してました。ハジメさん達の隣で」

 

「それで戻ってこられたわけか……」

 

「はいです! これからも、私はハジメさん達の隣に(・・)並んでいたいですからね。その道が痛みを伴うものであったとしても」

 

そう言ってニッと笑うシアを見て、本当にたくましくなったと思うハジメは感慨に耽った。出会った当初は、負け犬ならぬ負け兎集団の一人に過ぎなかったのに、ハジメ達に並び立ちたいという思い。特にハジメに対しては愛故なのだ。

 

ハジメは、そんなシアが愛おしくなったのか、なんとなくシアを抱き寄せると彼女の頭を優しく撫でる。

 

傍らの優花とユエは、そんなハジメの心情を察しているのか慈しむ表情をしている。

 

「え、えっと、ハジメさん?」

 

「スマン、少しの間こうさせてくれ」

 

「ぁ………はいです!」

 

ハジメの抱き寄せる力の強さと抱き締められて感じるハジメの想いに、シアはふにゃりと笑った。照れくさそうなこれ以上ないほど幸せそうな、見る者を魅了する笑顔だ。

 

いつも通り、ハジメが、右に優花、左にシア、膝上にユエを抱きつかせてほのぼのとそれぞれの夢を語り合っていると、再び二つの琥珀が輝き出した。また二人、甘い誘惑の夢という名の牢獄を打ち破り現実へと帰ってきたようだ。

 

「あの、二つの琥珀は、確か……」

 

ハジメが呟くと同時に、ユエが、魔法で出していた灯りの光量を上げて、今まさに解放された二人の人物を照らし出した。

 

僅かな間の後、

 

「ふぅ………おや、現実に帰ってこられましたかな」

 

「ふむ。妾達が最後となるとは……不覚じゃな〜」

 

「アレス、ティオ!」

 

そう言って、起きる二人は、金髪を揺らす神官服を着た男──アレスと、もう一人は黒い着物に身を包んだ女性──ティオであった。ハジメの声が聞こえた二人は、バッと振り返るとティオは、ハジメとの視線が合うと嬉しそうにこちらへと駆け寄った。アレスもそれに追従する。

 

「ハジメ! 会いたかったのじゃ!」

 

「ティオ!」

 

走ってきて、勢いよく飛び込むティオを優しく抱きとめたハジメ。そして、彼女の背中に手を回す。そして、彼女の笑みを見て、何かを感じ取ったハジメ。首を傾げてるとティオを追従していたアレスもハジメ達と合流する。

 

「ハジメ殿や皆さんも試練を突破したことは何より」

 

「アレスさんも、お疲れ様です」

 

「……ん、お疲れ様」

 

「お疲れ様ですぅ〜」

 

「おう、随分と遅かったじゃねぇか」

 

アレスの帰還に嬉しさを見せるハジメ達。それもそうだアレスも立派なハジメ達の大切な仲間なのだから。そして、アレスはハジメの言葉に困った笑みを見せる。

 

「アハハ〜。いや、彼女を引き合いに出されると何故か弱くなちゃって手こずってしまいましたね……」

 

そう言って話すアレス。詳しく聞くと、神殺しなくてよくて、追放されず王国で自分の幼なじみの女性との幸せな日々が続くという理想世界を見せられたらしい。

 

「へぇ……アレスにも弱い部分があるんだな」

 

「ええ、昔から彼女(ヘリーナ)には何故か強く出れないんですよ私。先日も別れ際にぶたれましたし……」

 

そんな会話をするアレスとハジメを見て、女性陣は「ハジメも私達には強く出れないのにね……」「……ん、それにぶたれたのはアレスが悪い」「そうですよぉ。ヘリーナさんが可哀想ですぅ」「そうじゃな、彼奴の女性に対する鈍感さは一級じゃしのぅ」と自分達の恋人と女心に対して鈍感を極めているアレスにジト目を送る四人。

 

「しかし、妾もハジメも魔物の姿から元に戻れたのは幸いじゃな」

 

「……」

 

アレスの話を一旦置いてハジメの隣に座って、ハジメも自分も元に戻れてよかったと話すティオ。しかし、ハジメはジッとティオの表情を見る。

 

「ん? なんじゃハジメよ。妾に何か付いておるかの?」

 

ハジメの視線が気になって自分の衣服を見たり、髪を触るティオ。しかし、ハジメは一拍おくと溜息を吐いた。そして、くしゃりとティオの頭を撫でた。キョトンとするティオにハジメは言う。

 

「無理に笑うな。見て、直ぐに分かったぞ。俺、は心から嬉しそうに笑っているティオが見たい。まあ、なんにせよ……お帰り、ティオ」

 

ティオは、大きく目を見開いた。そして、直後には「参った」と言わんばかりに目元を覆うと、「……うむ。ただいまじゃ。ハジメ」と、ほんのり染まった頬を隠したいのかハジメに抱き着いて顔を埋めながら応えた。ハジメも目元を和らげティオの背に手を回した。

 

それで、優花達も察したようだ。

 

ティオが、長きを生きる竜人族であり、それすなわち、この中で誰よりも、多くのものを見て、聞いて、経験してきたのだということ。そして、最も自分が生まれ、愛した国が目の前で無残に滅ぼされたのだ。

 

〝こうであったなら〟──一体何度、彼女はそう思ったのだろう。

 

ティオにとって、大迷宮で見せた理想世界は、それは長い時の間に失った全てが詰まった、まさに宝物のような世界であったのだろう。

 

目覚めた時、少し間があったのは、溢れんばかりの想いを胸の奥に押し込めたから。いつものような素振りをして、それを覆い隠そうとしたのだろう。

 

ハジメは、そんなティオの隠そうとした感情に目聡く気が付いたのだろう。

 

「お帰り、ティオ」

 

「ティオさん、お帰りなさい」

 

「……ん。お帰り、ティオ」

 

「私は、同時に起きましたが……お帰りなさい、ティオ殿」

 

なんだやたらと照れてしまってハジメに抱き着く力を強めるティオの姿を見たハジメ達はほっこりした気持ちで笑い、そんなハジメ達に対して「っ〜〜〜!!」と声にならない声を上げながら、ますます頬を赤らめたティオであった。

 

「まぁ、なんにせよ、俺達の方は全員帰還できたわけだ」

 

「ですね。それで勇者さん達はどうしますか?」

 

シアがホッと肩の力を抜きつつ、そう尋ねる。視線は光輝達が収められている琥珀に向いていた。

 

「そうだな……。最終的には琥珀をぶっ壊して助け出すしかないだろうが、取り敢えず、自力で脱出できるまで待ってみるか。でないと、ここに来た意味がないからな」

 

「どれくらい待ちます?」

 

「飯食って、一休みしたくらいの時間でいいんじゃないか?俺の場合、普通に突破してただろが、ついカッとなってな。力尽くであの世界をぶっ壊したから、魔力が二割ほどしか残ってないんだ。ちょっと休みてぇ」

 

「……何してるんですかぁ」

 

「あの、世界を魔力だけで……凄いですね」

 

シアがハジメに呆れた視線を向け、アレスは理想世界を壊す程の魔力を持つハジメに驚いていた。対してシアに呆れた視線を送られてるハジメは非常に渋い表情にとなる。

 

「反省はしてる。この大迷宮に挑み始めてから、どうも俺もお前達も短絡的な行動が多くななっている」

 

「あ〜。それは、まぁ、私達もハジメさんをダシに使われてばっかでしたから」

 

「だが、言い訳はできねぇ。ある意味、弱点になりかねないからな。難しそうだが、この機会に克服しておこうと思う」

 

殊勝な態度を見せるハジメにシアが感心したような眼差しを向けた。そして、何かを思いついたように、優花の聖杭に乗って楽しそうなユエと、少し一休みしているアレスとティオをの横目に、小声でハジメに尋ねた。

 

「あの、ハジメさん?」

 

「ん?」

 

「もし、私がハジメさんやティオさんと同じことになったら……怒ってくれます?」

 

視線は逸らしているが、ウサ耳がばっちりハジメの方を向いている。自分をダシにされた時に、ハジメは自分達ように怒ってくれるのかと、ちょっと聞いてみたくなったのだ。

 

ハジメは、揺れる瞳でチラチラと見つめるシアを見て、困ったように笑みを浮かべながらシアを抱き寄せた。

 

「当たり前だ。優花も、ユエも、シアも、ティオも同じだ。理想じゃない。今、俺が抱き締めているシアがいいんだ」

 

「あ……えへへ〜、そうですかぁ」

 

嬉しそうに、それはもう嬉しそうに微笑みながらシアはウサ耳をパタパタ、ウサシッポをフリフリとする。愛らしいシアの仕草にハジメの手も自然に伸びてモフモフ。

 

その後、うっかり聖杭の操作を間違えた優花が、ユエが乗る聖杭が壁に激突して、頭にコブができてしまったり、優花があわあわとユエの元へ駆け寄ったり、ティオは完全に就寝したり、アレスはロンギヌスの手入れをしたりして、食事も取りつつ光輝達が解放されるのを待ったが、体感で三時間ほど待っても出てくることはなかった。

 

「そろそろ潮時か……」

 

「うん。これ以上、待ってられないし」

 

「……ん。確かに」

 

「ですね。……区切りをつけないとキリがないですし」

 

「八重樫君なら突破できると踏んでましたが……時間が惜しいですし、仕方ありません」

 

ハジメが琥珀を見つめながら、遂に強制脱出を切り出す。優花、ユエ、シア、アレスも、そろそろ仕方ないかと同意を示した。

 

「俺も八重樫なら越えれると思ったが……」

 

ハジメとしては、あの時の雫達の覚悟を見て、どうにか大迷宮を攻略して神代魔法を手に入れて欲しかった。一つ神代魔法があるだけで生存率も強さも段違いに上がる。神殺しのためにも雫達には十分な戦力に育って欲しいと思っている。が、流石に待ってはいられない。

 

少し残念そうにしながら、ハジメは一歩前に出た直後、逆に琥珀の一つが輝き出した。

 

「あの琥珀は……雫!」

 

「やっぱり、八重樫は突破したか」

 

「ふむ、雫はしっかり者だからの。順当といえば順当じゃな」

 

溶け出していく琥珀を見て、優花が駆け寄る。雫は少し呻き声を出しながらも直ぐに目を覚まし、優花に支えられながら体を起こした。

 

「ここは……優花?」

 

「うん、私。お帰り、雫」

 

「そう、戻ってきたのね。ふぅ。なんだか凄く疲れたわ……」

 

気怠げに深々と溜息を吐く雫だったが、何かを振り払うように頭を振ると優花に微笑みかけ「ただいま」の言葉を口にした。

 

そこへハジメ達も寄ってくる。

 

「随分な寝坊だな。だが、乗り切れたようで何よりだ」

 

「へ? あ、な、南雲君……そ、そうね。何よりだわ。後、姿も戻ったのね」

 

「え、ああ」

 

何故か、ハジメが声をかけた途端、妙に視線を彷徨わせ言葉に詰まる雫。そんな雫の様子を見て、優花達が訝しげな表情になる。雫は動揺を隠すように一回咳払いすると、僅かに赤く染まっている頬を隠すように左右を見回した。

 

「……光輝達はまだのようね」

 

「ええ、私達は数時間くらい前には出ていたんだけど、脱出できたのは、まだ雫だけよ」

 

「そう、厄介な試練だものね。随分待たせちゃったわ。ごめんなさいね?」

 

「気にしなくていいですよ、雫さん。脱出おめでとうです。それで、ちょっと聞きたいんですけど……」

 

「ありがとう、シア。ええ、何かしら?」

 

シアの言葉に嫌な予感がビンビンに働くのを感じながら、雫は努めて冷静さを心掛けににこやかに応答した。しかし、実際に質問を実行するのはシアではなく、いつの間にか傍らに移動していたユエの方だったらしい。

 

「………」

 

「な、何かしら」

 

「………」

 

「えっと、無言で見つめられても困るのだけど……ユエ?」

 

ユエは、何故か雫の傍らからジッとその瞳を見つめている。無言・無表情で瞬きもせずジッと、ジ〜〜ッと見つめている。至近距離で、自分を見つめるビスクドールの如き美貌は物凄く迫力がある。可憐な容姿なのに、頗る付きのジト目というのも、動揺せずにいられない。

 

視線を激しく泳がせてしまう雫。

 

ユエは、何かを確かめるようにより一層、雫の瞳に覗き込んだ。

 

そして、不意に尋ねる。

 

「……雫、どんな夢だったの?」

 

「え? どんなって、普通の夢よ。なんの変哲もない、ええ、それはもう普通の夢だったわ」

 

「……普通? 誰が出てきた?」

 

「誰って、みんなよ。みんな出てきたわよ」

 

「……そう」

 

雫は真っ直ぐにユエを見返しながら、動揺なんて欠片もしていませんというようにしっかりと答えた。もっとも、答えの内容がどうにも抽象的でふわっとしたものばかりだったのが、雫の内心の状況を表している。

 

ユエはもちろん、鈍感組二人以外のメンバーもそのことには気が付いていたが、雫が話したくなさそうな雰囲気をこれでもかと晒し出していたので、取り敢えずそっとしておくことにした。

 

あっさり引くユエ達に、あからさまにホッとしたような表情をする雫。ちょうど部屋の中央でお茶の用意をしていたところなので、疲れた表情の雫を連れてティータイムということになった。

 

その際、雫が、

 

「……私がお姫様とか有り得ない。大体、王子役がなんで彼なのよぉ……」

 

などとブツブツと呟いていたのだが、それが聞こえていた者はあまり(・・・)いない。それから更に数時間、雫の精神的な疲れも十分に回復した時点で、未だに戻ってこない光輝達の強制脱出が決定された。流石に、これ以上攻略を先延ばしにすることはできなかった。

 

ハジメは三人が眠る琥珀の前に立つと、アレスでもギリギリ見える程度の早さの手刀で目の前の琥珀の表面だけを綺麗に切り裂いた。見事な早業に優花達から「おおー」と拍手と歓声が響く。

 

そうして、全ての琥珀が破壊され、後には規則正しい呼吸を繰り返す光輝達が残った。正規の手順での解放ではないため、心配して駆け寄る雫と後遺症がないかとハジメに調べて欲しいと頼まれて容態を確認してきた優花だったが……その心配は杞憂だったようだ。

 

「……あ? あれ、雫? 園部さん? ここは? 俺は皆と……」

 

「んあ?どこだ、ここは? 俺は確か…… 」

 

「え? そんな恵理はっ、恵理……」

 

そう時間を置かずに三人は目を覚ました。

 

それぞれ直前まで見ていた夢から、いきなり薄暗い穴ぐらへと場面が切り替わったようで少々意識が混乱が見られるようだ。

 

特に、鈴に至っては虚空へ必死に手を伸ばしている。何を求めて手を伸ばしたのかは、その言葉から明らかだろう。おのずと夢の内容も推測できる。己の夢想も振り切れなかったのも無理からぬことかもしれない。

 

鈴の有様に、雫と優花が悲痛な表情になる。いつも元気に笑っていても、やはり、あの手痛い裏切りは彼女の心に深い傷を作っていたようで、その傷は、きっと今も血を流しているのだろう。

 

「三人共、大丈夫?」

 

「谷口さんも平気?」

 

雫と優花の呼びかけで、ようやく、先程まで見ていたのが夢だったのだと理解した三人は、しばらく呆然としていた。

 

しかし、その後の反応はバラバラだった。

 

龍太郎は、どこかガッカリしたような雰囲気を漂わせつつも、直ぐに「まぁ、しゃあねぇか」と恥ずかしげな表情で頭を掻き、光輝は暗い表情で拳を震わせている。鈴は、直ぐに誤魔化すように笑みを浮かべたが、その笑顔はあまり痛々しかった。むしろ、雫の方が耐えられず、鈴を抱き締めたほどだ。

 

だが、大迷宮は、彼等に己と向き合う時間を与えるつもりはないようだった。にわかに、部屋の中央に魔法陣が出現した。

 

どうやら、全員が琥珀から脱したことで次のステージへ強制的に送られるらしい。

 

「天之川、谷口。省みている時間はないぞ。備えろ。でないと、お前達の望みは本当の意味で潰えることになる」

 

「っ……ああ、、分かってる」

 

「う、うん。そうだね!」

 

次の瞬間、魔法陣の光が爆ぜ、またもハジメ達の視界を塗り潰したのだった……。




次回の投稿は、今回よりかは早くすると思います……(´・ω・`)

七章の後にステータス紹介したほうがいい?

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