ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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百十二話 スライム

 

ハジメ達が転移した場所は最初と同じ樹海の中だった。だが、最初のどこに向かえばいいのか見当もつかないような広大さもなく、天井も向かうべき目標も見えていた。

 

どうやらこの場所、かつての【オルクス大迷宮】の密林地帯と同じく、極めて限定的な地下空間に存在しているらしい。

 

見れば、他の木々がほぼ同じ高さであるのに対して、空間の一番奥には一際巨大な樹がそびえ立っていた。セオリーからして、新たな転移陣のある場所だろう。

 

「今回は全員いるみたいだな」

 

ハジメとアレスが目を細めながらメンバーに視線を巡らせる。また転移先で何かされるんじゃないかと疑っていたのだが杞憂だったようだ。

 

「偽者はいなさそうね……」

 

「ええ、私も、皆さんの魂を見ましたが全員本物ですね」

 

「アレスさんがそう言うなら大丈夫ですね」

 

大迷宮のトラップを警戒していたらしいシア達が、一様にほっと肩から力を抜いた。

 

鬱蒼と茂る樹海と、遠くに見える巨樹を見て、ハジメが号令をかける。チラリと肩越しに振り返れば、未だどこか表情に影を差している光輝と鈴の姿があった。

 

鈴の方は分かる。親友との全てが幻想だったと突きつけられ、殺されかけたトラウマは、そう簡単に割り切れるものではない。夢の世界が、むしろ心の傷を抉ったなら、容易に調子を取り戻せないものも無理はない。だが、光輝の方は一体何を見たというのか。暗い影を宿す瞳、何かを堪えるように努めて表情を消す有様から、酷く危うい印象を受ける。原因は、夢の内容か、それとも〝また試練を攻略できなかった〟ことか。

 

とはいえ、ここは大迷宮。殺意高めの魔境だ。ほんの一秒後には絶体絶命の修羅場に陥っても全くおかしくない場所なのだ。いつまでも引きずっていては命に関わる。

 

「天之川、谷口。お前等、進む気あんの?」

 

「なっ、あ、あるに決まってるだろ!」

 

「え? あ、あるよ!」

 

ハジメの鋭い眼光が落ち込んでいる二人に突き刺さる。辛辣とも言える言葉はともすれば追い討ちのようで、仲間思いだが短気でもある龍太郎が目尻を吊り上げた。

 

しかし、龍太郎が何か言う前に、ハジメの鋭い眼光が龍太郎の方に向き、気圧されてしまう。そして、ハジメは龍太郎から視線を二人に戻すと言葉を続ける。

 

「ここは大迷宮だ。一歩踏み込んだ先、一秒後の未来、そこに死が手ぐすね引いて待っているような場所だ。集中できないなら、攻略は今ここで諦めた方が良い。……死ぬぞ」

 

「ま、待て、俺は………」

 

「何をどう言い訳したところで、さっきのクリアできなかったという事実は変わらない。なら、最低でも必要なのは、残りの全て踏み越えてやるという決意じゃないのか? 今のお前等にはそれが見えない。気概のない奴は、ただの足手まといより質が悪い」

 

「…………」

 

「可能かどうかは分からないが、できそうなら大迷宮の外までゲートを開いてやるし、使えなくても、俺達が戻ってくるまでの待機場所として結界くらいは敷いてやる。進むか引くか、今決めろ。惰性で進むことは俺が許さない」

 

辺りが静寂が包む。光輝はギリギリと歯を食いしばり必死に憤りを抑えているようだ。しかし、それはハジメに対しての怒りではなく、そんなことを言わせてしまった自分自身への怒りのようだった。

 

落ち込んで集中を欠いていても、アレスや優花、ユエ、シア、ティオ、そしてハジメといった自分より遥かに実力が上である強者(つわもの)達がいるのだから大丈夫だろうと、無意識の内に甘えていた事実に気が付いたのだ。

 

ハジメの考え方や性格や価値観が気に食わなくて、ハジメを否定できるくらい強くなりたくて、アレスやハジメに説得して、半ば無理やり大迷宮攻略に随伴したのに、帝国で相対した神オルステッドを見ただけで恐怖し、その覇気に怖気付き何も出来なかった自分に対して、ハジメは恐怖せず戦い、神の一柱に勝利したあの姿を見て、その強さに、甘えてしまった。光輝は、自分を殴ってやりたい心境だった。

 

しかし、今ここで激情を発散しても、それもまた、光輝の答えを待っているハジメに対しての甘えだ。光輝は何度も深呼吸をして空気と共に胸の内のモヤモヤを外に吐き出すと、パンッと音を立てて自分の頬を叩いた。

 

「南雲。もう大丈夫だ。俺は先に進む!」

 

目に力が戻っている。それを見て、横目で振り返りながら光輝を見るハジメは小さく笑みを浮かべてから、軽い感じで頷くと視線を鈴に移す。

 

鈴は、一瞬ビクッと体を震わせるが、光輝を真似て自分の頬をバチッと叩く、直ぐに決然とした表情を見せて頷いた。

 

「鈴も行く。やる気十分だよ!」

 

「そうか。ならいい。集中を切らすなよ」

 

ハジメはそれだけ言うと、さっさと先頭を歩き出した。

 

龍太郎が光輝の肩をバンッ!と強く叩く。龍太郎なりの気遣いに、「痛いって」と軽口を叩きつつ、光輝は苦笑いを浮かべる。鈴の方も、雫の励ましで、いくらか影の取れた笑みを浮かべた。

 

そんな光景をハジメ達の後ろから見守っていた。アレスは、ハジメの辛辣と言える言葉だが、中身は二人を想っての言葉であることに「ハジメ殿は、優花殿達の世界で言うツンデレなのですね……」と呟きながら苦笑いを漏らしたのだった。

 

 

巨樹を目指して真っ直ぐ進むハジメ達。

 

樹海は、虫の鳴き声一つ聞こえない静寂で満ちている。風すら吹いていないので葉擦れの音すら聞こえない。ハジメ達が草木をかき分ける音がやけに大きく響いた。

 

「う〜む。なんとも嫌な感じじゃの」

 

「……ええ。大迷宮で待ち伏せされた時みたい」

 

「確かに……魔物気配も全くないものね」

 

ティオが眉を顰めてポツリとこぼすと、優花も雫も魔人族の男──ウィリス・アルクの奇襲に遭った時のことを思い出したようで、緊張感と警戒心に満ちた鋭い視線を周囲に飛ばす。

 

「ハジメ殿はどうですか?」

 

「一応、アラクネを先行させているんだが特に何もないな。このまま何事もなくとは流石にいかないと思うが………」

 

後衛を務めるアレスの言葉に返事をしながら、ハジメは、偵察用に送り出した多目的型ゴーレム〝アラクネ〟からの映像を確認していた直後だった。

 

「………ん、雨か?」

 

「ほんとだ。ぽつぽつ来てるね」

 

突然、頭上から感じた水気に顔をしかめる。それに鈴が手をかざしながら同意する。が、次の瞬間、総毛立った。気付いたからだ。

 

この場所で、雨が降るなど絶対に有り得ない(・・・・・・・・)と。

 

「チッ。ユエ、頼めるか?」

 

「……んっ。───〝聖絶〟」

 

ハジメが、その異常性にいち早く反応しユエに呼びかける。ユエは阿吽の呼吸で障壁を展開した。

 

直後、ザァアアアアッと、スコールじみた激しい雨が降り注いだ。

 

際どいタイミングで間に合ったユエの〝聖絶〟が雨の侵入を防ぐ。だが、誰も安心などしなかった。むしろ、その表情はますます強ばっている。

 

当然だろう。降り注ぐ〝それ〟は、障壁の表面をどろり(・・・)と滑り落ちていくのだから。

 

どう見ても雨水じゃない。

 

毒物か、それもそういう魔物か。果たしてその正体は……

 

「南雲君、周りがっ」

 

この状況でも冷静に目を凝らして障壁の外を注視していた雫が、緊迫した声音でハジメを呼ぶ。その視線の先には、木々、草、地面、あらゆる場所からにじみ出てくる乳白色の何かの姿があった。

 

「スライムか?クソッ。気配遮断タイプにしても、魔眼石にすら感知されないなんてどんな隠密性……アレス、ティオ、これ知ってるか?」

 

「隠密性の高い乳白色のバチェラムですか……すみません。知らないですね」

 

「すまん、ハジメ。妾も分からぬ」

 

「南雲! 足元からも来たぞ!」

 

ハジメが自分にすら気付かせない隠密性と、自身や、アレスとティオに聞いても分からないスライムに内心で舌打ちしていると、足元の地面からも乳白色のスライムが噴き出してきた。〝聖絶〟は、球状の全方位型障壁であるから地面の中まで防御可能だが、最初から内側に入っている部分の地面は別だ。地面に潜んでいた乳白色のスライムは障壁の内側からハジメ達を強襲した。

 

「きゃっ、このっ───〝炎爆(えんばく)〟!」

 

突然、足元からドバッ!と飛び出した乳白色のスライムに、膝下まで呑み込まれた優花が急いで中級火属性魔法〝炎爆〟を発動する。

 

最小限にまで抑えた爆発域に引き換えに熱量を上げた〝炎爆〟は、周りへの被害を考え、威力をより高めた爆熱によって塵と化していく乳白色スライム。スライムの典型的な攻撃といえば、物理攻撃に強い特性を活かして接近し、体内に取り込んで溶かしてしまうというものだが、どうやら溶かされる前に完全に排除できたようだ。

 

「オラッ。引っ付くんじゃねぇ!」

 

龍太郎が、背後からガバッと面積を広げて覆い被さろうとしてきた乳白色スライムに拳を叩きつける。籠手型アーティファクトの効果で浸透勁にも似た衝撃が伝わり、波打った乳白色スライムは爆散したように飛び散った。

 

「ちょっ、バカ、龍太郎! こっちにも飛び散ってきただろう!」

 

「この脳筋! 思いっきりかかったじゃない!」

 

「お? すまん、すまん!」

 

「うぇ〜。ネチョネチョだよぉ。気持ち悪いよぉ」

 

光輝と雫が、豪快かつ傍迷惑な龍太郎の倒し方に抗議の声を上げた。べっちょり被ったらしい鈴が半泣きになっている。

 

「全く、大丈夫か、しず───」

 

「ええ。大丈夫よ、光輝。こいつら案外簡単に死ぬわ……ってどうしたの?」

 

「えっ、いやっ、なんでもないぞ! ああ、なんでもない!」

 

「?」

 

大迷宮の魔物にしては随分と脆い。そのことに違和感を覚え警戒しつつも、雫は、光輝の慌てた様子に首を傾げた。

 

光輝は、視線を逸らしたまま。雫を見ようとはしない。それどころか、鈴の方へも視線を向けない。そこら中の地面から乳白色スライムが溢れ出しているのに、前だけを向いている。

 

そんな光輝に、スライムに向けるもの以上の不審顔を向ける雫だったが、結局、今はそれどころではないと、黒刀(八咫烏)の電撃能力〝雷天(らいてん)〟を上手く使いながら乳白色スライムを駆逐していった。

 

なお、光輝が動揺した原因だが、それは乳白色スライム──もとい、その体を構成するどろりとした乳白色の粘液にあったりする。

 

それを、雫も鈴もしこたま浴びてしまっているのだ。

 

光輝が何に反応してしまったのかは言わずもがな。雫と鈴の見た目は非常に不味いことになっていた。本人達は気付かないようだが………

 

当然、それは優花達も同じことだった。

 

優花は、乳白色スライム達を塵へとさせながら、聖杭を駆使したりして、自分に飛びかかろうとするスライムを聖盾などで身を守っているが、最初の雨と地面から噴き出した分にやられて、それなりに液体が付いてしまっている。

 

ユエは、〝聖絶〟を展開しながら襲い来る乳白色スライムを焼き滅ぼしており、倒したスライムの飛沫が付くことはなかったが、最初の雨の分は頬や首筋についてしまっている。

 

シアも、龍太郎と同じように覆い被さろうとしてきた乳白色スライムをドリュッケンの〝魔衝波〟を発動して吹き飛ばしてしまったので、飛び散った分が付着してしまっている。

 

そして一番見た目が不味いのは、自分に襲い来る乳白色スライムを対処をしていると、近くにいたシアが吹き飛ばしたスライムの飛沫をもろに浴びてしまったティオである。別にシアがティオを狙ったわけではなく、こればかりは運が悪かったとしか言いようがないのだが、まるでバラエティ番組のパイ投げのように正面から顔面に浴びてしまったのだ。

 

今のティオは、その艶やかな黒髪と黒を基調とした和服風の衣服を乳白色スライムでどろっどろにしている状態だ。絵面的に完全にアウトだった。

 

一番被害が少なかったのはアレスだった。スライムの色を見て、瞬時で察し、女性陣の為に後衛であることを活かし後ろに振り返って乳白色スライムを対処していた彼は、自分の周り全体に〝聖絶〟を発動して地面から噴き出してくるスライム達の侵入を阻止し、飛沫が飛び散っても心配ない。もっとも、最初の雨で肩や頬に付いてしまっている。

 

飛びかかってくる乳白色スライム相手に、体全体を覆うように〝纏雷〟を展開することで、早々にスライム限定で無敵状態になっていたハジメは、取り敢えず優花達の姿を光輝と龍太郎の目に入る前に、目潰しをしておこうかと物騒なことを考える。しかし、乳白色スライムの脆弱性という不審な点がある以上、まだ何が起こるか分からない。流石に、この状況で味方二人の視覚を奪うわけにはいかないだろうと自重する。

 

「(万が一見られたら、後で記憶が飛ぶまでタコ殴りにしようか……なんてな)」

 

ハジメは冗談でそう思っているのだが、直後、光輝達がビクリッと体を震わせた。本能が危機を感知したのか、今のところ、優花達の方へ視線を向ける素振りはない。

 

そうこうしている内に、障壁内の乳白色スライムは、あっけないほどあっさりと掃討することができた。それを確認して、今や〝聖絶〟の外側をびっしり覆い尽くしている乳白色スライムに視線を向けるハジメ。内壁に近寄ると、障壁の外へクロスビットと円月輪を転送した。

 

「こいつはまた凄まじいな………」

 

クロスビットを通じて魔眼石で見た外は、言葉通り、凄まじい量の乳白色スライムで溢れ返っていた。天井からは、今なおスライムが豪雨となって降り注いでいる。地上で波打つスライムの群れは、まるで乳白色の海のようだ。

 

ユエやアレスのように上級の防御魔法を即時発動できるような者がいなければ、あっという間に呑み込まれて終わりだったかもしれない。

 

「ユエ、アレス。結界の強化を頼む。俺が全てを焼き滅ぼす」

 

「……んっ。任せて」

 

「了解しました」

 

ハジメは二人の返事を受け取ると、クロスビットを七機を同時に操作して一気に上空に飛ばした。

 

「南雲の奴、何をする気だ?」

 

「何か、ヤバそうなのは分かるわ」

 

「鈴もそう思ってきたよ」

 

龍太郎がハジメが何をしようしてるのか分からず首を傾げ、雫は、絶対に録なものではないと察知し、鈴もそれに賛同している。ちなみに先程から天を仰いでいる光輝は、優花達の姿をチラッと見てしまい、ハジメからのお仕置きが確定したのだと思い、絶望しているのだろう。

 

『優花、火属性魔法でスライムを取ってやってくれ。絵面的によろしくないからな』

 

突然の念話に驚く優花。「どうして、わざわざ私にだけ念話を?」と首を傾げるが、〝絵面的によろしくない〟というハジメの言葉で、直ぐに意図を悟った。

 

そして、改めて自分達を見て「確かに、これはね……」と一気に赤面となりながら苦笑いを浮かべる。ハジメがわざわざ念話をしたのは、未だ自分の見た目の不味さに気が付いていない雫達に配慮してのことだ。男であるハジメが指摘するのは、色々な意味で悪手だ。

 

『ありがと、ハジメ。直ぐに取り掛かるわ。でも、天之川君とかが、私達の姿を見ても痛めつけないであげてよ?』

 

『………善処する』

 

ハジメがしそうなのが察してか、予防線を張る優花。ハジメの返答に、乳白色スライムの残骸を聖杖を使った完璧な操作で処理しつつ苦笑いを浮かべる。

 

ハジメは、意識をクロスビットから届く映像の方へ集中し直した。

 

「(……スライムの雨が一向に弱まる気配が見せない。無尽蔵か? だとしたら、まず天井をどうにかしないとな)」

 

刻一刻と体積を増やしていくスライムの海を眼下に、ハジメは上空で旋回させていた円月輪を天井に向けて加速させた。高速回転をしながら弾かれたように飛翔する円月輪は、スライムの豪雨を回転力で吹き飛ばしながら天井へと次々に突き刺さっていく。

 

円月輪の半分を綺麗に埋める形で突き刺さっているので、天井の岩盤に中穴による小さなアーチが無数にできているような状態だ。そう、空間を超える〝ゲート〟の機能を有する円月輪の中穴のアーチだ。

 

次いでに、追加の円月輪とアラクネを大量に出す。アラクネは、女子達の収納ボックスにセットしてると配慮をしている。

 

ハジメ、出した円月輪を地面の至るところに展開させていく。円月輪の展開を終えると、今度はアラクネを地面に置いていた円月輪を通して、天井の円月輪へと次々と転送されていく。転送したアラクネは、そのまま天井に張り付くと、カサカサと足を動かして一斉に散開していった。

 

非戦闘機動であれば、今やハジメの同時操作可能数は、百をも超える。結果、溢れ出た総数百体のアラクネは、紅い燐光を纏いながら縦横無尽に駆け巡りなが、次々と〝錬成〟を発動していく。壁の僅かな穴や隙間から溢れ出てくる乳白色スライムを、壁そのものを錬成で固めてしまうことで封殺しようという意図だ。

 

その目論見は正解だったらしい。錬成した部分からのスライムの流出が止まり、目に見えて雨足が弱まった。それを確認したハジメは、準備が完了して不敵な笑みを浮かべる。

 

「ひとまずは、準備は終えた。んじゃ、取り掛かるとしますか」

 

そう呟くハジメに、光輝達は何をするのか検討がつかず首を傾げているが、次のハジメの行動に目を見開くことになる。

 

「ふぅ…………」

 

深呼吸して、己の全ての集中力を研ぎ澄ましていくハジメ。すると、段々と魔力が跳ね上がっていき、紅い魔力の奔流がハジメを包み込んでいく、そして、その膨大な魔力が、この場にいる全員に伝わり、息を飲んだ。

 

ハジメは、そのまま一つ残しておいた円月輪に、自分の手を当てた。その行動を見て、優花達はハジメがやろうとしてることに気付いた。しかし、それは余りにも無茶なやり方だと思われる。しかし、オルステッドとの戦いを経て更に強くなったハジメには至難な業ではなかった。

 

「よくもまぁ、優花達に汚ねぇもんかけてくれたなぁ。それりゃあもう、こっちもお返ししないとなぁ?」

 

この最初から浴びさせることが目的かのようなスライムの色。何故乳白色なのか。ハジメは、そこに〝解放者〟の悪意(?)を感じ取った。【ライセン大迷宮】で散々受けた嫌がらせに通じる、あの悪意(?)だ。

 

その悪意(?)が優花やユエ達に降りかかったのだ。相当頭に来ていた。先程の、短慮を起こさないは、今はどうでもいいハジメは、ここら一帯のスライムを駆逐することだけだった。

 

「果てろ───〝震霆万雷(しんていばんらい)〟!!」

 

直後、大地震わすほどの轟音が、障壁越しにも伝わってしまうほど。そして、(おのの)くような空間の震え……外の至るところに設置された円月輪から無数の紅の雷が放たれたのだ。

 

上からも、下からも円月輪から無数の紅雷が放たれ、乳白色スライムの海は避けることは出来るはずもなく、全てが塵となるまで雷の鉄槌が降り注いでいく。結界にへばりついていたスライム達も雷が全てを葬り去った。

 

そして、そろそろ終わらそうと決断したハジメは、新たに編み出した魔法のトリガーを引く。

 

「──〝収束・霹靂牙烏(へきれきがこう)〟!!」

 

そうハジメが叫んだと同時に、乳白色スライム達を葬っていた雷達が一気に収束していき、一羽の紅の雷で形成された巨大な烏となり、紅の雷翼(らいよく)を羽ばたかせながら一直線に飛行していく。飛行する間も全体から溢れ出る雷によってスライム達を滅す。

 

その姿から、まさに紅蓮の霹靂一閃。

 

木々や草花を灰燼に変えつつも、スライム達も葬りさっていきながら樹海に最悪のダメージを与えていく姿は、ハジメでも、目で捉えることが難しいほどの速さの(いかずち)であった。

 

気のせいか。光輝達は、結界越しから乳白色スライム達の断末魔が聞いた気がした。まさに、目を疑う光景。雷魔法による鉄槌で塵とななっていくスライム達。そんな光景に、なんだんかんだ悟りを開いた表情になとっている光輝達であった。

 

そうして、ぷすぷすと煙を上げる何かを確認し、乳白色スライム達の駆逐を終えたハジメは、

 

「ふぅ……終了」

 

自分の放った雷魔法の威力に、一仕事終えたような清々しい表情を見せるのだった。

 

満足そうなハジメを見て、ほっこりと笑って傍に寄る優花達と後ろからハジメの魔法に感心してたアレスは平常運転のようだ。すると結界を維持してる1人であるユエが口を開く。

 

「……もう、結界解いてもいい?」

 

「いや、もうちょい維持してくれ。地面の下に潜んでないとも限らないしな」

 

ハジメの感応石の指輪が輝く。途端、天井から無数の黒い物体がスイ〜と一定速度で降りてきた。天井から糸を垂らして下降してきたアラクネ達だった。

 

「きゃ?!」

 

おびただしい数のアラクネが空から降ってくるというショッキングな光景に、思わず可愛らしい悲鳴を上げたのは、意外なことに雫だったりする。しかし、他全員は華麗にスルーだ。自分の悲鳴に頬を赤らめている雫を見たりはしない。何人かの口元はニヤついているが。

 

着地したアラクネ達は、天井にそうしたように、巨樹までの道程を錬成しながら一斉に散開させ、アラクネの操作に瞑目して集中しつつ、ハジメは結界維持の理由を口にする。

 

「目標の巨樹まで錬成するのに少し時間がかかる。あのスライムの総量が分からない以上、適時撃破より、少し時間を割いてでも襲撃対策をしておいた方が楽だろう。悪いがその間、念の為に結界の維持をユエとアレス、交代制で頼む」

 

「……ん」

 

「了解しました」

 

二人の快諾と同時に、光輝達は、危機を脱したと実感して肩から力を抜いた。なお、女性陣を汚していた乳白色スライムは、既に優花が取り除いているので、全員綺麗な姿だ。

 

「今の内に、しっかり休んでおけよ」

 

そう言って、ハジメ自身、その場に胡座をかいて座り込んだ。巨樹までの道程に錬成するには、しばらく時間がかかる。体力的には問題ないが、休める時に休んでおくのは冒険の鉄則だ。

 

それを見て、全員がそれぞれ僅かな休息に入る。

 

しかし、ハジメ達は知らなかった。ここの階層の本当の試練が待ち受けていることを……。

 

 

七章の後にステータス紹介したほうがいい?

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