今回は優花達の話です( ̄▽ ̄;)
指摘がありましたので修正しました。
ハジメが神代魔法を扱う解放者七人が総力して修復した古代のゴーレム、
「っ、どきなさいよ! チビ吸血鬼!」
「……そっちこそ、邪魔。アホ天使っ」
迫りくる敵を薙ぎ払い、魔法で塵にさせながらキッと睨み合いながら悪口を言い合う優花とユエ。
「邪魔なのは、お二人ですよ?ホントにムカつくですぅ!!」
二人の間に、なりふり構わずドリュッケンを振るうシア。
「おーい、南雲ぉ!何処にいるんだぁ!!」
ハジメを心配してなのか大声で叫ぶ光輝。
「うるせぇよ!居ない奴を呼ばずに戦いやがれ!」
敵を殴り飛ばしながら、ハジメを呼ぶ光輝に非難的な眼差しで憤りを顕にしてる。
「ホントッ、邪魔! どきなさいアンタ達!!」
敵味方関係なく、黒刀をブンブンと振り回しながら叫ぶ雫。
「アハハー。もう、どうでもいいや〜」
戦うことに飽きたのか、笑いながら寝っ転がる鈴。
「……………」
「……………」
そんなカオスの光景に、ティオとアレスは自分達へと迫る敵を倒しながら遠い目で眺めているのだった。
こんな状況になってしまったのは、少し時間を遡ることになる。
それは、心が折れていた優花がティオによって元に戻り、向かってくる敵を迎え撃とうとした時だった。
「……シア、敵は後どれくらいで来そう?」
ユエが敵がどれくらいかと耳がいいシアに聞くが、シアは何も答えない。
「……シア?」
返事がない。ウサ耳とウサしっぽが、今まで見たことないくらい逆立っている。ぶわっぶわっだ。面積が二倍になったかと思うほど、ウサ耳とウサしっぽがぶわっぶわしている。おまけにビーーンッと伸びきっている。
シアの異常を認め、訝しむユエは同じように下を覗き込もうとしたが、黙っていたシアに腕を掴まれ止められる。
ユエは首を傾げながらシアを見る。
「……シア。本当にどうしたの?」
「ユ、ユエさん。離れた方がいいです。……皆さんも、ここから離れた方がいいです」
顔を青くさせながら震えがち話すシア。更に困惑する一同。そんな中、優花はシアの言葉を聞きながらも天使化なって真下にゆっくりと降りていく。シアから「優花さん!駄目ですぅ!!」と叫び声がするが、
遅かった。
優花が降りて数秒後、下から絶叫が響き渡る。
「キャァァァァァアアア!!」
優花の絶叫を聞いて、体をビクンッと震わせる全員。シアは、顔に手を当て「駄目って言いましたのに……」と首を横に振る。
その直後、下から優花がユエ達の元へと急上昇して戻ってきた。その表情は、顔面蒼白で恐怖で満ちており「ハジメ……助けてぇ……」と震えながら口にしてる。
今にも恐怖で怯えながら降りる優花に、ティオが心配な表情で、駆け寄る。
「優花よ。何を見たんじゃ?」
そして、そっと優しく優花を受け止めると何を見たかとティオは声をかけた。
ティオに抱き締められてか、少しは落ち着きを取り戻した優花は、まだ震えが止まなくても全員に何かを伝えようと口を動かす。
「──がいたの……」
「ん?」
「……アイツ等がいたのよ」
それは、一匹見つけたら複数はいると思え。という言葉と共に恐れられてきた。黒い悪魔の名を冠する頭文字Gのあんちくしょう。いつもカサカサ這い寄る混沌。陰から陰へ高速で移動し、途轍もない生命力で渋とく生き足掻く。宙を飛べば、地球であっても混乱と恐慌の状態異常をもたらす固有魔法まで使える強者。飲食店やお母さん達の敵。前に一度、ウィステリアで片付けをしていた優花の前で出現した際に、そのまま自分に目掛けて飛ぶアイツ。傍にいたハジメが退治してなければ、危うく人生で一番の恐怖を体験しただろうと思わせるほど、優花がこの世で一番嫌う
その名────ゴキブリ
そのゴキブリが、この地下空間の底部に、数百万、数千万、否、もはや測定不能なほど蠢いていたらしい。例えるならゴキブリの海、波の如く寄せては返すゴキブリの波だ。ガサガサ、ザワザワという音は、おびただしい数のゴキブリが奏でる活動音だったのだ。
「え……じゃあ、もしかしてだけど」
「Gがこっちに向かって来てるの?」
話を聞いた雫と鈴が、優花と同じように顔を青褪める。二人共、腕に鳥肌をこれでもかと立てていた。光輝や龍太郎も「おぉう……」と呻き声を上げて、顔を青くしている。シアは、両手でウサ耳をペたりと折り畳んで塞ぎ、しゃがみ込んで涙目になっている。アレスは、比較的ましな方だが、それでも若干、顔が青くなっており口を手で塞いでいた。ティオも、アレスと同じくらい、顔が青いも自分の胸の内にいる優花を優先して、魂魄魔法で精神を安定させながら、ヨシヨシと頭を撫でている。流石は、竜人族というべきか、優花も表情が段々と良くなっていく。
「……焼き払おう」
そんな中、ユエが、瞳に闘志を宿しながら、いつになく物騒なことを言う。
「やめるんじゃ、ユエ。優花の言っている数は多いじゃろう。それに、撃ち漏らしがあって、大量のゴキブリが妾達の方に飛んで来たらどうするんじゃ?」
「…………」
数千匹のゴキブリが編隊を組んで一斉に飛んでくる……。
その光景を幻視したのか、ユエはスッと顔色を変えて闘志を萎えさせた。一瞬で心が萎えたらしい。
「とにかく、落ちなければ大丈夫じゃ……と思う。先に進んで、大迷宮の攻略やハジメの捜索もあろう。ここに留まっても、それこそ襲われるだけじゃ」
「そうですね。私は、ティオ殿の意見に賛成です。ここに留まれば、ゴキブリ達に襲われることになるでしょう。今は、この場から離れましょう」
ティオとアレスの言葉に、全員がいつも以上に真剣な表情になると、これまたいつも以上にしっかりと頷いた。
極太の枝通路をアレスを先頭にして進む。
シアと優花のメンタルも回復し、取り敢えず、遠くに枝通路が四本合流していて大きな足場になっている場所が見えていたので、一行はそこに目指すことになった。途中、ゴキブリ達が飛び上がってこないか戦々恐々としながらも、枝通路から枝通路に飛び移ったりしつつ、遂に大きな足場に到着した一行。住宅街にあるちょっとした公園くらいの広さがあるので、ゆったりと周囲を見渡せる余裕も生まれる。
「さて、どうしましょうか……皆さんは何か見えます?」
「……ん。特には……ハジメもいない……」
「ホントに、ハジメさんは何処へ……」
「やっぱり、大樹の反対側なのかしら?」
などと、全員で空間全体を見渡しつつ意見を出し合ったりしていると……
──ヴヴヴヴヴッ!!
恐れていた音が響いてきた。羽ばたき音だ。それも大量の。
「───ッ?!」
優花達は表情を引き攣らせつつ、慌てて底部を確認する。そこには案の定、黒い津波の如きゴキブリの大群が、羽ばたきながら猛烈な勢いで上昇してくる光景が広がっていた。
「もうぅ!イヤァァァ!!」
「んーーっ。───〝雷龍ぅ〟」
「嫌ですぅーーっ!!ぶっ飛べ」
「く、来るでないわぁあああっ。──〝ブレス〟!!」
「っっっ?!」
誰もが総毛立った。あまりの嫌悪感に雄叫びを上げつつ、半ば無意識に放てる最大級の攻撃を繰り出す。
優花は聖杖で数々の魔法攻撃の雨を降らせ、ユエは〝雷龍〟を、シアはドリュッケンで炸裂スラッグ弾を、ティオは〝ブレス〟を、アレスは〝千断〟を、やんややんやの大騒ぎをしながら繰り出した。
光輝達もそれぞれ咄嗟に放てる遠距離攻撃を一斉にぶっ放す。意外にも雫だけが「なぐ──ふみぃ」とある人物の名前を言いかけながら奇妙な呻き声を漏らして意識を飛ばしかけているが……
とはいえ、流石はチート達の火力だ。
眼下の宙に多種多様な色の華が咲き乱れ、雷の咆哮が轟いた。淡青白色の波紋が無数に広がり、黒の閃光が駆け巡り、空間を裂く斬撃が飛ぶ。純白の剣閃が飛び、衝撃波が鉄槌の如き打ち落とされた。
圧倒的な殲滅力。地上で、王国や帝国の軍の前で放ったなら、きっと彼等は現実逃避を余儀なくされるだろう。
しかし、それだけの攻撃を放っても、数の暴力を前にすると焼け石に水状態だ。怖気を震う羽音を響かせた黒い津波は、どれだけ攻撃を受けても、まるで衰えを感じさせずに迫ってくる。
海そのものに攻撃しても無意味なのと同じだ。ゴキブリの津波は空間全体に広がりながら、まるで鳥が行う集団行動のように一糸乱れぬ動きで縦横無尽で飛び回る。
「うぅ、こ、ここは聖域なりてぇ、し、しし神敵を通さずぅっ──〝聖絶ぅ〟!」
既に、少し前の優花みたいに半泣きになりながら、鈴が障壁を張った。直後、一行のいる広場の更に上空まで、ザァアアアアア!!と音を響かせながらせり上がったゴキブリの津波は、そのまま重力に引かれるようにして一気にいつに襲いかかった。
一瞬にして、障壁の外が蠢く黒一色に染め上げられる。障壁に突撃し体液を撒き散らしながら潰れるゴキブリもいれば、カサカサと障壁外部を這い回るゴキブリもいる。
「───む、り」
障壁を張っている鈴がフッと意識を失いかけた。光輝が、咄嗟に支えると同時に必死さの滲む声で励ます。
「鈴ぅ!寝るな!寝たら死ぬぞ!俺達の精神がっ!!」
全く以てその通りである。生身でゴキブリの波に呑み込まれるなど、それだけで神代魔法なんて目じゃない威力の精神攻撃だ。異常をきたすのは免れない。それどころか一生もののトラウマとなるだろう。
「ユエ殿、重ねて障壁をっ」
「……んっ。絶対に破らせない!」
ユエが鳥肌の立った腕を掲げ、鈴の〝聖絶〟に重ねるようにして〝聖絶〟を展開した。
「なんだか、この迷宮に来てからこんなのばっかりですね……」
「う〜む。妾達の中で、一番強いハジメが何処かへ転移され……他の大迷宮の攻略の前提にしておるだけに、あるいは難易度も数段上にされておるかもしれんな」
多少、表情が引き攣っているが冷静な分析をするティオ。優花がぷるぷる震えながらテンパリ気味に声を張り上げる。
「れ、れれれ、冷静に分析してないで、どうにかしないと!」
すると、これまた冷静な声が優花にかけられた。意外にも、先程、意識を飛ばしかけていた雫だった。妙に晴れやかな、透き通った表情で言う。
「優花、大丈夫よ、問題ないわ。あれはただの黒ごまだもの。黒ごまプリンとか黒ごまふりかけとか、私、結構好きよ。特に〝黒ごまふりかけ・しょうゆ風味〟は美味だわ。ご飯がとても進むの」
「嘘ぉっ?!雫が壊れたぁあああ!!」
雫の目は、既に死んでいた。
優花の悲痛な叫びを上げる中、また殲滅戦を繰り広げるしかないかと、ユエは鳥肌の立つ腕をさすりながら、他の魔法を発動しようとする。
しかし、その前に異変が起きた。
障壁に群がっていたゴキブリの波は空中で球体を作ると、それを中心にして囲むように円環を作り出した。巨大な円環の外部に更に円環が重ねられ、次には無数の縦列飛行するゴキブリが円環のあちこちに並び始める。次第に幾何学的な模様が空中に作り出されるその光景を見て、ユエの頬は盛大に引き攣った。
「……まさか、魔法陣?!」
どう考えても不味い事態。本能がけたたましく警鐘を鳴らしている。
ゴキブリの魔法陣を止めようと、優花達が苛烈な攻撃を加えるが、波打つゴキブリ達が魔法陣を守るべく、その身を盾にして立ち塞がる。文字通りの肉壁。吹き飛ばそれ絶命したゴキブリの死骸の豪雨となって、降り注ぐが、一向に減ったようには見えない。
そうこうしている内に魔法陣が完成し、空中に浮かぶ魔法陣が強烈な赤黒い光を放った。と、同時に、中央の球体──一見すると卵にも見えるそれが脈動を始める。
ドクンドクンッ
球体から鼓動のような音を響き、内側から押されるようにして蠢き、形を変えていく。
直後、球体が弾けた。そうして現れたのは、全長三メートルはある巨大なゴキブリだった。ただし、周囲を飛び交う普通のゴキブリと同じ楕円形のフォルムではなく、歪な人型という、おぞましいフォルムだ。
胴体からは棘の生えた細い腕ないし足が六本生えていて、一見するとゴキブリらしい見た目にかかわらず、先端だけ人の指のようになっている。その指も、全てが鋭利な刃物になっているようだ。顔面には黒一色の目が付いていて、顎は巨大で鋭い。背中には三対六枚の透き通った羽があり、腰の辺りからは尾が生えている。
放たれる威圧感も、そしてその冒涜的な姿も、なるほど、おそらくこの大迷宮の最終ガーディアンにして試練なのだろうと確信させる。
「ギチチチチチッ!!」
〝人型〟は、そんな不快な鳴き声を発しながら赤黒い燐光を纏った。すると、〝人型〟の周囲にゴキブリが集まり、更に魔法陣を形成し始めた。どうやら、〝人型〟は普通のゴキブリを自由に操れるらしい。
新たな魔法陣の中央に、幾分小さめの球体が幾つか形成され始める。〝人型〟ほどでないが、大きく特殊なゴキブリが出現するのは明らかだ。
「ッ!させるか───ッ?!」
「……んんっ?!」
優花とユエが、同時に魔法陣に対して攻撃を加えようとした瞬間、突然、足元に大きな魔力の奔流を感じて動きを止める。
咄嗟に視線落とす二人。しかし、そこには異常が見られない。が、二人は確信する。自分達が立つ足場の下──広場たる枝通路の裏側に、集まっていたゴキブリ達によって魔法陣が形成されていることを。
おそらく、眼前で派手に魔法陣を形成し、それに注目させている間にこっそりと作っていたのだろう。
優花が「不味い」と思った刹那、正体不明の魔法は発動した。
広場を透過して赤黒い魔力が天を衝いた。竜巻のように螺旋を描いて噴き上がる。眩しい光に優花達は顔を手で庇った。爆発したかのような閃光が周囲一帯を包み込み、視界を塗り潰す。
ものの数秒で光は霧散。
そこには、特にダメージを負った様子もない、無傷の優花達の姿があった。
「……一体何よ? ユエ、何か───」
ユエを見て、言葉を失ったのだ。
彼女の姿を見て、湧き上がってしまったのだ。
───嫌悪を。
嫌悪、否、もう憎悪と言い換えてもいいかもしれない。そんな深く暗い感情を、優花はユエに感じていたのだ。それは、どうやらユエの方も同じようだ。直ぐ傍で、優花を見るその表情は憎々しげに歪められ、瞳には殺意すら宿っている。
「……ユエ」
「………優花」
互いに馴れ親しんだ名前を呼び、同時に不快感を顕にする。
「「大っ嫌い!」」
そんな経緯があって、優花達は互いを嫌悪しながらも敵であるゴキブリ達と戦っている。
しかし、今の優花達は、ゴキブリとの戦闘はあまり苦ではなかった。原因は〝人型〟によって発動された魔法。感情を反転させる魔法によって、大切な人物を嫌悪する代わりに、ゴキブリ達は愛おしく思うようになっており、苦ではなくなっているのだ。
優花とユエがお互いを嫌悪して、本人スレスレで攻撃しながらゴキブリ達を倒していく二人は〝人型〟を相手をしている。〝人型〟は、黒い球体から量産させた自身の劣化版と言えるような〝半人型〟と〝小型〟と共に優花達に襲いかかる。
だが、
「ふふ、可愛いわね」
笑みを浮かべてそう口にする優花は、襲いくる〝小型〟の大群の波をいとも容易く十の聖剣で自分を中心に竜巻のように螺旋状に回転させながら切り裂いていく。
「ギィィィィィ!!」
そこへ〝人型〟が耳障りな不協和音を響かせながら、腐食の効果のある黒煙を、周囲に侍る〝小型〟達は黒い
「咲け───〝
その言葉に反応した聖剣達が優花が発動した風魔法に乗って、まるで、そよ風に吹かれるように舞い咲き乱れ、咲き誇った風の斬撃達が迫りくる腐食の竜巻を相殺した。しかし、それで終わりではない。
「〝天輪〟──廻りなさい」
聖なる銀の杭達が結合し現れた天に浮かぶ十の花弁を持つ銀色の華。主に命じられるがままに廻りだした。
縦横無尽に駆け廻る天輪は、〝小型〟を〝半人型〟を紙くずのように切り裂いて黒の花びらを撒き散らす。そして、目標は〝人型〟。天輪は近くにいたユエ諸共〝人型〟へと襲いかかった。
「ギィィィィィ?!」
「……んんっ?!」
〝人型〟は、天輪によって右の全ての腕を切り落とし、絶叫させながら吹き飛ばした。ユエは、間一髪に右に逸れたおかげで回避した。が、ユエは冷たい眼差しで優花を見る。
「……わざと」
「あら、ごめんね。でも、私の射程範囲内だし、ね」
悪気はない様子で謝る優花に、ピキッと青筋を立てるユエだったが、優花に切り落とされた右腕を再生させた〝人型〟が標的をユエに変えて〝小型〟を集合させた黒い津波と腐食の霧と共に迫ってきてることが分かると、表情を一変させ喜びを顕にする。
そして、今度は自分のターンだと両手を上に掲げた。
「……可愛いがってあげる」
妖艶な笑みを浮かべながら言うユエ。
「──〝五天龍〟」
そして、この空間に五つの龍を降臨させた。ユエの指が軽やかに振るわれ、〝五天龍〟が主のもとへ集まり、その名の体現するかのように天へと昇る。
「………ん。───〝解放〟」
フィンガースナップの澄んだ音色が響くと同時に、五天龍はその身に内包する牙を解放した。
轟雷を纏う黄金の龍の雷鳴の咆哮と共に、万雷の華が咲く。
───雷・重力複合最上級魔法〝雷龍〟
蒼く燃え盛る龍の爆ぜる咆哮と共に、殲滅の蒼い炎が空間を舐め尽くす。
───炎・重力複合最上級魔法〝蒼龍〟
翡翠の風を纏う龍の暴風の咆哮と共に、翡翠の風刃が幾千幾万のギロチンと化す。
───風・重力複合最上級魔法〝嵐龍〟
真白の煙で構成された龍の地鳴りの咆哮と共に、真白の世界が顕現し、放たれた白煙の息吹で全てを真白の石へと化していく。
───土・重力複合最上級魔法〝石龍〟
冷気を纏う、透き通ったクリスタルの如き龍の凍てつく咆哮と共に、絶対零度が吹き荒れ眼前にある全てを凍てつかせていく。
───氷・重力複合最上級魔法〝氷龍〟
黒の津波と腐食の霧で覆われた空が、五つの天龍の咆哮で消し飛んだ。
「ギィィィィィッ」
天を仰ぐユエに、再び〝人型〟が急迫。その身は既に再生済みだ。だが、それを読んでいたかのように、ユエは自由落下に身を任せて落ちた。
そして、
「ホントッに、死ぬかと思ったわよ!」
落ちたユエの上から、全ての聖杭を聖盾にして五天龍を凌いだ二つの聖剣を持った一人の天使が落ちゆく金髪吸血鬼に苦言を呈しながら空を飛ぶ。そして、〝人型〟へと急迫して、自分の間合いに立つと全ての腕を切り落とした。が、〝人型〟の姿がぶれた。優花が切り裂いたのは、〝人型〟の残像。更に加速した〝人型〟は、二重三重に姿をぶれさせながら、一瞬で優花の背後へと回り込んだ。
腐食の黒煙と共に、風を纏った鋭い刃の腕四本が襲い来る。
「……やっぱりね」
そう呟きながら、優花は後方に待機させていた八つの聖槍達を一気に射出した。後方の聖槍に気付いたのか〝人型〟は避けようと上昇するも目の前から強い衝撃が襲う。優花が持っていた聖剣を聖盾へと形状変化させ腐食の霧を防ぎながら、そのまま聖盾で〝人型〟を殴りつけたからだ。
「ギィッ!!」
強い衝撃と、自分の腐食の霧を諸に食らったせいでバランスを崩す〝人型〟。その隙に八つの聖槍が〝人型〟の胴体を貫いた。
しかし、〝人型〟は、姿をぶれさせながら高速移動しながら聖槍を避けていき距離を取った。が、その腹部を見れば、四つは避けきれなかったようで風穴が開いている。
優花は聖槍達を自分の周りに集結させつつ、誰に言うともなく言う。
「やっぱり、神の使徒の模造ね」
〝人型〟は、おそらく解放者が用意した量産型の〝神の使徒〟なのだろう。いつか、大迷宮に挑む者が〝神の使徒〟と戦うことを想定して、近い能力の敵役を試練にしたのだ。
───〝腐食〟は〝分解〟。
───〝再生〟は〝無限の魔力〟。
───〝風の刃〟は〝双大剣〟。
───〝小型〟は〝銀羽〟。
そして、焦点速度が合わなくなるほどの〝高速移動〟。
なるほど。四つ以上の大迷宮の攻略を必要と前提するわけである。一度、帝国で戦った神の使徒と交えた優花の感覚的に、戦闘能力は数段上になっており、もしかしたら〝ネームド〟ほどの強さと思える。帝国で、複数の使徒との戦闘を知ってなかったら手に余ったかもしれないレベルだ。
心の中で「上等よ」と、今はユエよりも殺したい人物を真似て呟いた優花に、〝人型〟が一瞬で音速の壁を突破して急迫。しかし、優花は迎撃の体勢を取らずに、聖杭達と共に、後ろへ下がった。
一見すれば怖気付いた行動にも見えるが、行動の理由は刹那の内に示された。
「ギィッ?!」
一瞬前まで優花がいた場所に、真下から水刃が飛来したのだ。ちょうどその場所に到達した瞬間だった。〝人型〟は、もはや死を降り注ぐ雨と化している水の
「───〝
その真下には、水の刃を放った張本人ユエは、フッと笑みを浮かべていた。
腕の二本が千切れ飛び、羽が四枚消失する。高速移動を喪失した〝人型〟に、絶妙なタイミングで上から一つの聖剣が神速の超える閃光となって襲いかかった。
「
今の優花では、一つの聖杭でしか制御できない技なのだが、神速を超える一撃によって、真っ二つに両断された〝人型〟。
一拍。その姿が爆散でもしたかのうように砕け散った。後に残ったのは無数の〝小型〟。
「……倒した」
「いや、まだよ……」
魔物には、その心臓ともいうべき魔石がある。〝人型〟は、その魔石を複数持っており、何匹かの〝小型〟自体を魔石にしていた。それを見抜いた優花は初撃の聖槍で、ユエの水刃で、最後の聖剣によって全てを破壊した結果、〝人型〟は形を保っていられず、元の〝小型〟にばらけたのだ。
優花とユエの二人は上を見上げると天井から、にじみ出るように何十体もの〝人型〟が出現していた。
どうやら、〝人型〟を一体倒すだけでは試練の攻略とは認められないらしい。
「うげぇ………多いわね」
「……ん」
複数の〝人型〟の出現に二人の眉をしかめた。
一拍。
総数五十体の〝人型〟が、一斉に二人へと襲いかかった。
同時に、
「足手まといにはならないでよ?」
「……それはこっちのセリフ」
白銀と黄金の魔力が
大迷宮最大の試練を前に肩を並べ合う二人。
その表情は、今は別の場所で激戦を繰り広げている彼のような不敵な笑みを浮かべる二人の姿は、本当に感情が反転しているのか、大変疑わしいものであるのだった……。
新たな魔法
優花
→舞華…風魔法と組み合わせ、わざと風の斬撃を予測不能な斬撃、斬撃の竜巻と化す。
→流星…聖杭を神速をも超える速度で放つ一撃。
ユエ
→須佐之男・散…巨大な水刃の一撃である須佐之男を分散させ、水刃の雨を降らす。