遅くなりましたm(*_ _)m( ̄▽ ̄)
大迷宮攻略から一日経った昼頃。
優花と雫以外の全員が昼食が終え、ハジメ達は食堂でティータイムをしていた。
「……ハジメ、あーん」
「こちらもじゃ、ハジメ」
「サンキュ、二人共」
隣のユエと向かいの席に座るティオの二人にチーズケーキのような味のデザートをあーんしてもらいながらハジメは幸せを感じながら紅茶を一口。向かい側に座るアレスも紅茶を嗜んでいる。
そんな和やかな空間に、ハジメが紅茶を飲み干して給仕の人に紅茶のおかわりを貰うと、クッキーを一摘み取るアレスに話しかけた。
「しかし、魔法なしの槍だけの戦闘だとアレスが上だな。勝てる気がしねぇ」
「ハハッ。これでも十八年間、槍で戦ってきましたからね。槍術ではまだ、ハジメ殿に負けるわけにいきませんよ」
そう言って笑いながら、クッキーを食し再びティーカップに口をつけてアレスは、言葉を続ける。
「ですが、ハジメ殿も槍の使い方が様になってきてますよ。槍を持って半年と少しだけの期間だけと思えないほどの成長速度です。これでは、いつしか抜かされてしまいますね」
「そう言ってもらえると嬉しいが、俺が銃を使っても引き分けに持っていくじゃねぇか」
「まぁ、そこは経験の差、ですかね」
ハジメは苦笑いをこぼす。それもそうだ、目の前の人物はレールガンではないにしろ弾丸の軌道を読み躱してるのだから。
「……ん、ハジメも強いけど、魔法なしだとアレスが強過ぎる。どこでそんな力を手にしたのか知りたい」
「じゃな。その歳で、快楽、感情の反転なども耐え切る精神の強さに実力。ハジメがこの世界に転移されておらぬなら、アレスが人間族最強であったじゃろうな」
二人の話を聞いて、ユエもティオもアレスの尋常じゃない強さに称賛を送る。アレスは三人の純粋な称賛に嬉しかったか「ありがとうごさいます」と、少し照れくさそうな表情で言う。
そんなアレスの表情にハジメ達も初めて見るので、少し驚いたものの、アレスの新たな一面をみれたことに微笑む。そんな四人の平和なティータイムを続いていく。
そう四人が談笑していると、階上から優花と雫が降りてきた。それにいち早く気付いたハジメは二人に声をかける。
「おう、優花、八重樫。こっちに座るか?」
「ええ、そうさせてもらうわ」
「え、えぇ……」
ハジメの呼び掛けに優花は答えると、雫と共にハジメ達がいる席へと向かい始める。そして、席に到着するとユエの隣に座る優花。すると、ユエが立ち上がり、今では定位置となり始めている優花の膝上に座る。
雫もハジメの顔を見た途端、心臓が跳ね上がり顔が紅潮しそうになるが悟られないように短い返事をしながらティオの隣に座る。
すると、給仕をしている亜人族達が二人の傍に近付くと紅茶とケーキを手慣れたように用意する。二人は給仕に礼を伝えると給仕達はペコリと頭を下げ自分の持ち場へと戻っていった。
二人は用意してもらったケーキを一口食べ幸せそうな表情をして、紅茶を啜る。そして、チラッとある場所を見て優花は苦笑いを浮かべ、雫は呆然とする。
「まだ、続いてるようねアレ」
「ああ、もう俺達は居ないものとしてティータイムを楽しんでいる」
「……居ないものって」
「仕方ないだろ。何度止めてもあの二人が繰り返すからさ、ほっとくことにした」
優花の言葉にハジメが淡々と答えると、それを聞いた雫がなんとも言えない表情になる。
雫の視線の先……
「あの〜、アルテナさぁ〜ん。いい加減ハジメさんに色目を使わないで貰えますか〜?」
「いえいえ。ただ、わたくし自らハジメさんにお茶を入れましょうと思っていただけですわ」
「へぇ〜、よく回る口ですねぇ〜?」
「ふふ、ありがとうごさいます〜」
そこには、互いの額を当て、両手を握り合いながら取っ組み合いをしているシアとアルテナの姿がそこにあった。両者引けを取らずにドタンッバッタンと、大きな音を立てて食堂内に響かせる。
何故、二人がああなったのはハジメに甲斐甲斐しく世話を焼こうとしているアルテナに、同じ亜人族として、シアがにこやかに、それはもうにこやかに断りを入れたらしい。だが、意外にもアルテナは引かず、それどころか強行突破してでもハジメの傍にいこうとする姿に、我慢していたシアもブチッとキレてしまい取っ組み合いとなってしまった。
一度はハジメ達も止めようとしたのだがどちらも聞く耳を持たないし、シア自体本気を出していなようなので二人が落ち着くまでほうっておくことにした。
従来なら、兎人族の少女が、亜人族の中でも賢人として地位の高い森人族の姫と取っ組み合うなど考えられないことだ。直ぐに「処刑だっ!」となってもおかしくない。
しかし、今や兎人族は、その名の前に一言つく種族だ。
〝亜人族最強〟の
正確にはハウリア族の異名だが、他の種族からしたら、もはや兎人族イコール〝亜人最強の種族〟という認識なのである。
加えて、シアの父のカムは、【フェアベルゲン】の長老衆の一人であり、かつ、亜人奴隷解放を成した救国の英雄種族の長でもあるのだ。
故に、英雄種族の長老であるカムの娘であるシアと賢人である森人族族長の孫娘であり、森のお姫様のアルテナ。そんな亜人達にとって特別な二人だからこそ、ハジメ達以外の誰もがオロオロとして手を出せずにいた。
なお、食堂にいるのは、ハジメ達の除けば先程の給仕係の他。アルテナの付きの側仕えが多数、光輝や龍太郎、鈴は、何やら考え事があるとかで自室にこもっているので、本当に止める者が誰も居ない状況である。
取っ組み合う二人だが、流石に膂力の差が天と地の差があるのでアルテナはシアに投げ捨てられ、中指を立てられながら「おととい来やがれですぅ!!」と罵倒される。
生まれて初めて、そんな粗雑で乱暴で遠慮容赦ない扱いを受けるアルテナであるがめげずに、ただただシアへ立ち向かっていく。シアは、そんなアルテナの様子を見て、ただの箱入りお姫様じゃないと思った。
ならば、
「これならどう、ですぅ!!」
「キャァァァァア!!」
アルテナの両腕を掴んだシアは、自分の右足を軸にして勢いよくぐるぐるとコマのように回り始める。アルテナはシアに腕を掴まれており逃げることは叶わず、そのまま目が回ってしまい叫ぶことしか出来ない。それに両手を掴まれてるせいでアルテナは、そのほっそりとした見事な美脚と下着が丸見えとなり、あられもない姿を晒してしまっている。
「ふむ、流石はシア。余り他の者の邪魔にならないように調節してるのぅ……それに、清純そうな見た目の割に、中々の挑発的な下着じゃな〜」
「………ん、お姫様なんて大体中身はエロい」
ユエ様の独断と偏見に満ちた主張が
ちなみに、ユエは元王女様。ティオは竜人族の御姫。これでリリアーナが〝そう〟だったら……ユエの主張は
「妾っ、エロくないのじゃ!」
「ゴホンっ、ユエ殿。リリィは清純派なのですからその発言はやめてください」
即座に、顔を真っ赤に染めたティオと咳払いをしながら
そんな中、ようやく我に返った雫が、優花よりも顔を引き攣らせながら口を開いた。
「こ、これ大丈夫なの? あの娘、一応、お姫様なんじゃ……。立場的なものそうだけど、ほら、侍女さんっぽい人達とか、今さっきの給仕さんっぽい人達がものすごっくオロオロしているんだけど。アルテナさんのあられもない姿に、もう見てられない!って顔になってるんだけど」
「ハジメ、どうするの?」
「…………………はぁ、行ってくる」
優花に言われ、長い沈黙の末、ハジメは手に持った飲みかけの紅茶をぐっと飲み干し席から立ち上がるとシア達の方へと歩きだしたのだった。
シアは、お姫様がこれほどの辱めを衆人環視の中で受ければ、自分の要求にもあっさり頷いくと思っていたのだが、彼女は一向に「うん」と言わない。まるで、「まだまだ続けてくださいまし!」と無言の主張をしているように見えなくもない。
「チッ。強情なっ。なら、これならばどうですっ!!」
と、痺れを切らしたシアが、更にアルテナを辱めようとしたのだが、突如、自分のウサ耳がモフられて手が止まる。
「!んぅ……あ、ふやぁ」
突然、ウサ耳をモフられたことに力が抜け、その場からシアは崩れ落ちる。そして、この触り方で誰か分かったシアは、ムッとした表情でその人物の方へ視線を向けた。
「なんで止めるんですか、ハジメさん!」
「もう、その辺にしとけ」
ハジメは、そう言って文句を言いたげなシアの腕をグイッと引っ張る。
「ほぁ?」
思いがけず引き寄せられ、間の抜けた声を漏らしながらポスッと腕の中に収まるシア。そして、ハジメは腕の中で目を白黒させているシアのウサ耳に穏やかな声で言葉を落とした。
「なぁ、シア。お前は俺の大切な恋人だ」
不意に囁かれた〝大切な恋人〟という言葉に、シアの顔は一瞬で真っ赤に染まった。「あぅあぅ」と言葉にならない声を発しながら、ウサ耳がぶわんぶわんっと荒ぶる。ウサシッポもばたばた激しく動いている。
自分がハジメの恋人であることは頭で分かっている。しかし、どこか不安はあって、だから帝国にカム達が捕まった時も迷惑をかけまいと遠慮してしまったし、今も、アルテナに少々過剰になってしまっているのだ。
だが、その不安も今の言葉で吹き飛んでしまった。完全な不意打ちに、シアは赤面したまま石のように硬直。ただし、内心を表すように、ウサ耳とウサシッポだけは神速パタパタしている。
それを見ていた優花達は、シアに優しい眼差しを向けている。
ハジメは、固まったシアに困ったような表情をしながらも、同じように固まった場の空気をほぐすためか、少し話題を転換して口を開いた。
「それとな、シア。アルテナに関しては俺のこともあるだろうが、少なからずお前に対してもちょっかいをかけてるぞ?」
「ほぇ? な、なんです? え? 私?」
ポンポンとあやすように背中を優しく叩かれたシアは、どうにか再起動が成功。未だ胸の鼓動が収まっていなかったが、言葉に釣られるようにしてアルテナへ視線を向ける。
ハジメとシアのやり取りを、少し羨ましそうに頬をあからめながら両手で顔を覆い、しかし、その指の隙間からしっかりと除き見るというテンプレなことをしていたアルテナは、シアの視線にビクッと体を震わせた。加えて恥ずかしそうにそわそわし始める。
「えっと、ちょっかいって……やっぱりハジメさんのことで気に食わないってことじゃ」
「ち、違いますわ! シアさんのことを悪くなんて思っていません! ただ、わたくしはシアさんと仲良くなりたいだけですわ!!」
「わ、私と、ですか?」
予想外の言葉に驚いた表情で尋ね返すシア。
アルテナは、もじもじしながら真情を吐露した。
それによると、どうやらこういうことらしい。
アルテナは【フェアベルゲン】のお姫様である。亜人族の中でも地位の高い森人族の長老の孫娘であり、同族の間でも高貴な存在と見られている。逆に、小さい頃から相応の扱いを受けてきた。
結果は言わずもがな。教育によく応えたアルテナは、聡明で心優しい少女に育ち、多くの同族達から慕われたが、同時にどこまでも特別扱いであり、同年代の少年少女と同じ時間を過ごしても、常に優先され敬われる。遠慮のない対等な関係というものは皆無だった。
アルテナの周囲は心優しい人々で溢れている。故に、寂しいと感じたことはない。だが、憧れはあった。それこそ言いたいことを遠慮なしで言い合えるような〝友達〟、もっと言えば〝親友〟のような存在に。
ハジメに惹かれてしまったのも、亜人族として蔑むのでもなく、アルテナの地位や美貌に反応するでもなく、ごく自然であり、一人の女の子として接してくれたことが大きな要因であった。そして、そんなハジメに、当然のように寄り添うシアが羨ましかったのも事実だ。
だが、カムの挑発もあってか、妙に意地になってシアと張り合った結果、同年代の兎人族の少女は自分の地位とは関係なく全く容赦なく、全力で感情をあらわにし、それを言葉と物理でぶつけてきた。それが、本当に珍しく、思わず放心し、胸の内に嬉しさが込み上げた。
そして、思ったのだ。同じ年で、同族の、この少女との気の置けない関係───親友というものになれたら、どれだけ素晴らしいことだろうと。
「その、恥ずかしながら、わたくし、友人というものをどうやって作ればいいのか分からなくて……シアさんは、ハジメさんのことになると構って貰えるから、つい……」
「いや、構ってもらえるからって人の恋人をダシにしないでれません?それに、そういう事情なら、普通に言ってくれれば……」
「いえ、ハジメさんへのアプローチは本当ですわ」
「………」
ハジメへの想いは本当であるアルテナに、シアが「やっぱり………」という表情になりながらも「女タラシのハジメさんですからね〜」と何故か納得する表情にしながらハジメを見る。
当の本人は分かってないようであるが………。
すると、慌てて居住まいを正して何かに決心をついたアルテナ。もじもじしながら立ち上がると、シアにそっと手を差し出した。
「そ、それでは、その、お友達となって欲しいと言えば、応えてくださいますか?」
「………なんだか、告白されてるみたいでむず痒いですが……友達になりたいと言われて断る理由はないです」
シアは、「お騒がせなお姫様ですねぇ〜」と、呆れたような表情をしながらも、アルテナの手を取り握手を交わした。初の友達に嬉しそうに微笑むアルテナ。意外な展開があったがいい感じに話がまとまって、みな、ほっこりした表情になる。特に側仕え達が。
「では、その……わたくしのことは、アルテナと呼び捨てに」
「分かりましたよ、アルテナ。私もシアでいいので」
「はいっ、シア!」
その光景を見て、ハジメは「一件落着だな」と言った表情で席に戻ろうとしたが、肩をガっと掴まれた。
「ハジメさん、少し待ってください」
相手は、勿論シアだ。
しかし、肩を掴まれる理由が分かっていないハジメは首を傾げながらシアに問う。
「ん? なんだよ、シア。アルテナの件は終わったろ?」
「ええ、私に関しては終わりましたよ。ですが、ハジメさんは終わってませんよ?」
「は?」
何言ってるんだ?と、思ったハジメだったが、自分なりにアルテナの発言を思い返してみると………
『ハジメさんへのアプローチは本当ですわ』
その言葉がハジメの脳内にリピートされる。そして、顔にダラダラと大量の冷や汗が流れ始める。突然のことに情報処理能力が狂い数秒フリーズするも、我に返り、バッとハジメは、シアの隣にいるアルテナを見る。
アルテナは、ハジメと目が合った瞬間、カァッと顔を赤面させながら視線を逸らす。そして、異様にそわそわして落ち着きを無くしているのが分かる。
「…………っスー」
やっと、アルテナの想いを察したハジメは天を仰いだ。
ずっと、これまでのアルテナの自分への対応は助けた時の恩返し程度としか捉えていなかったハジメだったが、見当違いだったらしく自分に惚れてしまったからであると自覚する。
周りを見れば、食堂にいる給仕もアルテナの側仕え達もハジメを見ている。その視線も痛く、同じ男であるアレスに助けを求めように視線を向ける。「助けてくれ。同じ男だろ?」と。
そんなハジメに、視線を感じ取ったアレスは物凄く優しい表情を向けてグッと親指を立てる。
即ち、
『ファイトです。ハジメ殿』
ハジメが「嘘だろぉぉぉ!?」と言うような表情をするも、アレスは手元の紅茶をグイッと飲み干すと逃げるように食堂から出ていってしまった。
他の食堂にいる男性陣に目を向けるもバッと視線を逸らされてしまう。
でも、そんな茶番劇も終わりを告げてしまう。
「で、どうなんですか? ハジメさんっ」
「え?」
「え?じゃなくて、ちゃんと答えてください!」
いつの間にか、ハジメの傍まで詰め寄っていたシアがハジメを問い質す。なんと、今さっきまでこちら側だったシアが何故かアルテナ側へ寝返っている。
なんと、シアは先程のハジメの言葉に、自分はちゃんとハジメの恋人の一人だと自信を持てたようなので、今度はハジメに惚れているアルテナを応援することにシフトチェンジしたのだ。
突然の裏切りにハジメは、更に大量の冷や汗を流しながら、ザザーッと後退る。そして、今度は恋人達の方へ視線を向ける。
しかし、視線を向けても意味はなく、ユエとティオ、何故か雫がジト目な眼差しを送っている。因みに優花は、
食堂に味方ゼロで等々追い込まれたハジメ。
そこへ近付いてくるアルテナ。それも、頬をあからめながら。
「そ、その……ハジメさん」
「お、おぅ………」
上目遣いでハジメを見るアルテナ。その表情は、緊張してか瞳がウルウルし、唇が震えてしまって、彼女の長く尖った耳までもが真っ赤く染まっている。が、頑張って必死に言葉を紡ぐ。
「わたくし、じゃ……駄目です、か?」
「───っ」
突然の告白に動揺を隠せないハジメは、一瞬、声が出なくなるが、一旦、「ふぅーー」と深呼吸して息を整えてから長い沈黙の末、口を開いた。
「………………少し、考える時間をくれ。今日の夕暮れには答えをだす」
「え、あの……ハジ──」
ハジメは、そう告げるとアルテナの言葉を待たずに脱兎の如く食堂から出ていってしまう。
食堂に静寂が満ちる。
「……わたくし……ハジメさんに嫌われてしまったのでしょうか……?」
静寂を破るアルテナの言葉は、酷く重く悲しみに満ちていた。見ると、その目元には大粒の涙が溜まり今にも泣きそうである。
もしかして、嫌だったのか?
もしかして、邪険に思われていたか?
そんなマイナスな思考が頭の中がぐちゃぐちゃになり、アルテナはその場で蹲った。それを見た側仕え達が急いでアルテナの元へ駆け寄ろうとしたが、それより早くシアがアルテナの手をギュッと優しく握った。
「大丈夫ですよ、アルテナ。ハジメさんは、そんなことをする人じゃありませんよ」
「……シ、ア」
ふと顔を上げると、優しい表情のシアが目の前におり自分を励ましてくれていた。
「……ん、ハジメはそういう人じゃない」
「じゃな。ハジメは詰め込み過ぎなのじゃ」
更にそこへ、ユエとティオ、駆け寄り、アルテナの背中を摩って優しく声をかける。そして、優花もシアの隣で腰を下ろして片膝を突いて、アルテナに微笑みかけた。
「大丈夫よ、アルテナさん。ハジメは貴女のことを嫌ってない。寧ろ、守るためなのよ」
「え?」
アルテナは、優花の言葉に首を傾げたが、続けて聞かされたことにアルテナは驚きのあまり片手で口を覆う。更に、本当なのかと、ハジメの恋人達に視線を向けるが、全員が頷いており確かなことだと察する。
そして、周りで聞いていた食堂の者達も雫も驚いていた。それもそうだ。南雲ハジメという
「じゃあ、ハジメさんは……」
「ええ、貴女のことを決して嫌っていなんかないわ。だから、信じて、ハジメの選択を」
「……………はいっ」
優花の言葉に背中を押されアルテナは、目に溜まる涙を手で拭うと力強く頷き、優花は涙を浮かべるアルテナを優しく抱き締めるのであった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「災難でしたね」
ハジメが食堂から出ると見知った人物から声をかけられた。
「………アレスか」
声のする方向へ視線を向けると、それは先程、食堂から去ったアレスの姿がそこにあった。ハジメは逃げやがって、と非難の視線を送るも当の本人は、気にせず壁にもたれかかりながら話しかけていた。
ハジメもアレスの隣で壁にもたれかかると、食堂にあった件のことで問い質した。
「……全部、聞いてたか?」
「ええ、あんな騒ぎですから外からも聞こえてしまいますよ。で、どうするのですか?」
「………」
返されるアレスの質問に、今にも、あの時のアルテナの表情が離れずハジメは、口を閉じて沈黙で返した。アレスはハジメの沈黙の返答を見て、頷くと壁にもたれかかるのを止めて自分の部屋に戻ろうとする。が、その前に立ち止まってハジメを尻目に一言だけ伝えた。
「私は、貴方の弱さは美点だと思っています。結果はなんにしろ互いに悲しみを生まないように。神官として、そして貴方の仲間として願っております」
「……わかってる」
短くも返答を聞いたアレスは満足気に「では」と、その場を去っていく。其の間、ハジメは壁にもたれながら天を仰ぐ。
「さーて、どうする、か………」
溜息混じりのその言葉は、誰にも聞かれることなく食堂から聞こえる音によって掻き消されていく。
【フェアベルゲン】のお昼は、本来の静謐さとはかけ離れた、実に騒々しい有り様であるのだった………。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
時刻は夕方。沈みゆく太陽の光が木漏れ日となり、【フェアベルゲン】の都をオレンジに染め上げている。
「………」
都の中心から少し離れた広場。
大きな切り株のテーブルセットや、湧き水を利用した噴水がある、住民達の憩いの場となっている広場だ。
そこに、無言でオレンジ色の空を眺めていた人影があった。ハジメだ。
住民達は復興の続きや、解放された同胞の世話、戦士団の再編などに忙しく、憩いの場でのほほんとしている場合ではないらしい。優花、ユエ、シア、ティオ、アレスや光輝達も、今は亜人達の手伝いや、自己鍛錬、あるいは次の旅の準備をしているはずだ。
そんな静寂が満ちる広場に、こちらへと歩み寄る足音が聞こえると、ハジメは「来たか」と、思いながら席から立ち上がって視線を向けた。
「ハ、ハジメさん………」
視線を向けた先は、今日の昼に自分に想いを告げてくれた森人族の長老アルフレリックの孫娘アルテナの姿が見えた。
夕刻の太陽の木漏れ日が反射してか彼女の金髪が更に輝きを増し、その碧色の瞳は、昼の時とは雰囲気を感じさせる。
「ありがとな、来てくれて」
「いえ、元はと言えばわたくしが発端ですから」
「いや、俺にも非がある。だから、気に病まなくていい」
自分を責めるアルテナをハジメは、擁護すると、アルテナは嬉しそうに微笑んだ。
「やはり、ハジメさんは、お優しいですわ」
「そんなことない。俺が優しかったら、大体の奴が優しいだろうさ」
「いいえ」
ハジメの言葉をアルテナが否定する。
「……わたくしが、帝国に捕まった時のことを覚えてますよね?」
「ああ。勿論」
「あの時、わたくしの人生は終わったと思いましたわ。でも、そんな事はなく、ハウリア族の皆さん……そして、ハジメさんに救われました」
森人族であり、聡明であるが非力である自分は、いとも簡単に帝国兵に捕まってしまった。
自分はもう終わったのだと、もう樹海に暮らせないのだと思っていた。
しかし、そんな時に自分の前に現れたのだ。
綺麗な紅い魔力を持つ白髪の殿方に。
「わたくしの拘束を外してくれた時のハジメさんの魔力も、真剣な瞳も、今でも鮮明に覚えてますわ。忘れるわけがありません。だって、感じてしまいましたもの」
───彼は自分の運命の相手だと。
そう口にするアルテナは、ハジメに近付こうとしたが、ハジメが片手を突き出し首を横に振る。
「それは、ただ、初めての恐怖から解き放たれた時に起こる幸福感によるものだ」
「いいえ。たとえ、拘束を外した相手が違ったとしても、わたくしはハジメさんに惹かれます」
「それに、俺はもうすぐしたら最後の大迷宮へ向かう。その時に、魔力も持ってないお前は連れていけない」
「平気ですわ。いつまでも、ずっと……わたくしはハジメさんを想い続けながら待ってます」
アルテナの好意をハジメが否定するが、アルテナも負けじと落ち着いた様子で言い返す。否定し、それを否定し合う言い合いが何分か続き、両者とも引かずにいる。
「ふぅー。何故、そこまで否定しやがる?」
「ハァハァ、それは、こっちのセリフですわ」
息を整え、両者とも向き直る。
そして、第二ラウンドが始まると思ったが違ったらしい。
「………そんなに、わたくしが嫌なのですか?」
アルテナの言葉だった。自分の服をギュッと握り締め悲しそうな声音で言う。それに、長い耳をタラーンと、下げ、その表情も今にも泣きそうで瞳を潤わせている。
それを見たハジメが思わず口が開いてしまう。
「それは、違うっ」
「え?」
ハッと、ハジメは思わず口にしてしまい片手で口元を抑えるも既に遅かった。
「違う?」
アルテナは完壁に聞き取ってたらしく、もう隠す意味ないとハジメは諦めたように苦笑いを浮かばせ、腰を下ろして自分の気持ちを吐露した。
「……君を危険な目に合わせたくないんだ」
「え?」
「俺は、最後の神代魔法を獲得したら本格的に神共との戦闘に入る。だが、もしかしたら、奴等が俺の友人や恋人を人質に取るとしたら、アルテナが狙われてしまう可能性がある。俺は、そんな……自分のせいで誰かが危険な目に遭わすのは嫌なんだ。嫌なんだよ」
酷く辛そうな表情をするハジメ。祈るように握る両手も微かに震えているのも分かる。
「ハジメ、さん」
「……すまん。俺は、元々、こういう奴なんだ。友人や大切な人達が俺のせいで危険な目に遭うと思うとな」
あまり見せない弱さを見せているハジメに、アルテナはそっと傍に寄ると、震えるハジメの両手を優しく包み込むように自分の手を添えた。
「なら、わたくしは、そんなハジメさんを傍で支えれる存在になりたいです」
「……アルテナ」
「わたくしは、ハジメさんが好きです。大好きです」
だって、貴方は私を救ってくれた。
だって、ちゃんと人として見てくれた。
だって、貴方とお話するのが幸せだった。
頬を染め、オレンジの木漏れ日を受けてキラキラと輝く長い金髪がハジメの右手にかかり、美しい碧眼が真っ直ぐハジメを捉えながら、再び告げられた愛の告白。
ハジメ思う。
何故、こんな自分を好きになるような者達がいるのか?
何故、こんな自分を支えようとする者達がいるのか?
何故、こんな
そんな自身を貶めるような疑問を浮かべながら目の前の彼女や自分の恋人達の姿が頭に過ぎる。
「クハッ……なんで、俺を好きになる奴はどいつもこいつも諦めが悪いやら……」
そう呆れたように言うハジメは失笑しつつも、アルテナの頬へ優しく己の手を添えた。突然のハジメの行動にビクッと身を震わし赤面するアルテナ。
「ハジメ、さん」
「決めた。アルテナ。俺は、お前の気持ちを確認したりしない」
「!……はい」
突然のハジメの言葉の意味を察して赤面するアルテナの顔は、燃える夕日よりも更に赤く染まってしまっている。瞳は熱く潤み、期待の光が輝いている。
「アルテナが愛おしい。必ずお前を絶対に守る」
絶対性のない不確かで、ただ、相手を縛り付けるだけの最低な言葉。
だがそれは、アルテナが何よりも聞きたかった言葉。
「だから、覚悟してくれ。アルテナは、もう俺の大切な
「……はい。 はい! わたくしは、ハジメさんの特別ですわ!!」
その言葉に歓喜の笑顔が咲き誇った。森のお姫様とは思えない元気で可憐な笑顔が。
きっと、他の男が今のアルテナを見たなら、種族も貴殿も関係なく、そのハートのド真ん中を撃ち抜かれるだろう。それはハジメも例外ではなかった。気が付けば強くアルテナを抱き締め、ごく自然に唇を重ねていた。
「んぅ………あふぅ……」
ハジメに求められるままに、アルテナは歓喜を震えながら応える。全身が綿菓子のようにふわふわと軽くなり、甘い吐息が漏れ出す。体は熱く、何かが接続し、力が漲ってくるのを感じ、今にも溶け出してしまいそうだった。
「ハジメさん………」
重なっている影が、少し離れた。恥ずかしそうに目を伏せるアルテナ。スっと尖った耳がシアのウサ耳のようにパタパタと上下に動く姿が、凄まじいほどの愛らしさを放っている。
優花の可愛さとは、また違う魅力がある。アルテナの桜色の唇が僅かに開き、舌がチロチロと動く。上目遣いと相まって、何を言いたいのかは明白だ。
アルテナの可愛いらさいおねだりに、ハジメは目を細めた、そして、それを応えようと頬に手を添えながら再び、口を重ね───。
「ふひゃ、まだする気だよ、あの二人! こ、こんなお外で……」
「ちょっ、ちょっと鈴! 声が大きいわよ!」
「そう言う雫も大きいわよ。もう、バレてると思うけど……」
「もうっ、全員うるさいですぅ! アルテナの邪魔をしないでください!」
アルテナの尖った耳がピクッと動く。あわあわしながら身を離し、声の方へ真っ赤な顔を向けた。すると、アルテナに気付かれたことで動揺したらしい。誰かがバランスを崩したようで「ちょっ、ばかっ、押すなっ!」というお約束の悲鳴が上がり、直後、広場を囲う花壇の一角から人がなだれ込んできた。
折り重なるように姿を見せたのは、光輝、龍太郎、鈴、雫の四人。その後ろからやれやれといった表情をしながら優花が、溜息を吐きながらユエが、光輝達を睨みながらシアが、面白そうに笑みを浮かべたティオが、ジッとある場所を見詰めるアレスが現れる。
どうやら、アルテナとの情事を物陰からたっぷり見学していたらしい。
あたふたと起き上がりながら、一番食いついていたっぽい鈴を筆頭に、雫達が顔を赤くしながら視線を逸らしている。
「み、みみみ皆様!? いつからそこに!?」
爆発寸前みたいな赤い顔で、アルテナが動揺もあらわに問いただす。目を活きよく泳がせる雫達に代わり、ハジメが答えた。
「俺が、アルテナと言い合いしてる頃からだな」
「最初からじゃないですかっ! ぜ、全部見られて……ど、どうして言ってくれなかったのですのぉ」
羞恥心からハジメをポカポカと叩くアルテナ。先程までとは違う意味で涙目になっている。
「別に隠すこともないだろう? それに、俺達のことを
「え? そ、そんな何処に……」
突然のハジメの言葉に、驚きのあまり加勢を
「クハッ……いや、そんなキョロキョロしても見つからないぞ? だって、地中にいるからな。な? 出てこいよ、
「え?」
「「「「「!?」」」」」
アルテナの可愛いらしい姿に微笑ましいと思いつつもハジメはその人物の名を呼んだ。アルテナは、樹海の亜人族達を纏めあげた初代女王の名を聞いて間の抜けた素っ頓狂な声をあげ、光輝達はあの人物がこの場にいるなことに驚きを示す。
『フフ、やっぱりハジメ様には気付かれてしまいましたか』
そうリューティリスの声が聞こえた途端、地中から森人族の木のゴーレムが現れた。その姿から光輝達は察する。ハジメの言う通り、大迷宮で出会った解放者の一人リューティリス・ハルツィナだと。
ハジメは、アルテナを抱き寄せながら口を開いた。
「下から知ってる魔力を感じてな」
リューティリスは、ハジメの言葉に微笑むと一礼する。
『流石ですわ。しかし、ハジメ様もですが、アレス様もお気付きだったでしょう?』
そう話を振られたアレスは「ええ」と頷いた。アレスも地中に何かいることは分かっていたらしい。
「まぁ、それはいいんだが、リューティリス。どうして、お前がここにいるんだ?」
ハジメの疑問はごもっともだ。リューティリスは、神代魔法を持つ解放者の一人であり、大迷宮内に留まらないといけないのだ。
ハジメの疑問に頷いた優花リューティリスは、それに応えた。
『ここにいれるのは全て、ハジメ様のおかげですわ』
「は? 俺のおかげ?」
リューティリスの話を要約するとこうだ。
ハジメがハルツィナ大迷宮での最終試練で
そして、リューティリスは、魂魄を大樹に移している為、たとえ【フェアベルゲン】でも、大樹の根が張られてるなら移動できるらしい。
『───というわけでして、樹海全体ならわたくしの移動範囲となったと言うわけですわ』
スケールが物理的にも大き過ぎる話にこの場にいる誰もが唖然とする中、ハジメは口元に手を当てて少しの沈黙の後、リューティリスに視線を向けて口を開いた。
「それで、お前がここに来たのは、生まれながら魔力を持っていないアルテナに
「「「「「「!?」」」」」」
「え!?」
ハジメの言葉に唖然としていた優花、シア、光輝達が驚きの表情になり、アルテナも驚きの声を上げながら両手で口を抑えた。因みに、ユエ、ティオ、アレスの三人は魔法に長けた者だからなのか「やっぱり」と、納得してる表情をしている。
リューティリスは、ハジメの言ったことを肯定するかのように首を縦に動かして口を開いた。
『ええ、その通りでございますわ。ハジメ様のお隣の同族の方が魔力を発現しました。それも特別な魔力が』
リューティリスの言葉に光輝達が息を呑む中、慌てた様子のアルテナがハジメに話しかけた。
「え、えっ、え!? わたくしに魔力ですか?ホントにですの!?」
あわあわと隣で慌てるアルテナに、ハジメは手を握って微笑む。
「アルテナ、少し落ち着け。そして、深呼吸しながら息を整えろ」
「わ、分かりました」
アルテナは、ハジメに言われた通りに深呼吸して息を整えていきながら落ち着きを取り戻していく。
「よし、そのまま自分の魔力の奔流を感じ取れ。そして、魔力を体全体に行き渡るように操作してみろ」
「は、はい!」
アルテナは、集中しようと目を閉じる。
そして、自身の中の魔力の奔流を感じ取った。そして、己の身体全体に流し込んでいくように………
「クハッ……こりゃあ……アルテナ、目を開けてみろ」
「? はい…………!」
ハジメに言われ、目を開けたアルテナ。そして、そのまま目を見開いた。それもそうだ。今のアルテナの体には緑色の魔力が纏っているのだから。
「これが、わたくしの魔力」
『ええ、わたくしも驚いてます。だって、貴女はわたくし同様、大樹に認められた者なのですから』
感動しているアルテナに微笑むハジメだったが、リューティリスの聞き慣れない言葉に流石に「は?」といった表情になる。それは、優花達も同様な表情になっている。
「………リューティリス。どういうことだ?」
『はい、説明しますわ』
一旦、落ち着きを取り戻すハジメか問い質すとリューティリスの説明はこうだった。
以前、聞いた大樹の守護者というのは天職でらしく、リューティリスは大樹の守護者であるが、それは亜人達の女王となった時に手にした〝王の証〟──大樹の枝と特殊な結晶体の複合物の長さ三十センチ程の杖〝守護杖〟で守護者同等の力を出せていただけであり、正当な大樹の守護者ではないらしい。
故に、彼女の天職は〝
リューティリスの説明に全員に沈黙が流れる。が、ハジメがそれを破りリューティリスに聞く。
「それじゃあ、アルテナは大樹に選ばれた正当な守護者ってわけなのか」
『はい。わたくしもこれまでに何人かの守護者がいたことは知ってはいましたが、この目で見るのは初めてですわ』
「そんなに珍しいのか?」
『ええ、大樹の守護者は、〝勇者〟や〝神天治癒師〟よりも希少な職業ですから』
それを聞いたその職業を持つ光輝と優花が驚く。〝大樹の守護者〟はそこまで希少な天職らしいのだ。
「なら、大樹の守護者はどんな能力なんだ?勇者よりも希少な天職なんだろ?」
『そうですわね……守護者の能力は大樹の権能を扱える。つまり、わたくしが〝守護杖〟でやってきたことを杖なしで扱えるようになりますわね』
一つ、大樹への干渉。
一つ、白霧の操作。
一つ、大樹の領域内の草木の再生。
一つ、日光の取り入れから日照時間関係なく作物が育つ土壌の作成。
そして、その四つをリューティリスは、更に〝昇華魔法〟が加わえたことで歴代最強の権能を振るえるらしい。
「そりゃあ、強えな………」
ハジメが引き攣った笑みを浮かべるも、若干、引いている。それもそうだ。つまり、アルテナは先程のリューティリスが説明した権能を扱えるというのだから。
すると、リューティリスが何故か申し訳なさそうに、そして落ち着きがない様子を見たハジメ達が訝しむ。
同じように気付いたユエもジト目を送りながらそんな挙動不審な態度のリューティリスを問うと、オドオドしながらもリューティリスは口を開いた。
「………まだ、何かあるの?」
『は、はい……。え、えと……皆様は、わたくしの〝昇華魔法〟の魔法陣を何処に刻んでいるか知ってますわよね?』
「うむ、大樹に刻んだのじゃろ?……ん、大樹?…………まさかっ」
ティオを初め、察しがついた者達がリューティリスへ一斉に視線を向ける。当の本人は視線の意味を理解してるが故に素直に答えた。
『えと、はい……。今のアルテナさんには、わたくしの〝昇華魔法〟を会得していますわ』
なんと、リューティリスが刻んだ〝昇華魔法〟の魔法陣が大樹の一部と捉えられたらしく正当な守護者のアルテナは〝昇華魔法〟を大迷宮を攻略せずに得れたらしい。
「な、なら、今のアルテナはリューティリスさんと同等の力を扱えるのですか?」
シアの言葉にリューティリスは首を横に振る。
『いいえ、彼女はまだ魔力が発現したばかりです。まだ一つの権能も扱うことも難しいでしょう。わたくしの〝昇華魔法〟も……』
その言葉に、アルテナが少し残念そうにシュンとなるが、リューティリスが『まだ、言い終えてませんよ』と言って言葉を続ける。
『しかし、実力をつければ貴女は、わたくし以上……歴代最強の守護者になることは間違いありませんわ』
アルテナがぱぁっと明るい表情になる。優花達も、特にシアなんかは「流石、アルテナですぅ!」と何故か自分のことのように喜んでいる。
「わたくしが歴代最強………」
『ええ、ですからアルテナ。元々、魔力を持っていなかった貴女には二つの選択があります。一つは、このまま現状維持。もう一つは、わたくしの教えのもと厳しくはありますが、大樹の権能と神代魔法を扱えるようにしていくの二択がありますわ』
リューティリスは選ばせる二つの選択を。
───このまま、ただの森人族の長老の孫娘のアルテナでいるのか?
───リューティリスの教えのもと、大樹の守護者のアルテナでいるのか?
前者を選ぶなら、今までと変わらない生活が待っているだろう。しかし、後者を選ぶなら力を得れるも大樹の守護者として戦に赴かなければならない。
『どうします? アルテナ・ハイピスト。わたくしは貴女の意見を尊重します』
リューティリスは、アルテナを見る。そこから感じるのは解放者の一人として、大樹の守護者として彼女が自分の後釜となるのかを見極めるため。その一言がどれ程の重さなのかをこの場の全員が感じ取り息を呑む。アルテナは手すら震えている。
「おい、リューティリス。少し───「お願いします」……は?」
ハジメが考える時間を設けるために少し待ったをかけようとしたが、それよりもアルテナの答えが早かった。
『……本当にいいのですね』
「だって、守られるだけじゃ嫌なんです! わたくしだって、シア達とハジメさんと一緒に戦いたいんです! わたくしの力でハジメさんを、親友を守りたいんです!」
「……アルテナ」
アルテナの言葉に、シアは嬉しいのかウサ耳をみょんみょんさせ、ハジメは笑ってそっとアルテナを抱き寄せた。でも、少し心配そうな表情をしている。
「本当にいいのか? 俺はお前が支えてくれるだけで嬉しいんだが……」
「いいえ。わたくしだって、ハジメさんの支えになりたいんです。ひ、一人の恋人として」
アルテナの自分を愛してるからこそ実力をつけて支えたいという言葉に、ハジメは嬉しさのあまり、再び、アルテナの頬に手を添えて自分の顔を近付けていく。
「アルテナ」
「ハジメさん」
名を呼び合い、二つの唇が重なろうと……
『ウォッホンッ』
したが、リューティリスの咳払いによって止められ、ハッと我に返ったアルテナは恥ずかしさのあまりプシューと湯気が出るほど顔を赤面させる。
そんなアルテナの姿を見ながらリューティリスは、少し恥ずかしそうにしながらも即座に気持ちを切り替えて口を開く。
『言質は取りましたわ、アルテナ。わたくしの
「ええ、お願いしますわ。リューティリス様!」
そう言って、アルテナはリューティリスの弟子となるのだった。
その後は、アルテナがシア達の方へ向かいハジメと恋人なれたことを感極まりながら抱き締め合ったり、ハジメがリューティリスに疑惑の眼差しを送りながら「修行は良いが、アルテナに変なことを吹き込むんじゃねぇぞ」と、真顔で忠告されたことに『何故か、わたくしに辛辣〜!?』と自分の信頼の無さに落胆の声を上げながら少し興奮してるリューティリスであった。
なんだかんだ事が終わり安堵するハジメ。と、その時、ハジメ達のやり取りを所在なさげに見ていた鈴が、一段落ついたと見てか、どこか緊張したように表情を改めて始めた。まるで、タイミングを見計らっているようにそわそわと視線を彷徨わせる。
鈴の様子を横目に、ハジメは尋ねた。
「で? 揃いも揃って出っ歯亀していたのはなんでだ? 晩餐に呼びに来るには、まだ少し早いだろう? 何か用事でもあったか?」
「え〜と、それでなんだけど、優花達とは偶然会っただけよ。私達の方は………」
雫が困惑したような表情でその視線を鈴に向ける。
どうやら、珍しいことに、ハジメに用事があるのは鈴らしい。ハジメを捜している途中で、偶然、こちらに向かう優花達と合流したようだ。
やたら緊張した、されど決然とした眼差しを向けてくる鈴に、ハジメは怪訝な顔をする。
そんなハジメに向かって鈴は一歩前に進み出た。
「南雲くん。あのね、次の大迷宮に、鈴も連れていってくださいっ。お願いします!」
ガバッと頭を下げながら頼み込む鈴の姿に、どうやらハジメに何を言う気か聞いてなかったらしい光輝達が驚いたような表情を向ける。
ハジメもまた、仮にその手を頼みをしてくるとしたら光輝辺りだろうと思っていたので、真っ先に頼み込んできた鈴に僅かな驚きを見せた。
「鈴、それは………」
「光輝くん、ごめん。これは鈴個人のお願いだから口を挟まないで」
大迷宮から帰ってこの方、随分と暗い雰囲気だった光輝が鈴の言葉に思わず反応するが、それをいつにない強さを以てピシャリと止める鈴。
雫達もまた、連れていって欲しいのがパーティー全員ではなく鈴個人だと分かり、再び瞠目した。
「そいつはまたなんでだ?別に付いてこなくても、俺がアーティファクトを強化をしてやれば大して問題ないだろう?」
「うん、確かにそうだよ。でも、南雲くんは……」
そこで一端言葉を止めると、鈴は、その名を呼ぶことを少し恐れるように、僅かな躊躇いの後、口にする前にハジメが口にした。
「……中村と白崎のことか」
「……うん。恵理とカオリンのことまで、手を貸してくれるわけじゃないよね?」
鈴の問いに、恵理と香織は最愛の優花が一度、死んだ要因の一人のため苦い表情を浮かべてると、鈴は困ったように笑みを浮かべる。
「南雲くんの気持ちも分かるよ。でも、鈴はもう一度、恵理と会ってお話がしたい。そのためには力がいる。だからね、大迷宮にもう一度挑戦したいんだ。それで結果はどうなっても、生きて出られたら……そのまま魔人族の国に行こうと思う」
「鈴っ、それはっ」
雫が、思わずといった様子で鈴の肩を掴んだ。単身で魔人族の国【ガーランド】に行こうなど、友人としてとても許容できるものではない。だが、雫を見上げる鈴の眼差しには僅かな揺らぎもなかった。その瞳に宿る決意の強さに、雫は思わず気圧されて手を離してしまった。
一方で、ハジメは「なるほど」と納得していた。
香織と恵理を説得して連れ戻すにしろ、改めて決別にしろ、一度王都に戻るより、ハジメ達に同行して【氷雪洞窟】に挑んでから、そのまま恵理と香織がいると思われる魔人族の本拠地──所謂、魔王城に乗り込んだ方が効率的だ。
何せ、【氷雪洞窟】がある【シュネー雪原】は南大陸の東側。南大陸中央にある【ガーランド】とはお隣である。鈴は、ハジメが恵理と香織にも思うところがあるのは理解している。
ハジメが【氷雪洞窟】を攻略した後、本格的に神との戦いを望むとならば、それを邪魔する者が誰であっても遠慮はしないだろう。
鈴が自分の望みを果たすためには、たとえ力不足でも、単身でも、無茶無謀であっても………
視線をハジメに戻した鈴は、必死さの滲む声音で更に頼み込んだ。
「それでね。それで、もし、もし恵理とカオリンを連れて戻ることが出来たら……その時は、恵理もカオリンも一緒に日本へ返して欲しい。お願い! お願いしますっ!!」
「…………」
鈴の悲鳴じみた懇願が木霊し、そのまま誰も何も言えず静寂が下りた。
正直な話、ハジメとしては愛してる優花を一度死なせた原因である二人を許すつもりはない。しかし、殺す気もない。優花にも強く言われてるからしない。
だから、ハジメの中では、既に中村恵理と白崎香織という二人の少女のことなどはどうでもいいのだ。だが、そう言ってあの二人を無視すれば必ず面倒なことが起こるのは確か。
と、その時、ずっと黙り込んでいた光輝が口を開いた。
「南雲、俺からも頼む。恵理の目的は俺だ。いや、俺こそがあいつと話をしなきゃならない。香織のこともある。鈴を一人でガーランドに行かせるわけにはいかないし。それに………」
グッと唇を噛み締めて握り締めた光輝は、どこか鬱屈した雰囲気を纏いながら吐きだすように言葉を放った。
「このままじゃ、終われないんだ。雫だって神代魔法を手にできたのに、俺はっ。次は、次こそは必ず力を手にしてみせるっ!あんな精神攻撃ばかりしてくるような卑劣な場所でなければ、俺だって攻略できたはずなんだ! 次に行く大迷宮は、フリードって奴も攻略できたところなんだろ? なら、俺だって必ずっ!」
『……卑劣って、酷いですわ!?』
「………光輝」
自分の迷宮の悪口を言われて声を上げるリューティリスと拳を震わせ、声を荒げる光輝に、雫が心配そうな眼差しを向ける。
光輝が手にできなかった神代魔法を、雫は会得した。そのことに、光輝が複雑という言葉では全く表現しきれない暗い感情を抱いていることが、雫にはよく分かった。
それ故に、帰還後も何かと気にかけていたのだが、果たして、どんな言葉をかければいいのか。
どこか危うい幼なじみの姿に、雫は不安を隠しきれない様子だ。
「ま、確かに、鈴を一人で行かせるわけにはいかねぇな。恵理の奴も、香織の奴も、一発どつかねぇと俺の気が済まねぇし。南雲、悪いが、いっちょ頼むわ! このとぉ〜り!」
仲間が行くなら俺も行くぜ!的なノリで快活に頼み込む龍太郎。
意図してか、それともただの天然か。やたらと明るい雰囲気の音声に、少し救われた気持ちで雫は微笑んだ。そして、雫もまた、申し訳なさそうな顔をしながら、ハジメ一人頭を下げた。
「南雲君、その……お願いできないかしら?」
ハジメは、雫達の決断に涙ぐみながらも必死な眼差しを向ける鈴と、どこか感情を押し殺したような光輝、おそらく意図して明るく振舞っている龍太郎、光輝や鈴を気遣う雫に視線を巡らせ、一度深い溜息を吐く。
そして、ガリガリと頭を搔くと、微妙に嫌そうな顔をしつつも答えを返した。
「………中村、白崎のことは、お前等に任せる。止めるなり、説得するなりしろ」
「南雲くん! ありがとぉ!!」
鈴がパァと顔を輝かせた。雫達もほっと肩から力も抜く。
「クハッ………ああ、クソ。もうすぐ神共と殺り合うっていうのに……気、引き締めねぇと」
そう独り言ちるハジメ。
【氷雪洞窟】を攻略し、最後の神代魔法を会得した後、神を殺すための概念魔法を生み出すのに、どれくらいの時間がかかるかは分からない。それに複数の概念魔法が必要なことも考えると、それなりの時間を要するだろう。
それに、〝昇華魔法〟のおかげで地力も上がっている。光輝達の存在が、今以上に足手まといになるということもないだろう。
などと、つらつら言い訳じみたことを考えてしまう辺り、気が緩んでしまってるのか。つい自嘲してしまったハジメに、ポンと肩に手を置かれた。
「ハジメ殿。貴方はそこまで自分を厳しくしなくても大丈夫です。また一つ、強くなったと捉えればいいです」
「アレス」
「それに、貴方を必要とする者達がいます」
そうアレスに言われた直後、ハジメの手に何人かが、ハジメの手に触れる。
顔を上げるとそこには……
「大丈夫よ、私がずっと傍でハジメを支えるから」
ハジメの手をそっと優しく包み込む優花が。
「………ん、ハジメには私達がいる」
そう言って微笑むユエが。
「私だって、ハジメさんの力になりますよぉ!それに私がいれば無敵同然ですぅ!!」
自信満々に意気込むシアが。
「安心せよ。ハジメも、優花達も、全員まとめて我が黒鱗で守ろうぞ。ふふ、シアの言う通り、妾達は無敵じゃな?」
経験と強靭な意志に彩られたティオが。
「わ、わたくしも、絶対に力になりますわ!」
あわあわしながらも、そう宣言するアルテナが。
「私も、この力。存分に振るいましょう」
笑って拳を握り締めるアレスが。
そう口々に言葉を重ねる仲間達の姿を見てハジメの心が引き締まる。
旅の、終わりが見えてきた。
神という名の障害が、立ちはだかるだろう。
五神という名の困難が、襲いかかるだろう。
けれど、ああ、確かに、とハジメは思った。大切な者達と共にある限り、自分達は無敵に違いない、と。
ハジメはふと口にした。
「神殺しが終わったら、ミュウを迎えに行ってやらないとな」
それもまた、ハジメが交わした大切な約束。びっくり箱のような地球という世界を、愛娘に思う存分見せてやりたい。
カム達ハウリア族は、どうしようか? ティオの家族は? アルフレリックにはどう説明しようか?少なくとも、一度は会いに行くべきだろう。
日本で、両親はどうしているだろうか。息子が、異世界から恋人達や娘を連れて帰ってきたら、どう思うだろう。
「クハッ……参ったな。神殺しをしてないのに、考えるべきことは増えてやがる」
そう言うハジメの表情は、しかし、いつもの不敵な笑みではなく、どこか穏やかさで彩られていた。
けれど問題はない。
そんなハジメの姿を、優花達がしっかり見ている。嬉しそうに、愛しそうに、慈しむように、温かな眼差しで。
寄り添う彼女達と仲間がいる限り、南雲ハジメの牙が折れることは決してない。
ハジメは自覚なく、けれど楽しそうに〝未来への展望〟を考えながら、遙か空へ目を向けるのであった……。
これで第七章は終幕です( *¯ ꒳¯*)
次回は幕間です。