ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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最近、忙しくて投稿が予定より遅れてしまう……
( ; ˘-ω-)


幕間 終末の始まり

 

魔人族の国【ガーランド】

 

その魔王城の外れにある訓練場に、殺気と獣の雄叫びが響き渡っていた。だが、その訓練場には一匹も獣はいない。代わりに獣のような〝人〟がいた。

 

奇妙な光景であった。

 

ここは魔人族の国だ。ならば、そこにいる〝人〟は魔人族であるはずだ。にもかかわらず、彼等は皆、体のどこかに獣の特徴──耳や尾のみならず、牙や爪、瞳孔の割れた目など持っていた。

 

その動きは獣じみた敏捷性と、人間族や魔人族には有り得ない膂力を有しているようだ。今も、拳の一撃で鋼鉄製の鎧が凹み、地面を叩いた剣が深い溝を作っている。

 

どう見ても亜人族だった。

 

だが、亜人族であるはずがない。なぜなら、彼等が魔法を使っていたからだ。亜人族の如き身体能力に、人間族や魔人族の如き魔法の行使……

 

そして、もう一つ。

 

殺意を迸らせ、獣の咆哮を上げながら戦闘訓練を受ける彼等は、しかし、一人の例外もなく………

 

──目が虚ろであるのだから。

 

生きている者の輝きが微塵も感じない。意思すらも見えない、文字通り、死んだ目だ。

 

「………外道が」

 

訓練場に隣接するテラスから彼等を見下ろしていた男──フリード・バグアーが、嫌悪の滲む声音で、そして、自身を責め立てるように呟いた。

 

風にさわられそうな小さな呟きは、しかし、この不気味で歪な光景に作り出した下手人に、しっかりと拾われた。

 

「あれれ〜? フリード、どうしたの? 僕の成果を見に来てくれたのかな?」

 

中村恵理。白崎香織と共に同郷の仲間と王国を裏切り、王国騎士団に壊滅的打撃を与え、王国の重鎮達を殺す計画を立てた張本人。いつの間にか、テラスの入口に背を預けて、人を食ったようなニヤニヤ笑いを貼り付けてフリードを見ていた。

 

「……恵理。侮るな、私の認識に干渉しても無駄だ。それに、その行為をするということは裏切りを疑われたいか?」

 

言外に、前科者に信用があると思うなと、痛烈な批判が飛ぶ。実際、天職〝降霊術師〟たる恵理は、降霊術が闇属性魔法の最高難易度魔法であるが故に、闇属性魔法全般に反則じみた適性を持っている。

 

何せ、死者の魂を縛り、意のままに操る〝縛魂〟というオリジナル魔法を作り出すほどで、それ即ち、自力で神代魔法の領域に手をかけたということでもある彼女をフリードは警戒しないわけでもなく、認識を干渉をされたことを察すると、わざと背後を取らせていたのだ。

 

フリードの殺気と共に忠告を受けた当の恵理は、

 

「まぁまぁ、そんなにカリカリしないで。僕はか弱い女の子なんだよ〜? でも、流石は魔人族の将軍様。認識を干渉させても勘づかれるし、さ〜」

 

相変わらず、ニヤニヤと笑いながら、あっさりと受け流しながらもフリードの侮れなさに感心している。フリードは、訓練している者達をチラリと見やり、内心で「戯言を」と吐き捨てた。

 

「香織はどうした?」

 

「あ、香織? あの子は今、あのエクストラって神のところに居るよ? あ、もしかしてぇ、香織に会いたかったの〜?」

 

「いちいち、突っかかるな。いつも貴様と隣にいたのに姿が見えないのでな。気になっただけだ」

 

「えー、つまんないな〜」

 

恵理の煽りを軽くあしらうフリードの対応に、少しつまんなそうな表情をする恵理。

 

白崎香織。恵理と共に同郷を裏切った一人。天職は〝治癒師〟で、その同郷の中でも随一の回復魔法を扱えると聞いている。フリード自身もその洗練された回復魔法を見て実力は認めている。

 

「まあ、香織のことは置いとて〜。どう、私の屍獣兵(しじゅうへい)……お気に召してくれたかな」

 

「……人道的に反するが、戦力としては申し分ない」

 

「律儀だねぇ〜。そんなに嫌そうな顔をしないでよ。フリードが手を貸してくれたから(・・・・・・・・・・)、こんなに立派に育ったんだよぉ?」

 

悪意を隠しもしない、ねっとりこびりつくような声に、フリードは目が吊り上がり怒りが込み上げるも、湧き上がる怒気を強制的に自制するために自身の奥歯を噛み砕き無表情を貫く。

 

だが、フリードは恵理の言葉に否定はしない。

 

これは、自分の罪なのだから。

 

───屍獣兵

元王国騎士団達の遺体に、フリードがアルヴ達からの命令で魔物の特性を取り込ませ、恵理が降霊術と併せて魂を縛り作り上げた、恵理の私兵団。

 

死してなお、魂ごと弄ばれるように使われる彼等に自分が何もできなかったことへの後悔を、恵里には嫌悪と怒りを感じフリード自身も何もできずに手を貸してしまったことの己への怒りが湧き上がるも下唇を噛む。

 

そんな無表情を貫くフリードに、つまらなさそうに鼻を鳴らした恵理は、ニィッと下卑た笑みを浮かばせながら、話題を変えて問うた。

 

「そうえばさ、フリード、知ってるぅ? 使徒ちゃん達の行方?あんなにうじゃうじゃいたのに、今朝から一匹も見かけていないんだけどぉ?」

 

恵里をして、心胆を寒からしめたもの

───〝神の使徒〟五百体の顕現。

 

それはまさに、神判そのもの。

 

それを見て、恵理は確信したものだ。自分の選択は間違っていなかったと。あんなもの、逆らったところで意味はない。軽く消されて、それで終わりだ。

 

たとえ、あの化け物であっても。

 

「確か、メイン以外の招待客を迎えに行ったと聞いたぞ」

 

そんな返ってきたフリードの返答。そして、彼の魂の色を見て驚きの余り目を見開いた恵理だったが、何かを確信したのか深く口角を上げ、ニィッと笑った。

 

「やっぱり、裏切り者(・・・・)は君だったんだぁ。フリィ〜ドォ!」

 

「何を言って───っ!」

 

恵理の言葉に憤りを見せるフリードだったが、突然と膨大な魔力が自身の真上から感じ取ってすぐにバックステップで今の位置から離れる。

 

直後、先程まで、フリードがいた場所を中心にテラスを吹き飛ばす程の銀の極光が降り注いだ。

 

「誰だ!」

 

その光景を目にしたフリードは叫びながら上を見上げると、自身の目に写ったものに唖然とし顔を酷くしかめる。

 

「っ! 何故、貴様等がこの場所にいる!?」

 

フリードの視線の先には、百を超える神の使徒達の姿。

 

そして、

 

「フリード、私は悲しいよ。まさか、裏切り者が自分の腹心だったとはね」

 

黒色の軍服とケープを纏い漆黒の兜を被った人物。

───魔神〝アルヴヘイト〟

 

「………流石は、数々の大迷宮を攻略しうる実力を持つ者ですね。次は、ちゃんと狙いなさい香織」

 

美しい銀の髪に、純白の戦乙女の如き装束と背に生えた濁りなき白の翼を持つ女神。

───聖母神〝エクストラ〟

 

「もう、分かってるよ! だって、この姿になって間もないのに、いきなり実戦なんだもん。ミスしちゃうよ!」

 

隣には、初めて会った時は黒髪だったが、今は白髪へと変え、使徒達と変わらない姿となった白崎香織の姿も見えている。

 

「………嵌められたか」

 

フリードはそう憎々しげに呟きながら、目線を動かしながら自身の周りと上を見る。

 

空は、エクストラ達をはじめとした使徒達が。

 

陸は、いつの間にか訓練場から移動して、自分を中心に囲むように包囲した屍獣兵達が。

 

全ての行く手を阻まれた状況に置かれたフリードは、苦笑いを浮かべながら口を開いた。

 

「逃げ場なし、か………」

 

「アハハ〜。残念だったねぇ、フリ〜ドォ。ずっと隠していたぽいけど、女神エクストラの前と私の魔法〝魂色〟には流石に隠し通せることは無理だったねぇ」

 

「……やはり、あの時点で疑われていたか」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべながら話す恵理の言葉に、フリードは思い出す。エクストラと初めて会った際、あの何も感情がない人形のような冷酷な目が自分に怪訝な眼差しを送っていたことを。

 

すると、上にいるエクストラは、表情を変えずに無表情なまま見下すような眼差しで何も感情がこもっていない冷淡な声音でフリードに話しかけた。

 

「フリード・バグアー。貴様一人だけの裏切りなのは到底、有り得ません。誰が仲間なのか答えなさい。さもなければ……」

 

「さもなければなんだ?」

 

「四肢が失う覚悟をしてください。普通であれば死を与えるだけですが、貴様は我が主の数少なき興味の対象。そして、神代魔法の使い手は利用価値がある」

 

フリードの問いに淡々と答えるエクストラ共に突き刺さる冷酷な眼差しに普通なら恐れ慄く神の言葉に対して、フリードは手で顔を覆うように当てながら声高らかに笑った。

 

「クハハハハっ」

 

誰もが沈黙している中、フリードが笑い声が訓練場に響き渡る。恵理などは最悪の状況のせいで精神がとち狂ってしまったのかと思ってしまうほどだ。

 

「ハハハハハハっ────はぁ」

 

「「「「っっ!?」」」」

 

一通り笑い終え息を吐いたその瞬間、フリードを中心に放たれる赤紫色の魔力の奔流に空気が凍った。

 

突然と、空気が一気に変わったことに慣れていない恵理と香織は背筋が凍ってしまったと思うほど体が震え、アルヴはこの張り詰めた緊張感に息を呑む。エクストラはというと「ほぅ」と、感心の声を漏らした。

 

そんな様々な反応を見せる中、フリードが口を開く。

 

「随分と舐められたものだな。私が、大切な部下達を危険に晒すような真似をするわけないだろう」

 

「……フリード・バクアー。まさか、貴様一人でこの数を相手取るというのですか?」

 

エクストラの言葉に対し、フリードは手を空を切るように横一直線に薙ぎ払う。直後、空間がズレると共にフリードを包囲していた一部の使徒と屍獣兵が細切れになっていく。エクストラは使徒達を細切れにした不可視の斬撃を指で弾いて防ぐ。そして、アルヴ達が驚愕する中、エクストラを睨み付けながらフリードは口を開く。

 

「これが、私の答えだ。邪神共」

 

空間魔法〝千断〟

 

その威力と早さ、そして無詠唱であることにアルヴ達は驚きを隠せない。一方、エクストラは表情は変わらずも〝千断〟を防いだ自身の指が肉を切られ骨にまで届いてることに僅からながら驚いた。

 

「空間魔法を無詠唱………そして、この威力。隠していたのですね。本来の実力を」

 

「ああ、だが、もう隠す必要は無くなったけどな」

 

そうフリードは吐き捨てると、懐に閉まっていた小瓶を握り潰してから腰に携えた魔剣ではない剣を手に持った。それを見た恵理、香織、アルヴ、使徒や屍獣兵達も戦闘態勢に入りだす。

 

エクストラも侮れない敵と判断したのか周りに十二の白銀の杭〝聖杭〟を出現させる。

 

そんな絶望的な戦況にフリードは思う。

 

今、ここに相棒(ウラノス)やカトレア達、信頼を置ける部下達も居ない時を狙った完全なる自分を逃がさないための包囲網。

 

だが、寧ろ自分だけで良かったかもしれない。もし、ウラノス達がいたとしても戦闘となっただろう。そして、こちらが多く倒しても神達にとっての被害は一割あるかどうか。逆に自分達側が致命的なダメージを受けた筈だろう。

 

既に、カトレア達の脱出要請を伝える小瓶の中に隠していた魔物によって信号は出している。神との決戦が近い中、ここで戦力がガタ落ちするのはまずい。

 

せめて、自室の研究資料やウラノスと共に避難用の隠し集落に行ける間の時間稼ぎ程度にならないといけない。

 

「最悪、奴の腕一本ぐらい持っていくか。──〝魔剣化〟」

 

ポツリと呟いてフリードの手に持つ剣の刀身は黒く染まり魔剣と化す。そして、空から此方を見下ろす相手を見る。

 

自分は死ぬかもしれない。

 

なのに何故だろう。

 

恐怖はない。

 

悲しくもない。

 

ただ、笑ってしまうのだ。

 

───それは、獣のように。

 

───それは、内に秘める本能に身を任せた獣のように。

 

それは、【グリューエン大火山】で初めて会ったあの男(南雲ハジメ)のように、口角が自然と上がり弧を描くようにフリードは不敵な笑みを浮かべていた。

 

その笑みを知る恵理、香織、アルヴは目を大きく見開く。エクストラは表情は変わらないが、フリードの笑みに疑問を感じ、その放たれる圧に警戒する。

 

「なぜ、笑っている。頭がおかしくなったのですかフリード・バグアー」

 

「いや、気にするな」

 

そう言ってフリードは、手に持つ黒剣に蒼い炎を纏わせると剣先をエクストラに向けた。そして、力強く、ずっと約十年近く嘘だらけであった言葉ではなく、内なる心に秘めた本心から口にしたかった言葉を曝け出すように宣言した。

 

「私の名は、フリード・バグアー! 世界を救うために戦ってきた解放者達の意志を引き継ぎ、貴様等、神々を地に引き下ろし、討つ者である!!」

 

魔人族を自由に。

 

他の種族との共存が出来る理想の世界に。

 

自由な意志であるべき世の中に。

 

大切な人達が幸せに笑っていけるように。

 

故に、彼女達と、亡き親友との約束を信頼できる彼等に託して自分はその礎の一つとなろう。

 

魔人の英雄が敵陣に向かって地面を踏み締めて駆け出した。

 

未来の為に…………

 

勢いよく地面を蹴り上げ、〝重力魔法〟で宙を舞い、蒼炎纏う黒剣を両手で握り締め大きく振り上げた。

 

「さぁっ、邪神共よっ! 私の泥臭い時間稼ぎに暫く付き合って貰おうかっ!!」

 

直後、魔王城が大きく揺れるほどの膨大な魔力余波と共に国全体に響き渡るほどの戦闘音が半日以上鳴り続けるのであった……。

 

 

 

同時刻、ハイリヒ王国 王都

 

先日、大迷宮から帰還した浩介達も加わったおかげで、ハイリヒ王国は防衛面も上がり復興も順調であった。

 

「腕を上げたなっ、浩介!」

 

「まぁ、大迷宮を攻略をしたっすから、ねっ」

 

現在も、野外訓練場で浩介とメルドが一対一の模擬戦を行っており、来たるべき戦いに備えるべく浩介達は鍛錬を怠ってなかった。周りも兵士やクラスメイト達(主に男子)も応援や同じように鍛錬や模擬戦などを行っている。

 

 

場面は変わり王都の中心では、五日ほど前に帰還したリリアーナは妙子と奈々達共に王都の復興の手伝いをしており、今は休憩でヘリーナが淹れた紅茶と共に楽しく談笑していた。

 

「それで、リリィもハジメっちに惚れちゃったわけ?」

 

「え、あ、はぃ……」

 

「やっぱり、女タラシねハジメの馬鹿は」

 

奈々の言葉に、頬を真っ赤に染めながら肯定するリリアーナに、妙子は呆れ、今はいない幼なじみの顔を思い浮かべて苦笑い共に溜息を吐く。周りには鍛錬に出てない他の生徒達やリリアーナの護衛で来た副団長のクゼリーと数名の騎士達、王都の住人達も復興に取り掛かったりと活気立っていた。

 

そんな平和な時間が唐突に終わりを告げるなんて誰もが予想してはいなかった。

 

 

「───!」

 

突如、メルドと模擬戦をしていた浩介の手が止まる。それを見たメルドも同じように手を止め、首を傾げた。

 

「どうしたんだ浩介? まだ、模擬戦中──っ!?」

 

メルドが言いかけようとした直後、【神山】から膨大な魔力を感じ取り、こちらに向かってきていることに気付く。そして、動きを止めていた浩介が焦った表情で呼びかける。

 

「メルドさん!!」

 

浩介の焦った声に、ああ、と頷いたメルドは、瞬時に訓練場全体に聞こえるよう周りの騎士や生徒達に指示を出す。

 

「お前達、神山の方から何かが来るぞ! 数人は急いでリリアーナ姫達の元へ向かえ! 残る者は今すぐに戦闘態勢に取り掛かれ!!」

 

メルドの突然の呼び声で訓練場にいた全員の手が止まり緊張が走る。そして、数人の騎士と清水を中心とした数人の生徒達がリリアーナ達の元へ向かい、残った者達は武器を手に取った。

 

その瞬間だった。

 

「どう足掻いても無駄です」

 

「「───」」

 

空から何の感情も伝わらない声が聞こえた。そんな怖気を振るうほどの綺麗な声に聞き覚えがある浩介とメルドは冷や汗が吹き、心音の激しさが増す。

 

そして、別の場所でリリアーナ達も空を見上げると、そこには、王都の一部の空を銀に輝く翼が覆い尽くし、幻想的な光景が広がっていた。

 

神の使徒総勢二百体が天から王国に舞い降りた。

 

その中から一体の使徒が浩介達に降り立つ。

 

その使徒は、空にいる使徒達と同じであって同じでないような雰囲気を感じさせる。そして、確実に他と違うのは彼女の周りを浮遊する四つの銀色の魔力が纏う杭と輝く白金の髪がものがったている。

 

誰もが、開いた口が閉まらず、唖然とする中、無機質な、まったく感情を感じさせない声音が訓練場内に響く。

 

「御初に御目に掛かります主の駒達方。私の名は、神の使徒〝エアースト〟と申します。今回は、主に選ばれた貴方様方をお迎えに上がりました。抵抗するのであれば、此方も相応な対応を取りますので、お見知り置きを」

 

そう告げるエアーストの声が訓練場に透き通るように響き渡るのであった……。

 

 

────ライセン大峡谷 大迷宮入口

 

その上空に浮かぶ、銀の輝き。

 

深き迷宮の最奥で、仲間が残した外の情景を見るアーティファクトを見やる、小さなゴーレムが呟いた。

 

「……とうとう始まったみたいだね。私の長かった旅も、ようやく終わりかな?」

 

小さなゴーレムに重なるようにして、宿る魂の幻影が現れた。

 

金色の髪と蒼穹の瞳を持つ少女───ミレディ・ライセンは、ウザさも、ふざけた様子もない、透明な表情で天を仰いだ。

 

 

───遥か西の海 海上の町エリセン

 

桟橋に一人の女性がいた。手にバスケットを持ち、ほんわり微笑んでいる。周りの男性達がチラチラ視線を向ける中、女性──レミアは、海へ大きく呼びかけた。

 

「ミュウ〜〜〜〜! お昼ご飯の時間よ〜〜〜!」

 

途端、「んみゃ!」と、猫のような声を上げて、海面から飛び出す小さな影。まるで、水の中こそ自由! と言いたげに、スイスイと泳いで戻ってくる。

 

「ママ、お昼ごはんはなぁに?」

 

「ミュウの好きなものよ?………お肉じゃなくてお魚なのは許してね?」

 

ザバッと海から上がり、母娘揃って桟橋に腰掛ける。バスケットから出てきたのは、お魚の串焼き。串焼きはミュウの大好物だ。

 

串焼きであれば、刺さっているものはなんであれ、大体許せる。

 

だって串焼きは、あの日、シアお姉ちゃんやパパと出会った日に、初めて食べた忘れ得ない食べ物なのだから。

 

はむはむっと串焼きを頬張るミュウに、愛しさに溢れた眼差しを向けるレミア。そんな二人の耳に、戸惑う男達の声が聞こえた。

 

「あれ? なんだ? 空に……誰か、いる?」

 

レミアとミュウが、二人揃って空を見上げた。

 

確かに、いた。

 

太陽を背に、銀の翼を広げる者が。

 

無機質な瞳で、母娘を見下ろしながら…………

 





次回は番外編です( *¯ ꒳¯*)
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