ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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六話 悪夢の始まり

 

翌日、【オルクス大迷宮】に向かう前にハジメと優花は浩介達を呼ぶと、昨夜の出来事を伝えた。

 

「「付き合うことになった(なりました)」」

 

「えぇーー?!」

 

「「………やっとか……」」

 

顔を赤くして手を繋ぎながら結果報告する二人に対して聞いた三人の反応は奈々は純粋に驚いていたが浩介と妙子は「やっと付き合うのか」と呆れていたのだが祝福してくれた。

その後、迷宮での訓練が終わったら五人でどっか食べに行こうとか話し合ったのだった。

 

そして、ハジメ達は今【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。

 

ハジメとしては薄暗い陰気な入口を想像していたのだが、まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

 

なんでも、ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろう。 

 

入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。まるでお祭り騒ぎだ。

 

浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があるようで人も自然と集まる。馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。そして、ハジメ達はメルド団長の後を追いながら迷宮へと入った。

 

迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁だった。縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 

「おお……」

 

後方を歩くハジメは、特殊な鉱石がある迷宮を進んでいく内に、目を輝かせながら明かりに使われてない緑光石を採取していた。

 

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだった

 

「へぇ……」

 

ハジメは、奥から何か来ると感じて、自分のパーティーの優花達を手で制止のサインをすると、それを見た優花達もハジメの後ろで止まる。

 

「ん?……どうしたのハジメ?」

 

ハジメのサインにキョトンと首を傾げる優花が声をかける。すると、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

 

「気持ち悪りぃ」

 

ハジメはラットマンを見て気持ち悪く感じた。それは、正面に立つ光輝達──特に前衛である雫やハジメの後ろにいる優花達も頬が引き攣っている。やはり、同じように気持ち悪いらしい。

 

間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、香織と特に親しい女子二人、メガネっ娘の中村恵理とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

 

光輝は純白に輝くバスタードソードを視認も難しい程の速度で振るって数体をまとめて葬っている。

 

「あれが、聖剣ね……」

 

その戦闘シーンを見ていたハジメは光輝よりも彼が持っているバスターソードに目がいっていた。光輝の持つその剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、お約束に漏れず名称は〝聖剣〟である。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というには実に嫌らしい性能を誇っている。

 

龍太郎は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

 

雫は、サムライガールらしく〝剣士〟の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどである。

 

「……」

 

流石は高ステータスの集まりというべき無双しているが、見るところどころ連携に穴があるな、とハジメは光輝達の戦闘を考察していると、詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて 敵の尽く焼き払わん 灰となりて大地へ帰れ──〝螺炎〟」」」

 

三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命していった。

 

「やり過ぎじゃね」

 

苦笑いでハジメが呟く程で気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の魔物達は弱すぎるらしい。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前達にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調に階層を下げて行った。そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。

 

「じゃあ、今度は南雲達が前へ出ろ。今回の魔物は少し強いぞ!」

 

メルド団長に呼ばれたハジメ達は前に出ると目の前にいる魔物は十体弱と確認すると視線だけ後ろにいる四人を見る。四人共、ハジメの視線に気付くと力強く頷くのを見てハジメは笑った。

 

「行くぞ」

 

「「「「うん(おう)」」」」

 

自分の開始の掛け声で戦闘が始まると同時にハジメはそのまま地に手を着けて、錬成をする。

 

「〝錬成〟」

 

「ギャッ!」

 

その瞬間、魔物達が立っていたところから数本の石槍が数地面から突き出して魔物達を次々と串刺しにして灰へと変わって散っていく。

 

そしてハジメは石槍を避けて散った魔物達に向かって走り出すと、魔物に向けて魔法の詠唱を発動する。

 

(はし)れ 閃く雷──〝雷撃〟」

 

ハジメの雷撃を直撃した魔物達は塵になっていく。だが、ハジメの後ろに周り込んだ数体の魔物の気配がしたが頼れる幼なじみ達に頼むことにする。

 

「任せた」

 

「「「「オッケー」」」」

 

ハジメの言葉を聞いて気配を消していた浩介はそのまま魔物の後ろに回り込むと小太刀で首から上と下を切り離す。

 

妙子は逃げる数体の魔物を鞭で拘束すると「奈々、優花!」と叫ぶ。それを聞いた奈々と優花の二人の詠唱の終わりを告げていた。

 

「行け、氷の槍を──〝氷槍〟!」

 

「付与──〝威力上昇〟、〝速度上昇〟!」

 

そして、奈々の氷の槍と優花が付与で強化された投げナイフによって拘束された魔物達を倒した。

 

戦闘が終わると優花達が駆け寄って来る。

 

「ナイス、ハジメ」

 

「流石、ハジメっち」

 

「ナイス〜指揮、ハジメ」

 

「ハジメ、ケガとかしてない?」

 

浩介達三人は駆け寄りながらハジメの指揮を賞賛しており、優花はケガがないかと心配しながらハジメの体を見る。

 

「あぁ、大丈夫だ優花は?」

 

「うん、大丈夫」

 

ハジメは優花の髪を優しく触れながら笑みを向けるながら聞くと優花は嬉しそうに笑みを浮かべると、大丈夫と答えた。

 

「そっか、よかった」

 

ハジメは、優花の頭を撫でる。

 

「……ん」

 

「おいおい、ここでイチャイチャすんなよ……」

 

優花は頭を撫でられてか嬉しそうに目を細めていると、何故かそんな光景を見せられている妙子と奈々は目が死んでおり、浩介は呆れてツッコンでいた。

 

そんなことをしてると同時に、戦闘を見ていたクラスメイト達とメルドはハジメ達の連携力に目を見開く。

 

そして、メルド団長はハジメに関心を向けた。錬成師の能力も活かしながら、ここまでの戦闘力。戦いを見ていて、非戦闘職でありながらも王国最強の称号を手にしていた男の姿と重ね合わせていた。そして、全体に聞こえるようにハジメ達を賞賛する。

 

「まさかここまでの連携の良さ、周りへの配慮……流石だ。良し!光輝達やお前達も南雲達のパーティーを参考にしろ!」

 

騎士団員達としては、ハジメが碌に使えもしないと思っていたらしい。ところが実際は、錬成を活かし、非戦闘職とは思えない戦闘技術で魔物達を圧倒した。錬成師は弱者とイコールに考えられている。だから、騎士団員達、そしてクラスメイトはハジメの強さに唖然としていた。

 

「……ん?」

 

戦闘が終わってハジメは自分に突き刺さる視線を感じた。それは、ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗っている不快な視線だ。今までも教室などで感じていた類の視線だが、それとは比べ物にならないくらい深く重い。

 

感じる限り、ざっと三人だと推測するハジメは、誰だか知らないが気持ち悪い視線を向けるなと嫌そうに表情を歪める。

 

「ハジメ?」

 

「ん?、いや何でもねぇよ」

 

「そっか、少し怖い顔してたから」

 

優花に声をかけられ、何でもないように取り繕うが今さっきの表情を見られてたらしい。だが、ハジメは悟られないように声をかけた。

 

「大丈夫だから心配すんな」

 

「……わかった」

 

優花は訝しむも分かってくれたのか、これ以上は何も言わなかった。ハジメは安堵するが内心、優花に心配させてしまったことに舌打ちする。そして、視線の正体が分かったら懲らしめようと思いながら深々と溜息を吐くと、メルド団長の指示に従い下に向かった。

 

一行は二十階層を探索する。

 

迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。

 

現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もないはずだった。

 

二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

 

「?」

 

ハジメは目の前の部屋に何かの気配を感じ取ると、先頭を行く光輝達やメルド団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら俺が感じていた気配はやはり魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

メルド団長の忠告が飛ぶ。

 

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

メルド団長の声が響く。光輝達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を坂上が拳で弾き返す。光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

 

龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

直後、

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「チッ……これが〝威圧〟か……」

 

体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの固有魔法〝威圧の咆哮〟だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

 

まんまと威圧を喰らってしまった光輝達前衛組が一瞬にして硬直してしまった。

 

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって見事なフォームで投げつけた。咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。

 

香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。

 

しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。香織も恵理も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

 

「……〝錬成〟」

 

面倒に思いながらも〝錬成〟を発動。その瞬間、迷宮の壁や床から石槍が突き出てきてロックマウントの脳天や体を串刺しにして灰へと変えていく。

 

その光景を目の前で見ていた香織達は、ハジメの方へと振り返る。香織だけ何故か頬を赤らめて蕩けた目でハジメを見つめている。

 

ハジメは香織の反応に困惑して内心引いていると、そんな様子を見てキレる勇者が一人。正義感と思い込みの塊、我らが勇者天之河光輝である。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて!と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする光輝。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

こんな狭い場所に大技を放とうとする光輝の馬鹿な行動にハジメは内心舌打ちすると最悪のケースを予想しながら周りを警戒する。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

 

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った光輝。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

 

「へぶぅ!?」

 

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!もう少し、南雲を見習え!」

 

メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。そこに、香織達が寄ってきて苦笑いしながら慰める。

 

その後、恵理と共にハジメに駆け寄った鈴が「南雲君ありがと〜!」と感謝を伝えていた。ハジメはやんわりと返しだけにして、一行は再び迷宮の奥へと向かおうとした時だった。

 

ふと、香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になっていた。

 

ハジメも白崎の指差す方にある水晶を見て、本にあった鉱石を思い出しながら、その鉱石の名を口にする。

 

「……グランツ鉱石か」

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……」

 

隣で優花が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながらうっとりとしていた。そんな優花を見て、ハジメは笑み見せると、

 

「……優花」

 

「ん?」

 

「今度、お前に似合うアクセサリー作る」

 

「うん、ありがと」

 

そんな二人の約束してる光景を誰を見ていた誰かが憎ったらしい視線を向けていたがハジメは優花に夢中になっていたため気付かなかった。

 

「………」

 

そんな約束をしたハジメだったが、壁に生えているグランツ鉱石を見て少し違和感を感じた。図書館で鉱石に関する書物を調べた限りグランツ鉱石はこんなところにはない筈なのだ。

 

「もしかして……っ」

 

そして、何故ここにグランツ鉱石があることに気づいたハジメは、急いでメルド団長へ報告しようとするが、その前にある馬鹿が行動してしまった。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 

「ばっ……アイツっ」

 

ハジメとメルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長! トラップです!」

 

「ッ!?」

 

「……クソっ、やっぱりか!」

 

ハジメはこの最悪のケースに歯噛みする。そして、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。

 

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。

 

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

「クソッ……転移系!」

 

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 

部屋の中に光が満ち始めるその間にハジメは脱出は無理だと判断すると優花の身を守るように彼女を抱きしめる。そして、ハジメ達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

「………」

 

ハジメ達は空気が変わったのを感じたと同時に、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

ハジメは抱きしめてる優花の安全を確認して周囲を見渡す。クラスメイトのほとんどは尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がってハジメと同じように周囲の警戒をしている。

 

ハジメ達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

 

橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。俺達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見えた。

 

「此処って、もしかしたら……」

 

ハジメは此処は何処か察してしまってクソっと悪態をつく。その時、メルド団長も、此処が何処かだと察したのか険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

あれは、ハジメが読んでいた魔物図鑑にあった金ランク冒険者でも倒すのが非常に困難と言われてるほどの化け物の中の化け物──ベヒモスだった……。

 





<編集しました。十月二十九日。
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