ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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いつの間にか、前回の投稿から二週間経ってました( ̄▽ ̄;)


百二十八話 最強と謳われた種族

 

ハルツィナ樹海

 

白霧によって守られている樹海の最奥、象徴たる大樹の下に二つの影がそこにあった。

 

「そのままですわ、アルテナ。乱さず意識して魔力を流し続けなさい」

 

「は、はいぃ……」

 

二つの影の内一つは、解放者の一人であるリューティリス・ハルツィナ。もう一つの影は、長老の孫娘であり最近大樹に選ばれ魔力が発現したアルテナであった。

 

アルテナが行っているのは、杖(マグナ・アルト(ハジメからの贈り物))なしでの魔力操作及び魔法発動に慣れさせる為、大樹と自身の間に魔力のパスを繋げ続け、魔力を循環させるという簡単そうで物凄くキツく厳しい訓練である。

 

「ふぅー………」

 

今も額から汗が流れ、辛そうな表情であるのだが、一瞬の気の緩みでも魔力が乱れてパスが切れてしまう故に、大きく息を吐いて集中力を維持し続けるアルテナ。

 

彼女は、ハジメ達が最後の大迷宮の攻略の為に氷雪洞窟へと旅立った後も、大好きな恋人(ハジメ)親友(シア)のためにリューティリスの厳しい特訓を耐え続けている。

 

その想いの強さが功を成したか、ハジメ達が旅立つ前には、既に大樹への干渉を成功させ、白霧の発生、操作をものにしているアルテナ。

 

リューティリスは、そんなアルテナの成長速度に表情には出してないが、驚愕の一言であった。自身の全盛期を以てしても慣れるのに数ヶ月も掛ける内容を最近まで魔力もなく戦う経験のない箱入り娘状態のような彼女が、一週間ちょいでものにしていることに、本当に彼女は〝守護者〟なのだろうと実感させられる。

 

しかし、アルテナが目指すハジメ達と共に戦える段階には遠く及ばず、まだ時間を要するだろう。

 

そんな事を思ってる間に、限界がきたのかアルテナの息遣いが荒くなってきていることに気付いたリューティリスは、両手でパンパンと鳴らして終了の合図を伝える。

 

「つ、つかれましたわぁ〜〜」

 

合図が聞こえて崩れるように地に膝をつくアルテナ。そこへリューティリスが歩み寄る。

 

「お疲れ様です、アルテナ。前回よりも魔力操作が上達してますわ」

 

「ほ、ほんとうれすかぁ〜」

 

褒められ嬉しそうに笑みを浮かべるアルテナだが、余程疲れてしまっているのか呂律が回らなくなってることにリューティリスは「あらあら」と微笑む。

 

「うーん……フェアベルゲンに戻って休息を取ろうと思いましたが、ここでしましょうか」

 

そう言って、パンッと手を叩くリューティリス。次の瞬間、アルテナが居る場所の地中から木の大きな椅子、傍に机、ティーセットを運ぶ大樹の枝が現れる。そして、枝は器用に紅茶の準備をし終えると、二つのティーカップに紅茶を淹れ始める。

 

その光景に目を丸くしてるアルテナに対して何事もないかのように椅子に座るリューティリスはアルテナに笑みを向ける。

 

「さぁ、アルテナ、魔力の回復がてら休憩を交えながらお茶会にしましょ?」

 

「は、はい」

 

先程の光景に驚きながらもアルテナは、いずれ自分もあれぐらいのことは平然と出来るようにならないといけないと決意するのだった。

 

 

魔力回復がてらに始まったお茶会。アルテナとリューティリスの二人はトークに花を咲かせていた。歴史、魔法学などアルテナが知らないことをリューティリスが答えるといった教師と生徒ように話す二人(リューティリスが変態トークに走ろうとする時は止めている)。そんな中、アルテナは相手が神代を生きたリューティリスだからこそ、ずっと疑問に思っていたことを聞く。

 

それは、普通の亜人なら気にしないこと、しかし、幼き頃から色々と学び歴史も学んでいたアルテナだったからこそ疑問に思っていたこと。

 

「あの、リューティリス様。お一つ聞いてもよろしいですか?」

 

「? なにかしら」

 

「わたくし達、亜人は遙か昔から存在し、沢山の種族がおります」

 

「ええ」

 

「どの種族も熊人族は力、狼人族は機動力、兎人族は気配遮断といった各々の違った個性を持ち合わせています」

 

「ええ」

 

「ですが亜人族は、数に人間族、魔力では魔人族に昔から劣っています。幾ら、昔は魔力持ちの亜人やわたくしのような大樹に選ばれた者がいたとしても、数百年前まで繁栄していた吸血鬼族や竜人族といった桁外れの力を持つ種族もいた昔に、この樹海を今存在しうる種族では、到底、守れる筈はありませんわ」

 

「……ええ」

 

淡々と亜人の常識を話していくアルテナにリューティリスは頷き相槌を打っていく。

 

「しかし、わたくし思うんです。もしかして、遙か昔にはいたのではないでしょうか? 吸血鬼族、竜人族同等もしくはそれ以上の力を持った種族が」

 

「…………」

 

リューティリスは先程までの笑みを消した。一瞬、その気迫に息を呑み、口を噤むアルテナだったが、同時に、彼女の表情で確信に至る。

 

「いたのです、ね」

 

その言葉にリューティリスは深く頷き、正解に辿り着いたアルテナに微笑む。

 

「ええ、いましたわ。いえ、これだと語弊がありますね。いたとされてますわ(・・・・・・・・・)

 

「いたとされてる?」

 

首を傾げるアルテナに、リューティリスは話を続ける。

 

「ええ、わたくしも確証はないのです。生きていた時に見た古い文献で知ったに過ぎません。しかし、わたくしはいたと信じてます」

 

リューティリスは、この世界の象徴たる大樹が堂々と佇み、大樹を守るように生い茂る樹海が朽ちずにいる光景を見たからこそ言い切れる自信。

 

目の前の彼女は、木のゴーレムであるのに樹海の女王の威厳に気圧されるアルテナ。流石だと思ってしまう。

 

「………どんな種族だったのですか?」

 

「……文献には遙か昔の古代、別の呼び名では世界の創世記と呼ばれ、わたくしが生きた時代より魔力が溢れ、強大な魔物が多くが闊歩した始まりの時代。樹海を大樹が秘める膨大な魔力を多くの敵から守り続けた種族いたとされてましたわ

 

その種族の名は─────

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「本当におかしいんですよ。気配、魔力まして魔物さえもいないのに、何故か殺意の籠った視線(・・・・・・・・)を向けられるなんて、ね」

 

「へ?」

 

静寂が満ちる密林の中、アレスの衝撃的な言葉に雫が素っ頓狂な声を上げる。光輝達も「は?」といった様子で首を傾げている。

 

しかし、その時だった。

 

ずっと狙い定められていたのか、突然とアレス達の方へから無数の風切り音と共に何かが放たれた。

 

「ユエ殿!」

 

「ん!」

 

光輝達と違い警戒を緩めずにいたユエは、咄嗟のアレスの声に即座に反応して障壁を展開すると、全ての飛来物を弾き返した。その間、光輝達は何が起こったのか分からず突然と自分達の周りに障壁が張られた状況に理解出来ず、混乱してしまっている。

 

「まさか、これほどの規模の気配や魔力までも隠蔽する魔法とは……」

 

そんな中、障壁内でアレスは驚愕する。本当に数秒前まで感知できていなかった魔力や気配が今じゃアレスが感知する限り自分達を囲むように無数にある事を。

 

そして、最も驚愕したことは、その尋常じゃない数を一気に隠蔽する魔法を。

 

「……二百いや、その倍」

 

「……ごめん、アレス。今さっきの攻撃でハジメの〝オルニスA〟が破壊された」

 

「大丈夫ですよ。ハジメ殿だって分かってくれるでしょう。それより、今は……」

 

「……ん、わかってる。周りを囲んでいる奴等の対処でしょ?」

 

「ええ」

 

「っ、アレスさん!これは敵襲ですか!?」

 

「嘘、全く気付かなかった」

 

「おいおい、滅茶苦茶いるじゃねぇか!」

 

「包囲さちゃってるよ〜!」

 

ユエの言葉に頷いたアレスは〝ロンギヌス〟を取り出す。すると、やっと今の状況に理解した光輝達に指示を送る。

 

「皆さん、戦闘態勢を。 今から、三秒後にユエ殿の障壁を解除したと同時に攻めます。できますね?」

 

「はい!」

 

「分かりました!」

 

「おうよ!!」

 

「は、はい!」

 

アレスに言われ、アレス達に再び、守られる結果になったことに複雑な表情になりながらも光輝は鞘から聖剣を取り出して柄を強く握り締める。雫も即座に反応できなかった不甲斐なさに少し落ち込むも気持ちを切り替え真剣な表情で黒刀(八咫烏二式)を持ち構える。龍太郎はやっと戦えることに笑みを浮かべながら自身の拳同士を合わせる。鈴も「よしっ」と己を鼓舞するかのように掛け声をかけ、ハジメから貰い受けた鈴専用アーティファクトである二つの長方形の金属棒を取り出した。

 

「では、準備はよろしいですか? ユエ殿も」

 

「「「「はい(おう)!」」」」

 

「……ん、アレスに合わせる」

 

「では、3…2…1……行きますよ!」

 

アレスの言葉と同時にアレス達を守る障壁は消える。そして、こちらに飛来する何かが到着する前より二人の人物が即座に動いた。

 

前方にいたアレスが光の魔力を纏わせたロンギヌスを下から上へと縦に弧を描くように勢いよく振り上げた。

 

「〝轟天閃(ごうてんせん)〟!」

 

ロンギヌスから放たれた巨大な光の斬撃が飛来する何かも全て呑み込み塵へと還す。

 

「……〝双龍〟」

 

逆方向ではユエが放ったのは蒼く燃え盛る〝蒼龍〟と轟雷を纏う〝雷龍〟の二体の龍が顕現し、主人を害するもの全てを強靱な二つ顎を以って喰らい尽くし辺り一面を更地に変える。

 

その時、雫が近くに撃ち落とされていた自分達に放たれていた飛来物を拾い上げる。

 

「矢?」

 

それは、矢だった。それも隠蔽系の魔法が施された魔法陣が刻まれた矢が。

 

その時であった。木から、茂みから複数の小柄の黒い影がアレス達へ襲い掛かる。しかし、それにいち早く気付いたアレスが大木を蹴って踏み込み勢いを付けると黒い影の一つを蹴り飛ばしながらアレスは全員に指示を送る。

 

「全員、散開!! 数は二百は軽く超えてます! 各々で早急に撃破」

 

「「「「「はい!(おう)(ん!)」」」」」

 

アレスの指示に全員が反応し、散開を始める。

 

「ふっ」

 

地を蹴り上げ、周りに生える大木を利用し、空間魔法を駆使した華麗な動きで相手を捌き、翻弄しながら、ロンギヌスで突き刺しの一撃で一体、また一体と断末魔を上げる暇もなく敵を沈めていくアレス。しかし、アレス自身、平然を装っているが、内心は驚きが大半を占めていた。

 

理由は一つ。今、自分達を襲う魔物達をアレスは見たことないからだ。

 

「ゴブリン……いや、それにしては強い。オーガの亜種?」

 

体躯はゴブリンと同じくらい。しかし、個々の強さ。薄紫色といったゴブリンとは思えない強さと肌の色。そして何より、樹海の大迷宮に生息していたオーガのような額の中心に生えた立派な角。

 

しかし、それでも……

 

「まぁ、なんとあれ今の私には───」

 

そんな正体不明で未知数な魔物であれも、アレスの規格外の強さの前には意味を成さない。ロンギヌスを振るえば首も胴体を切り裂きながら吹き飛ばし、光の斬撃を放てば致命傷を与え、不可視の空間さえも切り裂く刃によって細切れにする。

 

「雑兵ごとき造作もありません」

 

それがアレス・バーン(王国最強の男)

 

 

場面は変わり、アレスとはまた別の場所でも大勢の敵が押し寄せる中、その一角に黄金の雷と蒼き炎が舞っていた。

 

「……(〝五天龍〟は使わなくても大丈夫)」

 

片手間のように指でなぞって二体の龍を操るユエは、自身の見たことのない魔物であるも倒せるなら問題なく敵を殲滅していく。

 

「ちょっと待って下さい!」

 

更に攻撃範囲を広めようとした時、自身の後ろから制止の声がかかりユエは手を止める。

 

「……ん?」

 

「ユエお姉様! そこは、わ、私に任せてください!!」

 

声の主は鈴であった。手に握られているのはハジメ作の新アーティファクト。そして、よく見ると鈴の表情は真剣であるものの、目を輝かせている。そんな鈴を見たユエは新しい力を試したくてウズウズしている自分の姿と重なり鈴の気持ちを察し、納得して双龍を引っ込める。

 

「……ん、私はユエ。 魔法の大先輩でありながらキュートでパーフェクトな吸血姫。鈴がやりたいこともわかってる」

 

それを聞いた鈴の表情がパァッと明るくなる。ユエ自身、鈴の実力を認めている。加えて自分の最愛の人が作ったアーティファクトなら大丈夫だと判断したのだ。

 

しかし、油断は一ミリもしない。ユエは、周りに自身と鈴を守るように〝双龍〟達を待機させる。

 

「……でも、危ないときは助けるから」

 

「はい!」

 

意気込みの強い返事、眼差しも強い。

 

そんな彼女の手には二つの新アーティファクト。一見すると、ただの長方形の金属棒にしか見えないそれは、

───結界術特化アーティファクト〝双鉄扇〟

 

血液と魔力を利用した鈴にしか発動できない専用武具だ。頑丈さや詠唱省略機能は当然のこと、昇華魔法により全ての防御系魔法が一段階進化したレベルで行使可能となっている。

 

更には、右の鉄扇で従来の結界魔法を発動し、左の鉄扇で様々な効果を付加するという複合魔法の行使も可能にした。自然の魔力を少しずつ吸収し貯蔵する機能や、消費魔力を軽減する機能もあり、以前の王国から支給されたブレスレット型のアーティファクトとは比べ物にならない破格の性能を有している。

 

訓練の成果を見せよ、と尊敬するユエお姉様が鈴に期待してくれてる。少し緊張しつつも笑い返す。

 

バッと、二振りの鉄扇が開花する。

 

「起きて──〝双鉄扇〟」と詠唱省略のための起動ワードが木霊し、無骨な鉄色の扇に橙色の光が走り抜けた。鉄扇の要部分が燦然(さんぜん)と輝き、親骨、中骨へと行き渡る。

 

「よっし、それじゃ いくよ!──〝聖絶・散〟!!」

 

魔法名のみが唱えられ、鉄扇が緩やかに舞った。

 

同時に、ユエと鈴の前方に淡い橙色の光を放つ半透明の障壁が出現する。緩く前方に向かって曲線を描いた障壁は、中心部から外側へ波打つように光の波紋を発生させている。

 

──光属性 最上級複合防御魔法 聖絶・散

〝聖絶〟に接触した対象のエネルギーを分散させる性質を付加した魔法だ。

初級魔法のような手軽さで〝聖絶〟を発動し、にもかかわらず強度は十全。かつ、付加効果があり。しかも、消費魔力は中級レベル。

 

訓練の成果は確かに証明された。

 

敵の全ての攻撃を通さず、物量で押し込もうとも侵入を許さない堅牢な障壁と化している。

 

「……ん、確かに悪くない。成長してる」

 

魔法のエキスパートの一人であるユエから称賛が送られた。アーティファクトの優れた性能があったとしても、鈴の魔法技能自体も天才からお墨付きを貰えるレベルのようだ。

 

鈴から「ふへっ」と変な声が漏れた。

 

めちゃくちゃ嬉しいのだけど、今は集中すべき時だから頑張って喜びを抑える……けど、やっぱりちょっと漏れちゃった! みたいな声だった。

 

そんなニマニマ顔が収まらない鈴であるが、その真剣さを帯びた目は揺るがない。

 

「呑み込め──〝聖絶・爆〟!!」

 

更なる鉄扇の舞。ふるりと舞った鉄扇の流れに沿うように、矢、凶爪から耐えている橙に輝く障壁が、刹那、爆音が轟く。カッと爆ぜた橙色が、津波の如く放射される。

 

『『ギャアッ!?』』

 

障壁に群がっていた大勢の敵が爆発を受けて吹き飛び、血飛沫が飛び舞う。

 

バリアバースト──〝聖絶・爆〟の効果を端的に表現するなら、まさにそれだ。正確には、指向性爆発反応装甲というべきか。

 

障壁に張られた魔力がそのまま破壊力となり、砕けた障壁の破片は、破片手榴弾の如く敵を切り裂くという、中々に凶悪な術だ。

 

「……ん、よくできました」

 

「はい、お姉様! 私っ、やり───「……でも、やっぱり爪が甘い」……へ?」

 

尊敬するユエのに褒められて、遂、振り返ってしまう鈴。しかし、その行動の爪の甘さにまだまだだなと思ったユエは、振り向く彼女を襲おうとした敵の奇襲を雷龍によって塵にして防ぐ。

 

突然のことに呆気を取られる鈴だったが、ユエの美しさとミステリアスな雰囲気を感じさせるジト目にビクッと背筋を震わす。

 

「……まだ、戦闘中。気を抜いちゃダメ」

 

「は、はい……」

 

最後の最後の甘さを指摘され落ち込んでしまう鈴。

 

「……でも、前よりちゃんと強くなってきてる。これからも励むこと」

 

「ふぇ……はい!」

 

だが、次のユエの称賛の一言で笑みを浮かべる鈴。その姿にふっ、と微笑を浮かべたユエは戦いを再開するのであった。

 

 

別の場所でアレス、ユエ、鈴に負けじと光輝達三人も敵を迫り来る敵を前に躍り出る。

 

「やるぞっ! 雫! 龍太郎!」

 

「よっしゃあ! 暴れてやるぜぇ!!」

 

「ええ、私もいろいろ試したいしね」

 

三人も鈴と同様、ハジメに手を加えたアーティファクトの性能を確認したいのだろう。前を行く光輝に、雫と龍太郎が続くように飛び出す。

 

「翔けろっ──〝天翔閃・震〟ッ!!」

 

光輝の十八番──輝く光の斬撃を飛ばす〝天翔閃〟。禄な詠唱もなく、しかし、威力・規模は今までの倍はある。

 

聖剣が本来の力を発揮できていなかったのは事実だったのだろう。風どころか、空間そのものを切り裂くのではと思わせる威力は、全く勇者の名に恥じない。

 

しかも、ハジメの外付けによって〝衝撃変換〟による衝撃まで撒き散らす始末。

 

正体不明の魔物達は、予想外の苛列な初撃に前方にいた者達は切り刻まれ、後方の者達は吹き飛ばされていく。

 

更に、光輝の斬撃で吹き飛ばされた者達を待ち構えられていた衝撃波の嵐に捕まり吹き飛ばされてしまう。

 

「待ってたぜぇ! おらぁ──〝破拳(はけん)〟ッ」

 

『グギャアアア!?』

 

吹き飛んだ魔物達がまだ空中にいる間に、その正面に飛び上がっていたのは龍太郎だ。飛んでくるのを予想していたらしい。

 

空中で上体を捻り、全身のバネを使うようにして突き出された石拳が、狙い違わず魔物達に直撃する。空気が震え、刹那、魔物達から大量の血飛沫が噴き上がる。

 

〝破拳〟──防御不能の内部破壊をもたらす龍太郎の新技は、それだけ凶悪な威力を秘めている。

 

元より、龍太郎の籠手は、王国に与えられたもので衝撃波を飛ばす能力を有しているが、今の一撃は、そんな生易しいものではない。

 

空間振動。それが新たに付与された籠手の能力。打撃の瞬間、拳の先の空間を激震させ対象の中身を粉砕する。

 

「うぉっしゃあ! 成功!」

 

着地しながら一撃必殺を実現した龍太郎がガッツポーズを見せる。

 

その龍太郎の脇を、紫電を纏う一部の影が走り抜けた。かと思えば、次の瞬間にはリンッと鈴の鳴るような軽やかな音が響く。音に導かれて見てみれば、そこには着地姿勢のまま龍太郎や光輝が倒し損ねた魔物達が……ぽとりっと、首を落とした光景があった。

 

「八重樫我流──〝花一匁(はないちもんめ)〟」

 

落ちた向こう側で、静かにそう呟きながら雫はゆるりと納刀する。駆け抜け様の抜刀術は、魔物達、光輝や龍太郎までもが認識能力を大きく逸脱するほどの速度。

 

雫が自身の八重樫流を魔法を駆使して編み出した我流の瞬殺剣技。

 

───八重樫我流〝花一匁〟

八咫烏二式の搭載された雷と風。そして、己の素早さを絶妙なタイミングで合わせるという雫の技量からこそ実現可能な瞬殺の抜刀術。

 

なんとか大体の敵を片付けた光輝達三人は安堵の息を漏らすのだった。

 

「なんとかなったわね」

 

「だなっ、南雲の改良のおかげで更に威力が上がったな光輝!」

 

「あ、ああ。これなら──」

 

「そうえば雫。なんだったんだよあの剣技?」

 

「えっと、鍛錬の成果?」

 

「おーい、シズシズ〜! 二人共ー!」

 

そう和気あいあいと話す光輝達のところへ他の場所で魔物を倒し切った笑顔で手を振る鈴、その後ろからはアレスとユエも見える。

 

「そちらも倒し終わりましたね」

 

「……ん、みんな上出来」

 

自分達より遥かに実力が上の二人からの称賛に嬉しく感じる四人。その中、ふと、ある方向に一瞬、視線を転じたアレスが隣のユエに話しかける。

 

「ユエ殿」

 

「……分かってる。あの子達は私が守ってるから」

 

「感謝します。では」

 

「……ん」

 

四人の成長に笑みを見せる二人であったが、すぐにアレスがユエと四人の視界から消えた。アレスが消えたことに四人は驚くが、先程まで話してたユエは何か知ってるようで雫が話しかける。

 

「ユ、ユエ? アレスさんは何処に?」

 

「……ん、捕まえにいった」

 

「え、捕まえ? 誰を?」

 

「……ん、私達に魔物を差し向けた奴等(・・)ををね」

 

そうユエは口にしながら奥のこの場から離れた木々に目を向けるのであった。

 

 

少し離れた大木の枝の上に佇み、ユエ達を見下ろす三つの影があった。

 

「ヒュー、やるなぁ。小鬼共はあんなに早く殺るなんて」

 

「うん……団長に三百ほど貰ってたのに使えない。やっぱりエル(・・)様がいなくなってから腑抜けた?」

「しょうがないだろう。吸血鬼族……しかも先祖返りの個体。あの槍の人間の方も逸脱者(・・・)だろう」

 

小鬼と呼ばれた魔物達を倒したアレス達に笑みを見せるマントを着た青年。その隣には、白のベールをかぶり顔が見えない少女が辛辣な混じりに寂しそうに尊き御方の名を呟く。最後の一人はフードを深く被った男は正確に分析し、相手の強さ(特に二人)に少し面倒そうに顔をしかめてるとマントを着た青年が「んん?」と声を上げる。

 

「ありゃ? 金髪の奴がいなくった」

 

「あ、ホントだ」

 

「ちっ、面倒な!」

 

青年に反応して、ベールの少女もアレスがいなくなったことに気付く。しかし、そんな彼等とは逆にフードの男は何かを察し、苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

そして、己の武器を取り出そうと、その瞬間……刹那、不可視の斬撃が彼等のいる場所に襲いかかった。

 

空間がズレ、先程まで彼等がいた大木が木っ端微塵になる。

 

「……流石に避けられますか」

 

木っ端微塵になった場所に降り立ちそう呟くのは、不可視の斬撃を放った本人であるアレスだ。アレスは、大木が木っ端微塵になる様をを見て、空間魔法〝千断〟は、相手に避けられたことを理解する。

 

すると、上から声が聞こえた。

 

「とんだご挨拶だな。人間」

 

声が聞こえると同時に、アレスの数メートル離れた場所に音もなく降り立つ男。

 

「ハハッ、驚いたでしょう。貴方方の挨拶を真似してみただけですよ」

 

悪戯に笑みを浮かべながら返答するアレスに、不機嫌極まりないとついった感じで睨みつける男。と、その時、アレスを挟むように二つの影が急迫する。

 

「!」

 

「流石に舐められるとムカつくなぁ!」

 

「死ね!」

 

青筋を浮かべた青年の方は、小太刀を構えながら迫り、ベール少女の方は魔法職なのか杖を構え、ゼロ距離で攻撃魔法を放とうとしていた。

 

しかし、状況に迫っているのも関わらず、アレスの表情は崩れず余裕すら見えていた。

 

「そんな雑な攻撃は無駄です、よっ」

 

「ガッ!?」

 

「ッ!」

 

自身へ迫る刃を紙一重に避けると同時に青年の腹部を殴り、吹き飛ばす。殴った箇所が鳩尾に的確に入ってしまい青年の表情が歪んでおり、そのまま地に伏してしまう。少女の方も目の前にゲートを駆使して何処か適当な場所に送られると、追い討ちをかけるように閃光の魔弾が撃ち放たれ、攻撃を与える隙がないことに少女は舌打ちする。ベールで顔はよく見えないが相当、苛立ってるようだ。

 

しかし、当のアレスは青年を殴り飛ばした手を見る。手は痛みで赤くなってしまっている。

 

「(硬い。……身体強化の類い? いや、それにしては硬すぎる。私の知る限り人型で一番硬い神の使徒よりも遥かに)」

 

使徒よりも硬い肉体を持つ敵に驚くアレスだが、突如、自身の危険を感じてすぐその場で屈み込んだ。

 

直後、アレスの頭上に風切り音がアレスに迫る。

 

「──〝手裏剣を操る魔法(シュリケス)〟」

 

視線を移すと巨大な手裏剣が迫っており、アレスは攻撃を辞めて横へ跳んで回避する。

 

「手裏剣ですか!」

 

「ほぅ、俺の手裏剣を躱すか面白い!」

 

フードの男は、笑みを浮かべると手裏剣の軌道を変えて再び、アレスに迫る。

 

「〝界穿〟!」

 

それならばとアレスは〝界穿〟を発動し、ゲートで手裏剣を適当な場所に飛ばそうとするのだが、手裏剣はゲートを意図も容易く破壊した。

 

「ゲートを破壊ですか」

 

ゲートが破壊されたことに目を見開くアレスに対してフードの男は笑う。

 

「空間魔法など、我が〝シュリケス〟の前では無意味だと知れ!」

 

「これなら、どうです!!」

 

アレスは、こちらへ迫る手裏剣を〝ロンギヌス〟をぶつける。押し寄せる手裏剣の勢いに両腕の骨が軋みアレスの表情が少し歪むもギリギリ手裏剣の軌道を逸らした。だが、その時に手裏剣の刃がアレスの頬を掠める。

 

軌道を逸らされた手裏剣を片手で回収したフードの男は笑みを深めた。

 

「やるな、人間。まさか俺の〝シュリケス〟を二度も直撃を躱すとはな」

 

「………それは、どうもっ」

 

本心であろう男の称賛に、アレスは掠め取られた箇所から伝う血を親指で拭いながら適当に返事をする。

 

「しかし、ここで貴様を倒すのは惜しい。その力は憎き神々に振るうべきの力だ」

 

「なら、どうします?」

 

「交渉といこう。貴様等の仲間の一人に黒コートを着た白髪の男がいるだろう?」

 

「………ええ」

 

男の要求に、何故、ハジメ殿を?と思うアレスだが今はどうでもいいと頭の片隅に入れ、男の話の続きを聞く。

 

「そいつをこの密林に置いていけ。そしたら、貴様を含め他の者も密林から出してやろう」

 

「………因みに聞きますが、彼をここに置いてあなた方はどうするおつもりですか?」

 

「積年の恨みを晴らすだけだ。まぁ、最終的に殺すがな」

 

そう言い切る男の言葉にアレスは確信する。目の前の者達はハジメに宿る機神の力を知っている。

 

それと同時に、アレスから尋常ではない殺気が溢れる。ロンギヌスを握る力が加わり、目付きも鋭くなり男を射抜く。そんなアレスの殺気を感じとってか男も本能的に即座に手裏剣を構える。

 

「貴方の言いたい事はよく分かりました。……返答はノーですよ。ハジメ殿は私達の希望そのものであり、そして私の大切な仲間であり友です。貴方達如きに渡してたまりますか」

 

「そうか───なら死ね」

 

「やってみろ」

 

両者、得物を構えたその時だった。

 

アレスがフードの男だけしか意識を向けていない。その瞬間を狙って、地面に生えていた草が一気に収束し(つた)のように細長く伸びると、アレスの四肢を拘束した。抜け出そうとしても蔦がしっかりと固定されて身動きが取れず、アレスの表情が驚愕に染まる。

 

「っ!? 」

 

「……やっとか、遅いぞ。ベール」

 

「るっさい。相手に、しかも逸脱者レベルの奴に気付かれずに促進の付与の魔法を発動するのは面倒なの。私の苦労を知らない奴が口出しするな糞チャクラム」

 

「副団長と言え阿呆」

 

フードの男改めチャクラムに苦言を呈されて悪口で返しながら現れたのは、ベールと呼ばれた先程の少女。

 

「ぐ……付与術師ですかっ」

 

「は?エル様に仕えていたこの私が、そんな平凡な天職であるわけないじゃん。私の天職は付与魔法の頂点である〝高位付与術師(ハイエンチャーター)〟だ」

 

「〝高位付与術師(ハイエンチャーター)〟だと? 聞いたことがないですね……」

 

「それはそうでしょ。この天職は失われた職業(ロストジョブ)の一つ。だから、私の扱う付与魔法は神代魔法に匹敵する」

 

「神代魔法レベルの付与魔法を扱うですか……」

 

ベールの言葉に、アレスはその強力な力に苦笑いせずにいられない。それもそうだ。目の前にいる少女は神代魔法なしで同等の付与を可能にする天職持ちなのだから。

 

だが、

 

「それが、どうしたのですか!!」

 

そう叫ぶと共に、四肢を拘束した蔦を破るとアレスは空間魔法で一気に二人との間合いを詰めるが、それに対して、二人の方は攻撃も避けようともせず呑気に話している。

 

「あれ、解かれた? いや、切られた」

 

「器用だな、空間魔法を応用したんだろう。おい、ベール貴様、対神代魔法の付与をしなかったのか?」

 

「はぁ? 変に付与しようとしたら気付かれるでしょ!それに、あの付与は難しいっつぅの!!」

 

何故か、口喧嘩になってる二人。数年振りに舐められてることに頬が引き攣るアレスだがチャンスなのは確か、一気に決めると〝ロンギヌス〟の矛先に魔力を一点集中させ己の敵へと突き出した。

 

「舐められたものですね!!───〝天貫(てんかん)!」

 

光の矛が二人を襲う──と思われたが……。

 

「!?……動か、ない」

 

矛先が敵の二人に届かず止まる。どんなに力を入れようとびくともしないロンギヌスに初めてアレスに焦りが生まれる。

 

「少し遅かったなジェイド(・・・・)

 

そうチャクラムがボソっと呟いた後、アレスのすぐ傍から声が聞こえ出した。

 

「いやー、サーセン。コイツの一撃は相当ッスからね」

 

同時に空間が歪みだし、現れたのはロンギヌスの柄の部分を握ったマントの男改めジェイドと呼ばれた青年だった。

 

「!」

 

このままでは良くないと悟ってからのアレスの行動は早かった。三人から距離を取るために〝ロンギヌス〟を〝宝物庫〟にしまい、地を蹴って後方へ退避した。

 

「んあ、逃げられちった」

 

「何をしてるんだ、ジェイド」

 

「そうだぞー、ノロマ影薄ジェイドー」

 

「あぁん? じゃあ、てめぇ等、こいつに殴られてみろ!滅茶苦茶に痛えんだぞ!?」

「………」

 

何故か、再び口喧嘩が勃発する光景に、距離を取っていたアレスは呆れるも警戒は緩めない。それもそうだ目の前にいる三人は自分一人では対処できないと理解してるからだ。

 

隙を見せたら死ぬ。脳からそう信号が送られて、表情が強ばるもアレスは口喧嘩する三人に問い質した。

 

「貴方達は何者ですか?」

 

「ほぅ……我等が何者か、と」

 

アレスの質問に対して、チャクラムは気味悪い笑みを浮かべながら聞き返す。

 

「ええ、貴方達は……今の時代には合わなさ過ぎている」

 

──ゴブリンのような高い知能、オーガーのような未知の魔物を使役。

 

──一人、一人が桁外れた能力を持ち。

 

──その力は神代に匹敵している。

 

故に、

 

「もう一度、聞きます。貴方達は何者だ?」

 

「………ししっ」

 

アレスの問いに黙っていたチャクラムだが、次の瞬間、ニヤッと笑みを浮かべた。

 

「いいだろう。教えてやろう我等の正体を!」

 

そう言うとチャクラムはフードを、ベールは頭にかけたベールを、ジェイドは隠蔽魔法が施されたマスクを外して、顔を上げた。

 

「────」

 

その本当の姿を見たアレスは言葉を失う。

 

言葉を失い呆然と立ち尽くすアレスにチャクラムは口を開く。

 

「人間よ見ろ。これが我等の正体だ。誇り高き戦士の称号を与えられ、いと尊き女神に選ばれし種族! そう我等こそは──」

 

 

 

同時刻、フェルニル。

 

アレス達が未知の魔物と戦っている頃。ハジメ達の方でも同様の魔物達の襲撃が起きていた。矢を放ち、石剣や槍を持ちハジメ達へと襲いかかる。

 

しかし、フェルニルに残っているのは、ハジメ、優花、シア、ティオの戦力的に申し分のない……いや、過剰戦力と言っていいほどの四人。

 

「見たことねぇ魔物だな。オーガの亜種か? まぁ、いい俺達に敵対するなら殺すのみだ」

 

初めて見る魔物だが、「生きてんなら、頭と心臓を撃ち抜けば終わりだろ?」という暴論でレールガンを放ち、的確に魔物の頭部や胴体を吹き飛ばしていくハジメ。

 

「そうね、数も多いし統制もできてる」

 

攻めより守りに回って、空を駆け回りながらフェルニルに襲いくる魔物達を〝聖剣〟に形状変化した〝聖杭〟達で切り刻んで撃退していく優花。

 

「おりゃああああ!! そんなの関係ないですぅ!」

 

パワーこそ全てを解決するハジメと似た暴論で、〝ドリュッケン〟を振り回して魔物を肉片へと変えていくシア。

 

「じゃが、これでここには妾達の敵がいることは確かじゃな」

 

優花と同じく守りに回って魔物達を抑えるティオ。

 

そんな四人の攻撃に五分経たずして、ニ百近くまでいた魔物が相手であっても四人の敵にはならず数分程度で全滅させたのだった。

 

戦いが一段落して、一息つきながらハジメ達の元へ降り立つ優花。だが、警戒は怠らず〝天使化〟は解除せずにいる。

 

「ふぅ……三人共、お疲れ様」

 

「はい、優花さんもお疲れ様です!」

 

「ああ。でも、警戒は緩めない方がいい」

 

「そうじゃな。しかし、ハジメ。シアもじゃが、あんなにおった魔物の群れを感知出来てなかったようじゃが?」

 

ティオに指摘は最もであった。右目に義眼代わりに嵌め込んでいる〝魔眼石〟で魔力を捉え、〝魔力感知〟、〝気配感知〟も持つハジメ。耳がとても良く、未来を見れるシアという索敵に優れた二人が魔物の群れを見落とすなど有り得ないのだ。

 

ティオの指摘に、ハジメは眉を寄せ頭をガリガリと掻き、シアは申し訳なさそうに口を開く。

 

「「できなかった(できませんでした)」」

 

二人の言葉にティオと優花が目を見開く。

 

「なんじゃと……」

 

「本当だ。何度、魔眼石や感知系の技能も全く反応しなかった」

 

「私もです。足音が全然聞こえませんでした」

 

「なら、この魔物の固有魔法は気配遮断系?」

 

二人の話を聞いた優花の言葉に、魔物の死骸を調べていたハジメが横に振る。

 

「いや、違う。上手く隠してるがコイツ等に隠蔽系の魔法が付与されていた痕跡がある」

 

「なんじゃと?それだと相当の魔力量を持っておるぞ」

 

「ああ、アーティファクトの可能性もあるが……それでも、今回の敵さんは一筋縄でいけなさそうだろうな」

 

今回は厳しい戦いになるだろうと安心はしてられないと身構える、その時、

 

「ッ!? 皆さん来ます!」

 

「「「!」」」

 

シアが警告を発すると同時に三人もその場から飛び退く。直後、巨体な影が現れたかと思うと、そこを中心に大地が割れ、その地割れが止まらずにフェルニルにも向かっていく。

 

それに気付いたハジメが優花を呼びかける。

 

「優花、フェルニルを守れ!! シアとティオも頼む!」

 

「うん! 〝聖域(サンチュクアリ)〟!!」

 

「「はいですぅ!/うむっ」」

 

ハジメの言われ、即座に優花は天性魔法〝聖域〟を発動する。次の瞬間、フェルニル全体を覆うほど巨大な大聖堂が顕現し地割れからフェルニルを守る。

 

「よし、フェルニルは無事───」

 

「死ねえぇぇ!!!」

 

「っ!?」

 

安心したもの束の間、ハジメの目の前に先程の巨体が現れ、怒声を上げながら武器であろう黒い棒を横薙ぎに振るう。が、ハジメも研ぎ澄ました反射神経で咄嗟に体を反らせることで間一髪に回避すると同時に相手を蹴り上げながら距離を取る。

 

しかし、上手くハジメの蹴りを防いだ巨体が声を荒あげる。

 

「カラァァァ!!」

 

「ウッス、〝錐流(きりゅう)岩石槍(がんせきそう)〟!」

 

巨体の指示の後、三角帽子を被った小柄な少年が魔法を発動する。すると、ハジメの下から無数の石の槍が襲いかかる。突然と現れた石槍に対処しようにも間に合わないと察し、腕一本覚悟するハジメだが、巨大な影がハジメを石槍から守る。

 

〝ふぅ、なんとか間に合ったのじゃ〟

 

「ティオ!」

 

影の正体は〝竜化〟したティオだった。

 

「ほぅ、竜人族かいたのか丁度いい」

 

ハジメが無事なことと恨めしいが、相手に竜人族がいたことに男は微笑を浮かべる。

 

そんな中、ハジメは、ティオの背に着地すると、自身が五体満足であることに安堵する。そして、助けくれたティオに優しく触れ笑みを向ける。

 

「助かった、ティオ」

 

〝うむ、愛しい旦那様を手助けることも妻の役目。しかし、ハジメよ〟

 

「分かってる。コイツ等……俺を狙ってやがる(・・・・・・・・)

 

ティオが言いたいことはハジメ自身も理解していた。周りを見ても分かる。普通ならフェルニルといった唯一、ここから抜け出せる移動手段、それを守る優花、シアなどを狙う筈。

 

しかし、あろうことか襲いかかった二人はそれを無視して、ハジメを狙うのだ。それも、物凄く憎しみと恨みが籠った猛烈な激しい殺意を向けながら……。

 

ハジメはティオの背から降り地上に戻ると、視線の先にいる自身の殺意を向ける二人ニ声をかける。

 

「テメェ等、何者だ? 俺に、用があるらしいが……」

 

「黙れ。まさか、声まで似てるとは腹立たしい」

 

そう相当な怒りを込めた声音にハジメは少し戸惑うも次の巨体の言葉で理由を理解することになる。

 

「しかし、やっとだ。やっと、この手で貴様を殺せる! ああ、我が女神よ、感謝する!この手で憎きデウス(・・・)を殺せることを!」

 

「………デウスだと──ぐっ!?」

 

巨体の言葉にハジメは目を見開くが、突然、樹海の大迷宮の時と同じ頭痛が襲い表情が歪み、余りの痛さに片膝を突いて頭を抑える。

 

「死ねデウス!!」

 

〝ハジメ!──ぐおっ!?〟

 

片膝を突くハジメを好機と睨んだ巨体の男が再び、ハジメを攻撃を仕掛けるが、〝竜化〟した間に入り守るも男の攻撃に頑丈な竜鱗にヒビが入り苦悶の声を上げる。

 

〝此奴、なんて威力。何者じゃ!!〟

 

「まさか、竜人族まで我等の存在が消されてるとはな」

 

〝どういうことじゃ?〟

 

男の呟きの意味が分からないティオ。しかし、男の方は「分からないならいい」と吐き捨て、再びティオに殴りかかる。

 

「そこをどけ竜人族」

 

〝冗談が上手いのぅ、妾は愛する者を見捨てるような最低な女ではないぞ!〟

 

「なら、殺すのみ」

 

竜鱗にヒビを与えるほどの威力の攻撃を放つ男。それに対して痛みに耐えながら愛する人を守るティオ。

 

両者一歩も譲らない中、ティオに守られ、頭痛に苦しむハジメの頭の中にある光景(ビジョン)が浮かび出した。

 

そこには、懐かしさを感じさせる額の中心に美しい一本角が生えた淡青白色の髪の野蛮な少女と少し後ろに立つ屈強な体を持つ巨躯のに額に二本角が生えた男。

 

「ぐ、がァ……エル? 」

 

突如、知らない人物の名を呟きながらゆっくりり立ち上がるハジメ。すると、何故か男の手が止まり後ろへ下がる。ティオは殴られた箇所の竜鱗がボロボロとなりながらもハジメの傍に寄り添い声をかける。

 

〝大丈夫かのハジメ!〟

 

「……ああ、俺は大丈夫だ。それに心配したいのは俺の方だ」

 

〝妾なら、大丈夫じゃよ。再生魔法も使っておるから直に回復する〟

 

ティオの言葉にハジメは、ティオの頬に手を添えながら「そうか」と安心すると、敵の方へと視線を向ける。

 

そして、

 

「テメェ、ジャブラ(・・・・)だろ? 近衛獣騎士団〝翡翠〟の団長だった」

 

ハジメの言葉に、男は余程、ハジメが其の名を口にしたことを嬉しかったのかニイッと口を弧に描き狂気的な笑顔になる。

 

話に追い付けてないティオ、フェルニルを守る優花もシアもハジメとジャブラと呼ばれた男を知ってるのか分からず困惑する。

 

傍にいるティオはハジメに話しかける。

 

〝ハジメ、まさか此奴等……〟

 

「ああ、デウスを知っている奴等だ」

 

〝なら、ハジメも覚えがあるのじゃな?〟

 

「ああ、正確には俺の中にいる機神がな……なぁ、亜人最強の種族さんよぉ」

 

ハジメの言葉にジャブラはクックッ……と、段々と笑い声を大きさを増していく。

 

「……何が可笑しい?」

 

「ふっ……ああ、そうだな。その呼ばれ方をされたのは久しいな」

 

ジャブラは笑みを消すと、両手を大きく広げ叫ぶように口を開いた。

 

「ああ、貴様の言う通り!我等こそ、亜人族最強と謳われた種族! そう我等の名は────」

 

 

 

 

その種族は、

 

神代の遙か昔、創成期と呼ばれた時代。

 

この世界の象徴の大樹ウーア・アルトを中心から広がる樹海は今よりも広大であった。

 

だが、その時代では、大樹を我が物にしようと多くの種族が大樹の守護者を巡っての樹海に侵攻し、樹海に住む種族達と大樹の守護者は抗った。

 

しかし、攻めてくるのは、人間族、魔人族、吸血鬼族、竜人族といった多種の種族。樹海に住む者達と守護者では敵うはずがなく進軍を止められずにいた。

 

だが、転機が訪れた。

 

樹海を、亜人族を統べる女神、創獣神エルネシアが樹海に住む彼等に力を与え、その種族は誕生した。

 

その種族は、

 

竜人族の竜鱗を破るほどの膂力を持ち───

 

吸血鬼族の攻撃を耐える強靭な肉体を持ち───

 

魔人族を超える魔法を持ち───

 

人間族の数を容易く蹴散らす力を持ち───

 

女神と同じ種として生まれ、樹海を守り、女神を守る存在の彼等は亜人族最強と謳われた種族………

 

その名は───

 

「「「鬼人(きじん)族」」」

 

神によって生まれ、

 

神によって存在を消された哀しき種族である……。

 





次回の投稿は来週は無理そうですm(*_ _)m
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