ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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遅くなりました( ̄▽ ̄;)


百二十九話 鬼人族VSアレス・バーン

 

特殊な結界が張られ脱出不可能な状況の密林の中、アーティファクトの捜索していたアレスは神によって存在を消された古代の種族、鬼人族のチャクラム、ベール、ジェイドの三人と相対していた。

 

「我等は誇り高き戦士の称号を与えられ、いと尊き女神に選ばれし種族!それが我等、鬼人族である!」

 

「……女神に選ばれし種族です、か」

 

初めて聞く名だ。それが、アレスが最初に抱いた感想だった。その強さも彼等は亜人族最強と言われても可笑しくないだろう。

 

それでもアレスは再び、収めていた〝ロンギヌス〟の矛を前へと突き付けるような攻めの構えを取る。

 

「しかし、相手にとって不足なしです」

 

「ほう、まだ我等三人を相手に一人で殺り合うとする気があるとはな人間。仲間を守る為か?」

 

チャクラムの言葉にアレスはハハッと微笑で返す。

 

「それも、ありますが、これは単なる意地ですよ。ただ、己の信念を突き通す為の」

 

「その意地で貴様は死ぬことになるぞ?」

 

「いえ、私は死にませんよ。なんたって最強に認められた最強ですから」

 

「よく回る口だ。嫌いではないが……そろそろ死んで貰おうかっ」

 

その言い切ると同時に、チャクラムは「〝手裏剣を操る魔法(シュリケス)〟」と短文詠唱の魔法を再び唱えると巨大な手裏剣を投げる。他の二人もベールは付与魔法(エンチャント)を、ジェイドは再びぐにゃっと空間が歪ませながら姿を消す。

 

「ふっ!」

 

アレスは、〝ロンギヌス〟を振り上げて手裏剣の軌道を逸らすと槍に光の魔力を纏わせると「──〝天翔閃・円弧〟」を発動し、アレスを中心に円形に広がる光の斬撃が飛び回る。その中、杖を地面に突き刺したベールが付与魔法を発動する。

 

「──〝擬似生命〟・〝硬質化〟・〝擬似再生〟付与。起きなさい私の〝土の傀儡(ランドゴーレム)〟」

 

すると、アレスの足元から突然と巨大な一本の腕が現れると、そこから地面から這い出るように高さが三メートルほどのゴーレムが姿を現した。

 

「ゴーレムですかっ」

 

アレスは瞬時にゴーレムとの距離を取るが、そこへ軌道を逸らした手裏剣を手元に戻していたチャクラムがそのままアレスが移動してきた場所へと強襲する。アレスも咄嗟に〝ロンギヌス〟を横にして対応する。

 

「……やりますね」

 

「貴様もな」

 

盾にしていた槍を弧を描くように振り回して手裏剣ごとチャクラムを吹き飛ばすと、アレスは光の斬撃を飛ばしながら距離を縮めていく。チャクラムも手裏剣を器用に振り回し、光の斬撃を破壊すると同様に接近する。

 

そして、再び槍と手裏剣がぶつかり合い、今度は両者、引くことなく純粋な力の押し合いへと変わる。得物からギチギチと音が鳴り、其処へ何かが飛来しアレスは咄嗟にチャクラムから離れる。

 

「木ですか……」

 

先程の飛来物はゴーレムが近くの木を引っこ抜き、それを投擲していたのだ。

 

「いけぇ、そこよ!」

 

ゴーレムのすぐ傍には、杖を竹刀のようにぶんぶん振り回しながら指示するベールの姿が見える。

 

しかし、その程度の攻撃などアレスには一つも当たらない。だが、

 

「……邪魔くさいですね」

 

当たりはしないだが、投擲する木を避けながらチャクラムと戦闘を行うには些か此方が不利になる一方。

 

「先に彼女から落とさせ──」

 

そう言って、再び、投擲された木を避けようとした時だった。殺気を感じ反射的に障壁を展開した次の瞬間には障壁にヒビが走り障壁が割られた。

 

「くそ……防がれた」

 

「恐ろしい隠密ですねっ」

 

空間が歪み現れたのはジェイド。先程のゴーレムが投擲した木に乗って接近して奇襲をしたらしい。しかし、アレスに防がれ舌打ちする。

 

そして、再び攻撃を繰り出そうとするもアレスの突きが炸裂し、ジェイドの体の中心に穴を作りだしたが、その瞬間、ジェイドの姿が霞んでいくと思えば、既にアレスから距離を取った場所にいる。

 

「幻……いや、違う」

 

アレスは、幻の類かと推測したが、槍の矛先に血が付着してることから幻ではないことを確認する。

 

「化け物かよ、〝空蝉(うつせみ)〟で避けてギリギリなんてよ!」

 

そう吐き捨てながらジェイドは再び、姿を消す寸前に花火玉に似た球体をアレスを投げ付ける。アレスは身構えるが、当たる寸前に爆発して大量の煙が発生する。

 

「ゴホッゴホッ、煙幕ですか──!」

 

口元に手を当てながら煙を晴らそうとするアレスへ煙を裂くように凶刃が振り落とされる。咄嗟にアレスは槍を構えて防ぐ。

 

「流石に防ぐか!」

 

「流石に貴方の警戒は怠りませんよ!」

 

煙で視界が狭くなる中でのチャクラムの攻撃を防ぎ切り、アレスは魔法で煙が晴らすと、再び、二人の戦いが始まる。

 

「〝手裏剣を操る魔法(シュリケス)〟」

 

チャクラムが手裏剣を飛ばすと同時にアレスへ殴り掛かる。アレスも此方へ接近する手裏剣を〝ロンギヌス〟で対応しながらチャクラムの殴りを逆の腕で防ぐと、アレスの足元の地面がヒビ割れる。

 

だが、アレスも防ぐだけじゃない。殴りかかったチャクラムの腕を掴み、地面に叩き付けようとする。だが、チャクラムは足を先に地面に着かせて痛みを和らげ、今度は、アレスの腕を掴み投げ飛ばすと、手裏剣を手元に戻しアレスに接近して手裏剣を振りかざした。アレスはそれを〝ロンギヌス〟で防ぐ。

 

「へぇ、近接も得意ですか驚きです」

 

「一発芸だけじゃ〝翡翠〟の副団長は務まらん」

 

お互い軽口を叩き合い、自身の得物である槍と手裏剣がぶつかり甲高い金属音が鳴り響くと同時にお互いの武器が逆方向に弾かれ二人の体制が崩れる。

 

「「!」」

 

即座に体勢を直そうとする二人だが、復帰はアレスの方が早く既に〝ロンギヌス〟の矛に光の魔力が纏いだし、

 

「──〝天翔閃・四連〟」

 

横薙ぎに振るった〝ロンギヌス〟から四つの光の斬撃が同時に別の四方向から飛来しチャクラムへと迫るが、

 

「──〝舞風(まいかぜ)〟」

 

対して、風の魔法を纏った手裏剣が螺旋状にチャクラムの周りを飛び回り、四つの光の斬撃すべて掻き消す。

 

アレスの槍の突きと空間魔法の〝ゲート〟を駆使した連撃をチャクラムは手裏剣を盾にし、〝ゲート〟の位置を予測して全て防ぎ切り、チャクラムの手裏剣を交えた格闘技をアレスは〝ロンギヌス〟と己が得てきた経験を活かして捌く。

 

そんなお互いが決定打を与えない中、劣勢を強いられてるのはアレスの方だった。チャクラムの巨大手裏剣を合わせた独特な戦闘スタイルに翻弄され、呼吸する暇もなくベールの造りだしたゴーレムが投擲など、ジェイドの奇襲に対処もしているのだ。今も表情は、悟られないよう笑みを浮かべてるが、余裕は無くなってきている。

 

しかし一方、チャクラムの方もアレスという人間にこうまで追い込んでも尚、倒し切れないことに歯噛みしていた。自分の攻撃を捌き、時に自分へ攻撃、ベールのゴーレムの攻撃とジェイドの奇襲にも警戒し対応するという人間離れの技を披露している。普通なら冷静を欠きミスの一つもする筈というのに、目の前の人間には一切それを見せていない。

 

「化け物がっ」

 

チャクラムの漏れた言葉に、アレスは笑う。

 

「そんなの、昔から知ってますよ!」

 

アレスの渾身の一撃がチャクラムを襲う。だが、チャクラムも右に展開された〝ゲート〟を横目に、巨大手裏剣で防御する。が、

「!?」

 

チャクラムの横腹に激痛が走る。何故?と思った瞬間、まさかと横腹を見ると、そこには小さな極小なゲートが展開され、そのゲートからアレスの〝ロンギヌス〟が自身の横腹を突き刺さっていた。

 

「アレは、ブラフか!?」

 

「御明答!」

 

致命打を喰らい口から血を流しながら苦悶じみた声を上げなながら叫ぶチャクラムに、アレスは返答しながら「今だ!」と言わんばかり接近を試みる。

 

しかし、そう上手くもいかない。接近しようとした途端、右足を掴まれた感覚を感じた。足元を見ると、自身の右足にゴーレムの影から這い出たと思われる黒い鞭が巻き付いていた。

 

「これはっ」

 

「〝影縛(シャドウバインド)〟。流石に止めさせ貰うぜ」

 

いつの間にか、ゴーレムの肩へと移動していたジェイドがそう口を開く。

 

そして、「叩き着けろ」とジェイドの指示に従い、影の鞭がアレスを地面へと叩き付けた。しかし、叩き付けられる寸前にアレスは咄嗟に受け身を取っていた為、大したダメージはなく、すぐに起き上がろうとしたその時、拳を握り締めたゴーレムが目下に映るアレスへ大きな腕を振り落としている姿が目に入る。

 

「──〝千断〟」

 

だが、アレスも冷静さを欠かさずに落ち着いた対応で、振り落とされる寸前に後ろへ飛び回避しながら、不可視の斬撃を放つことでゴーレムの硬い巨腕を切断する。

 

「嘘!? 〝硬質化〟を付与して魔鋼石レベルの硬さになってるのにっ」

 

「空間魔法の不可視の斬撃を散らさず一点に集中したか、考えたな……だが、ベールのゴーレムはそれほど甘くないぞ……後、回復を頼む」

 

ゴーレムの腕を切断されたことに驚きの声を上げるベールの隣で血で滲む横腹を抑えながら冷静で淡々とアレスの動きを分析していくチャクラム。だが、 チャクラムの言う通り腕一つ切断されただけでゴーレムは終わらない。

 

ゴーレムの切断された箇所がモゾモゾと動き出し再生しようとしている。アレスもその光景には目を張る。

 

「再生能力っ──〝光じ……っ!」

 

再生能力に気が付いたアレスは阻止しようと更にゴーレムに追撃しようとしたその時、何か嫌な感じがし、咄嗟に魔法を中断して右に避ける。次の瞬間、アレスのいた場所に数本の投げナイフが突き刺さっていたのを見て息を呑む。

 

「まさか、二度も俺の攻撃を避けるなんてアンタ、本当に人間かよ」

 

声が聞こえた方向に視線を転じると、いつの間にかゴーレムの肩から木の上に移動して小太刀を構えるジェイドの姿が現れた。

 

「気配遮断。いや、暗殺系、認識阻害系の固有魔法持ち……それともベールという少女と同じ失われた職業(ロストジョブ)という得体の知らない職業ですか」

 

アレスは、再び、突然とジェイドが現れたことらから、先程の自分達を襲った小鬼と呼ばれていた魔物達の存在をギリギリまで察知させなかった者はジェイドの魔法だろうと理解し、奴の固有魔法を自分の持つ知識で推測するが、耳が良いのか、アレスの独り言を聞いていたジェイドが鼻で笑う。

 

「はんっ、いい線いってるけどなどれも違ぇよ!!」

 

そう叫んだ瞬間、ジェイドの姿が消えたと思えばいつの間にかアレスの手前にまで距離を詰めている。

 

「なっ!?」

 

一拍、遅れてアレスも、ジェイドが手前まで迫ってることに気が付き急いで防御を取ろうとするが、しかし、それではジェイドの攻撃を防ぐのには判断が遅すぎた。

 

「無駄だ、俺の攻撃は誰にも見えない!害を及ぼす怨霊(ファントム・メナス)!!」

 

目にも止まらなぬ不可視の攻撃がアレスを襲う。

 

「ぐっ……」

 

しかし、なんとか攻撃を耐えきりフラついた体をなんとかしようとしたその時、致命打を与えた筈のチャクラムが手裏剣を携えながら背後に回っていた。

 

「いつの間にっ(回復魔法も扱うのか!)」

 

「どう足掻いても無駄だ」

 

焦って思考が一時、鈍ってしまったアレスにチャクラムは背中を巨大な手裏剣で切り付けた。

 

「ぐぅあっ!」

 

背中を切り付けられた痛みにアレスの表情が歪む。だが、それだけで終わりでは無い。アレスの意識が背中に向かった瞬間、腕の再生を終えてしまったゴーレムが今度は両腕を振り上げていた。

 

「行けっ、 土の傀儡(ランドゴーレム)!地撃粉砕!」

 

「ガッ!?」

 

ゴーレムから放たれる二つの拳に防ぐ間もなく、べキャッと嫌な音を立てながらアレスはその場に倒れ伏した。

 

「……どうだ?」

 

「いや、流石に殺れたでしょ。ジェイドの攻撃からの、隙を突いた副団長と私のゴーレムのダブルアタック。これで死んでなかったら人外だよコイツ」

 

倒れ伏したアレスの元へ近寄り死んでいるのかと確認するジェイドとベール。だが、二人から一歩離れて腕を組みながら倒れ伏すアレスを見つめていたチャクラムが口を開く。

 

「いや、まだだ」

「何言ってんすか副長? もうコイツは死ん──」

 

チャクラムの言葉の内容に、冗談も過ぎると苦笑いを向けるジェイドだったがすぐ後ろから何かが起き上がる音がした。

 

ジェイドの時が止まる。嘘だろ。と、脳内に駆け巡り息を呑む。ふと、隣のベールを視線を向けると、彼女は後ろの光景を見て唖然とし恐怖してる姿が目に入った。ジェイドもバッと勢いよく後ろへ振り向いた。

 

そこには、

 

「ふぅ……なんとか、なりましたが……流石に脳に直撃は響きましたよ」

 

フラフラとしながら立ち上がるアレスの姿だった。

 

「っ、どうして生きてる!?」

 

「気合い?ですかね」

 

「巫山戯るな!!」

 

笑うアレスに青筋を立て激昂するジェイド。だが、チャクラムに肩に手を置き「落ち着け」と宥めながら、アレスに視線を向ける。

 

「ベールのゴーレムの攻撃を喰らう直前に一点集中させた防御魔法で脳と内蔵を守り、倒れてる間に再生魔法をフル稼働させて回復したのか。しかし、とんだ無茶をするな」

 

「ハハッ、これでも神殺しを目的にしている身。これぐらいの事は出来ていないといけませんからね」

 

笑ってそう返すアレスに、チャクラムは「ほぅ」と言葉を漏らしながら悪い笑みを浮かべる。

 

「そうか……神を殺す、か。大層な目的だな人間。しかし、その前に貴様の命は尽きる」

 

そう話し続けながら、チャクラムは巨大手裏剣を再び構える。他二人もアレスを逃がさないよう包囲する。

 

「それに、貴様、既に体が限界だな?無理に再生魔法を使って残りの魔力残量は搾りカス程度だろうよ」

 

「………」

 

アレスはチャクラムの言葉に沈黙で返す。

 

「図星か。なら──」

 

チャクラムは巨大手裏剣を片手で持ち上げ、振り上げながら言葉を続ける。

 

「その引導、俺が渡してやろう」

 

その瞬間、巨大な手裏剣の一枚刃がアレスへと振り落とされた。

 

「────」

 

チャクラムの言う通り、今のアレスの魔力残量は三分の一ぐらいしか残っいない、しかしだ。

 

まだ、彼は諦めてはいない。

 

振り落とされた凶刃はアレスへ直撃する寸前にガキンッと音が立ったと同時に静止する。チャクラムは一瞬、何が起きたか分かっていなさそうであったが、すぐに理解し溜息を一つ。

 

「はぁ、まだそんな余力があったとはな。驚いた」

 

チャクラムの視線の先、そこには……

 

〝ロンギヌス〟を横にして上に突き出して刃を防ぐのに満身創痍なアレスの姿だった。二人の力は拮抗してるのかぶつかり合う武器からガチガチと音が鳴っている。

 

だが、そんな時間は長く続かない。

 

「無駄な足掻きを、殺れ」

 

チャクラムは振り落とす力を更に増やし、ベールとジェイドにも攻撃の指示を送る。

 

包囲していた二人は、チャクラムの指示よりも早く攻撃に移っていたが、0.1秒ほどアレスが早かった。

 

「──〝綺羅〟」

 

「「!?」」

 

「──ちっ」

 

アレスを中心に空間さえも裂く無数の光の刃が広がり、ジェイドは影に潜り、ベールはゴーレムを盾にする。チャクラムも手裏剣を盾にして防いでいくも終わらず放ち続ける刃に悪態を吐く。

 

「くそっ、ここまで魔力が残ってるとはなぁ!」

 

「いえ、もうカラカラですよ!」

 

その時、後ろから声が聞こえ、振り向こうとした瞬間、怪我を負っていた横腹に激痛が走る。

 

「うぐっ」

 

苦悶じみた声を上げながらチャクラムは吹き飛ばされた。吹き飛ばされながら横目で見ると〝ゲート〟で移動してきたアレスが拳を突き出す姿が、

 

「人間族風情がぁぁあ!!」

 

チャクラムの怒号。それに対しアレスは、

 

「……ええ。人間ですよ、私は」

 

笑って返した。

 

吹き飛ばされたチャクラムは、大きな音を立てながら大木へ激突し、大木が次々と折れていく。そして、十本目の大木が折れる音が鳴り止み、大木が折れたことに粉塵が霧のように舞いチャクラムの姿が見えない。

 

静寂が満ちる。

 

それは、先程まで激しい戦いを忘れる程に。

 

ジェイドとベールは、チャクラムが吹き飛ばされていったことに驚愕してしまっているのか微動だにせず、口をあんぐりと開けている。

 

「なんとか、いけましたか………」

 

相手が吹き飛ばされる様を眺めていたアレスは、ホッとしたのか片膝をつきしゃがみ込むと、一呼吸つく。既に己の魔力残量は愚か、体も限界に近い状態だ。

 

しかし、アレスはチラッと前方に微動だにせず動かずに折れた大木の方向へ視線を向けるジェイドとベールを見る。

 

「(まだ、二人の脅威がいる。……どうにか、ここから離れなければ)」

 

今、二人は自分を見てない。なら、逃げるチャンスは今しかないだろう。

 

「(魔力はまだしも体力の回復を)」

 

なんとか逃げる手段を熟考しながら体力の回復を率先しようとするアレス。しかし、脅威はまだ終わりではなかった。

 

「──っっ!?」

 

突如、前方から背筋が凍り気圧されるほどの殺気が伝わりアレスの思考を止めてしまう。

 

体も動かない。

 

息することも忘れてしまう。

 

その時だった。粉塵の奥から、霧を切り裂きながらアレスを的確に狙う何かが飛来する。アレスは右に転がるように動いてギリギリ回避する。そして、飛来する何かの正体に目を見開き苦い表情になる。

 

「(手裏剣!)」

 

手裏剣は旋回し、霧の奥へと戻っていくと奥から人影が見える。

 

「貴様を逸脱者としても、人間族と見下していたことが俺の間違いだ。謝ろう」

 

声が聞こえ、霧の奥から姿を現したのは、服はボロボロだが、ほぼ無傷の状態のチャクラムの姿が現れた。

 

「「副団長(チャクラム)!!」」

 

先程まで動かなかった二人が急いで駆け寄っていく。そして、勢いよくチャクラムに抱き着いた。それも縋るようにベールは目に涙を浮かべてるほどだ。チャクラムも嫌がらず寧ろ嬉しそうに二人の肩に手を置いている。

 

「(仲間意識が強い? いや、親愛、執着に近い)」

 

アレスは目の前の光景に、ハジメと優花達を見ているような錯覚に陥るほどチャクラム達の信頼関係は深いのだろう。同時に、今、自分は危険な状況であることを。

 

「ベール、チャクラム。俺は、アレを使う。奴の力はそれに値する者だ」

 

チャクラムの言葉に二人は息を呑む。だが、理解したのか「了解」と口にすると、二人はチャクラムから離れる。

 

「俺の名はチャクラム・アルトだ。人間、貴様の名は?」

 

チャクラムの問い掛けにアレスは〝ロンギヌス〟を地面に突き刺し杖代わりにして、踏ん張るように立ち上がると口を開く。

 

「……アレス・バーン」

 

「アレス・バーンか。覚えた。貴様という戦士の名は忘れることはないだろう」

 

「それは、どうも。死ぬ気はありませんけど」

 

「そうか、やはり貴様も力を隠してたか……だが、その体では俺の相手は無理だ」

 

そう吐き捨てるチャクラム。

 

それは、正解だった。今、アレスが〝オリジン〟を使っても発動時間は五分もないだろうし、チャクラムの本気に耐えれる可能性は皆無に等しい。

 

それでも!

 

「無理だとしても、貴方に一矢報いてみせましょう」

 

「そうか、やはりアレス・バーン! 貴様は俺の好きな部類だ!」

 

両者、構える。アレスは太陽な輝きの魔力のオーラが全身を纏い、〝ロンギヌス〟が光り輝く。チャクラムも同様、翡翠色の魔力のオーラが全身を纏い出す。

 

空気は一変し、この場所だけ異様に静けさが増す。

 

一拍。

 

「〝ロンギヌスッ!・オリ──」

 

「〝妖───!」

 

両者が動き出した瞬間、アレスの後ろから五天の龍がチャクラム達を強襲する。

 

「っ、ベール!」

 

「わかってる!! 〝土の傀儡〟! 土の壁へと変わりなさい!」

 

チャクラムの言葉よりも先に、ベールがゴーレムの姿を変えて半ドーム型の土壁へと変わると、五天の龍の無差別咆哮からチャクラム達を守る。

 

「〝五天龍〟………まさか、「……ん、そのまさか」」

 

構えをやめて、放心するように〝五天龍〟を見ながら呟くアレスの言葉を重ねるように後ろから声が聞こえた。

 

「ユエ殿……四人は?」

 

「……あっちで待機させてる」

 

「そうですか、しかし何故ここに?」

 

「……ん、アレスの帰りが遅いから手こずってると思ったから来た。案の定ボロボロだったし」

 

「ハハッ、面目ない」

 

「……それに、アレスは私達にとって大切な仲間」

 

「──ありがとうございます」

 

そう言って微笑むユエに、嬉しそうに笑い返すアレス。少し嬉しそうだ。

その時だった、

 

「戦いの邪魔をするとはな。始祖返りの小娘」

 

怒りが混じった声が聞こえ、ユエとアレスが視線を向けた先にはボロボロの土壁が崩れていき、そこには無傷のチャクラム達の姿だった。

 

土壁だけ壊れ敵の三人が無傷な光景に、ユエが目を見開き、驚きを隠せていない。

 

「……私の〝五天龍〟をただの土壁で?」

 

「ユエ殿、あの三人は強いです。下手したら〝ネームド〟の神の使徒以上でしょう」

 

「……そう、アレスが言うなら」

 

アレスの言葉に、目の前の敵の尋常じゃない強さを理解したユエも戦闘態勢に入る。チャクラム達も同じように構える。

 

「ふん、始祖返りの小娘が加担しても結果は変わらぬぞ」

 

そう吐き捨て、双方、一発触発の中……

 

終わりは唐突に訪れた。

 

「──チッ……こんな時に」

 

「はぁ?」

 

「ん? へ、団長?」

 

チャクラムが眉間を寄せ、ベールは、はぁ?といった表情に、小太刀を構えていたジェイドからは素っ頓狂な声を上げる。すると、三人とも頭に手を当てながら何か話し始める。

 

その光景にアレスとユエはポカンと口を開ける。

 

「念話?ですかね」

 

「……ん」

 

そう話し合ってると、ジェイドの方から「え、マジすか?!」と声を荒あげる。チャクラムの方も驚きを隠せないのか物凄い表情になっている。

 

そして、

 

「───了解した。此方も戻ろう」

 

そうチャクラムが言い終えると、ベールとジェイドの二人に指示を送る。二人は頷きアレス達の後ろを向くと駆けるように密林の奥へと消え去っていく。

 

そして、一人残ったチャクラムがアレスとユエに視線を向ける。

 

「事情が変わった。俺達は拠点に戻る」

 

「……逃げる気?」

 

「言ってろ」

 

ユエの挑発に軽く流しチャクラムも同様に後ろを向きながら「はぁ、最悪だ」と言葉を吐き捨てると、顔だけをアレス達に向き、そして、視線をアレスに定める。

 

「アレス・バーン。貴様とはいずれ決着はつける」

 

「それは、こっちのセリフですよ」

 

その言葉にチャクラムはハッと軽く笑うと、歩き去っていく。ユエがチャンスだと思い、追跡しようと動くがチャクラムが「やめておけ」と動き出そうとするユエに向かって忠告する。

 

「貴様等に一つ伝えておこう。俺なんかを追跡するより自分達の拠点に戻ったほうが良いと俺は思うぞ?」

 

「………どういうこと? 」

 

「言葉の通りだ」

 

「ハジメ達を、私の大切に何をした?」

 

チャクラムの言葉に、ユエの声のトーンが下がり圧が増し、瞳の光沢が消え去り冷酷な眼差しへと変わる。次の瞬間、ユエから膨大な魔力の余波が放ちだす。アレスが「ユエ殿!」と制止の声を上げるも今のユエの耳には入らない。そんなユエに対してチャクラムは嘲笑するかのように、

 

「さぁな? 自分の目で確かめろ」

 

「……言え!」

 

声を荒あげたユエが手を振り上げ、無数の〝緋槍〟をチャクラムへ一気に撃ちだす。だが、当のチャクラムは避けもせずにユエの〝緋槍〟を諸に受けた。アレスとユエはその行為に驚くも、その理由をすぐにわかった。

 

そこには、ぐにゃぐにゃと歪みだした消えかけてるチャクラムの姿だった。

 

「……!?」

 

「幻!いつの間にっ」

 

「すまんな、これはジェイドが創りだした幻だ。既に本体()は拠点に戻っている最中。ではな、また会おうアレス・バーン、始祖返りの小娘」

 

そう言い終えたチャクラムの幻は役目を果たしたのか色が抜けていき何もなかったかのように霧散していく。

 

その光景をユエとアレスの二人は、黙って見るしか出来なかった。

 

「ユエ殿、ハジメ殿達に〝念話〟が繋がりますか?」

 

アレスの言葉を聞いて、ユエが急いでハジメ達に〝念話〟を送るが、何度しても応答がなく首を横に振る。

 

「……駄目。どう連絡してもハジメ達に繋がらない」

 

「此方も駄目です。やられた、別動隊がいた。……ユエ殿!急いで待機させてる四人を回収してフェルニルに戻りましょう!」

 

「……ん!でも、アレス、体は平気なの?」

 

「今は、関係ないです!」

 

「……ん!」

 

二人は急いで駆け出す。

 

アレスなんて、無理な戦いで体が既にボロボロなってる関わらずに……

 

二人は少なからず思っていた。ハジメ達なら大丈夫であろうと、

 

しかし、ユエとアレスの二人は知らない。

 

待ち受けていたのは凄惨な結果であることを……

 





テストが近い為、次の投稿は更に遅いかもしれないです……m(*_ _)m
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