ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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大変遅くなりましたm(_ _)m


百三十一話 敗北

 

コートが血と土で汚れ、力を得た代償に色素が落ちた白髪が赤色に染まるほど頭から血を流し、左目は血で視界が霞み、酷使し過ぎた右腕に再生魔法を発動させてるが適正がないハジメでは回復速度が極端に遅くまだ腕は使いものにならないという既に満身創痍な状態。

 

そンな時に、絶望を与えに現れたのは

 

鬼人最強の男───ジャブラ。

 

「な………」

 

視界が霞んで見える中、しっかりその姿を捉えたハジメの目が大きく見開く。

 

驚愕。

 

その言葉がハジメの思考を支配し思考回路の大部分を占める。

 

しかし、ハジメが驚愕してしまうのは可笑しくはない。

 

それは、目の前にいる鬼人は、ハジメが今まで与えた筈の傷が既に一つもないからだ。

 

先の一撃は、死なずとも確かに致命傷は与えた筈だ。

 

その一撃を繰り出したハジメは勿論、その光景を見ていた優花とシアもハジメがジャブラの横腹の大部分を吹き飛ばしたところを目撃し相当のダメージを与えたと確信している。

 

しかし、目の前の鬼人は何も先程のダメージを受けてなかったかのように振る舞いハジメの前に立つ。

 

「久しぶりに、口から血を吐くほどの痛みを感じた。魔干鋼(まかんこう)製の武器は破壊された。流石はデウスが選んだ(依り代)……が、既に満身創痍だな」

 

「っ──てめぇっ、なんで傷がもう治ってやがる!?」

 

「ふ、まさか覚えていないのか? いや、あの時の貴様の視界には俺如きが入っていなかった方が正しいか? まぁ、いい。減るものではないからな答えよう」

 

ジャブラを睨みつけて問い質すハジメに、ジャブラは口角を少し上げながら口を開く。

 

「俺は魔法の才はなくてな。攻撃系の固有技能も身体強化系しか持ち得ていない」

 

「何が言いてぇ……」

 

ハジメが困惑するも、ジャブラは無視して言葉を続けながら五指を広げて地に伏すハジメの前に突き出す。

 

「俺が貴様に対して使ってるのは身体強化ぐらいだ」

 

「んだとっ……」

 

告げられた言葉にハジメは内心、有り得ない!と叫ぶ。先程のジャブラの言葉が嘘ではなければ、今まで目の前の鬼人は身体強化系の固有技能を使っていない状態でハジメのスピードと渡り歩き、そして圧倒していたということになる。

 

神でもない。

 

しかし、ハジメは確信する。目の前の鬼は、神共とまともに戦える力を有していることを。

 

そして、自分が舐めプされていたことに青筋を立てたハジメは怒りの余り無意識に〝威圧〟を放つ。

 

「てめぇ……」

 

無意識に発動した〝威圧〟を放ちながら睨みつけるも、ジャブラにとってそれは何も意味を成さずどこ吹く風だ。

 

「なんだ、デウス? そんなに俺を睨みつけて────」

 

「だから、俺はデウスじゃねぇ!!」

 

ハジメが吠え、少し体を起こすと雷を纏わせる。

 

ハジメの体が二重にブレた。その瞬間、地面が衝撃により窪んだと同時に紅い稲妻が奔り、ジャブラの頬を掠め血が舞う。

 

「!」

 

ジャブラは頬に流れる自身の血を指で拭う。

 

「……まだ余力はあるようだな」

 

見えなかった。

 

気配を感じ振り返りると、息が上がってしまって荒く息を吐くハジメの姿がそこにいた。ハジメ自身も今、何が起こったのか理解が追い付いておらず困惑している。

 

しかし、先程の弱ったような情けない姿ではなく、血に染まり尚、紅雷を纏い足掻き、喰らいつこうとしている姿にジャブラは目付きが鋭くなる。

 

未だに足掻こうとしている獣の目。

 

その目を見て、ジャブラは表情に出してはいないが僅かながら驚いていた。

 

未だに尚、足掻き、戦いながら成長をするハジメの姿。その瞳の輝きが失っていないことに。

 

そして、

 

「貴様が……」

 

───希望を信じた。

 

───守りたかった。

 

「そのような目をするなぁ!!」

 

理由は分からない。しかし、爆発したかのように怒声を響かせながらジャブラから膨大な魔力の余波が放たれる。

 

「っ!(魔力量は俺以上っ!)……ならっ」

 

自身を超える魔力量の余波に当てられながらもハジメの動きは速かった。

 

勢いよく跳び掛かると同時に身体全体を回るように動かしながら壊れかけの義手でホルスターから〝シュラーク〟を抜き取った一瞬で六条の閃光を放つ。

 

「小癪っ!」

 

ジャブラは六条の閃光を右腕を横薙ぎに振るうだけで発生した風圧だけで閃光を吹き飛ばす。そして、先程の計算された銃技を思い出したジャブラは弾き返した閃光を警戒する。

 

しかし、吹き飛ばした閃光は跳弾するもどれもジャブの方へと行かず何処かへ飛んでいく。それを見て何故?と疑問に感じたジャブラであったが、すぐにその意味に気付いた。

 

「ブラフか!」

 

銃弾に意識を削がれてしまったことに気付いたジャブラはハジメを探す。だが、既に遅い。

 

ジャブラの真上に影が差す。

 

「死ねぇ!!」

 

左足に魔力を集約させ、空を裂くようにハジメが回し蹴りをした瞬間、赤黒い雷が弧を描くと斬撃のようにジャブラへと突き進む。

 

「っ────まさか」

 

対して、ジャブラはハジメの放った雷の斬撃の魔力の質が違うことに気付くと、何かを嫌なようなものを感じ取ったのか咄嗟に右腕を黒く変色させると此方に向かう雷の斬撃を殴りつけた。

 

瞬間、殴りつけた右腕が斬撃を相殺した代償に全ての筋繊維が千切れてしまい、少しの間だけだが使いものにならなくなる。

 

「ぐぅっ、やはりか!(コイツ、無意識ながらも概念魔法の付与をしたな!)」

 

「今っ!!」

 

本日二度目の本物の激痛に僅かながら表情を歪ませるジャブラの動きが鈍る。ハジメはそれを好機と思ったのか〝天歩〟と〝空力〟を一気に発動させて再びジャブラの目に追えない速度で距離を縮めて死角に回り込むと攻撃を仕掛ける。

 

しかし、

 

「それは、悪手だぞっ、デウスゥゥウウ!!」

 

ハジメのスピードを目ではなく今まで培ってきた戦闘経験で反応したジャブラの左手が死角にいるハジメの首をガっと掴んだ。

 

「ぐっ」

 

首を掴まれたことに「ヤバい」と察し、なんとか離れようと体を動かして藻掻くハジメだが、既にボロボロの体ではジャブラの鍛え上げられた左腕の前には、どう足掻いても抜け出すことは出来ない。

 

「驚いた。命を懸けた戦いの最中に成長するとはな」

 

 

「クソッ、離しやが───ガッ!?」

 

魔法を使おうとした瞬間、ハジメの首を締める力が強まり苦しさの余り苦悶のを上げる。

 

「本当に貴様は似ている。あの御方も、その天賦の才に惹かれたのだろうな」

 

首を締めながら納得した様子を見せながら語るジャブラ。その表情は切なく悔しそうに目線を地面に落とす。しかし、当のハジメは話の意図が分からず、加えて首を締められているのでそれどころではない。

 

「ぐっ……何を、言ってやがるっ?」

 

「………だから、貴様を瀕死になるぐらいに痛めつけて奴を引き摺りだそうと思っていたが、無駄であったな」

 

ハジメの言葉を無視して、ハァ、と落胆するジャブラは、首を掴んだままハジメを勢いよく投げ飛ばす。投げ飛ばされ、地面に強く叩き付けられたハジメは「カハッ」と肺から空気が排出されると同時に少量の血が口から漏れる。

 

「貴様は弱い、弱すぎる。人の域としては超えた力であろう……だがっ、デウスの力を扱えてない貴様には、あの破壊神に勝つなど到底不可能!」

 

そう言い切るジャブラの言葉がハジメに突き刺さる。

 

その言葉は正しいとハジメは思った。

 

神でもなくその側近の一人であり、古代の英雄の一人であった鬼人を相手にハジメはボロボロの有様だ。このままでは、神共、あの破壊神ラーゼンと戦っても自身の負けは目に見えていた。

 

しかしだ。

 

──そんなこと分かっていることだ。

 

──負ける未来が見えるなら変えれるぐらい強くなればいい。

 

──血反吐を吐く程の努力を積み重ねていけばいい。

 

全身が痛みに悲鳴を上げている中、ハジメは奥歯を噛み砕く勢いで歯を食いしばると、痛みを無視するかのように立ち上がる。

 

血など、傷など、未来など………

 

─────どうでも良い。

 

「───俺はっ」

 

その瞳の輝きは失っていない。

 

それは、今もなお、敵を喰らわんとする獣の目。

 

ただ、一矢報いると想い(概念)が……

 

ハジメの体を無理矢理にと突き動かした。

 

義手と〝神喰雷槍(カミグライ)〟を繋ぎ合わせるように錬成、手放さないよう固定を施したハジメは〝紅狼〟を発動させて目の前の敵へ向かって疾走する。

 

進む、疾れ、駆け抜けろ!と、脳内で叫ぶ。

 

「てめぇを超える!!」

 

空気が変わる。

 

今のハジメは瀕死の重症にも関わらず、優花達では目に追えないスピードを維持して疾走する。

 

「っ」

 

距離が狭まるほどハジメから放たれる殺気と覇気から、まさに此方へ向かうは赤雷を纏う狼。そんな幻想を見せられてしまう程の気迫にジャブラは狂気的な笑みを浮かべた。

 

「まさに獣の慟哭。良いだろう受けて立つ!!」

 

「〝獄神喰雷槍(カミグライ)〟──起動ォオ!!」

 

鬼の武人は黒く染まった拳を構える。

 

赤雷の魔槍を持つ化け物は赤雷を纏いて吼える。

 

駆けていく度、ハジメの中で警鐘が鳴り、肉をナイフで削ぐような痛みが走る。が、そのせいか体が軽くなるような感覚に陥り、同時に精神が研ぎ澄まされ集中力が増していく。

 

それは、ハジメが持つ〝瞬光〟よりも世界が止まって見え、音も全て意識の外へと排出し、まるで時が止まる中、自分だけが動いているような感覚。

 

この感覚に、ハジメは感情の昂っているせいか笑みを浮かべた。

 

「(ああ、この感覚……久しぶりだな)」

 

───それは長い帝国の夜、神の一柱〝創獣神〟オルステッドとの戦い

 

───それはハルツィナ大迷宮の最終試練、全てを守護する者(ゲートキーパー)との戦い

 

どちらも(ハジメ)にとって激しく命を燃やした戦い。

 

死と隣り合わせだからこそ生きていることの実感。

 

今のハジメは所謂、極限集中状態(ゾーン)に入っていた。

 

自分が何をするべきか? どうすればいいのか?

 

頭より体が早く動く。

 

そして、二人の化け物達の距離が狭まった瞬間、ハジメがジャブラより早く動いた。

 

スピードを緩めず、一歩踏み込んだハジメは靴底にスパイクを錬成し、足を固定する。固定された足により前へ倒れ込む体をもう片方の足で支えると同時に姿勢を低くし、上半身は〝神喰雷槍〟を投擲するような構えを取る。

 

ジャブラは、攻撃に気付いてはいるが、まだ受けの体勢が取れていない。

 

今こそ、好機。

 

ハジメは、一つの作業のように自身の中にいる()の力を無理矢理引き出すと、〝神喰雷槍〟に付与させていた魔法を強引に起動させる。

 

───擬似概念魔法

神喰らい天をも貫く雷霆の大槍(雷霆よ、天を貫き神さえも貫き通せ)】強制発動

 

紅き雷霆へと変貌した大槍をハジメは全身を筋肉をフル活用して矛にから石突きまで柄を滑らしていく。投げるのではなくそれは投擲の動作を利用したパイルバンカーの射出速度を優に超える速度の突き技を繰り出した。

 

「イケェエエエエ!!」

 

速さは力。かの竜神でさえも滅した天をさえも貫く雷霆は、ただ真っ直ぐに目の前へ敵を滅するだろうと思われていた。

 

しかし、

 

「(概念魔法を付与したか)……流石は機神との呼ばれていた者の力………ならば、俺はその力を今ここで超えてみせよう!」

 

目の前の化け物は……ジャブラは受けの体勢を取れなかった訳ではない。わざと取らなかった。

 

理由は簡単だ。

 

ジャブラは自分で「受けて立つ」と口にしたからだ。

 

その言葉の通りジャブラは正面から迎え撃つ。

 

「〝崩拳撃(ほうけんげき)ィイイイ〟!!!」

 

上体を捻り、黒く変色した一撃必殺の拳を勢いよく前方に突き出した。

 

空気を真っ二つに裂くように突き出しされた拳は、迫りくる紅の雷霆と激突する。直後、膨大な魔力余波が激突する二人の中心に巨大なクレーターが出来上がる共に放たれる。

 

そして、その影響は巨大な魔力の竜巻が発生するまでに発展していく。発生した竜巻から放たれる風圧は周りの木々を薙ぎ倒していく。近くで戦っていたシアとカラは腕を盾にして、優花は気を失っているティオを守りながら風圧に耐え忍びながらぶつかり合う二人の戦いを見届ける。

 

二人の勝敗で、この場の戦いの結果が決まる。

 

「ァァァアアアア!!」

 

「ォォォオオオ!!」

 

雄叫びを上げる二人の目は眼前にいる敵しか見ておらず、その槍を拳を一切に緩めないお陰か均衡が保たれる。

 

だが、現実は非常だ。

 

例え、均衡を保ったとしても数秒し保たない。それ以降は己の魔力の質と量で決まる世界。

 

例え、質が勝っとしても、それを超えるほど物量(力と魔力量)には太刀打ちは不可能に近い。

 

故に、

 

バキンッ!!

 

「────っ!?」

 

「ォォオオオ!!」

 

勝利の天秤は、ジャブラに傾いた。

 

ジャブラの渾身の一撃は、概念に打ち勝ち雷霆を纏う大槍を真っ正面から打ち砕いた。

 

その光景を見た優花とシアは目を見開く。そして、ジャブラの拳の行き先を気付くと急いでハジメを助けようと駆け出す。

 

しかし、もう遅い。

 

ジャブラの拳は、〝神喰雷槍〟を壊しただけに止まらず、そのままハジメの腹を打ち抜いた。腹に大きな穴が出来上がったハジメの背中から血濡れたジャブラの拳と共に大量の血と潰れた臓物、砕け散った骨が飛び散り、口からも大量の血を吐き出す。

 

「ゴフッ」

 

今まで感じたことのない焼けるような痛みと苦しみにハジメは理解した。

 

自分が治せないほどの致命傷を負ったことを………

 

自分が敗北したことを………

 

意識が失いかけ朦朧とする中、叫びながら此方へと必死に向かってくる優花とシアの姿が見える。二人が何を言っているのか分からない。しかし、あの泣き叫ぶ二人の表情を見たら何かと察せれる。

 

「ああ……(クソダセェ姿を二人に見せちまったな)」

 

己の弱さを痛感してしまったハジメは悔しそうに笑う。

 

そして愛する二人の姿を目に留めながら僅かに動く口を動かす。

 

「ごめんな───」

 

そう呟きながらハジメは、ドサッと地面に仰向けに倒れた。その瞳は輝きを失い始め、貫かれた腹部の穴からはドクドクと大量の血が流れ出していく。

 

「他愛もないな」

 

自身の血に濡れた手を見た後、ハジメの敗れた姿を一瞥しながらジャブラは呟く。その時、十二の聖剣がジャブラに襲いかかる。そして、其の技をジャブラは知っている。

 

「聖なる魔力の杭……〝聖杭〟、今度の相手は貴様か〝慈神〟」

 

バックステップして迫りくる聖剣を淡々と避けながらジャブラは、次の相手──優花を睨む。

 

「死ね!!」

 

憤怒に染まる優花は、ジャブラを殺すことしか考えておらず、復讐に駆られたティオに近い状態だ。白銀の魔力の奔流が波打つように乱れ、周りを飛び回る〝聖杭〟達も優花の感情の顕しているのか空を荒れ狂うように舞いながらジャブラを襲う。

 

「優花さん!」

 

「シアは、ハジメの手当を! 私がアイツを殺すっ」

 

「え、ちょっ───」

 

共に駆け付けたシアの言葉を最後まで聞かず、怒りに身を任せてる優花はそのままジャブラの方へ飛び出した。〝聖剣〟、〝聖槍〟、〝聖鎚〟と様々な武器へと形状変化させながらジャブラに仕掛ける優花。しかし、ジャブラは焦ることなく全ての攻撃を弾き返す。

 

「〝光鎖〟!」

 

その時、死角からジャブラへ地面に付与させていた光の鎖が身体中に巻き付き拘束させるのだが、

 

「拘束しようとも無駄だ」

 

ジャブラは、いとも容易く光の鎖の拘束を容易く破壊する。だが、それも優花も分かっている。

 

「〝聖櫃(アーク)〟!!」

 

突如、巨大な光の球体がジャブラを包み込むと、優花は拳を強く握る。その瞬間、球体の内部で大爆発が起こる。だが、優花の怒りの猛攻は止まらない。

 

「狂い舞いなさい〝天輪〟!」

 

優花の言葉に、〝聖杭〟達が反応し、十二の聖剣は一つの手裏剣へと姿を変え、爆煙ごと切り裂くように荒れ狂うように舞う。

 

しかし、

 

「効かん」

 

両腕を勢いよく振るい爆煙を晴らし、飛んでくる聖杭をまるで〝聖杭〟の軌道を知っているかのように的確に弾き返しながら姿を現した無傷のジャブラはそのまま優花の位置を把握したと同時に姿がブレる。

 

「っ!」

 

咄嗟に後退しようとした優花だが、既に眼前に移動してきたジャブラに首を掴まれてしまい逃げ遅れてしまう。

 

「このッ」

 

優花は聖杭をジャブラの身体中に突き刺すが、何一つ表情を変わらず首も掴まれたままだ。

 

「呆気ないな〝慈神〟よ」

 

「……黙れっ」

 

「今回は貴様は眼中になかったのだが、此処で殺しておくのもいい」

 

「ア、グッ……」

 

目にいっぱいの涙を溜めながら殺意の篭った眼差しで睨みつける優花に、ジャブラは首の骨を折ろうと段々と首を掴む力を強めていく。息が出来ない優花は苦しさの余り身体をジタバタと動くもジャブラは止まらない。

 

そして、一気に首を折ろうとした時、

 

「ウリャァァアアア!!」

 

「!」

 

突如、ジャブラに衝撃が奔る。痛みはないが、強い衝撃だった為か、優花の首を掴む力が緩む。その瞬間、何かが横切り優花を取られる。

 

「……まだ、仲間がいたか」

 

ジャブラは、何かが横切った方向へ目を向ける。

 

そこには、

 

「ふぅ、なんとか間に合いました」

 

そこには、ウサミミを生やした少女シアが優花を横抱きに抱えながら立っていた。

 

「もうっ、優花さん! 怒りに身を任せて勝手に突っ込んじゃいけませんよ!」

 

「ゲホッゲホッ……ごめんシア。ハジメは?」

 

「何とか、優花さんの用意してくれていた回復瓶を使って一命は取り留めています」

 

プンプンと怒るシアを落ち着きを取り戻した優花。ハジメの容態も重症なのは変わらないがハジメと共に作っておいた試作品の回復瓶で一命を取り留めたことに安堵の表情を浮かべる。

 

「それに、私もキレてるんですよ。大好きなハジメさんをあんなにして………貴方は絶対にぶっ潰します」

 

「……シア」

 

シアも相当キレている様子で、片方に持っていた〝ドリュッケン〟の持ち手を握り潰しそうな勢いで握っているのだから。シアはジャブラを見る。

 

ジャブラの方もシアの姿を見る。

 

「……兎人族」

 

「なんですか? もしかして、私が兎人族だからって舐めてます?」

 

ジャブラの言葉に反応したシアが眉間を寄せながら口にするが、ジャブラの方は違っていた。あの時は、デウスの器であるハジメにしか目がいっていなかったため、シアの姿を見て驚愕してしまったのだ。

 

───嘘だ。

 

ジャブラはそう自分に言い聞かせる。

 

しかし、ずっと最後の瞬間を見届けるまで側に仕えていた自分の目が告げている。

 

あの、威勢のある雰囲気が、

 

あの、美しい淡白青色の髪が、

 

年齢故か、幼さは感じるがその佇まいが敬愛している主と同じものだ………。

 

「───ああ、貴女様は其処におられたのですか」

 

魔力の質も量も違う。だが、ジャブラの目に間違いなく映っている目の前の兎人族が、獣人の神であり、樹海を、界樹を守護していた我等の女神

 

「──我が女神よ」

 

───〝創獣神〟エルネシア・ハルツィナだと……。

 

 

空気が変わる。

 

張り詰めていた筈の空気がジャブラに纏う殺気が失せただけで空気が戻る。

 

そして、ジャブラは涙を流していた。

 

その姿に優花とシアは困惑する。

 

「シアが……」

 

「私が女神?」

 

二人が困惑してる間に、シアと戦っていた筈のカラがジャブラの傍へ駆け付ける。

 

「団長………やはり」

 

「カラ、お前が手を出しにくかったのはよく分かった。故に、計画を変えよう。機神デウスの抹殺を中止し、彼女を捉えあの計画(・・・・)を再開させる。カラは先に戻ってチャクラム達にも伝えよ」

 

「はいっ」

 

ジャブラの言葉に従いカラは先に密林の奥地へと向かって猛スピードで駆け出していく。

 

そして、

 

「少し取り引きをしようか」

 

ジャブラはシアと優花に取り引きを持ち掛けた。

 

内容は話を聞いていた二人も理解できる。

 

話の内容からシアを此方に渡せと、拒否したらシア以外の全員は死ぬということを。

 

シアに支えられていた優花が前に出る。

 

「シア、ハジメとティオを持って逃げて。私が時間を稼ぐ」

 

「優花さん、それはっ」

 

シアが待ってとかけようとも、優花は譲らない。

 

「大切な仲間を、家族をね。はいそうですかって、簡単に渡すわけある訳ないでしょ!」

 

純白の翼を広げ、十二の〝聖杭〟達を操作しようとした時だった。直後、後ろから本当に気絶させる程度の衝撃が優花の首筋に奔る。

 

「え?」

 

優花は訳が分からず困惑する中、意識が飛ぶ寸前に後ろにいる人物を見る。

 

「シア、なんで────」

 

「ごめんない、優花さん。でもハジメさんを救けるにはこれしかありません」

 

悲痛めいた声色で話す優花は、言い切ることなく意識を失った。気を失う彼女をシアは謝罪しながらそっと地面に下ろす。

 

「さぁ、我が女神よ。此方へ」

 

「ええ、ですがその態度と変な呼び名やめて下さい気持ち悪いです。私は貴方がハジメさん達にしたことを許した訳ではありませんから」

 

態度が急変し畏まった態度で接するジャブラに、シアは嫌悪感を顕にしながら話す。その態度にジャブラは一切も反応しない。だが、次のシアの言葉には反応することになる。

 

「それに、一つ言っておくことがあります」

 

「ほぅ、それはなんでありますかな?」

 

ジャブラがそう言った後、固かった表情から自信満々な表情へ変わったシアはジャブラに向かってビシッと指を差しながら堂々と告げる。

 

「天職〝占術師〟である私が予言します。貴方は絶対にハジメさんに負ける!ですから、覚悟しておいてて下さいね!」

 

その自信は何処からでてるのか。しかし、そんな事を気にしてないかのようにハジメの勝利を確信し不敵な笑みを向けるシアの姿に、表情を変えなかったジャブラが笑う。

 

「それは、面白い予言だ……まぁ、いいでしょう───」

 

自然と力が入る。嬉しさの余りか頬が緩み白く鋭い歯が見えだす。今の自分の表情は恐いだろう。

 

だが、しょうがないこと。

 

敬愛する女神に、そんな事を言われたら………

 

「その予言。真っ向から捻り潰してみせましょう」

 

───ワクワクしてしまうだろう。

 

そう応えたジャブラの表情は、誰もがゾッとする程、狂気に満ちた笑みを浮かべる。そして、シアを連れて夜が近付き薄暗くなる密林の奥へと去っていくのであった………。

 




次回ですが、それよりも以前から考えていた帝国編の後半辺りの編集を先にしようと思っています。

少し話を改編させる部分があると思うので、編集を終えたら活動報告で連絡しますので是非、読み直してみて下さい(^^)
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