今回は短めです。
黒一色の夜空に浮かぶ月の光さえも遮るほど木々が生い茂る密林の最奥。
其処に、異様な存在感を際立たせる石造りの神殿が聳え立っていた。そして、周りに軽く千は超えるだろう額に角を生やした魔物──オーガ達が神殿への侵入を許さない完璧な壁を形成させながら布陣している。
そんな強固に守られてる中、神殿内には五人の鬼の姿があり、彼等は円をつくりながら佇み、其の中心には大きな寝台がある。そして、その上に意識を失っているかのように眠っているウサ耳の少女──シアを見つめている。そんな彼等の表情は歓喜と悲嘆が入り混じったような顔をしていた。
そんな眠る少女を見つめ、副団長の鬼人──チャクラムは目を見開いたまま口を開く。
「顔は幼い、魔力の質も違う、種族も鬼人族ではなく隠密に
そう話すチャクラムの目からは涙が流れ、言い終える時には他の者も涙を流している。
「ええ、そうよ。間違いないわ、この方はエルネシア様よ。私達が絶対の忠誠を誓った主」
「俺は泣いてねぇ……泣いてねぇからな……」
「エルネシア様ぁ………」
各々がシアの姿を様々な反応をしている中、チャクラムは涙を拭いシアを連れてきた本人である自分達の団長──ジャブラにこれはどういう事だ?と、説明を要求するような視線を送る。
「しかし、団長。アンタは最初デウスの器を潰しにいったんじゃないのか?」
「………そうだ。後、デウスの器は俺が
「そうか、ならいい。だがな……」
ずっと腕を組み、厳つい顔をしたまま瞠目していたジャブラが口を開き答える。それを聞いて少し安堵したチャクラムは自身の中で、いや自分達にとって一番聞いておきたいこと話題を振る。
「この御方をどうするつもりだ?」
「……そうだな。答える前に、ベール」
「な、何よ」
突然、声を掛けられたため少し戸惑いを見せながらもベールは、ジャブラの呼び掛けに応える。
「今、我が女神に起きられたら不味い。お前の魔法を完全に眠らせておいてくれ」
「え? まぁ………いいけど」
ベールは、言われた通りシアの顔の真上に手を翳すと、上位の眠りの魔法を唱え始める。
「其の眠りは安らかに 此処は夢の牢獄 囚われ絡みて 深く深く底へと沈みて檻の中へ眠れ──〝
詠唱を唱え終えた瞬間、ベールの手から魔法陣が形成され、陣からピンクの鱗粉がシアの顔へと降りかかっていく。すると、シアの首に鎖のような模様が浮き出る。
「うん、これで簡単には起きることはない」
「感謝する」
「それで、どうなんだ団長。アンタは何をしようとしている?」
答えを待つチャクラムに、ジャブラは言い淀むことなく自身の目的について話す。
「しようとすることは一つ、女神の再誕」
ジャブラの一言に、その場にいた全員の目が見開く。涙を流していた者も驚きのあまり涙が止まっている。
「ベールの
周りの反応を無視して話し続けるジャブラに、チャクラムは空気を震わすほどの殺気を向ける。
「………貴様。まさか、エルネシア様が遺してくださった遺産を使う気か?」
「…………ああ」
沈黙からの返答に、チャクラムが動いた。体がブレて一瞬で石床を蹴って眠るシアを飛び越えながらジャブラに蹴りを入れて吹き飛ばす。同時に背中に装備していた巨大な〝手裏剣〟を掴み取ると叩き付けるように振り落とす。
「…………」
しかし、ジャブラは痛みを感じてないのか表情を一切変わらず、自身へと振り落とされる手裏剣を片手で軽くいなすように弾き、体を捻りながら体勢を整え直すと
「カハッ」
何も反撃を許されずに石床に叩き付けられ、背中に強い衝撃に苦悶の声を上げるチャクラム。其の姿を見下ろしながらジャブラは手を差し出す。
「少しは落ち着いたか? 神聖な神殿で無闇に暴れるのは許さん。たとえ、長い間ともに背中を預けてきた友であってもな」
「…………お前らしい。すまない、少し頭に血が昇り過ぎていたようだ」
「そうか、俺も非がある。言葉足らずだった」
チャクラムは嫌がることなく自身の非を認め、差し出された手を取って立ち上がる。
「それで、もう一度聞くぞ………出来るのか?」
「昔……【
「……お前と同じ三英雄の一人、【不死王】ガイルから、か……確かにあの道徳を無視した死霊魔法を扱う反面、奴は多くの支援・攻撃魔法の開発研究の立役者だったな」
チャクラムは思い出す。自分達の団長であるジャブラと肩を並べ、個で最強であるジャブラとは真逆で群で戦況を覆す最凶と呼ばれた魔人を。
「じゃあ、その聞いた方法とは?」
「俺が提案するのは蘇生と言うよりは魂の同一化という方法だ。普通の
説明を聞いたチャクラムは難しい顔をする。その表情を見たジャブラは声を掛ける。
「信じられんか?」
「……【不死王】の言葉を信じない訳じゃない。ただ本当に可能なのかを本職の奴に聞きたい」
そう言ったチャクラムは、この中で誰よりも付与魔法に広い知見を持ち、高位の付与魔法使い
「うーーん、理論的に可能だけど……「技術的に難しいか?」うん、そうだね。後、運も必要かな」
ベールはそのまま【不死王】のやり方は更に具体的に全員にも分かり易く説明する。
「簡単に言うと宝玉の魔力をこの子の魔力に
「どう違うんだ?」
「付与魔法はイメージなの。私の作るゴーレムだって明確なイメージがあるから簡単に作り出せるの。でもね、魔力というのは神聖で未知なエネルギー。そんな代物をイメージするのが難しいの。だから、付与させるんなら二つの魔力が混ざり合うまでずっと付与の行使を続けないといけないけど……そこら辺はなんとかなるけど………」
「まだ不安があるのか?」
技術的にも可能と断言したベールであるがその表情は眉間を寄せ思い悩む顔をしている。見兼ねたジャブラが問い掛けるとベールは素直に頷く。
「うん。理論も技術的にも大丈夫。でも最後の一つは本当に賭けみたいなもの」
「………魔力同士の反発か?」
「うん。二つの魔力が上手く混ざり合って異常が現れないくらい相性が良ければいい。でも、そういう事は普通は有り得ない。魔力というのは一人一人違うモノ。それは血の繋がった兄弟や家族であっても波長とかが似てるだけで質は全く別物。混ざり合うとすればそれはもう同一人物か奇跡ぐらい」
ベールが説明を終える。最初は出来ると言われて嬉しいそうにしてたジェイドとカラは納得した上で落胆に満ちた顔で首を縦に動かす。チャクラムも当然と思う反面、やはり耐え難い表情をしている。
しかし、
「でも、団長がそう言った理由もよく分かる。だから私は協力する。私だってエルネシア様ともう一度お会いしたい。またこの手で私の頭を、頬を優しく撫でられたい」
その発言に周りが驚きを見せる中、ベールは、眠るシアの手を優しく手に取って自分の頬に添える。そんな彼女の姿を見てチャクラムが近付き肩に手を置いた。
「なら、やる事はただ一つだな」
「副団長………」
「団長、命令しろ。もう覚悟を決めている」
振り向き様にそう告げるチャクラムに、ジャブラは他の三人にも目を向ける。勿論、三人も覚悟を決めている表情だ。それを見たジャブラは深く頷くと全員に告げる。
「明日、奴等は確実に攻めてくるだろう。故に我等は真っ正面から迎え討つ。
其の言葉を聞いて鬼人達は目を見開く。対してジャブラは其のまま指示を続ける。
「ジェイドは先に先行し諜報及び足止め。カラは日が昇ると同時に六百のオーガを連れて奴等の拠点へ進行させろ。チャクラムは……」
ジャブラの指示に黒の道着を着た鬼人のジェイドと少年の鬼人のカラが「了解」と呟く。次にチャクラムに指示を与えようとするが、言う直前にチャクラムが待ったをかけた。
「どうしたチャクラム? 」
「すまないな団長。俺には、アレス・バーンという先約がいる。奴は機神の器の次に危険だからな。俺が迎え討つ」
そう語るチャクラムにジャブラは「そうか」と頷き返すと指示を続けていく。
「ならば、チャクラムは其の人間の対処。残りのオーガ達には此の場所の防衛。最後に、ベールは今からすぐに儀式の準備に取り掛かれ」
「わかった。でも、大丈夫なの?儀式の最中は私は戦えないからオーガ達だけじゃ心許ないし、事前にゴーレム達を作っても制御が曖昧になっちゃって壁ぐらいしか役割がないよ」
ベールは不安を洩らす。もし、儀式の最中にハジメ達が乗り込んで来てしまえば儀式は確実に中断されてしまうからだ。しかし、ジャブラは「其処は安心しろ」と告げる。
「此の場所に攻めてくる奴等は全て、俺が叩き潰そう」
「「「「っ?!」」」」
空気がガラリと変わる。この場にいるジャブラ以外の全員が一瞬に震え上がるほどの圧が込められた言葉にチャクラム達は安堵してしまう。
ジャブラに対する絶大的な強さと信頼を。
嘗て、自分達の他に獣人達もまとめ上げ、一度も戦場で倒れた事もない歴戦の
「始めるぞ、準備に取り掛かれ。今から始めるのは戦争じゃない一方的な蹂躙だ」
「「「「了解」」」」
ジャブラの言葉に四人はそう返すと、それぞれ命じられた役割を取り掛け始めるのであった。
決戦開始まで、残り二時間………。
リアルが忙しくて執筆する時間がなくて投稿が遅れてしまいましたm(*_ _)m
話が変わってありふれ三期始まりましたね。自分的に、ラナやハウリアのキャラを見れて良かったです。自分の願望的に、アルテナのところカットされずに出てきて欲しいなぁ〜って思っています。