随分、お待たせしてしまいすみませんm(_ _)m
密林の西側、其処では無数の火柱が立ち上がり、鮮やかな紫炎の花びらが舞い散るように揺らめいていた。
紫炎の花弁が舞い散る中、一人の竜人の姫が可憐に舞いながら自身へ襲いかかるオーガ達を薙ぎ払った。武器を振り上げるよりも早く魔法で焼き払い、焔を纏った愛用の扇子で払い一蹴する。
周りに展開された数本の火柱も、留まるだけじゃなくティオの意に従うかのように群れるオーガ達を呑み込み肉体を焼き尽くす。
なんとか距離を詰めて来て、手に持つ棍棒を振り下ろすオーガもいたが、ティオは〝部分竜化〟した腕で振り下ろされる棍棒を防ぎ、内に回り込んで鋭利な竜爪でオーガを切り裂いた。
遠くで弓を引いたり、投石を行うオーガ達に対してもティオは臆することなく冷静に対応していく。
「舞え 煌めけ 炎華の如く───〝
唱え終わるとティオの周りに紫の華が咲く。
華は、やがて無数の花弁が舞い散っていくが、それはゆらゆらと地面には落ちず、ティオが疾風の如き風を吹かせばオーガ達の元へ飛来し、放たれた矢を焼き落ち、花弁に触れたオーガを炎に包み燃やしていく。
───火・風属性複合魔法〝燐風閃華〟
炎で華の形を創り、本来であれば防御系の魔法に位置するが、疾風の如き風を吹かすことで花弁は舞い散り閃光の速さで敵を燃やす炎の刃と化す。
紫炎の花弁が舞い散り霧散する。ティオは軽く息を吐きながら、武器を構えぞろぞろと此方へ進軍するオーガ達を確認しつつ状況を整理していき冷静さを保ち続けている。
「ふぅ……(ざっと二百は倒した。残りは四百程、か)まだまだ先が長いのぅ」
いくら倒しても其の数の多さにティオは少しばかりの不満を漏らす。
本来ならこんな大役は得意のでないのだが、あの時、快く了承してしまった己に少しばかりの愚痴と苦笑いをこぼす。
しかし、ティオは既にその訳は分かりきっていた。
攫われた大事な
「ふふっ、弱気なってはいかんな」
つい笑みをこぼす。
ティオは雑念を消すと再度、気を引き締めた。そして、迫るオーガを竜化した腕で地面に叩き潰した。
必ず、必ずハジメと優花、ユエがシアを取り戻す。
アレス達も光輝達も任された任務をこなしているだろう。
ならば、〝守護者〟たる自分が三人の帰る場所を守るんだと。
「妾は妾の仕事を全うするだけじゃ。さぁ、来るのじゃ悪鬼共よ! 我がクラルスの竜の炎で焼き尽くしてやろう!」
そう自信満々に口を開くティオは、紫炎を纏いながら残りのオーガ達へ攻撃を再開していくのだった。
「………強いですね、彼女」
ティオの戦う姿を少し離れた位置で様子見していたカラがポツリと呟いた。同時に彼はティオに対する評価が単なる囮ではなくなる。
「(あの時は団長の一撃でのされていたけど)……いや、団長を評価基準にしていたのが間違いだったみたいですね」
はぁ、と溜息を一つ。頭に手を当てカラは自分の判断基準が高すぎて相手の評価を間違えてしまう癖に嫌気がさしてしまう。
「認識を改めなくては……残りのオーガ達も進軍を開始し物量で押し切れ」
『グルルルァァァアアアア!!』
指示により後ろに控えていたオーガ達の軍勢が侵攻を始める。
これほどの数ならば耐えられないだろうと推測するカラ。すると、自分のすぐ傍で控えていた四体のオーガ達も動こうとしたのを見て慌てて待ったを掛けた。
「あ、貴方達はダメですよ? まだ、ここで待機です」
そんなカラの命令に動こうとしていたオーガ達の動きがピタッと止まり、再び、カラのすぐ後ろに下がった。
彼等の名は〝オーガロード〟
通常のオーガよりも理性や知能がある個体。
力や耐久性も段違いに上であるためロード一体でオーガ五十体分の戦闘力を誇る*1。
そして、現在、カラが連れてる四体はオーガロードの中でも一番鬼人族に近い強さを持つ個体達であり各々が違う固有技能を有している。
故に、彼等は敵の殲滅よりも主人の一人であるカラの傍で再び、待機する。
それを確認したカラは今の戦況を見やる。
「(………一応、ロード達以外のオーガを進軍させた。以て十分だろう)」
そう予想したカラは戦いを終わるのを気楽に見届ける。
だが、その予想は見事に覆された。
五分。
十分。
二十分。
三十分。
予想より遥かに超えた時間が経っても尚、視線の先にいる彼女は一向に倒れる気配を見せない。故にカラも難しい顔をして僅かに焦りを見せていた。
「(どういうこと? 六百に近いオーガの軍勢だよ? )ありえない」
ポツリと口を漏らすカラ。後ろに控えるロード達は主の纏う気配が変わったことを察知し、もうすぐ自分達の番だろうと各々、武器を手に持ち始める。
そして、同じタイミングにカラは立ち上がり口を開いた。
「もうすぐ、オーガ達が全滅します。行きますよ」
『グルルルゥゥウウアア!!!』
カラの言葉にロード達は歓声の如く雄叫びを上げ、ティオのいる方へ走り出していく。それを後方で見ながら己も後を追うのであった。
「───〝蝸炎っ〟、〝旋風刃〟!」
右手から炎の竜巻がオーガを巻き込み、左手から旋風の刃がオーガ達を襲う。片方は竜巻に巻き込まれたオーガは焼き焦げとなり、そして、オーガ達を寄せ付けない盾となり旋風の刃はオーガ達を切り刻む。
背後にまわる敵がいたとしても彼女の竜の尾が近付けさせずティオは上手く戦況を維持していた。
何故、ティオが近・遠距離の乱戦を上手くこなしながら戦線を保っていれているのは二つの要因があった。
一つは、ティオの並外れた冷静な分析能力と柔軟な対応力。
ハジメやアレスよりも長けたティオの冷静力は、己の魔力量、魔法を行使した時の威力の加減すらも視野に入れ効率的な戦いを繰り広げることを可能にしている。
もう一つは、オーガ達の知能の低さだ。
これは一度戦っているハジメ達も同様でわかったことだが、オーガというのはゴブリンのフィジカルを強くしただけの個体、謂わば少し連携できる程度の脳筋だ。つまり、少し図体が大きいからといってゴブリン程度だと考えれば難なく対応できるということ。
しかし、それでもティオは拭いきれない不確定要素がある。
迫るオーガを蹴散らしながらティオはチラリとある人物がいる方向へ視線を向ける。
そこにいるのは明らかに他とは違う重装備をした四人のオーガ。そして、その中心にいる鬼人の少年──カラ。
「(やはり、彼奴だけ力の底が知れぬな)」
純粋に魔力量が差がありすぎる。見た目は年端もいかない少年なのに魔力はハジメ並だ。
戦い方も優花から聞いた情報しかなく、わかっているのは大地の力を利用した攻撃や〝錐流〟という名の攻撃手段しか行っておらず、どんな力なのか理解できていない。
「(土魔法の使い手……いや、物体の操作?)」
そう予想しながらもティオは手を緩めておらず、寧ろ攻撃の威力を更に強めオーガ達の殲滅にあたる。
しかし、それでも圧倒的な数で攻めるオーガ達は着々とティオへ迫っていく。
「(こ奴等、数で押し潰しに来たな)ならば!」
それを見越したティオは、〝部分竜化〟で翼を展開し飛翔。そして、上空に数百の緋色の炎の槍を生み出した。
「〝緋槍百連〟」
数で押し寄せるなら数で圧倒する。
直後、オーガ達の群れに百の炎の槍が降り注いだ。腹を貫き、頭部を吹き飛ばす。腕を貫いた槍はそのまま大地へ突き刺さる。まさに、槍の雨。ユエほど操作能力はティオにはないがこの程度の敵にはこれぐらいが丁度いいだろう。
そして、槍から逃げ惑うオーガ達に対してはちゃんと対策を取っているティオは一言呟く。
「今じゃ〝爆〟」
その一言に、大地に突き刺さっていた〝緋槍〟達が一気に爆発を起こし周りにいたオーガ達を全て巻き込んだ。
魔力暴発。
魔法の術式が乱れる、もしくは魔法の核というものを破壊することで起こる魔力の暴発。
後者の核を壊すやり方はティオが知る中で二人ほどしかできない芸当だが、前者の方は魔法に慣れていない人や魔力はあるが魔法に適正がない人物が稀に起こしやすい。
故に、ティオが行ったのは敢えて〝緋槍〟を地面に突き刺さったままにし現存させ、タイミングを見計らい、わざと魔法の術式を乱すことで魔力暴発を引き起こしたのだ。
地面に突き刺さった百の〝緋槍〟による爆発はオーガ達の死体すら残させないほど強力で辺り一帯の木々を更地にさせるほどだった。
それを飛翔しながら見ていたティオは粗方オーガ達を殲滅できたことに安堵の笑みを浮かべたが、直後、密林の奥から凄まじい轟音が響く。
「なんじゃ!?」
「っ!」
大地が大きく揺れ、落雷の如き轟音を聞いたティオは驚きながら音がした方向を見やる。カラもティオとは違う意味で動揺しながら後ろを振り返った。
そこには、濃く生い茂る密林からでも直視できる黒い稲妻。そこから放たれる膨大な魔力の余波にティオは顔を歪ませる。
「(なんじゃ、この濃密な魔力! 少し離れたこの場所でも感じてしまう死の恐怖。ハジメ達は無事なのじゃろうか………)」
オルステッド以来の酷く濃い魔力にティオはあの場所にいるだろうハジメ達の無事を願う。
対してカラは黒い稲妻を見た途端、あれはベールの扱う〝祭壇魔術〟の一つ雷系統祭壇魔術〝黒王雷〟だと理解する。
「(嘘、アレはベールさんの祭壇魔術。ベールさんが祭壇を使うほどの相手がいるなんて………)こっちも早く終わらせないと」
他の場所はどうなっているのか分からない。が、カラは急ぐべきだと、席から立ち上がり椅子を片付け号令をかける。
「予定が変わりました。行きますよ、皆さん。狩りの時間です」
『ウォォオオオオ!!!』
カラの号令に応えるかのように四体のオーガロード達が咆哮を上げカラと共に進軍を始めるのであった。
竜翼は戻さずにティオは地上へ下りると此方へ走るオーガロードとその後ろにいるカラを見る。
「っ、来たか!」
ティオがすることは唯一つ。
「(此方へ来る前に彼奴等を焼き尽くす)」
敵の骨をまでを焼き尽くす程の魔力を溜めながら両手に合わせ、竜のブレスを放つ。
大地を焦がし空気を焼くほどのブレスは一直線に迫るオーガロード達を向かう。しかし、走るロード達の内の一体が前に出ると背中に携えていた通常より大きめのバスターソードを抜き、両手で握り締める。
「グルルァァア!!」
そして、雄叫びを上げバスターソードを振り下ろすオーガロード。直後、振り下ろした刃がブレスに直撃した瞬間、ブレスが真っ二つに両断された。
「なんじゃと!」
己のブレスが両断されたことに驚愕に染まるティオ。本来ならば先程の剣を熱で溶かし、オーガを滅するはずであったが目の前にいるオーガは先のブレスを両断したバスターソードを肩にかける。
このバスターソードを持つオーガロードが持つ固有技能の名は〝魔断〟。
文字通り、魔法を断つ固有技能である。
そして、ティオの渾身のブレスが破られたことで難なく接近できたオーガロード達は各々の武器を取り出した。
衝撃を加えた箇所に爆破を付与する固有技能〝重爆〟を持つ
「くっ」
なんとか竜翼を繭のように自分を包み爆破から身を守るティオは後退しつつ再度、飛翔しようとするが、いつの間にか背後に回っていた双剣を持つオーガロードがティオの飛翔を妨害する。
「グルルル!!」
「チィっ!」
双剣を持つオーガロードの固有技能〝連斬〟を発動。双剣から放たれる連続斬撃にティオは押され逃げることが叶わずにいるとメイスを持つオーガロードがメイスを振りかざす。
だが、ティオはなんとかメイスの攻撃を避けると同時に竜化した右腕を相手の腹部に突き刺そうとしたが貫通せずに終わる。
「なにっ!?」
竜の爪が効かないことに声を上げ驚愕するティオ。それは、このオーガロードの持つ固有技能〝不動〟が原因でありティオの攻撃を防ぐと同時に手に持つメイスを振るう。
しかし、ティオも即座に対応して片方の腕を竜化させて防御を行う。
「ルラァァア!!」
「くっ」
直撃とはいかずともメイスによる重い衝撃が確実に伝わり思考がブレてしまい、今まで冷静に対応していた布陣がほつれ隙が生まれる。そして、そこを狙わない者なんて居ない。
メイスに続き、三体のオーガロード達が一斉に各々の武器を振り下ろす。ティオは対応できずに攻撃の嵐に見舞われる。
「あぐっ!」
連続に放たれる斬撃、魔法を断つ一撃、両刃斧の刃を喰らう度に起きる爆破。度重なる攻撃に傷だらけになるも〝再生魔法〟を駆使して傷を癒し、なんとか意識を保つ。
叩きつけられる痛み、切り刻まれる痛み、焼けるような痛み、思考が鈍りそうな痛みに顔を歪ます。
だけどティオの目は死んではいない。負けてはいない。
この程度の痛みに耐えられないようならば仇である〝オルステッド〟に到底敵わない。
二度も命を救われた
やがてそんなティオの思考が不甲斐ない己に怒りへとシフトする。
沸々と湧いてくる己への怒りと様々な負の感情が一気に押し寄せ混ざり合い、あの時と同じようなドス黒い感情が再び生まれてくる。
そのせいで、先程の冷静さが欠けていき脳内で暴れろ、殺せ、この怒りを力に変えろと声が響く。
ドロドロとした暗い魔力があの時と同じように纏わりついてくる。
殺せ、殺せ、殺せ、と声が聞こえる。
竜、本来の在り方のように暴虐を尽くせ、己がなるままに敵を殺し尽くせと内なる
そして………
いつの間にかティオの意識は心の奥底へ囚われた。
意識が完全に引き離され、ティオの体は復讐と憎悪、憤怒と諦念によって生まれた暗色の魔力によって呑み込まれていく。
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。
復讐の牙を以て、己を欲を満たす魔物となれ。
呪詛のように響くそれは、再び、ティオを復讐に呑まれた竜へと変えようとしていた。
しかし、その最中、暗い魔力とは違う鮮やかな紫の魔力によって阻まれた。
「………誰が誰の許しを得て妾を主導権を奪おうとしておる?」
声が聞こえた。
有り得ない、なぜ意識を保てる?
ソレはそんな疑問を抱いていると心の奥底へ閉じ込めたはずのティオがソレの前に現れソレの抱く疑問に答える。
「なに、簡単なことよ? 貴様は妾じゃからじゃよ」
そう淡々と笑って告げるティオに、暗色の魔力も人の形へ変容していき、ティオが一番怒りを宿した幼い頃の自分の姿になって怒りをぶつけるような声音で疑問を呈した。
『なぜ、拒む? 妾に任せればお主に確実な勝利を与えるというのに』
「それはどうかのぅ? むしろ、見える世界が狭まってしまって負けてしまいそうに思えるのじゃがなぁ」
黒ティオの疑問に、己の扇子を開いて口元を隠したティオはその疑問をまるで煽るような言葉で返した。
そんな彼女の返答に黒ティオはギリっと奥歯をかみ締めてティオを睨みつける。
『どうして! どうして、堕ちない?! 愛する両親が! 愛する故郷が! 大切なもの全てを失った貴様が復讐に駆られないのだ! あの時と同じようになにもかも捨てて暴れない!? それに、お前にはまだ憎悪があるはずだろう!!』
狂うように怒鳴り声をあげる黒ティオ。だが、ティオは表情を一つも変えずにただ淡々と答えた。
「ああ、お主の言う通り妾には憎悪がある。………じゃがな、
『────』
嘘偽りなく、嫌な顔を一つせず、ただ自分の一部に過ぎないと言い切るティオの言葉に黒ティオは呆気を取られた。
彼女は受け入れたのだ
復讐を、怒りに囚われた激情さえもティオ・クラルスという在り方を作る大事なピースであると言ったのだ。
顔を逸らすことなく其の瞳はしっかりと彼女を捉え、寧ろ彼女は手を取り合おうとしている。
そう、ティオはもう堕ちないと決めた。
しかし、復讐の炎は消えない。消える筈がない、ならば
「妾の力の糧にすればいいまで」
愛しの殿方が生き残るために魔物を喰らって力を得たように、自分の心の奥底に潜む復讐の炎を、憎悪に満ち溢れる黒き竜を、封じるのではなく新たな力にしようとしてるのだ。
ティオは黒ティオに歩み寄る。すると、黒ティオは辛い表情で話しかける。
『………本当に、
それは疑問でもない。質問でもない。彼女は、ただティオの身を案じての言葉だ。それを察したティオは微笑みと共に、その想いを汲んで力強く頷いた。
「うむ」
『………そ。なら、存分に使いなさい
「ふふ、任せよ」
素っ気なく、しかし口角を上げた幼い自分は、そのままティオに抱き着いた。ティオもすぐに手を彼女の背中に回して抱き締める。
その時、もしもハジメとの子供が出来たなら、こうして優しく抱き締めて上げようと決めたティオ。
そう思った矢先、黒の粒子となった幼き自分は、そのままティオの中へ入り、一つとなった。
そして、受け入れた代償は早くして現れた。
「───っっ!?」
まるで、胸に熱く焦げるような痛みに襲われたティオは膝をついてその場に座るも決してその眼は光を失っていない。寧ろ、その金の瞳が一層に輝いていた。
苦しい、熱い、辛い、痛い、とあらゆる感覚がティオの脳内を支配する。だが、ティオは耐える、耐えて、耐えて、耐えていく。
体の中で己の魔力と彼女の魔力が混ざり新たな力へと変えていく。
竜としての本能を、家族を、祖国を滅ぼされた怒りを律しるように努めよ、流れる膨大な情報量を頭をフル活用して処理せよ、全力でこの膨大な力を律せよ。
そう自分に言い聞かせティオは新たな領域へ、彼と彼女がいる場所へ手を伸ばす。
しかし、まだ彼処へは届かない。
後、数歩足りない。行こうとしても、これ以上いったら身がもたないと頭に警告が鳴る。
ならば仕方ないと割り切りティオは其の段階に留まった。
だが、得たいモノは得た。
自身の実力はまだまだだと実感され悔しさは残るが、今は納得し受け入れ、ティオは新たな力を宿し、己の意識を現実に戻す。
現実に戻された竜姫は自然と唱える。
「〝禁域解放〟」
瞬間、ティオを中心に鮮やかな紫の魔力の奔流が吹き荒れる。
───昇華魔法〝禁域解放〟
己の全ての能力を昇華させる魔法。
続けて、ティオは新たなに得た力を発動した。
「〝
まだ未完であるため上手く言語化は出来ない。しかし、ティオの瞳孔が縦に開き頭の横から捻れた竜の角が生える。
同時にティオに纏う魔力の奔流が鮮やかな紫から深い濃紺色へと変わり量が膨大に膨れ上がる。
背中から生えていた竜翼も形が変わり、飛膜の部分すら竜鱗が覆われたようなブラックダイヤモンドのような黒き輝きを放つ。
そんなティオの突然の変貌に戸惑いを見せるオーガロード達。しかし、そんな隙が生まれた束の間、ティオを囲んでいた四体は体をくの字に曲がりながら吹き飛ばされ大木に激突する。
「は?」
その一部始終を見たカラは突然なことに足を止めた。
───何をした?
五人の中でも弱いが、それでも亜人族の頂点に近い鬼人であるカラの視力を以てしても先程のティオの動きは残像のようにブレて動いていた。
「(強化魔法……違う。アレは、そういう類いじゃない!)」
彼女は危険だ。
そう判断したカラは自分の〝
「〝
その一言で岩の鎧が仕立てられ、小柄なカラを呑み込んだ。
そして、二メートルを超える岩の巨人が出来上がる。
まるでゴーレムを想起させるような見た目のソレはジャブラですら破壊には時間がかかる程の耐久力を持つ。
神代技能〝
体や武器に土の力を纏わせることで対象を守り、纏う岩の鎧の硬度はアザンチウム並の硬さを誇る。
更に、自身の防御力を上昇させ、あらゆる状態以上を遮断する。
まさに「最硬」の鎧を纏ったカラはティオへ突撃する。
「ハァァァアアアア!!!」
岩の巨腕を振り上げるカラは、一気に巨腕を振り下ろす。しかし、ティオは軽々と避けられ 的を外れた拳は地面に直撃する。
最硬の鎧による一撃は地面を砕き、そこから中心にクレーターが出来上がる。
「チッ! 錐流〝石槍〟!」
鎧の中で舌打ちするカラは鎧を媒介にして背中から石槍を生成、後ろからの奇襲の対策するが、今のティオには関係ない。
飛翔するティオは片方の手から紫炎、もう片方から黒色の竜巻を生み出し合わせる。
「───荒れろ〝黒炎乱舞〟」
放たれたのは螺旋を描く黒炎の渦。
〝禁域解放〟と〝
「くっ(体がっ………)」
黒炎の嵐に呑まれる中、〝土精の鎧〟の能力により熱は遮断されるため安堵するカラだが、嵐の勢いが余りにも強過ぎるために身動きが取れないでいた。
どんな腕を、足を動かそうとも微動だにしないことにカラはティオの放つ黒炎の嵐に驚愕する。
そんなどうしようも出来ない時、一つの黒い影が黒炎の嵐に突っ込んだ。
「グラァァァアア!!」
固有技能〝魔断〟を持つバスターソードのオーガロードだ。ロードは手に持っていた己のた大剣を振り下ろし、固有技能〝魔断〟を発動。ティオの〝黒炎乱舞〟を両断する。
そして、ロードの動きに合わせ、残りの三体のロード達も動く。三体は己の獲物を手に取り、飛翔するティオへ駆ける。
「くっ、復帰が早い! じゃが!」
四体の復帰に歯噛みするティオ。しかし、今のティオは先程とは違う。
ティオは両刃斧のロードが振るう寸前に、相手の脇のところまで移動し竜爪でその横腹を抉る。双剣を持つロードには技能〝連斬〟を発動するよりも早く頭部を掴み地面に叩きつける。
「グルァ!」
「グギャっ」
横腹を抉られ痛叫をあげるロードは痛みのあまりか手に持っていた両刃斧を落とす。双剣のロードも頭が地面に深くめり込んで身動きが出来なくなっている。
ティオはというとメイスを持つロードのところへ迫っており、鋭利な爪を降るおうとしていた。それを見て〝不動〟を発動するロード。先程のように攻撃を防いでからのカウンターを狙うのだろう。
しかし、それはティオも分かりきっている。一度受けた技を警戒しないティオではない。故に攻撃が届く寸前にティオは突き出す手を止めた。
「その無敵に近い物理耐性を得る技能と見受けるが……お主、発動中は動けないじゃろ?」
核心を突くように言われた言葉に、メイスのロードは僅かながら眉をピクリと上げた。
技能〝不動〟。
それは発動した十秒間、物理と魔法に対する絶対的な防御を得れる無敵に近い技能であるが、デメリットとして発動中の間は身動きは出来なくなり、次の発動には三分の時間が掛かる。
故に、それを理解したティオは〝不動〟の発動で動けないロードの胴を尻尾で巻き付けたティオは自信をコマのように回転しながら、その勢いでロードを空高く吹き飛ばした。
そして、〝不動〟の発動時間が切れるタイミングに合わせ口からレーザーのようなブレスを放ったティオ。防ぐ暇もないロードはそのままブレスを喰らい右肩が吹き飛ばされた。
「ハァァァアア!!」
背後に回ったカラの奇襲。しかし、ティオは背を向けたまま、竜翼と尻尾だけで見事に相手の攻撃を捌ききる。そして、振り返り様に火柱の如き業火を放ち吹き飛ばす。
「っ、皆さん! 五人で上手く連携しましょう!」
そう言ってカラは残りの二つの技能を発動。
相手の敵意を自身に集中させると同時に自身の耐久力を上昇させるヘイト系技能〝挑発〟と技能〝守護騎士〟を同時発動。
自身と仲間と認識した相手に回復と再生の加護を与える技能〝聖盾〟の派生技能〝祝福〟も発動。
この三つの技能の発動により、四体のオーガロードは回復及び欠損箇所を徐々に再生し始めていき、〝挑発〟によりティオの意識がカラに集中する。
「ヘイト系の技能っ!(そしたら、奴の天職はタンク系っ)」
技能〝守護騎士〟により攻撃がカラに集中してしまうのは少し面倒だが、冷静に対応するティオ。そこへ四体のロード達が加わりティオを囲む。
「〝盾の加護〟発動! 行くよ、皆さん!」
『グルルゥア!!』
四体が前線に復帰したと同時にカラは固有魔法〝盾の加護〟を発動。ロード達の耐久を上昇させ、カラの呼びかけにオーガロード達は咆哮をあげた。
「ムッ」
上から斬撃、横から挟むように迫る刃、死角からの奇襲。ありとあらゆる方向から向かう攻撃に対してティオは上手く受け流し、竜鱗と竜翼を盾にしながら防ぎ、反撃にブレスをお見舞いする。しかし、ブレスはカラの方へ向かってしまい魔法は余り使用出来ない。
「(連携が上手い……)ならば、これはどうじゃ!」
攻撃が勝手に集中されてしまうなら、辺り全体に攻撃を放てばいい。そう考えたティオは発動する。
「〝炎牙突〟」
直後、ティオの周りに幾つもの紫炎の柱が上がる。その炎の温度はユエの〝蒼龍〟が放つ温度を軽く超え大地すらも焼き尽くす。
『グァァァァア!?』
四体のロードが炎の柱に呑まれ全身を焼き尽くされる。カラの方は鎧が熱を遮断するため無傷だが、鎧の耐久値を下げていく。マズイと感じたのかカラは盾役をやめ突撃する。
「くっ、錐流〝岩鉄剣〟!」
纏う鎧の腕を岩の大剣へと作り変えたカラは、大剣を振り上げ、一気に振り下ろす。だが、ティオは腕をクロスさせて防ぐ。そのぶつかり合いに金属のような音共に火花が散る。
ぶつかり合いが続く中、カラはもう片方の腕も大剣に変えて決めにかけるがティオの竜翼が許さずダイヤモンド並の硬度を得た飛膜が大剣の攻撃を防ぐ。
四体のオーガロードはティオの魔法により全身を焼き尽くされて動けずにいる*2。
そして、カラの猛攻を難なく防ぎきるティオは思い出したように口を開いた。
「お主の、その錐流と言ったか? どこかで聞いたことのある言葉だと思っていたが、やっと思い出した」
「何?」
その言葉に攻撃の手を緩めないがカラも反応を示す。
「錐流……確か、土系の魔法の派生であり分類としては〝錬成〟に近い魔法。魔力を通し土や石、岩、鉱石などを媒介に攻撃、防御、拠点作りなど汎用性の高いモノだったが、後に生まれた〝錬成〟にモノ作りの役割を奪われ、攻撃や防御に関しても媒介を必要としない土属性魔法の方が使い勝手が良いために廃れていった古代の技法」
「………よく分かりましたね」
カラのその言葉を聞いて自身の答えが合っていることに少し安堵するティオ。嘗て、祖父から聞いた古代の技法。その在り方は〝錬成〟に近く土属性魔法に準じる技。
汎用性の高いものであったが、後に生まれた〝錬成魔法〟の有用性により廃れた技法。
だが、目の前の敵であるカラはこの技法を上手く活用している。
錬成よりも早い作成速度。
大地そのものに作用できる技。
だが、理屈を知ればティオにとっては問題ない。
右から来る大剣を竜化した左腕を使って上手く伝えながら受け流す。そして、一気に間合いを詰める。たが、カラはティオの判断が謝ったと判断して笑った。
このまま、突っ込むのならば、鎧を媒介にした無数の岩の剣の餌食になると。
「驕りましたね! 錐──」
しかし、そんなカラの予想を目の前にいる竜の姫は軽く覆した。
「錐流〝泥化〟」
カラが錐流を使うよりも早く鎧の触れたティオが発したのは自身が使っていた技法。
瞬間、彼女が触れた箇所の鎧が泥となりカラの本体が剥き出しになる。
「は? え、ちょっ「ふん!」───カハッ」
脳がフリーズしたのも束の間、ティオの綺麗な右ストレートがカラの腹部に突き刺さる。
物凄い痛みと衝撃に胃から何か込み上げるような感覚を感じながらカラは吹き飛ばされる。
ゴロゴロと地面に転がりながらも、なんとか意識を保てたカラは視界が鈍る中、視線の先に映る竜人に歯噛みする。
まさに圧倒。
今のティオには敗北という言葉を全く感じさせない。
「クソォ!」
悠然と前に立つ彼女に、怒りが湧くカラは鎧の修復を済ますと勢いに任せに腕を振るう。しかし、ティオは難なく後ろへステップして回避し隙あらば反撃すらも行っている。
それが、更にカラに焦燥感を駆り立ててしまい攻撃も粗さが目立ち始めていく。そんなフェイクという文字も一つ感じさせない実直的な攻撃を軽やかに避けていたティオは溜息と共にカラに言った。
「……カラと言うたか。お主は強い。魔力は勿論、所持してる技能も妾を軽く超えておる。じゃが、貴様には決定的な弱点がある。それは、お主がまだ未熟なことじゃ。精神が足りん、忍耐が足りん、自分の思い通りに事が進まなくて憤慨する。まさに子供じゃよ」
ティオはカラと戦って、すぐに彼の弱点は何かと察した。
自身が作り上げた道筋が思い通りにならなくむしゃくしゃして雑になったりとカラは己の想定から外れたことに対する対応が疎かになるのが弱点なのだと。
故にだろう。カラの他に強力な固有技能持ちのオーガロード四体を配置したのも頷ける。
「─────」
そんな中、ティオに子供と言われたカラは鎧の中で数秒ほど言葉を失なった。
目の前の竜はなんて言った?
子供?……この僕を子供だと……
僕は愛しき女神の眷属。女神の盾である僕を、僕を!
沸々と怒りが込み上げてくる。
視界が真っ赤に染まりカラは怒声を上げた。
「僕はっ、神エルネシアに仕えし一人であり女神の盾! その僕を子供と愚弄したなぁ!!」
女神の盾である己を貶める発言は許さない。
「錐流!!」
怒り爆発といった具合でカラは両腕を大地に叩きつけ、地面を激しく揺らす波をつくる。しかし、ティオは竜翼を広げ飛翔したことで回避する。
「まさか、大地そのものに干渉して地の波を作り上げたか………凄まじいのぅ」
その広範囲の大技に感慨深く思うと同時に圧倒的な殲滅にも使用できると知り、ティオの錐流に対する危険性が上がる。
そう考えてる内に回復を終えたオーガロード達が一気にあらゆる方向ヘイト襲いかかる。カラもそれに乗じて跳躍して攻撃を仕掛ける。
だが、
「妾には関係ないがな」
そう言って、ティオは自身の指に嵌めた〝宝物庫〟が光り輝いた。
「なっ!?」
直後、カラの戸惑いの声が上がった。
それもそうだ。己が突き出した拳がティオに届くなく空中に浮遊する黒色の十字架型によって攻撃が阻まれたからだ。見れば、他の攻撃を仕掛けたオーガロード達も同じよう十字架によって妨害されている。
重力制御式オールレンジ攻撃兵器〝クロスビット〟
それは、無人偵察機〝オルニス〟と同じ原理で動く攻撃特化タイプの十字架の形をしたアーティファクト。
内部にはライフル弾や散弾が装填されており、感応石が七つ取り付けられた腕輪で操作する。また、表面を覆う鉱石には生成魔法により〝金剛〟を付与しており、感応石の魔力に反応して強固なシールドにもなる。
クロスビットは、そのままカラ達の攻撃を防ぐとドパンっと銃口からライフル弾と散弾を放たれ、カラ自体は鎧により無傷であるが、その反動により地面に叩きつけられた。オーガロード達はカラのような鎧はなく二つの弾で体に無数の風穴が出来上がりながら地に落ちた。
「くっ、アレは………デウスが使用してたアーティファクトっ」
地面に叩きつけられた衝撃で体がふらつくもカラは自身の記憶から忌まわしき神が所持していたアーティファクトだと思い出した。
見る限り、計八機のクロスビットがティオを守るように展開されており、展開させた張本人であるティオは嬉しそうに頬を赤らめながら一つのクロスビットに優しく撫でる。
「ふふ、ホントにハジメは心配性じゃなぁ」
そう言って、ティオは今も懸命に戦っているのだろう愛しの人の姿を思い浮かべた。同時に、彼が傍にいてくれるような感じがしてか心が躍動し、力が漲ってくる。
不思議と不安を微塵に感じなく勝てるという自信しかないティオは、こちらを鋭い眼差しで睨みつける鬼人を見下ろしながら笑って言った。
「さぁ、第二ラウンドの開始じゃよ」
「っ、舐めるなぁ!!」
黒竜の姫が愛しの殿方の黒十字と共に駆け、対する五体の鬼も咆哮を上げながら突撃する。
直後、濃紺の魔力と黄土色の魔力が激しくぶつかり合うのだった……。
・オーガロード達の持つ固有技能
❈〝魔断〟……ある一定の威力の魔法を両断、逸らす技能。強力な技能であるが、一日に五回しか使えない。
❈〝連斬〟……剣を一回降れば二つの斬撃を飛ばし、攻撃を重ねる毎に攻撃速度を徐々に上昇させる技能。
❈〝重爆〟……衝撃を加える箇所に爆発を加える技能。これを活かして跳躍や爆発的な加速も可能。
❈〝不動〟……物理、魔法に対して無敵に近い防御力を得れる技能。しかし、発動中は身動きは出来ず、再度発動するのに三分の時間を要する。
鬼人編の後の章は何がいいか?
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原作通りの氷雪洞窟編
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断章の集う最高ランク冒険者編