ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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滅茶苦茶……お久しぶりです……m(_ _)m


百四十二話 女神の影

 

上から下へ叩きつけるかの如く紫電の閃光が真っ直ぐ奔った。

 

紫電纏う太刀が放った速度は神速の域に並ぶほどであり、其の威力はユエの〝雷龍〟すらも越える。

 

───八重樫我流・閃の型〝紫電一閃〟

 

その一閃は避けるという選択肢を一切も与えず目の前の鬼人を見事に斬り伏せた。

 

血飛沫が舞い、地面に倒れようとしていたジェイドを見た雫は、やっと目にいる前の敵に傷を与えれたことの喜びや達成感。同時に代償とも言える全身の痛みや疲労の肉体の限界を感じたが、体を止めることなく、第二の斬撃を繰り出そうとしていた。

 

「(まだ、いけるっ!)」

 

まだ雫の視覚には銀の世界が広がっている。しかし、頭が警報を鳴り響き、視界の端からは凍りつく銀の世界が溶け始めていってるのを確認できタイムリミットが近いことを悟った。故に、雫は次の一手を間髪入れずに繰り出していた。

 

「ハァァァア!!」

 

黒刀の柄を両手で強く握り下から上へと振り上げる。既に両手の小刀は先の斬撃で破壊した為、防がれる心配はない。

雫が真っ先に狙うのは腕。倒せなくても腕の片方を落とせば相手は大幅な戦闘能力の低下は確実だ。

そして、紫電の刃がジェイドの二の腕の真下へと差し掛かろうとした瞬間だった。

 

「っ!?」

 

刃が届くよりもジェイドは後ろへ下がり雫は突然、ジェイドの動くスピードが変化した為、その後ろへ下がる動きを視認したとしても攻撃の手を緩めることは出来ず空振りに終わる。

そして、ジェイドの動きの変化に危うさを感じ取ってか急いで黒刀を納刀し居合の構えを取り直す。

 

構えを取る雫は警戒を高めながらジェイドを見やる。対してジェイドは俯いたまま両腕をだらんと垂らす、足を曲げ、背中を曲げ、まるで全身の力を抜かしたような佇まいのジェイドに雫は嫌な気配を感じる。

 

「(隙があるようで隙がない………)」

 

攻めようとしても攻めれない。たとえ、相手の動きがスローモーションで見えても、今の状態のジェイドは何をしてくるかは分からない。極めつけは先程の足の速さだ。

それが、雫をより警戒させている。

 

そして、顔を俯いたままジェイドは雫に語りかけるように口を開いた。

 

「驚いた。まさか、格下相手に傷を付けられるなんてな………」

 

ジェイドは喋りながら肩から横腹まで斬られた傷口をなぞるように触る。その触れた手は傷口から流れる血で濡れる。

 

「だからこそ、シズク。お前のお陰で迷いも消えた。故に認めてやる(・・・・・)。お前は俺が倒すべき敵であると」

 

手にべっとりと付着した血を利用して前髪を掻き上げてオールバックヘアとなったジェイド。それによって、前髪で隠れていた二本の角が顕になる。

直後、ジェイドから膨大な魔力の奔流が放たれる。その余波に当てられ雫は冷や汗を流し緊張のあまり息を詰まらせ喉を鳴らす。

 

その間に、ジェイドは自身の影から一本の刀を取り出し逆手に持つと雫に声を掛けた。

 

「見せてやるよ。どうして俺が影と呼ばれる理由を!」

 

そう口にした瞬間、ジェイドは周りの空間ごと揺らめきと共に雫の視界から姿を消した。

 

「なっ!?……消え……っ!」

 

突然と、視界から消えたジェイドに雫は驚愕を隠せない。どうにかして姿を探そうと辺りを見渡そうとした瞬間、雫の視界に刃が見え反射的に抜刀して刃を打ち弾いた。

 

「ほぅ、これを防ぐか」

 

刃を弾いたと思ったら、いつの間にか、雫の目の前に現れたジェイドは感心したように呟く。

 

「なら、これならどう対応する?」

 

そう言って、再び、雫の視界から姿を消したジェイドの代わりに雫の視界に見えたのは無数の刃であった。

 

「っ!?」

 

動き自体はスローモーションで見えてはいるが、その夥しい数の刃に雫は苦悶に満ちた声を上げる。

 

右からの振り下ろしを黒刀の面で上手く滑らせて受け流し、横薙ぎの攻撃を受け止め、突きの攻撃を紙一重に避けるなど、弾く、受け流す、避けるの繰り返しを続ける雫。

 

「こんのっ!」

 

なんとか攻勢に出て刃を振るって切ったと思っても、まるで実態のない幻のように刃がジェイドの体をすり抜ける。

 

「何処を狙ってる?」

 

「っ!?」

 

そして、雫の想定外のとこらから奇襲するジェイドに雫はギリギリのところで対応する。

 

そんなジェイドの攻撃は既に百を越えているのだが、一向に緩む気配が見えない。このままでは、疲弊しきった自分が負けると理解した雫。

この状況を打開するにはジェイドの消えるタネをどうにかして割らないといけない。

 

迫り来る刃を捌きながら雫はジェイドの能力はなんだと考える。

姿を消し、音も、気配も感知できないほどの遮断性、斬った感覚がまるでなく、そこに実態があるようでない現象………

 

「(透明になる固有魔法? ………いや、違う、そういう次元じゃない。姿を捉え切れない………光の屈折? 空間の揺らぎ……)まさか!」

 

雫はジェイドの能力に気付くがまだ確信に至った訳ではない。勝手な思い込みでは相手に逆手を取られてしまう。

 

「(でも、これはまだ仮説に過ぎない………)」

 

死角から現れた刃の斬撃を捉えたと同時にバックステップで躱し、横薙ぎに振るわれた刃を弾きながら雫は考える。

 

「(どうにかしてアイツをあぶり出さないといけないけど……空間に作用する技なんて……空間)! そうか、あれならっ」

 

ジェイドの不可視の猛攻をなんとか捌きながら雫はカウンターを兼ねて弧を描くように斬撃を辺り一帯に飛ばす。

 

「飛びなさいっ〝閃華〟!」

 

黒刀に搭載された〝空間魔法〟を利用した空間を裂く斬撃〝閃華〟。

普通の魔力の斬撃を飛ばしても意味はないだろうが、空間を裂く斬撃ならばと考えた雫。

その結果、斜め後ろから斬撃を防ぐ音が聞こえて成功した雫は、笑みを浮かべつつ、その方向へ視線を向ける。

しかし、視線を向けてもそこには何も見えない。だが、目に見えるものがスローモーションに見える今の雫には見えた。一瞬、空間が揺らめいたところを。

 

そして、確信に至った雫は笑う。

 

「やっぱり、そういう能力なのね。貴方、空間に溶け込んで姿を消してるのね?」

 

そんな雫の問いかけに何もない場所から声が聞こえ出す。

 

「御明答。まさか、俺の神代技能(ディアスキル)の能力の一部(・・)を知られるなんてな。驚いた」

 

「(神代技能(ディアスキル)……南雲君が教えてくれた強力な技能)」

 

予想はしていたが、冷や汗を隠せない雫は固唾を飲む。

 

 

───神代技能〝摩利支天(オンマリシエイソワカ)

 

ジェイドの持つ唯一の神代技能。

その性能は破格であり神すらも彼の姿を捉え切れない。

 

しかし、知られただけだ。

 

「神代技能持ちだと知っても、どうやって俺を倒す?」

 

そう言って再び、空間に溶け込むように姿を消すジェイド。それを見た雫は一層に警戒を高めながら黒刀を握り、辺りを見渡す。

だが、そんな雫の警戒を嘲笑うかのように鬼の刃が雫の懐に入り込む。

 

「っ!?」

 

突然と出現した刃になんとか気付けた雫は咄嗟に後ろへ下がるが微かに刃の切っ先が服を裂いて腹部を掠る。

 

「くっ」

 

服に血が滲み、遅れて感じる痛みに雫は顔を歪める。だが、黒刀を握る力は変わらず体を捻りながら斬撃を飛ばす。

 

「〝閃華〟!」

 

空間を裂く斬撃が放たれる。

 

「馬鹿の一つ覚えもいいことだ。空間を裂く斬撃など避ければいい」

 

「っ!?」

 

だが、放たれた斬撃はジェイドに直撃することなく、逆に雫の太腿は切り付けられた。雫は痛みのあまり膝をつく。

 

「呆気ないな」

 

声が聞こえ顔を上げた雫の目の前にジェイドが現れる。その鋭い目は雫を射抜く。

 

「俺も分かったことがあるぞ。先程から攻撃や奇襲を避けれた理由はその目にあるとな」

 

「!」

 

その突きつけられた言葉に雫の顔が強ばる。そして、その反応を見たジェイドはやはりといった表情だ。

 

「姿を消した俺の奇襲を見事に止めたのは思考加速の類い、その恩恵で目に映るものすべてが遅く見えるか(・・・・・・・・・・・・・・・)だろうと思ったが……その顔を見るに正解らしいな」

 

「………っ」

 

推測を述べるジェイドに雫は顔に出さないよう努力しても焦りが生じていた。余りにも高い洞察力に観察眼。そろそろ目のタイムリミットも近い中、雫はここからどう切り抜けられるか思案する。

 

だが、それも次に問われたジェイドの言葉によって思考が絶たれる。

 

「それにもう、時間がないんだろう? 俺の奇襲やあれほどの絶技を視認できるほどの技能だ。それに見合った代償がないはずがない」

 

「っ」

 

確信めいた言葉が雫に突き刺さる。

 

早く動かなければと、立ち上がろうとしたがジェイドの蹴りがそれよりも早く雫の腹部に直撃する。

 

「かはっ」

 

なんとか足の蹴り上げたモーションが視えた為、なんとか鳩尾の直撃は腕を盾にして回避させたが、余りにも強烈な衝撃に口から空気を吐きながら吹き飛ばされる。

 

「これも視えたか……厄介だな」

 

己の蹴りを耐え忍んだ雫の面倒さにジェイドは唇を少し曲げる。そして、今度こそ確実に始末しようと影から数本の投げナイフを取り出し倒れる雫へ飛ばす。

その放たれた投げナイフは〝摩利支天〟の能力により知覚されにくくなっている。しかし、身の危険をいち早く察知した雫は痛む体を無理矢理に動かすことで投げナイフの軌道から外れる。

 

「ちっ、面倒な」

 

投げナイフ程度では仕留め切れず舌打ちするジェイド。そして、今度は確実に始末するために刀を持って雫の元へ駆け出した。

 

雫は死の足音が段々と近付いてることに焦り、なんとか立ち上がろうとする。

 

「くっ……(早くっ)」

 

立ち上がろうと両腕と両足に力を込め重い体を浮かし、黒刀を杖代わりにしてなんとか、上半身は起こせた。瞬間、視界が淀み銀色の世界が溶け始めた。

 

「……っあ」

 

直後、雫に物凄い痛み、睡魔、耳鳴り、空腹、目眩が押などが一気にし寄せ体がよろめく。心音が鳴り響き、体中から警報が鳴り響き、尋常ではないほどのエネルギーを消費してしまっている。

 

そして、雫は理解する。

 

これが、時が止まる世界の代償であると…………

 

「限界きたか………ならば終わりだな」

 

疾走する中、雫の纏う覇気を感じなくなった瞬間、ジェイドは雫が限界だと悟る。もう回避する手段を失ってしまった雫はこの斬撃を避けることは不可能。

 

「シズク。短い時間だったが、中々楽しめたぞ」

 

目の前まで接敵したジェイドは雫にそう告げる。雫は喋る気力も残ってないのか、口をパクパクとしてるだけだ。故に、早く終わらせてやろうと刀を逆手で握ると一気に振り下ろした。

 

「その命、頂だ……「〝聖絶〟!!」……な!?」

 

得物を振り下ろし雫の命を刈り取ろうとしたその瞬間、刃と雫の間に展開された障壁が攻撃を阻んだ。ジェイドと雫はその光景にどちらも驚愕し目を見開く。

 

「結、界だと!?」

 

突然のイレギュラーに戸惑いを見せるジェイド。それを見過ごす筈がなく障壁を展開させた人物が声を上げる。

 

「龍太郎くん、今!」

 

「おうよ!!」

 

その言葉に応えるかのように横から颯爽と現れた大柄の少年──坂口龍太郎が獰猛な笑みを浮かべながらジェイド目掛けて渾身の右ストレートを放つ。

 

「っ!」

 

動揺のあまり反応が遅れて防御が間に合わないと察したジェイドはそのまま龍太郎の右ストレートが直撃し逆の方向へ吹き飛ばされる。

 

「ナイスだよ! 龍太郎くん!」

 

龍太郎に指示をした少女──谷口鈴がジェイドが吹き飛ばされたタイミングで姿を現し龍太郎のファインプレーに笑みをこぼすが、奇襲を成功させた龍太郎は少しぎこちない表情をしながら自身の右手に視線を落とす。

その右手から籠手を貫通して血が流れていた。

それに加え、龍太郎は鳩尾を狙って渾身の一撃を放ったが、ジェイドは反応に遅れながらも鳩尾から骨がある位置にズラしてダメージを抑えつつ、自分に反撃までしてみせたのだ。

其の技量に龍太郎は僅かながら恐怖を感じる。そして、頭が悪い己でもこれだけは分かる。

 

───コイツはヤバい。

 

「鈴! 早く雫の手当に向かえ! コイツ、俺の攻撃をワザと受けやがった!」

 

「え? う、うん!」

 

「コイツはできる限り俺が引き受ける! 早く行け!」

 

焦るあまり口調がいつもより荒げてしまうが鈴達を守ろうと拳を構える龍太郎の言葉に鈴は頷くと、急いで大事な友である雫の元へ駆ける。

 

雫の元へ向かう鈴の後ろ姿を見て笑みを浮かばせる龍太郎は真剣な眼差しで向き直る。目の先には既に立ち上がって歩き出したジェイドの姿。

 

「先程の奇襲は良かったぞ、デカブツ。褒めてやる」

 

「へ、口先も大概にしやがれ。テメェの相手は俺で充分だ」

 

上から目線な発言に少し苛立ちを覚える龍太郎。しかし、ジェイドは自分よりも格上の存在なのは違いない。

 

「(見た感じ、足の速さで翻弄して奇襲する遠藤タイプ……なら、迂闊に手を出しちまったらすぐに殺られちまう………)」

 

龍太郎は考えを巡らす。普段なら考えなしで突っ込むところだが、相手が相手だ。最大限に警戒を高めながら相手のでかたを待つ選択を選ぶ。

 

「ハッ、本来なら無視して後ろの二人を殺したが………その威勢、気に入った!まず、貴様から殺してやるよ」

 

ジェイドは格上相手にも関わらず仲間を守ろうとする覚悟を気に入ったのか狙いを龍太郎に絞る。

本来、アサシンならば弱っている方を狙うのは定石である。しかし、ジェイドは違う。鬼人である性なのか真っ向から仕掛けられた決闘には応じてしまうのだ。故に、奇跡に近い偶然であるが龍太郎の取った行動は雫と鈴の命を救う結果となった。

 

「さぁ! 貴様は何処まで俺の斬撃に耐えられる?!」

 

「無限に耐えてやらぁ!!」

 

ジェイドの挑発に龍太郎も応えると同時に二人の闘いが始まるのであった。

 

 

「シズシズ!」

 

「………ス、ズ」

 

声が聞こえてか意識が朦朧して思考が回らない中、雫は、ぼやける視界で捉えたのは必死な表情で駆け寄る少女。

その少女を知っている雫はパクパクと唇を僅かに震わせながら其の名を呟く。それを耳にした鈴は雫の意識を途絶えさせない為に「そうだよ! 鈴だよ!」と必死に雫に呼び掛ける。

 

同時に、鈴は雫の容態を見て絶句するも急いで自身のポーチから神水ver.2*1を取り出す。

 

「………シズシズ、口を開けて。少しむせるかもだけどしっかり飲んでね」

 

刃による切り傷などは勿論であるが、酷いのは異常な体力消費による反動で顔色が非常に悪く意識が朦朧としている雫は鈴の指示に従い口を開ける。

それと同時に鈴は、ゆっくりと神水ver.2を雫の口へ流し、体力の回復をはかる。

 

「ん?! ゴホッ、ゴホッ!」

 

突然に口から液体を飲まされ咳き込む雫であったが、僅からながらも魔力と体力が回復してきてるのか顔色がよくなってきている。

傷も段々と塞がり呼吸も安定を取り戻しきたのを確認した鈴は安堵の表情を浮かべる。

 

「よかったぁ〜」

 

「す、鈴」

 

神水のおかげで体力を回復させ、意識もはっきりとなった雫は安堵して自分に寄り添ってくれる友に声をかけた。

 

突然と、声をかけられ驚いた顔をする鈴は雫の方へ向き直る。

 

「シズシズ、大丈夫? 立てそう?」

 

「え、えぇ………。まだ、全快ではないけど多少は動けるし、それに後は自分のぶんも飲めば平気よ。それより龍太郎は?」

 

「龍太郎くんなら大丈夫! ほらっ」

 

鈴に言われ、指を差された方向へ視線を転じ、視線の先には拳をラッシュする龍太郎と其の拳撃を余裕に躱しているジェイドの姿を捉える雫。

 

瞬間、急いで立ち上がる。

 

「っ、急いで龍太郎に加勢しないと!」

 

「ちょっ、シズシズ! 今は安静しないと!」

 

立ち上がる雫に驚きつつも其れを止めようと鈴が肩を抑えるが、雫は其の抑える鈴の腕を掴んで声を上げる。

 

「このままだと、龍太郎が負ける!」

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

龍太郎とジェイド、二人の戦いは余りにも一方的だった。

 

「オラァ!!」

 

「遅い。何処を狙っている?」

 

突き出された拳をバックステップで難なく躱したジェイドはそのまま手に持つ刀で龍太郎を切り付ける。

しかし、龍太郎は傷を無視して反撃の蹴り技を繰り出すが、ジェイドは避けもせずに敢えて龍太郎と同じ蹴り技をした。

ぶつかる互いの足。同じ蹴り技。だが、ステータスの歴然の差の前に龍太郎の蹴りは打ち破られ蹴り飛ばされる。

 

「ぐうっ」

 

蹴られたところが青あざになり、切られた箇所から血が流れ始めて酷く鈍い痛みに襲われ顔を歪ませる龍太郎。既に其の体は多くの切り傷が見られ満身創痍に近い。

 

だが、龍太郎は諦めず雄叫びを上げながら立ち上がり拳を振るう。

 

「オォォォオオオ!!!」

 

「其の諦めの悪さは認めてやる。だけどな、テメェのぬるい拳なんて当たらねぇよ」

 

ジェイドは軽口を叩くと、〝摩利支天〟を発動。姿が陽炎のごとく揺らめくように消える。

 

「ちっ、またそれかよ! ならコレはどうよ〝破拳〟!!」

 

消えた敵に苛立ちを覚える龍太郎は拳を地面に殴りつけた。

 

消えてんなら自分の周りを吹き飛ばせばいけると考えた龍太郎は〝破拳〟を地面に向けて放つことで周りを粉砕。そして、舞った粉塵と瓦礫で己を探すのは困難になり、砕けた足場では相手は碌に近付けないと考えた。

 

しかし、其の策は龍太郎の腕が血飛沫を上げたことでジェイドには通用しないと理解させされる。

 

「こんな目眩しで俺の刃が届かないわけないだろ?」

 

「っ!?」

 

切られた箇所を手で抑えながら視線を落とせば、いつの間にか懐に入り込んでいたジェイド。驚く暇もなく彼の蹴りが炸裂する。

何の強化も間に合わずに其の身で受けてしまった龍太郎は蹴り飛ばされる。

 

「ガッ!?」

 

ぐちゃっと内蔵が潰れたような嫌な音と共に龍太郎は吹き飛ばされ地面に転がる。口から大量の血を吐く。

 

「くっ、そ………(見えねぇ、当たらねぇ……!)」

 

先程からのジェイドの消える魔法。唯、透明になるだけの技能ではないことに気付けたが、どう対処すればいいか全く分からない。このままだと、一方的に押されて、自分自身や雫と鈴が殺されてしまう。

 

そんな最悪な未来が脳内を過ぎる中、トドメを刺そうとジェイドがコチラへ歩み寄って来る。走らずとも相手は虫の息だからと余裕をかましているのだろう。

 

そんな不幸中の幸い感謝するが、龍太郎自身も動けずにいた。

 

「(早く動けよ! 俺の体ァ……!)」

 

必死に手足を動かさとうとも内蔵の損傷が激しく体が鈍く重い。力が入る度に全身に激痛が走ってマトモに動けない。

そうこうしている内に傍まで来たジェイドは、動けない龍太郎を見下ろし笑って一言。

 

「少しは楽しめたぞ、人間」

「ぐっ………クソが」

 

「遺言はそれだけか」

 

苦し紛れに放った龍太郎の言葉も全く関心を抱かずジェイドは刀を振り上げる。そのとき、後ろから焦りが含まれた二人の少女達の声が聞こえた。

 

「龍太郎!」

 

「龍太郎くん!」

 

必死な表情で駆ける雫と鈴。しかし、回復したばかりで疲労が蓄積してる前衛と後衛の足では間に合わない。

 

「ふん、無駄なことを」

 

呆れて鼻を鳴らすジェイドは振り上げていた刀を龍太郎目掛けて振り下ろす。

 

どうやっても間に合わない。

 

そんな絶体絶命の中、「駆けろっ!───〝天翔閃〟!!」と声が聞こえた直後、光の斬撃がジェイドを襲いかかる。

 

「!」

 

放たれた光の斬撃にジェイドは龍太郎のトドメを刺すのをやめて回避する。だが、避けた先に黒の剣線がジェイドに迫る。

 

「チィっ!」

 

「っ、ホントに反則的な反応速度ね!」

 

剣線の正体は雫の振るった黒刀の斬撃。そんな雫の完璧な不意の斬撃をジェイドは異常な反応速度を発揮し刀で受け止めて見せ雫は悪態を吐く。

そして、ジェイドは刀で弾いた反動を利用して雫との距離を取る。

 

「クソが………」

 

苦い口調でジェイドは突然と現れた一人の人物を睨みつける。其の人物は己が最初に雑魚(ハズレ)と決めつけて見向きもしなかった男であるので更に苛立ちを募らせる。

 

「よくも龍太郎をっ………許さない……!!」

 

天之河光輝、今代の勇者の参戦だ。

 

なんとか親友を間一髪で助けれたことにホッとしてる光輝の元へ雫と鈴の二人が駆け寄ってくる。

 

「光輝!」

 

「光輝くん!」

 

「! 雫、鈴、無事でよかった!」

 

「貴方も大事は無さそうでそうで安心したわ」

 

光輝の無事を確認できてか二人は安堵の笑みを浮かべている。

 

「どうして、この場所が分かったの?」

 

雫の抱く疑問に光輝は傍で倒れる龍太郎へ視線を転じながらその疑問に答えた。

 

「龍太郎のおかげさ」

 

「龍太郎の?」

 

「ああ、皆を探してる時、物凄い音と粉塵が見えたからね。そこに誰かがいると思ってさ」

 

「それじゃあ」

 

「光輝くんが此処に来れたのは龍太郎くんのファインプレーってこと」

 

「そういうことさ………だから」

 

光輝は傷だらけの龍太郎を見てから視線をジェイドに転じる。その目からは物凄い怒りを感じ取れる。

 

「俺の親友に傷付けたお前を許さない……!」

 

「ハっ……口ではなんとも言える。俺が憎いならば掛かって来い」

 

光輝の言葉に対して追い討ちをかけるように挑発で返すジェイド。それが、更に光輝を怒りのボルテージを上げる。

そして、聖剣を構えながら大地を蹴ってジェイドの元へ迫る。

 

その時、後ろから雫の声が聞こえた。

 

「光輝! 敵は空間に溶け込んで姿を消してる! だから、攻撃は空間魔法を使った攻撃をして!」

 

「ああ、わかった!!」

 

「チッ、面倒な……」

 

雫によって〝摩利支天〟の能力一部〝陽炎〟の能力をこの場にいる全員に知られてしまい眉を顰めるジェイド。そして、その前方に白く発光する聖剣を振り上げる光輝が現れた。

 

「〝天翔閃・断〟!!」

 

空間魔法が作用し空間を裂く斬撃へと進化した光の斬撃が繰り出される。だが、その程度の斬撃であれば消えなくとも避ければいい。そう判断したジェイドは飛び避けようとしたが、その着地点の箇所に……

 

「逃がさないわ!」

 

「っ!?」

 

先回りして既に抜刀をしていた雫がそこにおり、虚をつかれたジェイドの顔が歪む。

 

──八重樫流抜刀術〝断空〟

 

放たれるのは反動を利用させた抜刀術。其の構えと威力を知るジェイドはこの体勢からでは回避は間に合わないと理解する。同時に再び〝アレ〟を使わされることに対して激しい怒りが湧き立つ

 

「〝絶対反応〟!!」

 

「っ!?」

 

そう言った直後、有り得ない速度で振るわれたジェイドの刀が間に合う筈がない雫の斬撃を見事に弾いたのだ。

驚愕する雫に反して青筋を浮かべるジェイドは、弾くと同時に雫を蹴り飛ばす。

 

「っあ!」

 

「雫! お前、よくも……!!」

 

蹴り飛ばされる雫を見て激昂する光輝は、再び、突貫して聖剣を振るうが、ジェイドは消えることも、避けることもせず振るわれた聖剣を刃で滑らせ流し、もう片方の腕で鳩尾を殴る。

 

「かはっ!?」

 

「喚くな雑魚が……」

 

見事に鳩尾に決まりその場で蹲る光輝。それを冷徹な眼差しで見下ろすジェイドは苛立ちが収まらないのか自身の髪をクシャクシャと掻き毟る。

 

「ああ……クソ………。まさか〝絶対反応〟も使わされる羽目になるとは手を焼かせてくれる……!」

 

「絶対……反応……ですって?」

 

刀を杖にして立ち上がる雫はジェイドの言った〝絶対反応〟というまたもや知らない力に顔を顰める。

 

───〝絶対反応〟

発動すれば体が勝手に相手の攻撃に反応して動くことが出来る。不意打ち殺しの技能。

 

姿を消し、不意打ちは効かない。

それに加えてまだ底を見せていないジェイドに雫は恐怖を覚えてしまう。足が竦み、顔が強ばってしまい集中が途切れる。

 

そんな一瞬の油断を狙わない筈がなくジェイドは刀を振るう。

 

「恐怖の余り隙だらけだ」

 

「っ!? 皆、避けて!」

 

一閃。いや、六閃の不可視の斬撃が放たれる。それに気付く雫は二人に呼びかける。

 

「ぐうっ」

 

雫の言葉に従い光輝は痛む腹部を抑えながらも己の直感で不可視の斬撃見事に弾いたがそれでも魔力で感知できない不可視という知覚できない斬撃の前には上手く対応できず右肩を掠り血が滲み出す。

 

「 〝聖絶〟!!」

 

鈴は〝聖絶〟を展開して龍太郎と共に斬撃を防ぐ。

 

「っ!」

 

雫はまだ全開ではないものの其の脚力で斬撃からなんとか逃れ切った。

 

「剣士、拳士と結界士に聖剣の使い手か………」

 

その間にジェイドは雫達の天職をある程度の目星を付ける。それを聞いた雫と光輝は心の臓がドクンっと跳ねる。

 

「(しかし、聖剣………あのウーア・アルト様が人間を担い手として選んでいたのは驚いた。だが、今は担い手の実力が不十分で力を使えていないのは呆れるが……)」

 

ジェイドは光輝の持つ聖剣。正確にはその剣に宿る女神を気に掛ける。彼の女神はジェイドの崇拝する女神エルネシアとは盟友であり世界の根幹たる世界樹の守護者たる存在。

そんな彼女を知るジェイドは人間に手を貸しているのは驚きでならないが、彼女が宿る聖剣の力を十全に扱えていないのなら都合がいい。

 

「だが、使えるようになっては面倒だな………消すか」

 

そう呟くと共に狙いを光輝に定めて駆け出すと同時に〝陽炎〟を発動して姿を晦ませる。

 

「っ、また消えた!」

 

「皆、冷静さを保っちながら周りを警戒!」

 

姿を消したジェイドに光輝、鈴は慌てるが雫の言葉に冷静さを取り戻し辺りを見渡しながら警戒する。雫も同じように警戒しながら辺りを見渡していると光輝の後ろから少しの揺らめきが見えた。

 

「っ! 後ろよ、光輝!!」

 

「!」

 

雫の声を聞いてバッと後ろへ振り返る光輝。その時、何もない場所から無数の斬撃が放たれ光輝へ襲いかかる。

 

「っ! 天から授かれし聖なる盾よっ 邪なる災いから我が身を守る術を此処に 顕現したるは天なる神の蓋───〝天蓋〟!」

 

技能〝発動速度上昇〟と普通ならば五節以上かかる詠唱をたったの三節まで短縮させた光輝の多才故に可能にした発動者を守る天の蓋。

 

───光属性最上級結界魔法〝天蓋〟

光属性の魔力で発動者を覆うように展開された天の蓋。同格の最上級魔法や呪詛すらも跳ね除けるほどの硬度を誇る天の蓋を展開する魔法。(鈴やユエ、アレスもこの魔法を扱えるが魔力消費云々で余り使っていない。それにユエやアレスは〝聖絶〟の注ぐ魔力を増やすぐらいで最上級などから防いでいる)

 

展開された〝天蓋〟により光輝へ放たれた無数の斬撃は全て防がれているのを見たジェイドは防がれたことに舌打ちしながら姿を現す。

 

「ちっ、結界魔術の〝天蓋〟か」

 

たが、問題ないとジェイドは考える。攻撃自体は防がれてしまったが、斬撃の一つ一つが強大な為に光輝の魔力がガリガリと削られているだろう。事実、斬撃を防ぎきり〝天蓋〟を解除した光輝は明らかに疲弊していた。

 

「(くっ、だいぶ魔力を削られた! 一つ一つの斬撃の威力が桁違い過ぎるっ)……!」

 

次の行動に出ようとするが疲弊により動きが鈍くなっているところへ、魔力を帯びたナイフが飛来してくるのを光輝は見た。

防ごうとも、まだ魔力の回復が間に合っていない。どうしようも出来ない中、光輝の前に一陣の風が吹くが如くポニーテールをたなびかせながら駆け付けた雫が飛来してくるナイフを上へ弾き飛ばすと、光輝に抱き着きながら共に倒れ込んだ。

瞬間、ナイフが自発的に壊れ周囲が爆炎に包まれる。光輝と雫は倒れ込んでいた為、爆炎に巻き込まれず済んでいた。

 

「光輝、無事?」

 

「あ、ああ……助かった雫。」

 

「なら、良かったわ」

 

光輝は突然、雫からの抱擁にドギマギしている。一方、雫の方は冷静ですぐに立ち上がり光輝に手を差し伸べる。

そして、手を貸して貰い立ち上がる光輝達の前に姿を現すジェイド。光輝と雫は瞬時に得物を構える。

 

「光輝、いけるわよね?」

 

「ああ!魔力を削られたが、まだまだ俺は戦える!」

 

雫に問題ないと返す光輝。少し意地を張っているが、気に掛ける暇もな

いため雫は光輝の言葉を信じることにした。

 

「なら、二人で一気に攻めるわよ」

 

「ああっ」

 

そして、二人は己の得物を持って一気に駆け出す。それを見たジェイドは影からもう一本の刀を取り出し構え吼えた。

 

「来いよ、雑魚共ォ!」

 

同時に溢れる魔力の奔流に駆ける二人の表情が強ばってしまうが止まることなくジェイドに迫る。

 

「はぁぁあ!───〝閃華っ〟!」

 

上段から振り下ろされる空間を裂く斬撃が、

 

「うぉぉおお!───〝天翔閃っ〟!」

 

下段からは振り上げられるは光の斬撃が同時に放たれる。上と下からの同時攻撃の前ににジェイドは二振りの刀を構えたまま微動だにせずにただ一言つぶやく。

 

「──〝領域〟」

 

「「!?」」

 

呟いた直後、ジェイドを中心に半径一メートルの円が形成される。そして、ジェイドの両腕がブレて二人の視界は無数の斬撃に包まれた。

 

「「!」」

 

次に二人の視界に映った光景は結界によって薄緑に見える空だった。

有り得ない。先に攻撃をした筈であるのに自分達の斬撃は跳ね除けられ、逆にこちら側が全身を斬られていた。

 

「………っ、何が」

 

「……分からない。でも、何か仕掛けがある」

 

痛む体を無理して起き上がらす光輝と雫。そんな二人の前に佇んでいるのは余裕な態度を取りこちらを見るジェイド。

 

「どうした、来ないのか?」

 

「「っ!」」

 

舐められている。しかし、油断も隙も見せないジェイドに光輝と雫は迂闊には攻めれない。

 

そんな戦いが膠着している中、一人の少女が動いた。

 

「──〝聖絶・爆〟!!」

 

腕を交差させ両手に持つ双鉄扇が舞う。

 

「これは───」

 

直後、ジェイドを閉じ込めるように展開された聖絶。そして、一気に結界内が爆炎が包み込んだ。

それを見た光輝と雫は呆然と見つめているが、この攻撃は自分達の仲間である谷口鈴の結界魔法だと瞬時に理解する。

 

「光輝くん、シズシズ!今だよ!」

 

「「!」」

 

そんな鈴のファインプレーで生まれた隙を逃す訳にいかないと光輝と雫の二人は動く。

 

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!」

 

聖剣を大上段まで振り上げた光輝は長い詠唱を口早く詠い始める。

 

光輝は、なぜ長文詠唱を必要とする〝神威〟を選んだのはアレスにある疑問を呈した時からだ。

 

『詠唱は必要なのか? ですか………そうですね。まず魔法を使うのに詠唱を必要としているかを説明しましょう』

 

これは、光輝が〝魔力操作〟というチートで無詠唱で魔法を扱うハジメを見て不公平と感じたと同時に本当に詠唱は必要なのかと疑問に感じたときにアレスに言われた言葉だ。

 

『貴方も知っている通り魔法とは、体内の魔力を詠唱により魔法陣に注ぎ込み、魔法陣に組み込まれた式通りの魔法が発動するという原理。簡単に表現するならばですね』

 

そう言ってアレスは紙と黒色のインクが染み込んだペンを取り出して絵を書き始める。

 

『このように、まっさらな白紙(魔法陣)インク(魔力)を注ぎ込んで自分が描きたい絵(使いたい魔法)描く(発動する)。これが魔法。そして、絵を正確に描く為に必要なのはペン。つまり、詠唱とは魔法を正確に発動するために必要な補助具ということです』

 

アレスのわかり易い魔法の仕組みの説明に光輝は魔法の理解を更に深めるとアレスは次に〝魔力操作〟の説明に入る。

 

『そして、〝魔力操作〟とは紙に描くのではなく、既に完成させた(術式)を直接貼り付ける版画のようなものです。故にハジメ殿やユエ殿は魔法を無詠唱にも関わらず最上級の魔法を威力が弱まることがなく発動できるんです』

 

アレスの説明に光輝は詠唱の必要さは理解はしたが、同時にハジメに対しての不満は更に増え顔が曇る。そして、光輝の心情を見越してたのかアレスが助け舟を出す。

 

『ですが、〝魔力操作〟がなくとも無詠唱で魔法を発動を可能にした女性がいます。私も彼女に真似して〝詠唱無効〟の技能を得ました』

 

その言葉に光輝はバッと顔を上げその方法を教えて欲しいと懇願する。すると、アレスはたった一言だけ言った。

 

『術式を数式として捉え読み解き最適解を見つけだすこと。これが詠唱無効への道のりです。ま、私もこれを聞いた時は流石にドン引きでしたけどね』

 

その時のアレスの表情は物凄く呆れた笑みを浮かべているのであった。

 

「(俺には、まだ無詠唱は出来ないっ)……だが!──神の慈悲よ!この覇する一撃を以て全ての罪科を許したまえ!──〝神威・覇天〟!!」

 

まだ、完全には短縮はできないが明らかに詠唱を唱える速度が上昇している光輝。握る聖剣は白き輝きが収束されて周囲の木々が余波でメキメキと音を立てている。

そして、詠い終わると共に極光が迸る聖剣を真っ直ぐに突き出し、空間魔法を組み込んだ光の砲撃が放たれる。

 

雫も、全身の痛みを無視して体勢を低くしたまま黒刀を納刀、右手で鞘を掴み、左手で柄を握る。

あの時と違って感覚が研ぎ澄まされてないとはいえ雫は前方へと視線を定めながら頭では今でも最強の鬼と戦っているだろう紅雷纏う彼を思い浮かべる。

 

「(彼のように激しく、疾く! 凄まじい雷を!」

 

つい口に出してしまう雫だが彼に並び立ちたい、追い付きたいと想いを乗せながら凄まじい勢いで紫電纏う黒刀を抜刀した。

 

───八重樫我流抜刀術〝飛燕雷進(ひえん らいしん)

 

納刀した刀から紫電が迸り紫電で形成された燕が飛翔し、標的へと突き進む。

そうまるで空を翔ぶTSUBAMEが如く。

 

そして、爆煙から姿を現したジェイドは前方から迫ってくる白き極光と紫電の燕の二つの攻撃を見て瞠目する。

 

「チィッ!!」

 

舌打ちと共に双剣を交差させるように振るい斬撃を飛ばして相手の相殺しようとするが、それでも勢いを削り切れないことを理解し、更に顔を顰め悪態を吐いた。

 

「クソがぁぁあ!!」

 

直後、白き極光と紫電の燕は斬撃ごとジェイドを呑み込んでいき巨大な爆発を引き起こした。

吹き荒れる爆風に周りの木々はなぎ倒されいき、鈴は〝聖絶〟でなんとか身を守り、雫と光輝は腕を交差させて顔を守りつつ薄目でジェイドのいた場所を見る。

そして、二人の目に映った光景を目を疑った。

 

「なっ……」

 

「うそ………」

 

信じられないといった顔で絶望する二人。

 

そこには、白い爆煙の中から見える黒い影が一つ。よく見れば重症を負いながらも未だに倒れぬジェイドの姿。

 

「ハァハァ………鬼の体を舐めるなっ」

 

他の亜人種よりも頑丈な鬼人族は前衛職でなくとも最上級の魔法を直に受けても倒れぬことはない鋼の肉体を持つ。

 

そして、自分達の攻撃を倒れることなく耐えてみせたジェイドに驚愕するが、更に二人を絶望を与えることが起きた。

 

「「「っ?!」」」

 

前方へ膨大な魔力の余波を感じた三人。よく見ればジェイドが両手に持つ双剣に魔力を纏わせて構えを取り始めた。

 

「くっ、まだ攻撃を仕掛ける気か!」

 

「っ、鈴!!」

 

「!」

 

瞬時に危険を感じ取った光輝は対抗しようと聖剣を振り上げ、雫は鈴に結界を張るように言うが、光輝が聖剣を振るうよりも、鈴が結界を展開するよりも早くジェイドが双剣を振るい始める。

 

「これで終わりだぁぁあ!! 雑魚共っ!!」

 

ジェイドは双剣を横へ、縦へと交差させ勢いよく振り下ろす。

 

「十ゥ、文字ィィィイ!!」

 

ジェイドは勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

もう、これで雫達は終わりだと…………。

 

 

だが、ジェイドは失念していた。

 

自分が雑魚を見下してしまう故に…………

 

自分が雑魚を認知しないような性格な故に…………

 

自分が怒りに染まると周りが見えなくなる故に…………

 

故に見落としてしまった。自分に敗北した一人の男が自身の背後に回って拳を突き出していることを………

 

「喰らいやがれ〝破拳っ〟!!」

 

「グホォォオ!!」

 

斬撃を放つ寸前、背後から強烈な一撃。その勢いに余って放った斬撃は軌道を外れ何処かへ飛んで暴発してしまう。

そして、ジェイドは怒りの表情で後ろの男を睨みつけ叫ぶ。

 

「貴様ァァァ!!」

 

「ハッ、勝ちを確信すんなら周りを見やがれ!!」

 

怒りに顔を歪ませるジェイドにそう言うのは重症から復活した龍太郎。彼は、鈴が光輝と雫のサポートに回った時からこっそり移動してなりを潜めていた。

そして、完全な虚からの不意打ちにジェイドは完全な隙を敵前に曝け出している。

 

もう一発ぐらい殴りたいが、まだ治りが完全じゃない為に龍太郎はその場から離れて、決め手は信頼する二人に任せることにした。

 

「今だぜ、光輝!雫! やっちまえ!!」

 

「「! おう(ええ)!」」

 

龍太郎の言葉に光輝と雫は動く。

 

「〝詠唱反復(アンコール)〟発動!──〝神威・覇天〟」

 

光輝はアレスのアドバイスで新たに手に入れた派生技能。〝詠唱反復〟を発動。先程、使用した〝神威・覇天〟をノータイムで発動させ白き極光が放たれた。

 

「ここで、決める!」

 

姿が見える今ならと雫も腰を低くし刀を納刀。そして、居合の構えからの抜刀した瞬間に紫電を纏って駆けだした。

 

───八重樫我流抜刀術〝花一匁〟

 

雫の持つ技の中で最速の一撃が繰り出される。

 

それを見た龍太郎と鈴は自分達の勝利を確信する。光輝も聖剣を振るう瞬間に勝ち誇った笑みを浮かべている。

 

だが、彼等は知らない。

 

己を打ち倒さんとする二つの刃が迫る中、彼の鬼人の目は死んでいないことを………。

 

 

*1
底が尽きそうな神水の代わりに優花の天性魔法を用いて作りだした新たな神水。効果は本来の神水の回復能力を大きく上回っている




・アレスがどうやって詠唱無効を教えたのは誰か?
数年前にアレスが在籍していた冒険者チームの魔道使い。一応、冒険者ランクは金。

・光輝とアレスの特訓
時間的にハルツィナ大迷宮を攻略後のフェアベルゲンに滞在している間、龍太郎はハジメ、光輝はアレスという感じで一方的にボコボコにされるという名の訓練をしていた。
しかし、その成果で二人のステータスは迷宮攻略前より軒並み上がっている。

現在の光輝のステータス
====================================

天之河光輝 17歳 男 レベル:94

天職:勇者

筋力:1800

体力:1800

耐力:2100

敏捷:1800

魔力:1800

魔耐:2100

技能:全属性適正[+光属性効果上昇Ⅱ][+発動速度上昇][+全属性効果小上昇]・全属性耐性[+光属性効果上昇][+全属性小耐性]・物理耐性[+治癒力上昇Ⅱ][+衝撃緩和Ⅱ]・複合魔法・剣術[+無念無想]・剛力[+筋力増強]・縮地[+爆縮地]・先読[+剣筋先読]・高速魔力回復[+速度上昇]・気配感知・魔力感知・高速詠唱[+詠唱反復]・限界突破[+覇潰]・言語理解

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鬼人編の後の章は何がいいか?

  • 原作通りの氷雪洞窟編
  • 断章の集う最高ランク冒険者編
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