ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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八話 三つの悪意

 

響き渡り奈落に落ちていくにつれ消えゆくベヒモスの断末魔。ガラガラと騒音を立てながら崩れ落ちてゆく石橋。

 

そして……

 

ベヒモスと瓦礫と共に奈落へと吸い込まれるように消えてゆく私の愛しい人(ハジメ)

 

その光景を、まるでスローモーションのように緩やかになった時間の中で、ただ見ていることしかできない優花は自分に絶望する。

 

幼い頃から一緒にいて、ずっと守ってくれた。支えてくれた大事で最愛の人が……

 

どこか遠くで聞こえていた悲鳴が、実は自分のものだと気がついた優花は、急速に戻ってきた正常な感覚に顔を顰めた。

 

「離して三人共!ハジメの所に行かないとっ! 助けないと!お願い離してよ!」

 

奈落へと飛び出そうとする優花を奈々と妙子と浩介が必死に羽交い締めにする。細い体のどこにそんな力があるのかと疑問に思うほど尋常ではない力で引き剥がそうとした。

 

「止まってよ!ユウカっち!」

 

「そうよ!今は、駄目だって!」

 

「落ち着け!園部!」

 

そんな三人の声は優花には届かず浩介達の拘束を解こうしてると、メルド団長ががツカツカと歩み寄り、問答無用で優花の首筋に手刀を落とした。ビクッと一瞬痙攣し、そのまま意識を落とす。

 

ぐったりする優花を抱きかかえ、浩介はメルド団長に感謝し頭を下げた。

 

「……すいませんメルド団長。園部を止めて貰ってありがとうございます」

 

「礼など……止めてくれ。もう、一人も死なせるわけにはいかない。全力迷宮を離脱する。……彼女を頼んだ」

 

「───わかりました」

 

離れていくメルドを見つめながら、口を挟めず憮然とした表情の浩介から優花を受け取った奈々と妙子は優花を守るように抱えた。

 

そんな様子でクラスメイト達は 目の前でクラスメイトが一人死んでしまい、クラスメイト達の精神にも多大なダメージが刻まれている。誰もが茫然自失といった表情で石橋のあった方をボーと眺めていた。中には「もう嫌!」と言って座り込んでしまう子もいる。

 

すると、光輝は全体に聞こえる声を張り上げた。

 

「皆!今は、生き残ることだけ考えるんだ!撤退するぞ!」

 

その言葉に、クラスメイト達はノロノロと動き出す。トラウムソルジャーの魔法陣は未だ健在だ。続々とその数を増やしている。今の精神状態で戦うことは無謀であるし、戦う必要もない。

光輝は必死に声を張り上げ、クラスメイト達に脱出を促した。メルド団長や騎士団員達も生徒達を鼓舞する。

だが、雫はそんな中、自分の好いていた男子生徒が落ちたのに優花のように慌てもせず、俯いてるだけの親友の香織だけを心配そうに見つめていた。

そして全員が階段への脱出を果たしたが、そこからの上階への階段は長かった。

 

先が暗闇で見えない程ずっと上方へ続いており、感覚では既に三十階以上、上っているはずだ。魔法による身体強化をしていても、そろそろ疲労を感じる頃である。先の戦いでのダメージもある。薄暗く長い階段はそれだけで気が滅入るものだ。

 

そろそろ小休止を挟むべきかとメルド団長が考え始めたとき、ついに上方に魔法陣が描かれた大きな壁が現れた。クラスメイト達の顔に生気が戻り始める。メルド団長は扉に駆け寄り詳しく調べ始めた。フェアスコープを使うのも忘れない。

 

その結果、どうやらトラップの可能性はなさそうであることがわかった。魔法陣に刻まれた式は、目の前の壁を動かすためのもののようだ。

 

メルド団長は魔法陣に刻まれた式通りに一言の詠唱をして魔力を流し込む。すると、まるで忍者屋敷の隠し扉のように扉がクルリと回転し奥の部屋へと道を開いた。

 

扉を潜ると、そこは元の二十階層の部屋だった。

 

「帰ってきたの?」

 

「戻ったのか!」

 

「帰れた……帰れたよぉ……」

 

クラスメイト達が次々と安堵の吐息を漏らす。中には泣き出す子やへたり込む生徒もいた。光輝達ですら壁にもたれかかり今にも座り込んでしまいそうだ。

しかし、ここはまだ迷宮の中。低レベルとは言え、いつどこから魔物が現れるかわからない。完全に緊張の糸が切れてしまう前に、迷宮からの脱出を果たさなければならない。

 

メルド団長は休ませてやりたいという気持ちを抑え、心を鬼にして生徒達を立ち上がらせた。

 

「お前達!座り込むな!ここで気が抜けたら帰れなくなるぞ!魔物との戦闘はなるべく避けて最短距離で脱出する! ほら、もう少しだ、踏ん張れ!」

 

少しくらい休ませてくれよ、という生徒達の無言の訴えをギンッと目を吊り上げて封殺する。渋々、フラフラしながら立ち上がる生徒達。光輝が疲れを隠して率先して先をゆく。道中の敵を、騎士団員達が中心となって最小限だけ倒しながら一気に地上へ向けて突き進んだ。

 

そして遂に、一階の正面門となんだか懐かしい気さえする受付が見えた。迷宮に入って一日も経っていないはずなのに、ここを通ったのがもう随分昔のような気がしているのは、きっと少数ではないだろう。

 

今度こそ本当に安堵の表情で外に出て行く生徒達。正面門の広場で大の字になって倒れ込む生徒もいる。一様に生き残ったことを喜び合っているようだ。

 

だが、一部の生徒──目の前で大切な人を失って未だ目を覚まさない優花を背負った奈々や妙子、大事な親友を亡くしてしまってずっと沈黙を続ける浩介の他に恵里、鈴、雫、坂上などは暗い表情だ。

 

そんな生徒達を横目に気にしつつ、受付に報告に行くメルド団長。

 

「……(アイツと同等の優秀な人材を亡くしてしまった)」

 

暗い表情でメルドは思い出す。かつて自分よりも年下で、非戦闘職でありながらも王国最強だった男の姿を。

そのまま足取りが重いままメルドは迷宮の受付に行き、二十階層で発見した新たなトラップは危険すぎる。石橋が崩れてしまったので罠として未だ機能するかはわからないが報告は必要だ。

 

そして、有望だった南雲ハジメの死亡報告もしなければならない。

 

憂鬱な気持ちを顔に出さないように苦労しながら、それでも溜息を吐かずにはいられないメルドであった……。

 

 

================================

 

 

ホルアドの町に戻った一行は何かする元気もなく宿屋の部屋に入った。幾人かの生徒は生徒同士で話し合ったりしているようだが、ほとんどの生徒は真っ直ぐベッドにダイブし、そのまま深い眠りに落ちていた。

 

そんな中、檜山大介は一人、宿を出て町の一角にある目立たない場所で膝を抱えて座り込んでいた。顔を膝に埋め微動だにしない。もし、クラスメイトが彼のこの姿を見れば激しく落ち込んでいるように見えただろう。

 

だが実際は……

 

「ヒ、ヒヒヒ。ア、アイツが悪いんだ。やったぜ……やったんだよ。俺はあの南雲を殺せた……て、天罰だ。……俺は間違ってない……あんな野郎に……もうかかわらなくていい……俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ」

 

暗い笑みと濁った瞳で自己弁護しているだけだった。

 

そう、あの時、軌道を逸れてまるで誘導されるようにハジメを襲った火球は、この檜山が放ったものだったのだ。

 

階段への脱出とハジメの救出。それらを天秤にかけた時、自分のタイプの香織と優花から好意を持たれ、遂には昨夜、その一人である優花とキスをしていたハジメが頭の中によぎった瞬間、檜山の中の悪魔が囁いたのだ。今なら殺っても気づかれないぞ? と。

 

そして、檜山は悪魔に魂を売り渡した。

 

バレないように絶妙なタイミングを狙って誘導性を持たせた火球をハジメに放った。流星の如く魔法が乱れ飛ぶあの状況では、誰が放った魔法か特定は難しいだろう。まして、檜山の適性属性は風だ。証拠もないし分かるはずがないし、本当の原因は自分の次に優花を打った魔弾だと。

 

そう自分に言い聞かせながら暗い笑を浮かべる檜山。

 

その時、不意に背後から声を掛けられた。

 

「へぇ~、やっぱり最初の火球はー君だったんだ。異世界最初の殺人の一人はクラスメイトか……中々やるね?」

 

「ッ!? だ、誰だ!」

 

慌てて振り返る檜山。そこにいたのは見知ったクラスメイトの一人だった。

 

「お、お前、なんでここに……」

 

「そんなことはどうでもいいよ。それより……人殺しさん? 今どんな気持ち? 憎い相手をどさくさに紛れて殺すのってどんな気持ち?」

 

その人物はクスクスと笑いながら、まるで喜劇でも見たように楽しそうな表情を浮かべる。檜山自身がやったこととは言え、クラスメイトが一人死んだというのに、その人物はまるで堪えていない。ついさっきまで、他のクラスメイト達と同様に、ひどく疲れた表情でショックを受けていたはずなのに、そんな影は微塵もなかった。

 

「……それが、お前の本性なのか?」

 

呆然と呟く檜山。それを、馬鹿にするような見下した態度で嘲笑う。

 

「本性? そんな大層なものじゃないよ。誰だって猫の一匹や二匹被っているのが普通だよ。そんなことよりさ……このこと、皆に言いふらしたらどうなるかな? 特に……あの子が聞いたら……」

 

「ッ!? そ、そんなこと……信じるわけ……証拠も……」

 

「ないって? でも、僕が話したら信じるんじゃないかな? あの窮地を招いた君の言葉には、既に力はないと思うけど?」

 

檜山は追い詰められる。まるで弱ったネズミを更に嬲るかのような言葉。まさか、こんな奴だったとは誰も想像できないだろう。二重人格と言われた方がまだ信じられる。目の前で嗜虐的な表情で自分を見下す人物に、全身が悪寒を感じ震える。

 

「ど、どうしろってんだ!?」

 

「うん?心外だね。まるで僕が脅しているようじゃない?ふふ、別に直ぐにどうこうしろってわけじゃないよ。まぁ、取り敢えず、僕の手足となって従ってくれればいいよ」

 

「そ、そんなの……」

 

実質的な奴隷宣言みたいなものだ。流石に、躊躇する檜山。当然断りたいが、そうすれば容赦なくハジメを殺したのは檜山だと言いふらすだろう。

 

葛藤する檜山は、「いっそコイツも」とほの暗い思考に囚われ始める。しかし、その人物はそれも見越していたのか悪魔の誘惑をする。

 

「白崎香織と園部優花、欲しくない?」

 

「ッ!?な、何を言って……」

 

 暗い考えを一瞬で吹き飛ばされ、驚愕に目を見開いてその人物を凝視する檜山。そんな檜山の様子をニヤニヤと見下ろし、その人物は誘惑の言葉を続ける。

 

「僕に従うなら……いずれ彼女達が手に入るよ。」

 

「……何が目的なんだ。お前は何がしたいんだ!」

 

あまりに訳の分からない状況に檜山が声を荒らげる。

 

「ふふ、君には関係のないことだよ。まぁ、欲しいモノがあるとだけ言っておくよ。……それで?返答は?」

 

あくまで小バカにした態度を崩さないその人物に苛立ちを覚えるものの、それ以上に、あまりの変貌ぶりに恐怖を強く感じた檜山は、どちらにしろ自分に選択肢などないと諦めの表情で頷いた。

 

「……従う」

 

「アハハハハハ、それはよかった! 僕もクラスメイトを告発するのは心苦しかったからね! まぁ、仲良くやろうよ、人殺しさん? アハハハハハ」

 

楽しそうに笑いながら踵を返し宿の方へ歩き去っていくその人物の後ろ姿を見ながら、檜山は「ちくしょう……」と小さく呟いた……。

 

 

俯いたまま檜山が去っていくのを見送って、その人物も宿へと戻ろうとした時、後ろから声が聞こえた。

 

「ふ〜ん……ヤッパリ、あの火球は檜山君だったんだ」

 

「……っ、なんで君がここに?!」

 

振り返って、目に入った人物は、彼女にとって予想外の人物であって驚愕するも内心見られたと舌打ちしながら、彼女は警戒する。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ、──ちゃん、私としては檜山君だけじゃ心もとないから安心してるんだ〜」

 

「……まさか、園部さんに魔弾を撃ったのは君かい?」

 

現れた人物の発言で警戒をしていた彼女はある考えに行き着いて聞いてみると現れた人物は口角を上げてニヤッと笑みを深めて楽しそうに話しだす。

 

「うん、私だよ本当はあの女を落とすつもりだったのにな〜……あっ──ちゃん、あなたのその本性、光輝君とかに知られたくないよね?」

 

「……っ」

 

現れた人物の脅しに彼女は口を噤んでしまう。もし、彼女のせいで自分のこの事を光輝達に知られたら計画が台無しになってしまう。

 

だから……

 

「……(いっそ、この女を利用するか殺すか)」

 

情報が漏れないように彼女は護衛用に持っていたナイフをこっそり手に忍ばせるがその人物は意外な提案を持ちかけた。

 

「だから、協力しない私達?」

 

その人物の提案に彼女は交渉の余地があると分かって、警戒はしながらも手に取ったナイフをしまう。

 

「……目的は?」

 

「えーとね、もし、なぐ……ハジメ君の死体とかあったらなんかで保存して私のに出来ない?」

 

その人物の目的は自分のと同じぐらいの狂気的な内容で、彼女も流石に冷や汗を掻きながら苦笑いをする。

 

「君はそれで良いのかい?」

「うん、本当はあの女──園部優花を殺すのを手伝って欲しかったけど──ちゃんの天職が──師だから、出来るかな〜と思ってさ」

 

その人物は彼女の天職を知っていた為、ホントは優花の殺害を目的だったが死んだと思われる愛しの彼の復活、そして自分のにするという狂気的な目的に変更したらしい。

 

「……アハハ、狂ってるね」

 

 

「──ちゃんもでしょ?」

 

彼女は狂っていると自分でも理解していた。が、そんな自分が〝狂ってる〟と思ってしまう程、その人物も相当狂っていた。

 

「光輝君に知られたくないよね」

 

「……っ、わかった、協力するよ」

 

その人物に脅されてしまい協力するしか無いが、彼女はいずれその人物の隙をついて立場を同等か上の立場に立とうと画作してやろうと。

 

彼女の答えを聞いた人物は協力してくれることに笑みを浮かべる。

 

「ふふ、ありがとう──ちゃん(よし、これでハジメ君の死体、あれば良いな〜♡)」

 

こうして、ある悪意ある人物達の夜の会談が終わりを告げるのであった……。

 




やる気があったら今日また書きます…

<編集しました。十月二十九日
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