ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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十一話 奈落の底の封印部屋

 

【オルクス大迷宮】の奈落に落ちた男、南雲ハジメは周りの洞窟内をよく見ながら歩き回りながら諦めといった感じでボソッと呟いた。

 

「やっぱり、上への階層の道は見当たらないか……」

 

ハジメは目標であった爪熊を殺し喰らってから望み薄だった上の階層へと繋がる道を探していたが見つからず苦悩していた。唯一見つかったのは、下へと繋がる道だった。

 

「錬成も無意味だったし……」

 

なおハジメは、更に強くなった自分なら〝錬成〟を使って直接上階への道を作ればいいじゃないというダンジョンのなんたるかを軽く無視する方法は既に試したが……結果、上だろうと下だろうと、一定の範囲を進むと何故か壁が錬成に反応しなくなるということが分かった。その階層内ならいくらでも錬成できるのだが、上下に関してはなんらかのプロテクトでも掛かっているのかもしれない。

 

この【オルクス大迷宮】は、各地で攻略されている【遺跡】とは違い、神代に作られた謎の多い大迷宮なのだ。何があっても不思議ではない。

 

「まぁ、もしかしたら下に行った方が脱出に繋がる道があるかもしれねぇし行く価値はあるか……」

 

そう言い聞かせながらハジメは下へと向かうと決めると、下に繋がる道を通っていった。下の階層は明かりも一切なくとにかく暗い場所だった。

 

「暗いな……」

 

地下迷宮である以上それが当たり前なのだが、今まで潜ったことのある階層は全て緑光石が存在し、薄暗くとも先を視認できないほどではなかった。

だが、どうやらこの階層には緑光石が存在しないらしい。しばらくその場に止まり、目が慣れて多少見えるようにならないかと期待していたが、何時まで経ってもさほど違いはなかったのでハジメは、爪熊の毛皮と錬成した針金で作成したリュックから緑光石で作ったランプを取り出し灯りとする。

 

はっきり言って暗闇で光源を持つなど魔物がいるとすれば自殺行為に等しいが、こうでもしなければ進むことができないとハジメは割り切った。ただし、右手を塞ぐわけにはいかないので、肘から先のない左腕に括りつける。

 

しばらく進んでいると、通路の奥で何かがキラリと光った気がして、警戒を最大限に引き上げながら進んでいく。

 

「……っ」

 

なるべく、もの陰に隠れながら進んでいると、不意に左側に嫌な気配を感じた。咄嗟に飛び退きながら緑光石を向けると、そこには体長二メートル程の灰色のトカゲが壁に張り付いており、金色の瞳でハジメを睨んでいた。

 

「トカゲ型の魔物か……デケェな」

 

ハジメがトカゲを観察していた。その時、その金眼が一瞬光を帯び出す。

 

次の瞬間、ハジメの肉体に変化が起こる。

 

「ッ!?」

 

ハジメの左の上腕がビキビキと音を立てながら石化を始める。石化は直ぐに括りつけた緑光石にも及びものの数秒で石化させるとバリッと音を立てて砕け散らせた。光源が失われ、辺りを暗闇が覆う。腕の石化は進んでおり既に肩まで侵食していた。

 

「チッ……石化か!」

 

ハジメは、トカゲの石化系の固有魔法に舌打ちして、魔物の皮と針金で作った懐のホルスターから神水を取り出し一気に呷った。すると、期待した通り石化は止まり、見る見ると石化部分を正常に戻していったが本能的にマズイと感じたハジメは腰のポーチから〝閃光手榴弾〟を取り出すと、金眼トカゲのいた辺りに投げ込む。同時に、暗闇の向こうで再び金眼が輝いた。見えないことも構わず〝縮地〟を使い、一瞬でその場を離脱する。

 

すると、ハジメのいた場所の後ろにあった岩の色が少し変わり、次いで風化したようにボロボロと崩れ出したのを見て苦笑いをする。

 

「相当強ぇな。あのトカゲ……いや、石化させるからバジリスクと言うべきか」

 

そろそろ、投げた閃光手榴弾が爆発することに気が付いたハジメはドンナーを抜いて銃身を目の前にかざすことで盾にしながらグッと目をつぶった。

 

その瞬間、カッ! と強烈な閃光が周囲を満たし、視界を光で塗りつぶす。

 

「クゥア!?」

 

おそらく今まで感じたことがないだろう光量に混乱するバジリスクの姿が闇の中に浮かび上がる。

 

その瞬間を見逃さずにハジメはすかさず発砲した。絶大な威力を秘めた弾丸が、狙い違わずバジリスクの頭部に吸い込まれ頭蓋骨を粉砕し中身を蹂躙する。弾丸は、そのまま貫通し奥の壁に深々と穴を空け、シューと岩肌を焼く音を立てた。電磁加速させているため、当たった場所が高温を発しているのだ。熱に強く、硬いタウル鉱石だからこその威力だろう。

 

「ふぅ、撃破っと……他はいねぇよな」

 

ハジメはバジリスク撃破に喜びつつも周囲を警戒をする。そしてバジリスクに近づくと、素早くその肉を切り取りその場を離脱した。ほとんど何も見えない状況では流石にのんびり食事するわけにもいかない。ハジメは一先ず探索を進めることにした。

 

闇の中を歩き続けるハジメは既に、体感では何十時間と探索を続けていたが、階下への階段は未だ見つかっていない。

 

「今回はここまでにして……メシにするか」

 

道中、倒した魔物や採取した鉱石も多く、そろそろ持ち運びに不便なので、ハジメは拠点を作ることにした。

 

適当な場所で壁に手を当て錬成を開始する。特に問題なく壁に穴が空き、奥へと通路ができた。ハジメは連続で錬成し、六畳程の空間を作った。そして、今日殺した、バジリスクと、羽を散弾銃のように飛ばしてくるフクロウの魔物と、六本足の猫を纏雷で焼いて丸焼きにしたがそのグロテスクな見た目に表情が引き攣るも、これも、生き抜くためだと言い聞かせて我慢する。

 

「………いただきます」

 

バジリスクの丸焼きを手に取って、むぐむぐと喰っていると次第に体に痛みが走り始めた。

 

「……っ?!」

 

この痛みの原因が肉体の強化の顕れだと分かると、ここの魔物は爪熊と同等以上の強さを持っていると理解する。確かに、暗闇という環境と固有魔法のコンビネーションは厄介だったが、もっとも、ドンナーによる射撃と雷魔法が当たれば大体、木っ端微塵や黒焦げになるのでハジメ的には爪熊以下だと思っていたがどうやら違うらしい。

 

神水を飲みながら痛みを無視してハジメは喰い続ける。幻肢痛から始まり苦痛続きだったが段々、痛みに強くなっていた。

 

「むぐ、ふぅー、ごちそうさま。さて、ステータスは……」

 

そう言ってステータスプレートを取り出すハジメ。

 

現状は……

 

=====================================

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:23

 

天職:錬成師

 

筋力:800

 

体力:950

 

耐性:800

 

敏捷:900

 

魔力:1200

 

魔耐:1200

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・雷属性適性・雷属性耐性・脳内設計[+想像設計]・武芸百般[+武術Ⅳ][+槍術Ⅲ][+剣術][+銃技Ⅴ][+投擲術Ⅱ][+徒手]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・夜目・気配感知・石化耐性・■■■・言語理解

 

=====================================

 

「……上がったな」

 

予想通り大幅に上昇して、〝武芸百般〟には〝徒手〟という派生技能が増え、技能欄も三つ増えてる。よくよく周りを見ると、確かに先程より遥かに周りが見えることに気が付いたハジメは、これが〝夜目〟の能力だと理解すると同時に、この階層には必須だったので手に入れられたことに笑みを浮かべる。

〝武芸百般〟の方も最近はドンナーを主にしてる為か〝銃技〟のレベルが着々と上がってきており、新たに派生した〝徒手〟は爪熊の〝風爪〟を特訓の時に使っていたのが原因だろうが、極めれる才能が増えることは嬉しい。

後は、文字通りの技能だろう。耐性と気配感知が付くのは有難いことだと思いながら、ステータス確認を終えハジメは消耗品を補充するため錬成を始めていく。

 

奈落の生活から始まったこの作業に、ハジメはもう慣れてきていた。弾丸は一発作るのにも途轍もなく集中力を使う。何せ、超精密品である。ドンナーに刻まれたライフリングが無意味にならないようにサイズを完璧に合わせる必要がある。炸薬の圧縮量もミスは許されない。一発作るのに三十分近く掛かるのだ。自分でもよく作れたものだと思う。人間、生死がかかると凄まじい力を発揮するものだと自分ながらに感心してしまう。

 

「よし、行くか……」

 

ハジメは、消耗品の補充を終え、立ち上がると迷宮の攻略を再開する。新たに得た〝夜目〟のおかげで問題なく迷宮の奥へと進むハジメは、遂に階下への階段を見つけると躊躇いなく踏み込んだが足に違和感を感じる下を見る。

 

「なんだこれ……沼?」

 

その階層は、地面がどこもかしこもタールのように粘着く泥沼のような場所だった。足を取られるので凄まじく動きにくい。ハジメは顔をしかめながら、せり出た岩を足場にしたり〝空力〟を使ったりしつつ探索を開始する。

 

「……!」

 

周囲の鉱物を〝鉱物系感知〟の技能で調べながら進んでいると、途中興味深い鉱石を発見した。

 

================================

 

フラム鉱石

 

艶のある黒い鉱石。熱を加えると融解しタール状になる。融解温度は摂氏50度ほどで、タール状のときに摂氏100度で発火する。その熱は摂氏3000度に達する。燃焼時間はタール量による。

 

================================

 

「……マジ?」

 

〝鉱物系鑑定〟でフラム鉱石の説明を見てハジメは自分のアドバンテージが無くなることに唖然としてしまう。

 

「くそっ、ここ火気厳禁かよ……」

 

発火温度が百度ならそう簡単に発火するとは思わないが、仮に発火した場合、連鎖反応でこの階層全体が摂氏三千度の高熱に包まれることになる。流石に、神水をストックしていても生き残る自信はないハジメは〝ドンナー〟と〝雷魔法〟の主力の二つを封印したまま此処の階層の探索を再開する。

 

しばらく進んでいると三叉路に出た。近くの壁にチェックを入れセオリー通りに左の通路から探索しようと足を踏み出した。

 

その瞬間、ガチンッ!と金属音に似た音が耳に届く。

 

「!?」

 

直後、ハジメが踏み出したと同時に鋭い歯が無数に並んだ巨大な顎門を開いて、サメのような魔物がタールの中から飛び出してきた。

 

「今度はサメかよっ!」

 

ハジメの頭部を狙った顎門は歯と歯を打ち鳴らしながら閉じられる。咄嗟に身を屈めてかわしたもののハジメは戦慄するがある疑問に至る。

 

「クソっ、なんで〝気配感知〟が反応しねぇ!」

 

そうハジメは、ずっと〝気配感知〟をしていた。しかし、今戦っているサメは、感知に反応しないのだ。喰い損ねたサメはドボンと音を立てながら再びタールの中に沈み見えなくなってしまい再び〝気配感知〟をするが……

 

「チッ……やっぱり反応が無え!」

 

やはりか気配が掴めないことに歯噛みするハジメ。もしかしたら、サメは探知阻害系の固有魔法を持ってるのかもしれないと予想立てる。

 

そうとなればと、ハジメは策を張り巡らせながら、とにかく止まっていてはやられると〝空力〟を使い移動を再開する。すると、そのタイミングを見計らったかのように、再びサメが飛び出してきた、それを予想していたハジメは不敵な笑みを浮かべて声を上げる。

 

「死ねっ!」

 

サメが近寄ると、ハジメはその頭部めがけて右手を振り下ろした。振り下ろし〝右手に纏う〝風爪〟がサメの頭部を両断する。爪熊のように三本も出たりはしないが、その鋭利さはその辺の名刀を遥かに凌ぐ。近接では実に頼りになる固有魔法だ。

 

「ふぅ……流石、爪熊の固有魔法だな」

 

ハジメは喰らった爪熊の固有魔法の有能さに感嘆しながら殺したサメに視点を移す。

 

「それじゃ、頂くとするか」

 

その後、ドロドロとした液体を取るのに苦労したがサメの肉を切り取り保管するとハジメは探索を続け、遂に階下への階段を発見した。

 

=====================================

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:24

 

天職:錬成師

 

筋力:1000

 

体力:1100

 

耐性:1000

 

敏捷:1000

 

魔力:1300

 

魔耐:1300

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合]・雷属性適性・雷属性耐性・脳内設計[+想像設計]・武芸百般[+武術Ⅵ][+槍術Ⅲ][+剣術][+銃技Ⅴ][+投擲術Ⅱ][+徒手]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・夜目・気配感知・気配遮断・石化耐性・■■■・言語理解

 

=====================================

 

それからのハジメの迷宮攻略は続いた。

 

サメの階層から更に五十階層は進んだ。ハジメの時間感覚は既にないものに等しいので、どれくらいの日数が過ぎたのかはわからない。それでも、驚異的な速度で進んできたのは間違いなかった。

 

その間にも理不尽としか言いようがない強力な魔物と何度も死闘を演じてきた。

 

例えば、迷宮全体が薄い毒霧で覆われた階層では、毒の痰たんを吐き出す二メートルのカエルや、麻痺の鱗粉を撒き散らす蛾に襲われた。常に神水を服用してその恩恵に預からなければ、ただ探索しているだけで死んでいたはずだ。

 

カエルの毒をくらったときは直接神経を侵され、一番最初に魔物の肉を喰った時に近い激痛をもたらした。奥歯に仕込んだ神水がなければ死んでいただろう。ちなみに、奥歯に仕込んだのは噛み砕ける程度に薄くした石で出来た小さな容器だ。緊急用に仕込んでおいたのが幸いした。また、地下迷宮なのに密林のような階層に出たこともあった。物凄く蒸し暑く鬱蒼うっそうとしていて今までで一番不快な場所だった。この階層の魔物は巨大なムカデと樹だ。

 

密林を歩いていると、突然、巨大なムカデが木の上から降ってきたときは、流石のハジメも全身に鳥肌が立った。余りにも気持ち悪かったのである。しかも、このムカデ、体の節ごとに分離して襲ってきたのだ。一匹いれば三十匹はいると思えという黒い台所のGのような魔物だった。

 

ハジメは、ドンナーを連射して撃退しようとしたが如何せん数が多かった。直ぐにリロードに手間取り、〝風爪〟で切り裂く方法に切り替えた。それでも間に合わず〝雷魔法〟と慣れない蹴りも使って文字通り必死に戦った。この時、ハジメは更なる〝雷魔法〟の強化と、素早くリロードする技法と、蹴り技を磨くことを決意した。分裂ムカデの紫色の体液を全身に浴び憮然としながら。

 

そして、樹の魔物はピンチなると頭部をわっさわっさと振り赤い果物を投げつけてくるのだ。これには全く攻撃力はなく、ハジメは試しに食べてみたのだが、直後、数十分以上硬直した。毒の類ではない。めちゃくちゃ美味く、ハジメは樹の魔物を全滅寸前ぐらいまでにしていた。

 

そんなことが続いていく中、ハジメは五十階層時点でのステータスは上がりに上がった。

 

=====================================

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:49

 

天職:錬成師

 

筋力:1300

 

体力:1400

 

耐性:1250

 

敏捷:1400

 

魔力:1600

 

魔耐:1600

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・雷属性適性・雷属性耐性・脳内設計[+想像設計]・武芸百般[+武術Ⅷ][+槍術Ⅲ][+剣術][+銃技Ⅶ][+投擲術Ⅴ][+徒手Ⅳ][+蹴術Ⅲ]・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・■■■・言語理解

 

=====================================

 

ハジメは、この五十層で作った拠点にて銃技や蹴り技、錬成の鍛錬を積みながら少し足踏みをしていた。というのも、階下への階段は既に発見しているのだが、この五十層には明らかに異質な場所があったのだ。

 

「やっぱ場違いだよな……あの扉」

 

ハジメがそう思えたのは脇道の突き当りにある空けた場所には高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。

 

何かあると思ったハジメはその空間に足を踏み入れた瞬間全身に悪寒が走るのを感じ、これはヤバイと一旦引いたのである。もちろん装備を整えるためで避けるつもりは毛頭ない。ようやく現れた〝変化〟なのだ。調べないわけにはいかない。

 

ハジメは期待と嫌な予感を両方同時に感じていた。

 

あの扉を開けば確実になんらかの厄災と相対することになるかもしれないし、もしかしたら、この迷宮を攻略するのに必要な〝鍵〟になるのかもしれない。

 

「さながらパンドラの箱だな。……さて、どんな運命(結果)が入っているんだろうな?」

 

自分の今持てる武技と武器、そして技能。それらを一つ一つ確認し、コンディションを万全に整えていく。全ての準備を整え、ハジメはゆっくりドンナーを抜いた。

 

そして、そっと額に押し当て目を閉じる。覚悟ならとっくに決めている。しかし、重ねることは無駄ではないはずだ。己の内へと潜り願いを口に出して宣誓する。

 

「俺は、生き延びて優花とアイツ等のところに戻って、日本に、皆で家に……帰る。邪魔するものは敵だ。敵は……全て蹴散らしてやる!」 

 

扉の部屋にやってきたハジメは油断なく歩みを進める。特に何事もなく扉の前にまでやって来た。近くで見れば益々、見事な装飾が施されているとわかった。そして、中央に二つの窪みのある魔法陣が描かれているのがわかったがハジメはその魔法陣に難色を示す。

 

「……見たことねぇな」

 

ハジメは自らの能力を更に補うために座学に力を入れていた。もちろん、魔法系の本もだが、全ての学習を終えたわけではない。しかし、それでも、目の前の魔法陣の式を全く読み取れないというのは些おかしいと感じてハジメはある推測に至った。

 

「相当、古い時代の魔法陣か……」

 

ざっと、数百年ぐらい前のだろう。王国の図書館の本は最も古くて二百年前のモノでそれ以前のモノは見当たらなかった。もしかしたら、教会の本部にもっと前のがあるかもしれないが……

 

ハジメはそんな推測を立てながら扉を調べるが特に何かがわかるということもなかった。いかにも曰くありげなので、トラップを警戒して調べてみたのだが、どうやら今の持つ知識では解読できるものではなさそうだ。

 

「危険だが、錬成で確かめるか……」

 

一応、扉に手をかけて押したり引いたりしたがビクともしない。なので、いつもの如く錬成で強制的に道を作る。ハジメは右手を扉に触れさせ錬成を開始した。

 

しかし、その途端、バチィイ!と扉から赤色のスパークが放電し走りハジメの手を弾き飛ばした。

 

「うおっ!?」

 

手からは煙が吹き上がっている。〝マジかよ〟と、悪態を吐きながら神水を飲み回復するハジメはトラップかと思いすぐさま構えをとる。

 

すると、直後にその異変が起きた。

 

「………!」

 

何か来ると思った瞬間、

 

──オォォオオオオオオ!!

 

突然、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡ったのだ。

 

ハジメはバックステップで扉から距離をとり、再び腰を落として手をホルスターのすぐ横に触れさせいつでも抜き撃ち出来るようにスタンバイする。

 

雄叫びが響く中、遂に声の正体が動き出した。

 

「あれは、単眼──サイクロプスか?」

 

苦笑いしながら呟くハジメの前で、扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。

いつの間にか壁と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色している一つ目巨人はゲームで良く出るくるようなサイクロプスだった。手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。未だ埋まっている半身を強引に抜き出し無粋な侵入者を排除しようとハジメの方に視線を向ける。

 

「面倒だな……」

 

単純に素直に戦うのが面倒だと思ったハジメは、ドンナーを構える。

そして、次の瞬間、ドパンッ!と、凄まじい発砲音と共に電磁加速されたタウル鉱石の弾丸が右のサイクロプスのたった一つの目に突き刺さり、そのまま脳をグチャグチャにかき混ぜた挙句、後頭部を爆ぜさせて貫通して後ろの壁を粉砕した。

 

左のサイクロプスがキョトンとした様子で隣のサイクロプスを見る。撃たれたサイクロプスはビクンビクンと痙攣したあと、前のめりに倒れ伏した。巨体が倒れた衝撃が部屋全体を揺るがし、埃がもうもうと舞う。

 

「スマンがロールプレイなんて待ってられねぇからな。てめぇも、片付けさせてもらうぜ」

 

あのサイクロプス達は、おそらくガーディアンのような役目だろう。だったら早く片付けて、扉の中を拝ませて貰おうとハジメはもう一体のサイクロプスに発砲した。

 

ドパンッ!、雷速の弾丸がサイクロプスに迫る。しかし、サイクロプスは発光した後、ドンナーの弾を弾いた。

 

「へぇ、防御系の固有魔法か、やるじゃねーか」

 

ドンナーの攻撃に耐えたサイクロプスおそらく、防御力の向上系の固有魔法だろうと推測したハジメは悪い笑みを浮かべながら、あることを確かめることにした。

 

「なら、てめぇの、その防御力はいつまで耐えられるのか試させて貰おうか!」

 

そう言ってハジメはサイクロプスに豪脚、風爪、雷魔法、ドンナーの攻撃を一気に叩きつける。

 

そして、新たに開発した魔法を放とうとドンナーを横薙ぎに払う。

 

「〝風雷閃〟!」

 

己の雷魔法と爪熊の〝風爪〟を複合させた雷と風を合わせた斬撃を飛ばす魔法、〝風雷閃〟がサイクロプスの目を直撃し、そのまま頭部ごと粉砕した。

 

「ざっと、二十秒か……」

 

地面に着地したハジメは、サイクロプスの固有魔法の持続時間と流石に目の強化は出来なくて精々、強化は身体の一部ぐらいだと考察していき使い道があると判断した。

 

「まぁ、いいか。肉は後で取るとして……」

 

ハジメは、チラリと扉を見て少し思案する。そして、〝風爪〟でサイクロプスを切り裂き体内から魔石を取り出した。

 

「鍵だろうな……」

 

取り出した魔石は、サイクロプス達が守護していた扉の鍵穴と形が同じことが分かると、もう一体の死体も同じように切り裂いた。取り終わると血濡れを気にするでもなく二つの拳大の魔石を扉まで持って行き、それを窪みに合わせてみる。

 

「嵌ったな……」

 

そう呟いた直後、魔石から赤黒い魔力光が迸ほとばしり魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まった。同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、久しく見なかった程の明かりに満たされる。

 

「……っ!」

 

ハジメは少し目を瞬かせ、罠じゃないかと警戒しながら、そっと扉を開けていく。

 

扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっているようだ。ハジメの〝夜目〟と手前の部屋の明りに照らされて少しずつ全容がわかってくる。

 

「ほぉ……」

 

ハジメは扉の造形もそうだったが中の構造も凝っているデザインに感嘆してしまう。それは、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っているのでハジメはその立方体に目がいく。

 

その立方体を注視していたハジメは、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。

 

しかし、ハジメが確認をする前にそれは動いた。

 

「……だれ?」

 

かすれた、弱々しい女の子の声だ。ビクリッとしてハジメは慌てて部屋の中央を凝視する。すると、先程の〝生えている何か〟がユラユラと動き出した。差し込んだ光がその正体を暴く。

 

「人……なのか?」

 

〝生えていた何か〟は人だった。

 

上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗いている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

流石に予想外だったハジメは驚きのあまり硬直し、紅の瞳の女の子もハジメをジッと見つめる。そして、ハジメは彼女の悲しい顔を見て気付いた時には、

 

迷いもなく彼女のところへと駆け出していた……。

 

 

 




吸血姫、登場です。

<編集しました。十月三十一日
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