【オルクス大迷宮】の奈落に囚われているのか分からないが少女の助けを求めるような姿を見て、ハジメは少女の元へ歩き出していた。その少女はよく見ると金髪紅眼の女の子だった。
ハジメは、無意識に囚われている少女の近くまで足を運んでいた。そして、囚われていた少女はハジメの行動に驚いた表情をし、掠れながら呟いた。
「た……助け…てくれ…るの?」
「助けはしたいが……クソ善意のある人間じゃないんでね……幾つか聞きたいことがある。まず、アンタ何者だ?」
「わ、私の…こと?」
「あぁ、素性が分かんねぇ奴を簡単に助ける訳にはいかねぇからな」
そう言うとハジメの言い分に納得したのか囚われている少女は掠れながらも話しだす。
「……私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」
「(吸血鬼族……確か、数百年前に滅んだと言われている亜人族の名称……)お前、どっかの国の王族だったのか?」
「……(コクコク)」
ハジメの質問に少女は答えるかのように頷き、嘘はないと感じたハジメは更に質問を続ける。
「殺せないってなんだ?」
「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」
「……そいつは凄まじいな……すごい力ってそれか?」
「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」
「……」
少女の発言はどれも嘘をついてそうには見えない。それに、再生能力もあって自分と同じ無詠唱で魔法を撃てるという正にチートの権化であることに苦笑いする。
同時にハジメは少女の能力なら封印するのも納得していると、少女はハジメが自分を助けないと思ったのか必死に助けを述べる。
「…お願い!……助けて……なんでもする……だから…」
「……おい」
「……?」
そんな事を言う少女にハジメは溜息混じりに真剣な表情になると少し怒気を含めながら少女に言う。
「仮にも女の子が、そんな簡単に
「!……うん…ご、ごめんなさい」
「ああ。少し、待ってろ」
そう言ってハジメは少女を捕える立方体に手を置いた。
「あっ……」
少女は本当に自分を助けてくれると分かり大きく目を見開く。ハジメはそれを無視して錬成を始める。
しかし、イメージ通り変形するはずの立方体は、まるでハジメの魔力に抵抗するように錬成を弾いた。迷宮の上下の岩盤のようだ。だが、迷宮と違って全く通じないわけではないらしい。少しずつ少しずつ侵食するように魔力が立方体に迫っていく。
「!」
立方体の抵抗力に歯噛みしながらハジメは更に魔力をつぎ込んでいく。詠唱していたのなら六節は唱える必要がある魔力量だ。そこまでやってようやく魔力が立方体に浸透し始める。既に、周りはハジメの魔力光により濃い紅色に煌々と輝き、部屋全体が染められているようだった。
ハジメは更に魔力を上乗せする。七節分、八節分。すると、徐々に少女を封じる周りの石が徐々に震え出す。
「まだまだぁ!」
ハジメは気合を入れながら魔力を九節分つぎ込む。属性魔法なら既に上位呪文級、いや、それではお釣りが来るかもしれない魔力量だ。どんどん輝きを増す紅い光に、少女は目を見開き、この光景を一瞬も見逃さないとでも言うようにジッと見つめ続ける。
「クハッ……」
ハジメは自分のこんな性格は
「……!」
「これならぁっ!」
ハジメが叫んだ直後、少女の周りの立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、少しずつ彼女の枷を解いていく。
そして、囚われから解放された少女が全裸であることに気付いてハジメは、目が点となって頭が真っ白になる。
「ま?」
それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太ももと彼女を包んでいた立方体が流れ出す。一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。
そのまま、体の全てが解き放たれ、少女は地面にペタリと女の子座りで座り込む前にハジメは急いで自分の着ていた外套を少女に羽織らせてから座り込んだ。肩でゼハーゼハーと息をし、大分消費した魔力のせいで激しい倦怠感に襲われている。
「ハァハァ……」
魔力が消費が激しい為にすぐに回復しようと荒い息を吐き震える手で神水を出そうとして、その手を少女がギュッと握った。弱々しい、力のない手だ。小さくて、ふるふると震えている。
「どうしたんだ?」
ハジメが横目に少女に問いかけると少女は真っ直ぐにハジメを見つめている。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。
そして、震える声で小さく、しかしはっきりと女の子は告げる。
「……ありがとう」
「あぁ、どういたしまして」
感謝する少女にハジメは笑みを向けて返事をすると、再び少女はギュギュとハジメの手を握り返す。
「……名前、なに?」
少女が囁くような声で尋ねる。そういえばお互い名乗っていなかったと苦笑いを深めながらハジメは答え、少女にも聞き返した。
「ハジメだ。南雲ハジメ。お前は?」
少女は「ハジメ、ハジメ」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。そして、問われた名前を答えようとして、思い直したようにハジメにお願いをした。
「……名前、付けて」
「は? 付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」
長い間幽閉されていたせいで記憶喪失になったのかと聞いてみる俺だハジメったが、少女はふるふると首を振る。どうやら違うらしい。
「もう、前の名前はいらない。……ハジメの付けた名前がいい」
「……はぁ、そうは言ってもなぁ」
少女喪失言葉でハジメは納得する。おそらく、前の自分を捨てて新しい自分と価値観で生きる。少女は自分の意志で変わりたいらしい。その一歩が新しい名前なのだろう。
しかし、難解なお願いに悩むハジメに、少女は期待するような目でハジメを見ている。ハジメはカリカリと頬を掻くと、少し考える素振りを見せて、仕方ないというように彼女の新しい名前を告げた。
「〝ユエ〟なんてどうだ? 俺、ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるが……」
「ユエ? ……ユエ……ユエ……」
「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で〝月〟を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、お前のその金色の髪とか紅い眼が優花と二人で見た夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……どうだ?」
思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、女の子がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。
「……んっ。今日からユエ。ありがとう、でも……」
ユエは嬉しそうにするが段々、声色が変わっていきながらハジメに問いかける。
「ん、なんだ?……」
「……優花って誰?」
「……」
自分の失言に右手で自分の口を覆うがユエはハジメをハイライトが消えた瞳で見つめながら詰め寄ってくる。
「……ねぇハジメ…優花って誰なの?」
「あぁ〜えっとな優花は俺のか…っ!」
ハジメが彼女だ、と言い切る前に〝気配感知〟が反応し……凍りついた。とんでもない魔物の気配が直ぐ傍に存在することに気がついた。
「上か!」
ハジメがその存在に気がついたのと、ソレが天井より降ってきたのはほぼ同時だった。
「ユエッ!」
「!」
咄嗟に、ハジメはユエに呼び片腕で抱き上げると全力で〝縮地〟をする。一瞬で、移動して振り返ると、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながらソレが姿を現した。
その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。
「……デケェな」
現れたのはサソリ型の魔物だった。しかし、部屋に入った直後は全開だった〝気配感知〟ではなんの反応も捉えられなかった。だが、今は〝気配感知〟でしっかり捉えている。ということは、少なくともこのサソリは、ユエの封印を解いた後に出てきたということ。
つまり、ユエを逃がさないための最後の仕掛け……
「
そう呟いたハジメはいきなり現れたサソリのことをそう推測しながら腕の中のユエをチラリと見る。彼女は、サソリになど目もくれず一心にハジメを見ていた。凪いだ水面のように静かな、覚悟を決めた瞳。その瞳が何よりも雄弁に彼女の意思が伝わる。ユエは自分の運命をハジメに委ねていると感じ取り笑みを向けながらユエに話しかける。
「そんな顔すんな、見捨てはしねぇよ」
「……ん」
ハジメはユエを安心させるとサソリ野郎に向き直って告げた。
「上等だ。……殺れるもんならやってみろサソリ野郎」
ハジメはユエを肩に担ぎ一瞬でポーチから神水を取り出すと抱き直したユエの口に突っ込んだ。
「ユエ、これ飲め」
「うむっ!?」
試験管型の容器から神水がユエの体内に流れ込む。ユエは異物を口に突っ込まれて涙目になっているが、衰え切った体に活力が戻ってくる感覚に驚いたように目を見開いた。ユエの回復が終わるのを確認するとハジメは、そのまま片腕でくるりとユエを回し背中に背負う。衰弱しきった今の彼女は足でまといだが、置いていけば先に始末されかねない。
「しっかり掴まってろよ! ユエ!」
「……ん!」
全開には程遠いが、手足に力が戻ってきたユエは応えギュっとハジメの背中にしがみつく。
ギチギチと音を立てながらにじり寄ってくるサソリモドキ。ハジメは背中にユエを感じつつ、不敵な笑みを浮かべながら宣言した。
「ハっ、俺の邪魔するってんなら……殺すまでだ!」
サソリモドキの初手は尻尾の針から噴射された紫色の液体だった。かなりの速度で飛来したそれを、ハジメはすかさず飛び退いてかわす。着弾した紫の液体はジュワーという音を立てて瞬く間に床を溶かしていった。
「ちっ、溶解液か……」
ハジメは床が溶けるのを見て溶解液を使う魔物だと横目に確認しつつ、ドンナーを抜き様に発砲する。
ドパンッ!と紅き閃光が走る。
その閃光の軌跡を目の当たりにしたのかハジメの背中越しにユエの驚愕が伝わって来た。
「……」
ユエは見たこともない武器で、閃光のような攻撃を放ったち、それは魔法の気配もなく。若干、右手に電撃を帯びたようだが、それも魔法陣や詠唱を使用していない。つまり、ハジメが自分と同じく、魔力を直接操作する術を持っているということに、ユエは気がついたのである。
自分と〝同じ〟魔力操作の使い手、そして、何故かこの奈落にいる。ユエはそんな場合ではないとわかっていながらサソリモドキよりもハジメを意識せずにはいられなかった。
背中から伝わる驚愕にハジメは、ユエはこの世界の住人だから銃の存在は知らないから驚いたのだろうと思いながらサソリモドキの攻撃を避けながら発砲をする。
ハジメは足を止めることなく〝空力〟を使い跳躍を繰り返した。その表情は今までになく険しい。ハジメには、〝気配感知〟と〝魔力感知〟でサソリモドキが微動だにしていないことがわかっていたからだ。
「………」
誘っているのかと思った時、ハジメが予想したようにサソリモドキはもう一本の尻尾の針が俺に照準を合わせた。そして、尻尾の先端が一瞬肥大化したかと思うと凄まじい速度で針が撃ち出された。
「チッ……お返しだ!」
ハジメは苦しげに唸りながら、ドンナーで針を撃ち落とし、〝豪脚〟で払い、〝風爪〟で叩き切る。どうにか凌ぎ切ると、お返しとばかりにドンナーを発砲。直後、空中にドンナーを投げ、その間にポーチから取り出した手榴弾を投げつける。
サソリモドキはドンナーの一撃を再び耐えきり、更に散弾針と溶解液を放とうとした。しかし、その前にコロコロと転がってきた直径八センチ程の手榴弾がカッと爆ぜる。その手榴弾は爆発と同時に中から燃える黒い泥を撒き散らしサソリモドキへと付着した。
いわゆる〝焼夷手榴弾〟というやつだ。タールの階層で手に入れたフラム鉱石を利用したもので、摂氏三千度の付着する炎を撒き散らす。
「……どうだ?」
サソリモドキが攻撃を中断して、付着した炎を引き剥がそうと大暴れした。その隙に地面に着地し、既にキャッチしていたドンナーを素早くリロードする。
それが終わる頃には、 〝焼夷手榴弾〟はタールが燃え尽きたのかほとんど鎮火してしまっていた。しかし、あちこちから煙を吹き上げているサソリモドキにもダメージはあったようで強烈な怒りが伝わってくる。
「おっ、キレてんなぁ……」
「キシャァァァァア!!!」
絶叫を上げながらサソリモドキはその八本の足を猛然と動かし、ハジメ達に向かって突進し、四本の大バサミがいきなり伸長し大砲のように風を唸らせながら迫って来た。
一本目を〝縮地〟でかわし、二本目を〝空力〟で跳躍してかわす。三本目を〝豪脚〟で蹴り流して体勢を崩しているハジメを、四本目のハサミが襲うが、咄嗟にドンナーを撃ち、その激発の衝撃を利用して自らを吹き飛ばしつつ身を捻ることで辛うじて回避に成功した。背中のユエが激しい動きに「うぅ」と唸っているが、どうにか堪えられているようだ。
「大丈夫かユエ?」
「……んぅ、なんとか」
ハジメは横目にユエの安全を確認するとユエは激しい振動に目が回るも返事をしたので、そのまま空中を跳躍し、サソリモドキの背中部分に降り立った。そして、暴れるサソリモドキの上でなんとかバランスを取りながら、ゴツッと外殻に銃口を押し付けるとゼロ距離でドンナーを撃ち放った。
ズガンッ!!と、凄まじい炸裂音が響き、サソリモドキの胴体が衝撃で地面に叩きつけられる。
しかし、直撃を受けた外殻は僅かに傷が付いたくらいでダメージらしいダメージは与えられていない。その事実に歯噛みしながらドンナーを振りかぶり〝風爪〟を発動するが、ガキッという金属同士がぶつかるような音を響かせただけで、やはり外殻を突破することは敵わなかった。
「流石に、これで死なねぇかっ……」
ハジメは、即行でその場を飛び退き空中で身を捻ると、散弾針の付け根目掛けて発砲する。超速の弾丸が狙い違わず尻尾の先端側の付け根部分に当たり尻尾を大きく弾き飛ばすが、尻尾まで硬い外殻に覆われているようでダメージがない。完全に攻撃力不足だ。
「チィっ!」
空中のハジメを、再度、四本の大バサミが嵐の如く次々と襲う。ハジメは苦し紛れに〝焼夷手榴弾〟をサソリモドキの背中に投げ込み大きく後方に跳躍した。爆発四散したタールが再びサソリモドキを襲うが時間稼ぎにしかならないだろう。
「キィィィィィイイ!!」
「!」
その叫びを聞いて、全身を悪寒が駆け巡り、咄嗟に〝縮地〟で距離をとろうとするハジメだったが……
「ぐぅっ!」
直後、強烈な衝撃と共に鋭い針が何十本とハジメの体に深々と突き刺さる。
「………ッ!」
完全に意表を突かれたハジメは声にならない痛みに耐えながら衝撃で吹き飛ばされ、激痛に襲われながら更に地面に叩きつけられ、そのまま転がる。ユエもその衝撃で背中から放り出されてしまった。
「……てぇなっ!」
体に無数の針を突き刺されながらも歯を食いしばって痛みに耐え、ポーチから〝閃光手榴弾〟を取り出しサソリモドキに投げつける。放物線を描いて飛ばされた〝閃光手榴弾〟はサソリモドキの眼前で強烈な閃光を放つ。
「グッ……」
「キィシャァァアア!!」
突然の閃光に悲鳴を上げ思わず後ろに下がるサソリ野郎はどうも最初からハジメの動きを視認しているようだったので、いけると踏んで投げたのだが、その推測は間違っていなかったらしい。
ハジメは奥歯に仕込んだ神水を噛み砕き飲み干しながら一気に針を抜いていく。
「ぐぅうう!」
一つ一つ抜く度にハジメは激痛の余り食いしばった歯の間から呻き声が漏れる。しかし、耐えられないほどではないがある事に気付く。
「……ユエ!?」
ハジメは、針を抜きながら視線を巡らせユエを探す。しかし、俺が見つけるよりも、ユエが俺のハジメもとに来る方が早かった。
「ハジメ!」
心配そうに駆け寄るユエ。無表情が崩れ今にも泣き出しそうだ。そんな表情をハジメが気にするわけがなく笑って彼女の頭を撫でる。
「安心しろ、大丈夫だ。それよりアイツ硬すぎんだろ? 攻略法が見つからねぇ。目か口を狙おうにも四本のハサミが邪魔で通らねぇし……ダメージ覚悟で特攻するか?」
ユエの頭を撫でてから、サソリモドキを攻略すべく思案するハジメにユエがポツリと零す。
「……どうして?」
「あ?」
「どうして逃げないの?」
自分を置いて逃げれば助かるかもしれない、その可能性を理解しているはずだと言外に訴えるユエ。
「クハッ……」
ハジメはユエの言葉に笑いながら返した。
「何を今更。ちっとばっかし強い敵が現れたぐらいで見放さねぇし、俺は
ハジメはそう言うと、右手で優しくユエの頭をポンポンとする。ユエは少し俯いて顔は見えないが両耳が真っ赤になっているがハジメは気付かない。
「……//」
しかし、俯いたままのユエは、ハジメに言葉以上の何かを見たのか納得したように頷き、いきなり抱きついてきた。
「お、おう? どうしたんだユエ?」
ハジメはユエに言ったが、そんなことは知らないとユエはハジメの首に手を回した。
「ハジメ……信じて」
そう言ってユエは、ハジメの首筋にキスをした。
「ッ!?」
否、これはキスではない。噛み付いたのだと。ハジメは戸惑いながらも気が付いた。
「あ〜(吸血鬼族の吸血による魔力補給か)」
ユエが吸血鬼だったのを思い出したハジメは、苦笑いしながら、しがみつくユエの体を抱き締めて支えてやった。一瞬、ピクンと震えるユエだが、更にギュッと抱きつき首筋に顔を埋める。
「ん?」
顔を埋めるユエは何故か嬉しそうにしていることに不思議に思ったハジメはキョトンと首を傾げる。
「キィシャァアアア!!」
「……チッ、復帰が早ぇな!」
復活したのだろうサソリモドキの咆哮が轟く。どうやら閃光手榴弾のショックから回復したらしい。こちらの位置は把握しているようで、再び地面が波打つ。
「……地面が?!ならコイツはっ」
ハジメは理解する。サソリモドキの固有魔法は地形操作系の固有魔法であると、普通なら驚愕する固有魔法だろうがハジメは不敵な笑みを浮かべながら口を開く。
「だが……それなら俺の十八番だ」
ハジメは地面に右手を置き〝錬成〟を行った。周囲の此方へ波打つ地面を止め、代わりに石の壁がハジメとユエを囲むように形成される。
周囲から円錐の刺が飛び出しハジメ達を襲うが、その尽くを防壁が防ぐ。一撃当たるごとにヒビ割れ崩されるが直ぐさま新しい壁を構築し寄せ付けない。
「……どっちが上なのかを教えてやるよ!」
地形を操る規模や強度、攻撃性はサソリモドキが断然上である。が、錬成速度はハジメの方が上である。ハジメが錬成しながら防御に専念していると、ユエがようやく口を離した。
「……ごちそうさま」
そう言うと、ユエは、おもむろに立ち上がりサソリモドキに向けて片手を掲げた。同時に、その華奢な身からは想像もできない莫大な魔力が噴き上がり、彼女の魔力光なのだろう──黄金色が暗闇を薙ぎ払った。
そして、神秘に彩られたユエは、魔力色と同じ黄金の髪をゆらりゆらゆらとなびかせながら、一言、呟いた。
「〝蒼天〟」
その瞬間、サソリモドキの頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がる。
「……っ(アレは炎系魔法の最上級魔法っ)!」
初めて見る炎系の最上級魔法にハジメは目を見開く。直撃したわけでもないのに余程熱いのか悲鳴を上げて離脱しようとするが、奈落の底の吸血姫がそれを許さない。
ピンっと伸ばされた綺麗な指がタクトのように優雅に振られる。青白い炎の球体は指揮者の指示を忠実に実行し、逃げるサソリモドキを追いかけ……直撃した。
「グゥギィヤァァァアアア!?」
サソリモドキがかつてない絶叫を上げる。明らかに苦悶の悲鳴だ。着弾と同時に青白い閃光が辺りを満たし何も見えなくなる。ハジメは腕で目を庇いながら、その壮絶な魔法を唯々呆然と眺めた。
やがて、魔法の効果時間が終わったのか青白い炎が消滅する。跡には、背中の外殻を赤熱化させ、表面をドロリと融解させて悶え苦しむサソモドキの姿があった。
「……正に魔法の天才だな」
ハジメの摂氏三千度の〝焼夷手榴弾〟でも溶けず、ゼロ距離のドンナーを喰らっても傷が付かなかったサソリモドキの外殻を溶かす程の最上級の炎魔法と完璧な魔法の操作技術を難なく熟すユエは正に天才なのだろう。
トサリと音がして、ハジメは驚異的な光景から視線を引き剥がし、そちらを見やると、ユエが肩で息をしながら座り込んでいる姿があった。どうやら魔力が枯渇したらしい。
「ユエ、無事か?」
「ん……最上級……疲れる」
ハジメはユエの言葉に息を呑むも、最後の仕上げに行く為、ユエに話しかけるだけにした。
「はは、やるじゃないか。助かったよ。後は俺がやるから休んでいてくれ」
「ん、頑張って……」
ハジメは、手をプラプラと振りながら〝縮地〟で一気に間合いを詰め告げた。
「よし……再戦といこうかサソリ野郎!」
サソリモドキは未だ健在だ。外殻の表面を融解させながら、怒りを隠しもせずに咆哮を上げ、接近してきたハジメに散弾針を撃ち込もうとしたが、その前に手榴弾を投げつけ相殺する。そして空中でハジメは、自分が持つ中で最強の一撃をサソリ野郎に喰らわせていく。
ハジメが手に持つドンナーから紅い雷が溢れ出て、キュウィィィィンと何かをチャージする音が聞こえる中、ハジメはその引き金を引いた。
「喰らえ!」
ドッガァァアン!!と、先程よりも速くより紅い輝きを放つ閃光が装甲が溶けたサソリ野郎の背中を貫通し暴発する。
「グゥギャァァァァ!」
ハジメの一撃でサソリ野郎がゆっくりと傾き、そのままズズンッと地響きを立てながら倒れ込んだ。
「ふぅ…」
ハジメは一息つきながら地面に着地した。
そして、ピキッ!と、金属音がヒビ割れるような音が聞こえ、ふと視線を転じると手に持つドンナーを見ると少し銃口が欠けていた。
「……予想はしてたが」
先の一撃は、タウル鉱石でも耐えきれないことに落胆するハジメ。
最後、ハジメが放ったレールガンは、いつものレールガンには〝纏雷〟だけを使用してるが今回はハジメの雷魔法の〝轟雷〟も合わせて、威力、弾速を更に跳ね上げた正に砲撃なのだが、ハジメでもドンナーが耐えれるかどうか分からず、設計図を見るからして壊れることを予想はしていたので余り使いたくなかったがサソリモドキを倒す為には使いざる得なかったのだ。
「やっぱり、新しい武器を作るのと新たな鉱石探しか……」
ハジメがこれからの事に溜息混じりに呟き振り返ると、無表情ながら、どことなく嬉しそうな眼差しで女の子座りしながらハジメを見つめているユエがいた。
でも、まぁ………
「使った成果はあったか……」
ハジメは笑みを浮かべそう呟きながら、ユエの元へ向かって歩き出したのだった……。
<編集しました。十一月一日