ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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クラスメイトside2 悪夢再びそして…

 

 

ハジメがユエと出会い、守護者であるサソリモドキとの死闘を生き抜いた日。

 

光輝達勇者一行は、メルドの指揮の元、【ホルアド】近辺の黒ランク級の遺跡【ロッカス遺跡】をたったの二日で主の魔物も討伐して攻略してみせた。

 

これは、最初の迷宮での事故で不信や心配の声が上がる王国の民達に対して勇者含めた神の使徒御一行の強さは別格であると再度、印象付ける為に教会の指示により行ったことだ。

その結果、【遺跡】を二日で攻略したという事実は民達からの信頼をある程度まで回復させることに成功した。そして、彼等は、再び【オルクス大迷宮】にやって来ていた。

但し、訪れているのは光輝達勇者パーティーと、小悪党組、それに永山重吾という大柄な柔道部の男子生徒が率いる男女四人のパーティーと優花と浩介の二人という以前よりも人が少ないパーティーだけだった。

 

人数がいない理由は簡単だ。話題には出さなくとも、ハジメの死が、多くの生徒達の心に深く重い影を落としてしまったのである。〝戦いの果ての死〟というものを強く実感させられてしまい、まともに戦闘などできなくなったのだ。一種のトラウマというやつである。

 

当然、聖教教会関係者はいい顔をしなかった。しかし、イシュタルとハジメとの間で結ばれた制約によって城に引き込もってしまった生徒達は王国の警備として扱われるようになった。

 

結果、自ら戦闘訓練を望んだ勇者パーティーと小悪党組、永山重吾のパーティー、そしてハジメを見つける為に迷宮に望んだ優花と浩介のみが訓練を継続することになった。そんな彼等は、再び訓練を兼ねて【オルクス大迷宮】に挑むことになったのだ。今回も遺跡攻略を共にしたメルド団長と数人の騎士団員が付き添っている。

 

今日で迷宮攻略六日目。

 

現在の階層は六十層だ。王国(・・)で確認されている最高到達階数まで後五層である。

 

しかし、光輝達は現在、立ち往生していた。正確には先へ行けないのではなく、何時かの悪夢を思い出して思わず立ち止まってしまったのだ。

 

そう、彼等の目の前には何時かのものとは異なるが同じような断崖絶壁が広がっていたのである。次の階層へ行くには崖にかかった吊り橋を進まなければならない。

それ自体は問題ないが、やはり思い出してしまうのだろう。特に、優花は、奈落へと続いているかのような崖下の闇をジッと見つめたまま動かなかった。

 

「……ハジメ」

 

彼の名をボソッと呟く優花は奈落へと続く崖下を見ながら落ちたハジメのことを思っていた。

 

「園部」

 

「園部さん」

 

後ろから浩介と雫が声を掛けたので二人を心配されないように優花は振り返って二人に笑みを浮かべて返事をする。

 

「大丈夫よ、二人共」

 

「そう……無理しないでね? 私に遠慮することなんてないんだから」

 

「八重樫の言う通りだぞ園部」

 

「うん、ありがと。でも私は平気」

 

そうだ。ここで、立ち止まってはいけない。ハジメを見つけるまでは………と、そんな想いを抱いて、優花は歩きだそうとした時、すぐ側まで歩み寄って来ていた光輝が爽やかな笑みを向けながら話しかけてきた。

 

「園部さん……君の優しいところは良いことだ。でも、クラスメイトの死に、何時までも囚われていちゃいけない! 前へ進むんだ。きっと、南雲もそれを望んでる!」

 

「ちょっと、光輝!」

 

「雫は黙っていてくれ! 例え厳しくても、勇者である俺が言わないといけないんだ。……園部さん、大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。園部さんを悲しませたりしないと約束するよ」

 

「………」

 

光輝の問題発言に、優花は無言になって若干、引いていると雫が申し訳ないように謝ってきた。

 

「はぁ~、何時もの暴走ね……ごめんなさい園部さん……」

 

「うん、大丈夫だよ、雫。……えっと、天之河くんも言いたいことは分かったからもう話しかけないてくれる? 後、アンタが傍にいても何にもなんないから」

 

「……っだが!」

 

優花は笑顔で容赦無く本心を伝えると、光輝はまだ何か言おうとしたのか自分の方へ一歩、進み出ようとしたが、一人の幼なじみが間に入ってくれた。

 

「そこまでだ……天之河」

 

「何のようだ、遠藤。お前には関係ないだろ? 俺は今、園部さんと話しているんだ」

 

「園部の言う通り、お前が傍にいて何になる? ただ、ハジメを困らせた奴が次は園部を困らすのか?」

 

浩介はそう言いながら目を細める声色も低くて圧に気圧されるが負けじと光輝は浩介の言葉を強く否定する。

 

「俺は困らせてなんかいない!」

 

「良いや! お前はそういう奴だっだからハジメはお前のせいで……」

 

懐から浩介が武器をコッソリと抜き出しているのを見た優花は彼がキレる寸前なのが分かり、すぐさま止めに入った。

 

「ストップ、浩介」

 

「だがっ、園部……」

 

「大丈夫。ハジメは絶対生きてるって信じてるから」

 

優花の言葉とその真っ直ぐな目を見て浩介は落ち着いたのか、「ふぅ……」と気を取り直そうと軽く深呼吸しながら武器を収める。

 

「そうだな、スマン」

 

「うん」

 

そして、アチラも光輝のストッパーである雫が止めに入っていた。

 

「光輝、アンタも困らせないのっ」

 

「……っ、だが!」

 

「だが、じゃないでしょ!」

 

そして、雫と優花が一発触発だった二人を止めこの場はなんとか収まった。だが、一人の優花にとって次なる関わりたくない相手である女子生徒が優花ぐらいにしか聞こえない程度の声量で話しかけてきた。

 

「へぇ……ほぼ落としたような人が何言ってるの?」

 

「……なに? 香織」

 

その言葉に優花はキッと彼女を睨むが、彼女はスマした笑みを浮かべてる。

 

「いや〜何でもないよハジメ君を落とした犯人さん」

 

「……」

 

優花が目を覚ましてから、香織は毎回会った時に突っかかって来るようになっていた。言うこと大体、ハジメを落としたのは優花だとか言う。

 

「ねぇ? ハジメ君を落としてどんな──「ごめん。私、急いでるから」……あっ、ちょっ!」

 

でも優花は、香織と言い争っても意味が無いと思っている為に即座に香織の発言を遮って、浩介のところへと走っていった。

 

「……チッ」

 

そんな中、香織と優花を、後方から暗い瞳で見つめる者がいた。

 

檜山大介である。あの日、王都に戻ってしばらく経ち、生徒達にも落ち着きが戻ってきた頃、案の定、あの窮地を招いた檜山には厳しい批難が待っていた。

檜山は当然予想していたので、ただひたすら土下座で謝罪するに徹した。こういう時、反論することが下策以外のなにものでもないと知っていたからだ。特に、謝罪するタイミングと場所は重要だ。

 

檜山の狙いは光輝の目の前での土下座である。光輝なら確実に謝罪する自分を許しクラスメイトを執り成してくれると予想していたのである。

 

その予想は功を奏し、光輝の許しの言葉で檜山に対する批難は収まった。香織も元来の優しさから、涙ながらに謝罪する檜山を特段責めるようなことはしなかったし、優花とハジメの幼なじみ達は浩介が檜山に突っかかりそうになってるのを必死に止めており、檜山を睨むだけで終わり檜山の計算通りである。

もっとも、雫と浩介は薄々檜山の魂胆に気がついており、クラスのリーダーを利用したことに嫌悪感を抱いたようだが。

 

また、例の人物からの命令も黙々とこなした。とても恐ろしい命令だった。戦慄すべき命令だった。強烈な忌避感を感じたが、一線を越えてしまった檜山は、もう止まることができなかった。

 

しかし、クラスにごく自然と溶け込みながら裏では恐ろしい計画を練っているその人物に、檜山は畏怖と同時に歓喜の念も抱いていた。

 

「(あいつは狂ってやがる。……だが、付いて行けば香織と園部は俺の……)」

 

言うことを聞けば香織と優花が手に入る、その言葉に暗い喜びを感じ思わず口元に笑みが浮かぶ檜山だった。

 

 

================================

 

 

遺跡を攻略したことから前回よりも経験を積んでいる一行は特に問題もなく、遂に王国で歴代最高到達階層である六十五層にたどり着いた。

 

「気を引き締めろ! ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」

 

付き添いのメルド団長の声がビリビリと響く。光輝達は今まで以上に表情を引き締め未知の領域に足を踏み入れた。しばらく進んでいると、大きな広間に出た。何となく嫌な予感がする一同。

 

その予感は的中した。広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がったのだ。赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。それは、とても見覚えのある魔法陣だった。

 

「ま、まさか……アイツなのか!?」

 

光輝が額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。

 

「マジかよ、アイツは南雲にやられたんじゃなかったのかよ!」

 

龍太郎も驚愕をあらわにして叫ぶ。それに応えたのは、険しい表情をしながらも冷静な声音のメルド団長だ。

 

「迷宮の魔物の発生原因は遺跡と違って余り解明されていない。しかし、一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」

 

いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド団長。それに部下が即座に従う。だが、光輝がそれに不満そうに言葉を返した。

 

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ! もう負けはしない! 必ず勝ってみせます!」

 

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここいらでリベンジマッチだ!」

 

龍太郎も不敵な笑みを浮かべて呼応する。メルド団長はやれやれと肩を竦め、確かに自分達と共に【遺跡】を二日で攻略した今の光輝達の実力なら大丈夫だろうと、同じく不敵な笑みを浮かべた。

 

そして、遂に魔法陣が爆発したように輝き、かつての悪夢が再び光輝達の前に現れた。

 

「グゥガァアアア!!!」

 

咆哮を上げ、地を踏み鳴らす異形。ベヒモスが光輝達を壮絶な殺意を宿らせた眼光で睨む。そして光輝がベヒモスに向かうおうとするよりも早く一陣の影が光輝よりも前に出た。

 

「少し待って貰おう、天之河」

 

「っ、何をする! 遠藤」

 

光輝の前に出たのは浩介だった。そして、後から来たであろう優花の姿がある。

 

「俺と園部は、あの野郎に大きな借りがある」

 

「うん、ゴメンけど天之河君。コイツは私と浩介に任せてくれない?」

 

そんな二人の言葉に光輝は止めようとするが浩介の怒り混じりの言葉に気圧される。

 

「でも、君達二人だけでは────「うるせぇよ……あのベヒモスは俺が倒す! だからてめぇらは下がれ」───っ」

 

浩介はそう言い切ると、今度はメルド団長の方に向け、前髪で隠れながらも訴えかけるような眼差しにメルドは少し頭を痛めるが、短い言葉で問うた。

 

「浩介、優花……いけるんだな?」

 

「「はい!」」

 

二人の真っ直ぐ芯のある返事を聞くとメルド団長は「ふっ」と笑うと二人以外の全員に指示を伝えた。

 

「お前達! ベヒモスは浩介と優花が戦う! 俺達はトラウムソルジャーを押さえるぞ!」

 

「しかし、メルドさん!」

 

「光輝! 二人を仲間を信用出来ないのかっ!」

 

「ぐっ……分かりました…」

 

メルドの指示に光輝は反発するも、メルドの一喝で苦い顔をしながらも渋々、了解する。

 

そして、騎士団と永山パーティー、小悪党組はメルド団長の指示に従い、天之河の勇者パーティーも渋々従い、トラウムソルジャーの撃退にまわるのであった。

 

「グルゥゥゥゥ!」

 

二人の前方には唸るような声と共に蒸気のような息を吐く巨大な魔物を睨みつける浩介は今、こうして親友のハジメを奈落に追いやった魔物が目の前にいることに拳を握る力が強まる。

 

コイツには負けない、負ける訳にはいかない、と。

 

しかし、真正面から見ると怖い。足が震えるのは分かる。だが、親友との約束を果たす為にやってのけた修行の成果を見せるとだと……

「行くぞ園部!」

 

浩介は後ろにいる優花に声をかけながら胸ポケットから浩介にとっての〝(キーアイテム)〟であるハジメの特製ブラックサングラスを取り出した。

 

「オッケー、わかってる! 浩介は準備は良いの?心とか?」

 

「……あぁ、問題ない。前も言ったように園部もサポートを頼む!」

 

心の心配をされるがそんなの覚悟の上のことだ。浩介は優花にサポートを頼むとだけ言うと園部を笑みを浮かながら答える。

 

「えぇ、サポートは任せなさい!」

 

「じゃあ……いくか」

 

例え黒歴史の一つでもコイツを倒せるなら存分にこの力を使ってやろう。そして、浩介は手に持つサングラスを装着した。直後、彼の纏う雰囲気が変わったことをこの広間にいる全員が感じ取って視線を向けた。

 

そして、浩介はというと要らぬターンを決めて指を鳴らし、華麗に礼をして告げた。

 

そう………

 

「フッ、刻は満ちた深淵の夜が始まる……さぁ、ショウタイムだ!」

 

深淵の再誕を……。

 

変に口調が変わった浩介。直後、フッと段々と彼の姿が霞んでいくかのようにかのように消えていく。

 

そして………

 

「ハッ……」

 

「グルゥォ!」

 

いつの間にか浩介はベヒモスの頭上に姿を表しており小太刀で角に攻撃を入れる。

 

ピキッと、何かがヒビ割れた音がした。

 

そして、よく見ると浩介の攻撃によってべヒモスの角が一つヒビが入っており、それに気付いて激昂したベヒモスは浩介へと突進する。

 

「温い……こんなものか迷宮に潜む暴食の獣よ! ───〝宵闇の斬撃(ヨイヤミスラッシュ)〟!」

 

「グルッォォォォオ!」

 

そんな厨二臭い言葉を吐きながら同時に浩介が闇色の魔力を小太刀に纏わせながらベヒモスの身体を斬りつけていく。すると、ベヒモスの上げた苦痛混じりの驚愕の声に、その場の全員が驚愕する。

 

そこには、いつの間にかベヒモスから離れておりベヒモスを見下ろす浩介の姿があった。その立ち姿は片方の手でサングラスを、中指で押さえている。

 

それを見た光輝達は浩介の性格の変わり様に困惑する。

 

「え、遠藤?」

 

「遠藤君?」

 

「遠藤どうしたんだ?」

 

困惑の声が光輝達の方に湧く中、浩介はというと、再び何も意味の無いだろう華麗なクイックターンを決めてから名を告げる。

 

「今の我は、遠藤浩介……否……否! 我が名はコウスケ・E・アビスゲート!」

 

「「「「「「…はぁ?」」」」」」

 

全員困惑した。事情を知る優花は恥ずかしさとあの時の苦い思い出を思い出して、両手で顔を隠す。しかし浩介……いや、アビスゲートは止まらない。

更に、アビスゲートは迷宮中に轟けと、声高らかに叫びだした。

 

「ご唱和ください我の名を!深淵卿!コウスケ・E・アビィィッスゲェェッートッ!!」

 

「「「「イエスッ、アビィィッスゲェェッートッ!!」」」」」

 

何故か永山達や小悪党組、勇者パーティー、騎士団員たちまでもが「アビスゲート」、もとい深淵卿モードになった浩介の名乗りに追従した。

 

しかし、すぐに追従した者達ははっとなって、何をしているんだという顔をする。

 

そんなことに気にせずアビスゲートは華麗に走り出し、後方にいる優花に指示を出す。

 

「行くぞ、我が深淵なる友、優花よ、あの怨敵の粛清を共にな!」

 

優花はアビスゲートに変な呼び方をされてピクっと眉を動かすがサポートは忘れない。すぐさまアビスゲートに付与魔法を発動する。

 

「……あぁ、うん。わかった……いくよ浩介!〝三連付与〟──〝力上昇〟、〝敏捷上昇〟〝耐久上昇〟!」

 

「な、三連付与魔法だと?!」

 

アビスゲートの強さにも目がいかれがちだが、先程の優花がやってみせた普通の付与師でも困難とされる脅威の三つの連続付与を披露してメルドを驚かせる。

しかし、そんな中、アビスゲートは、優花に感謝しながら訂正を促す。

 

「感謝する!しかし、我が深淵の友よ……我はコウスケ・E・アビスゲートだ!」

 

「いいから早く、行きなさいっ!この、馬鹿厨二サングラス!」

 

流石にアビスゲートの発言にイラッときた優花は腰に携えてる投げナイフを取り出して構えながら声を上げ、アビスゲートに早く戦いに行けと促す。

 

「承ったぞ! フッ……」

 

優花に叱られながらもアビスゲートはベヒモスに接近する。その速度は優花の付与魔法によって敏捷が更に上がっているため勇者である光輝やメルドすらギリギリ姿を捉えることの出来ない程の速さで広間を駆け抜ける。

 

「フッ……」

 

不敵に笑みを零すアビスゲートは片手に小太刀と、もう片手に数本の投げナイフを構えながらベヒモスへと突貫する。

 

「……〝悪夢の五月雨(ナイトオブ・レイン)〟!」

 

「グルゥッ?!」

 

またも意味不明な技名を宣いながらコマのように回転して投げナイフの数本を投擲。そして、距離が近付いた瞬間、小太刀で切り付け、確実にベヒモスの身体の至るところを傷付けていく。

ベヒモスはアビスゲートを捉えることを出来ず、そして段々と傷付けられていく自分の身体に驚愕と怒りが混じった鳴き声を上げる。

 

しかし……

 

「フッ……流石はベヒモスか……我が親友が苦戦していただけにあるな」

 

ベヒモスの耐久力を前にしてアビスゲートがそう言いながら目線を向ける。目線の先にはアビスゲートに一本の角にヒビを入れられ、至るところを攻撃されても尚、倒れないベヒモスの姿。

その瞳にはアビスゲート達を殲滅させようとする強固な意思を表したように睨み、そして……咆哮を上げる。

 

「グルゥゥゥァァアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」

 

「……ムッ!」

 

迷宮全体(表層)に響く程の咆哮に勇者パーティ達も否やこの場にいる全員に緊張が走るがそんな咆哮するベヒモスの近くにいるアビスゲートは恐れてなどなく、笑みを零す。

 

「フッ………それ程じゃないと我も本気が出せないころであった。そこだけは感謝するぞ!」

 

アビスゲートは恐れすら跳ね除け自分に対して本気をぶつけてくるベヒモスに歓喜していた。そして、アビスゲートはベヒモスに向かって走り出す。

 

「グルゥゥゥアアア!」

 

ベヒモスもアビスゲートが走り出したと同時に角を赤熱化させ、この空間に轟音を響かせながら突進する。しかし、アビスゲートはベヒモスとぶつかり合うことをせずに突進するベヒモスを頭を利用して高く飛び上がる。その高度はこの空間の天井に届く。そして……何故か要らぬところでターンを決めてからの一つ魔法を所持してない癖に謎の詠唱を始めていく。

 

「我が深淵の分身よ 我が影達よ 我と共に怨敵を打ち滅ぼせ! 出てよ我が分け身達よ!──〝深淵分身(アビス・イリュージョン)〟!」

 

アビスゲートが詠唱?的なことを言い終えた瞬間、一つの影が三つへ分裂した。

 

「フッ……刻がきた」

 

華麗にターンを決めるアビスゲート。

 

「我が力を見せつけてやろう」

 

右手をカッコよく突き出すポーズを決めるアビスゲート。

 

「これこそ我が力の一つ……〝深淵分身(アビス・イリュージョン)〟だ!」

 

そして、腕を組んでカッコよく登場を決めるアビスゲート。

 

何故かアビスゲートが三人に増えていた。それを見たメルド達は目を見開いて口をあんぐりと開けて最早、声が出ないレベルで驚愕するがアビスゲートはそんなこと露知らず、分身達と共に、ベヒモスへ特攻をしかける。

 

「ではっ……行くぞ! 我が深淵の半身達っ!」

 

「「承知っ!」」

 

本体の号令と共に分身アビスゲート達もベヒモスへと急降下していく。そして、地上に降り立つと同時に三人共、すぐさま行動を開始し、物凄い速さででベヒモスを切りつけていく。

 

「ハァァァッ!」

 

「ウオオオ!」

 

「ハァッ!」

 

アビスゲート達の攻撃は連携力も凄く高く劣れを全く見せないかのように加速していく。ベヒモスは三人に増えたアビスゲート達の対応が出来ずに明らかに弱らしていっている。しかし、ベヒモスもやられっぱなしではなくアビスゲート達に反撃をする。

 

「グルゥア!」

 

「ぐっ……」

 

ベヒモスはまたも角を赤熱化させアビスに突進する。そのせいで分身達は消えていき、本体のアビスゲートは避けれたもののベヒモスの熱によって少し頬に火傷を負ってしまう。

 

「ぐっ…やるな! しかし、我の方が一枚上手だ!行くぞ!〝深淵演武(アビス・ロンド)〟!」

 

アビスゲートは二刀の小太刀を持ってコマのように回転しながら空を舞ってベヒモスを切りつけていく。

 

「ウオオオ!」

 

ピキンッ、と不穏なお度が音が鳴ったと同時にアビスゲートは振り下ろした小太刀でベヒモス一本のヒビ割れていた角を叩き折る。そして、更に至る所に傷を付けていき弱らせていく。

 

「グルゥゥゥゥ!」

 

ベヒモスの唸り声が聞こえる。しかし、今のアビスゲートには、ベヒモスの硬皮をも上回る強力な攻撃を持ち合わせていない。

 

故に、

 

「時間は稼いだ。行けるか?!我が友よ!」

 

「オッケー、いい時間稼ぎだったわ!」

 

アビスゲートに答えるかのように、三連の付与魔法から今まで詠唱を唱えていた優花は最後の詠唱説を唱え始める。

 

「火の覇者よ 今宵 我が敵を今 焼き払え──〝蒼天〟!」

 

ゴォォォォォウウッ!と音を立てながら優花が詠唱を唱え終えた瞬間、巨大な蒼き炎球がベヒモスの頭上へと現れる。

炎球が近づく程、その余波がベヒモスを苦しませ、そして、蒼炎の球が直撃した直後、蒼炎がベヒモスの尽くを焼き尽す。

 

「グゥルァガァアアアア!!!!」

 

燃え盛るベヒモスの断末魔が広間に響き渡る。その絶叫は鼓膜が破れそうなほどだったが、その叫びは少しずつ細くなり、やがて、その叫びすら燃やし尽くされたかのように消えていった。

そして、柱が消え残ったのは後には黒ずんだ広間の壁と、ベヒモスの物と思しき僅かな残骸だけだっ

 

「か、勝ったのか?」

 

「勝ったんだろ……」

 

「勝っちまったよ……あの二人」

 

「マジかよ?」

 

「マジで?」

 

この場にいる者達は、呆然とベヒモスがいた場所を眺め、ポツリポツリと勝利を確認するように呟いていった。

 

「ふぅ………」

 

強大な魔法を放ったたので一息吐きながら安堵していると、フラフラとこちらに歩み寄る浩介が二ッと笑みを浮かべながら話しかけた。

 

「……やったな園部」

 

浩介はそう言いながら親指を立てる。優花も返すかのように同じように親指を立てる。しかし、優花はニコニコしながら浩介に近付きながら話しかける。

 

「うん……でも浩介?」

 

「なんだ?」

 

浩介はキョトンと首を傾げるが優花は笑顔のまま話す。

 

「〝深淵の友〟ってやめてくれない同類って思われるじゃん」

 

優花の言葉にナイフを突き刺されたような衝撃を受けた浩介は片足をついて、苦しいのか胸元をギュッと握りながら叫ぶ。

 

「やめてぇー!心抉んないで! 俺もきてるんだよ身体より心のダメージがっ!」

 

そう叫ぶ浩介も大分、心に来ていたようらしい。そんなことを話していると光輝達も二人のところへ集まってきた。

 

「二人共、無事か? 園部さん、遠藤凄かったよ。二人がいれば何も怖くないな!」

 

「お? おう」

 

「えっ? あ、ありがとう」

 

二人は光輝の以外な賞賛にびっくりしたが次の発言でいつもの光輝に対する評価になった。

 

「これで、南雲も浮かばれるな。自分を突き落とした魔物を自分が守った幼なじみ達が討伐したんだから」

 

「「…………」」

 

光輝のそんな満面な笑みで話しだす姿を優花と浩介は唖然として黙っているだけたった。そして、二人は思う「やっぱり天之河は天之河だと……」と思い知らされたのだった。

 

 

================================

 

一行がベヒモスの討伐に喜んでる時、ある一人の少女が愚痴るかのように独り言を呟いた。

 

「あぁ、死ななかったな〜あの女、つまんな……」

 

この呟きは誰も聞こえることはなかったのだった……。

 




ホルアド近辺の遺跡【ロッカス遺跡】推定レベル20

全十二階層の遺跡で遺跡内の魔物はオルクスに出てくる魔物と似通っており、冒険者や傭兵達からはオルクスに挑む為の前準備になる遺跡と呼ばれている。
この遺跡の主は四枚の翼を持ち、目から放たれる魔力光線に当たれば石化させる鳥類型の魔物コカトリス。

最初に遺跡を攻略した冒険者は百年前ぐらい前の銀ランク冒険者ロッカス。

報酬には、切りつけた相手の動きを数秒を石化したように封じさせる剣【コカトリス・ブレード】。
ロッカスの死亡後の現在は、冒険者ギルドのホルアド支部が管理している。

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