ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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十四話 最奥のガーディアン

 

ハジメとユエは大迷宮攻略の最中、沢山の魔物を協力して着実に倒していき、遂に次の階層でハジメが最初に奈落に落とされた階層から百階目になるところまで来た。

そして、その一歩手前の階層でハジメは装備の確認と補充にあたっていた。相変わらずユエは飽きもせずにハジメの作業を見つめている。というよりも、どちらかというと作業をするハジメを見るのが好きなようだ。今も、ハジメのすぐ隣で手元とハジメを交互に見ながらまったりとしている。その表情は迷宮には似つかわしくないほど緩んだものだ。

 

そんなハジメも己の作業を見つめているユエを横目でチラリと見た。

 

「……」

 

彼女と出会ってからどれくらい日数が経ったのか時間感覚がイカれてしまってるせいで分からないが、お互いを信頼し合えるぐらいは過ごしたと思っている。

 

だが、ハジメはユエの行動に少し問題を感じていた。

 

それは……

 

「……ん〜」

 

ユエは、よくこういうまったり顔というか安らぎ顔を見せながら露骨に甘えてくるようになったということだ。

 

特に拠点で休んでいる時には必ず密着している。横になれば添い寝の如く腕に抱きつくし、座っていれば背中から抱きつく。吸血させるときは正面から抱き合う形になるのだが、終わった後も中々離れようとしない。ハジメの胸元に顔をグリグリと擦りつけ満足げな表情でくつろぐのだ。

 

ハジメは最初は離れるよう〝The仲間〟の関係なろうと奮闘したがユエの執念深さに負けてしまい後半辺りから、ユエのスキンシップに慣れるよう努力した。そして、今現在もユエはハジメの胸元に顔を埋めながら頭をグリグリなどして嬉しそうに笑みを浮かべてる。

 

そんなユエにハジメはある思いを抱いていた。

 

──俺にとって、ユエは何なのか?

 

ハジメ自身、ユエのことは信頼しているし大切な仲間だと思っている。しかし、ユエが自分に対して抱いている気持ちが仲間以上の想いだと段々と過ごしている内に分かってしまった。

 

しかし、ハジメには優花がいる。何時ものハジメなら、優花や幼なじみ達のことを一番に優先していた為、容易く切り捨てることぐらい出来ていた。しかし、何故かユエ相手になると優花と同じくらいに大切に思ってしまう自分がいて容易に切り捨てられない自分がいた。

一人の迷宮攻略で得た仲間故なのか、それともまた別の想いなのかと思いを張り巡らさせながらハジメは胸元に顔を埋めながらグリグリしてるユエを呼びかける。

 

「なぁ……ユエ」

 

「……ん?」

 

ハジメの呼びかけにユエは胸元にグリグリしていた頭を上げて真っ直ぐ見つめてくる。そんなユエにハジメは笑みを向けながら話す。

 

「次の階層も頑張ろうな……」

 

「……ハジメ……いつもより慎重……」

 

ユエはハジメの今までとは違う雰囲気を感じ取ったのか首を傾げながら問いかける。

 

「うん? ああ、次で百階だからな。もしかしたら何かあるかもしれないと思ってな。一般に認識されている上の迷宮も百階だと言われていたから……まぁ念のためだ」

 

「……んっ」

 

そんなユエの笑顔にハジメの心が揺らぎそうになるが理性を保たせ耐えていく。

 

───そうだ。ユエは俺にとって大切な……仲間(・・)だ。

 

と、自分の頭に、心に言い聞かせながらハジメは作業を再開するのであった。

 

 

ハジメは奈落に来て分かったことがある。最初にいた階層から八十階を超えた時点で、ここが地上で認識されている通常の【オルクス大迷宮】である可能性は当に消えていた。奈落に落ちた時の感覚と、各階層を踏破してきた感覚からいえば、この場所は通常の迷宮の遥かに地下であるのは確実であり、偽りとも呼べる表層の【オルクス大迷宮】はこの奈落への肩慣らしであり、この奈落こそが本来の【オルクス大迷宮】であるのだろう。

この迷宮を作ったと思われる反逆者は相当な鬼畜な性格であると分かる。

 

だが、そんな鬼畜仕様な奈落のお陰もあってハジメの銃技、体術、固有魔法、兵器、雷魔法、そして錬成能力。いずれも相当磨きをかけたという自負がハジメにはあった。そうそう簡単にやられはしない自負はある。

しかし、そのような実力とは関係なくあっさり致命傷を与えてくるのがこの大迷宮の怖いところである。

 

故に、出来る時に出来る限りの準備をしておく。ちなみに今のハジメのステータスはここまで成長した。

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:76

 

天職:錬成師

 

筋力:2500

 

体力:3500

 

耐性:2500

 

敏捷:3000

 

魔力:3800

 

魔耐:3800

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・雷属性適性[魔力消費減少]・雷属性耐性・脳内設計[+想像設計]・武芸百般[+武術Ⅹ][+槍術Ⅲ][+剣術][+銃技Ⅹ][+投擲術Ⅶ][+徒手Ⅶ][+蹴術Ⅵ]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・■■■・言語理解

 

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「そろそろか……」

 

そう口に零しながらハジメはステータスプレートを見ながらハジメは呟く。大体の基本ステータスは上がっているが固有魔法は増えなくなっていることに気付き限界が見えてきたことに理解する。

 

そして、ステータスの確認を終えてからしばらくして、全ての準備を終えたハジメとユエは、階下へと続く階段へと向かい、その階層の光景にハジメもユエも唖然とした。

 

「………何だ此処」

 

その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートルはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。どこか荘厳さを感じさせる空間だった。

 

ハジメは気を取り直し警戒しながら隣にいるユエに油断しないようにと話しかける。

 

「ユエ、油断するなよ」

 

「……ん」

 

ハジメ達が警戒しながら進んだが特に何も起こらないので先へ進むことにした。感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「七角形の彫刻……七大迷宮だからか?」

 

扉にそんな疑問を抱くも美しい彫刻が彫られてる扉を見てハジメは感嘆を漏らす。

 

「だが、凄いな。もしかして……」

 

「……反逆者の住処?」

 

「かもな、だが……」

 

嫌な予感がする。実際、感知系技能には反応がなくともハジメの本能が警鐘を鳴らしていた。この先はマズイと。それは、ユエも感じているのか、うっすらと額に汗をかいている。

 

だが、ハジメはこんなとこで恐れてはいけないと思い一旦、両目を瞑り心を整えてから両目を開き、覚悟しながらユエに話しかける。

 

「行くぞ、ユエ」

 

「……ん!」

 

そして、二人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えていく。

 

その瞬間、扉と俺達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

「……っ、この魔法陣は!」

 

ハジメは、その魔法陣に見覚えがあった。忘れようもない、あの日、奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。

 

咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにするハジメとユエ。光が収まった時、そこに現れたのは……

 

体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。

 

「クハッ……迷宮のラスボスはヒュドラかよ」

 

ハジメはそのラスボスの姿を見て冷や汗をかきながら笑みを零しながら呟く。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光がハジメ達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気が二人に叩きつけられる。同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。それはもう炎の壁というに相応しい規模である。

 

ハジメとユエは同時にその場を左右に飛び退き反撃を開始する。ドンナーが火を吹き電磁加速された弾丸が超速で赤頭を狙い撃つ。弾丸は狙い違わず赤頭を吹き飛ばす。

 

「……っし」

 

ドンナーが効くことにハジメは内心ガッツポーズを決めた時、白い文様の入った頭が「クルゥアン!」と叫び、吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込んだ。すると、まるで逆再生でもしているかのように赤頭が元に戻っていることにハジメは舌打ちをする。

 

「チッ……回復型(ヒーラー)も、いるやがる厄介な!」

 

ハジメに少し遅れてユエの氷弾が緑の文様がある頭を吹き飛ばしはしたたのだが、同じように白頭の叫びと共に回復してしまっている。

 

ハジメは舌打ちをしつつ〝念話〟でユエに伝える。

 

〝ユエ! あの回復を担ってる白頭を集中的に狙うぞ! いつまでも回復されちゃあ、キリがねぇ!〟

 

〝んっ!〟

 

青い文様の頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出し、それを回避しながらハジメとユエが白頭を集中的に狙いを定める。

 

ドパンッ!とドンナーから閃光を放ち牽制しながらヒュドラへと迫り掌を翳し、ユエも両手を上に掲げる。

 

「〝轟雷球〟!」

 

「〝緋槍〟!」

 

ハジメとユエが繰り出す紅の稲妻の宝玉、燃え盛る槍が白頭に迫る。しかし、直撃かと思われた瞬間、黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。

 

「「!」」

 

呆気にとられてると、淡く黄色に輝きハジメの牽制に放ったレールガンと二人の〝轟雷球〟と〝緋槍〟の魔法も受け止めてしまった。

衝撃と爆炎の後には無傷の黄頭が平然とそこにいてハジメ達を睥睨している。

 

「ちっ! 盾型(タンク)もいんのかっ。攻撃に盾に回復にと実にバランスのいいボスなことだな!」

 

苛立ちを覚えるハジメは頭上に向かって〝焼夷手榴弾〟を投げる。同時にドンナーの最大出力で白頭に連射した。ユエも合わせて〝緋槍〟を連発する。

 

「チッ……!」

 

ユエの〝蒼天〟なら黄頭を抜いて白頭に届くかもしれないが、ここで下手に最上級魔法を使ってしまうと一発でユエは行動不能に近い状態になってしまう。吸血をすれば直ぐに回復するが、そんな事をしてる時間は多分無いだろう。なら、せめて回復役の白頭を潰してから半数は減らさないいけない。

 

盾役の黄頭は、ハジメとユエの攻撃を尽く受け止める。だが、流石に今度は無傷とはいかなかったのかあちこち傷ついていた。

 

「クルゥアン!」

 

しかし、すかさず白頭が黄頭を回復させる。全くもって優秀な回復役である。だが直後、白頭の頭上で投擲された〝焼夷手榴弾〟が破裂した。摂氏三千度の燃え盛るタールが撒き散らされる。それは白頭にも降り注ぎ、その苦痛に悲鳴を上げながら悶えている。

 

「しっ!」

 

このチャンスを逃すわけにいかないとハジメは〝念話〟で合図をユエに送り、同時攻撃を仕掛けようとする。が、その前に絶叫が響いた。

 

それは、ユエの声で。

 

「いやぁああああ!!!」

 

「!? ユエ!」

 

彼女の絶叫に驚くもハジメは咄嗟にユエに駆け寄ろうとするが、それを邪魔するように赤頭と緑頭が炎弾と風刃を無数に放ってくる。

 

「ユエっ!」

 

し消し、ユエを最優先にハジメは〝縮地〟と〝空力〟で必死に攻撃をかわしながら彼女の目の前にいる黒頭に向かってドンナーを発砲し、雷魔法を放つ。射撃音と雷音が共にユエをジッと見ていた黒頭が吹き飛ばす。同時に、何かの干渉が途絶えたのかユエがくたりと倒れ込んだ。その顔は遠目に青ざめているのがわかる。

そして、そのユエを喰らおうというのか青頭が大口を開けながら長い首を伸ばしユエに迫っていく。

 

「させるかぁああ!!」

 

ハジメはダメージ覚悟で炎弾と風刃の嵐を〝縮地〟で突っ込んで行く。致命傷になりそうな攻撃だけドンナーの銃身と〝風爪〟で切り裂き、ギリギリのタイミングでユエと青頭の間に入ることに成功した。しかし、迎撃の暇はなく、ハジメは咄嗟に〝金剛〟を発動する。〝金剛〟は移動しながらは使えない。そのため、どっしりとユエの前に立ち塞がる。魔力がハジメの体表を覆うのと青頭が噛み付くのは同時だった。

 

「クルルルッ!」

 

「ぐぅう!邪魔だ! ── 〝雷閃〟!」

 

低い唸り声を上げながら青頭がハジメを丸呑みにせんと、その顎門を閉じようとするが、ハジメは前かがみになりながら背中と足で踏ん張り閉じさせない。そして、ドンナーを振るって放った雷の斬撃で青頭を口の中から切り裂いた。

 

青頭の上顎から斬撃で真上に弾け飛ぶ。真っ二つになった青頭をハジメは〝豪脚〟で蹴り飛ばす。次いでに、〝閃光手榴弾〟と〝音響手榴弾〟をヒュドラの群に向かって投げつけた。

 

「ハァッ、ハァッ……」

 

二つの手榴弾による強烈な閃光と音波でヒュドラを一時的に怯ませる。その隙にハジメはユエを抱き上げ柱の陰に隠れると彼女の両肩を掴みながら必死に呼びかける。

 

「おい! ユエ!しっかりしろ!」

 

「……」

 

ハジメの呼びかけにも何も反応せず、青ざめた表情でガタガタと震えるユエ。

 

「黒頭は精神干渉系の魔法か?」

 

黒頭の役割を推測するハジメだが、今は黒頭のことよりも一刻も早くユエを起こす為にペシペシとハジメはユエの頬を叩く。〝念話〟でも激しく呼びかけ、神水も飲ませる。しばらくすると虚ろだったユエの瞳に光が宿り始めた。

 

「ユエ!」

 

「……ハジメ?」

 

「おう、ハジメさんだ。大丈夫か? 一体何された?」

 

パチパチと瞬きしながらユエはハジメの存在を確認するように、その小さな手を伸ばしハジメの顔に触れる。それでようやくハジメがそこにいると実感したのか安堵の吐息を漏らし目の端に涙を溜め始めた。

 

「……よかった……見捨てられたと……また暗闇に一人で……」

 

「ああ? そりゃ一体何の話だ?」

 

ユエの様子に困惑するハジメ。ユエ曰く、突然、強烈な不安感に襲われ気がつけば見捨てられて再び封印される光景が頭いっぱいに広がっていたという。そして、何も考えられなくなり恐怖に縛られて動けなくなったと。

 

「チィっ、やっぱり精神汚染系の魔法か黒頭は相手を恐慌状態にでも出来るってことかっ。ホントにバランスのいいラスボスだな、くそったれ!」

 

「……ハジメ」

 

敵の厄介さに悪態をつくハジメに、ユエは不安そうな瞳を向ける。よほど恐ろしい光景だったのだろう。見捨てられるというのは。何せ自分を三百年の封印から命懸けで解き放ってくれた人物であり、吸血鬼と知っても変わらず接してくれるどころか、日々の吸血までさせてくれるのだ。心許すのも仕方ないだろう。

 

そして、ユエにとってはハジメの隣が唯一の居場所だと思っているのだろう。一緒にハジメの故郷に行くという約束がどれほど嬉しかったか。再び一人になるなんて想像もしたくない。そのため、植えつけられた悪夢はこびりついて離れず、ユエを蝕む。ヒュドラが混乱から回復した気配に立ち上がるが、ユエは、そんなハジメの服の裾を思わず掴んで引き止めてしまった。

 

「……私……」

 

泣きそうな不安そうな表情で震えるユエ。ハジメは何となくユエの見た悪夢から、今ユエが何を思っているのか感じ取った。そして、普段からの態度でユエの気持ちも察している。どちらにしろ、日本に連れて行くとまで約束してしまったのだ。今更、知らないフリをしても意味がないだろう。

 

「ユエ……」

 

また、ハジメに優花の顔が頭の中で()ぎる。しかし、ユエはもうハジメにとっては仲間以上の大切の存在になってしまっていた。彼女と同じぐらいにユエのことも大切と思っている。

 

だから、故にとハジメは決心した。優花には申し訳ない。だが、覚悟を決めたならもう止める訳にはいかない。そう己が決めてしまったのだから責任は持つべきだと。

 

ハジメはユエの前にしゃがみ目線を合わせる。

 

そして……

 

「? ……!?」

 

首を傾げるユエにキスをした。

 

ほんの少し触れさせるだけのものだが、ユエの反応は劇的だった。マジマジとハジメを見つめる。ハジメはユエの手を引いて立ち上がらせ、今の思いを告げた。

 

「ユエ、俺は今でも優花が一番の大切な存在であり愛しい人だ。だが、お前の事も俺にとってはもう譲れない大切な存在なんだ。……だから行こう一緒にな」

 

ハジメの心からの言葉を聞いたユエは未だ呆然と見つめていたが、いつかのように無表情を崩しふんわりと綺麗な笑みを浮かべた。

 

「んっ!」

 

「じゃあ行くぞ!ユエ、俺はシュラーゲンを使う。 連発出来る品物ではないから援護を頼む 」

 

「……任せて!」

 

いつもより断然やる気に溢れているユエ。静かな呟くような口調が崩れ覇気に溢れた応答だ。先程までの不安が根こそぎ吹き飛んだようである。

 

「あぁ、頼んだ!」

 

今のユエなら完全に無敵だろう。ハジメはユエの表情を見てそう確信する。

 

すると、アチラも怯んだのが終えたのかヒュドラは怒りの如き咆哮を上げ、ハジメ達のいる場所へ炎弾やら風刃やら氷弾やらを無数の砲撃を撃ち込んできた。

 

二人は、一気に柱の陰を飛び出して今度こそ反撃に出る。

 

「〝緋槍〟! 〝砲皇〟! 〝凍雨〟!」

 

矢継ぎ早に引かれた魔法のトリガー。有り得ない速度で魔法が構築され、炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴った竜巻と鋭い針のような氷の雨が一斉にヒュドラを襲う。攻撃直後の隙を狙われ死に体の赤頭、青頭、緑頭の前に黄頭が出ようとするが、白頭の方をハジメが狙っていると気がついたのかその場を動かず、代わりに咆哮を上げる。

 

「クルゥアン!」

 

すると近くの柱が波打ち、変形して即席の盾となった。どうやらこの黄頭はサソリモドキと同様の技が使えるらしい。もっとも規模は幾分小さいようだが。

 

ユエの魔法はその石壁に当たると先陣が壁を爆砕し、後続の魔法が三つの頭に直撃した。

 

「「「グルゥウウウウ!!!」」」

 

悲鳴を上げのたうつ三つの頭。黒頭が、魔法を使った直後のユエを再びその眼に捉え、恐慌の魔法を行使する。

 

ユエの中に再び不安が湧き上がってくる。しかし、ユエはその不安に押しつぶされる前に、先ほどのハジメからのキスを思い出す。すると、体に熱が入ったように気持ちが高揚し、不安を押し流していった。

 

「……もう効かない!」

 

ユエは、ハジメを援護すべく、更に威力よりも手数を重視した魔法を次々と構築し弾幕のごとく撃ち放つ。回復を受けた赤頭、青頭、緑頭がそれぞれ攻撃を再開するが、ユエはたった一人でそれと渡り合った。尽く相殺し隙あらば魔法を打ち込む。

 

一方、ハジメは三つの首がユエに掛かり切りになっている間に、一気に接近する。万一外して対策を取られては困るので文字通り一撃必殺でいかなければならない。黒頭がユエに恐慌の魔法が効かないと悟ったのか、今度はその眼を向ける。

 

すると、突然、ハジメの胸中に爆発するかの如く不安が湧き上がり、今までにあった辛い経験、奈落に来たばかりの頃の苦痛と飢餓感が蘇ってくる。

 

「くだらねぇな……」

 

しかし、ハジメは効かない。こんな過去なんて、大切な人達(優花とユエ)のためならば、どんな苦痛でも耐え切れる!とハジメの瞳に炎が満ちる。

 

「残念だが、俺には効かねぇぞ!! クソ黒頭!」

 

ハジメは怒り任せで黒頭をドンナーをぶっ飛ばして頭を木っ端微塵にして通り過ぎる。

 

白頭がすかさず回復させようとするが、そんな事をハジメが許す筈もなく、回復する前に〝空力〟と〝縮地〟で飛び上がり背中に背負っていた奥の手──対物ライフル〝シュラーゲン〟を取り出し空中で脇に挟んで照準を合わせる。黄頭が白頭を守るように立ち塞がるが、そんな事は想定済みだ。

 

「クハッ……」

 

予想通りの動きをしてくれた単純な思考よヒュドラにハジメは凶悪な笑みを零して引き金を引く。

 

「まとめて砕けろ!」

 

雷系の〝纏雷〟と〝轟雷〟からありったけの雷を注ぎ込んだ〝シュラーゲン〟が紅いスパークを巻き起こす。弾丸はタウル鉱石をサソリモドキの外殻であるシュタル鉱石でコーティングした特別製の弾。シュタル鉱石は魔力との親和性が高く〝纏雷〟と雷魔法にもよく馴染む。故に、通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起こした。

 

ドガンッ!!と、大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共に紅の弾丸が、更に約一・五メートルのバレルにより電磁加速を加えられる。その威力はドンナーの最大威力の更に十倍。単純計算で通常の対物ライフルの百倍の破壊力である。異世界の特殊な鉱石と固有魔法がなければ到底実現し得なかった怪物兵器だ。

 

発射の光景は正しく極太のレーザー兵器のよう。かつて、勇者の光輝がベヒモスに放った切り札が、まるで児戯に思える。射出された弾丸は真っ直ぐ周囲の空気を焼きながら黄頭に直撃した。

 

「クルッア────」

 

唸り声も出して黄頭もしっかり〝金剛〟らしき防御をしていたのだが……まるで何もなかったように弾丸は貫通して背後の白頭に到達する。そして、そのままやはり何もなかったように貫通して背後の壁を爆砕した。階層全体が地震でも起こしたかのように激しく震動する。

 

後に残ったのは、頭部が綺麗さっぱり消滅しドロッと融解したように白熱化する断面が見える二つの頭と、周囲を四散させ、どこまで続いているかわからない深い穴の空いた壁だけだった。

 

一度に半数の頭を消滅させられた残り三つの頭が思わず、ユエの相手を忘れて呆然とハジメの方を見る。ハジメはスタッと地面に着地し、煙を上げているシュラーゲンから排莢した。チンッと薬莢が地面に落ちる音で我に返る三つの頭。ハジメに憎悪を込めた眼光を向けるが、彼等が相対している敵は眼を離していい相手ではなかった。

 

「……これで終わり──〝天灼〟」

 

かつての吸血姫。その天性の才能に同族までもが恐れをなし奈落に封印した存在。その力が、己と敵対した事への天罰だとでも言うかのように降り注ぐ。

 

三つの頭の周囲に六つの放電する雷球が取り囲む様に空中を漂ったかと思うと、次の瞬間、それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばしてつながり、その中央に巨大な雷球を作り出した。

 

ズガガガガガガガガガッ!!と階層全体に鳴り響くスパーク音にハジメはその凄まじさに笑みを浮かべた。

 

「へぇ………凄まじいな雷魔法の最上級は」

 

そうユエが放つ雷の最上級魔法に感嘆を漏らすハジメ。既にハジメの扱う雷魔法は、魔物を喰らったせいか変化してしまい従来の雷魔法では無くなっている分、本来、使えただろう魔法を目にして少しだけ羨ましく思えた。

 

雷系最上級魔法〝天灼〟と呼ばれた魔法は、中央の雷球が弾けると六つの雷球で囲まれた範囲内に絶大な威力の雷撃を撒き散らした。

 

三つの頭が逃げ出そうとしたが、まるで壁でもあるかのように雷球で囲まれた範囲を抜け出せない。天より降り注ぐ神の怒りの如く、轟音と閃光が広大な空間を満たす。そして、十秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、三つの頭は断末魔の悲鳴を上げながら遂に消し炭となった。

 

「やったか……」

 

いつもの如く、ユエがペタリと座り込む。魔力枯渇で荒い息を吐きながら、無表情ではあるが満足気な光を瞳に宿し、ハジメに向けてサムズアップした。ハジメも頬を緩めながらサムズアップで返す。シュラーゲンを担ぎ直しヒュドラの僅かに残った胴体部分の残骸に背を向けユエの下へ行こうと歩みだした。

 

その直後、

 

「ハジメ!」

 

ユエの切羽詰まった声が響き渡る。何事かと見開かれたユエの視線を辿ると、音もなく七つ目の頭が胴体部分からせり上がり、ハジメを睥睨していた。

 

「は?」

 

突然の七つ目の頭の登場に驚きを隠せないハジメ。七つ目の銀色に輝く頭は、ハジメからスっと視線を逸らすとユエをその鋭い眼光で射抜き予備動作もなく極光を放った。

 

「クっソッ!」

 

ハジメは銀頭が視線をユエに逸した瞬間、全身を悪寒に襲われ同時に飛び出した。青頭の時の再現か、極光がユエを丸ごと消し飛ばす前に、再び立ち塞がることに成功したハジメは、〝シュラーゲン〟を前にして構え全身に〝金剛〟を発動して防御態勢を取る。

 

「……ッ! ぐぉぉぉぉ!」

 

だが、その結果は全く違ったものだった。極光がハジメを飲み込む。後ろのユエも直撃は受けなかったものの余波により体を強かに打ちぬかれ吹き飛ばされた。

 

極光が収まり、ユエが全身に走る痛みに呻き声を上げながら体を起こす。極光に飲まれる前にハジメが割って入った光景に焦りを浮かべながらその姿を探す。

 

ハジメは最初に立ち塞がった場所から動いていなかった。仁王立ちしたまま全身から煙を吹き上げている。地面には融解したシュラーゲンの残骸が転がっていた。

 

「ハ、ハジメ?」

 

「……」

 

ハジメは答えない。そして、そのままグラリと揺れると前のめりに倒れこんだ。

 

「ハジメ!」

 

ユエが焦燥に駆られるまま痛む体を無視して駆け寄ろうとする。しかし、魔力枯渇で力が入らず転倒してしまった。もどかしい気持ちを押し殺して神水を取り出すと一気に飲み干す。少し活力が戻り、立ち上がってハジメの下へ今度こそ駆け寄った。

 

うつ伏せに倒れこむハジメの下からジワッと血が流れ出してくる。ハジメの〝金剛〟を突き抜けダメージを与えたのだろう。もし、ユエの〝蒼天〟にもある程度は耐えたサソリモドキの外殻で作ったシュラーゲンを咄嗟に盾にしなければ即死していたかもしれない。

 

仰向けにしたハジメの容態は酷いものだった。指、肩、脇腹が焼け爛ただれ一部骨が露出している。顔も右半分が焼けており右目から血を流していた。角度的に足への影響が少なかったのは不幸中の幸いだろう。

 

ユエは急いで神水を飲ませようとするが、そんな時間をヒュドラが待つはずもない。今度は直径十センチ程の光弾を無数に撃ちだしてきた。まるでガトリングの掃射のような激しさにユエの顔は歪む。

 

此処はマズイと判断してハジメを抱えると、力を振り絞ってその場を離脱し柱の影に隠れる。柱を削るように光弾が次々と撃ち込まれていくのを見て、あれ程の威力の光弾であれば自分達を守る巨大な柱であっても一分も持たないだろう。

 

ユエは急いで神水をハジメの傷口に降り掛け、もう一本も飲ませようとする。しかし、飲み込む力も残っていないのか、ハジメはむせて吐き出してしまう。ユエは自分の口に神水を含むと、そのままハジメに口付けをし、むせるハジメを押さえつけて無理やり飲ませた。

 

しかし、神水は止血の効果はあったものの、中々傷を修復してくれない。いつもなら直ぐに修復が始まるのに、何かに阻害されているかの様に遅々としている。

 

「どうして!?」

 

ユエは半ばパニックになりながら、手持ちの神水をありったけ取り出した。

 

実は、ヒュドラのあの極光には肉体を溶かしていく一種の毒の効果も含まれていたのだ。普通は為す術もなく溶かされて終わりである。

しかし、神水の回復力が凄まじく、溶解速度を上回って修復しており、速度は遅いものの、ハジメの魔物の血肉を取り込んだ強靭な肉体とも相まって時間をかければ治りそうである。もっとも、右目に関しては極光の光で蒸発してしまい、神水では欠損は再生できない以上治らないのだが。

 

柱はもうほとんど砕かれてしまっており、ハジメが動けるようになるまではとても持ちそうにない。ユエは決然とした表情で、ハジメを見つめるとそっと口付けをする。そして、ハジメのドンナーを手に取ると立ち上がった。

 

「……今度は私がハジメを助ける……」

 

そう言って、ユエはドンナーを持って魔力枯渇で体が限界にも関わらずヒュドラへと突撃するのであった。

 

 

================================

 

 

どれくらい意識が飛んでいたのか、ハジメは意識を微かに取り戻し、自分が現状で仰向けに倒れていることに気付いた。

 

──確か俺は、あのヒュドラの極光を喰らっちまって………。

 

意識が朦朧とする中でもハジメは、倒れることになった理由を段々と思い出していく。

 

「あぐっ!?」

 

その時、聞き覚えのある悲鳴が聞こえたハジメは、揺らぐ意識を必死に繋ぎ留め、その方向へ薄目で向けると、長い金髪の少女が一人戦っている光景を見た。それも自分のドンナーを片手に必死に戦い、嬲られるように追い詰められているのに諦めずユエが一人でヒュドラに立ち向かっていた。

 

「ユ……エっ」

 

なんとか立ち上がろとしても身体中が痛みだしてしまって力が入らずハジメは悔しそうに顔を歪める。そして、優花の髪留めをしまっている胸元のポケットに爛れてしまっている手を置いて、此処にいない愛しの人に心の中で謝った。

 

「優花、ごめんな……」

 

『ハジメ』

 

その時だった。まるで心を癒すような、熱くさせるような優花の声がハジメの頭の中に響く。ハジメは一瞬、死ぬ直前の幻聴かと思い苦笑いを浮かべてしまうが、次の優花の言葉に呆気を取られてしまった。

 

『ハジメなら勝てる、ハジメなら倒せる。だって……』

 

──約束(・・)したでしょ?

 

「っ!!」

 

その幻聴は、幻であろうともハジメの核心を見事に突き動かした。身体にまた、熱が上がる。燃え尽きそうだった闘志という名の炎が段々と息を吹き替えしていく。

 

「………クハッ、そうだな。こんなんで、倒れたまんまじゃ情けねぇよな」

 

その声は、幻聴かもしれない。

 

だが、ハジメは愛しの優花に言われてしまっては駄目だと死ぬ寸前の重傷だろうと根気で立ち上がる。

 

「そうだよな、約束したもんな……絶対に戻る(・・・・・)って……わかったぜ優花……お前がそう言ってくれるなら俺はもう負けねぇ!」

 

その瞬間、ハジメの想いに呼応するかのように、体の内側からこれまで以上の輝きを放つ紅き雷が纏い出す。

 

「! これはっ」

 

心臓がビートの如く鳴り響く。そして、新たに得た力にハジメは笑みを浮かべる。そして、今も自分を守る為に戦っている金髪赤眼の少女の元へと駆け出すのだった。

 

 

================================

 

 

ボロボロになりながらもユエはハジメのドンナーを両手で握り締め、ヒュドラと戦っていたのだが……

 

「あぐっ!?」

 

限界寸前の体ではヒュドラの攻撃を躱すことも出来ず、腹部に光弾をまともに喰らってしまいユエは地面に叩きつけられた。

 

「うぅ……うぅ(……ハジメ)」

 

体が動かない。直ぐさま動かなければ光弾に蹂躙される。わかっていて必死にもがくユエだが、体は言うことを聞いてくれない。〝自動再生〟が遅いのだ。ユエはいつしか涙を流していた。悔しくて悔しくて仕方ないのだ。自分ではハジメを守れないのかと。

 

ヒュドラが、倒れ伏すユエに勝利を確信したように一度「クルゥアアン!」と叫ぶと光弾を撃ち放つ。

 

光弾がユエに迫る。ユエは眼を閉じなかった。せめて心は負けるものかとキッとヒュドラを睨みつけた。光弾が迫り視界が閃光に満たされる。直撃する。死ぬ。守れなかったこと、先に逝く事を、ユエはハジメに対し心の中で謝罪しようとした。

 

その刹那……一陣の風が吹いた。

 

「えっ?」

 

気がつけば、ユエは、自分が抱き上げられ光弾が脇を通り過ぎていくのを見ていた。そして、自分を支える人物を信じられない思いで見上げる。それは、紛れもなくハジメだった。満身創痍のまま荒い息を吐き、片目をきつく閉じてユエを抱きしめている。

 

そんな傷だらけでありながらもハジメは、今も唖然としているユエに笑いながら話しかける。

 

「泣くんじゃねぇよ、ユエ。お前の勝ちだ」

 

「ハジメ!」

 

ユエは感極まったようにハジメに抱きつく。怪我はほとんど治っていない。実際、気力だけで立っているようなものだった。しかし、ハジメは確信してる。

 

───自分はもう負けないと。

 

ハジメは相対するヒュドラを見やる。周囲に光弾を浮かべながら余裕の表情で睥睨し、今更死にぞこないが何だと問答無用で光弾を放った。

 

「……クハッ、遅ぇよ」

 

ハジメはギリギリまで動かず、光弾が直撃する寸前でふらりと倒れるように動きで回避する。その無駄のない動きにヒュドラの眼が細められ、先程よりも多くの無数の光弾が一気に二人に向かって襲ってくる。

 

「ハジメ、逃げて!」

 

ユエが必死の表情で言うが、ハジメはどこ吹く風のようにユエを抱いたままダンスでも踊るようにくるりくるりと回り、あるいはフラフラと倒れるように動いて光弾をやり過ごしてしまう。まるで光弾の方がハジメを避けていると勘違いしそうなぐらいだった。

 

そして、光弾を軽々と避けながらハジメはユエに思いついた作戦を話す。

 

「ユエ、しっかり捕まっとけ俺の最大の魔法をヒュドラにぶつけてこの戦いを終わらす」

 

ハジメの言葉にユエは驚くが、彼の真剣さを帯びたギラつく瞳がユエのハートを射抜いてしまい考えるよりも先に体が動く。

 

「…!……んっ!」

 

「なら、行くぞ!」

 

戦場を駆けるハジメは倒れている間に二つの新たな技能に目覚めた。〝天歩〟の最終派生技能[+瞬光]。知覚機能を拡大し、合わせて〝天歩〟の各技能を格段に上昇させる。ハジメはまた一つ、〝壁を超えた〟のだ。そして、纏雷の派生技能[+紅狼]が発動する。

 

体全体に紅き雷が纏い出し、手足に狼を彷彿させるような紅雷の爪と尻尾の形へと変えていく。それに加え、雷魔法の威力増加、敏捷性の倍加という、破格の力を得た今のハジメは、

 

まさに、雷の獣───雷獣のようだ。

 

この技能によってハジメは一瞬でユエの元にたどり着き、緩やかに飛んでくる光弾をギリギリでかわしているのである。

 

「ユエ、ここで待ってろ、終わらせて来る」

 

「………んっ!」

 

ハジメはそう言うと健在な柱の陰にユエを降ろし、瞬時にヒュドラの方へ駆けていった。

 

「さぁ、最後の一騎打ちだ!とことん殺り合おううか、クソヒュドラァ!」

 

「クルァァァア!!」

 

ハジメは叫び、ヒュドラも呼応するかのように叫ぶ。

 

連なり迫り来る光弾の弾幕を紙一重でかわしていき、〝縮地〟で場所を転々と移動しながらドンナーから電磁加速された弾丸を発砲する。

 

「〝雷撃〟!」

 

反撃する暇を与えず紅の雷がヒュドラを体を傷付けると同時に感電させ体の動きを鈍らせていく。ヒュドラは先ほどのユエの銃撃と雷魔法で全くの無傷と行かなかったのが気に食わないのか、頭を振って回避して、ハジメに目掛けてヒュドラは極光を放つが、ハジメはすぐさま反応してパルクールかの如く体全体を動かして華麗に回避する。

 

そして、ハジメはヒュドラと応戦しながら、階層の天井付近に到着すると、そのまま、落下してヒュドラの脳天に目掛けて今、己が持つ雷魔法のオリジナルの最上級をヒュドラの真上から放つ。

 

「喰らえよクソヒュドラ──天雷牙狼(てんらいがろう)!」

 

放たれた膨大な紅き雷は大きな狼の頭へと形成した。赤雷のスパークを放ちながら大狼は標的を捉えると、その大きな口を開き、その顎を以てヒュドラを噛み砕かんと突進してヒュドラ全体を一瞬にして防御力を突破して飲み込んでいった。

 

「グゥルアアアア!!!」

 

大地を振動させるほどの膨大なスパークにヒュドラが断末魔の絶叫を上げ、次の瞬間には傷すらも見えない黒焦げの亡骸となって大地に大きな音を鳴らしながら倒れた。

 

「ハァ、ハァ……」

 

感知からヒュドラの生体反応が完全に消え去ったのを感じ取って、ヒュドラの死を確信したハジメは、緊張が解けて、まるで力が抜けたようにそのまま後ろにぶっ倒れた。

 

「ハジメ!」

 

ユエが慌ててハジメのもとへ行こうと力の入らない体に鞭打って這いずってくる。

 

「流石に……もうムリだ……」

 

何とかハジメのもとへたどり着いたユエが抱きついてくる感触を感じながら、ハジメはゆっくりと視界が霞んでいき、意識を手放していくのだった……。

 

 





<編集しました。十一月ニ日
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