ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

28 / 188
十五話 真の歴史と旅立ち

 

眠るハジメは、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触でこれはなにかと記憶の中を探る。

そしてこれは、そうベッドの感触である。頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じたハジメのまどろむ意識は混乱する。

 

「(此処は何処だ? 確か俺は……大迷宮にいた筈……)」

 

痛む体を起こすと、ハジメは自分が本当にベッドで寝ていることに気がついた。純白のシーツに豪奢な天蓋付きの高級感溢れるベッドである。場所は、吹き抜けのテラスのような場所で一段高い石畳の上にいるようだ。爽やかな風が天蓋とハジメの頬を撫でる。周りは太い柱と薄いカーテンに囲まれている。建物が併設されたパルテノン神殿の中央にベッドがあるといえばイメージできるだろうか? 空間全体が久しく見なかった暖かな光で満たされていた。

 

ハジメは目が覚めて、目を開けると其処は知らない場所にいることに混乱する。

 

「……っ、此処は!?」

 

ハジメは混乱しながらも警戒を高め辺りを見渡していると傍らにユエがぐっすりと眠っていた。

 

「ユエ……」

 

ハジメはユエが無事である事とその寝顔を見て、警戒心を緩めて彼女の頬にそっと右手を添える。

 

「大丈夫そうだな……」

 

ユエの安否を確認したハジメはこの状況を知る為に彼女を起こすことにした。

 

「ユエ、起きてくれ。ユエ」

 

「んぅ~……」

 

声をかけるが愚図るようにイヤイヤをしながら丸くなるユエ。しかし目をゴシゴシしながら目を開けた。

 

「……ハジメ?」

 

「おう。ハジメさんだ。ユエ、おは──」

 

「ハジメ!」

 

「!?」

 

目を覚ましたユエは茫洋とした目でハジメを見ると、次の瞬間にはカッと目を見開き飛びついた。ユエがハジメの首筋に顔を埋めながら、ぐすっと鼻を鳴らしていることに気が付くと、仕方ないなと苦笑いして頭を撫でる。

 

「わりぃ、随分心配かけたみたいだな」

 

「んっ……心配した……」

 

しばらくしがみついたまま離れそうになかったし、倒れた後面倒を見てくれたのはユエなので気が済むまでこうしていようと、ハジメは優しくユエの頭を撫で続ける。

 

それからしばらくして、ようやくユエが落ち着いたので、ハジメは事情を尋ねた。ちなみに、ユエは何故か全裸だったのでしっかりシーツを纏わせている。

 

「それで、あれから何があった? ここはどこなんだ?」

 

「……あの後……」

 

ユエ曰く、あの後、ぶっ倒れたハジメの傍で同じく魔力枯渇でフラフラのユエが寄り添っていると、突然、堅牢に閉ざされていた扉が独りでに開いたのだそうだ。すわっ新手か!と警戒したもののいつまでたっても特になにもなく、時間経過で少し魔力が回復したユエが確認しに扉の奥へ入った。

 

神水の効果で少しずつ回復しているとは言え、ハジメが重傷であることに変わりはなく、依然危険な状態である。強靭な肉体が一命を取り留めているが、極光の毒素がいつ神水を上回るかわからない。そんな状態で新手でも現れたら一巻の終わりだ。そのため、確かめずにはいられなかったのだ。

 

そして、踏み込んだ扉の奥は、

 

「……反逆者の住処」

 

中は広大な空間に住み心地の良さそうな住居があったというのだ。そのあと、危険がないことを確認して、ベッドルームを確認したユエは、ハジメを背負ってベッドに寝かせ看病していたのだという。神結晶から最近めっきり量が少なくなった神水を抽出し、飲ませ続けた。

 

遂に極光の毒素に神水の効果が勝ったのか、通常通りの回復を見せたところで、ユエも力尽きたという。

 

「……なるほど、そいつは世話になった。ありがとなユエ」

 

「んっ!」

 

ハジメが感謝の言葉を伝えると、ユエは心底嬉しそうに瞳を輝かせる。無表情ではあるが、その分瞳は雄弁だった。

 

それからベッドルームから出たハジメは、周囲の光景に圧倒され呆然としてしまい、此処には存在しないあるモノに目が入った。

 

「此処に何故……太陽が?」

 

ハジメがまず、目に入ったのは太陽だった。もちろんここは地下迷宮であり本物ではないと思う。頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じないため、思わず〝太陽〟と称してしまった。すると、ユエが更に〝太陽〟の追加情報を伝えてきた。

 

「……夜になると月みたいになる」

 

「マジか……」

 

次に、注目したのは耳に心地良い水の音。扉の奥のこの部屋はちょっとした球場くらいの大きさがあるのだが、その部屋の奥の壁は一面が滝になっていた。天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。 

 

川から少し離れたところには大きな畑もあるようである。今は何も植えられていないようだが……その周囲に広がっているのは、もしかしなくても家畜小屋、そして、大理石で出来たような館があった。

 

「……凄いな」

 

ハジメは反逆者の住処に驚きを隠せず、目を輝かせながら感嘆しているとある館に目が入り、歩みを止める。そしたら隣に追従していたユエが報告をする。

 

「……少し調べたけど、開かない部屋が多かった……」

 

ユエの報告を聞いて、ハジメはホルスターにドンナーが入っていることを確認して、目を細めながら口を開く。

 

「そうか……ユエ、油断せずに行くぞ」

 

「ん……」

 

住居は全体的に白く石灰のような手触りだ。全体的に清潔感があり、エントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。薄暗いところに長くいたハジメ達には少し眩しいくらいだ。どうやら三階建てらしく、上まで吹き抜けになっていた。

 

「ほぉ……」

 

取り敢えず、二人は一階を探索することにした。一階は暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。どれも長年放置されていたような気配はない。ハジメとユエは、より警戒しながら進めていく。更に奥へ行くと再び外に出た。そこには大きな円状の風呂だった。

 

「おぉ!」

 

ハジメは、風呂があることに今まで以上に目を輝かせる。ユエは、足だけを風呂に入れて足湯的なことをしている。

 

「まんま、風呂だな。こりゃいい。何ヶ月ぶりの風呂だか」

 

一月以上の間、体を碌に洗えてなかったハジメは風呂に入れる喜びに少し微笑んだ。そんなハジメを見てユエが一言、

 

「……入る? 一緒に……」

 

「……冗談はよしてくれ」

 

「むぅ……」

 

素足でパシャパシャと温水を蹴るユエの誘いに断りを入れたハジメをユエは唇が尖らせて不満顔になるが、ハジメはスルーを決め込んだ。

 

それから二人は、二階で書斎や工房らしき部屋を発見した。しかし、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしくハジメが〝錬成〟を行使しても開けることはできなかった。

 

「重要そうな場所は駄目だな。固くロックされてる」

 

「……もしかしたら、鍵が必要なのかも」

 

二階を調べ終わったハジメ達は三階の奥の部屋に向かった。三階は一部屋しかないようだ。奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。

 

「……これは」

 

しかし、それよりも注目すべきなのは、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。人影は骸だった。既に白骨化しており、死んで何年の時が経っているかは専門でないのでハジメには分からない。

しかし、よくよく観察してみると椅子に座る骸が黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っており、その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。

 

その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか……

 

「……怪しい……どうする?」

 

ユエもこの骸に疑問を抱いたようだ。おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようである。

 

「まぁ、地上への道を調べるには、この部屋が重要なカギなんだろう。俺の錬成も受け付けない書庫と工房の封印……そしてこの世界について何か分かるかもしれない。ユエは待っててくれ。もし、何かあったら頼む」

 

「ん……気を付けて」

 

ハジメはそう言うと魔法陣へ向けて踏み出した。そして、魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 

「……ぐっ?!」

 

光の眩しさにハジメは片手で目を守るように庇う。やがて光が収まり、目を開けたハジメの目の前には、黒衣の青年が立っていた。

 

『試練を乗り越えよくたどり着いてくれた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮【オルクス大迷宮】を創った者だ。君達には反逆者と言えばわかるかな?』

 

「反逆者……」

 

話し始めた彼はオスカー・オルクスという青年らしい。この【オルクス大迷宮】の創造者のようだ。ハジメは驚きながら彼の話を聞く体勢を取る。

 

『ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎、君、もしくは君達の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを───』

 

そうして始まったオスカーの話は、ハジメが聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なった驚愕すべきものだった。

 

それは狂った神とその子孫達の戦いの壮絶な物語。

 

あらゆる種族が栄えた神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。

争う理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は〝神敵〟だから。今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。

 

だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れた。それが当時、〝解放者〟と呼ばれた集団である。彼らには共通する繋がりがあった。それは、全員が神代から続く神々の直系の子孫であったということだ。

そのためか〝解放者〟のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった。何と神〝エヒト〟は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたのだ。〝解放者〟のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。

 

彼等は、〝神域〟と呼ばれる神がいると言われている場所を突き止めた。〝解放者〟のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った八人(・・)を中心に、彼等は神に戦いを挑んだ。

 

そして、解放者は世界を弄んでいた神エヒトを討伐することができ、解放者達は喜んだがその喜びはすぐに終わりを告げてしまった。

 

神域の奥に厳重に封印されていたエヒト以上の力を持った神々がエヒトが敗れたことにより解放されたのだ。解放者達は急遽、その神々と戦わないといけない状況になてしまった。

 

その神々に解放者達は負けじと挑んだが為す術なく敗れてしまった。そして、その中の中心と呼べる神が解放者のリーダーと取り引きを行い、その結果……この世界の常識を変えることなく結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした〝反逆者〟のレッテルを貼られ〝解放者〟達は討たれていった。

 

最後まで残ったのは中心の七人(・・)だけだった。世界を敵に回し、彼等は、もはや自分達ではあの神共を討つことはできないと判断した。そして、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。

 

長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

『君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。……君に私の力〝生成魔法〟を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。こんな長話を聞いてくれてありがとう。そして、君のこれからが自由な意志の下にあらんことを』

 

そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、ハジメの脳裏に何かが侵入してくる。

 

「ぐうっ?! がァ!」

 

膨大な情報量がハジメの脳内へと強制的にインストールしていくせいで、脳の痛みの激しさが増していく。

 

「ハジメッ?!」

 

痛み頭を抑え苦しんでるハジメを見てユエが心配して声を上げるが脳裏に侵入してくる何かに驚愕してしまい、それ所ではなかった。やがて、痛みも収まり魔法陣の光も収まる。ハジメはゆっくり息を吐いた。

 

「ハジメ……大丈夫?」

 

「ああ、平気だ……にしても、何かどえらいこと聞いちまったな」

 

「……ん……どうするの?」

 

ユエがオスカーの話を聞いてどうするのかと尋ねる。

 

「そうだな……」

 

話しを聞く限り教会が信仰しているエヒトはもういない存在。だが、現れたエヒト以上の神々は話を聞く限り相当危険な存在だ。それに、ハジメ達を此処に召喚したのはその神々だったら自分達に干渉してくる可能性が高い。

 

ハジメは目を瞑りながら考えを張り巡らさせ、やがて目を開いて決心するとユエに告げる。

 

「ユエ……俺はこの世界に召喚されてから帰る方法を探していた。……だが、神々は絶対、俺達や優花達にも干渉してくる。もしかしたら元の世界に帰ろうとするところを阻止しようとするかもしれねぇ。だから、俺は守る為に神を殺す。それに話を聞く限り俺は神々が気に食わねぇ……だから俺は〝解放者〟達の意思を継ごうと思う。ユエ、出来ればで良いが力を貸してくないか?」

 

俺は、お前の意志を尊重すると言うハジメの言葉にユエは笑みを向けなてハジメの傍に寄り添うと口を開いた。

 

「私の居場所はここ……ハジメがそうするなら私もそうする」

 

そう言ってユエは、ハジメに寄り添いその手を取る。ギュッと握られた手が本心であることを如実に語る。

 

「そうか……ありがとうユエ」

 

「……んっ」

 

ユエに感謝しつつハジメはユエに衝撃の事実をさらりと告げる。

 

「あ~、あと何か新しい魔法……オスカーの言っていた神代魔法っての覚えたみたいだ」

 

「……ホント?」

 

信じられないといった表情のユエ。それも仕方ないだろう。何せ神代魔法とは文字通り神代に使われていた現代では失伝した魔法である。

 

「この床の魔法陣が、神代魔法を使えるように頭を弄る?術式に刻まれた情報を強制的に流し込むような感じみたいな?」

 

「……大丈夫?」

 

内容に少しばかり戦慄ふふユエは心配するがハジメは心配ないという態度を取りながら話す。

 

「おう、問題ない。しかもこの魔法……〝錬成師〟である俺のためにあるような魔法だな」

 

「……どんな魔法?」

 

「え~と、〝生成魔法〟ってやつだな。魔法や固有魔法を鉱物に付加して特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法だ」

 

ハジメの言葉にポカンと口を開いて驚愕をあらわにするユエ。

 

「……アーティファクト作れる?」

 

「ああ、そういうことだな」

 

ハジメが手に入れた生成魔法は神代においてアーティファクトを作るための魔法。まさに〝錬成師〟のハジメのためにある魔法であった。

 

ハジメは生成魔法の力に感嘆しながら笑みを浮かべて右手の拳を握りしめる。そして、ユエにも生成魔法の獲得をするかと提案する。

 

「ユエも覚えたらどうだ? 何か、魔法陣に入ると記憶を探られるみたいなんだ。オスカーも試練がどうのって言ってたし、試練を突破したと判断されれば覚えられるんじゃないか?」

 

「私……錬成、使えない……」

 

「まぁ、そうだろうけど……せっかくの神代の魔法だぜ? 覚えておいて損はないんじゃないか?」

 

「……ん……ハジメが言うなら」

 

ハジメの勧めに魔法陣の中央に入るユエ。魔法陣が輝きユエの記憶を探る。そして、ユエも試練をクリアしたものと判断された。

 

「どうだ? 修得したか?」

 

ハジメの問いかけにユエは頷くもその表情はイマイチな感じで話しだす。

 

「ん……した。でも……アーティファクトは難しい」

 

やはり、魔法の天才のユエでも魔法の得意、不得意があるらしい。

 

「う~ん、やっぱり神代魔法も相性とか適性とかあるのかもな」

 

そんなことを推測して話しながら、ハジメはオスカーの骸に近付いて、骸の肩にポンっと手を置くと聞こえないかもしれないが優しく笑みを向けて感謝の意を伝える。

 

「ありがとなオスカー・オルクス。ここでは眠れないだらうし埋葬ぐらいしてやるよ、ユエ手伝ってくれ」

 

「ん……わかった……」

 

畑に骸を埋めて墓らしいものを建造してオスカーの埋葬が終えると、ハジメとユエは封印されていた場所へ向かった。

次いでにオスカーが嵌めていたと思われる指輪も頂いておいた。最初は墓荒らしっぽくて気が引けたが、その指輪には十字に円が重った文様が刻まれており、それが書斎や工房にあった封印の文様と同じだったため鍵ではないかと思い埋葬する前にオスカーの骸から指輪を頂いた。

 

そして、オスカーの骸の埋葬を終えたハジメ達は鍵が掛かった部屋の前に向かい、部屋の扉前で頂いた指輪を翳す。すると、施錠が解け扉が開く。やはり、この指輪は鍵の役割を持っていたらしい。

 

最初に開けた部屋は書斎らしく、ハジメは現状で一番の目的である地上への道を探らなければならない。ハジメとユエは書棚にかけられた封印を解き、めぼしいものを調べていく。すると、この住居の施設設計図らしきものを発見した。通常の青写真ほどしっかりしたものではないが、どこに何を作るのか、どのような構造にするのかということがメモのように綴つづられたものだ。

 

「これは……」

 

ハジメは、その施設設計図をじっくり見通し、発見する。

 

「あったぞ、ユエ!」

 

「んっ」

 

ハジメから歓喜の声が上がる。ユエも嬉しそうだ。設計図によれば、どうやら先ほどの三階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。オルクスの指輪を持っていないと起動しないようであるが今のハジメには問題ない。

 

「やっぱり、この指輪を頂いて良かったな……」

 

オスカーの指輪に感謝しながら更にハジメは設計図を調べていると、どうやら一定期間ごとに清掃をする自律型ゴーレムが工房の小部屋の一つにあったり、天上の球体が太陽光と同じ性質を持ち作物の育成が可能などということもわかった。人の気配がないのに清潔感があったのは清掃ゴーレムのおかげだったようだ。

 

工房には、生前オスカーが作成したアーティファクトや素材類が保管されているらしい。

 

「ハジメ……これ……」

 

「うん?」

 

ハジメが設計図をチェックしていると他の資料を探っていたユエが一冊の本を持ってきた。

 

「本にしては薄い……手記か?」

 

ハジメはオスカーのものと思われる手記を読むんで分かったことはオスカーの手記の内の一節に、他の六人の迷宮に関することが書かれていた。

 

「……つまり、あれか? 他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入るというシステムってことか?」

 

「……かも」

 

手記によれば、オスカーと同様に六人の〝解放者〟達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意をしているようだ。生憎とどんな魔法かまでは書かれていなかった。

「でも……」

 

これなら、神を殺せる力をつけれるし、元の世界に帰れる可能性もある。優花達との再会はしたいが、今、再会しても神々が現れたのに対して何も対抗することが出来ない現状。それなら、神代魔法の獲得を優先にしたい。

 

「ユエ、予定変更だ。大変に心苦しいが優花達と再会は後にして神殺しと元の世界への帰還の為に神代魔法が欲しい。地上に出たら七大迷宮攻略を目指そう」

 

「んっ」

 

明確な指針ができて頬が緩むハジメ。思わずユエの頭を撫でるとユエも嬉しそうに目を細めた。

 

それからしばらく探索したが、正確な迷宮の場所を示すような資料は発見できなかった。現在、確認されている【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】、目星をつけられている【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】辺りから調べていくしかないだろう。しばらくして書斎あさりに満足した二人は、工房へと移動した。

 

工房には小部屋が幾つもあり、その全てをオルクスの指輪で開くことができた。中には、様々な鉱石や見たこともない作業道具、理論書などが所狭しと保管されており、錬成師にとっては楽園かと見紛う程で沢山のアーティファクトだらけでハジメは驚愕の余り声を漏らしてしまう。

 

「おいおい、俺でも見て分かる……どれも、一級品のアーティファクトだぞ?」

 

其処にあるのは沢山の上等なアーティファクトばかりにハジメは満足な笑みを浮かべる。

 

「これなら……」

 

ここでなら遺跡に行かずとも新しい武器やアーティファクトの獲得という予定は無くして次の迷宮に向けての準備が出来ると思ったハジメは此処の迷宮で失ってしまった自分の左腕を見ながら思案する。

 

考え込むハジメの様子を見て、ユエが首を傾げながら尋ねる。

 

「……どうしたの?」

 

ハジメは考えていたことをユエに提案した。

 

「ユエ。しばらくここに留まらないか? さっさと地上に出たいのは俺も山々なんだが……せっかく学べるものも多いし、ここは拠点としては最高だ。他の迷宮攻略のことを考えても、ここで可能な限り準備しておきたい。どうだ?」

 

ユエは三百年も地下深くに封印されていたのだから一秒でも早く外に出たいだろうと思ったのだが、ハジメの提案にキョトンとした後、直ぐに了承した。

 

「……ハジメと一緒ならどこでもいい」

 

「そっか、ありがとなユエ」

 

「んっ」

 

そして、ハジメ達はここで可能な限りの鍛錬と装備の充実を図ることになるのであった……。

 

 

〜2ヶ月後〜

 

「………ハジメ、気持ちいい?」

 

「おお〜。気持ちいいぞユエ」

 

「……ん、なら良かった」

 

現在、ハジメはユエにマッサージをして貰ってる。何故、マッサージしているかというと、それはハジメの新しい左腕が原因だ。ハジメの左腕に付けられた義手と体が馴染むように定期的に魔力を通したマッサージしているのである。

 

この義手はアーティファクトであり、魔力の直接操作で本物の腕と同じように動かすことができる。擬似的な神経機構が備わっており、魔力を通すことで触った感触もきちんと脳からの指示で動く様に出来ている。また、銀色の光沢を放ち黒い線が幾本も走っており、所々に魔法陣や何らかの文様が刻まれている。

 

実際、多数のギミックが仕込まれており、工房の宝物庫にあったオスカー作の義手を基にしたハジメが自身の知識で更にオリジナル要素を加えて作り出したものだ。

生成魔法により創り出した特殊な鉱石を山ほど使っており、世に出れば間違いなく国宝級のアーティファクトとして厳重に保管されるだろう逸品である。もっとも、魔力の直接操作ができないと全く動かせないので常人には使い道がないだろうが……。

 

この二ヶ月で二人の実力や装備は以前とは比べ物にならないほど充実している。例えばハジメのステータスは現在こうなった。

 

 

====================================

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???

 

天職:錬成師

 

筋力:15000

 

体力:18000

 

耐性:15560

 

敏捷:18070

 

魔力:20000

 

魔耐:20000

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・雷属性適性[魔力消費減少]・雷属性耐性・脳内設計[+想像設計]・C胃酸強化・纏雷[+紅狼]・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・武芸百般[+武術・極][+槍術Ⅴ][+剣術Ⅲ][+銃技・極][+投擲術Ⅷ][+徒手Ⅷ][+蹴術Ⅸ]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・■■■・言語理解

 

====================================

 

ハジメは義手が馴染んできているのを感じながら自分のステータスの内容に乾いた笑みを零す。

 

「クハッ……レベルがバグってやがる」

 

義手も馴染んで来て、ステータスもレベルは100を成長限度とするその人物の現在の成長度合いを示すのだがハジメの場合、魔物の肉を喰らいすぎてしまって体が変質し過ぎてしまい、ある時期からステータスは上がるがレベルは変動しなくなり、遂には非表示になってしまった。

魔物の肉を喰ったハジメの成長は、初期値と成長率から考えれば明らかに異常な上がり方だ。ステータスが上がると同時に肉体の変質に伴って成長限界も上昇していったと推測するなら遂にステータスプレートを以てしてもハジメの限界というものが計測できなくなくなってしまったかもしれない。

 

技能欄も増え、ヒュドラを倒しその肉を喰らったことで複数の技能を得ることが出来た。それに派生技能も増え終いには〝武芸百般〟の武術と銃技に関しては〝極〟に達してしまっている。

 

そんな力を身に付けたハジメは次に新装備の確認をしていく。

 

まず、〝宝物庫〟という便利道具を手に入れた。

 

これはオスカーが保管していた指輪型アーティファクトで、指輪に取り付けられている一センチ程の紅い宝石の中に創られた空間に物を保管して置けるというものだ。なので、この宝物庫を合わせた空中に転送した弾丸を己の技術によって弾倉に装填出来るように鍛錬することにした。要は、空中リロードを行おうとしたのだ。

これは結論から言うと一ヶ月間の猛特訓で見事、成功しハジメは空中リロードを会得したということだ。

後、この〝宝物庫〟には空間系の魔法が作用してるため今のハジメでは作れないことが分かっている。

 

 

次に、ハジメは〝魔力駆動二輪と四輪〟を製造した。

 

これは文字通り、魔力を動力とする二輪と四輪である。二輪の方はアメリカンタイプ、四輪は軍用車両のハマータイプを意識してデザインした。車輪には弾力性抜群のタールザメの革を用い、各パーツはタウル鉱石を基礎に、工房に保管されていたアザンチウム鉱石というオスカーの書物曰く、この世界最高硬度の鉱石で表面をコーティングしてある。

おそらくドンナーの最大出力でも貫けないだろう耐久性だ。エンジンのような複雑な構造のものは一切なく、ハジメ自身の魔力か神結晶の欠片に蓄えられた魔力を直接操作して駆動する。速度は魔力量に比例する。

 

更に、この二つの魔力駆動車は車底に仕掛けがしてある。

 

そして、義眼の代わりに〝魔眼石〟というものをハジメは開発した。

 

ヒュドラとの戦いで右目を失ってしまったハジメは、極光の熱で眼球の水分が蒸発していまい、神水を使う前に〝欠損〟してしまっていたので治癒しなかったのだ。それを気にしたユエが考案し、創られたのが〝魔眼石〟だ。

 

いくら生成魔法でも、流石に通常の〝眼球〟を創る事はできなかった。しかし、生成魔法を使い、神結晶に、〝魔力感知〟〝先読〟を付与することで通常とは異なる特殊な視界を得ることができる魔眼を創ることに成功した。

これに義手に使われていた擬似神経の仕組みを取り込むことで、魔眼が捉えた映像を脳に送ることができるようになった。一つ一つ新たな装備を確認し終えたハジメはユエにある装備を渡した。それは神結晶で作ったネックレスだった。

 

ハジメはネックレスをユエにかける。ユエは、プレゼントを貰えて嬉しそうに笑みを見せる。

 

「……ハジメありがとう大切にする」

 

「おう」

 

それから十日後、遂にハジメとユエは地上へ出る。

 

三階の魔法陣を起動させながら、ハジメはユエに静かな声で告げる。

 

「ユエ……俺の武器や俺達の力は、地上では正に異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

 

「ん……」

 

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

 

「ん……」

 

「教会や国だけならまだしも、神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」

 

「ん……」

 

「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

 

「神殺しをするのに今更……」

 

「クハッ……そうえば、そうだったな」

 

ユエに当たり前なことを言われ、思わずハジメは笑ってしまう。そして、真っ直ぐハジメを見つめてくるユエのふわふわな髪を優しく撫でる。気持ちよさそうに目を細めるユエに、ハジメは一呼吸を置くと、キラキラと輝く紅眼を見つめ返し、望みと覚悟を言葉にして魂に刻み込む。

 

「俺がユエを、ユエが俺を守る。そして、神共を殺して、優花達と再開して……世界を越えよう」

 

ハジメの言葉を、ユエはまるで抱きしめるように、両手を胸の前でギュッと握り締めた。そして、無表情を崩し花が咲くような笑みを浮かべた。

 

返事はいつもの通り……

 

「んっ!」

 

ハジメはその返事を聞いて、笑みを浮かべて頷くとユエと共に魔法陣に向かって歩き出しながら胸ポケットにしまってる優花の髪留めを胸ポケット越しに握り締めながら心の中で決意する。

 

───優花、待ってろ。絶対に俺は必ずお前のところへと戻る。

 

その決意を胸に秘め、ハジメの……いや二人の神殺しの旅が始まりを告げるのであった……。

 




次回はクラスメイトsideです。

武芸百般での派生する才能の最終地点は〝極〟ですが、もし何かの条件をクリアすることが出来れば新たな才能へと進化します。



<編集しました。十一月三日
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。