ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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これはハジメがオルクス滞在中での出来事の話です


ありふれた寄り道〜オルクスにて〜

 

◆解放者達のゲーム

 

「12─4へ炎術師。8─6の剣士と隣の8─7の軽戦士へ攻撃──魔法・火属性・螺炎(らえん)

 

「んんっ」

 

【オルクス大迷宮】の最下層、オスカー・オルクスの隠れ家の一室に、男の不敵な声と、何かを堪えるような艶を孕んだ女の声が響いた。ハジメとユエだ。

 

ハジメとユエはガラス製の長テーブルを挟む形でソファーに座っており、そのテーブルの上には四角い金属製のボードと計六十四個の様々な駒が置かれていた。

 

二人は、就寝前のちょっとした戯れに、異世界版チェスに興じていたのである。

 

勿論、地球のそれとはかなり異なるルールだ。

 

何せ、マス目は全二百六十五マス。ボードには山、川、森、丘、平原など様々な地形が描かれていてフィールド効果もあり。駒は戦士系から魔法士系、果ては村人Aと百種類以上から自由に選択、ゲーム中に育成まであるというハジメはこの仕様を知り某RTAゲームを連想したぐらいだ。

 

ダメージ量判定は、攻撃の属性、防御や相性の有無まで加味された仕様で、現実と同じく魔力枯渇状態での戦闘不能まで再現されている。しかも、どういう仕組みなのか、ハジメですら全く理解できないのだが、いちいち妙な〝ドラマ〟が入ったりするのだ。

 

今も、ハジメの某RTAゲームで鍛えられた的確な相手を徐々に戦力を下げていく戦術によってユエの軍は押され、ハジメが見習いから経験を積ませたことで超一流となった炎術師が、其処から攻めようと画策していたユエの戦士達の最後の一人に炎の槍を放ったところ、当の剣士さん、貫かれた腹を押さえ、血塗れの手を見ながら『ま、まさか我等がたった一人の魔術師を相手に全滅だ、とっ……』と言いながら絶望に染まった顔を浮かばせ、終いには『これが貴様等のやり方かぁっ!?』叫び口から大量の血を吐き出し、そのまま地面に倒れ伏して絶命する。

 

「やっぱり、この小芝居機能をどうにか停止できねぇかな」

 

「……ハジメでも無理なら、もう解除できる人はいないと思う。多分、解放者の人達の合作」

 

「だろうな。このゲーム盤には確実に神代魔法を使っている」

 

そして、きっと力作なんだろう。だが一つ言えるのは凄まじい能力の無駄遣いである。ハジメの中での解放者達の印象が変わりそうなのは今日この頃である(尚、案の定と言うべきか今も生存している二人の解放者達の姿を見てハジメは疑いから確信に変わっているのは秘密である)。

 

ターンが替わり、ユエが自軍の騎馬兵を突撃させる。目標は先程の炎術師。

 

「……負けてられないっ」

 

ユエのそんな呟きは叶い、騎馬兵の突撃槍は見事に相手を頭を粉砕した。ちなみに粉砕された駒は数秒後に復元されて、いそいそと自ら場外へと出ていく。

 

「まぁ、これぐらいなら予想の範疇。炎術師はきっちり仕事したしな──っ」

 

そう口にするハジメであったが駒がやられた瞬間、ピクリと眉を動かした。もっともそれは、駒がやられたせいではない。このゲームに搭載されたもう一つの機能〝痛みトレース〟が原因であった。

 

実はこのゲーム、自分の駒が攻撃を受けると、ゲーム前に登録させていた魔力が反応して、プレイヤー本人にも静電気が走ったような刺激を与える機能が搭載されているのである。

 

お返しとばかりに、ハジメは次の手に出る。

 

「13─9へ暗殺者。聖騎士へ奇襲攻撃──斬撃・技能・(くび)刈り」

 

ハジメの待機させておいた暗殺者が、ユエの聖騎士の背後に周り込み奇襲する。

 

何もさせる暇なく一瞬で頸が飛び倒れる聖騎士。ユエの女王が『私の騎士様ぁ!!』と悲痛な声で叫び、隣の王が『え? 私の? どういうことだゴラァァァァ!!』と怒声を上げる。どうやら女王と聖騎士の不倫が発覚したらしい。

 

その後、数ターンの攻防を繰り返し、実は王には隠し子がいたり、その子の母親は敵軍の女王の子供だったり、嫉妬した女王が宮廷魔術士と密会したり、その宮廷魔術士の恋人が出てきたり、それが実は男だったり、その男が実は敵軍の魔法士との間で恋心で揺れており、王家を巻き込んだ泥沼の恋愛劇を繰り広げられたり、と実に濃いドラマが展開されていた。

 

そして、ハジメの駒がユエの駒を倒す度に、「ぁん」とか「ぁ、ぁっ」とか、「そ、そこはぁっ」などといった嬌声が木霊し、ハジメは溜め息を吐く。

 

「……ユエ、いちいち誇張して声を出すのやめろ。耐えられないほどの刺激じゃないだろう?」

 

「……ハジメが、私の弱い所ばかりを攻めるから」

 

「ヤンデレ脇や足の裏ぐらいしか指定してねぇぞ俺は。それに俺に誘惑しても無駄だ」

 

好きな物事に関しては真剣に取り組むことに重きを置いているハジメ*1は全部で五百ページある取り扱い説明書を読破しているのでユエがわざと嬌声を上げているのは丸分かりだ。そして、その理由も……

 

「ムゥ………」

 

ハジメに見透かされ、つまんなそうに唇を尖らして貧乏ゆすりするユエ。その姿は悪戯がバレた子供のようだ。

 

「なぁ、ユエ。俺はお前のことは大切だ。この想いは決して変わらない」

 

「……ん」

 

真剣な表情で自分のことを大切だと口にするハジメの言葉に、ユエは嬉しいのか頬をほんのりと赤くさせながらこくりと頷く。

 

「だが、俺は優花と再会するまでは一切、そういう事はしたくない。してしまったら俺は優花を最愛を裏切ったことになる。それは俺にとって死と同義だ」

 

「………」

 

ユエは黙る。

 

理由は明白。こんなことをしても意味無いと自分でも分かりきっていることだからだ。ハジメにとって優花はどれほど大切で、愛しい存在であることを。

 

でも、でもだ。

 

ユエはハジメに助けられた時を今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。暗闇の中で絶望していた自分を救い出してくれた紅の光を。自分を抱き締めてくれた時の温もりを。

 

故に、

 

「…………私だって、ハジメに甘えたい」

 

振り絞ったような声で答えるユエ。ハジメはその言葉を聞いて、一瞬、目を見開くが少し考える仕草をした後に柔らかい笑みを向ける。そして、ある提案をした。

 

「じゃあ、ユエが俺に勝ったら一回だけなんでも言うことを聞いてやる」

 

「………!」

 

「だが、性的なことは無し。やるか?」

 

其の提案に喜色を浮かべるユエ。だが、次のハジメの言葉に少し残念そうになるも素直に頷いて快く提案に乗る。

 

「……やる!」

 

「じゃあ、この絶望的な戦況を覆してみろユエ」

 

「………ん!!」

 

ユエの威勢のいい返事を聞いて不敵に笑みを浮かべたハジメは声を張り上げた。

 

「16─7に雷術師っ。16─8から10にかけて攻撃! 魔法・雷属性上級・雷槌ッ」

 

1ターン動けなるのを覚悟で範囲攻撃を仕掛けたハジメ。途端、ユエは刺激が加わり眉間を寄せ、ピクッと微かに痙攣して、黒のワンピースから覗く素足の指先がキュッと丸まった。

 

「だが、俺も素直に負けるつもりは毛頭ない。悪いが勝たせて貰うぞユエ!」

 

「………ん、構わない!」

 

そう宣言するハジメにユエも負けじと自身の駒を動かす。

 

「14─5へ女王! 特殊技能・女王の祝福!」

 

敢えて重要な駒を敵陣に踏み込ませ、リスクを負う代わりに味方への一回限りの一斉攻撃権を発動し、周囲に布陣させていた兵士達が一斉攻撃を開始する。

 

「攻めるじゃねぇかユエ」

 

「……ん、私が勝ったらハジメには〝ペアルック〟にしてもらうから!」

 

「おう………え、ペアルック?」

 

「……ん!」

 

ユエの予想外の要求に表情がビキッと固まってしまうハジメ。

 

そして、想像してしまう。この奈落から出た後で〝クソ神死ねぇ!!〟と宣言するような奴が、殺意を振りまきながらペアルック………果してないシュールさだ。これ以上ないシリアスブレイクであり、ハジメ的に、本気で勘弁して下さい、という感じである。

 

しかし、ユエの方は本気(マジ)のようで女王の祝福によって一斉攻撃を開始した兵士達の猛攻にハジメの前線に配置させていた兵士達が既に壊滅状態になっている。

 

「くっ……15─7へ重戦士! 戦斧・技能・地砕き!」

 

ペアルックは嫌だという気持ちのままに、ハジメの重戦士が戦斧を地面に勢いよく叩きつけるように振り下ろし、15─7~9までの地面が割れ其処にいた敵兵を奈落の底へ落としていく。

 

「………っ、なら14─4へ結界師!魔法・聖絶!」

 

ユエは攻めより女王を守る選択を取る。だが、ハジメは今が好機と大胆な行動に出る。

 

「16─3へ王! 特殊技能・王の激励!」

 

発動効果はユエの女王の駒と同じで前線に出るというデメリットを代償にハジメの兵士達が一斉攻撃を開始する。そして、この攻撃がキーポイントになってユエ軍は瓦解し、ハジメの王とユエの女王が戦場ラブロマンスを繰り広げながら相討ちとなり、最後まで一言も話さなかったハジメ側の女王が勝利宣言をして幕引きとなった。

 

どうにかペアルックで異世界を旅するという羞恥心マッハな未来を回避できて、ハジメはホッと安堵の息を吐いた。

 

しかし、ゲーム終了後、ぷくぅと頬を膨らましたむくれてるユエに、結局は自分から妥協案としてユエ好みの服を着ることを提示し、彼女の機嫌が良くなるまでハジメはユエに抱き締められるという一日になる。

 

ハジメは、そんな自分の大切な人に対して弱くなってしまう性格に苦笑いを漏らすのであった……。

 

*1
その方が楽しいから




投稿遅れてすいません。

今回のありふれた寄り道は書きたくなった時に書こうと思います。

一応、本編の方も書きすすめていますm(_ _)m
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