ライセン大峡谷に悲鳴と怒号が木霊する。
ウサミミを生やした人影が岩陰に逃げ込み必死に体を縮め、あちこちの岩陰からウサミミだけがちょこんと見えており、数からすると二十人ちょっと。見えない部分も合わせれば四十人といったところ。
そんな怯える兎人族を上空から睥睨していた魔物がいた。
「ハ、ハイベリア……」
肩越しにシアの震える声が聞こえた。あのワイバーンモドキこと〝ハイベリア〟という。ハイベリアは全部で十二匹はいる。兎人族の上空を旋回しながら獲物の品定めでもしているようだ。
そのハイベリアの一匹が遂に行動を起こした。大きな岩と岩の間に隠れていた兎人族の下へ急降下すると空中で一回転し遠心力のたっぷり乗った尻尾で岩を殴りつけた。轟音と共に岩が粉砕され、兎人族が悲鳴と共に這い出してき絶望しそうになった。
しかし、
ドパンッ!! ドパンッ!!と、峡谷に二発の乾いた破裂音が響くと同時に二条の閃光が虚空を走る。その内の一発が、今まさに二人の兎人族に喰らいつこうとしていたハイベリアの眉間を狙い違わず貫いた。頭部を爆散させ、蹲る二人の兎人族の脇を勢いよく土埃を巻き上げながら滑り、轟音を立てながら停止する。
「な、何が……」
先程、子供を庇っていた男の兎人族が呆然としながら、目の前の頭部を砕かれ絶命したハイベリアと、後方でのたうち回っているハイベリアを交互に見ながら呟いた。
「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」
そして向こうから聞きなれた声音に、兎人族が一斉に彼女の名を呼んだ。
「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」
「おい、シア邪魔だ」
喜びのあまり後部座席に立ち上がりブンブンと手を振るシアにハジメは、魔力駆動二輪を高速で走らせながらイラッとした表情をしていた。仲間の無事を確認した直後で、嬉しかったのだろう。
故に、それ自体は別にいいのだが、高速で走る二輪から転落しないように、シアは全体重をハジメに預けて体を固定しており、小刻みに飛び跳ねる度に頭上から重量級の凶器がのっしのっしとハジメの頭部に衝撃を与えているのである。そのせいで照準がずれ、二匹目のハイベリアを一撃で仕留められなかったのだ。
「あっ、すみませんハジメさん」
「気持ちは分かる。だが、落ち着け……」
「うぅ、はいぃ」
ハジメの注意を真摯に受け止めるシア。それをチラリと横見で確認したハジメは再び照準をハイベリアの群れに合わせて引き金を引いた。
ドンナーから放たれた閃光が難なく一瞬にして残りのハイベリアを駆逐した。そんな有り得べからざる光景に、硬直する兎人族達。ハジメは駆動した後、兎人族の近くまで移動し、二輪をドリフトさせながら停止した。
すると兎人族がわらわらと集まってきた。
「シア! 無事だったのか!」
「父様!」
シアに真っ先に声をかけてきたのは、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。シアも後部座席から飛び降り男性の元へと駆け寄っていくのを二輪車から見届けるハジメ。
「……(今、話しかけんのは無粋だな)」
家族との再会だ。そんな大切な場に知らない奴が乱入してはいけないとハジメは二輪車から周りの警戒を行いながら優しい表情であるも少し羨ましさを感じながらシア達を見ていた。
「…………」
そんな顔をするハジメの想いをなんとなく察したユエは、敢えてなにも言わず、彼のハンドルを握る手の上から添えるように優しく触れる。
───ハジメは一人じゃない。私がいる、と。
ユエの突然の行動に少し驚くも、上目遣いで優しく微笑みかける彼女の姿に自身の想いがバレてしまったと分かりハジメの表情は恥ずかしさのあまり緩む。
「ありがとな、ユエ」
「……ん」
しかし、秘めた自分の想いを気遣ってくれている彼女にハジメは感謝するのであった。
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数分ほど経ち、シアと父様と呼ばれた兎人族は話が終わり、互いの無事を喜びあった後、彼等はハジメの方へ向き直る。
「ハジメ殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」
そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。
「まぁ、礼は受け取っておく。だが、助けたのは樹海の案内と引き換えで助けることを約束しただけだ。しかしアンタ等、随分あっさり俺達を信用するんだな。確か、亜人族は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」
亜人族は被差別種族である。実際、峡谷に追い詰められたのも人間族のせいだ。にもかかわらず、同じ人間族である自分に頭を下げ、しかも助力を受け入れるという態度に、なにか裏があるのかと思ってしまう程、ハジメはカム達の対応に疑問を抱いて質問したのだが、カムは、それに対して苦笑いで返した。
「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」
「…………」
ハジメはシアから聞いた思慮深い一族ということとカムの言葉で納得はするが、同時に族長としては随分なお人好しなことに大丈夫なのか? 少し甘すぎないか?という不安が出る。
「ハジメ殿?」
「いや、問題ない。それより
ハジメはカム達に声をかけ一行は、ライセン大峡谷の出口目指して歩を進めた。
ウサミミ四十二人をぞろぞろ引き連れて峡谷を行く。故に当然、数多の魔物が絶好の獲物だとこぞって襲ってくるのだが、ただの一匹もそれが成功したものはいなかった。
理由は単純。例外なく、兎人族に触れることすら叶わずに接近した時点で閃光が飛び頭部を粉砕されるからである。
乾いた破裂音と共に閃光が走り、気がつけばライセン大峡谷の凶悪な魔物が為すすべなく絶命していく光景に、兎人族達は唖然として、次いで、それを成し遂げている人物であるハジメに対して畏敬の念を向けられており少しむず痒く感じていた。
「やりずれぇな……」
もっとも、小さな子供達は総じて、そのつぶらな瞳をキラキラさせて圧倒的な力を振るうハジメをヒーローだとでも言うように見つめているような気がして注がれる視線が凄かった。
「ふふふ、ハジメさん。チビッコ達が見つめていますよ~、手でも振ってあげたらどうですか?」
子供に純粋な眼差しを向けられて若干居心地が悪そうなハジメに、シアが実にウザイ表情で「うりうり~」とちょっかいを掛けてくるので、多少、苛立ちを感じるが溜息を吐きながらも子供達に近付く。
「……はぁ」
ハジメは優しく子供達の頭を撫でた。すると子供達は喜んで嬉しそうにはしゃぐ。すると、シアが嬉しそうに声をかけた。
「ハジメさんって、ホントに優しい人ですね。私の時もですけど」
「……ん、ハジメは優しい」
「どうかな……」
ハジメの行動にシアとユエは俺を「優しい」と言ってくれるがハジメ自身、そうと思えなかった……いや、思いたくなかったの方が良いだろう。だって、ハジメは
そうこうしている内に、ハジメ達は遂にライセン大峡谷から脱出できる場所にたどり着いた。
「……ゴールは近いな」
視線の先に人工の階段が見えて、出口が近付いたと思っていながら念の為にハジメは何となしに〝遠見〟で遠くを見ていると、シアが不安そうに話しかけてきた。
「帝国兵はまだいるでしょか?」
「ん? どうだろうな。もう全滅したと諦めて帰ってる可能性も高いと思うが……」
「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら……ハジメさん……どうするのですか?」
「………」
ハジメはシアの質問の意味を察して、一瞬、黙ってしまうも平然と応えた。
「そうだな、相手は帝国兵……人間族だ。だがそれだけだ家族でも友人でもない知らない人間。……なら簡単。敵対が避けられないなら殺すだけだ。だがシア、お前の固有魔法ならそういう未来が見えていたんじゃないのか?」
ハジメの疑問にシアは少し言いずらそうにしながらも肯定するかのように頷いた。
「はい、見ました。帝国兵と相対するハジメさんを……」
「だったら分かるだろ?……何が疑問なんだ?」
「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」
シアの言葉に周りの兎人族達も神妙な顔付きでハジメを見ている。小さな子供達はよく分からないとった顔をしながらも不穏な空気を察してか大人達とハジメを交互に忙しなく見ている。
「……甘いな」
ハジメは傍にいるユエ、シアぐらいにしか聞こえない呟きの後に、ため息を吐いて口を開いた。
「はぁ……シア、一つ言っておくぞ。お前は、根本的に俺という人間の認識を間違っている」
「根本?」
首を捻るシア。周りの兎人族も疑問顔だ。
「いいか? 俺は、お前等を守る為に此処にいるし、お前達には樹海の案内をして欲しいだけなんだ。それを、忘れたわけじゃないだろう?」
「うっ、はい……覚えてます……」
その言葉にぐうの音も出ずに息を呑みながらも応えていくシアにハジメは更に言葉を続ける。
「だからな、それを邪魔するヤツは魔物だろうが人間族だろうが関係ない。道を阻むものは敵は殺す。それだけのことだし、それが南雲ハジメという人間の根本だ」
「な、なるほど……」
「はっはっは、分かりやすくていいですな。ハジメ殿、樹海の案内はお任せくだされ」
カムが快活に笑い、ハジメの意見に賛同する。そして、シア、他の兎人族も納得した。
そして、階段に差し掛かりハジメを先頭に順調に登っていく。帝国兵からの逃亡を含めて、ほとんど飲まず食わずだったはずの兎人族だが、その足取りは軽く、ハジメは亜人の身体能力に感心していた。
「流石は、亜人族か……」
やはりと言うべきか、亜人族は魔力を持たない代わりに身体能力が高く、最弱と呼ばれている兎人族でも一般人と下級の兵士並の体力を持ってる程だ。
ハジメは亜人族の身体能力の高さに感心しつつ、遂に階段を上りきりライセン大峡谷からの脱出を果たした。しかし、登りきった崖の上、そこには………
「やっぱり、いたか……」
シアの〝未来視〟通りにそこには帝国兵が居座っていた。
「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」
三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、ハジメ達を見るなり驚いた表情を見せた。
だが、それも一瞬のこと。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするように兎人族を見渡した。
「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」
「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」
「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」
「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」
「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」
下劣な会話をする帝国兵は、兎人族達を完全に獲物としてしか見ていないのか戦闘態勢をとる事もなく、下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線を兎人族の女性達に向けている。兎人族は、その視線にただ怯えて震えるばかりだ。
「………」
クズだな、と内心で呟きながら、やはり己と帝国の連中とは相容れないだろうなとハジメは思った。そして、帝国兵達が好き勝手に騒いでいると、兎人族にニヤついた笑みを浮かべていた小隊長と呼ばれた男が、ようやく嫌悪感を顕にしているハジメの存在に気がついた。
「あぁ? お前誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな?」
ハジメは、帝国兵の態度から素通りは無理だろうなと思いながら、兎人族達を一歩下がらせ、会話に応じることにした。
「ああ、お前達と同じ人間だ」
「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」
勝手に推測し、勝手に結論づけた小隊長は、さも自分の言う事を聞いて当たり前、断られることなど有り得ないと信じきった様子で、そう命令してくるのに対してハジメは冷めた口調を交えながら、肩を竦める。
「断る」
「……今、何て言った?」
「断ると言ってんだ。こいつらは今は俺のもの。あんたらには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」
聞き間違いかと問い返し、返って来たのは不遜な物言い。小隊長の額に青筋が浮かぶ。
「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」
「帝国兵だろ? 十全に理解している。あんたらに頭が悪いとは誰も言われたくないだろうな」
ハジメの煽りにスっと表情を消す小隊長。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気で俺を睨んでいる。その時、小隊長が、剣呑な雰囲気に背中を押されたのか、ハジメの後ろから出てきたユエに気がついた。
幼い容姿でありながら纏う雰囲気に艶があり、そのギャップからか、えもいわれぬ魅力を放っている美貌の少女に一瞬呆けるものの、ハジメの服の裾をギュッと握っていることからよほど近しい存在なのだろうと当たりをつけ、再び下碑た笑みを浮かべた。
「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃんえらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」
「そうか……」
その言葉にハジメは眉をピクリと動かし、コイツなら試しの練習になると思っていると、ユエは無表情でありながら誰でも分かるほど嫌悪感を丸出しにして、目の前の男が存在すること自体が許せないと言わんばかり、ユエが右手を掲げようとした。
「ユエ」
「……むぅ」
だが、その直前に制止の声が挟み、魔法を使うのを止めさせる。それに対して訝しそうなユエを尻目にハジメは小隊長に対して最後の言葉をかける。
「じゃ、お前等は俺の敵ってことでいいよな?」
「あぁ!? まだ状況が理解できてねぇのか! てめぇは、震えながら許しをこッ──!?」
「……じゃあな」
想像した通りにハジメが怯えないことに苛立ちを表にして怒鳴る小隊長だったが、その言葉が最後まで言い切られることはなかった。
なぜなら、一発の破裂音と共に、その頭部が砕け散ったからだ。眉間に大穴を開けながら後頭部から脳髄を飛び散らせ、そのまま後ろに弾かれる様に倒れる。何が起きたのかも分からず、呆然と倒れた小隊長を見る兵士達に追い打ちが掛けられた。
ドパァァンッ!と、一発しか聞こえなかった銃声は、同時に、六人の帝国兵の頭部を正確に吹き飛ばした。実際には六発撃ったのだが、ハジメの技能〝武芸百般〟の〝銃技〟のレベルが〝極〟になったことで射撃速度が早すぎて射撃音が一発分しか聞こえなかったのだ。
「脆ぇな……」
冷めた口調で目の前で息絶えてる死体を見てボソッとハジメは呟くと残りの帝国兵に目を向ける。
遅れて、突然、小隊長を含め仲間の頭部が弾け飛ぶという異常事態に兵士達が半ばパニックになりながらも、武器をハジメ達に向ける。
「流石は隊列は組めるように教わってるか……」
行動は迅速であることに流石は、実力至上主義を掲げてる帝国の兵士だと思う。が、その対応はハジメ相手には余りにも意味を成さない。
早速、帝国兵の前衛が飛び出し、後衛が詠唱を開始する。だが、その後衛組の足元に何かがコロンと転がってきた。黒い筒状の物体だ。何だこれ? と詠唱を中断せずに注視する後衛達だったが、次の瞬間には物言わぬ骸と化した。
ドガァンッ!!と、爆発音。この一撃で、密集していた十人程の帝国兵が即死するか、手足を吹き飛ばされるか、内臓を粉砕されて絶命し、さらに七人程が巻き込まれ苦痛に呻き声を上げた。
背後からの爆風に、思わずたたらを踏む突撃中の前衛七人。何事かと、背後を振り向いてしまった六人は、直後、他の仲間と同様に頭部を撃ち抜かれて崩れ落ちていく。
「……」
血飛沫が舞い、それを頭から被った生き残りの一人の兵士が、力を失ったように、その場にへたり込む。無理もない。
ほんの一瞬で、十数人いた仲間が殲滅されたのである。彼等は決して弱い部隊ではない。むしろ、上位に勘定しても文句が出ないくらいには精鋭だろう。
それ故に、その兵士は悪い夢でも見ているのでは? と呆然としながら視線を彷徨わせていた。
「……」
ハジメはそんな兵士の感情など気にせず、人間相手だったら〝纏雷〟すら使わずに通常弾と炸薬だけで十分だという事に分かったことに頷いてるだけだ。そして、確認を終えたハジメは一人だけ生き残った兵士に声をかけた。
「……おい」
「ひぃ、く、来るなぁ! い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か!助けてくれ!」
命乞いをしながら這いずるように後退る兵士。その顔は恐怖に歪み、股間からは液体が漏れてしまっている。しかしハジメは、冷めた目でそれを見下ろし、おもむろに銃口を兵士の背後に向けると連続して発砲していく。
「ひぃ!」
兵士が身を竦めるが、その体に衝撃はない。ハジメが撃ったのは、手榴弾で重傷を負っていた背後の兵士達だからだ。それに気が付いたのか、生き残りの兵士が恐る恐る背後を振り返り、今度こそ隊が全滅したことを眼前の惨状を持って悟った。
振り返ったまま硬直している兵士の頭にゴリッと銃口が押し当てられる。再び、ビクッと体を震わせた兵士は、醜く歪んだ顔で再び命乞いを始めた。
「た、頼む! 殺さないでくれ! な、何でもするから! 頼む!」
「そうか……なら、他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだが……全部、帝国に移送済みか?」
まだ近くにいるなら助けておきたいハジメ。しかし、帝国に移送済みなら断念せざるを得ない。
「……は、話せば殺さないか?」
「さぁな、てめぇの回答次第なら考えるが……それとも今すぐ仲間達の元へ逝くか?」
「ま、待ってくれ! 話す! 話すから! ……多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」
兵士の言葉の中の〝絞った〟と言う言葉にハジメは僅かに少し反応してしまい、自然と聞いてしまう。
「……それは老人とかの兎人族は殺したということか?」
「あ、あぁ!そうだ!」
帝国兵の言葉を聞いて、ゴミを見るような視線を向けながらハジメは即座に決断した。
「……やっぱ俺、
ハジメは吐き捨てる感じで口にする。〝人数を絞った〟それは、つまり老人など売れそうにない兎人族は殺したということだろう。兵士の言葉に、悲痛な表情を浮かべる兎人族達。
ハジメは、その様子をチラッとだけ見やり、直ぐに視線を兵士に戻すともう用はないと瞳に殺意を宿し、帝国兵が命乞いをする前に……
「待て! 待ってくれ! 他にも何でも話すから! 帝国のでも何でも! だかっ──」
「黙れ、てめぇと話すのも疲れた」
躊躇なく引き金を引いて、一発の銃弾を放った。
息を呑む兎人族達。あまりに容赦のないハジメの行動に完全に引いているようである。その瞳には若干の恐怖が宿っていた。それはシアも同じだったのか、おずおずとハジメに尋ねてきた。
「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」
「……言ったろ? お前と違って俺はそんなに優しい善人じゃないって」
ハジメはシアにそう告げるとシアは「うっ」と唸るが、まだ納得してない様子にハジメは言葉を漏らす。
「………甘すぎる」
シア達の表情を見て、少し苛立ちが湧く。自分達の同胞を殺して、奴隷にしようとした相手にも慈悲を持つことに、とことん温厚というか駄目な例の平和主義者達だとハジメは、自分の過去含めて、シア達に呆れていると、その機先を制するようにユエが反論した。
「……一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎ」
「そ、それは……」
「……そもそも、あなた達を守ってるハジメにそんな目を向けるのはお門違い」
「……」
ユエは静かに怒っていた。ハジメは別に構わないが守られておきながら、ハジメに向ける視線に負の感情を宿すなど許さないのだろう。ホントに優しい女性である。ユエの言葉で、兎人族達もバツが悪そうな表情をしている。
「ふむ、ハジメ殿、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」
「ハジメさん、すみません」
シアとカムが代表して謝罪するが、ハジメは気にしてないという様に手をヒラヒラと振り言葉を続けた。
「気にすんな、お前達にとって、こういう光景を見るのは初めてかもしれないし、それならば当然の反応だ」
そう言い終えてハジメは、無傷の馬車や馬のところへ行き、兎人族達を手招きする。樹海まで徒歩で半日くらいかかりそうなので、せっかくの馬と馬車を有効。魔力駆動二輪を〝宝物庫〟から取り出し馬車に連結させる。馬に乗る者と分けて一行は樹海へと進路をとる。
「あ」
が、その前にやっておくことがあるためハジメは傍にいるユエに話しかける。
「ユエ、帝国兵達の死体を頼めるか?」
「……ん、わかった」
ハジメの頼みに応えたユエは無残な帝国兵の死体を風の魔法で吹き飛ばし谷底に落としていく。
少し雑だが、帝国からの追ってを避ける為に証拠隠滅したハジメは二輪車を走らせる。後にはただ、彼等が零した血だまりだけが残されただだけであったのだった……。
編集しました。十一月四日