ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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十八話 ハルツィナ樹海

 

七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国フェアベルゲンを抱える【ハルツィナ樹海】を前方に見据えて、ハジメが魔力駆動二輪で牽引する大型馬車二台と数十頭の馬が、それなりに早いペースで平原を進んでいた

頃、ユエがハジメに傍により首を少し掲げながら声をかけてきた。

 

「……ハジメ、どうして一人で戦ったの?」

 

「ん?」

 

ユエが言っているのは帝国兵との戦いのことだ。あの時、魔法を使おうとしたユエを制止して、ハジメは一人で戦うことを選んだ。ユエが参加しようがすまいが結果は〝瞬殺〟以外には有り得なかっただろうが、どうも帝国兵を倒した後のハジメは物思いに耽っているような気がしたらしく、ユエとしては気になっていたらしい

 

「ん~、まぁ、ちょっと確かめたいことがあってな……」

 

「……確かめたいこと?」

 

ユエが疑問顔で聞き返す。シアも肩越しに興味深そうな眼差しを向けている。

 

「ああ、それはな……俺の武器はどれくらい人間に通用するかの実験と俺にまだ殺しに躊躇いがあるかどうか知りたかったんだ」

 

「……どうだった?」

 

「あぁ、結果的に人相手には魔力を使わなくても大丈夫だし、人生初の殺しも何も感じなかったな。相手側があれだったからかもしれないが……」

 

「……そう、大丈夫?」

 

そう答えるとユエは心配そうに見つめながら話しかけるがハジメは、笑みを向けて伝える。

 

「ああ、何の問題もない。これが今の俺だし、これからもこの世界を生き抜くためには必要なことだし確認できて良かったさ」

 

そんなことを二人で話してると、後ろからシアが話しかけた。

 

「あの、あの! ハジメさんとユエさんのこと、教えてくれませんか?」

 

「? 俺達のことは話したろ?」

 

「いえ、能力とかそいうことではなくて、なぜ、奈落? という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、お二人自身のことが知りたいです」

 

「……聞いてどうするの?」

 

ユエの問いにシアは答える。

 

「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。……私、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけました。小さい時はそれがすごく嫌で……もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれましたし、今は、自分を嫌ってはいませんが……それでも、やっぱり、この世界のはみだし者のような気がして……だから、私、嬉しかったのです。

お二人に出会って、私みたいな存在は他にもいるのだと知って、一人じゃない、はみだし者なんかじゃないって思えて……勝手ながら、そ、その、な、仲間みたいに思えて……だから、その、もっとお二人のことを知りたいといいますか……何といいますか……」

 

シアは話の途中で恥ずかしくなってきたのか、次第に小声になってハジメの背に隠れるように身を縮こまらせた。

 

「……」

 

確かに、この世界で、魔物と同じ体質を持った奴など受け入れがたい存在だろうし仲間意識を感じてしまうのも無理はないだろう。

 

「はぁ……面白い話じゃないが暇潰しにはなるしな」

 

「!、ありがとうございますっ」

 

そして、ハジメとユエはこれまでの経緯をシアに話すことにした。

 

結果……

 

「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ。ハジメさんもユエさんもがわいぞうですぅ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

結果、号泣した。滂沱の涙を流しながら「私は、甘ちゃんですぅ」とか「もう、弱音は吐かないですぅ」や始末には「ハジメさんの恋人ってユエさんじゃないんですか?!」と驚きの声を上げたりしてる。

そして、さり気なく、ハジメのコートで顔を拭いている。どうやら、自分は大変な境遇だと思っていたら、ハジメとユエが自分以上に大変な思いをしていたことを知り、不幸顔していた自分が情けなくなったらしいがハジメが優花の事を話すと更に驚いていた。

 

しばらくして、メソメソしていたシアだが、突如、決然とした表情でガバッと顔を上げると拳を握り元気よく宣言してきた。

 

「ハジメさん! ユエさん! 私、決めました! お二人の旅に着いていきます! これからは、このシア・ハウリアが陰に日向にお二人を助けて差し上げます! 遠慮なんて必要ありませんよ。私達はたった三人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

 

「「…………」」

 

何、言ってんだコイツ。とハジメとユエは呆れた顔をしていると、ユエが更に追撃するように、言葉をかける。

 

「……現在、守られてばっかのウサギが何を言う」

 

「そ、それは……」

 

「……(そういうことか)」

 

現状はさておき、シアの発言と表情、彼女の過去で何となく目的を察しついたハジメはシアの核心を突いた言葉をかける。

 

「……シアお前、単純に旅の仲間が欲しいだけだろ?」

 

「!?」

 

その言葉に、シアの体がビクッと跳ねたのを見てハジメはやっぱりか、と呟いた。シアの魂胆に確信したハジメは更に言葉を続けていく。

 

「一族の安全が一先ず確保できたら、お前、アイツ等から離れる気なんだろ? そこにうまい具合に〝同類〟の俺らが現れたから、これ幸いに一緒に行くってか?そんな珍しい髪色の兎人族なんて、一人旅できるとは思えないしな」

 

「……あの、それは、それだけでは……私は本当にお二人を……」

 

「別に、責めているわけじゃないんだ。だがな、変な期待はするな。俺達の目的は七大迷宮の攻略とこの世界の神を殺すことなんだ。おそらく、オルクスの奈落と同じで本当の迷宮の奥は化物揃いだ。今のシアだと俺であっても守り切れない場合がある。だからすまないが同行を許すつもりは毛頭ない」

 

「…………」

 

ハジメの全く容赦ない言葉にシアはウサ耳をペタンと垂らしながら、落ち込んだように黙り込んでしまった。

 

「………」

 

ハジメはシアに内心申し訳ないと思いながら、歩を進めていく。その後のシアは、それからの道中、大人しく二輪の座席に座りながら、何かを考え込むように難しい表情をしていた。

 

それから数時間して、遂に一行は【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。ハジメは樹海を目で初めて見るので、期待していたがただの森にしか見えなかった。

 

「ここが、樹海か……(想像以上の規模だな)」

 

地球にないであろう規模が大きい樹海にハジメは目を見開いた。

 

樹海は、外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えない。だが、王国図書館にあった本の内容通りであれば一度中に入ると直ぐさま霧に覆われ方向感覚を失ってしまうらしい。

 

「それでは、ハジメ殿、ユエ殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。お二人を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

 

「ああ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

 

カムが、ハジメに対して樹海での注意と行き先の確認をする。カムが言った〝大樹〟とは、【ハルツィナ樹海】の最深部にある巨大な一本樹木で、亜人達には〝大樹ウーア・アルト〟と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づくものはいないらしいと峡谷脱出時にカムから聞いた話だ。

 

ハジメはカムの話を聞いて、樹海に向かいながらある仮説を立てていた。カムの話を聞く限りだと、【ハルツィナ樹海】そのものが大迷宮じゃなくその大樹が大迷宮の入口の可能性が十分に高いと思われる。

 

そして、カムは、ハジメの言葉に頷くと周囲の兎人族に合図をしてハジメ達の周りを固めていく。

 

「ハジメ殿、できる限り気配は消してもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」

 

「ああ、承知している。俺もユエも、ある程度、隠密行動はできるから大丈夫だ」

 

ハジメは、そう言うと〝気配遮断〟を使う。ユエも、奈落で培った方法で気配を薄くした。

 

「ッ!? これは、また……ハジメ殿、できればユエ殿くらいにしてもらえますかな?」

 

「ん?……こんなもんか?」

 

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いやー、全く、流石ですな!」

 

そうえば、兎人族は全体的にスペックが低い分、隠密行動には秀ているだはずだと首を傾げる中、カムは、人間族でありながら自分達の唯一の強みを凌駕され、もはや苦笑いだった。

隣では、何故かユエが自慢げに胸を張っている。シアは、どこか複雑そうだった。大概、ハジメの言う実力差を改めて示されたせいだろう。

 

「それでは、行きましょうか」

 

カムの号令と共に準備を整えた一行は、カムとシアを先頭に樹海へと踏み込んだ。

 

しばらく、道ならぬ道を突き進む。直ぐに濃い霧が発生し視界を塞いでくる。しかし、カムの足取りに迷いは全くなく、ハジメは言葉を発せずとも感心していた。

 

「……」

 

流石は亜人族というべきか、こんな濃い霧が充満してる場所でも現在位置も方角も完全に把握している。これだと、樹海の中でも正確に現在地も方角も把握できるている可能性も高いと思われる。

 

順調に進んでいると、突然カム達が立ち止まり、周囲を警戒し始めた。

 

「……魔物か」

 

ハジメが感知すると隣のユエも感知した。どうやら、複数匹の魔物に囲まれていることがわかった。樹海に入るに当たって、ハジメが貸し与えたナイフ類を構える兎人族達。彼等は本来なら、その優秀な隠密能力で逃走を図るのだそうだが、今回はそういうわけには行かない。皆、一様に緊張の表情を浮かべているがハジメはそんな彼等に手で待て、とサインしながら気配が強まる方へ視線を向ける。

 

「……そこか」

 

ハジメは魔物位置をある程度把握し、左手を素早く水平に振った。微かに、パシュという射出音が連続で響く。

 

直後、

 

「「「キィイイイ!?」」」

 

ドサッ!と、三つの何かが倒れる音と悲鳴が聞こえた。そして、慌てたように霧をかき分けて、腕を四本生やした体長六十センチ程の猿のような魔物が三匹踊りかかってきた。

 

「ユエ」

 

「……ん」

 

ハジメが呼びかけるとユエは応じて、猿の内、一匹に向けてユエが手をかざし、一言囁くように呟く。

 

「〝風刃〟」

 

魔法名と共に風の刃が高速で飛び出し、空中にある猿を何の抵抗も許さずに上下に分断する。その猿は悲鳴も上げられずにドシャと音を立てて地に落ちた。

 

「残りは……チッ、分かれたな」

 

ある程度の知能はあると分かって、舌打ちするハジメ。分かれた一匹は近くの子供に、もう一匹はシアに向かって鋭い爪の生えた四本の腕を振るおうとする。シアも子供も、突然のことに思わず硬直し身動きが取れない。咄嗟に、近くの大人が庇う。

 

「大丈夫だ、安心しろ」

 

ハジメが怯える兎人族達に声をかけつつ左腕を振り、パシュ!という音と共にシアと子供へと迫っていた猿の頭部に十センチ程の針が無数に突き刺さって針に付けられた毒に侵され絶命させた。

 

「あ、ありがとうございます、ハジメさん」

 

「お兄ちゃん、ありがと!」

 

ハジメがニードルガンの確認をしてるとシアと子供(男の子)が窮地を救われ礼を言う。

 

「気にするな、二人共ケガは無いか?」

 

「うんっ、大丈夫だよ」

 

男の子のハジメを見る目はキラキラだ。シアは、突然の危機に硬直するしかなかった自分にガックリと肩を落とした。その様子にハジメもカムも苦笑いする。

 

「ここで留まる訳にいかないし、また襲ってきたら埒があかん行くぞ」

 

気を取り直すように兎人族達に声をかけたハジメは促して先導を再開させていく。

 

その後も、ちょくちょく魔物に襲われたが、ハジメとユエが静かに片付けていった。樹海の魔物は、一般的には相当厄介なものとして認識されているのだが、何の問題もなく終わった。

 

しかし、樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれており、ハジメは立ち止まって後ろにいるカム達の歩みを止まらせると、奥の方へと声をかける。

 

「……誰だ?」

 

魔物じゃない。この気配に、数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。

 

そして、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。シアに至っては、その顔を青ざめさせている。

 

ハジメは既に検討はついており、面倒そうにしてると、ユエも相手の正体に気がついたのか、ハジメと同じように面倒そうな表情になる。

 

そして、相手もカム達やハジメを見て正体を現した。

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

「あ、あの私達は……」

 

カムが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシアを捉え、その眼が大きく見開かれる。

 

「白い髪の兎人族…だと?……貴様ら……報告のあったハウリア族っ。この、亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する!総員かッ──!?」

 

虎の亜人が問答無用で攻撃命令を下そうとしたその瞬間、ハジメの腕が跳ね上がり、ドパンっと響く銃声と共に一条の閃光が彼の頬を掠めて背後の樹を抉り飛ばし樹海の奥へと消えていった。

理解不能な攻撃に凍りつく虎の亜人の頬に擦過傷が出来る。もし人間のように耳が横についていれば、確実に弾け飛んでいただろう位置。聞いたこともない炸裂音と反応を許さない超速の攻撃に誰もが硬直してしまっている。

 

そこに、続けてハジメは〝威圧〟を発動。圧倒的な重圧に虎の亜人達は全身が硬直したかのように固まってしまう。

 

「余り手荒な真似はしたくない。話し合えるなら話をしないか? まぁ……しなかったら敵と判断して腕一本は覚悟しろ」

 

「な、なっ……詠唱がっ……」

 

「後、そこにもいるんだろ? 気配と殺気が駄々漏れだ。てめぇ等も殺るというのなら容赦はしない。こいつらの命は俺が保障しているからな……ただの一人でも逃がさねぇぞ?」

 

詠唱もなく、見たこともない強烈な攻撃を連射出来る上、味方の場所も把握して制圧されていることに思わず吃る虎の亜人。

それを証明するように、ハジメは自然な動作でシュラークを抜きピタリと、とある方向へ銃口を向けた。その先には、奇しくも虎の亜人の腹心の部下がいる場所だった。霧の向こう側で重圧に耐えながら動揺している気配がする。

 

あまりに濃厚なそれを真正面から叩きつけられている虎の亜人は冷や汗を大量に流しながら、ヘタをすれば恐慌に陥って意味もなく喚いてしまいそうな自分を必死に押さえ込んでいるそうに見える。

 

「……」

 

ハジメは未だに喋ろうとせずに睨むだけの虎人族の反応を見て最終通告を告げる。

 

「最後の通告だ。話に応じてくれるなら、こちらも戦闘態勢は辞める。さぁ選べ、敵対して全滅するか話合うか」

 

虎の亜人は確信した。ここで断ると下した瞬間、先程の閃光が一瞬で自分達を蹂躙することを。その場合、万に一つも生き残れる可能性はないということを確信したのか、観念した虎の亜人はハジメに話しかける。

 

「……貴様の要件を飲む前に、一つ聞きたい」

 

「あぁ、いいだろう」

 

虎の亜人は必死に恐怖に耐え掠れそうになる声に必死で力を込めてハジメに尋ね、ハジメは了承する。

 

「……何が目的だ?」

 

虎の亜人の質問にハジメは平然と返す。

 

「俺の目的は樹海の深部、大樹の下へ行きたいだけだ」

 

「大樹の下へ……だと? 何のために?」

 

「そこに、本当の大迷宮への入口があるかもしれないからだ。俺達はある目的の為に七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内のために雇ったんだ。お前達が思うような奴隷にする為に此処に来たわけじゃない」

 

「そうか…だが本当の迷宮? 何を言っている?七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

 

「いや、それはおかしい」

 

「なんだと?」

 

妙に自信のあるハジメの断言に虎の亜人は訝しそうに問い返した。

 

「大迷宮というには、ここの魔物は弱すぎる」

 

「弱い?」

 

「そうだ。大迷宮の魔物ってのは、どいつもこいつも化物揃いだ。少なくとも【オルクス大迷宮】の奈落はそうだった。それに……」

 

「なんだ?」

 

「大迷宮というのは、〝解放者〟達が残した試練なんだ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろ? それじゃあ、試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮ってのはおかしいんだよ」

 

「…………」

 

ハジメの話を聞き終わり、虎の亜人は困惑を隠せなかった。それを見たハジメも流石に理解するのは難しいかと思い、更に言葉を続けようとした。しかし、それよりも前に虎の亜人はハジメに提案する。

 

「……いや、お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」

 

その言葉に、周囲の亜人達が動揺する気配が広がった。樹海の中で、侵入して来た人間族を見逃すということが異例だからだろう。

 

「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

 

「……そうか」

 

ハジメは虎人族の提案に中々理性的な者がいて助かったと安堵しながら素直に提案を応じることにして〝威圧〟を解く。すると、虎の亜人含めて全員がホッと安堵の息を吐いた。

 

「……いいだろう。お前の提案に応じるがさっきの言葉、曲解せずにちゃんと伝えろよ?」

 

「無論だ。ザム! 聞こえていたな! 長老方に余さず伝えろ!」

 

「了解!」

 

虎の亜人の言葉と共に、気配が一つ遠ざかっていった。

 

ハジメは、それを確認するともう良いだろうと思い、スっと構えていたドンナーを太もものホルスターに納めた。が、一応、虎の亜人に対して忠告する。

 

「一応、武器は納めたが、お前等が攻撃するより、俺の魔法の方が早い……試してみるか?」

 

そう言ってハジメは手から紅いスパークを走らせるところを見せつけると、虎の亜人は首を横に振った。

 

「……安心しろ。先程も言った通りお前達に危害を加えない。だが、下手な動きはするなよ。我らも動かざるを得ない」

 

「わかってるさ、ただの冗談だ、笑えるだろ?」

 

「……笑えん」

 

ハジメのジョークは亜人ウケではないらしい。

 

 

 

──数十分後。

 

ハジメ達が待ってると奥から、新たな気配を感じたハジメは感じた方向へ視線を向け一言。

 

「来たか……」

 

すると、霧の奥からは、数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる初老の男が特に目を引く。流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる。

 

「あれはエルフ……いや、この世界では森人族だったか?」

 

こちらに近付くエルフ改め、森人族を初めて見たことに、ハジメは内心

、素直に喜んでいると、森人族の男性がハジメに声をかける。

 

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね? 名は何という?」

 

「ハジメだ。南雲ハジメ。あんたは?」

 

ハジメの言葉遣いに、周囲の亜人が長老に何て態度を! と憤りを見せる。それを、片手で制すると、森人族の男性も名乗り返した。

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」

 

「オルクス大迷宮の奈落の底。解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」

 

「ふむ、奈落の底か……聞いたことがないがな……証明できるか?」

 

「あぁ、オスカー・オルクスの遺品とその奈落の魔物の魔石ならあるぞ」

 

ハジメはアルフレリックは大迷宮をちゃんと知る者だと判断し、〝宝物庫〟から地上の魔物では有り得ないほどの質を誇る魔石をいくつか取り出し、アルフレリックに渡す。

 

「こ、これは……こんな純度の魔石、見たことがないぞ……」

 

「なっ!?」

 

アルフレリックも内心驚いていてたが、隣の虎の亜人が驚愕の面持ちで思わず声を上げた。

 

「後は、これ。一応、オスカー・オルクスが付けていた指輪だ……」

 

そう言って、ハジメはオスカー・オルクスの指輪を見せた。アルフレリックは、その指輪に刻まれた紋章を見て目を見開いた。そして、気持ちを落ち付かせるようにゆっくり息を吐く。

 

「なるほど……確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

アルフレリックの言葉に、周囲の亜人族達だけでなく、カム達ハウリアも驚愕の表情を浮かべた。虎の亜人を筆頭に、猛烈に抗議の声があがる。それも当然だろう。かつて、フェアベルゲンに人間族が招かれたことなど無かったのだから。

 

「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」

 

「待て。何勝手に予定を決めてるんだ? 俺は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はない。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてもらう」

 

「いや、お前さん。それは無理だ」

 

「はぁ? なんでだよ?」

 

ハジメの疑問にむしろ、アルフレリックの方が困惑したように言葉に返した。

 

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」

 

「はぁっ?!」

 

アルフレリックは、「今すぐ行ってどうする気だ?」とハジメを見たあと、案内役のカムを見る。初めて知った情報にハジメも乗じながらアルフレリックと同じようにカムを見る。

 

「あっ」

 

カムは、まさに、今思い出したという表情をしていた。ハジメは流石に苛立ちを覚えたが、怒っても意味ないと呆れながらジト目でカムを見る。ユエも同じようにジト目でカムを見ている。

 

「……カム?」

 

「あっ、いや、その何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか……私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか……」

 

しどろもどろになって必死に言い訳するカムだったが、ハジメとユエのジト目に耐えられなくなったのか逆ギレしだした。

 

「ええい、シア、それにお前達も! なぜ、途中で教えてくれなかったのだ! お前達も周期のことは知っているだろ!」

 

「なっ、父様、逆ギレですかっ! 私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って……つまり、父様が悪いですぅ!」

 

「そうですよ、僕たちも、あれ? おかしいな? とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって……」

 

「族長、何かやたら張り切ってたから……」

 

逆ギレするカムに、シアが更に逆ギレし、他の兎人族達も目を逸らしながら、さり気なく責任を擦り付ける。

 

見てられないとハジメは呆れて片手で頭に当て天を見上げているがカム達はまだ言い争っている。

 

「お、お前達! それでも家族か! これは、あれだ、そう! 連帯責任だ! 連帯責任! ハジメ殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」

 

「あっ、汚い! お父様汚いですよぉ! 一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」

 

「族長! 私達まで巻き込まないで下さい!」

 

「バカモン! 道中の、ハジメ殿の容赦のなさを見ていただろう! 一人でバツを受けるなんて絶対に嫌だ!」

 

「あんた、それでも族長ですか!」

 

亜人族の中でも情の深さは随一の種族といわれる兎人族。彼等は、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら互いに責任を擦り付け合っていた。情の深さは何処に行ったのか……流石、シアの家族である。総じて、残念なウサギばかりだった。

 

呆れた表情を浮かべたハジメが、一言、ポツリと呟く。

 

「……お前等、言い争いはやめろ、みっともねぇ」

 

「ん」

 

ハジメの言葉を告げるとユエも同意し、ハウリア達も言い争いをやめ、カムは恐る恐るハジメに質問した。

 

「ハ、ハジメ殿、お、怒ってますか?」

 

「いや、大丈夫だ怒ってはない。ただ呆れてるだけだ」

 

「す、すみません」

 

「まぁ、良い……アルフレリックの言う通りならこのままフェアベルゲンに向かうぞ」

 

「はい……」

 

ハジメ達はそのまま、アルフレリックの案内の下、亜人族達の住処のフェアベルゲンへ向かったのだった……。

 





編集しました。十一月五日
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