ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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二十六話 ミレディの神代魔法

 

辺りにもうもうと粉塵が舞い、地面には放射状のヒビが幾筋も刻まれている。激突した浮遊ブロックが大きなクレータを作っており、その上に胸部から漆黒の杭を生やした巨大なゴーレムが横たわっていた。

 

そのミレディ・ゴーレムの上で、ドリュッケンを支えにしてゼハァゼハァと息を荒げるシアのもとに、ハジメとユエがやって来た。ハジメは感心したように目を細め、ユエは優しげな眼差しを向けている。

 

「やったじゃねぇかシア。最後のは凄い気迫だった。見直したぞ?」

 

「……ん、頑張った」

 

「えへへ、有難うございますぅ〜」

 

疲れた表情を見せながらも、ハジメとユエの称賛にはにかむシア。実際、つい最近まで、争いとは無縁だったとは思えない活躍だった。それはひとえに、ハジメやユエと同じステージに立ちたい、ずっと一緒にいたいというシアの願いあってのことだろう。

深く強いその願いが、シアの潜在能力と相まって七大迷宮最大の試練と正面から渡り合わせ、止めを刺すというこれ以上ない成果を生み出したのだろう。

 

ハジメは優しい眼差しをシアに向けながら彼女の頭を撫で称賛した。

 

「ホントによく頑張った、シア」

 

「ふぇ...。あっ、はい。ありがとうございますぅ……」

 

「……ハジメ、私にも撫でて」

 

「クハッ……はいよ」

 

可愛いなと思いながらハジメは要望通りにユエの頭も撫でていると後ろから声が聞こえた。

 

「あのぉ~、いい雰囲気で悪いんだけどぉ~、そろそろヤバイんで、ちょっといいかなぁ~?」

 

物凄く聞き覚えのある声。ハジメがハッとしてミレディ・ゴーレムを見ると、消えたはずの眼の光がいつの間にか戻っていることに気がつき安堵した。

 

「やっと、起きたか、ミレディ」

 

「あっれれぇ〜、私がまだ生きてると気づいてたの〜?」

 

「まぁな、魔力の核から反応があるからな」

 

ハジメはミレディの疑問に対して〝魔眼石〟で見抜いていたことを答え、続けて、ある事を教えて貰おうと聞く。

 

「ミレディ、お前は他の大迷宮の場所を覚えてるか? 今じゃ把握されてる大迷宮は少ないか……覚えてるなら教えて欲しいんだ」

 

「あぁ、そうなんだね。……そっか、迷宮の場所がわからなくなるほど……長い時が経ったんだね……うん、場所……場所はね……」

 

ミレディ・ゴーレムは声が力を失い始める。どこか感傷的な響きすら含まれた声に、ユエやシアが神妙な表情をする。長い時を、使命、あるいは願いのために意志が宿る器を入れ替えてまで生きた者への敬意を瞳に宿した。

 

ミレディは、ポツリポツリと残りの七大迷宮の所在を語っていく。中には驚くような場所にあるようだ。

 

そして、オスカーの時は記録映像では語られなかった【遺跡】とは何かと聞くがミレディは「分からない」と答えた。

 

「【遺跡】はミレディさんが産まれる前よりもあったからね。でも、そういう事に詳しい友達から聞いた話だと【遺跡】とは神からの人間に対する試練らしい」

 

「……神からの試練、ね」

 

【遺跡】の謎が更に深まった事に残念なハジメだが、遺跡については興味本位で聞いてるだけなので簡単に割り切ることにした。

 

「以上だよ……頑張ってね」

 

「……感謝する。しかし、あのウザったい口調やらはどうしたんだ?」

 

ハジメの言った通り、今のミレディは、迷宮内のウザイ文を用意したり、あの人の神経を逆なでする口調とは無縁の誠実さや真面目さを感じさせた。戦闘前の目的を聞いたときに垣間見せた、おそらく彼女の素顔が出ているのだろう。

消滅を前にして取り繕う必要がなくなったということなのかもしれないと思うが……

 

「あはは、ごめんね~。でもさ……あのクソ野郎共って……ホントに嫌なヤツらでさ……嫌らしいことばっかりしてくるんだよね……だから、少しでも……慣れておいて欲しくてね……」

 

「……そうか。ん?」

 

ハジメはミレディの発言におかしな部分があると感じていると、ミレディ・ゴーレムの体は燐光のような青白い光に包まれていた。その光が蛍火の如く、淡い小さな光となって天へと登っていく。死した魂が天へと召されていくようだ。とても、とても神秘的な光景である。

 

その時、おもむろにユエがミレディ・ゴーレムの傍へと寄って行った。既に、ほとんど光を失っている眼をジッと見つめる。

 

「何かな?」

 

囁くようなミレディの声。それに同じく、囁くようにユエが一言、消えゆく偉大な〝解放者〟の一人に言葉を贈っていた。

 

「……お疲れ様。よく頑張りました」

 

「…………」

 

それは労いの言葉。たった一人、深い闇の底で希望を待ち続けた偉大な存在への、今を生きる者からのささやかな贈り物。本来なら、遥かに年下の者からの言葉としては不適切かもしれない。だが、やはり、これ以外の言葉を、ユエは思いつかなかった。

ミレディにとっても意外な言葉だったのだろう。言葉もなく呆然とした雰囲気を漂わせている。やがて、穏やかな声でミレディがポツリと呟く。

 

「……ありがとね」

 

「……ん」

 

「……さて、時間の……ようだね……君達のこれからが……自由な意志の下に……あらんことを……」

 

オスカーと同じ言葉をハジメ達に贈り、〝解放者〟の一人、ミレディは淡い光となって天へと消えていった。辺りを静寂が包み、余韻に浸るようにユエとシアが光の軌跡を追って天を見上げる。

 

「……最初は、性根が捻じ曲がった最悪の人だと思っていたんですけどね。ただ、一生懸命なだけだったんですね」

 

「……ん」

 

どこかしんみりとした雰囲気で言葉を交わすユエとシア。しかし、ハジメはある仮説を立てていたので、しんみりとせず、二人に先を行こうと促すように言った。

 

「ユエ、シア、そのゴーレムは無視して、そろそろ向こうに行くぞ」

 

「ちょっと、ハジメさん。そんな死人にムチ打つようなことを。ヒドイですよ。まったく空気読めないのはハジメさんの方ですよ」

 

「……ハジメ、KY?」

 

「違う。俺はそれがもぬけの殻だから言ってるだけだ」

 

ハジメの言葉に二人は首を傾げるも、ハジメは、いつの間にか壁の一角が光を放っていることに気がつき、その場所に向かう。上方の壁にあるので浮遊ブロックを足場に跳んでいこうと、ブロックの一つに三人で跳び乗った。と、その途端、足場の浮遊ブロックがスィーと動き出し、光る壁まで運んでいった。

 

「……はぁ」

 

「わわっ、勝手に動いてますよ、これ。便利ですねぇ」

 

「……サービス?」

 

勝手にハジメ達を運んでくれる浮遊ブロックにシアは驚き、ユエは首をかしげる。ハジメは推測していた事がかなり当たっていることに大きく溜息を吐いた。

 

十秒もかからず光る壁の前まで進むと、その手前五メートル程の場所でピタリと動きを止めた。すると、光る壁は、まるで見計らったようなタイミングで発光を薄れさせていき、スっと音も立てずに発光部分の壁だけが手前に抜き取られた。奥には光沢のある白い壁で出来た通路が続いている。

 

ハジメ達の乗る浮遊ブロックは、そのまま通路を滑るように移動していく。どうやら、ミレディ・ライセンの住処まで乗せて行ってくれるようだ。

 

「ハア………」

 

変に上手い演出してることに溜息を吐き、そうして進んだ先には、オルクス大迷宮にあったオスカーの住処へと続く扉に刻まれていた七つの文様と同じものが描かれた壁があった。近づくと、やはりタイミングよく壁が横にスライドし奥へと誘う。浮遊ブロックは止まることなく壁の向こう側へと進んでいった。

 

くぐり抜けた壁の向こうにいたのは……

 

「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」

 

ちっこいミレディ・ゴーレムがいた。

 

「「…………」」

 

「ほら、やっぱりな」

 

言葉もないユエとシア。ハジメは立てていた仮説が綺麗に当たってウンザリした表情をしていた。

 

「あれっれぇ〜、白髪の子は分かってたの〜?」

 

「まぁな、冷静になって考えると分かるだろ? だって、ミレディお前は、意思を残して自ら挑戦者を選定する方法をとっている。だとしたら、一度の挑戦者が現れ撃破されたらそれっきり等という事は有り得ない。それでは、一度のクリアで最終試練がなくなってしまうだろ」

 

「おお〜、分かってるじゃあ〜ん」

 

ハジメの応えにミレディは「正解!ピンポンピンポンッ〜」感じで感嘆していた。すると黙り込んで顔を俯かせるユエとシアの二人に、ミレディが非常に軽い感じで話しかける。

 

「あれぇ? あれぇ? そっちテンション低いよぉ~? もっと驚いてもいいんだよぉ~? あっ、それとも驚きすぎても言葉が出ないとか? だったら、ドッキリ大成功ぉ~だね☆」

 

ちっこいミレディ・ゴーレムは、巨体版と異なり人間らしいデザインだ。華奢なボディに乳白色の長いローブを身に纏い、白い仮面を付けている。ニコちゃんマークなところが微妙に腹立たしい。

そんなミニ・ミレディは、語尾にキラッ!と星が瞬かせながら、眼前までやってくる。未だ、ユエとシアの表情は俯き、垂れ下がった髪に隠れてわからない。

 

「おいおい、ちょっと……」

 

ハジメは先の展開を読めるので一歩距離をとって、数秒後に起きることの被害から回避する。ユエがシアがぼそりと呟くように質問する。

 

「……さっきのは?」

 

「ん~? さっき? あぁ、もしかして消えちゃったと思った? ないな~い! そんなことあるわけないよぉ~!」

 

「でも、光が昇って消えていきましたよね?」

 

「ふふふ、中々よかったでしょう? あの〝演出〟! やだ、ミレディちゃん役者の才能まであるなんて! 恐ろしい子!」

 

テンション上がりまくりのミニ・ミレディ。比例してウザさまでうなぎ上りだ。そんなミニ・ミレディを前にして、ユエは手を前に突き出し、シアはドリュッケンを構えた。流石に、あれ? やりすぎた? と動きを止めるミニ・ミレディ。

 

「え、え~と……」

 

ゆらゆら揺れながら迫ってくるユエとシアに、ミニ・ミレディは頭をカクカクと動かし言葉に迷う素振りを見せると意を決したように言った。

 

「テヘ、ペロ☆」

 

「……死ね」

 

「死んで下さい」

 

「ま、待って! ちょっと待って! このボディは貧弱なのぉ! これ壊れたら本気でマズイからぁ! 落ち着いてぇ! 謝るからぁ!」

 

しばらくの間、ドタバタ、ドカンバキッ、いやぁーなど悲鳴やら破壊音が聞こえていたが、ミレディが「助けてぇ〜!」と口走りながら手を合わせていたハジメの背後に回り、二人の悪鬼に対する盾にしようとしている。

 

「……ハジメどいて、そいつ殺せない」

 

「退いて下さい。ハジメさん。そいつは殺ります。今、ここで」

 

「お前等、もう落ち着け。ミレディも二人を余り煽るな」

 

「………ん」

 

「はいですぅ…」

 

「アハハー」

 

ハジメは二人とミレディに注意してミレディの方へ視点を転じた。

 

「それとミレディ、そろそろ神代魔法を渡してくれねぇか? 後、出来ればお前が騎士やゴーレムに使っていた〝感応石〟辺りの鉱石が欲しいんだが、良いか?」

 

「お、分かった〜。良いよ、少し待っててね〜」

 

ハジメの要件にミレディは承諾し、床に刻まれた魔法陣を起動させ、ハジメ達は魔法陣の中に入る。今回は、試練をクリアしたことをミレディ本人が知っているので、オルクス大迷宮の時のような記憶を探るプロセスは無く、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく。ハジメとユエは経験済みなので無反応だったが、シアは初めての経験にビクンッと体を跳ねさせた。

 

ものの数秒で刻み込みは終了し、あっさりとハジメ達はミレィ・ライセンの神代魔法を手に入れる。

 

得たのは〝重力魔法〟。ハジメは、ミレディとの戦闘から彼女が空間操作系か重力操作系の二つのどっちかだと踏んでいたが、当たりだったらしい。

 

「……やっぱり重力操作の魔法か」

 

「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってねって言いたいところだけど、君はそれなりに使えるけどウサギちゃんは適性ないねぇ~もうびっくりするレベルでないね!」

 

「そうか……」

 

「び、びっくりするほど………」

 

ミレディの言う通り、ハジメと特にシアは重力魔法の知識等を刻まれてもまともに使える気がしなかった。ユエが、生成魔法をきちんと使えないのと同じく、ハジメにも重力魔法の適性がないのだろう。

 

「まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。君は……生成魔法使えるんだから、それで何とかしなよ。金髪ちゃんは適性ばっちりだね。修練すればミレディさんみたいに十全に使いこなせるようになるよ。それに後、君になら……」

 

ミレディの幾分真面目な解説にハジメは肩を竦め、ユエは頷き、シアは打ちひしがれた。せっかくの神代魔法を適性なしと断じられ、使えたとしても体重を増減出来るだけ。ガッカリ感が凄まじい。

 

「後、君──ハジメンで良いや……はいっ、これ攻略の証と〝感応石〟だよ」

 

ミレディから攻略の証と沢山の鉱石が入った麻袋を貰ったハジメはミレディのニックネームに苦笑しつつ麻袋を〝宝物庫〟に収納する。

 

「なんだよ。ハジメンって、まぁ良いが……後、感謝する。有難く頂くよ」

 

「良いってことだよ〜。だって私の迷宮の初めての攻略者がクソ野郎共を殺すってことだからホントに嬉しいし、私達の目的を受け継いで貰えるだけでミレディさんは嬉しいよぉ〜」

 

「ミレディ……」

 

嬉しそうに話すミレディに、ハジメは少し頬が緩む。すると、ミレディが三人を呼びかける。

 

「ハジメン……後、ユエちゃんとシアちゃん」

 

「なんだ、ミレディ?」

 

真剣なのだろう真っ直ぐハジメ達を視線を向けてミレディは告げた。

 

「三人には必ず、私達〝解放者〟全員の神代魔法を手に入れること。ハジメンの望みのために絶対に必要だから……頑張ってねっ。神殺し! 私達の分までやっちゃって!」

 

ハジメ達はそんなミレディの声援を受け……

 

「あぁ、任せろ」

 

「……ん、任せて」

 

「はいですぅ〜!」

 

その声援を笑みを浮かべ応えた。

 

その返事を聞いたミレディはゴーレムだから分からないが嬉しそうに見えた気がした。

 

「ふふ……あっそうだ〜。そろそろ、地上に行きたいよね三人共」

 

「あぁ、そうだな神代魔法も手に入れたしな」

 

ハジメが応えるとミレディは神代魔法以外の魔法陣を出現させた。

 

「三人共〜、外に出るなら此処に立ってね〜 。場所は近くの水辺に転移されるから〜」

 

「おう、わかった」

 

ハジメはミレディの指示に従い魔法陣に上に立つと、別れ際にミレディがユエを呼び止めた。

 

「ユエちゃん」

 

「……ん?」

 

「もし、全部の神代魔法を揃えてから更に力が欲しいのならもう一度、ミレディさんの迷宮に来てね。……ユエちゃんにならもしかしてだけど、ミレディさんでも扱えなかった〝あの力〟を使えると思うから……絶対」

 

「……? ん、わかった」

 

「うん、じゃあ三人共! これからの迷宮攻略、頑張ってね!バイッバイ〜!」

 

「あぁ……またな、ミレディ・ライセン」

 

そう別れを告げると、次第に魔法陣から発する光がハジメ達の周りを覆っていく中、目の前が光に包まれながら手を振るミレディと別れを告げる。

そして、ハジメ達三人は七大迷宮の一つライセン大迷宮の攻略を成し遂げるのであった……。

 




・解放者時代の【遺跡】
現代よりも遺跡の数が多く、危険な【遺跡】はミレディ達が多く破壊しており、一時的なアジトにも使っていた。
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