ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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二十八話 冒険者らしい仕事とフューレン

 

ブルックの町から中立商業都市フューレンまでは馬車で約六日の距離である。

 

日の出前に出発し、日が沈む前に野営の準備に入る。それを繰り返すこと三回目。ハジメ達は、フューレンまで三日の位置まで来ていた。道程はあと半分である。ここまで特に何事もなく順調に進んで来た。ハジメ達は、隊の後方を預かっているのだが実にのどかなものである。

 

この日も、特に何もないまま野営の準備となった。冒険者達の食事関係は自腹である。周囲を警戒しながらの食事なので、商隊の人々としては一緒に食べても落ち着かないのだろう。別々に食べるのは暗黙のルールになっているようだ。

そして、冒険者達も任務中は酷く簡易な食事で済ませてしまう。ある程度凝った食事を準備すると、それだけで荷物が増えて、いざという時邪魔になるからなのだという。代わりに、町に着いて報酬をもらったら即行で美味いものを腹一杯食うのがセオリーなのだとか。

 

そんな話を、この二日の食事の時間にハジメ達は他の冒険者達から聞いていた。ハジメ達が用意した豪勢なシチューモドキをふかふかのパンを浸して食べながら。

 

「カッーー、うめぇ! ホント、美味いわぁ~、流石シアちゃん! もう、亜人とか関係ないから俺の嫁にならない?」

 

「ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇ、何抜け駆けしてやがる! シアちゃんは俺の嫁!」

 

「はっ、お前みたいな小汚いブ男が何言ってんだ? 身の程を弁えろ。ところでシアちゃん、町についたら一緒に食事でもどう? もちろん、俺のおごりで」

 

「な、なら、俺はユエちゃんだ!ユエちゃん、俺と食事に!」

 

「ユエちゃんのスプーン……ハァハァ」

 

「……(こいつ等、うるせぇ)」

 

うまうまとシアが調理したシチューモドキを次々と胃に収めていく冒険者達。初日に、彼等が干し肉やカンパンのような携帯食をもそもそ食べている横で、ハジメが普通に〝宝物庫〟から取り出した食器と材料を使い料理を始め、いい匂いを漂わせる料理に自然と視線が吸い寄せられ、熱々の食事をハフハフしながら食べる頃には、全冒険者が涎を滝のように流しながら血走った目で凝視するという事態になり、物凄く居心地が悪くなったシアが、お裾分けを提案した結果、今の状態になってしまった。

 

それからというもの、冒険者達がこぞって食事の時間にはハイエナの如く群がってくるのだが、最初は恐縮していた彼等も次第に調子に乗り始め、ことある毎にシアとユエを軽く口説くようになったのである。

 

「…………」

 

ぎゃーぎゃー騒ぐ冒険者達に、そろそろ黙らせようかとハジメは無言で〝威圧〟を発動。熱々のシチューモドキで体の芯まで温まったはずなのに、一瞬で芯まで冷えた冒険者達は、青ざめた表情でガクブルし始める。口の中の肉をゴクリと飲み込むと、シチューモドキに向けていた視線をゆっくり上げ囁くように、されどやたら響く声でポツリとこぼした。

 

「お前等……静かに食事が出来ないのか?」

 

「「「「「調子に乗ってすんませんっしたー」」」」」

 

見事なハモリとシンクロした土下座で即座に謝罪する冒険者達。彼等のほとんどは、ハジメよりも年上でベテランの冒険者なのだが、そのような威厳は皆無だった。ハジメから受ける威圧が半端ないというのもあるが、ブルックの町での所業と偉業を知ってるからか逆らおうという者はいない。

 

そんな彼等を無視してハジメは〝威圧〟を発動してしまったことをシアに謝罪していた。

 

「シア、食事中に〝威圧〟をしちまってすまないな」

 

「大丈夫ですよ〜。それより、ハジメさん〜」

 

「ん、何だ?」

 

シアが頬を染めながら上手に焼けた串焼き肉を、ハジメの口元に差し出す。

 

「ハジメさん、あっ、あ~ん」

 

冒険者達の視線を感じながら、ハジメは溜息を吐くとシアに向き直り口を開けた。シアの表情が喜色に染まる。

 

「あ~ん」

 

「……」

 

差し出された肉をパクッと加えると無言で咀嚼するハジメにシアは、ほわぁ~んとした表情で見つめている。と、今度は反対側から串焼き肉が差し出された。

 

「……あ~ん」

 

「……ユエ、お前もか」

 

ユエもあーんをしたいらしく苦笑いしつつハジメは、再び、パクッと無言で咀嚼した。

 

そんな仲睦まじい光景を冒険者達は血涙を流しそうな勢いで悔しそうに見ていた。

 

それから二日。残す道程があと一日に迫った頃、遂にのどかな旅路を壊す無粋な襲撃者が現れた。最初にそれに気がついたのはシアだ。街道沿いの森の方へウサミミを向けピコピコと動かすと、のほほんとした表情を一気に引き締めて警告を発した。

 

「敵襲です! 数は百以上! 森の中から来ます!」

 

その警告を聞いて、冒険者達の間に一気に緊張が走る。現在通っている街道は、森に隣接してはいるが其処まで危険な場所ではない。何せ、大陸一の商業都市へのルートなのだ。道中の安全は、それなりに確保されている。なので、魔物に遭遇する話はよく聞くが、せいぜい二十体前後、多くても四十体くらいが限度のはずなのだ。

 

「くそっ、百以上だと? 〝怪物氾濫(スタンピード)〟ほどじゃないにしても多いぞ!最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか?ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 

護衛隊のリーダーであるガリティマは、そう悪態をつきながら苦い表情をする。商隊の護衛は、全部で十五人。ユエとシアを入れても十七人だ。この人数で、商隊を無傷で守りきるのはかなり難しい。

単純に物量で押し切られるからだ。ガリティマが、いっそ隊の大部分を足止めにして商隊だけでも逃がそうかと考え始めた時、その考えを遮るようにハジメが声を上げた。

 

「迷ってんなら、俺達が殺ろうか?」

 

「えっ?」

 

ガリティマは、ハジメの提案の意味を掴みあぐねて、つい間抜けな声で聞き返した。

 

「だから、なんなら俺達が殲滅しちまうけど? って言ってんだよ」

 

「い、いや、それは確かに、このままでは商隊を無傷で守るのは難しいのだが……えっと、出来るのか?……いや、【遺跡】の最速攻略者のアンタに対して、この言い方は無粋だったな。頼めるか?」

 

「ああ、すぐ終わらせる。ユエ、俺がやっても良いがどうする?」

 

ガリティマの頼みにハジメは頷くと、すぐ横に佇むユエの肩にポンッと手を置いた。ユエも、特に気負った様子も見せずに、そんな仕事ベリーイージーですと言わんばかりに、「ん……私に任せて」と返事をした。

 

ガリティマは少し逡巡する。一応、彼も噂でユエが類希な魔法の使い手であるという事は聞いている。仮に、言葉通り殲滅できなくても、ハジメ達の強さなら相当な数を削ることができるだろう。

ならば、戦力を分散する危険を冒して商隊を先に逃がすよりは、堅実な作戦と考えられる。

 

「わかった。初撃はユエちゃんに任せよう。仮に殲滅できなくても数を相当数減らしてくれるなら問題ない。我々の魔法で更に減らし、最後は直接叩けばいい。みな、わかったな!」

 

「「「「了解!」」」」

 

「……」

 

心配は無用であるが、ハジメ達の実力を知っていても実際に見たことない冒険者達が、商隊の前に陣取り隊列を組む。

緊張感を漂わせながらも、覚悟を決めた良い顔つきだ。食事中などのふざけた雰囲気は微塵もない。道中、ベテラン冒険者としての様々な話を聞いたのだが、こういう姿を見ると、なるほど、ベテランというに相応しいと頷かされる。商隊の人々は、かなりの規模の魔物の群れと聞いて怯えた様子で、馬車の影から顔を覗かせている。

 

ハジメ達は、商隊の馬車の屋根の上に佇んでいた。

 

「ユエ、一応、詠唱しとけ。後々、面倒になる」

 

「……詠唱……詠唱……?」

 

「……もしかして知らないとか?」

 

「……大丈夫、問題ない」

 

「……頼むぞ」

 

「接敵、十秒前ですよ~」

 

そうこうしている内に、シアから報告が入る。ユエは、右手をスっと森に向けて掲げると、透き通るような声で詠唱を始めた。

 

「彼の者 常闇に紅き光をもたらさん 古の牢獄を打ち砕き 障碍の尽くを退けん 最強の力へとたるこの力、彼の者の為に 天すら呑み込む光となれ──〝雷龍〟」

 

ユエの即興の詠唱が終わり、魔法のトリガーが引かれた。その瞬間、詠唱の途中から立ち込めた暗雲より雷で出来た龍が現れて、彼女と違い紅雷の大狼を扱うハジメは自然と口を零しながら呟いた。

 

「東洋の龍か……俺の話を参考にしたのか」

 

「な、なんだあれ……」

 

それは誰が呟いた言葉だったのか。目の前に魔物の群れがいるにもかかわらず、誰もが暗示でも掛けられたように天を仰ぎ激しく放電する雷龍の異様を凝視している。

護衛隊にいた魔法に精通しているはずの後衛組すら、見たことも聞いたこともない魔法に口をパクパクさせて呆けていた。

 

そして、それは何も味方だけのことではない。森の中から獲物を喰らいつくそうと殺意にまみれてやって来た魔物達も、商隊と森の中間あたりの場所で立ち止まり、うねりながら天より自分達を睥睨する巨大な雷龍に、まるで蛇に睨まれたカエルの如く射竦められて硬直していた。

 

そして、天よりもたらされる裁きの如く、ユエの細く綺麗な指に合わせて、天すら呑み込むと詠われた雷龍は魔物達へとその顎門を開き襲いかかった。

 

ゴォガァアアア!!!と落雷の如き轟音が鳴る。

 

「うわっ!?」

 

「どわぁあ!?」

 

「きゃぁあああ!!」

 

雷龍が、凄まじい轟音を迸らせながら大口を開くと、何とその場にいた魔物の尽くが自らその顎門へと飛び込んでいく。そして、一瞬の抵抗も許されずに雷の顎門に滅却され消えていった。

更には、ユエの指揮に従い、雷龍は魔物達の周囲をとぐろを巻いて包囲する。逃走中の魔物が突然眼前に現れた雷撃の壁に突っ込み塵となった。逃げ場を失くした魔物達の頭上で再び、落雷の轟音を響かせながら雷龍が顎門を開くと、魔物達は、やはり自ら死を選ぶように飛び込んでいき、苦痛を感じる暇もなく、荘厳さすら感じさせる龍の偉容を最後の光景に意識も肉体も一緒くたに塵へと還された。雷龍は、全ての魔物を呑み込むと最後にもう一度、落雷の如き雄叫びを上げて霧散した。

 

隊列を組んでいた冒険者達や商隊の人々が、轟音と閃光、そして激震に思わず悲鳴を上げながら身を竦める。

ようやく、その身を襲う畏怖にも似た感情と衝撃が過ぎ去り、薄ら目を開けて前方の様子を見ると……そこにはもう何もなかった。あえて言うならとぐろ状に焼け爛れて炭化した大地だけが、先の非現実的な光景が確かに起きた事実であると証明していた。

 

「これは……」

 

「……ん、やりすぎた」

 

「ユエ、その〝雷龍〟って魔法。重力魔法と雷魔法の〝雷槌〟の複合魔法のオリジナルか?」

 

「そうらしいですよ? ハジメさんから聞いた龍の話と例の魔法を組み合わせたものらしいです」

 

「俺がギルドに篭っている間、そんなことしてたのか……ていうかユエ、さっきの詠唱って……」

 

「ん……出会いと、未来を詠ってみた」

 

「……そうか」

 

詠唱のことは置いといて、重力魔法を扱えるようになっているユエにハジメは少しばかり驚いていた。

 

そして、そんな話をしてると焼け爛れた大地を呆然と見ていた冒険者達が我に返り始めた。そして、猛烈な勢いで振り向き俺達を凝視すると一斉に騒ぎ始めた。

 

「おいおいおいおいおい、何なのあれ? 何なんですか、あれっ!」

 

「へ、変な生き物が……空に、空に……あっ、夢か」

 

「へへ、俺、町についたら結婚するんだ」

 

「動揺してるのは分かったから落ち着け。お前には恋人どころか女友達すらいないだろうが」

 

「魔法だって生きてるんだ! 変な生き物になってもおかしくない! だから俺もおかしくない!」

 

「いや、魔法に生死は関係ないからな? 明らかに異常事態だからな?」

 

「なにぃ!? てめぇ、ユエちゃんが異常だとでもいうのか!? アァン!?」

 

「落ち着けお前等! いいか、ユエちゃんは女神、これで全ての説明がつく!」

 

「「「「なるほど!」」」」

 

「うるせぇ……」

 

確かにユエの魔法が衝撃的過ぎて、冒険者達は少し壊れ気味なのは分かる。何せ、既存の魔法に何らかの生き物を形取ったものなど存在しないし、それを自在に操るなど国お抱えの魔法使いでも不可能だろう。が、壊れて「ユエさま万歳!」とか言い出して騒いでいるのは、流石に騒々しくハジメは少し苛立ちを感じていた。

すると、騒ぐ冒険者達の中で唯一まともなリーダーガリティマは、そんな仲間達を見て盛大に溜息を吐くとハジメ達のもとへやって来た。

 

「はぁ、まずは礼を言う。ユエちゃんのおかげで被害ゼロで切り抜けることが出来た」

 

「今は、仕事仲間だろう。礼なんて不要だ。な?」

 

「……ん、仕事しただけ」

 

「はは、そうか……で、だ。さっきのは何だ?」

 

ガリティマが困惑を隠せずに尋ねる。

 

「……オリジナル」

 

「オ、オリジナル? 自分で創った魔法ってことか? 上級魔法、いや、もしかしたら最上級を?」

 

「……創ってない。複合魔法」

 

「複合魔法? だが、一体、何と何を組み合わせればあんな……」

 

「他人にタネを明かす訳が無いだろ?」

 

「っ……それは、まぁ、そうだろうな。切り札のタネを簡単に明かす冒険者などいないしな……しかし、その凄まじい魔法。まさに白金ランクの冒険者【沈黙の魔女】みたいで正に神の御業をみてるみたいだった」

 

「沈黙の魔女? 確か、白金ランクって言えば冒険者の最高位ランクじゃねぇか」

 

深い溜息と共に、追及を諦めたガリティマ。ベテラン冒険者なだけに暗黙のルールには敏感らしいが、ハジメもガリティマはちゃんと弁えていることに他の冒険者よりもベテランなのが理解出来る。

そして、彼が先程、言葉にした人の二つ名らしい名称は知らないが白金ランクは覚えがあったハジメが誰かと問いかけると、ガリティマは驚愕した表情をする。

 

「おいおい、アンタ。冒険者で【沈黙の魔女】を知らないって、何処の田舎から此処に来たんだよ?」

 

ガリティマの言葉はご最もで先程の騒いでいた冒険者や商人のモットーも【沈黙の魔女】を知っている。マズイと思ったハジメはなんとか誤魔化そうとする。

 

「あ、ああ………故郷が都会から凄く離れた場所だからな。有名な冒険者とかの情報も余り伝わってなかったんだ」

 

「そ、そうか。なら、教えてやるよ」

 

即興で考えた設定だが、なんか納得してくれたガリティマに安堵するハジメ。

そして、ガリティマから最高位の冒険者【沈黙の魔女】について色々と教えて貰った。

 

この世界に現存する三人の最高位冒険者の一人。

 

全属性の魔法適正、他にも補助魔法も扱えるという冒険者としても魔法を扱う者としても一流。

 

そして、彼女の唯が開発した唯一無二の技術であり前人未到の〝無詠唱魔法(・・・・・)〟の使い手なのだという。

 

その説明を聞いたハジメ、ユエ、シアは驚愕のあまり瞠目して固まるが、すぐに立ち直ったハジメはガリティマの肩を掴み問い詰めるように問う。

 

「無詠唱だと? それは本当なのか?」

 

「あ、ああ。俺は見たことないけど長い付き合いの友人が【沈黙の魔女】が在籍する冒険者チーム【クローバー】と共に〝怪物氾濫〟を対処したときに間近で見たらしい」

 

彼の友人の話だと、数百を超える魔物の郡勢に対して彼女は四つの上級魔法を同時に行使して殲滅してみせたらしい。

他にも、補助と攻撃の同時併用、ユエのような複合魔法も扱っているらしい。

 

「ってな訳で俺も一回でも、その御業を見てみてぇけど……彼女達は今、理由は知らねぇけど、数年前に王国から東側の都市【ガラテア】にい拠点を変えてな俺の活動拠点と真逆なんだよなぁー」

 

そう残念そうに語るガリティマに横でハジメはユエに念話で誰にも聞かれないように会話していた。

 

〝ユエ、〝魔力操作〟なしで魔法の無詠唱は可能か?〟

 

〝………無理とは決めつけにくい。魔法は術式と詠唱が絶対的に必要なこと、私達三人はそれを〝魔力操作〟でスキップしてるけど、その魔女は術式をどうやってか術式を自分用に書き換えてるんだと思う〟

 

〝ユエは出来るか?〟

 

〝無理。術式を多少イジることは出来るけど完全な書き換えは〝魔力操作〟を持つ私には無理な芸当〟

 

二回も無理と唱える魔法の天才にハジメは絶句する。封印されるほど魔法の才を持つユエすらも認める天才。

ユエを新たな術式を組み合わせ創り上げる天才だとすれば【沈黙の魔女】は普及されてる魔法の術式を書き換える天才なのだろう。

 

「(……【沈黙の魔女】か。覚えておくか)」

 

ハジメは、自分達に近い存在がこの世界にいること。そして、その天才に並ぶ二人の天才の存在に俄然と興味が湧いたのだった。

 

そして、商隊の人々からも畏怖と尊敬の混じった視線をチラチラと受けながら、一行は歩みを再開しつつ、夜とかにハジメは他の白金ランクの冒険者二人についてガリティマ含めた冒険者達に教えて貰った。

 

一人は、唯一、国家に身を置いている冒険者【戦姫】ことイザベラ・D・ヘルシャー。

 

彼女は帝国の皇帝のご息女らしく彼女のリーダーとした冒険者チームのメンバーは全員、帝国の兵士らしい。

 

「国に在籍って、ギルドに在籍するのと何が違うんですか?」

 

そう疑問を口にするシアにガリティマが答えた。

 

ガリティマ曰く、やはり国家とギルドのどちらかに在籍する恩恵は全く違うらしい。

 

国家に身を置くと、基本的に国からの毎月一定の資金を支給されお金の問題は無くなるらしい。加えて、在籍する国から優遇されやすいらしく貴族や王族のパーティーなども呼ばれたりするらしい。しかし、デメリットもあり国や貴族からの命令に逆らえないらしくある意味、国家の犬となってしまうらしい。

逆にギルドは国からの優遇とかは一切ない代わりにギルドと提携してる都市や町にいるとなにかと恩恵を得れるし、国からの命令も突っぱねることができるが、逆に資金などの手当はなくてお金の問題が多々あるらしい。

故に、冒険者は国に在籍するよりかはギルドに在籍してる者が多いということらしい。

 

ガリティマの説明にへぇーと、シアが感心してると、「それに国に在籍するには黒ランク以上じゃないと無理」という追加の説明も入る。

 

そして、そんな彼女の偉業とはランク金から不明の未踏破遺跡を複数攻略したり、千を超える魔物をたった一人で殲滅したという正しく最強の女傑のことだ。

 

そして、三人目の白金【戦眼】マルス・ガリウス。

彼は白金ランクの唯一の男の冒険者で魔人族領との境界に位置する人間族にとって重要な壁の役割となる雪の都市【キオン】に在籍してるらしい。

 

元々、帝国で軍事総指揮官をしてたらしいが、訳あってその地位を捨てて冒険者になったという訳アリな経歴を持つ冒険者。

 

そして、そんな彼の偉業とは今から十年前に三千を超える魔人族軍の侵攻に対して千人の冒険者と傭兵達と共に侵攻を防ぎ、犠牲を出しながらも魔人族の軍の将を討ち取って撤退余儀なくさせたという。

そんな彼には、戦の数手先を読んでいると言われ、それ故に戦の先を見通して必勝の策を生み出す戦術眼こと二つ名が【戦眼】らしい。

 

 

そして、そんな二人のチート冒険者を知ったハジメは世界は凄く広いなと思った反面、この中にもしかしたら自分達と同じく神代魔法持ちがいるかもしれないと推測するのであった。

 

 

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そんなこんなでユエが、全ての商隊の人々と冒険者達の度肝を抜いた日以降、特に何事もなく、一行は遂に中立商業都市フューレンに到着した。フューレンの東門には六つの入場受付があり、そこで持ち込み品のチェックをするそうだ。ハジメ達も、その内の一つの列に並んでいた。順番が来るまでしばらくかかりそうである。

 

馬車の屋根で、ユエとシアを侍らせながら寝転んでいたハジメのもとにモットーがやって来た。何やら話があるようだ。若干、呆れ気味にハジメ達を見上げるモットーに、ハジメは軽く頷いて屋根から飛び降りた。

 

「まったく豪胆ですな。周囲の目が気になりませんかな?」

 

「嫉妬の視線か? そんなのとっくに慣れてる。そんな事よりモットー、俺に何か用か?」

 

モットーの言う周囲の目とは、毎度お馴染みのハジメに対する嫉妬と羨望の目、そしてユエとシアに対する感嘆と嫌らしさを含んだ目だ。それに加えて、今は、シアに対する値踏みするような視線も増えている。

流石大都市の玄関口。様々な人間が集まる場所では、ユエもシアも単純な好色の目だけでなく利益も絡んだ注目を受けているようだ。

 

そう言って肩を竦めて何処吹く風のハジメにモットーは苦笑いだ。

 

「フューレンに入れば更に問題が増えそうですな。やはり、彼女を売る気は……」

 

さりげなくシアの売買交渉を申し出るモットーだったが、その話は既に終わっただろ?というハジメの無言の主張に、両手を上げて降参のポーズをとる。

 

「そんな話をしに来たわけじゃないだろ? 本当の用件を話せ」

 

「いえ、似たようなものですよ。売買交渉です。貴方のもつアーティファクト。やはり譲ってはもらえませんか? 商会に来ていただければ、公証人立会の下、一生遊んで暮らせるだけの金額をお支払いしますよ。貴方のアーティファクト、特に〝宝物庫〟は、商人にとっては喉から手が出るほど手に入れたいものですからな」

 

「………」

 

やはり、〝宝物庫〟がモットーの狙いなのだと溜息を吐く。野営中からあまりにしつこい交渉に、ハジメが軽く殺気をぶつけるとようやく商人の勘がマズイ相手と警鐘を鳴らしたのか、すごすごと引き下がっていた。しかし、やはり諦めきれないのだろう。ドンナー・シュラーク共々、何とか引き取ろうと再度、交渉を持ちかけてきたようだ。

 

「何度言われようと、何一つ譲る気はない。諦めろ」

 

「しかし、そのアーティファクトは一個人が持つにはあまりに有用過ぎる。その価値を知った者は理性を効かせられないかもしれませんぞ? そうなれば、かなり面倒なことになるでしょなぁ……例えば、彼女達の身にッ!?」

 

モットーが、少々、狂的な眼差しでチラリと脅すように屋根の上にいるユエとシアに視線を向けた瞬間、ゴチッと額に冷たく固い何かが押し付けられた。

壮絶な殺気と共に。周囲は誰も気がついていない。馬車の影ということもあるし、ハジメの殺気がピンポイントで叩きつけられているからだ。

 

「それは、俺に対しての敵対と受け取っていいのかモットー?」

 

ハジメの静かな声音。されど氷の如き冷たい声音で硬直するモットーの眼を覗き込む隻眼は、まるで深い闇のようだ。モットーは全身から冷や汗を流し必死に声を捻り出す。

 

「ち、違います。どうか……私は、ぐっ……あなたが……あまり隠そうとしておられない……ので、そういうこともある……と。ただ、それだけで……うっ」

 

「そうか、ならそういうことにしておこう」

 

そう言って、ハジメはドンナーをしまい殺気を解くと、モットーはその場に崩れ落ちた。大量の汗を流し、肩で息をしている。

 

「別に、お前が何をしようとお前の勝手だ。あるいは誰かに言いふらして、そいつらがどんな行動を取っても構わない。ただ、敵意をもって俺の前に立ちはだかったなら……生き残れると思うな? 国だろうが世界だろうが神だろうが関係ない。全て潰してやる」

 

「……はぁはぁ、なるほど。割に合わない取引でしたな……」

 

未だ青ざめた表情ではあるが、気丈に返すモットーは優秀な商人なのだろう。それに道中の商隊員とのやりとりから見ても、かなり慕われているようであった。

本来は、ここまで強硬な姿勢を取ることはないのかもしれない。彼を狂わせるほどの魅力が、ハジメのアーティファクトにあったということだろう。

 

「ま、アンタには色々と有益な情報とか世話になったからな。今回は見逃すし、忠告も受け取っておこう」

 

「……全く、私も耄碌したものだ。欲に目がくらんで竜の尻を蹴り飛ばすとは……」

 

ハジメの言葉に安堵するモットーはもう一つ、ハジメに対する詫びとして忠告する。

 

「そう言えば、ユエ殿のあの魔法も竜を模したものでしたな。詫びと言ってはなんですが、あれが竜であるとは、あまり知られぬがいいでしょう。竜人族は、教会からはよく思われていませんからな。まぁ、竜というより蛇という方が近いので大丈夫でしょうが」

 

「そうか、覚えておくよ……」

 

モットーが言うのは、龍人族のことだろう。ハジメが図書館で調べ物をしていると、竜人族に関する書物を見つけた時だ。その書物には、竜人族は五百年以上前に滅びたとされている。

理由は定かではないが、彼等が〝竜化〟という固有魔法を使えたことが魔物と人の境界線を曖昧にし、差別的排除を受けたとか、半端者として神により淘汰されたとかだっと言われている。

 

「ええ、人にも魔物にも成れる半端者。なのに恐ろしく強い。そして、どの神も信仰していなかった不信心者。これだけあれば、教会の権威主義者には面白くない存在というのも頷けるでしょう」

 

「なるほどな。つーか、随分ないい様だな。不信心者と思われるぞ?」

 

「私が信仰しているのは神であって、権威をかさに着る〝人〟ではありません。人は〝客〟ですな」

 

「……クハッ、何となく、あんたの事がわかってきたわ。根っからの商人だな、あんた。そりゃ、これ見て暴走するのも頷けるわ」

 

「とんだ失態を晒しましたが、ご入り用の際は、我が商会を是非ご贔屓に。あなたは普通の冒険者とは違う。特異な人間とは繋がりを持っておきたいので、それなりに勉強させてもらいますよ」

 

「……ホント、商売魂が逞しいな……まぁ、また会ったら贔屓にさせて貰うよ」

 

「ありがとうございます」

 

ハジメから呆れた視線を向けられながら、「では、失礼しました」とモットーは踵を返し前列へ戻って行った。

 

 

──中立商業都市【フューレン】

 

高さ二十メートル、長さ二百キロメートルの外壁で囲まれた大陸一の商業都市だ。あらゆる業種が、この都市で日々しのぎを削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいる。観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでも大陸一と言えるだろう。

 

その巨大さからフューレンは四つのエリアに分かれている。この都市における様々な手続関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具はもちろん家具類などを生産、直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区がそれだ。

東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近いほど信用のある店が多いというのが常識らしい。

メインストリートからも中央区からも遠い場所は、かなりアコギでブラックな商売、言い換えれば闇市的な店が多い。その分、時々とんでもない掘り出し物が出たりするので、冒険者や傭兵のような荒事に慣れている者達が、よく出入りしているようだ。

 

そんな話を、中央区の一角にある冒険者ギルド──フューレン支部内にあるカフェで軽食を食べながら聞いたハジメ達はモットー率いる商隊と別れると証印を受けた依頼書を持って冒険者ギルドにやって来た。

そして、宿を取ろうにも何処にどんな店があるのかさっぱりなので、冒険者ギルドでガイドブックを貰おうとしたところ、案内人の存在を教えられたのだ。

 

現在ハジメは、案内人の女性──リシーと名乗った女性に料金を支払い、軽食を共にしながら都市の基本事項を聞いていたのである。

 

「そういうわけなので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

 

「なるほどな、なら素直に観光区の宿にしとくか。どこがオススメなんだ?」

 

「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

 

「そうか。じゃあ、飯が美味くて、あと風呂があれば文句はない。立地とかは考慮しなくていい。あと責任の所在が明確な場所がいい」

 

リシーは、にこやかにハジメの要望を聞く。最初の二つはよく出される要望なのだろう「うんうん」と頷き、早速、脳内でオススメの宿をリストアップしたようだ。しかし、続く言葉で「ん?」と首を傾げた。

 

「あの~、責任の所在ですか?」

 

「ああ、例えば、何らかの争いごとに巻き込まれたとして、こちらが完全に被害者だった時に、宿内での損害について誰が責任を持つのかということだな。どうせならいい宿に泊りたいが、そうすると備品なんか高そうだし、あとで賠償額をふっかけられても面倒だろ」

 

「え~と、そうそう巻き込まれることはないと思いますが……」

 

困惑するリシーにハジメは苦笑いする。

 

「まぁ、普通はそうなんだろうが、連れが目立つんでな。観光区なんてハメ外すヤツも多そうだし、商人根性逞しいヤツなんか強行に出ないとも限らないしな。まぁ、あくまで〝出来れば〟だ。難しければ最後の条件は無視して良い」

 

ハジメの言葉に、リシーは、ハジメの両脇に座りうまうまと軽食を食べるユエとシアに視線をやる。そして、納得したように頷いた。確かに、この美少女二人は目立つ。現に今も、周囲の視線をかなり集めている。

 

「しかし、それなら警備が厳重な宿でいいのでは? そういうことに気を使う方も多いですし、いい宿をご紹介できますが……」

 

「ああ、それでもいい。ただ、欲望に目が眩んだヤツってのは、時々とんでもないことをするからな。警備も絶対でない以上は最初から物理的説得を考慮した方が早い」

 

「ぶ、物理的説得ですか……なるほど、それで責任の所在なわけですか」

 

「済まないな、変に難しい条件を言って」

 

「いえ、問題無いですよ。仕事ですから」

 

それから、他の区について話を聞いていると、ハジメは不意に強い視線を感じた。

 

「あ? 」

 

あまりにも、粘着質で気持ち悪い視線にハジメは僅かに眉を顰める。ハジメがチラリとその視線の先を辿ると……ブタがいた。体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目にもわかるいい服を着ている。そのブタ男がユエとシアを欲望に濁った瞳で凝視していた。

 

「……金髪の豚

 

ボソッと呟くハジメはリシーがあの豚に対して「げっ」と声を上げたので聞いてみることにした。

 

「あの豚は何だ?」

 

「はいっ、えっとあの方は貴族の方でして……」

 

リシーから豚が貴族と聞いてハジメが、「面倒な」と思うと同時に、そのブタ男は重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながら真っ直ぐハジメ達の方へ近寄ってくる。どうやら逃げる暇もないようだ。

 

ブタ男は、ハジメ達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でユエとシアをジロジロと見やり、シアの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けなかったハジメに、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。

 

「お、おい、ガキ。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

ハジメはその豚が言い放った言葉を敵対発言として受け取り、目の前の豚を敵と決めるのであった……。

 

 




ベテラン冒険者ガリティマ
冒険者ランク〝黒〟
天職 軽戦士
冒険者歴は二十年は経つ大ベテラン。若い頃は英雄級を目指して危険を顧みず【未踏破遺跡】や【大迷宮】に挑戦していたが、冒険者をやって五年頃に自分には才能がないと理解して、そつなく冒険者で生きることを選択した。
それでも二十年の経験の恩恵で、判断、対応力は素晴らしく臨時パーティーなどのリーダーになることが多く、他の冒険者達からも信頼が厚く周りからは【大黒のガリティマ】と呼ばれてる。
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