ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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二十九話 フューレン支部長の依頼

 

「お、おい、ガキ。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

ドモリ気味のきぃきぃ声でそう告げて、豚男はユエに触れようとする。彼の中では既にユエは自分のものになっているようだ。その瞬間、その場に凄絶な殺意威圧が降り注いだ。

周囲のテーブルにいた者達ですら顔を青ざめさせて椅子からひっくり返り、後退りしながら必死にハジメから距離をとり始めた。

 

ならば、直接その殺気を受けた豚男はというと……「ひぃ!?」と情けない悲鳴を上げると尻餅をつき、後退ることも出来ずにその場で股間を濡らし始めた。

 

ハジメが本気の殺気をぶつければ、おそらく瞬時に意識を刈り取っただろうが、それでは意味がないので十分に手加減している。

 

「ユエ、シア、行くぞ。場所を変えよう」

 

この程度の殺気で失禁するていどなら無視が一番と豚男を汚物を見るような視線を向けながら、ハジメはユエとシアに移動すると伝えた。

 

「ユエ、シア、行くぞ。場所を変えよう」

 

ハジメは〝威圧〟を解きギルドを出ようとした直後、大男が三人の進路を塞ぐような位置取りに移動し仁王立ちした。豚男とは違う意味で百キロはありそうな巨体である。全身筋肉の塊で腰に長剣を差しており、歴戦の戦士といった風貌だ。

 

「誰だ?」

 

見る限り豚の護衛だろうと思っていると、その巨体が目に入ったのか、豚男が再びキィキィ声で喚きだした。

 

「そ、そうだ、レガニド!そのクソガキを殺せ!わ、私を殺そうとしたのだ!嬲り殺せぇ!」

 

「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

 

「やれぇ!い、いいからやれぇ!お、女は、傷つけるな!私のだぁ!」

 

「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

 

「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!」

 

「雇われの護衛か……」

 

ハジメから目を逸らさずにブタ男と話、報酬の約束をするとニンマリと笑った。

 

「おう、坊主。わりぃな。俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ、嬢ちゃん達の方は……諦めてくれ」

 

レガニドはそう言うと、拳を構えた。長剣の方は、流石に場所が場所だけに使わないようだ。周囲がレガニドの名を聞いてざわめく。

 

「お、おい、レガニドって〝黒〟のレガニドか?」

 

「〝暴風〟のレガニド!?何で、あんなヤツの護衛なんて……」

 

「金払じゃないか?〝金好き〟のレガニドだろ?」

 

周囲のヒソヒソ声で大体目の前の男の素性を察したハジメ。

 

先の冒険者依頼で知り合ったガリティマと同じ冒険者ランク〝黒〟ということは、上から四番目のランクだ。ガリティマも優秀な人物だったため、目の前の男も相当な実力者なのかもしれない。

 

「まぁ、半殺しぐらいが丁度いいか」

 

ハジメの言葉を聞いて、目を吊り上げたレガニドから闘気が噴き上がる。それを見たハジメは、これなら正当防衛を理由に半殺しにしても問題ないだろうと、拳を振るおうとした瞬間、意外な場所から制止の声がかかった。

 

「……ハジメ、待って」

 

「? どうしたユエ?」

 

ユエは、隣のシアを引っ張ると、ハジメの疑問に答える前に、ハジメとレガニドの間に割って入った。訝しそうなハジメとレガニドに、ユエは背を向けたまま答える。

 

「……私達が相手をする」

 

「えっ? ユエさん、私もですか?」

 

シアの質問はさらり無視するユエ。ユエの言葉に、ハジメが返答するよりも早く、怒りを顕にして筈のたレガニドが、爆笑する声が聞こえた。

 

「ガッハハハハ、嬢ちゃん達が相手をするだって? 中々笑わせてくれるじゃねぇの。何だ?夜の相手でもして許してもらおうって──「……黙れ、ゴミクズ」──!?」

 

下品な言葉を口走ろうとしたレガニドに、辛辣な言葉と共に、神速の風刃が襲い掛かりその頬を切り裂いた。プシュと小さな音を立てて、血がだらだらと滴り落ちる。かなり深く切れたようだ。

レガニドは、ユエの言葉通り黙り込む。ユエの魔法が速すぎて、全く反応できなかったのだ。心中では「いつ詠唱した?陣はどこだ?」と冷や汗を掻きながら必死に分析している。

 

ハジメはというとユエの言葉の意味を察したのか、肩を竦めて此処はユエ達に頼む事にした。

 

「……じゃ、頼めるか?」

 

「……ん、問題ない」

 

ユエは何事もなかったように、ハジメと、未だ、ユエの意図が分かっていないシアに向けて話を続ける。

 

「……私達が守られるだけのお姫様じゃないことを周知させる」

 

「ああ、なるほど。私達自身が手痛いしっぺ返し出来ることを示すんですね」

 

「……そう。せっかくだから、これを利用する」

 

ハジメは二人なら問題ないだろうと思い一歩後ろに下がった。ユエは、ハジメが下がったのを確認すると、隣のシアに先にいけと目で合図を送る。それを読み取ったシアは、背中に取り付けていたドリュッケンに手を伸ばすと、まるで重さを感じさせずに一回転さて、その手に収めた。

 

「おいおい、兎人族の嬢ちゃんに何が出来るってんだ?雇い主の意向もあるんでね。大人しくしていて欲しいんだが?」

 

ユエから目を離さずにレガニドは、そうシアに告げる。しかし、シアはレガニドの言葉を無視するように、逆に忠告をした。

 

「腰の長剣。抜かなくていいんですか?手加減はしますけど、素手だと危ないですよ?」

 

「ハッ、兎ちゃんが大きく出たな。坊ちゃん!わりぃけど、傷の一つや二つは勘弁ですぜ!」

 

レガニドは、シアは大して気にせずユエに気を配りながら、未だ近くでへたり込んでいる豚男に一言断りを入れる。流石に、ユエ相手に無傷で無力化は難しいと判断したのだろう。

 

「ハァ、シアの実力が分かってない時点で駄目だな。レバニラ……いや、レガニドか」

 

ガリティマと同じランクなので警戒していたが、思っていたより見る目がないことに〝黒〟でも差があるんだと呆れて溜息を吐く。そうしてる内にシアはドリュッケンを腰だめに構え……一気に踏み込んだ。

 

そして、次の瞬間にはレガニドの眼前に出現する。

 

「!?」

 

「やぁ!!」

 

可愛らしい声音に反して豪風と共に振るわれた超重量の大槌が、表情を驚愕に染めるレガニドの胸部に迫る。直撃の寸前、レガニドは、辛うじて両腕を十字にクロスさせて防御を試みる。咄嗟の防御態勢を取るのは流石は〝黒〟と言ったところだろう。

 

「ありゃあ、片腕が潰れたな」

 

しかし、ハジメの予想通り、踏ん張ることなど微塵もかなわず、咄嗟に後ろに飛んで衝撃を逃がそうとするも、スイングが速すぎてほとんど意味はなさない。結果、

 

グシャ!と、生々しい音を響かせながら、レガニドは勢いよく吹き飛びギルドの壁に背中から激突した。轟音を響かせながら、肺の中の空気を余さず吐き出したレガニドは、揺れる視界の中に、拍子抜けしたようなシアの姿を見る。どうやら、もう少し抵抗があると思っていたらしい。

 

冒険者ランク〝黒〟にまで上り詰めた自分が、まさか兎人族の少女に手加減までされて、なお、拍子抜けされたという事実に、レガニドはもはや笑うしかない。

痛みのせいでしかめたようにしか見えない笑みを浮かべ、立ち上がろうと手をつき、激痛と共にそのまま倒れこむ。激痛の原因に視線を向ければ、ひしゃげたように潰れた自分の腕が見えた。

 

幸い、潰されたのは片腕だけだったようで、痛みを堪えながらもう片方の腕で何とか立ち上がる。視界がグラグラ揺れるが、何とか床を踏みしめることが出来た。

ほとんど意味は無かったと言えど、咄嗟に、後ろに飛ばなければ、立ち上がることは出来なかったかもしれない。

 

しかし、立ち上がった事は果たしていい事だったのか。半ば意地で立ち上がったレガニドだったが、ユエが氷の如き冷めた目で右手を突き出している姿を見て、小声で愚痴る。

 

「坊ちゃん、こりゃ、割に合わなさすぎだ……」

 

直後、レガニドは生涯で初めて、〝空中で踊る〟という貴重で最悪の体験をすることになった。

 

「舞い散る花よ 風に抱かれて砕け散れ 〝風花〟」

 

空中での一方的なリードによるダンスを終えると、レガニドは、そのままグシャと嫌な音を立てて床に落ち、ピクリとも動かなくなった。

 

「終わったな……後は」

 

ハジメは二人の戦いになってもない戦闘を見た後、豚男の下へツカツカと歩き出した。ギルド内にいる全員の視線がハジメに集中する。

 

「ひぃ!く、来るなぁ!わ、私を誰だと思っている!プーム・ミンだぞ!ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

 

「そうか、成金豚。じゃあ、二度と俺の視界に入るな。直接・間接問わず関わるな……次はないと思え」

 

ハジメは、盛大に顔をしかめると、尻餅を付いたままの豚男の顔面に靴底に錬成したスパイクで勢いよく踏みつけた。

 

「プギャーー!?」

 

スパイクが、プームの顔面に突き刺さり無数の穴を開ける。更に、片目にも突き刺ささったようで大量の血を流し始めた。プーム本人は、痛みで直ぐに気を失った。ハジメはそれを確認すると踏みつけるのを止めて適当に気を失うプームを蹴り飛ばすと、ユエ達のところに戻ろうとした時だった。

 

「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

 

そうハジメに告げた男性職員の他、三人の職員が俺達を囲むように近寄った。もっとも、全員腰が引けていたが。もう数人は、プームとレガニドの容態を見に行っている。

 

「そうは言ってもな、こっちは単なる正当防衛だ。その辺の男連中も証人になるぞ。特に、近くのテーブルにいた奴等は随分と聞き耳を立てていたようだしな?」

 

ハジメがそう言いながら、周囲の男連中を睥睨すると、目があった彼等はこぞって首がもげるのでは?と言いたくなるほど激しく何度も頷いた。

 

「それは分かっていますが、ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので……規則ですから冒険者なら従って頂かないと……」

 

「当事者双方……ね」

 

しかし、あの二人は二、三日は目を覚まさないだろうと推測してるハジメは、チラリとプームとレガニドの二人を見る。白目を剥いて完全にのしている様から当分、目を覚ましそうになかった。ハジメは溜息を吐くと突如、凛とした声が掛けられた。

 

「何をしているのです?これは一体、何事ですか?」

 

そちらを見てみれば、メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が厳しい目で俺達を見ていた。

 

「ドット秘書長!いいところに!これはですね……」

 

ハジメは秘書長の出現に逃げれないと判断し、肩を落としながら遠い空を見上げた。ドット秘書長と呼ばれた男は、片手の中指でクイッとメガネを押し上げると落ち着いた声音でハジメに話しかけた。

 

「話は大体聞かせてもらいました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょうね。やり過ぎな気もしますが……まぁ、死んでいませんし許容範囲としましょう。取り敢えず、彼らが目を覚まし一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが……それまで拒否されたりはしないでしょうね?」

 

「ああ、構わない。そっちの豚がまだ文句を言うようなら、むしろ連絡して欲しいくらいだしな。今度はもっと丁寧な説得を心掛けるよ」

 

ハジメはそんな事をいい、ドットに呆れ顔をさせながらステータスプレートを差し出す。

 

「連絡先は、まだ滞在先が決まってないから……そっちの案内人にでも聞いてくれ。彼女の薦める宿に泊まるだろうからな」

 

ハジメに視線を向けられたリシーは、ビクッとした後、やっぱり私が案内するんですねと諦めの表情で肩を落としていた。

 

「ふむ、いいでしょう……〝青〟ですか。向こうで伸びている彼は〝黒〟なんですがね……そちらの方達のステータスプレートはどうしました?」

 

ハジメのステータスプレートに表示されている冒険者ランクが最低の〝青〟であることに僅かな驚きの表情を見せるドット。しかし、二人の女性の方がレガニドを倒したと聞いていたので、彼女達の方が強いのかとユエとシアのステータスプレートの提出を求める。

 

「すまん、こっちの彼女達もステータスプレートは紛失してしまってな、再発行はまだしていないんだ。ほら、高いだろ?」

 

「しかし、身元は明確にしてもらわないと。記録をとっておき、君達が頻繁にギルド内で問題を起こすようなら、加害者・被害者のどちらかに関係なくブラックリストに載せることになりますからね。よければギルドで立て替えますが?」

 

ドットの口ぶりから、どうしても身元証明は必要らしい。しかし、ステータスプレートを作成されれば、隠蔽前の技能欄に確実に二人の固有魔法が表示されるだろう。

それどころか今や、神代魔法も表示されるはずだ。大騒ぎになることは間違いない。騒ぎになると面倒だし、もうまともに滞在はできないだろう。何だか色々面倒になってきたハジメ。その思考を読んだようにユエがハジメに話しかけた。

 

「……ハジメ、手紙」

 

「? ああ。あの手紙か……」

 

ユエの言葉で、ハジメ達がブルックの町を出るときに、ブルック支部のキャサリンから手紙を貰ったことを思い出す。ギルド関連で揉めたときにお偉いさんに見せれば役立つかもしれないと言って渡された得体の知れない手紙だ。

 

ダメ元であるが、渡すか?と悩むハジメ。こうなる前に渡中身の内容見れば良かったとハジメは少し後悔するも、仕方ないので手紙を取り出す。

 

「身分証明の代わりになるかわからないが、知り合いのギルド職員に、困ったらギルドのお偉いさんに渡せと言われてたものがあるんだ」

 

「? 知り合いのギルド職員ですか?……拝見します」

 

ハジメ達の服装の質から、それほど金に困っているように思えなかったので、ステータスプレート再発行を拒むような態度に疑問を覚えるドットだったが、代わりにと渡された手紙を開いて二枚の内の一枚の内容を流し読みする内にギョッとした表情を浮かべた。

 

そして、三人の顔と手紙の間で視線を何度も彷徨わせながら手紙の内容をくり返し読み込む。目を皿のようにして手紙を読む姿から、どうも手紙の真贋を見極めているようだ。やがて、ドットは手紙を折りたたむと丁寧に便箋に入れ直し、視線を戻した。

 

「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが……この手紙が差出人本人のものか私一人では少々判断が付きかねます。支部長に確認を取りますから少し別室で待っていてもらえますか?そうお時間は取らせません。十分、十五分くらいで済みます」

 

「えっ、マジ?」

 

「まぁ、それくらいなら構わない。待たせてもらうとするよ」

 

「職員に案内させます。では、後ほど」

 

ドットは傍の職員を呼ぶと別室への案内を言付けて、手紙を持ったまま颯爽とギルドの奥へと消えていった。指名された職員が、ハジメ達を促す。それに従い移動しようと歩き出した。

 

 

応接室に案内されてから、きっかり十分後、遂に、扉がノックされた。ハジメの返事から一拍置いて扉が開かれる。そこから現れたのは、金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性と先ほどのドットだった。

 

「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。ハジメ君、ユエ君、シア君……でいいかな?」

 

簡潔な自己紹介の後、ハジメ達の名を確認がてらに呼び握手を求める支部長イルワ。ハジメも握手を返しながら返事をする。

 

「ああ、構わない。名前は、手紙にか?」

 

「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている……というより注目されているようだね。あの【ブルリア遺跡】を二十分という最速攻略という将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」

 

「トラブル体質……ね。確かにブルックじゃあトラブル続きだったな。まぁ、それはいい。肝心の身分証明の方はどうなんだ?それで問題ないのか?」

 

「ああ、先生が問題のある人物ではなく、寧ろ誠実と書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」

 

「先生?」

 

ハジメはイルワの発言に少し気になってると隣に座っているシアは、キャサリンに特に懐いていたことから、その辺りの話が気になるようでおずおずとイルワに訪ねた。

 

「あの~、キャサリンさんって何者なのでしょう?」

 

「ん?本人から聞いてないのかい?彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。

今、各町に派遣されている支部長の五、六割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。

その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都がね」

 

「はぁ~そんなにすごい人だったんですね~」

 

「……キャサリンすごい」

 

「只者じゃないとは思っていたが……思いっきり中枢の人間だったとはな」

 

ハジメが思っていた以上にキャサリンは、大ベテランな方だったことに苦笑いする。しかし、こう話していてもキリがないのでハジメは本題に移そうとする。

 

「まぁ、それはそれとして……本題は何だ? このまま帰してくれる訳じゃ無いんだろ」

 

「……分かってるじゃないか」

 

ハジメは元々、身分証明のためだけに来たが、手紙一つで身分が証明されると思えなかった、証明されたとは言え何か見返りが必要だとギルド側が要求してくると予測していたが的中した。

 

「……で、要件は何だ?」

 

ハジメが聞くとイルワは、隣に立っていたドットを促して一枚の依頼書をハジメ達の前に差し出した。

 

「実は、君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている」

 

「流石、大都市のギルド支部長。いい性格してるよ……で、内容は?」

 

「ふっ、君も大概だと思うが……まぁ依頼の内容だが、そこに書いてある通り、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ」

 

イルワの話を要約すると、つまりこういうことだ。

 

最近、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、〝怪物氾濫〟の予兆ではないかとギルドに調査依頼がなされた。

北の山脈地帯は、一つ山を超えるとほとんど開拓されてない地と複数の【遺跡】だけとなっており、大迷宮の魔物程ではないがそれなりに強力な魔物が出没するので銀ランクの第一級冒険者がいるベテラン冒険者チームがこれを引き受けた。

ただ、この冒険者チームに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになった。

 

この飛び入りが、フューレンでも有名なクデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物らしい。クデタ伯爵は、家出同然に冒険者になると飛び出していった息子の動向を密かに追っていたそうなのだが、今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したそうだ。

 

「伯爵は、家の力で独自の捜索隊も出しているようだけど手数は多い方がいいと、ギルドにも捜索願を出した。つい、昨日のことだ。

最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば、並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ」

 

「前提として、俺達にその相応以上の実力ってやつがないとダメだろう? 生憎俺は〝青〟ランクだぞ?」

 

「さっき〝黒〟のレガニドを瞬殺したばかりだろう? それに、ライセン大峡谷を余裕で探索に黒ランク相当の【遺跡】の最速攻略できる者を相応以上と言わずして何と言うのかな?」

 

「! ライセンのことをなぜ知って……手紙か? だが、俺は【遺跡】のこといがいキャサリンにそんな話は──」

 

ハジメ達がライセン大峡谷を探索していた話は誰にもしていない。しかし、イルワがそれを知っているのは手紙に書かれていたという事以外には有り得ない。だが、何故キャサリンは、それを知っている。

 

「……まさか」

 

ハジメが答えに行き着く前に、おずおずと犯人の一人が手を上げた。ハジメが胡乱な眼差しを向ける。

 

「やっぱり、お前が犯人だなシア?」

 

「え~と、つい話が弾みまして……てへ?」

 

「……後でお仕置きな」

 

「!? ユ、ユエさんもいました!」

 

「……シアの裏切り者」

 

「二人共、お仕置きな」

 

ハジメのお仕置き宣言に、二人共、平静を装いつつ冷や汗を掻いている。そんな様子を見て苦笑いしながら、イルワは話を続けた。

 

「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、できる限り早く捜索したいと考えている。どうかな。今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?報酬も色々と用意しよう」

 

「何故、そんなに焦ってるんだ?」

 

ハジメの言葉に、痛いところを突かれてしまったのかイルワが初めて表情を崩す。後悔を多分に含んだ表情だ。

 

「彼に……ウィルにあの依頼を薦めたのは私なんだ。調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。

異変の調査といっても、確かな実力のあるチームが一緒なら問題ないと思った。確かな実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと、昔から冒険者に憧れていてね……。だが、その資質はなかった。だから、強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて……だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに……」

 

「………条件が二つある」

 

「条件?」

 

「ああ、そんなに難しいことじゃない。ユエとシアにステータスプレートを作成を頼みたい。そして、そこに表記された内容について他言無用を確約すること、更に、ギルド関連に関わらず、アンタの持つコネクションの全てを使って、俺達の要望に応え便宜を図ること。この二つだな」

 

「それはあまりに……」

 

「出来ないなら、申し訳ないが、この話はナシにして貰おうか。俺達も暇じゃないんだ」

 

席を立とうとするハジメに、イルワもドットも焦りと苦悩に表情を歪めた。一つ目の条件は特に問題ないが、二つ目に関しては、実質、フューレンのギルド支部長が一人の冒険者の手足になるようなものだ。責任ある立場として、おいそれと許容することはできない。

 

「何を要求する気かな?」

 

「そんなに気負わないでくれ、無茶な要求はしない。ただ俺達は少々特異な存在でな、教会あたりに目をつけられると……。いや、これから先、ほぼ確実に目をつけられると思うが、その時に伝手があった方が便利だなっとそう思っただけだ。面倒事が起きた時に味方になってくれればいい。ほら、指名手配とかされても施設の利用を拒まないとか……」

 

「指名手配されるのが確実なのかい? ふむ、個人的にも君達の秘密が気になって来たな。キャサリン先生が気に入っているくらいだから悪い人間ではないと思うが……そう言えば、そちらのシア君は怪力、ユエ君は見たこともない魔法を使ったと報告があったな……。

その辺りが君達の秘密か…そして、それがいずれ教会に目を付けられる代物だと…大して隠していないことからすれば、最初から事を構えるのは覚悟の上ということか……そうなれば確かにどの町でも動きにくい……故に便宜をと……」

 

「……」

 

イルワは、しばらく考え込んだあと、意を決したようにハジメに視線を合わせた。

 

「犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になることは約束しよう……これ以上は譲歩できない。どうかな」

 

「勿論、それでいいさ。報酬も依頼が達成されてからでいい。お坊ちゃん自身か遺品あたりでも持って帰ればいいだろう?」

 

ハジメとしては、ユエとシアのステータスプレートを手に入れるのが一番の目的だ。この世界では何かと提示を求められるステータスプレートは持っていない方が不自然であり、この先、町による度に言い訳するのは面倒なことこの上ない。

 

問題は、最初にステータスプレートを作成した者に騒がれないようにするにはどうすればいいかという事だったのだが、イルワの存在がその問題を解決した。

ただ、条件として口約束をしても、やはり密告の疑いはある。いずれ、ハジメ達の特異性はばれるだろうが、積極的に手を回されるのは好ましくない。なので、ハジメは、ステータスプレートの作成を依頼完了後にした。どんな形であれ、心を苛む出来事に答えをもたらしたハジメを、イルワも悪いようにはしないだろうという打算だ。

 

イルワもハジメの意図は察しているのだろう。苦笑いしながら、それでも捜索依頼の引き受け手が見つかったことに安堵しているようだ。

 

「本当に、君達の秘密が気になってきたが……それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。ハジメ君の言う通り、どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい……ハジメ君、ユエ君、シア君……宜しく頼む」

 

イルワは最後に真剣な眼差しでハジメ達を見つめた後、ゆっくり頭を下げた。大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる。そうそう出来ることではない。

 

そんなイルワの様子を見て、ハジメ達は立ち上がると気負いなく実に軽い調子で答えた。

 

「……ん」

 

「はいっ」

 

「あいよ、後、イルワ。一つ聞きたいが良いか?」

 

「何かね?」

 

ハジメはこの大都市のギルド長なら知っているかもしれないと聞いてみた。

 

「巷で聞いてな。ホーリー・ナイトって言う名の神官服を着た奴の情報を知らないか?」

 

「……ホーリー・ナイト? 知らないな。もし、情報をを耳にしたら伝えておこう」

 

「そうか……スマン、変なことを聞いちまったな。依頼の事は任せとけ」

 

「あぁ、頼むよ」

 

その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取り、ハジメ達は部屋を出ていくのだった。

 

 

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バタンと扉が締まる。その扉をしばらく見つめていたイルワは、「ふぅ~」と大きく息を吐いた。部屋にいる間、一言も話さなかったドットが気づかわしげにイルワに声をかける。

 

「支部長……よかったのですか?あのような報酬を……」

 

「……ウィルの命がかかっている。彼ら以外に頼めるものはいなかった。仕方ないよ。それに、彼等に力を貸すか否かは私の判断でいいと彼等も承諾しただろう。問題ないさ。それより、彼らの秘密……」

 

「ステータスプレートに表示される〝不都合〟ですか……」

 

「ふむ、ドット君。知っているかい? ハイリヒ王国の勇者一行は皆、とんでもないステータスらしいよ?」

 

ドットは、イルワの突然の話に細めの目を見開いた。

 

「! 支部長は、彼が召喚された者……〝神の使徒〟の一人であると?しかし、彼はまるで教会と敵対するような口ぶりでしたし、勇者一行は聖教教会が管理しているでしょう?」

 

「ああ、その通りだよ。でもね……およそ四ヶ月前、その内の一人がオルクスで亡くなったらしいんだよ。あの大迷宮の奈落の底に魔物と一緒に落ちたってね。そして、その一人は天職が非戦闘職でありながら勇者一行の中でも相当な実力者だったらしい」

 

「……まさか、その者が南雲ハジメであると? 四ヶ月前と言えば、勇者一行もまだまだ未熟だったはずでしょう? ランクEXの遺跡と同等のオルクスの底がどうなっているのかは知りませんが、とても生き残るなんて白金ランクと同等……いや、それ以上ですよ!」

 

ギルドの記録でも何百年以上の間、攻略されていない大迷宮。今、現存する白金ランクの冒険者達すらも挑もうとしない魔境を乗り越えたなんて常識的に有り得ない。

ドットは信じられないと首を振りながら、イルワの推測を否定する。しかし、イルワはどこか面白そうな表情で少し懐かしく感じながら再びハジメ達が出て行った扉を見つめた。

 

「そうだね。でも、もし、そうなら……なぜ、彼は仲間と合流せず、旅なんてしているのだろうね?彼は一体、闇の底で何を見て、何を得たのだろうね?」

 

「何を……ですか……」

 

「ああ、何であれ、きっとそれは、教会と敵対することも辞さないという決意をさせるに足るものだ。それは取りも直さず、世界と敵対する覚悟があるということだよ。本当に()に似ているしね」

 

「世界と……」

 

「私としては、そんな特異な人間とは是非とも繋がりを持っておきたいんだ。例え、彼等が教会や王国から追われる身となっても、ね。もしかすると、先生やそして、かの【山喰】もその辺りを察して、わざわざ手紙なんて持たせたのかもしれないよ」

 

「!【山喰】って、あの元白金の【山喰】ですか?!」

 

イルワの口にした言葉に驚きを示すドットにイルワを頷いた。

 

「ああ、君が読んでなかった二枚目の内容に彼等のことを見守って欲しいそうだ。必ず、この世界に大切な存在ってね」

 

あのキャサリンと元白金の冒険者からの便宜。それは何を意味しているかは流石のドットでも理解できる。故に、緊張した面持ちでイルワに忠言する。

 

「支部長……どうか引き際は見誤らないで下さいよ?貴方は前に一度、元白金の異端者(・・・)。教会からは指名手配者である()も裏でギルド共に擁護しているのですから……」

 

「……もちろんだとも」

 

スケールの大きな話に、目眩を起こしそうになりながら、それでもイルワの秘書長として忠告は忘れないドット。しかし、イルワは、何かを深く考え込みドットの忠告にも、半ば上の空で返しで、イルワは、十年以上も付き合いのある神官の服を着た心優しき青年の姿を思い浮かべ独りでに呟いた。

 

「……アレス君、君は今何処にいるんだい?」

 

 




冒険者ギルド:フューレン支部
各都市、町に必ずあるギルド支部の中ではトップに近く、多くの銀ランクや黒や白の冒険者が在籍しており、ギルド間の定例議会でも強い発言力を持つ。
そんな支部の支部長のイルワ・チャングは正に秀才と呼ばれる人物で、冒険者への手厚い待遇と才ある者への勧誘。大きな商会との提携の獲得などで色々と利益を出している。
なにより王国や教会を警戒してるため己の恩師であるキャサリンなどがいるギルド側にいる信頼を置いているため、教会に知られてはマズイ秘密を幾つか抱えている。

他に発言力を持っているギルド支部はフューレンの他に【ホルアド】、【ガラテア】、【キオン】といった都市と町が発言力を持っている。


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