ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

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今年初投稿+生存報告。

大変、遅くなりました<(_ _)>


三十八話〝怪物氾濫(スタンピード)〟終

 

突如、己の存在を昇華した【ハクロニア遺跡】の主──ミツマタノヅチ・厄災化(ハザード)

濁りなき白き肉体は漆黒に染まり、赤い瞳は更に深く……深紅へと染まる。そして、ティオが滅したはずの一つの頭部が再生し、新生した魔物は産声を上げた。

 

『『『シュルルルララララ!!』』』

 

空気は張り詰め、大地は揺れる。其処にいるだけ溢れ出る覇気はミツマタノヅチ・厄災化は謎の高揚感と破壊衝動に身を任せ、無意識に膨大な魔力の余波──広範囲に〝威圧〟を発動した。

突然、放たれた〝威圧〟により、ノヅチの周辺にいた魔物達はその伸し掛る重圧に耐えられず泡を吹いて倒れ、それよりも弱い魔物に至っては耐えきれずショック死を起こしてしまっている。

 

そんな厄災を目の前に二度も大迷宮を越えたハジメであっても、いやだからこそ、この事態の深刻さを誰よりも理解して眉を顰めた。

 

「くそっ、〝威圧〟か……」

 

「っ……胸がっ」

 

魔力駆動二輪──シュタイフを停め、その変貌を目の当たりにしたハジメは〝魔眼石〟に映る膨大な魔力量に加え、先程の重圧もとい〝威圧〟を獲得したことに悪態つく。

その後ろにいた清水もある程度の魔力耐性はあるがノヅチからの〝威圧〟に耐えれず胸を抑え苦しそうに呻くのを見て目を細め舌打ちする。

 

「チッ……(二百メートル以上あるのにこれほどか)」

 

闇術師で人並み以上に魔力耐性がある清水ですら苦しむノヅチの広範囲の〝威圧〟。そして、周りに散らばる魔物達の無惨な有様を見て、この威圧が【ウルの町】にまで届いてると理解したハジメは嫌な予感が頭に過る。

 

「……妙子や先生達は無事だろうな?」

 

そう言いながらハジメは再び外壁を目指してシュタイフを走らせる。

 

「な、なんなんですか!?」

 

「………っ!」

 

「こ、これは……っ」

 

時は同じく外壁近くでも魔物達を狩っていたシア、外壁の上で進行を抑えるユエは〝威圧〟の圧に手を一瞬止めてしまうほど驚き、魔力枯渇で倒れていたティオも眠気が霧散するほどの圧により飛び起きる。

そして、三人もミツマタノヅチの異変に気付き目を見開く。

 

「な、なんなんですかぁ〜っ。アレっ?!」

 

「……なんで進化を?」

 

「わ、わからん。しかし、【遺跡の主】が進化するなど有り得ないのじゃっ」

 

初めての光景にシアは驚きの声を上げているが、魔物の存在進化を知るユエとティオはそこに関しては驚いていない。驚いているのは【遺跡の主】の存在進化だ。

魔物の進化とは其の個体が持つ一定の魔力量を越え、それを適応させようと肉体を変化し、より強力な個体へ至ることを存在進化という。

しかし、存在進化は成功の確率は低くく、百体中で五体程度しか成功しない確率だ。故に、それでも珍しいことなのに魔物の中でも最強に位置する【遺跡の主】が存在進化するという事例は有り得ないのだ。

 

それなのに、ユエ達の視線の先にいるミツマタノヅチは其れを成した。故に、脳に警鐘が鳴る。

 

──コイツはヤバい、と。

 

 

そして、ハジメ達が警鐘を鳴らすほどの魔力余波と〝威圧〟に【ウルの町】にいた愛子達や住民達の被害はそれ以上だった。余波と〝威圧〟当てられた多くの町の人達が泡を吹いてバタバタと気を失って倒れていく。しかし、死者がいないのはノヅチとの距離が離れていたからだろう。

 

「っ、胸が……苦しい」

 

「た、立てないっ」

 

「うぅっ……」

 

「クソっ、体が思い通りに動かねぇっ」

 

「あ、愛子ぉ……っ」

 

訳が分からない状況に愛子やクラスメイト、デイビッド達は、意識は保っているもののノヅチによる〝威圧〟による重圧で物理的に押しつぶされてしまって立ち上がることさえ出来ない。それに加え意識を保てるのも僅かな時間しかなく、この中でも魔力に対する耐性が弱い愛子は顔を蒼白になり息すら出来ず、そのまま意識を失うその時だった。

 

「偉大なる主の御業 勇敢なる加護を此処に──〝勇心(ゆうしん)〟」

 

詰まることなく発せられた詠唱と共に魔法が発動され、立ち上がれない愛子達に光のオーラが包み込む。

 

「! あ、あれ?」

 

「か、体が軽い?」

 

「これは……!」

 

重圧に押し潰されて立ち上がれなかった愛子達、デビッド達護衛騎士達に光のオーラが纏いだした途端、急に伸し掛る重圧が消え体が軽くなったことに驚きの声を上げる。そんな中、デビッドや他の護衛騎士達はこの魔法を知っているような表情をしている。

 

「──愛子様に神の使徒様方、騎士の皆も、ご無事でなによりです」

 

「あ、貴方は!」

 

愛子達の元へ歩み寄って来たのは【ウルの町】に配属された聖陽教会の司祭──コリオ・パルミエール。彼の後ろには町長のニールスとギルド支部長のヒョロもいる。

 

すると、起き上がったデビッドが目上の存在であるコリオの前で跪き感謝を述べた。

 

「やはり、 コリオ司祭様の魔法でしたか。中級魔法をたった二節とは流石は司祭の位を持つ御方です」

 

「そこまでの世辞は要りませんよ。しかし……町民達を守ることは私では無理でしたが……」

 

デビッドの感謝の意に町民達の意識を守ることは出来なかったことに眉を下げるコリオ。

彼が使った魔法は光属性魔法〝勇心(ゆうしん)〟という魔法らしく精神干渉系の魔法を跳ね除ける魔法らしいが、それは意識を保っている者のみで既に意識を失っている者に使うのは無理らしい。

 

この〝勇心〟による光のオーラに包まれてる感じが暖かく、そして、自信が漲ってきてるような感覚がする愛子達。すると、何を思ったか男子生徒組が突然、行動に出る。

 

「でも、これなら南雲達と一緒に戦えるんじゃねぇか?」

 

「お、そうだな! この漲る感覚!」

 

「よし、俺達も前線に!」

 

「ちょっ、玉井君と相川君っ、それに仁村君!?」

 

威圧からの重圧から解放されたと同時に内から溢れるような自信のせいかそう言い始める玉井敦史を筆頭に相川昇、仁村明人の男子三人が愛子の制止の言葉を聞かずして前線に向かおうと外壁の所へ駆け出す。

しかし、その事態を見越していたのか走る三人の前にデビッド含めた護衛騎士が立ちはだかる。そんな護衛騎士達の行動に玉井達三人は不満に満ちた表情で異議を申し立てる。

 

「ちょっ、デビッドさん達どいてくれよ! 俺達も南雲達と一緒に魔物達を討伐するんだからさ!」

 

「そうだ!」

 

「俺達だって、異世界から召喚された神の使徒なんだ!」

 

そう豪語する三人に対してデビッドは冷めた表情で首を振り、彼の隣に控えていたチェイスが前に出て、諭すように三人に言う。

 

「三人共、落ち着きなさい。今、貴方達がそうなっているのは〝勇心〟の影響を諸に受けてしまって変に自信が溢れてしまっているだけです」

 

「「「?」」」

 

チェイスの言葉に三人は首を傾げる。それは、傍らで聞いていた愛子達も同様だ。すると、魔法を掛けた張本人であるコリオが申し訳なさそうな顔をしながら〝勇心〟について説明する。

 

「言葉が足りませんでしたな。この〝勇心〟は精神干渉系を跳ね除ける魔法ですが、そのデメリットとして自信過剰になってしまうのです」

 

「ええ!?」

 

──中級光属性魔法〝勇心(ゆうしん)

光のオーラを纏わせ、心を強化させ、〝威圧〟や〝恐怖〟などの精神干渉系の魔法をある程度は跳ね除けられる魔法。しかし、その過程で自信向上などのデメリットもある。

 

コリオの説明に驚く愛子達。つまり、〝勇心〟は心を強くするだけで単に強くなった訳ではないという。故にデビッド達護衛騎士はこの魔法のデメリットで暴走する生徒がいると見越して、先回りが出来たのだ。

 

「そ、そんな……強くなれたと思ったのに」

 

コリオの説明を聞いて、強くなった訳ではないと理解した玉井は肩をガックリと落とし落胆する。他二人も同様だ。それを見て同情の眼差しを送るデビッド達、彼等もこの魔法で失敗したことがあるのだろう。余り影響を受けていない愛子、妙子、奈々の三人は男子組よりも余り好戦的な性格ないのが理由だろう。

 

そして、すっかり気落ちてしている玉井達を心配しつつ愛子は周りの状況を鑑みて自分達が今、やるべきことはなにかと考える。

 

「なら、私達がすべきことは……」

 

「そうですな。気を失ってしまってる町民達をこのまましていては危険ですし、皆で安全な所へ運びましょう」

 

「な、ならっ、ギルド支部はどうですか? ぎ、ギルド支部は他のと、ところより頑丈にで、出来てますので!」

 

「なら、役場にも運びましょう。役場も一応、他の建物よりかは頑丈なので根」

 

コリオの提案と共にヒョロとニールスも避難させる場所を提示し、その場にいる全員が頷き、倒れた町民達を運ぼうとしたその時だった。

 

「「「「!?」」」」

 

外壁の向こうから感じる大地の鳴動。まるで、巨大な何かが動き出したような地響きが愛子を含めた全員の耳に入る。

 

「ま、まさか……」

 

嫌な予感が過ぎり愛子は外壁の方へ視線を転じ、外壁の向こうで起きていることに冷や汗を流すが、それ以上に自身の生徒への心配が勝っていた。

 

「……皆さん、南雲くん」

 

壁の向こう側で戦っているであろう自身の生徒とその仲間達の無事を愛子は願うのだった。

 

 

一方、外壁の向こうでは、愛子の嫌な予感は当たり、地響きの正体はミツマタノヅチ・厄災化が【ウルの町】に向かって動き出した。体をくねらせ、腹部の鱗と地面の摩擦を利用し、筋肉で体を波状に曲げ蛇行運動で進むノヅチ。

周りにいる魔物達など、まるで一つの命を小石程度の認識でミンチのようにすり潰しながら蛇行していき、魔物達を逃げ場を無くし外壁の方へ誘導させている。

 

それにより、ミツマタノヅチ・厄災化が進んでいくうちに散りばめ始めていた魔物の群勢が再び群れを成し外壁への進行を再開させた。其の姿は本当に生きた厄災だ。

 

「ちっ、シビレを切らして動き出しやがったか」

 

ミツマタノヅチが動き出したのを尻目で視認したハジメは舌打ちと共にシュタイフの速度を上げる。同時に、ノヅチを中心に再び群れとなっているところへハジメはホルスターからドンナーを抜き取って振り返り様に進行するミツマタノヅチ・厄災化(ハザード)や周りにいる魔物達に照準を合わせるとシュタイフに取り付けられた二丁の機関銃を展開する。

 

「死に晒せ」

 

そう言うと共に引き金を引いてドンナーからは六発の閃光、ハンドルに取り付けたスイッチを押して二丁の機関銃による弾幕の嵐を放った。

 

放たれた無数の嵐は魔物の群れを捉え、巻き込まれた瞬間に肉塊へと変えていく。十、二十、五十、百と魔物の数を減らしていく。しかし、ミツマタノヅチは違った。

 

『シュルルルルル!!』

 

放たれた六発の紅の閃光と数百の弾丸の嵐に気付いた途端、三つの内の一つの頭が叫び、緑の輝きと共に風の魔法を発動。全身に風の鎧を纏い、直撃する閃光と弾幕の嵐を全て弾き返し無傷に終わる。

 

「……ちっ、これを弾くか。なら」

 

弾切れとなった機関銃をしまい、弾のリロードをしながらハジメは全開ではないものの魔物の頭を軽く一撃で吹き飛ばす威力を持つレールガンを弾き返してみせたミツマタノヅチの纏った風の鎧の強固さに多少驚くも、追撃と言わんばかりに追走させていた四機のクロスビットを飛ばす。

 

『『『シュルラララァ!!』』』

 

一気に飛びだした四機のクロスビットは目標であるミツマタノヅチの群れに向かって集中砲火を開始。対してミツマタノヅチも水と風を織り交ぜた盾で防ぎ、反撃で火の炎弾を放つ。

しかし、アザンチウムで表面をコーティングされた装甲を持つクロスビットにとっては火の玉程度では意味を為さない。

そして、ノヅチの周りで独楽(コマ)のように飛び回るクロスビットは距離を取ってスラッグ弾を放射、死角の所を狙ってビットによる突撃で進行を止める戦法に出ようとする。

 

『シュル!』

 

『シュルール!!』

 

『シュ!』

 

だが、それを見越していたのかノヅチのそれぞれの頭が別々に動き、死角を完全に潰しに入った。それによりクロスビットは突撃行為ができなくなり、距離を取ってスラッグ弾を放つしかなくなる。だが、それも頭の一つ一つが別々の魔法で相殺させてしまっている。

 

「チッ、これ以上は魔力の無駄か」

 

その様を見てこれ以上の追撃は魔力消費の無駄と判断したハジメはクロスビットによる攻撃は取り止め、ノヅチの周りを飛び回っていたクロスビットはハジメの元へと戻っていく。

 

雑魚の魔物はある程度は殺したが健在であるミツマタノヅチを尻目にハジメはポツリと呟く。

 

「あの蛇……だいぶ、知能が上がってやがるな」

 

今回の防衛戦前にハジメはミツマタノヅチという魔物を支部長のヒョロから山脈周辺に確認された【遺跡】の詳細が書かれた報告書をあるていど目に通していた。

 

その報告書にはこう書かれていた。

──第一級ランク遺跡【ハクロニア遺跡】

全二十五階層まで続く遺跡。

遺跡内部にはナーガやラミア、ノヅチなどの蛇系の魔物が主に産まれてくる。そして、その最下層には主である魔物──ミツマタノヅチが鎮座している。

ミツマタノヅチは、それぞれの頭部は個別に自我を持ち、火、水、風の三属性の魔法を扱う。加えて硬い鱗を纏った巨体で冒険者を圧倒するという強力な魔物。

討伐レベルも高く銀ランク以上……第一級冒険者じゃなければ討伐は不可能だろうとギルドは推測。

だが、ミツマタノヅチには最大の欠点と言える弱点がある、それは魔法の扱いだ。

ノヅチが主である【ハクロニア遺跡】を攻略した金ランク冒険者が報告した内容で分かったことは奴は三属性の魔法を扱える癖に攻撃面は息吹(ブレス)を吐いたり、広域範囲の魔法のぶっ放すだけという。防御面にしても三属性の魔法を重ねた結界を張るだけという魔力の無駄遣いをするらしい。

この世界基準からしてみれば十分脅威な存在だろうが、これを知ったハジメは「流石に欠陥すぎるだろ……」と口を零し呆れていた。

 

しかし、目の前にいるノヅチはソレとは違う。余りにも知能が上がっていると分かる。ハジメの雷に合わせて相性の良い風属性魔法を使って防御。そして、レールガンが直撃した箇所に更に防御装甲を重ねていたことを〝魔眼石〟で確認は取れており、クロスビットの攻撃に対しても最小限の魔法で攻撃を防ぎ、死角すらも見事に潰していた。

 

「………ちっ、厄介だな」

 

唯一の欠陥が無くなってしまったミツマタノヅチにそう率直な感想を述べるハジメはまず、〝威圧〟で苦しむ清水を外壁近くまで届かせることが先決だとハンドルのグリップを更に回し速度を上げ、外壁まで走るのだった。

 

 

『『『・・・・・』』』

 

魔物を引き連れ進むミツマタノヅチは敢えて風の鎧を纏ったまま、先程、己に攻撃した白髪の人間を睥睨する。本来なら人間など矮小な存在、傍らのゴミぐらいの認識であるが奴は違う。

奴は格下であれも己と同じ主の枠組であったブルタールロードとアクラオール・ナーガを一撃で屠った人間だ。

他にも遠くの土の壁の上にいる多くの魔物とオルトロスを屠った金髪の女、己の頭の一つを潰し、タイラント・タラテクトを屠った黒髪の女も警戒すべき存在だ。

そして、一つの頭が白髪の男を追う内に、男が向かっている場所が、人間達が多くいる場所だと判明する。

 

そして、三つの頭達は理解した。あの者達は守るべきものは後ろにある場所なのだと。

 

本来、魔物は本能的に人や己より弱い魔物を殺し、喰らうようにできている。しかし、【遺跡】の魔物は少し違う。本能とも呼ぶべき根幹は従来の魔物と同じだが、優先度的に人、亜人、魔人を殺すようにと思考に植え付けられている。

その為か、変に知能を得た魔物によっては悪辣なことをする魔物もいる。例えば、死ぬ寸前の者をゆっくりと苦しませながら喰い殺し、強い者を狙わず弱い者を優先的に殺し、大切な人などいれば死体の一部をわざと残し、それを見せびらかしながら戦うなど卑劣な行為に走る。

 

そしてミツマタノヅチ・厄災化(ハザード)も、その下手に発達してしまった知能で相手側が最も狙われて欲しくないところは何処か?

それは勿論。

 

──相手の守るものを跡形もなく壊す。

 

そして、ウルの町を捉えた六つの眼光が怪しく光り出す。

 

「!」

 

シュタイフで全速力で平地を走り抜けていく中、後方から異常と言える魔力上昇を〝魔力感知〟で感知したハジメはバッと後ろを振り向き目を見開く。

 

「っ、おい嘘だろ!?」

 

ハジメが見たのは一旦、進行を停止したミツマタノヅチがそれぞれ、砲門並の大きさを誇る口から体内や空気中の魔力を集約し始めている光景だった。

恐らく、ミツマタノヅチが放とうとしているのは報告書にも記載されていた三属性からなる三色の息吹(ブレス)だろう。

それは嘗て、自身とユエを苦しめたヒュドラを思い出す程の尋常ではない魔力の収束速度と魔力密度からしてもう放たれるのに時間がないと理解したハジメは即座に外壁の上にいるユエを〝念話〟で呼びかける。

 

〝──ユエ!!〟

 

〝ん!〟

 

ハジメの激声に即座に応えるユエもノヅチから感じる異常な魔力上昇を感知し、すぐさま行動に移る。残りの魔力量に心許ない為、雑魚狩りをしていた〝雷龍〟を止め、残りの魔力で町の防衛にシフトする。

 

『『『シュルララララァァア!!』』』

 

充填が完了し終えたのかミツマタノヅチの口から膨大な熱と蒸気を発しながら火、水、風の異なる三属性の魔が収束、三つの砲門から極太の息吹(ブレス)を【ウルの町】へと放つ。

最上級レベルの三つの息吹は空気を裂き、空間を振るわせ標的である外壁へと突き進む。

もし、これが直撃してしまえばハジメの即興で錬成した外壁であっても意味を為さず、そのまま壁の向こうにいる愛子達や【ウルの町】の人の大勢が死んでしまうのは確実であろうと言える威力。

 

しかし、そんな末路は黄金の吸血姫が許さない。

 

「──〝天蓋(てんがい)〟」

 

両手を突き出し発動したのは最上級の結界魔法。あらゆる攻撃、魔法、呪詛を跳ね除ける天の蓋。

 

──光属性最上級結界魔法〝天蓋(てんがい)

展開した天蓋はユエを中心に半径十メートル及ぶほどの巨大な盾となって向かい来る三つの息吹の侵攻を阻まんと顕現する。

 

展開された〝天蓋〟にノヅチの放つ息吹が衝突した瞬間、強い衝撃が押し寄せ、轟音が響く。同時に全身に掛かる重力が増したような感覚が発動者であるユエに伝わり顔が僅かに歪む。しかし、彼女はそれでも手を緩めず町の守りに徹する。

 

だが、

 

「……っ(やっぱりキツイ……!)」

 

隣にいるティオはまだ、完全に魔力を回復できておらず助力は得られない。加えて残り少ない自身の魔力に、ハジメとシア以外に守る存在の規模の多さという状況が相まってユエを更に追い詰めてしまう。

しかし、それでも〝天蓋〟の守りを崩させまいと踏ん張ったその時、下から声が聞こえた。

 

「──さい!」

 

「!」

 

突如、下からの声に気付いて視線を向けると、其処には急いで駆けつけたであろうシアがユエに代わって外壁へ侵攻してくる魔物達の対応しているのが見えた。ドリュッケンで襲い来るナーガの頭をミンチのように潰し、そのまま独楽のように振り回し、周りの魔物達も肉塊へと変えながら彼女は大声を出して言う。

 

「ユエさん! なんで、あんな蛇モドキに押し負けてるんですかぁー! とっとと、そんな息吹(ブレス)を弾き返して下さい!」

 

「───」

 

そう出来ないかと煽るシアの言葉にユエはイラっと青筋を浮かばせたが口角は僅かに上がっている。

 

「ふっ、生意気ウサギめ」

 

これが終わった後は折檻すると決めたユエだが、弟子が頑張っているのに、師である自分が情けない姿を晒しているのはあってはならない!と、そう心の中で叫ぶと共にユエの金色の魔力が吹き荒れる。

 

「もう迷わない」

 

憂いは消え、残りの魔力を出し惜しみなく使うユエは〝天蓋〟に注ぐ魔力を更に上乗せると同時に〝天蓋〟の術式を書き換えを行う。今、必要のない呪詛や精神汚染への防御、物理攻撃の防御といったものを消し、魔法の防御の重点を置いて、効率よく、硬くといった全く違う術式を変更させる。

 

瞬間、〝天蓋〟の形が変貌しユエは其の名を告げる。

 

「──〝天蓋・甲っ〟」

 

天なる蓋は形を変え亀の甲羅のような形へとなる。

 

──対魔法攻撃専用最上級結界魔法〝天蓋・甲〟

最上級結界魔法〝天蓋〟に刻まれていた術式の書き換えを行い、魔法攻撃の防御のみを絞り、通常よりも硬く、魔力消費量を効率化させた結界魔法。

 

新たな形へ成った〝天蓋〟は先程まで押されていた状況を一気に巻き返し、拮抗し始める。

 

「……まだっ」

 

しかし、黄金の少女は止まらない。更に障壁の展開範囲を絞り、更に硬度を硬くし、逆に息吹(ブレス)を押し始めた。

 

「な、なんと…………」

 

その光景を間近で見ていたティオは目を剥いて驚愕するも同時に納得もしたような表情を浮かべた。

 

──三百年前、宗教、経済、資源、種族の違いで闘争が止まなかった動乱の時代。

そんな時代で、小国でありながら他国から鬼神の国と畏怖された吸血鬼族達の国があった。

他者の血を取り込むことで、身体を強化し、魔力を増幅させ、尋常ならざる回復力を発揮し、寿命すら延ばす特殊な種族である吸血鬼族。

彼等は他国からの侵攻を幾度も返り討ちにし、人間族と魔人族の二種族同時侵攻さえも相手取った。

もし、竜人族が亜人系最強の種族であるなら彼等は亜人系最優と呼ぶべき種族だろう。

 

そして、そんな吸血鬼族の中でも、最も異才を放つ存在がいたのをティオは知っている。

 

──黄金の吸血姫。

 

圧倒的な殲滅力と不死身と言える程の回復力を兼ね備えた其の吸血鬼の名は一年経たずして大陸全土に知らしめた。そして、誰もが言った。彼女がいる限り吸血鬼族は滅びることは決してないと。

 

「(これが〝黄金の吸血姫〟の実力)……いやはや凄まじいのぅ……」

 

発動中の魔法の術式の書き換えという人智を越えた技術。そして、それを戦闘中にやってみせた度胸を持つユエという魔法の天才。

五百年以上生きたティオでさえ、そんなユエの規格外さを目の当たりにして苦笑いを零しながらもとてつもなく頼もしく感じてしまう。

 

そして、

 

「………これで、終わり!!」

 

声高らかに告げ、三つの強大な息吹(ブレス)はユエによって完壁に相殺させることに成功し、三つの息吹は天なる蓋によって見事に掻き消され霧散した。

 

「……っ、ハァっハァっ」

 

しかし、代償も大きくほぼ魔力を使い果たしたユエは荒い息を立てて土壁の上で両手を着いて倒れる。だが、自分のすべきことをやり遂げた彼女の表情はしてやったりと笑みを浮かべている。

もう、自分に出来ることはないが大丈夫。とユエは想いを寄せる彼に任せることにした。

 

「……ハジメ。あとは……」

 

お願い。と言い切る前にユエは魔力枯渇により眠るように意識を失いそのまま倒れる。

そして、そんな吸血姫の頼みを、まるで、傍で聞いたかのように二輪車から降りた白髪の男は獰猛な笑みを浮かべながら呼応した。

 

───任せろ、と。

 

ユエの頑張りのお陰で【ウルの町】の被害はなく、清水も送り届けることが出来たハジメはシュタイフから降り立つと、予想以上の成果を出したユエに感謝しつつ後ろに乗っていた清水を見る。

 

「清水、ここなら平気か?」

 

「ああ、なんとか」

 

ミツマタノヅチとの距離を開いたことで重圧から解放された清水は安堵の息を漏らす。

 

「なら、シアと一緒に壁に来ようとする魔物共の対処をしてくれ。前衛のシアだけでは守れる範囲は限りがある」

 

「ああ、それで俺の闇魔法が必要ってことか」

 

後衛組であるユエとティオが魔力枯渇で動けず、前衛であるシアだけだと壁を守るのにも限界がある。そこで清水の闇魔法だ。

 

「倒せずともお前の闇魔法なら魔物共を撹乱できるだろ?」

 

「ああ、それぐらいなら任せろ。……それに、今回の〝怪物氾濫(スタンピード)〟が起きた原因の一端である俺が何もしない訳にはいかないしな」

 

頷いてハジメの言葉に賛成する清水の表情は硬い。相当、責任を感じているのだろう。その瞳には強い意思を感じられる。

そんな彼に対し、ハジメは僅かに口角を上げつつ背中を軽く叩く。

 

「そう気張るな。決して悪くないと俺が言いきれることじゃねぇが、ただ、これだけは言える」

 

「俺は、お前の味方だ」

 

「!」

 

その言葉だけで清水は何か熱いモノが込み上げてくるような感じた。何も誇れることがない自分にここまで信頼を寄せてくれる彼に感謝をし切れない。

そして、ミツマタノヅチ・厄災化(ハザード)がいる方向へと歩みを進めていたハジメの名を呼ぶ。

 

「南雲!」

 

清水の声に反応するもハジメは此方を振り返ることなく、ただ片腕だけ上げて、そのまま紅雷を纏い大地を蹴って駆け出した。瞬間、蹴り上げたことで粉塵が舞い上がる。

 

「……っ!」

 

舞い上がった粉塵が目や口に入らないように咄嗟に顔を腕を覆って防いだ清水。そして、目を開ければハジメは既に百メートル以上ほど距離が離れているのを見て苦笑する。

 

「ハハっ………やっぱ遠いなぁ」

 

そう自嘲しながら清水は自身の憧れ(ハジメ)との差を実感する。しかし、それでも卑屈になったり、下を向くことはない。だって、頭の中で先程の彼の言葉が木霊するのだから。

 

『俺はお前の味方だ』

 

そう。だって、憧れである彼は自分を信頼しているのだから。

 

「俺、頑張るからよ………だから、待っててくれ」

 

清水幸利は先を行く憧れに追いつく為に前を見る。そして、外壁へ向かう魔物の群れに向かって杖を振るい駆け出すのであった。

 

 

================================

 

 

ミツマタノヅチ・厄災化は計六つの目を見張る。まさか、己の息吹(ブレス)を以てしても貫けず一人の女の障壁によって阻まれてしまうとは想像していなかった。

次の最大出力を放つには時間を要するため、このまま外壁まで攻めていくかと考えた矢先に此方へ向かってくる人影を捉える。

それは、ミツマタノヅチにとって一番警戒していた白髪の男。紅色の雷を纏い荒野を駆け抜けている。

 

『『『─────』』』

 

ああ、危険だ。奴を此方へ近付かせては駄目だ。と本能で理解したミツマタノヅチは息吹(ブレス)での町の破壊を止め、ハジメという危険な存在だけを標的に絞り三つの魔法を一気に放つ。

 

──百を越える火の槍。

──大地を抉る風の刃。

──圧倒的な質量で押し潰す水の砲弾。

 

個人に対して振るう攻撃ではないと思われる三つの上級に匹敵するであろう魔法。しかし、ミツマタノヅチは確信している。あの男は、これほどの魔法でないと仕留められないと。

故に、なんも躊躇いもなく三つの魔法を放ち徹底的に殲滅を開始する。

 

「お、仕掛けできやがったな」

 

対してハジメはやっとミツマタノヅチが自分に対して魔法を放ったことを確認し、笑みを浮かべながらホルスターからドンナー&シュラークを取り出し全身が雷光のように煌めいた。

瞬間、一気に押し寄せる三つの魔法を前にしても立ち止まることなくハジメは突き進む。空から降り注ぐ火の槍に対しては軽やかな歩法で軽々と躱し、直撃するモノに対してはドンナーで魔法の核を正確に撃ち抜き消滅させる。

風の刃は左のシュラークを振るい〝風爪〟を発動させ上手く相殺させ、足りない部分は〝クロスビット〟を盾にて直撃を避ける。水の砲弾は着弾位置を予測し敵に補足されにくいジグザグした動きで翻弄し回避してみせた。

 

それを繰り返しミツマタノヅチ・厄災化(ハザード)からの魔法攻撃の雨を難なく突破してみせたハジメは着々と距離を詰めていく。

 

そして、

 

「よぉ、待たせたな蛇野郎」

 

そう軽口を吐き捨てながらハジメはミツマタノヅチの眼前まで辿り着いてみせた。

 

『『『・・・・・・』』』

 

ミツマタノヅチは唸ることなくジッと三つの頭の視線がハジメを射抜く。そして、ただ黙っている筈もなく漏れ出ていた〝威圧〟をハジメ個人に絞り放つ。それに対抗してハジメも〝威圧〟を放つ

共に放たれた〝威圧〟がぶつかりあったことで周囲の被害はなくなるものの三色の魔力と紅雷の魔力が激しくぶつかりあっていく。

 

「クハッ、やる気満々じゃねぇか……嫌、それは俺もか」

 

放たれる〝威圧〟に六つの目から感じる滾る殺意と闘争本能。それを前にしてハジメは怖気ることなく逆に獰猛に不敵な笑みを見せる。

 

そして、開戦の合図は………

 

『シュラララァァァアア!!!』

 

ミツマタノヅチの咆哮と共に振り下ろされた頭部によって開始された。

 

『シュルルルルルルルルル!!!』

 

『シュルララララァァァアア!!!』

 

それに続き別の頭からは二つの魔法による攻撃。一気に襲いくる複数の攻撃の前にハジメは、

 

「ハッ」

 

笑みを崩すことなく難なくと頭部に打撃を避け、二つの魔法を両手で持つドンナー&シュラークで核を破壊し消滅。同時に、片足を空を裂くように蹴り上げ〝風爪〟と雷属性を組み合わせた攻撃を放つ。

 

『シュル!』

 

だが、ミツマタノヅチはハジメの攻撃が直撃する寸前に風の鎧を纏いダメージを軽減。分厚い鱗も合わさって掠り傷だけで終わる。

 

「(見積もってオルクス最下層クラス……いや、耐久面に関しては、あのヒュドラ野郎を優に越えてるな)」

 

ミツマタノヅチ・厄災化(ハザード)の強さはオルクス最下層クラス。そして、耐久性に関しては【オルクス大迷宮】の奈落の主であり自分とユエを苦しませた魔物──ヒュドラを優に越えていると踏むハジメ。

そこへ眼前へ迫る黒い極太の鞭が視界を覆う。

 

「!……チッ」

 

それがノヅチが振るった尻尾であると理解し、不意ではあったが放たれた亜音速を越える尻尾の攻撃を紙一重で躱し、同時に十二の閃光を放つが、全て風の鎧に弾かれる。同時にミツマタノヅチから複数の魔法攻撃がハジメへと降り注ぐ。

 

「風の鎧……厄介だな」

 

迫る魔法にハジメは悪態を吐き捨てながら無駄を感じさせない最高効率の動きで回避、また補足されない為に止まることなくハジメはミツマタノヅチの周りで上手く駆け立ち回って二対の銃の引き金を引く。

だが、ミツマタノヅチもそれも承知で三つの頭を最大限に利用し、決してハジメの姿を見失うことなく絶え間ない攻撃を浴びせていく。

ミツマタノヅチはハジメの攻撃を弾き、飛翔するクロスビットにも警戒を緩めない。対してハジメもミツマタノヅチの攻撃を避けつつ閃光弾を投擲。ノヅチの視界を一時的に白に潰す。

 

『『『シュル!!?』』』

 

一時的とはいえ視界を潰されたことで戸惑いを見せるミツマタノヅチを前にハジの右手には対物ライフル──〝シュラーゲン〟が握られていた。

 

ミツマタノヅチが纏う風の鎧。風の鎧で外からの攻撃を威力削減を担い、存在進化によって齎された分厚い硬鱗で完全に相手の攻撃を無効化させるという完全な防御機関。

ハジメが放つ雷であっても風の鎧によって威力が分散され、クロスビットのスラッグ弾、ドンナーによるレールガンでも防いでみせたミツマタノヅチの耐久性を底上げさせている原因である風の鎧。

 

しかし、

 

「これなら流石に貫通するよなぁ!」

 

ハジメの持ちうるアーティファクトで最高の貫通力を誇るアーティファクト〝シュラーゲン〟。

これならばあの風の鎧を貫通できるとハジメは引き金を引く。

 

瞬間、大砲の如き轟音と共に一条の紅き閃光がミツマタノヅチへ放たれた。

 

『『『シュル!』』』

 

「!」

 

だが、ミツマタノヅチも視界を潰されながらも本能で己の危険を感じ取ってか全身に纏う風の鎧を解除すると同時に一点に凝縮させ強固な風の盾を形成。それによってシュラーゲンの砲撃を完全に防ぎ相殺させることになんとか成功する。

 

そんなハジメの最大威力の攻撃を防いでみせたミツマタノヅチ。しかし、ノヅチは盾の崩壊による一時的な魔力の乱れが起き、その一瞬の隙、警戒を緩ませてしまう。

風の鎧も纏えることも出来ないその隙を狙う一つの影が一瞬にして懐に入り込み銃口を鎧を失った胴体へ突き付けた。

 

「──死ね」

 

その一言と共にゼロ距離で電磁加速された一発の弾丸が硬いノヅチの鱗をいとも容易く撃ち穿ち、そこを起点に胴体の一部が抉り肉塊が弾け飛んだ。

 

『『『ァ”ァ”ァ”ア”ア”ア”ア”ア”!?』』』

 

「ちっ………」

 

絶叫。ノヅチから金切り声の如く周囲に響き渡る。全身を激しく暴れ回る。大地がひび割れ、揺れる。至近距離でノヅチの絶叫を受けたハジメは、鼓膜が破れずとも顔を一層に顰める。

コレはマズイと判断したのか一気に飛び退いてノヅチとの距離を離れようと動くが、瞬間、空気が張り詰めたような感覚がハジメを襲う。

 

『『『シュララララララッ!!!』』』

 

目を血走らせながら叫ぶノヅチの瞳には憤怒の感情が噴き出し、殺意の籠った視線がハジメを射抜く。

そして、抉られた箇所を風と水を複合させた魔法で応急処置を行い再び全身に風の鎧を纏うと同時にノヅチからの膨大な魔力の奔流が走る。

 

「っ……これはっ」

 

それを目の当たりにしたハジメは唖然となり、その様の名を零した。

 

「──〝限界突破〟だと?」

 

技能〝限界突破〟。全ステータスが三倍になるという破格の技能であり、形勢逆転の一手とも言える技能。

ハジメが知る限りこの技能を使えるのは自分と勇者である天之河光輝の二人しかいなかった。だが、目の前の魔物はやってみせたという事実にハジメは驚愕して瞬間的にたじろいでしまう。

そして、ハジメが動くよりも早くノヅチの三つの顎門から鋭い牙が眼前に迫っていた。

 

「ッ!?」

 

先程よりも素早い挙動に驚愕を浮かべるハジメであるが横に飛んで紙一重でノヅチの牙から避けきってみせ、ノヅチの頭はそのまま止まることなく地面に突っ込み周辺の地面が割れる。

 

「(チッ……あの機敏さに魔力の増幅……限界突破で間違いないか)」

 

ノヅチが発動したのは〝限界突破〟で間違いないと確信したハジメは避けた振り返り様に二丁の銃口からレールガンを放つも弾かれて終わる。

 

「(風の鎧なしでこれだけの硬さか)面倒なっ」

 

顔を顰めるハジメは放たれる魔法を雷で相殺。高速で動き回る頭は蹴りと義手を使って上手く逸らし周りを駆け銃を連射。

 

「しっ!」

 

『『『シュル!!』』』

 

ノヅチによる三方向からのビームの乱射、尻尾による薙ぎ払い、強大な胴体と硬い装甲を利用した暴力。対してハジメも雷、銃技、徒手格闘、周りに飛ぶクロスビットを駆使して仕掛ける。

互いが互いの行動を予測し、攻撃、回避、防御し牽制しあっている状況の最中、冷静に相手の力量を測るハジメ。

 

火の奔流が放たれるが四つのクロスビットが連結して形成した盾が防ぐ。その隙に紅き閃光が走るがノヅチが纏う風の防壁によって阻まれ失敗に終わる。

 

「チッ……」

 

不発に終わったことを瞬時に理解したハジメは舌打ちしつつ、宝物庫から数発の手榴弾をばら撒いた後、爆風と衝撃の嵐が吹き荒れる。しかし、ノヅチの風の鎧は壊れず、その六つの目は未だ尚、ハジメを捉えており、背後に巨大な魔法陣が形成された。

 

『シュル!!』

 

瞬間、陣から数十本の氷の槍が放たれる。

向かいくる氷の槍の雨に対してハジメは研ぎ澄まされた己の直感に従い縦横無尽に技を振るい戦場を駆ける。

眼前に迫る氷槍を片手で掴み投げ返す。洗練された体術を駆使して破壊。クロスビットで死角からの攻撃を防ぐと難なくと熟すハジメ。

 

『『『ッッ!!?』』』

 

まるで己の向かうを攻撃を全て見透かしてるように対応するハジメにノヅチは驚愕を顕にする。同時にハジメの射殺すような眼光に怖気付く。

 

──アレは、本当に人間なのか?

 

まるで心臓を鷲掴みされたようなノヅチの方も次の手に動こうとするのだが、それよりもハジメの方が一手先を行く。

互いの視線が交差した時には既にノヅチは回避も、防ぐも不可能。

 

「遅せぇよ」

 

『!!?』

 

一気に加速して距離を詰めたハジメがノヅチの頭の一つへ向けて雷光を纏った蹴りを炸裂させノヅチの頭の一つである水の魔法を扱うノヅチを首を吹き飛ばす。

痛みすらも感じさせないほどの速度で首を吹き飛ばされたノヅチは何が起こったのか理解できず動きが停止したのも束の間、絶叫を上げ全身を激しく動かし暴れ狂いだす。

 

『『シャァァァァア”ア”ア”ア”』』

 

「チッ!」

 

一つの頭が死んだせいなのか水属性の魔法を使えなくなってしまい、抉られた箇所を覆っていた魔法が霧散した。そして覆っていた傷口から血が再度、噴き出し始めたのだがノヅチは気にも留めずハジメへ攻撃を繰り出した。

自身の周りに無数の魔法陣が現れ、火と風を掛け合わせた無数の弾丸が放たれる。が、

 

「邪魔だ」

 

ハジメは至って冷静で〝魔眼石〟で全ての核を捉えると引き金を引く。瞬間、放たれた弾幕によって正確に核が撃ち抜かれノヅチの魔法が全て打ち消しられる。

 

『『・・・ッ』』

 

意図も容易く攻撃を完全に防ぐハジメにノヅチは僅かながらも焦りを見せ始め微かに体を震わす。だが、そんなことを知ったこっちゃないハジメは一気に攻勢へ出る。

 

「シッ!」

 

『『シュラァッ!!』』

 

ハジメの接近に気付き迎撃に出るノヅチだが、ハジメはドンナーの銃身に紅雷を纏わせると雷の斬撃を放ち、ノヅチの攻撃の軌道を逸らすと共に頭を踏み付けると同時に加速。

 

『『ッラァァァア!!』』

 

「ハッ」

 

絶対に近付けさせまいとノヅチは奇声を上げ、己の全力と呼ぶべき魔法を行使する。

 

 

ハジメ達の頭上を中心に半径五十メートルの範囲に展開された無数の陣から降り注ぐ紅蓮の業火。

──火属性最上級魔法〝降業火〟

 

大地を裂き、敵を八つ裂きにする不視覚の風の斬撃。

──風属性最上級魔法〝鎌鼬〟

 

降り注ぐ火の雨と不視覚の無数の斬撃を同時に放つ。そんなノヅチの本気とも思える絨毯攻撃に対し、ハジメは思考する。

本来ならばここで止まって防御態勢に入るか、〝限界突破〟や〝瞬光〟を使うべき場面だろう。

しかし、其れは雑魚の思考だと切り捨てたハジメの目は何時も以上にギラついていた。

 

「──全て蹴散らす」

 

そう口にすると不意に力が漲り、左手に握る〝シュラーク〟を横薙ぎに振るって放った紅雷の斬撃で風の斬撃を全て断ち切った。同時に〝宝物庫〟から大盾を取り出して降り注ぐ火の雨の直撃を完璧に防いでいく。

 

先程と変わらず速度で迫るハジメはまるで荒々しい演舞のように盾と銃を巧みに扱い敵の攻撃を蹴散らしていく。

 

そして、

 

「クハっ!」

 

全ての迎撃を見事に防いだハジメは口角を上げ笑っていた。

それは獰猛に、野生的に、好戦的に、不敵に笑うその笑みの鬼迫にノヅチを一層に恐怖のどん底へと陥れる。

 

『『ッツ!!』』

 

──アレはマズイ。アレには勝てない。

 

ノヅチは理解した。いや、理解させられた。この人間は違う。根本的に他と違っていたのだ。

アレは人の皮を被った同じ……それ以上の化け物だ。

 

恐怖は晴れることなくノヅチの動き全てに影響が出始める。それに反対してハジメの連撃が更に強まっていく。しかし、それでも風の鎧がハジメの攻撃を阻んでいるため決定打には致ってない。

 

しかし、ハジメは止まらない。

 

打撃、銃撃、斬撃、殴打と、質よりも量という野蛮なスタイルで攻め続ける。

攻撃のタイミング、回避、予測、どの手段で攻めるのかという自身よりも巨大な大きさの敵との命の取り合いの中、幾つもの思考を張り巡らせないといけない。

常人ならば、脳のキャパシティを越えてしまうだろうが、ハジメは元々のセンスと固有魔法〝瞬光〟によって可能にしていた。

それにより、ノヅチが反撃しようとも完全に見切られ逆に隙を晒してしまい其処を徹底的に詰められる。

そして、そのせいでハジメに対する恐怖が高まり怖気くという悪循環が発生してノヅチの思考を狭め、動きを鈍くさせていく。

 

そして、ハジメの猛攻が始まって一分を越えた其の瞬間、遂に限界が訪れた。

長時間の〝限界突破〟と上級魔法の行使し続けていたノヅチは纏う風の鎧に僅かに解れが起きてしまう。だが、その解れは普通の目では分からない。

そう、普通の目ならば、だ。

 

「(解れた!)」

 

ハジメの右眼に埋め込まれた〝魔眼石〟がノヅチの風の鎧に僅かに解れが現れたことを確かに捉えた。

そこからのハジメの行動は早かった。ドンナーで見えた解れの所へ照準を定め引き金を引き一発のレールガンを放つ。

電磁加速して放たれた弾丸は雷速……紅の閃光となってノヅチの風の鎧を貫きノヅチの体に空洞を空ける。

 

『『ッッツ!!?』』

 

風の鎧の貫通、突然の痛みに声にならない声を上げるノヅチ。同時に思考が定まらず魔法が解けてしまい風の鎧を失う。

そこへハジメは更に追い討ちを仕掛ける。

 

「(また、風の鎧を張られても面倒くせぇ)なら!」

 

どうにかしてあの状態のままで留まらせたいハジメはスゥーっと大きく息を吸い始める。同時に〝魔力放射〟、〝威圧〟、〝雷属性魔法〟を複合させた即興新魔法を併用し天地に轟けとばかり咆哮を上げる。

 

「カァアアアアアアアアアアア!!!」

 

──複合型雷属性魔法〝雷哮(らいこう)

自前の雷属性の魔法と固有魔法〝威圧〟、〝魔力放射〟を組み合わせたハジメオリジナルの魔法。

 

特大の咆哮と紅雷と膨大な魔力が波動となってノヅチだけじゃなく戦場全体へと駆け巡る。

そして、その咆哮を間近で受けたノヅチは暴力的な魔力の圧に呑まれ、紅雷によって全身が痺れ麻痺する。

何もできず唯見てることしか出来ない。そこへ一つの影が現れる。その影の右手には紅雷が集約しており膨大な魔力の圧を感じさせる。

 

影──ハジメは戦いの終わりを告げるがの如く右手に集約させた紅雷を天から地へと振り下ろすかの如く振り下ろす。

 

「喰らえクソベビ──〝天雷牙狼〟!!

 

瞬間、集約させた紅雷から変貌し巨大な狼の頭部が現れノヅチを獲物だと捉えその巨大な顎門を開き突き迫る。

 

『『────』』

 

ノヅチは四つの瞳に見える紅雷の狼を見て己の死を理解する。

 

鮮やかな色彩でありながら刺々しい激しさを持つ雷狼。ノヅチは何も発せられず──いや、発することすら許されず紅狼に呑み込まれるのであった。

 

「…………ふぅ」

 

紅雷によって全身を焼き尽くされたノヅチの亡骸を見届けたハジメは安堵の息を吐きながら亡骸へ歩み寄る。

 

「(ヒュドラ程ではなかったが……いや、あの時の俺ではコイツも十分に脅威だな)……なら、可能性はあるな」

 

ミツマタノヅチ・厄災化(ハザード)はオルクスとミレディという二つの大迷宮を攻略した今のハジメにとっては倒しがいのある魔物でしかないが、オルクス攻略前ならばヒュドラと同程度の強さだろうと考察するハジメはある一つの可能性を見出し、亡骸に触れる。

そして、〝風爪〟でノヅチの首を丁度良いサイズに輪切りして切り取った肉塊を手に取る。

 

「まぁ、確認だな」

 

そう一言呟いてハジメは手に持った肉塊に喰らいつく。そして、久しぶりに口の中に広がる魔物の味。一瞬、吐き気を催す感覚に陥るが無視してハジメは口の中の肉を飲み込む。

 

「不味ぃ」

 

なんとか肉塊を飲み込んだハジメは〝宝物庫〟から水瓶を取り出し一気に中に入った水を口の中に注ぎ込む。

 

「ぷはっ……やっぱり慣れねぇなこの味」

 

水瓶の水を全て飲み干し、安堵の息を吐くハジメは苦笑しながら、やはり、魔物の肉はどうやっても食えたものじゃないと再度、思うのであった。

 

──ハジメ【ハクロニア遺跡】の主──ミツマタノヅチ・厄災化(ハザード)討伐。

同時にミツマタノヅチを喰らったことにより固有魔法〝対魔力Ⅰ〟を獲得。

 

 

================================

 

 

「!」

 

 

「これはっ」

 

場面は変わり、ハジメの頼みで外壁に近付く魔物を対処していた清水とシアだったが、遠くから響く咆哮と体に響く痺れと知っている魔力を感じて二人は表情を変える。

 

「南雲!」

 

「ハジメさん!」

 

二人はハジメがいるであろう場所に視線を向けると巨大な黒蛇がそれよりも巨大な紅雷の狼によって焼き尽くされたのを確認する。

その光景を見た二人はハジメが主を討伐したのだと理解するガッツポーズをする。

 

すると、自分達の周りにも変化が訪れる。

ハジメの〝雷哮〟によるその圧倒的な威圧と痺れを生じさせる電磁波は、何より魔物達の精神と肉体の両方の衝撃となって襲いかかり多大な本能的恐怖を感じさせた。そして、自分達の群れのリーダーと君主であるミツマタノヅチが既に存在していないことに気がつくと、しばらくの硬直の後、一体、また一体と後退りし、遂には踵を返してハジメを迂回しながら北を目指して必死の逃亡を図り始めたのだ。

 

そんな魔物達が逃げ惑う姿を目の当たりにした清水は苦笑いしながら呟いた。

 

「チート過ぎんだろアイツ」

 

「ハジメさんなら当然ですぅ!」

 

ハジメの出鱈目さに呆れる清水に対してハジメなら出来て当然と自分のことであるかのように喜んでいる。

そんな彼女を見て清水はハジメが彼女から余程、信頼されているんだと思いながらシアの方へ向き直ると清水は頭を下げた。

 

「シアさんだったか? ありがとう。見ず知らずの俺に協力してくれて」

 

「いえ、とんでもありませんよ〜。私はハジメさんと言われてこの外壁を守っただけですのでぇ」

 

「けど、今回の〝怪物氾濫(スタンピード)〟を引き起こしてしまった要因の一つは俺の不始末が原因だ。そして、そんな俺を信用し背中を預けてくれた君には感謝しかない」

 

清水の誠実さにシアは瞠目するが同時にフフっと笑みを零す。何故、シアが笑みを零すのか分からず首を傾げる清水だが、シアが答えた。

 

「いえ、すみません。貴方はハジメさんから聞いた通りの方だったのですので……つい」

 

「南雲が?」

 

「はい。ハジメさんは言っていたんですよ。『清水は自己に対する評価は低いが誠実で気の置ける友人だ』と」

 

シアの言葉を聞いた清水は驚いていた。まさか、憧憬であるハジメがそこまで自分のことを評価してくれていることに若干の恥ずかしさと嬉しさが相まって顔を僅かに綻ばせる。

 

「ま、取り敢えず町は壊滅せずに済んだことですし、詳しい事情はハジメさんも帰ってきてからにしましょー」

 

「そ、そうだな……愛子先生や皆にも謝らないと」

 

シアにそう言われて清水は頷く。そして、二人はハジメの帰りと愛愛子達の到着を待つのであった……。

 

 

================================

 

まさに天地を震わす戦いを見届けたアレスはハジメとその仲間達の強さを目の当たりにし満足そうに笑みを零し手に持っていた白を基調とした幻想的な槍を仕舞う。

 

「……私も出る幕もなかったですか。心配は無用でしたね」

 

外壁が破壊された瞬間に助けに入ろうと思っていたのたが、その心配は杞憂であったとアレスは悟る。

 

「それにしても、予想以上の実力でした。神代魔法もアレは〝生成〟と〝重力〟が妥当ですかね」

 

自身の師と呼べる人物達から聞いていた話からハジメ達の扱う魔法、アーティファクトを見て、まだ自分が持っていない神代魔法〝生成魔法〟と〝重力魔法〟であると確信する。

 

「しかし、〝黒化〟とは……あの一回限りの使い捨てのアーティファクトを使うとは魔人族側はそれほど勇者一行を警戒していますか」

 

彼の方にも王国が勇者召喚を行ったことは耳に入っている。アレスとしては別の世界の方達に自分達の世界の事情を押し付けることは憤りを感じるが………

 

「しかし、異世界召喚ですか………魔人族もこの年に入ってから侵略行為の激しさが更に増してきている傾向がある。もしかしたら〝五神〟がこの時代(遊戯)を諦めた可能性が高い。もしかしたら決着の時が近いかもしれない……ならば、そろそろ私も動くべきですね」

 

最近の世界の情勢は少し激しさが増している。いずれ、両方の勢力に上から見下ろしている奴等が干渉してくるだろう。

よって、それよりも早く対処をしなければならない。

 

「やはり、南雲ハジメ……彼の存在が必要だ」

 

彼はこの世界の人間ではない。しかし、彼に頼ならければアレスの目的は叶うことはない。己の未熟さと申し訳なさを感じざる得ないがそれ以上の手はない。

同時に彼とならなんでも出来てしまうのではないかと心の隅で思っている自分がいるのも事実。

あの戦いを見た者として確信したのだアレスは彼こそが奴等を倒すために必要な光であると。

 

そして、その光ならばとアレスは顔を上げて一言呟く。

 

「そして、貴方達を必ずや地に堕としてやります」

 

アレスはそう呟きながら上にいるであろう者達を睨みつけるように曇りなき空を眺めていたのだった……。

 




固有魔法〝対魔力〟
ハジメがミツマタノヅチを喰らったことで獲得した固有魔法。
能力は魔法に対する抵抗力を得る(魔法で生み出された武器は物理判定なるため無効)。
(Ⅰ)……魔法によるダメージを減少。

(Ⅱ)……初級魔法による攻撃は無効。

(Ⅲ)……中級魔法以下の攻撃は無効。

(Ⅳ)……上級魔法以下の攻撃は無効。

(Ⅴ)……最上級魔法以下の攻撃は無効。

神代魔法による攻撃も通常よりも減少はするが、たとえAとなっても無効化は不可能。故にユエの雷龍などの神代魔法を複合させた魔法ならばダメージを受けてしまう。

愛子はハーレムに入れるか入れないか

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