ありふれた職業で世界最強if優花   作:白San

55 / 188
三十九話 白ローブの男

 

清水幸利にとって、南雲ハジメとは、まさに憧れであった。

 

二人が最初に出会ったのは高校一年時だった。

 

清水はただのオタクで気弱なことだけでイジメられていた。毎朝、クラスメイトに悪口を言われ、教師の見えない場所では多少なりの暴力を受けていた。

 

清水は元々、性格的に控えめで大人しく、それが原因なのか中学時代もイジメに遭っていた。

そして、当然の流れか登校拒否となり自室に引きこもる毎日で、時間を潰すために本やゲームなど創作物の類に手を出すのは必然の流れだった。彼の両親はずっと心配していたが、日々、オタクグッズで埋め尽くされていく部屋に、兄や弟は煩わしかったようで、それを態度や言葉で表すようになると、清水自身、家の居心地が悪くなり居場所というものを失いつつあった。

 

しかし、清水は高校では変わろうと決心し、学校には行くと決めたが結果は変わらなかった。

 

陰キャな理由のせいでイジメられてる清水は今日も空き教室で、クラスメイトにイジメられていた。

 

『………』

 

最初は言い返そうとしても、味方もおらず何も出来ずに殴られ、蹴られの毎日、もう自殺でもしようかと全てが灰色に染まり絶望染まりそうになった時に彼は現れた。

 

『何やってんだ?』

 

その言葉と彼現れたの姿に清水もイジメっ子達も途端に顔を強張らせている。

それもそうだろう。ここの一年生、いやこの学校の生徒はだいたい知っている不良だの悪人などの噂が立っていた噂の生徒である南雲ハジメだったのたがら。

彼の噂を知る清水は恐怖の余り其処に思い蹲り、イジメていたクラスメイト達は最初は驚いていたが、すぐに気を取り直し清水に殴ろうとした。清水は恐怖で、目を瞑ってしまったが痛みがない事に気付き目を開けると……

 

『えっ……』

 

殴りかかろうとした奴は、いつの間にか清水の前に移動していたハジメに蹴り飛ばされていた。

 

『だからぁー、つまんねぇことすんな』

 

蹴り飛ばされたイジメっ子は、蹴りの強烈だったのか打ち所が悪かったのか一発KOで白目を向いて倒れ伏した。イジメてた奴等から『檜山ァ?!』と倒れたイジメっ子へ叫んでいる。そして、蹴りを入れたハジメをキッと睨みつける。が、ハジメは欠伸を吐いてどこ吹く風だ。

 

そして、不敵な笑みを浮かべながらハジメは片手を出して、クイックイッと掛かって来いと挑発する。

 

『てめぇ等も掛かって来いよ』

 

ハジメの挑発を受けてか、他の奴等も青筋を浮かべて三人掛りで襲いかかるが、どんな攻撃もハジメには当たらず、逆に隙を突かれてしまい、一分も経たずにしてイジメてた奴等はハジメの前に全員白目向いて倒れ伏す結果となった。

 

『大丈夫か?』

 

圧倒的な力を見せたハジメは粗方片付けた後、自分の方へ向き直るとハジメは笑って手を差し出した。清水はその光景を姿を見て思ってしまった。

 

いや──思うしかなかった。

 

カッコイイと。

 

その姿をカッコイイと思い、ハジメは清水にとっての〝憧憬〟の存在になった時だった……。

 

 

================================

 

 

ミツマタノヅチを討伐し〝怪物氾濫(スタンピード)〟から町を守ったハジメは外壁を防衛していた清水とシアの二人と合流を果たし、愛子達の元へと向かっていた。

ちなみに、合流場所は町外れに移しており、この場にいるのは、愛子と生徒達の他、護衛隊の騎士達と町の町長であるニールス、ギルド支部長のヒョロ、教会のコリオ司祭、それにウィルもいた。

 

何故、町外れに移動した理由は流石に、本人の意思ではなくとも町中に今回の襲撃の首謀者の関係者を連れて行っては、町で騒ぎが大きくなり過ぎるだろうし、そうなれば対話も難しいだろうという理由だ。ニールスの指示を受け、残った重鎮達が、現在、事後処理に東奔西走しているだろう。

 

ハジメ達が到着するや否や気まずい表情の清水の前に、愛子が歩み寄った。デビッド達が、危険だと止めようとするがコリオが手で制し騎士達の行動を止めさせる。

 

「コリオ司祭殿!」

 

「デビッド君。貴方の気持ちも理解できます。しかし、まずは話を聞いてからです」

 

「も、申し訳ありません………」

 

コリオの行動に食い下がるデビッドだが、流石に強くは出れず引き下がった。愛子は慌ててコリオに感謝して頭を下げる。コリオは笑って当然のことをしたまでだと語る。

 

そして、愛子は清水の方へ向き直り彼の名を呼ぶ。

 

「清水君……」

 

「愛子先生っ……その、すみませんっでしたっ!!」

 

愛子の呼びかけに対して清水は申し訳なさの余り土下座して謝罪する。それを見て愛子はやはり今回の〝怪物氾濫〟は清水の意思ではないことが分かり安堵しつつ、どうしてこんな事になったのかを問い質す。

 

「理由があるのですね、やっぱり……」

 

「はい……実は───」

 

清水の話を要約するとこうだった。

 

ハジメが奈落に落ちてからは、天之河達とは行動出来ない、信用出来ないと判断した清水は、奈々と妙子が提案した先生の護衛隊の話を聞いて、先生達のサポートの為、そして自分のとある魔法の訓練の幅を広げられると思い参加を決意したらしい。

 

その、とある訓練とは魔物の使役化らしい。元々、清水は天職で扱う闇系統の魔法は、相手の精神や意識に作用する系統の魔法で、実戦などでは基本的に対象にバッドステータスを与える魔法と認識されている。

清水の適性もそういったところにあり、相手の認識をズラしたり、幻覚を見せたり、魔法へのイメージ補完に干渉して行使しにくくしたり、更に極めれば、思い込みだけで身体に障害を発生させたりということができる。

 

そして、清水は、ふとあることを思いついた。闇系統魔法は、極めれば対象を洗脳支配できるのではないか?と。

 

召喚の原因である魔人族による魔物の使役を思い出し、人とは比べるべくもなく本能的で自我の薄い魔物ならば洗脳支配できるのではないか。

 

清水は、それを確かめるために夜な夜な王都外に出て雑魚魔物相手に実験を繰り返した。その結果、人に比べて遥かに容易に洗脳支配できることが実証できた。

 

結果、清水は強い魔物を配下にして、守護に使えると判断し、北の山脈には多くの【遺跡】があると聞いていた為、愛子達とウルの町に来てからは夜な夜な宿から抜け出し北の山脈地帯にある幾つかの【遺跡】周辺でちょうどいい魔物達を探していたらしい。

 

その時に黒のフードを被った魔人族と相対したらしい、魔人族の方は清水を勧誘しに来たらしいが清水はそれを断った。だってその行為は自分の憧れを、憧憬(ハジメ)を裏切る事になるからだ。

 

そんな清水の返答で勧誘を出来ないと判断した魔人族は腰から剣を抜いて強行手段に出たらしく、清水もそれなりに抗ったが、流石に後衛職である清水では近接を得意とし経験が違う敵には太刀打ち出来ず負けてしまった。

 

その後、ハジメが壊した奴隷の首輪を着けられ、魔人族からは無理矢理外そうとすると爆発すると言われ、従うしかなかったそして清水は従われた通りにどんどん魔物を使役して行って、町に差し向けたのが今回の事の顛末らしい。

 

「町の皆さんにも多大な迷惑を掛けたことは重々承知しています!!本当にすみませんっでしたっ!」

 

話を終えた清水は再び全員に対して土下座をして謝っていた。すると、愛子は清水の肩にそっと手を置き話しかけた。

 

「清水君……今回の件は許される事ではありません。貴方の独断で沢山の人達に迷惑をかけてるのを分かってますか?」

 

「……はい、十分に理解しています、すみまっ──」

 

愛子に問いに清水は顔を上げ答えようとしたが、遮られた。愛子が抱きついたからだ。

 

「でもっ、私はそんな事よりも貴方が無事に生きてて良かったっ! 大切な私の生徒が無事に生きてて本当に良かったっ! 」

 

愛子は涙を流して清水の無事を心から安堵し歓喜していた。そんな愛子の言葉に清水の言葉が詰まる。

 

「せ、先生……」

 

すると、奈々と妙子、他の生徒達も清水に声をかけていく。

 

「清水っち〜、良かったよぉ!」

 

「はぁ、ホントにそうね。迷惑掛け過ぎなのよ」

 

「そうだぞ〜。清水」

 

「そうだ。そうだ。終わったら何か奢れよぉ?」

 

「そーだぞぉ」

 

「み、皆、ごめん」

 

操られたとしても彼等にも酷い事をしたのにも関わらずに気軽に話しかけてくれるクラスメイト達に清水は感謝した。

そんな誰もが見て心温まる光景にニールスといった重鎮達やハジメ達が温かく見守っている。

 

だが、こんな良い雰囲気をぶち壊すの者が口を開く。

 

「───ッ、それは罪を逃れる妄言に過ぎないっ! 即刻、連行して処刑にするべきだっ!」

 

それは、デビッドだった。全員がデビッドに視線を向け、愛子は怒った形相で睨みながらデイビッドに問い詰めた。

 

「何故、そんな事を言うんですかっ! 清水君はただ操られてだけなんですよっ!」

 

「ち、違うんだっ愛子。彼は罪から逃げる為に虚言の可能性があると……」

 

「ああ〜、それは違うぞ」

 

デビッドは愛子に問い詰められ、少しビクッとしながらまだ言葉を続けようとしたが、ハジメが遮った。デビッドはハジメに視線を向けて不機嫌な感情を隠さずに口を開いた。

 

「ふん、貴様は何か証拠があるのか?」

 

「あぁ、あるさ」

 

そんな、デビッドの問いかけにハジメは平然と返しながら〝宝物庫〟から適当に鉄鉱石を出した。それを見てデイビッドは驚くが、スルーして、ハジメは錬成で清水に着けられていた首輪を錬成した。ちなみに洗脳能力はない……。

 

「俺が持っている技能でな。触れた物の構造をすぐに解析して、その物の設計図を頭の中で作製する技能を持ってんだよ。で、この首輪は清水に着けられていた物だ。なんだったかな、隷属の首輪だっけこれ?」

 

「なっ!」

 

ハジメがすぐさま錬成したのを見たデイビッドは隷属の首輪に見覚えがあるらしく驚きを示していた。それに続き支部長であるヒョロも口添えする。

 

「その、反応を見る限り、合ってそうだな。なら、これで清水の疑いは晴れるだろ?なんなら設計図も書いて提出してやろうか?」

 

「え、えぇ、ハジメ殿の言う通り、そ、それは隷属の首輪で間違いないです。わ、私がほ、保証します」

 

「……っ! 故意にやったではない事は理解した」

 

ハジメの怒涛の返しとヒョロの口添えに何も言い返せなくなってしまったデビッドは苦虫を噛み潰したような顔をしながら渋々、了承した。それを見てハジメは「ざまぁ〜」と言った感じの表情で笑みを浮かべつつ、口添えをしてくれたヒョロに礼をする。

対してヒョロは「ま、町をす、救ってくれたえ、英雄を助けるのはと、当然」と返答する。その言葉にニールスといった重鎮組が頷きハジメを感謝や尊敬の眼差しで見ている。

そんな眼差しに少し戸惑いを見せるハジメだったが、事情も話し終えて一件落着したことだし町に戻ることを全員に提案する。

 

「良し、そろそろ町に戻るか……って、ティオの奴がいねぇな……ユエ?」

 

この場にティオがいない事にようやく気付いたハジメは、殲滅戦の時に傍に居たであろうユエに聞いた。

そんな彼女は先のミツマタノヅチの攻撃から町を守った際の疲労が抜けておらず目が胡乱になっているが、ハジメの声はしっかり聞こえたらしくハジメの方へ歩み寄る。

 

「……ん、どうしたの?」

 

「ユエ、ティオは何処にいったか知ってるか?」

 

ティオのことを聞かれたユエは、少し遠い目をしながら話し出した。

 

「……実は」

 

 

================================

 

 

『カァアアアアアアアアアアア!!!』

 

突如、戦場に駆け巡る雷を纏う咆哮。

 

「……!ん、流石ハジメ。こんなに凄い威圧」

 

全身が痺れるほどの魔力の重圧を感じ取ったユエは壁の上からハジメの〝威圧〟だと理解し圧倒されてしまう。

まだ全快には至ってないものの上体を起こし目を凝らすと最後に残ったミツマタノヅチを焼き尽くす紅雷の大狼が見えて最後の【遺跡】の主を倒した理解する。

群れを纏め上げていた【遺跡】の主と魔物の群れのリーダーが全滅したことで統制を失った挙句、追い討ちを掛けるようなハジメの〝雷哮〟の余波に当てられ恐怖に喰らい山脈に向かって逃げていくのが見える。

 

「……どうやら、終わったみたい」

 

ユエは安堵の笑みを浮かべながら脱力する。あれ程の〝怪物氾濫〟から町の被害を出さずに済んだのはユエであっても初めてなことだ。

しかし、ユエは理解している。この大規模な〝怪物氾濫〟を退けられたのはハジメがいてくれたからこそであると。

 

最上級魔法クラスの威力を誇るアーティファクトの大量生産、魔力回復の手段、瞬時の状況判断力、個人の圧倒的な武力。

今回の戦いだけでもハジメは個人で一万の数の魔物を屠っている。

 

まさに一人軍隊(ワンマンアーミー)、一騎当千と呼ばれる英雄とはハジメのような人物を指すだろうとユエは思う。

 

「(ハジメはやっぱり奇跡の英雄)……ハゥ」

 

改めてハジメにときめいているユエは顔を赤くし体をクネクネしている。そして、ふと隣にいるティオに視線を向けると彼女もハジメの〝威圧〟を受けてか、少し身震いをしていた。

 

流石に竜人族のティオでも、初めてのハジメの〝威圧〟は圧倒されるものであったのだろう。

 

「……大丈夫、ティオ? やっぱり竜人族のあなたでもハジメの〝威圧〟に圧倒されちゃった?」

 

「…ッ!」

 

ユエは笑みを見せながら問いかけるとティオは顔を紅くしながら悶えながら声を上げた。

 

「…ッッ! 凄いのじゃあ〜! 更に惚れてしまうのじゃぁ〜!」

 

ティオはハジメの〝威圧〟で惚れ直してしまったらしく、目までもハートになって悶えている。

 

「……(拝啓…ハジメ。また貴方に完全に堕ちた人が現れました)」

 

そして、ユエは、息を荒くしながら、まだ悶えているティオを無視してハジメ達の下へ向かうのだった。

 

 

================================

 

 

「──って言うこと」

 

「……そ、そうか」

 

ハジメはユエの話を聞き、ティオの気持ちは冗談じゃないと理解したらしく遠い目で空を見上げながら、彼女持ちの癖に離れてる合間に三人の女の子を堕とした自分に自己嫌悪し、転移する前はこんな事はなかった。

※因みにだが、ハジメは日本でもファンクラブが立ち上げられるほど陰ながら男女に人気があるが、いつも隣には優花がいた為、こういう事は起きなかっただけである。

 

そんな事は知る由もないハジメ。

 

「まぁ、ティオの事は置いといて、町に向かうか」

 

「そうです……ッ!? ダメです! 避けて!」

 

ハジメがこの場にいる全員に促そうと声を掛け全員が動こうとしたその瞬間、事態は急変する。急に語気を変え叫ぶシアは、一瞬で完了した全力の身体強化で縮地並の高速移動をして愛子に飛びかかったが一足遅く、愛子に迫る一つの水流。

 

「……っ!」

 

「チィっ!」

 

シアを言葉に即座に行動を起こしたのはシアを除き三人。しかし、その中のハジメとユエは既に水流が愛子の眼前に迫ってしまっているのと距離があった為に間に合わない。

故に、彼女のすぐ近くにいた人物が動いた。

 

「…っ!先生ェ!」

 

ドンッ!

 

「キャッ! 清水君!?」

 

彼女のすぐ傍にいて行動も早かった清水だけが咄嗟に愛子に押して突き離すことに成功する。だが、蒼色の水流が止まらない訳もなく、そのまま清水の胸を貫通し、ついさっきまで愛子の頭があった場所をレーザーの如く通過したのはほぼ同時だった。

 

そして、射線上にいたハジメが、ドンナーで水のレーザー、おそらく水系攻撃魔法〝破断〟を打ち払うと共に叫ぶ。

 

「全員、周囲を要警戒!」

 

「清水君!?」

 

突然の事態に誰もが硬直する中、清水に押され、立ち上がった愛子が清水の名を呼びながら全力で駆け寄る。そして、ハジメの言葉を聞き追撃に備えてユエやクラスメイト、デビッド達が重鎮達を守るように陣取って周囲を見回す。

 

「クソがっ!」

 

ハジメは、湧き上がる怒りを抑えてからドンナーを両手で構え〝遠見〟を発動と同時に〝破断〟の射線を辿る。すると、遠くで黒い軍服を着た耳の尖ったオールバックの男が、大型の鳥のような魔物に乗り込む姿が見えた。

 

「逃がさねぇぞ」

 

ハジメは、直ぐに照準を合わせ飛び立とうとする魔物と人影に向けてレールガンを連射する。オールバックの男は、攻撃されることを予期していたのか、ハジメの方を確認しつつ鳥型の魔物をバレルロールさせながら必死に回避行動を行った。中々の機動力をもってかわしていた魔物だが、全ては回避しきれなかったようで、鳥型の魔物の片足が吹き飛び、オールバックの男の片腕が吹き飛んだ。

それでも、墜落するどころか速度すら緩めず一目散に遁走を図る。攻撃してからの一連の引き際はいっそ見事という他ない。

 

「……アレかっ」

 

おそらく、かの人影が清水の言っていた今回の〝怪物氾濫〟を計画した魔人族なのだろうとハジメは推測した。そして、敵はハジメのレールガンを警戒してか既に低空で町を迂回し、町そのものを盾にするようにして視界から消えている。

 

「あの野郎、何処かで見てやがったな」

 

恐らく、何処かに隠れて自分達の殲滅戦を見ておりハジメの攻撃手段を警戒していたのだろう。同時に殺し切れなかったせいで魔人族側に自分達の情報が渡るだろうと理解したハジメが苦い表情を浮かべる。

加えて、逃走方向がウルディア湖の方だった事から、その手前にある林に逃げ込まれてしまえば無人偵察機などによる追跡も難しいだろう。そして何より、今は優先しなければならないことがある。

 

「南雲君!」

 

「──っ今、行く!」

 

敵の逃走を察したのだろう、愛子は焦りを含んだ声でハジメを呼び、ハジメもそれに応えてすぐさま向かった。

急いでドンナーをホルスターにしまうと、近くで大量の血を流しながら倒れている清水のもとへ駆け寄る。

 

「清水!」

 

「ヒュ……ヒュー、な、南雲……先生はぶ、無事か?」

 

「……っ、 今は自分の心配をしろ! 今から回復させる!」

 

上手く呼吸ができないのか息を乱しながら話す 清水の容態は胸に穴がポッカリと空いていた。出血が激しく、大きな血溜まりが出来てしまっているのを見てハジメは急いで宝物庫から神水を取り出し飲ませようとする。

 

「清水、これを飲めっ」

 

「ゲホッゲホッ!」

 

しかし、自分では上手く飲み込めないようで、しまいには、気管に入ったのか酷くむせて吐き出してしまい神水の効果が上手く発揮できていない。口頭摂取ができないならばと胸に神水を掛けるがやはり口頭摂取よりも回復の進みが遅く間に合わない。

 

「クソッが!」

 

ハジメは自分の不甲斐なさに苛立ちを隠せなく、地面にヒビが入るくらいの威力で殴りける。

 

「……ハジメ」

 

「ハジメさん……」

「クッソ……(俺は…俺は守れないのか、強くなったのに……)」

 

ハジメは眉を顰めながら苦虫を噛み潰したような表情で片膝をついて自分に対して怒りが込み上げていく。その時、声が聞こえた。

 

「私がその少年を助けてあげましょう」

 

一度も聞いたことのない人物の声が聞こえ全員が視線を転じた。そして、視線の先で起こった現象にこの場にいた誰もが驚愕し、時が止まったかのように動きを止める。

 

それもそうだろう。その人物は空間を転移して来たように現れたのだから。

 

「なっ──何処から?!」

 

突如、何もない場所から現れた存在にハジメは驚愕するも警戒を緩めず後ろにいる愛子達を守るように立ち回り白ローブを注視する。

その人物は白いローブを深く被っているせいで顔がよく見えないが、声からして男。身長は180は超えてるぐらいだろう。

 

白ローブは気軽に話し掛けながら、ハジメ達の方へ歩み寄る。

 

「……いやはや珍しい。君の持っているソレは神結晶の魔力を抽出した神水ですね」

 

「……てめぇ」

 

歩み寄る白ローブの言葉にハジメは警戒度を跳ね上げ、即座にホルスターからドンナーを抜き取り銃口を向ける。ユエとシアも戦闘体勢を取るが白ローブは両手を上げながら、敵意はないと口にする。

 

「おっと、そのアーティファクトを下ろしてくれませんか? 君達からしたら私は不審者なのは変わりありません。しかし、私としても、そこに倒れている少年を救いたいんです」

 

「……てめぇなら、清水を救う事が出来んのか?」

 

「……良い〝威圧〟です。はい、そうだとも。私なら其処の彼を救える手段を持っている」

 

ハジメは〝威圧〟を発動させながらも問いかけるが白ローブは平然としながら返答することに顔には出してはないが、内心、驚いていた。

自分の〝威圧〟にも動じず淡々と話す白ローブは相当な実力者だと分かる。それに、本当に清水を救えるかもしれないという可能性があるのだ。

 

「……分かった。俺はお前を信じる」

 

「ハジメ!?」

 

「ハジメさん!?」

 

「南雲くん!?」

 

苦い顔をしながらもハジメは清水を救えるならと思い信じる事にして、ドンナーを下ろしてホルスターに閉まった。ハジメの言葉に両隣にいるユエとシア、後ろで清水を支える愛子が声を上げる。

 

「……信用できるの?」

 

「………神水で無理なら俺には清水を救う手立てがない。でも、どんな手段を使っても友人を救いたい。例え、見ず知らずの奴からの提案でもな」

 

「……わかった。私はハジメを信じる」

 

「先生もいいか?」

 

「……………わかりました。南雲君が信じるならば私も信じます」

 

ユエと愛子の承諾。それに続いて周りにいたシアとクラスメイト達も渋々承諾するのを見て白ローブを一礼する。

 

「……ありがとうございます。信じて貰えて」

 

「信じた訳じゃねぇ。もし、清水を救えなかったらてめぇの頭を撃ち抜くだけだ」

 

「えぇ、それで構いませんよ」

 

ハジメの脅しに歯牙にもかけない態度を取り続ける白ローブは倒れる清水の元へと歩み寄る。すると、そんな白ローブを見たコリオが目を見開いた。

 

「君は、もしかして──「司祭殿」いや、失礼したね。しかし、息災でなによりだ」

 

「……………はぁ」

 

まるで、白ローブが誰なのか知っているように話し掛けるコリオ。白ローブは顔を分からないもののコリオを睨んでいるのが分かる。そして、彼の態度を見るなり教会の関係者だと推測できる。

そんな白ローブは今度は神殿騎士であるデビッド達に視線を転じる。デビッド達はハジメ達と同様に警戒しており、直ぐにでも取り押されるようにと腰に取り付けた剣を手に掛けている。

 

「教会の関係者には余り見られたくないのでね………〝安鎮魂〟」

 

余程、教会に準ずる者達に見られたくないのか白ローブは一つの魔法を発動する。

 

直後、ドサッドサッと神殿騎士達が次々と倒れていく。それを見た愛子が驚きの声を上げる。

 

「えっ、デビッドさん?!」

 

「大丈夫ですよ。彼等は眠ってるだけです」

 

ハジメは倒れた神殿騎士の容態を確認すると白ローブの言う通り眠っているだけだった。そんな初めて見る魔法にハジメはユエを見る。しかし、首を横に振ってることからユエも知らない魔法だと理解する。

 

「ふむ、私は眠らせないのかね。いや、君のすることは上には伝えないから安心したまえ」

 

「………」

 

コリオの言葉に感謝するかのように一礼する。そして、白ローブはもう虫の息に近い清水の傍で膝を付くと容態を確認していた。

 

「……ふむ、胸にポッカリ穴が空いてる。でも、これなら私の力でも間に合いますね」

 

そう淡々と言いながら白ローブは清水に向かって手をかざすと魔法を発動させる。

 

「───〝聖天〟」

 

白ローブがそう呟いた直後、清水に光が纏い出し、まるで傷が逆再生していくように無くなっていく光景にその場に見えていた全員の目が驚愕に変わる。

 

「なっ?!」

 

これはハジメだけじゃなくユエ達も驚いていた。普通の回復魔法でもあんな回復の仕方は見た事ない。しかし、ハジメやユエ、シアはその魔法は何であるか可能性を持った。

 

「……ハジメ、アレってもしかして」

 

「あぁ、神代魔法の可能性が高い」

 

そんな事を話してると処置が終わったのか白ローブは立ち上がる。すると、愛子は清水の容態を聞いた。

 

「あっ、あの! 清水君は?!」

 

「安心して下さいお嬢さん。彼は少し眠っているだけですよ、後少ししたら今日中には目が覚めます」

 

「よっ、良かったぁ〜」

 

白ローブの口から清水は大丈夫と言われ安堵した愛子は力を抜けた様にその場にしゃがみこんだ。生徒達は愛子の方へ向かったがハジメとユエ、シアの三人は白ローブに視線を転じて問う。

 

「おい、お前が使っていた魔法は神代魔法だよな?」

 

「……えぇ、そうですよ。貴方の言う通り、私は彼に神代魔法を使いました」

 

「なら……」

 

神代魔法の遣い手で、更に樹海の迷宮で必要な〝再生の力〟を持っているだろう白ローブがいれば心強いと思ってハジメは、声をかけようとするが、白ローブは首を横に振った。

 

「おっと、貴方の言いたいことは分かりますけど答えはNOです。まだ、貴方々に力添えはしません、まだね」

 

「……何故?」

 

ユエが鋭い眼差しで白ローブを睨むが平然と白ローブは平然と言葉を返していく。

 

「簡単なことです。大迷宮とは言わば己への試練。故に神代魔法が欲しいなら自分達の力で獲得して頂きたい」

 

白ローブは更に言葉を続ける。

 

「……南雲ハジメ殿。私は、また会える事を楽しみにしています。その時は貴方の仲間になると約束します」

 

まるで応援してるかのように呟く白ローブは現れた時と同じように転移をしようとしたがハジメが咄嗟に声を上げた。

 

「最後に一つ、お前は誰なんだ? 神代魔法を集める目的は?」

 

ハジメの質問に白ローブは苦笑気味に応えた。

 

「まだ、名は言えませんが、目的は〝神殺し〟ただそれだけです。では、皆さんに自由の意思の下にあらんことを」

 

そう言いきるのを最後に再び、白ローブは転移を発動してハジメ達の前から消え去るのであった……。




編集しました。十一月十四日

愛子はハーレムに入れるか入れないか

  • いる
  • いらない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。